報告書&レポート
北米市場アナリストによるレアアース需給分析と産学官の取り組み

レアアースを始めとするいわゆるクリティカル資源に対する関心の高まりは、北米も例外ではない。国防産業を筆頭にレアアース製品等の一大消費地であり、かつレアアース供給地ともなりつつある米国や、将来の一大レアアース供給地となり得るポテンシャルを有するカナダでは、サプライチェーンを構成する企業、それら企業への投資機会をうかがう投資家、または政治家等、様々な人々が高い関心を示している。 |
1. レアアース需給分析
Kaiser Research社のJohn Kaiser氏からは供給予測、Byron Capital Markets社のJon Hykawy氏、Technology Metals Research社のJack Lifton氏からは需給予測がなされた。これら3氏はいずれも本分野で著名な北米の市場アナリストである。
Kaiser氏は中国からのレアアース生産としてBayan Obo鉱山、イオン吸着鉱を産する鉱山、四川省の鉱山に大別し、中国以外の供給源としては、表1に示すプロジェクトが今後数年以内に生産を開始し、レアアースの供給に寄与するとの前提で、2020年までのレアアース供給予測を行っている。
表1. Kaiser氏が分析に用いた開発・生産が見込まれる中国以外のレアアースプロジェクト
会社 | プロジェクト名 | 国 | 生産開始 |
Great Western Minerals Group | Steenkampskraal | 南アフリカ | 2015年~ |
豊田通商‐Indian Rare Earth | Orissa | インド | 2012年~ |
Alkane | Dubbo | オーストラリア | 2015年~ |
豊田通商‐双日 | Dong Pao | ベトナム | 2013年~ |
Avalon Rare Metals | Nechalacho | カナダ | 2016年~ |
Rare Element Resources | Bear Lodge | アメリカ | 2015年~ |
Quest Rare Minerals | Strange Lake | カナダ | 2016年~ |
Arafura Resources | Nolans | オーストラリア | 2015年~ |
Lynas | Mt. Weld | オーストラリア | 2012年~ |
Molycorp | Mt. Pass | アメリカ | (Phase 1) 2010年~ (Phase 2) 2012年~ |
(出典:「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」Kaiser氏講演資料を基に作成)
Hykawy氏は、技術動向の観点から2015年までのレアアース需給について予測した。今後の供給としては、Molycorp社、Lynas社、Great Western Minerals Group社、Arafura Resources社、Quest Rare Minerals社及びグリーンランドのプロジェクトが寄与するとし、対してAvalon Rare Metals社のNechalachoプロジェクトは2016年までは生産に至らないとして、またインド、ブラジル、ロシア等からの生産も少量であるとして試算からは除外している。
Lifton氏は、レアアースの需給予測に用いた供給モデルとして、中国による生産が今後変化しない場合と年3%で増加する場合、中国以外のレアアースプロジェクトがすべて予定通り生産開始する場合と一部遅延する場合の4通りの組み合わせ(A: 中国の生産が変化なし+他のプロジェクトが一部遅延、B: 中国の生産が変化なし+他のプロジェクトが予定通り生産、C: 中国の生産が年3%増加+他のプロジェクトが一部遅延、D: 中国の生産が年3%増加+他のプロジェクトが予定通り生産)について検討している。
なお、本稿では米国エネルギー省の需給予測については簡単に述べるにとどめる。詳細はカレント・トピックス11-04号及び金属資源レポートVol.40, No.6を参照されたい。
1-1. ランタン
2010年のランタン生産量は33,887 t(予測値)であったが、米国エネルギー省は2015年までにMt. Pass、Mt. Weld、Nolans Bore、Nechalacho、Dong Pao、Hoidas Lake、Dubbo Zirconiaの各プロジェクトからの生産が開始し50,011 tまで生産量が伸びると予測している(図1)。なお本予測では、中国の生産が伸びないことを前提としていることを付記しておく。
Kaiser氏の試算では、2016年総生産量として約59,900 tが見込まれるとし、そのうちBayan Obo鉱山からの生産量が12,650 t、Mt. Pass鉱山からの生産量が約13,500 t、Mt. Weld鉱山からの生産量が約5,600 tとしている。
Lifton氏の分析では、2017年には最も供給の多いDモデルで約90,000 t、供給の少ないAモデルで約75,000 tとしており、いずれの供給モデルでも2012年までは需給バランスが取れているものの2012年以降は大幅に供給過剰となり、2015年の余剰生産量は20,000~40,000 t以上に達するとの見通しを示している。
Hykawy氏の講演では、Molycorp社等はハイブリッド自動車(HEV)普及に伴いニッケル水素電池に必要となるランタンの需要が伸びると主張しているが、新たなハイブリッド自動車はすべてリチウムイオン電池を採用していることから、同氏は今後HEVの普及に伴うランタン需要増は期待薄と評価している。また、石油精製に用いられるFCC触媒についても、W. R. Grace社が低レアアースFCC触媒、レアアースフリーFCC触媒を商業的に提供する予定であると発表しており(2011年6月1日付同社プレスリリース)、この分野でも大幅な需要増は期待できないとして、ランタンは2015年時点で約25,000 tもの供給過剰になると結論付けている(図2)。

