報告書&レポート
中国・南方レアアース産業の最近の再編動向
中国国務院は、「レアアース業界の持続的かつ健全な発展の促進に関する若干の意見」を2011年5月10日に定め、5月19日に公布した。この中で「基本的に大企業が主導するレアアース産業構造を構築し、今後1~2年の内に、南方のイオン吸着型レアアース産業について業界トップ3グループへの産業集中度を80%以上にまで高める」としている。意見の公布から時間が経過し、業界トップ3グループの基準は未だ明らかになっていないものの、南方レアアース企業は種々の動きを見せている。 |
1. 中国の南方レアアース鉱床と関連企業

図1. 中国南方の省区
中国では、全国で1,000以上の鉱床や鉱産地があるといわれているレアアース資源を、以下のように省区別に北方・西方・南方の3区に分け、集約管理している。
・北方 内蒙古・山東の各省区
・西方 四川省
・南方 江西・広東・福建・
湖南・広西の各省区
この内、南方にはジスプロシウムなどの中重希土類を多く含むイオン吸着型レアアース鉱床が賦存する。
現在、南方ではイオン吸着型レアアース関連企業は多い。規模及び競争力が上位と見られる企業としては中国五鉱集団公司(以下「五鉱」)、中国アルミ業公司(同「中国アルミ」)、中国有色鉱業集団有限公司(同「中国有色」)、広晟有色金属集団有限公司(同「広晟有色」)、江西贛州稀土鉱業公司(同「贛州稀土」)、厦門钨業股份有限公司が挙げられる。前3社は中央政府所管の大型国有企業(以下「中央国有企業」)であり、中でも五鉱は南部最大のレアアース分離・製錬生産能力を有している。後3社は、地方政府所管の大型国有企業(以下、「地方国有企業」)で、当該地域の採掘権を有するという強みを持っている。これら企業は
、政策に対して表立った態度は表明していないが、この平静さは表面上のことに過ぎず、トップ3グループに選ばれるべく水面下での動きは活発化している。
図2に、レアアース業界の階層構造とそれぞれの段階での国による規制を示した。中国のレアアース企業は、採掘権を有して「採掘」を行う企業、それらを「分離・製錬」し、原料にする企業、そして商社などの流通企業、更に分離製品を加工して中間製品又は最終製品を製造する企業などに分かれる。
それぞれの規制は図2のように所管部が異なる(「部」は日本の「省」に該当する)。またこの図では割愛しているが、企業設立の認定基準も存在し、環境保護部が管轄地域の汚染を取り締まる排出規制もある。この複雑な所管が、採掘量から輸出枠に至る数量の整合管理の曖昧さを生み出していることも事実で、是正のための体系的管理実施を目指した協会設立が急がれている。

図2. レアアース企業の階層と規制管理
南方での主導権を争っている中央国有企業は「分離・製錬」を中心として事業の統括を図ろうとしている。これに対して採掘権を持つ地方国有企業が地域としてまとまりつつ対抗し、加工を中心とした地方民営企業はその動向を注目しつつ、自身の生き残りを図っている。
なお、価格高騰による利益は「採掘」を行う企業のみが享受している。
2. 有力企業の最近の動向
表1に2011年3月以降、中国国内で報道されたこの地区の動向をまとめた。
表1. 中国南方レアアースに関する最近の報道
月 | 日 | 掲載紙 | 内 容 |
3 | 3 | 第一財経日報 |
五鉱の周中枢董事長、2011年3月の全国人民代表大会・中国人民政治協商会議で、大型希土一体型企業集団による南方レアアースの再編を提案。 |
14 | 安泰科 |
第11期全国人民代表大会第4回会議で採択された第12次5カ年計画(2011~15年)では、電解アルミ、レアアース、鉄鋼等を重要分野とし、優位企業による地域を跨ぐ統合再編を促進し、産業集積度を高めるほか、国際的ブランド及び競争力を有する大企業育成を目指すとしている。 |
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14 | (現地報道) |
