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報告書&レポート

2011年9月8日 金属企画調査部調査課 渡邉美和
2011年45号

中国鉛蓄電池企業の環境検査による生産停止動向

 2011年3月、中国国務院、環境保護部など政府9部門は「2011年、民衆の健康を保障し環境を保護するために違法汚染排出企業の整理を展開する活動の通知」を発表し、各省区に命じて鉛蓄電池関連企業の環境等に関する検査を実施した。5月17日に人民日報がこの動向について「鉛蓄電池産業の一斉検査による汚染撲滅は重大中の重大事項」と取り上げた頃から、企業閉鎖を含む中国鉛蓄電池産業全般への影響に対する懸念が広がった。しかし、その影響については判然としないまま、6月には一部の省区での検査実態を基に、「ある省では鉛蓄電池産業の9割の企業が生産停止か」(中国証券報2011.6.10)などの情報とともに、鉛蓄電池の供給不足と価格上昇への懸念が広がった。
 7月に入り、各省区ごとにこの検査結果が断片的に報道され始め、これと前後して、中国の鉛蓄電池の大きな消費分野である電動自転車の販売価格が上昇するなどの波及効果も見られ、その動向が注目されてきた。7月末に全国の集計が発表され、「鉛蓄電池企業1,930社の検査により、生産継続は252社」(上海有色網2011.8.2)などと総論的にのみ報道されている。
 本報告では、各省区で公開されている情報を収集することにより、この鉛蓄電池産業の一斉検査の結果とその影響について検討した。その結果、鉛蓄電池の組立メーカー(部材メーカーや回収関連企業を除く)に関しては、少なくとも「閉鎖」対象企業は社数こそ注目すべき多さを示しているが、生産能力には大きな影響を与えないことが推定された。また、これによる鉛地金生産への大きな影響もないと推定された。しかし、回収企業については、組立メーカーより大きな影響を受け、回収・再生が回収元や再生品納入先などのルートやそのシステムと関連していることを考慮すると、廃棄鉛蓄電池市場での滞留の懸念もある。
 今後も中国関係機関による検査及び指摘による改善実施に基づく産業動向が注目される。

1. 中国鉛蓄電池産業の一斉検査の背景

2011年8月中旬、中国大連市で、パラキシレン製造工場からの有害物質流出懸念が原因となった大規模な市民デモの発生が日本でも広く報道された。だが、これに先立って、非鉄金属産業では、既に2009年に、鉛・亜鉛製錬企業の環境汚染に対して民衆抗議行動が多発している。代表的な例として、陝西省鳳翔県の東嶺冶煉公司が汚染源で、児童を中心として約100人に血中鉛濃度異常が発生した事件が挙げられる。民衆抗議行動を伴い、製錬企業は生産停止を命ぜられた(「中国の鉛製錬-環境問題と生産への影響」金属資源レポートVol.40 No.2、2010.7)。これを受けて、「クリーン生産基準“粗鉛製錬業編”』が2009年11月24日に公布され(2010年2月1日施行)2010年5月以降、環境保護部門による環境汚染物質排出状況検査活動が、各地で大規模に実施された。例えば、2010年6月、江蘇省無錫市では全市にわたる鉛排出企業の実態調査と、周辺地区での環境汚染リスク検査を実施。企業による排出等の自己管理状況検査や市内各県にわたる排出実態検査のみならず、住民居住地域、学校、病院、飲用水水源地などの厳密管理地域やその周辺地区での地表水、地下水、大気中の鉛成分の実態検査が行われた。
 2010年6月、遼寧省でも同省環境保護庁による重金属汚染検査が実施された結果、葫芦島亜鉛製錬所でヒ素を含む廃棄物が露天で堆積貯蔵されていたことが指摘された。降雨により有害物質が土壌に浸出し、または雨水とともに流出する汚染が懸念され、改善が求められた。これらは対処され、製錬関連企業では汚染問題が一段落したように見えた。
 このような状況下、2010年6月12日、湖北省咸寧市崇陽県青山鎮の湖北吉通蓄電池有限公司で、同社員や付近住民ら30人に血中鉛濃度の基準値超過が見られることを現地紙が報じた。鉛汚染源とみられる同公司は生産停止を命じられた。中国ではこれまでも製錬企業だけでなく、鉛蓄電池関連企業などでも同様な事件が発生していた。2009年以降の鉛蓄電池企業の同様な事件をまとめると表1のようになる。