図1. 2015年までに新たに生産を開始又は再開する鉱山のランタン予測生産量
(出典:米国エネルギー省)

図2. 2015年までのランタン需給予測
(出典:「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」Hykawy氏講演資料を基に作成)
1-2. セリウム
2010年のセリウム生産量は49,935 t(予測値)であったが、米国エネルギー省は2015年までに78,489 tまで生産量が伸びると予測している(図3)。
Kaiser氏の試算では、その他のプロジェクトがすべて生産開始した場合の2016年総生産量としておよそ95,400 tとし、そのうちBayan Obo鉱山からの生産量が27,500 t、Mt. Pass鉱山からの生産量が約19,800 t、Mt. Weld鉱山からの生産量が10,000 t強としている。
Lifton氏は、2017年には供給の多いDモデルで約148,000 t、供給の少ないAモデルで約110,000 tとしており、セリウムもランタンと同様に、いずれのモデルでも2012年までは需給バランスが取れているものの2012年以降は大幅に供給過剰となり、余剰生産量はピークとなる2015年には40,000~80,000 t以上に達するとの見通しを示している。
Hykawy氏は、Molycorp社はセリウムを利用する水質浄化装置XSORBX®に着目しており、今後のセリウム需要増を期待していると紹介した上で、コスト競争力等から本技術による大幅な需要増は疑わしいとしている。また、研磨剤用途としても日本では既に劇的なセリウムの使用量削減(約70%の削減)が実現されており、この点でも需要は減少傾向であろうとし、ランタンと同様に2015年時点で40,000 t以上の大幅な供給過剰になるとみている(図4)。

図3. 2015年までに新たに生産を開始又は再開する鉱山のセリウム予測生産量
(出典:米国エネルギー省)

図4. 2015年までのセリウム需給予測
(出典:「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」Hykawy氏講演資料を基に作成)
1-3. ネオジム
2010年のネオジウム生産量は21,307 t(予測値)であるが、米国エネルギー省は2015年までに31,197 tまで生産量が伸びると予測している(図5)。
Kaiser氏試算では、2016年総生産量として約37,800 tとし、Bayan Obo鉱山から10,000 t強、中国イオン吸着鉱から5,500 t弱、Mt. Pass鉱山から4,500 t弱、Mt. Weld鉱山から約3,700 tとしている。
Lifton氏は、2017年には供給の少ないAモデルでは約42,000 tの生産量となり、2014~2015年頃まで供給不足が見込まれるが、それ以降は供給過剰になるとした。供給の多いDモデルでは2017年の生産量は約55,000 tとなり、2012~2013年頃から供給過剰との見通しを示している。
Hykawy氏は、今後大幅な磁石需要の増加が見込まれるHEVと風力発電タービンについて試算しており、代表的なHEVであるトヨタのプリウスに使用されるNd、Prを370 gとし、プリウス価格を30,000 US$とした場合、レアアース金属1 kg当たり81,000 US$の収入となる。一方で、3 MW級風力発電タービンは620 kgのNd、Prを使用し、販売価格4.5百万US$とした場合、レアアース金属1 kg当たり7,300 US$の収入となる。この試算のように、風力発電タービンでレアアース磁石を使用する経済効果はHEVより低く、ネオジムあるいはジジム価格が一定値を上回っている限り、風力発電タービンにレアアース磁石が使用されることはないだろうとの認識を示している。したがって、価格が下落しない限り供給過剰になるとの結論である(図6)。

図5. 2015年までに新たに生産を開始又は再開する鉱山のネオジム予測生産量
(出典:米国エネルギー省)