五鉱集団、広東省河源市政府と戦略的提携協定を締結、レアアースを中心とする鉱物資源の合理的かつ秩序ある探査・開発及び集約的な利用を図る。協定では、五鉱集団は河源市のレアアース鉱区の整理統合と探査・開発を進め、地方政府や企業と協力し、選鉱・製錬・加工・販売を一体化した総合レアアース企業を設立し、環境保全とレアアース資源を最大限度に保護する。 |
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15 | 中国有色網 |
3/12、中国アルミ業、広西有色、有研稀土の3社、北京で広西自治区の希土開発提携の協議。 |
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15 | 中国铝業網 |
3/15、中国アルミ業の熊維平総裁、広西自治区清遠市を訪問、稀土の開発提携強化を協議。 |
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25 | 中国有色網 |
中色股份傘下の中色南方稀土(新豊)有限公司、7000t/年の希土分離プロジェクトの環境影響評価を公示。 |
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4 | 12 | 中国有色網 |
広西有色の関係者、広西壮族自治区での開発採掘を行う主体企業は中国アルミ業(Chinalco)に確定したと発言。3/12協議3社でJV立ち上げ。 |
30 | 経済参考報 |
贛州市は2011/4/30、希土採掘停止を通知。同市は贛州希土鉱業公司が一括管理する採掘ライセンス88件の効力及び採掘を停止、同市副市長は「今回の措置はレアアース産業の統合を進めることが目的だ」と述べた。関係者によると鉱区統合計画は既に画定、各鉱山は環境評価及び安全監督管理など各種準備作業を行うことになる。また88件の採掘ライセンスを、一鉱区の面積拡張により2011年末までに42件まで減らす方針。 |
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5 | 5 | 赣県鉱管局 |
江西省赣県、違法採掘防止などについて、希土開発の管理監督強化の四項の制度構築を発表。 |
19 | 中国政府網 |
2011/5/10付 「レアアース業界の持続的かつ健全な発展の促進に関する若干の意見」を公布、「基本的に大企業が主導するレアアース産業構造を構築し、今後1~2年のうちに、南方イオン吸着型希土類については業界ベスト3への産業集中度を80%以上にまで高める」と明言。 |
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25 | 中国広播網 |
5/10「意見」に対して、五鉱集団、中色股份、広晟有色などが角逐、五鉱集団傘下の五鉱有色金属股份有限公司は3社に入ることに自信を表明。 |
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6 | 7 | 総合媒体 |
広晟有色、五鉱集団、中色股份、中国アルミ業、赣州稀土など、5/10意見の3社に入るべく勢力拡大に努力傾注。五鉱は2003年からの南方稀土再編開始で既に6企業をグループ化、現在の分離能力1.35万t/年。中色股份は新豊県で20万t以上の鉱山確保か。赣州稀土の赣州地区のすべての採鉱権掌握と生産能力、当地政府支持の状況は中央企業ではないが侮れず。広晟有色もすでに採鉱権と分離生産能力確保。 |
15 | 証券時報 |
5/10「意見」に対する現在の状況からすると、五鉱集団、広晟有色そして赣州が3社として有力か。 |
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16 | 毎日経済新聞 |
多くのアナリストは五鉱、中国アルミ、中色、広晟有色そして赣州稀土が3社を争うと予想。6/7、中国アルミ業は江蘇の5企業をグループ化、「探鉱・採鉱権と分離能力3.47万t/年を確保」 |