表1. 最近の中国蓄電池企業による血中鉛濃度異常事件

発生 省区 都市名 汚染源 状態 被害者数
(人)
情報ソース 備考
2009 6 浙江 湖州市 天力蓄電池公司 血中鉛濃度過多 500 09/8/14
東方早報
09/6改善指摘、他7か所検査(09/8)
2009 9 福建 龍岩市 電池工場 血中鉛濃度過多 121 09/9/28
新華社共同
当局による電池工場操業停止
2009 11 広東 清遠市 (蓄電池工場) 血中鉛濃度過多 44 09/12/25
南方日報
09/12までに児童中心に44人
2010 1 江蘇 塩城市 盛翔電源公司(電池メーカー) 血中鉛濃度過多 55 10/1/4
現代快報
鉛を含む汚染物質の排出量増加や従業員の意識不足と特定
2010 6 湖北 咸寧市 湖北吉通蓄電池有限公司 血中鉛濃度過多 30 10/6/12
楚天都市報
 
2011 1 安徽 安慶市 付近の電源工場 血中鉛濃度過多 100 11/1/6
新華社網
 
2011 3 浙江 台州市 付近の電源工場 血中鉛濃度過多 157 11/3/25
新華社網
 
2011 3 浙江 湖州市 浙江海久電池股分有限公司 血中鉛濃度過多 19家族 11/5/6
新京報
生産停止の命令

 相前後して鉛蓄電池産業をめぐる環境汚染防止に関わる制度の再構築が進んだ。国務院、環境保護部など政府9部門は、2011年3月に、鉛蓄電池産業を重点とした「2011年、民衆の健康を保障し環境を保護するために違法汚染排出企業の整理を展開する活動の通知」を発表、各省区に命じて鉛蓄電池関連企業の環境等に関する検査を実施した。

表2. 最近の中国の鉛汚染関連施策動向

年  月 事    項

2010 10

GB25466-2010「鉛、亜鉛工業汚染物排出標準」発表、発効2010年1月

2010 11

工業情報化部、電池産業重金属汚染総合防止法案の意見募集

2011  2

国務院、「重金属汚染総合防止”第12次五カ年計画”」を承認

2011  3

環境保護部など政府9部門、「2011年、民衆の健康を保障し環境を保護するために違法汚染排出企業の整理を展開する活動の通知」を発表

2011  4

鉛蓄電池産業参入条件は2011年下期発表かと報道

2. 中国電池産業の現状と鉛蓄電池業界の検査方針

(1) 中国電池産業の現状
 2010年11月26日、工業情報化部は電池産業重金属汚染総合防止法案を公表、それに対する意見を募集した。法案に対して広く意見を求める通知であり、鉛蓄電池を含む電池業界の現状認識などが記載され、実態として興味深い(2010年11月26日、工業情報化部website:「工業情報化部、電池産業重金属汚染総合防止法案の意見募集」)。その内の重金属使用と汚染排出の現状については以下のように述べられている。

① 電池産業の基本状況

写真1. 電動自転車修理店蓄電池交換も扱う(淅江省,杭州市)
写真1. 電動自転車修理店
蓄電池交換も扱う
(浙江省,杭州市)

 中国は電池の生産大国であり、2009年の生産量は400億個以上で世界生産の50%以上を占めている。その内輸出量は約300億個で生産の70%に上る。これを種類別でみると、鉛蓄電池は12,000万kVAh、Ni-Cd電池は約4億個、アルカリマンガンボタン電池は約80億個、普通マンガン電池は220億個以上である。
 現在、電池生産企業は約4,000社、この内重金属使用企業は2,400社である。2,400社のうち、鉛蓄電池に関する企業は2,000社、カドミウムに関する企業は80社、アルカリボタン電池企業、普通マンガン電池企業がそれぞれ20社と300社である。

② 電池産業の重金属使用状況
 2009年、中国の電池産業で使用された鉛は約230万t、カドミウムは7,600 t、水銀は140 tで、それぞれ中国国内での消費量の70%、72%、15%を占めている。

③ 電池産業の重金属汚染物質排出状況と廃棄電池回収状況
 2009年の実績見込みでは、電池産業から排出された重金属を含む廃水は1,200万t以上で、その内鉛蓄電池産業から1,000万t以上が排出されている。重金属を含む固形廃棄物は22万t余、その内鉛関連の廃棄物は21万t余、カドミウムに関する廃棄物は4,000 tが排出されている。また、廃棄鉛蓄電池の組織的回収率は30%に満たない。