図6. 2015年までのネオジム需給予測
(出典:「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」Hykawy氏講演資料を基に作成)
1-4. ユーロピウム
2010年のユーロピウムの生産量は592 t(予測値)であるが、米国エネルギー省は2015年までに783 tまで生産量が伸びると予測している(図7)。
Kaiser氏の試算では、2016年の総生産量として770 t、そのうちBayan Obo鉱山で110 t、中国イオン吸着鉱で220 t、Mt. Pass鉱山で約40 t、Mt. Weld鉱山で約110 tとしている。
Lifton氏は、いずれの供給モデルでも2013年ごろまで供給不足が続き、2015年以降は供給過剰に転ずるとし、約850~1,050 tの生産量となる2017年には余剰生産量は約200~400 t程度に達するとしている。
Hykawy氏も2015年には100 t以上の供給過剰になるとの見通しを示している(図8)。

図7. 2015年までに新たに生産を開始又は再開する鉱山のユーロピウム予測生産量
(出典:米国エネルギー省)

図8. 2015年までのユーロピウム需給予測
(出典:「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」Hykawy氏講演資料を基に作成)
1-5. ジスプロシウム
2010年のジスプロシウム生産量は1,377 t(予測値)であるが、米国エネルギー省は2015年までに1,544 tまで生産量が伸びると予測している(図9)。
Kaiser氏の試算では、2016年の総生産量として約2,800 t、そのうち中国イオン吸着鉱から1,200 t、重希土が多いとされるStrange Lake鉱床とNechalacho鉱床からそれぞれ約850、約330 tとし、Mt. Pass鉱山は14 t、Mt. Weld鉱山は約70 tでほとんど寄与しないことを示している。
Lifton氏は、需要が多い場合はいずれの供給モデルでも2015年ごろまで最大約1,300 tに達する深刻な供給不足が続くとした。特に需要が堅調な場合、中国が年3%の割合で生産を増やす供給モデルであったとしても、2017年以降まで供給不足が見込まれるとし、中国以外の供給源が絶対的に必要との見通しを示している。
Hykawy氏は、今後ジスプロシウム需要は使用量削減の技術や冷却技術の進展により減少する可能性があるかもしれないが、基本的には2015年頃まで供給不足が続くとしている(図10)。

図9. 2015年までに新たに生産を開始又は再開する鉱山のジスプロシウム予測生産量
(出典:米国エネルギー省)