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20 | 人民日報 |
6/13-14開催の全国希土類業務会議で工業情報化部苗圩部長は、「業界の管理強化及び改善、資源保護及び開発利用により、持続的かつ健全な発展を促進する。また現在、業界の統合・再編加速のための具体的計画案を作成中である」とし、協会設立準備も積極的に進めていると述べた。 |
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27 | 賀州日報 |
中国アルミ業の副総裁で中国稀有稀土公司董事の丁海燕氏は広西壮族自治区賀州市を訪問し会談。広西有色金属集団有限公司総経理補佐など同席。 |
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28 | 揚子晩報 |
国土資源部と国有資産管理委員会は合同で、南方希土の大企業集団化に関する方策を検討中、企業集団を作り、中央企業間または中央企業と地方企業の間で相互株式保有も一案。 |
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30 | 中国有色網 |
6/30、包鋼希土は、同社と広晟有色が南北希土資源の開発と産業提携を強化するため、6/28に「稀土産業の発展提携の共同推進のための提携協議書」に調印したと発表。 |
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7 | 7 | 経済参考報 |
中国アルミ業が最近発表した豪州クィーンズランドのAurukunボーキサイトプロジェクトへのアルミナ精錬所建設中止との投資状況が社会的関心を集めている。というのも、中国アルミ業は更にここで3.4億元もの損失。 |
8 | 中国有色網 |
中色股份は、同社と江蘇省宜興市の新威集団は共同で中色稀土集団(広東)有限公司を設立し、17000t/年の分離能力とすることを発表。 |
中国現地報道に基づきJOGMEC作成
トップ3グループの決定の方法に関しては、「資源の保護とM&Aにより企業統合し産業集中度を高める」と国務院の意見が参考になろう。
中国稀土学会関係者は、「中央国有企業と地方の大型国有企業が中心となる」と述べる一方で、有色金属工業協会関係者によれば、「中央企業3社はいずれも採掘権を有していないが、分離・製錬能力こそが企業の実力を示す上でより説得力のあるデータだ。さらに中央国有企業を通じてのレアアース資源規制という中央政府の意図は明確なため、各種指標の総合により順位が決められるであろう。競争力を持つ企業として五鉱、中国アルミ、中国有色、広晟有色が挙げられている。」とのことである。
トップ3グループの有力候補に挙げられている企業について、その動向を以下に整理する。
最も有力視されているのは五鉱である。五鉱は長年にわたり江西省で成長を続け、採掘許可証こそ保有していないものの、現在REO 13,600 t/年というこの地区で最大の分離・製錬能力を有している。また、広東省の鉱産地河源市でも地方政府と戦略的提携協定を締結、地域の意向も加味した展開を進めようとしている。
中国アルミは、2011年3月、広西壮族自治区政府、広西有色金属集団有限公司及び有研稀土新材料股份有限公司と「第12次5カ年計画戦略的提携協定」及び「広西レアアース開発提携枠組協定」を締結、2011年6月には江蘇省で指令性生産計画指標枠を有する分離・製錬企業5社及び貿易会社1社を統合再編し、中铝稀土(江蘇)有限公司を設立した。同社発表によれば、「中铝稀土(江蘇)は採掘権を有し分離・製錬能力は合計するとREO 34,700 t/年に達する。江蘇省の企業を統合したことで川上から川下までの産業チェーン全体を手に入れ、政策上の要件は満たした。」としている。