(2) 鉛蓄電池産業を重点とした検査
 2011年4月8日付けで環境保護部等9部門が連合して、鉛蓄電池産業を重点とした「2011年、民衆の健康を保障し環境を保護するために違法汚染排出企業の整理を展開する活動の通知」(環発[2011]41号)が発表された。
 そこで示されたスケジュールは以下の通りである。

① 部署での動員計画策定段階  2011年4月
② 検査改善段階           2011年5月~9月

重金属排出企業・汚染排出減少の重点産業の違法性問題に関する検査と改善指示を実施。その状況については2011年7月末までに報告するものとする。

③ 検査検証段階           2011年10月
④ 総括段階              2011年12月

3. 検査の実施と供給への影響

 2011年2月15日、新華社は「中国の重金属汚染米の分布状況図発表される、心配は不要と専門家」と報道した。内容は「南京農業大学農業資源環境研究所による2007年からの系統的なカドミウム汚染米の調査を、市場で購入した170サンプルにより行い、水稲土壌中の重金属の基準値超過汚染の状況について明かにしたものである。市中販売された米の10%にカドミウムの基準値超過が見られ、この結果は、2002年に農業部稲米製品質量監督検査測定センターが行った全国市場米安全性抽出結果でカドミウムの基準値超過が10.3%であったことと符合する。」と伝えている。環境保護意識の高まりに応え、身近な重金属汚染への政府の対応を示したものと見られる。
 2011年3月25日、「中国証券報」は「安徽省、中国の10%の再生鉛生産能力停止」とのニュースを以下のように伝えた。
 「中国の再生鉛の3大生産地の一つである安徽省阜陽で多数の再生鉛生産メーカーが2011年2月末から生産停止していることが分かった。これは環境検査に伴う措置で、停止以降まだ再開に至っていない。生産停止は1カ月に達しているが、関係者によれば、再開の時期はまだ不明とのこと。一部が生産再開しているものの、企業数で1割に満たないとのことである。中国の鉛製錬の内、再生鉛によるものは全体の三分の一に達し、再生鉛の三分の一が安徽省阜陽地区に集中している。都合、中国の鉛生産の10%が生産停止していることとなる。関係者によれば、阜陽地区には、大華、順達、長江、環宇、中冶、華鑫などの主要再生鉛メーカーがあり、それぞれの年産能力は8万~15万tである。また、原料の問題がないとすれば、この地区で生産される再生鉛の量は1日あたり1,500 tに達し、これは1カ月では45,000 tになる。」
 この時点では、まだ鉛蓄電池産業の検査は実施されていない。だが再生鉛産業は、鉛蓄電池産業と関係の深い分野であり、徐々に鉛蓄電池産業にも影響が現れ始めた。また、2011年3月29日の「半島晨報」は「大連市で鉛蓄電池企業40社、抜取り検査」とのタイトルで「『2011年民衆の健康保障と環境保護のための違法汚染排出企業整理』に基づき、遼寧省大連市では40企業に対して、環境に対する違法排出の抜取り検査が実施された。このほか広東、江西、四川などでも再生鉛産業の検査が報じられ、広がりを見せている」と伝えている。
 2011年5月30日、「第一財経日報」は「電動自転車生産企業の60%に鉛蓄電池供給不安」と、鉛蓄電池の供給不足による電動自転車への影響を以下のように伝えている。(なお、中国の電動自転車は、日本のアシスト付き自転車とは異なり、電動モーターのみで走行が可能な自転車である。)
 「環境保護部その他による鉛蓄電池産業の産業指導・構造転換等の影響を受け、多くの地方で鉛蓄電池メーカーがその生産の停止に追い込まれている。この影響が川下産業の電動自転車業界に及び、コスト上昇と、甚だしい場合には鉛蓄電池の入手困難に直面している。5月29日午後、新日電動車股分有限公司の趙学忠総経理が語ったところによると、電動自転車生産企業の60%近くが鉛蓄電池供給不安に直面しているとのこと。5月に浙江や広東で再び生じた鉛蓄電池企業に起因する環境汚染事件に対し、環境保護部や国家発展改革委員会など9部署が連携して、各地の鉛蓄電池企業に対して生産停止を含む大規模な監督強化を開始した。このことにより鉛蓄電池の生産量は減少し、価格は上昇を見せている。このようにして直接の影響が電動自転車業界に及んでいる。中国自転車協会の馬中超理事長は記者の質問に対して、『現在、中国の電動自転車の97.5%は鉛蓄電池を搭載していて、同産業への依存は非常に高い』と答えている。中国自転車協会の統計によれば、電動自転車の生産量は2,994万台(注;2010年生産実績と思われる)、過度な鉛蓄電池への依存と輸出量が非常に低いことが同産業の2大問題となっている。」
 一方、鉛蓄電池の大量消費業界である自動車産業からは、鉛蓄電池の供給不安を直接に訴えるような報道はない。