図10. 2015年までのジスプロシウム需給予測
(出典:「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」Hykawy氏講演資料を基に作成)
2.「クリティカル」とされる資源
「クリティカル」とする資源についてはアナリストごとに違いが認められるものの、供給源が限定される資源という点では見解が一致している。Lifton氏は産業セクターごとに必要とされる金属資源を列挙し、その中の複数金属をクリティカルと分類している。基本的には、レアアース、白金族、インジウム、セレン、テルル等としている。興味深いことに、クリティカル資源の一つとしてトリウムを挙げており、日本の原子力発電所事故を受けて再びトリウム発電についての議論が盛り返してきたことを示唆している。
表2. 産業セクターごとに必要とされる金属及びクリティカル金属(赤字で表示)
産業セクター | 使用元素 |
自動車 | Fe, Al, Cu, W, Co, Mo, V, Cr, Mn, Pt, Pd, Rd, Nd, Dy |
航空・宇宙 | Al, Fe, Cu, Ni, Co, Rh, Sc, Nd, Sm, Dy |
ディスプレイ | Sn, In, Eu, Tb |
太陽電池 | Cu, In, Ga, Se, Cd, Te |
風力発電タービン | Fe, Al, Cu, Nd, Dy |
バッテリー | Pb, Sb, C(グラファイト), Li, Co, V, Mn |
原子力発電所 | Fe, Al, Cu, U, Th, Zr, Hf, Mo, Ni, Co |
化石燃料発電所 | Fe, Mo, W, Cs, La, Pt, Pd |
Morning Notes社の市場アナリストであるMichael Berry氏は、クリティカル資源としてマンガン、フレークの大きな天然グラファイト、スカンジウムを挙げている。同氏の分析では、マンガンは銅に次いで4番目に大きな市場を持つ金属資源と評価しており、鉄鋼原料として需要の伸びが期待されるとともに、世界生産の57%を有する中国が電解マンガンの輸出制限を始めていることから、今後クリティカルな資源として憂慮されるとしている。グラファイトはEUでもクリティカル資源として分類されているが、リチウムイオン電池の負極材や原子力テクノロジーの他にグラフェン1を用いた新技術等、今後の応用分野における需要増が期待される資源であるとしている。
一方で、Berry氏はJeremy Grantham氏の論文「Time to Wake Up: Days of Abundant Resources and Falling Prices Are Over Forever」を引用し、先進諸国の成長及び発展途上国の経済成長を勘案すると、ほとんどの日常的資源(エネルギー、金属、水、土地、肥料等)が希少かつ重要な資源へと変容し、現在のような複合成長(compound growth)はもはや持続可能ではなく、量的な成長(Quantitative growth)からエネルギー効率を高めた質的な成長(Qualitative growth)への転換が重要であるとも述べており、その意味ではすべての資源をクリティカルとして考える必要性が生じてきたことを示している。
1原子1個分の厚さのグラファイト薄膜
3. 「クリティカル」打開に向けた取り組み
3-1. 米国政府の取り組み
Berry氏によると、米国では19種の金属資源については100%、32種の金属資源については80%以上を外国からの輸入に依存している状態であり、エネルギーについても20%は原子力発電で賄っており、その燃料であるウラン資源は92%を外国からの輸入に依存している。しかしながら、米国には世界の探鉱予算の8%しか投じられていないため、今後の鉱床発見、金属鉱物の生産にも結び付かず、最終的に知的財産を含 む資源関連産業の海外移転(オフショア化)、国内サプライチェーンの低迷につながっている。
このような背景から、米国上下院ともにクリティカル資源の米国内の評価や開発等について促進させることを目的とした複数の法案(S.383, S.1113, H.R.618, H.R.952, H.R.1314, H.R.1388, H.R.2011, H.R.2184)が上程され審議されている。そのうちの2法案を提出したCoffman下院議員は、提出の際の声明の中で、米国は早急に競争力のあるサプライチェーンの再構築に取り組む必要があると述べるとともに、中国は米国の同盟国でもなければ信頼できるパートナーでもなく、戦略的鉱物資源に関する国家安全保障を確実なものとするためにも早急に行動を起こさなければならないと述べている。
3-2. 磁石製造業者の問題意識と今後に向けた提言
TDK Ferrites社は、日本のTDK株式会社の米国子会社であり、現在、米国オクラホマ州Shawnee市においてランタン-コバルトフェライト磁石を製造している。同社社長のStravlo氏は、磁石製造業者としてレアアース供給問題が顕在化した2010年8月から原料供給に関して危機感を抱き、上流側の会議に積極的に参加し、問題提起している。その中でStravlo氏は、昨今のレアアース供給問題は磁石製造業者の製造ラインの停止のみならず自動車製造ラインの停止をも引き起こす可能性があるとし、またレアアース価格の高騰は自動車産業や磁石製造業者等の利益機会を減少させ、ひいてはサプライチェーンを構成する一部企業を倒産させる可能性もあるとしている。その解決策の一つとして鉱山‐製錬‐磁石製造‐自動車製造といった一連の垂直統合モデルが指向されているが、このビジネスモデルを構築するには時間と費用を要するため難しいとしている。特に従業員の技能の問題や自動車産業や磁石産業への新規参入の困難さを理由として挙げている。