江蘇省は中国で最初にレアアースの分離・製錬技術が発展した省だが、既存資料ではレアアース埋蔵量は示されていない。工業情報化部の「2011年指令性生産計画」でも、江蘇省は分離・製錬製品の生産指標が与えられているだけで、「鉱物製品」の欄はゼロとなっている点に注意する必要がある。また、業界関係者によれば、「このところの中国アルミの動向は、トップ3入りを目指しての点数稼ぎをしているのにほかならない」、「重量級中央国有企業という大きな強みがあるといっても、中国アルミはさらに積極的にトップ3に入るためには点数を増やす必要がある」などの指摘もある。中国有色のレアアース産業への正式参入は、2008年に豪州Lynas社買収に乗り出したことが契機である。この買収は不成功に終わったが、2011年5月には広東省で中色南方稀土(新豊)有限公司を設立し、2013年には分離・製錬能力REO 7,000 t/年を有する予定である。更に2011年7月、傘下の中色股份は、江蘇省宜興市の新威集団と共同で中色稀土集団(広東)有限公司を設立し、REO 17,000 t/年の分離能力とすることを発表している。
広東省の広晟有色はレアアース採掘許可証を保有し、将来的には平遠県と新豊県のレアアース資源を統合するとみられている。また江西省に江西広晟稀土を設立し、分離・製錬以外に江西万安レアアース鉱物の委託加工も行っている。更に、2011年6月28日、同社は、北の軽希土の雄、包鋼稀土と「稀土産業の発展提携の共同推進のための提携協議書」に調印したと発表、各方面から関心を集めている。広晟有色が投じた再編への一石とともに、これまでも南北の協調を推進してきた包鋼稀土の更なる南方展開のステップとの見方もある。
業界アナリストは「中国有色は中央国有企業だが資源を保有せず、一方、広晟有色は産業チェーンが整い広東省におけるレアアース統合の受け皿とはなるが所詮は地方企業に過ぎない。」と比較している。
贛州稀土は江西省の地元企業で、採掘許可証88件のすべてを管理している。2011年5月、江西省赣県は「違法採掘防止などについて、希土開発の管理監督強化の四項の制度構築」を発表している。レアアースの地元密着型管理をアピールしている。
厦門钨業股份有限公司の関係者は、「厦門钨業股份は既に2009年に同じ省内に龍岩市稀土開発公司をJV設立して、資源の再編と探査を進める体制を作った。また福建省内で加工企業の設立準備が進み、短期でレアアースの加工方面での大きな進展が期待できる。」としている。ただ、大きな再編のうねりの中での主張としてはインパクトが欠けている。
3. 中央国有企業の経営指導者と企業運営
中央国有企業としては、五鉱、中国アルミ、中国有色の3社が前述のように争っている。五鉱は鉄鉱石の流通から、中国アルミはアルミ産業から発展した企業であり、非鉄金属の取りまとめ企業としては本来的には中国有色が相応であろう。しかし、非鉄産業への業務展開の勢いと企業規模からみると五鉱と中国アルミは中国有色を凌駕しており、それを支えているのは両社の政治力であろう。
中国アルミの熊維平総経理は、全国人民代表大会の議員で中国政治協商会議の委員でもある。(注:全国人民代表大会は国会に該当する立法機関で約3,000人の議員で構成される。中国政治協商会議は全国人民代表大会と前後して開催され、合わせて「両会」と称される会議で、経済界など各界の代表者や中国共産党以外の「民主党派」などからなる2,000人程度の委員から成るとされる。)
熊維平氏は、1956年生まれ、中南工業大学鉱物工程系を卒業し工学博士の肩書きを持つ。中南工業大学常務副校長を務めた後、2001年党委員として中国アルミに入り副総経理、2009年総経理に就任し現在に至っている。注目すべきは、1988年に共青団湖南省委副書記を務めていることである。「共青団」は中国共産党の青年組織「中国共産主義青年団」として若手エリートの団体となっていて、その結束が堅く、胡錦涛国家主席もその出身者である。また、次の指導者層と予想されている李克強氏もその一員である。