4. 2011年7月末時点での集計

 表3に各省区が発表した2011年7月末時点での検査による実態を示す。ただし、福建省と新疆ウィグル自治区については他省区と同様な内訳が入手できなかった。「報道発表」とされている項は、中国のメディアにより総括的に報道されている数値である。横軸は各省区ごとに発表された「生産継続」、「建設中」、「改善まで生産停止」、「生産停止」、「閉鎖」の検査による処置内容を示している。それぞれの処置の具体的基準は、地域独自の基準もあり一律ではないと見られるが、概ねその定義と処置内容は次の通りである。

 生産継続・・・・・検査の結果、良好と認められ生産継続とするもの。
 建設中・・・・・・・建設段階のもので、環境評価を確認し、許可取消もある。
 改善まで生産停止・汚染処理設備の不備や排出基準の未達などの場合で、改善により確認が認められるまで生産停止。

 生産停止・・・・・「環境」「安全」「職業健康管理」のすべてが基準を満たしていない場合。環境保護部の通知(前述の環発[2011]41号では「改善」活動を要求するか否かが不明確だが、「改善により確認が認められるまで生産停止」と記載された地域(例;重慶市)もあり、このような運用と推定される。

 閉鎖・・・・・・・・・危険廃棄物経営許可のライセンスが無い場合などで、電力供給停止などにより強硬に閉鎖処置を実行。

表3. 省区ごとの鉛蓄電池関連企業の検査結果(数値は企業数)

省区 生産継続 建設中 改善まで停止 生産停止 閉 鎖 合計
部材 組立 回収 小計 部材 組立 回収 小計 部材 組立 回収 小計 部材 組立 回収 小計 部材 組立 回収 小計 部材 組立 回収 小計
北京市   1 3   4       0         0   1     1   2     2 0 4 3 0 7
天津市   6 1   7 1 4   5         0   3     3   1     1 1 14 1 0 16
河北 2 11 2   15     1 1         0 11 63 3   77 2 10     12 15 84 6 0 105
山西         0   1 1 2   6 1   7         0         0 0 7 2 0 9
内蒙古         0   1   1   2 2   4   2     2         0 0 5 2 0 7
遼寧   4     4   1   1   3     3   6 2   8   2     2 0 16 2 0 18
吉林省         0 1     1   2     2         0   1     1 1 3 0 0 4
黒竜江         0       0         0   1     1   1 1   2 0 2 1 0 3
上海市 1 12 1   14       0         0   3     3         0 1 15 1 0 17
江蘇 1 31 4 0 36 0 16 2 18 7 17     24 21 210 14 3 248 10 72 51 25 158 39 346 71 28 484
浙江 2 12     14 1 5 1 7 8 30     38 2 61     63 12 191 3   206 25 299 4 0 328
安徽   14 1   15 1 2   3 5 25     30 2 20 4   26 4 24     28 12 85 5 0 102
江西 6 4     10 1 3 1 5 10 11     21 5 6     11 5 8     13 27 32 1 0 60
山東 1 15     16 2 5 1 8 4 42 1   47 3 31 0   34   28     28 10 121 2 0 133
河南 3 5 2   10 2 3 3 8 8 17 1   26 4 18 1   23 2 24 2   28 19 67 9 0 95
湖北 1 11 3   15   1 2 3 4 9 5   18 1 9 4   14 3 1 2   6 9 31 16 0 56
湖南   6     6       0   3     3   15 1   16 2 5     7 2 29 1 0 32
広東 2 20 1   23   3   3 4 101 5 1 111 1 25 2   28 1 11 4 10 26 8 160 12 11 191
広西壮族 1       1       0   4 1   5 1 5 3   9         0 2 9 4 0 15
海南         0       0         0         0         0 0 0 0 0 0
重慶市 1 9     10   2   2 1 7 2   10 1 8 0   9 1 10 5   16 4 36 7 0 47
四川 1 3 1   5   6   6 1 9     10 1 1     2 5 25 5   35 8 44 6 0 58
貴州     1   1     1 1         0   2 6   8     2   2 0 2 10 0 12
雲南         0       0 3 10 3   16   1     1   1 3   4 3 12 6 0 21
チベット         0       0         0         0         0 0 0 0 0 0
陝西   1     1   2   2         0   1 1   2         0 0 4 1 0 5
甘粛   1     1       0         0   2     2         0 0 3 0 0 3
青海         0       0         0         0         0 0 0 0 0 0
寧化回族 1   1   2       0         0 1       1         0 2 0 1 0 3
23 166 21 0 210 9 55 13 77 55 298 21 1 375 54 494 41 3 592 47 417 78 35 577 188 1430 174 39 1831
福建             97
新疆             2
総計             1930
報道発表   252   80   405   610   583 639 1105 186   1930