同氏は、鉱山から最終製品までのサプライチェーンの修復が必要とし、その方策として、1) 鉱山業、製錬業、磁石製造業、自動車産業等サプライチェーンそれぞれに対する投資の促進、2) 材料工学や化学工学、製錬工学等を専攻する学生の増加、3) レアアースを使用しない新材料の開発、を挙げた。現在の状況から脱したサプライチェーン全体の修復には少なくとも6~8年を要し、またサプライチェーン各段階での従業員を十分な能力にまで訓練するには7年以上を要するであろうとしている。
3-3. 上流企業の取り組み
米国Mt. Pass鉱山を保有するMolycorp社は、「Mine to Magnets」と称して積極的に垂直統合のビジネスモデルを推し進めている。2011年4月1日、同社はSilmet社を買収し、ヨーロッパに存在する2か所のレアアース処理施設のうちの一つであるエストニアの同社工場を傘下に収め、ヨーロッパへのジジム金属の生産、販売の足がかりを築くとともに、4月15日には米国アリゾナ州のSantoku America社を買収、レアアース磁石の原料となるレアアース金属の生産能力を手に入れた。また、2010年12月には日立金属株式会社との間で、米国においてレアアース金属やレアアース磁石の生産を行うジョイントベンチャーを形成することを意図した拘束力のない覚書を締結するとともに、Neo Materials社との間では、レアアース金属や磁石製造に係る技術支援等に関する拘束力のない覚書を締結している。
Great Western Minerals Group社も同様に「Mine to Market」と称した垂直統合モデルを構築しており、レアアース金属等を製造するLess Common Metals社やGreat Western Technologies社を傘下に収めている。
3-4. 研究機関の取り組み(クリティカル資源に係る研究開発事例)
カナダBC州のサイモンフレーザー大学は、2007年に41百万C$を投じて新たな研究センター及び産学協同ベンチャーを設立し、主として物質科学、特にナノテクノロジーに力を入れた研究を実施している。サイモンフレーザー大学教授であり協同ベンチャーの一つである4D Labs社の社長でもあるNeil Branda氏は、クリティカル資源を用いた新技術及びクリティカル元素を用いない新技術を紹介している。
レアアースイオン(Er, Tm, Yb)を少量添加したナノ粒子(NaYF(4))には特異な光学特性があるとして、例えば980 nmの近赤外線を吸収し、そのエネルギー強度に応じて様々な光(紫外~可視光)を発するとしている。この特性を利用して、暗視ゴーグルや不可視の商品タグ等に応用できるとともに、ジチエニルエテン(dithienylethene)の光スイッチング機構と合わせて薬物送達システム(drug delivery system)や光ストレージ等への応用が考えられるとしている。
クリティカル資源を用いない新技術としては、白金族及びレアアースを使用しない自動車触媒の開発を紹介し、数年以内の実用化を目指すとしている。
まとめ
いずれのアナリストもランタン、セリウムを始めとする軽希土は、その需給の数字にばらつきこそあれ、供給過剰になるとの一致した見解を示している。一方で、ジスプロシウムやテルビウムについては供給不足で見解が一致しており、この供給不足の解消にはカナダ・ケベック州及びニューファンドランド‐ラブラドル州に位置するStrange Lake鉱床やカナダ・北西準州に位置するNechalacho鉱床などの重希土に富む鉱床の開発が必要としている。しかしながら、Strange Lake鉱床やNechalacho鉱床は、含有されるレアアース鉱物組成が複雑であり、それに起因する選鉱・製錬・分離技術の難しさやインフラ環境等、開発には数多くのハードルがあり、その点からもここ1~2年内の供給不足解消は難しい。また、中国は重希土の輸出国から輸入国に転ずるという報告もあり、その場合は供給不足にさらに拍車がかかるだけでなく、数少ない重希土案件の争奪戦となる可能性もある。一方でHykawy氏は、あくまで仮定として、中国以外で重希土に富むイオン吸着鉱が開発され、年間10,000 t生産した場合の試算を公表し、この場合、ジスプロシウムの供給不足問題は解消されることを示している。レアアース等のクリティカル資源については、鉱山開発または技術開発で状況が一転しうる可能性を秘めており、この試算の例は、これら資源に対する投資判断が難しいことを端的に示したものといえよう。
レアアースを始めとするクリティカル資源の今後の展望としては、Kaiser氏がシンポジウムの講演で引用したWilliam S. Jevonsのパラドックス(Jevons Paradox)が最も示唆に富んでいる。Jevonsは19世紀のイギリスの経済学者で、その著書「石炭問題」の中で、資源やエネルギー消費が増大して価格が高騰すると、その資源をより効率的に利用する技術が開発されるが、効率化した技術の利用が拡大し、全体としての資源・エネルギー消費は逆に増大するという、高効率化がさらなる消費の増大を生むというパラドックスを示し、産業革命当時の技術社会に警鐘を鳴らしている。クリティカル資源に関しては、単なる使用量の削減にとどまらない抜本的な方策が必要である。
注)本文中に記載したレアアース各元素の2010年の生産量(予測値)は、2010年12月に発表された米国エネルギー省の報告書に記載された値である。
一方、図中のレアアース生産量は「クリティカル・マテリアル投資シンポジウム」におけるJon Hykawy氏の講演資料からのもので、双方で数値が異なる場合がある。