五鉱集団の周中枢董事長は1952年生まれで、上海外国語学院スペイン語系を卒業したのち、中国五金鉱産進出口総公司に入り、その後、駐チリ大使館商務処、五鉱発展股份有限公司董事、スペイン大使館商務官を務めた。2004年に中国五鉱集団公司党委員、副総裁となり、2005年に中国五鉱集団公司董事長に就任し、現在に至っている。企業内党委員会の委員も歴任し、行政とのパイプも太いと言われている。2011年の中国政治協商会議で委員を務めている。
中国有色の羅涛総経理はこれとやや異なる経歴を有する。1953年生まれで、黒龍江生産建設兵団第五師団勤務から始まり、その後1977年に北京有色金属研究総院保衛処に勤務、同処長を務めた後、1991年同務総院の党委員会副書記を務めた。1998年に国家有色金属工業局人事司の司長、2005年に中国有色鉱業集団有限公司総経理に就任し、現在に至っている。羅涛氏はその経営的手腕より党活動が認められ、現在の地位に就いたように見える。
表2. 中国五鉱と中国アルミ業の最高幹部略歴
中国五鉱(Minmetals) | 中国アルミ業(Chinalco) | |
氏名 | 周 中枢 | 熊 維平 |
中央組織 | 全国政教委員 | 全国政教委員、工学博士 |
生年月 | 1952年11月 | 1956年11月 |
学歴 | 上海外国語学院スペイン語系 | 中南工業大学鉱物工程系 |
略歴 |
1978~93年 中国五金鉱産進出口総公司、 駐チリ大使館商務処 等歴任 1993年 中国五金鉱産進出口総公司総裁補佐 1997年 五鉱発展股份有限公司董事、副董事長 2000年 {噬Xペイン大使館経済商務官 2002年 中国五金鉱産進出口総公司党委員、副総裁 2004年 中国五鉱集団公司党委員、副総裁 2004年 中国五鉱集団公司党書記、総裁 2005年 中国五鉱集団公司董事長 |
1971年 江西汽車水箱廠 1983年 中南鉱冶学院鉱物工程系 1988年 共青団湖南省委副書記 1993年 中南工業大学校長補佐 国際経貿学院院長 1997年 中南工業大学常務副校長兼国際経貿学院院長 2001年 中国アルミ業公司副総経理、党委員 2009年 中国アルミ業公司党書記、総経理 2009年 中国アルミ業公司党書記、総経理兼Chalco董事長 |
中国現地報道に基づきJOGMEC作成
しかし、有力企業と見られる五鉱、中国アルミについても弱点がある。両社はレアアース産業運営に対する十分なノウハウを有していない、また、中国アルミは豪州Queensland州Aurukunボーキサイト・プロジェクトでのアルミナ精錬所建設中止により3.4億元(約5,200万US$)の損失を計上しており、本業におけるリスク管理不備がレアアース産業展開への失点と捉えられている面もある。
4. 統合再編はどう進むのか
1970年代以降これまでに4回ほど同様な再編提案がなされてきたが、いずれも失敗に終わった経緯があり、レアアース業界には「政府はトップ3への産業集中度を80%以上にするよう要請しているだけで、トップ3を固定する必要はなく競争が許される」、「南方レアアース業界の混戦状態は永遠に終わらないだろう」との見方もある。
では、今回、どのようにして産業集中度を高めようとしているのであろうか。
有色金属工業協会関係者は「中央企業による地方企業への資本参加といった形で統合再編が進行することは間違いない。中央企業は、地方企業を管轄する地方政府との間で、地元にどれくらいの投資をして何人分の雇用を確保するか、地元企業のためにどのような発展を実現するか、といった各種提携契約を結ぶこととなろう。」と語っている。業界関係者の多くは「中央企業と地方企業との協力方式が今後の主流になるだろう」と見ている。「レアアース産業の統合再編は政策的に重視されている。業界規模が小さいことから他の産業に比べれば統合再編に伴う困難は少なく、統合再編を進め集中度を高める条件は整っている。」との見方が業界の大勢を占めている。
「採掘」については、江西、広東、福建などの省では、すでに地元有力企業を受け皿にして採掘許可証の買収が始まっている。江西省ではこれまで贛州稀土が採掘許可証88件のすべてを管理しており、五鉱を含めすべての分離・製錬企業は贛州稀土から鉱石を購入しなければならない。しかし、最近、贛州市は「レアアース産業の統合進展が目的」として、すべての採掘許可証の効力及び採掘許可を停止した。贛州稀土を巡る動きを注視すべきであろう。強大な勢力を誇る企業であっても、国務院意見の趣旨に合わなければトップ3に選ばれず解体される可能性もある。一方、贛州市の採掘許可証の効力停止や採掘停止については、中央政府による介入の口実を与えないためとの見方もあり、中央政府と省・市・県政府との水面下での鍔迫り合いが続いているのではなかろうか。
「資源保護」については、統合・再編が進んだ場合、採掘許可証は、最終的に1社若しくは複数企業に配分されることになるだろう。業界関係者によれば、こうした採掘許可証再配分の際には、資源の保護的採掘の実現のため、一部鉱区では「資源備蓄」の名の下に採掘不許可となる可能性もある。
国土資源部と国有資産管理委員会は、南方レアアースの大企業集団化に関する方策を検討中と伝えられている。企業集団を設立することにより中央企業間又は中央企業と地方企業との間で相互株式保有の案も検討されている。ここには、中央企業を再編し直すという政策の動向も絡むことになろう。
このような考え方は、実は、国有資産監督管理委員会の態度にも早くから見られていた。2011年初め、五鉱及び中国アルミのレアアース事業の統合により中・重レアアースを核とするという研究が検討された際、国有資産監督管理委員会研究局楚序平副局長は、「委員会の態度は極めて明確だ。中央企業がレアアース産業を統合し、株式により各地方企業を吸収し、民営企業も含めた統合を進め、規模の経済性を高めることを支持する」と話している(2011/6/28「揚子晩報」)。
「環境保護」がレアアース政策の根幹の一部と位置付けられており、この観点からの統合再編の必要性も報道されている。2011年7月14日の第一財経日報は「多くのレアアース企業が環境上の廃水排出規制で生産停止に」と題した記事を掲げ、その実態について次のような報道を行った。
「レアアース産業が毎年排出する廃水は、現状では2,000万t以上にもなり、アンモニア窒素が300~5,000 mg/lも含まれている。これは国家の廃水基準を大きく越えている。中国全体では80%以上のレアアース製錬企業がこの基準の要求を満たしておらず、管理監督部門はこのような環境保護上の基準に未達の実態に対して強硬な措置をとりつつある。江蘇省のレアアース企業の関係者は、「環境基準を満たせず、2011年6月から生産の一時停止をしている」と述べており、現在改善のための設備導入が急がれている。国内のレアアース製錬企業の多くは、今年(2011年)1月に環境保護部が制定した「稀土鉱業汚染物排出標準」の基準を満たせていないが、この基準は、2011年10月1日に発効となる。企業は止むを得ず生産を停止し、数千万元(注;5百万US$程度か)が必要とも伝えられている投資により、設備導入又は改造を迫られている。このような状況は江蘇省に限定されるものではなく、レアアース産業がおかれた他の省区でも同様である」と伝えている。
環境対応のための企業集中化の必要性の布石は着々と打たれつつある。
5. 日本にもたらされる影響
今後、中国南方に大型レアアース集団が誕生するかなど、「環境と資源の保護」という錦の御旗のもとに振り上げられた拳のおろしどころとも言うべき今後の動向はまだ判然としない。しかし、再編の動きが水面下又は顕在化して進んでいることは確かである。
日本を取り巻く最近の動向をまとめると図3のようになる。図の赤枠で示されているのが中国の管理方法であり、具体的なアクションがそれに並んで示されている。中国南方での再編動向はこのような状況に影響を及ぼすことは疑いない。
何よりも中央政府による資源管理がより強められるので、その結果予想されることは、生産量や輸出量などの規制の強化である。特に政治力を伴った大きな企業がその再編の中心にいると見られることは、政治との密接な連携の下に管理が推進される傾向が強まると見られる。

図3. 日本をめぐる最近の中国レアアース規制の影響