(各省区発表資料に基づきJOGMECで編集作成)

 「部材」は鉛蓄電池部材生産企業、「組立」は主として鉛蓄電池そのものの生産企業(部材から一貫生産、または回収も行っている企業を含む)、「回収」は主として回収や再生を行っている企業である。「他」には分類不可能な企業や分類の根拠となる記載のない企業が含まれる。
 メディアによる報道(例えば上海有色金属網2011.8.2)を「報道発表」の欄に示している。「報道発表」と「計」の数値はほぼ等しい。ただし、各省区の「計」の「合計」でみると「計」の「部材」188社と、報道発表の「部材」639社が大きく異なっている。「組立」で、それぞれ、1,430社と1,105社と逆の傾向を示すのは、「組立」の分類基準が異なることによると見られ、大きな問題ではない。
 表3への集約により、鉛蓄電池関連企業の中国国内の分布の実態が明らかになった。特に傑出しているのが江蘇省と浙江省だが、以下に述べるように、産業構造は異なっている。100社以上の企業を有するその他の省区は、順に広東、山東、河北、安徽で、沿海部への集中が分かる。
 図1に中国の鉛蓄電池関連企業の分布を示す。

図1. 中国の鉛蓄電池関連企業の分布
図1. 中国の鉛蓄電池関連企業の分布

 図2に省区別に、検査対象企業数とその内の「閉鎖」とされた企業数を対象企業の多い省区の順に示す。

図2. 検査結果に基づく対象企業と閉鎖企業
図2. 検査結果に基づく対象企業と閉鎖企業

 「閉鎖」とされた企業は江蘇省158社と浙江省206社の2省で364社となり、全体577社の64%と大きな部分を占めていることが分かる。同時に、浙江省の「閉鎖企業率」の高さも際立っている。浙江省では対象企業数に対して58%の組立企業が閉鎖と査定され、部材・回収などを含めて63%の企業が閉鎖に追い込まれている。例示されていた「危険廃棄物経営許可のライセンスが無い場合」などの違法営業等でこの結果が導かれたものか、はたまた同省に更に厳格な適用基準があるためかなどの理由は判然としない。一方、江蘇省ではそれぞれ15%、33%の企業が「閉鎖」とされているに過ぎない。
 また、生産継続が認められた企業の数が多いのは、江蘇省36社、広東省23社、山東省16社、河北省15社、安徽省15社、浙江省14社の順で、企業数の多い浙江省でより検査及び指摘の影響が大きいことがわかる。企業数の多い省区では、生産継続となった企業の内では組立企業が多い。

5. 鉛蓄電池供給量への影響の推定

 冒頭に記したように、「鉛蓄電池企業1,930社の検査により、生産継続は252社」と総論的な報道がある一方で、その影響として鉛蓄電池生産量への影響を推定させる報道は見当たらない。しかし、知りたいのは鉛蓄電池生産量への影響であり、更に鉛消費量への影響も見逃せない。
 各省区ごとの公開された資料も決してこのような分析推定を行う上で十分ではないが、ここでは、鉛蓄電池企業の多い江蘇省と広東省の検査結果を分析し、それを基に中国の蓄電池産業全体での供給量への影響の推定を試みた。この両省を対象としてとりあげた理由は以下の通りである。

① 生産量に該当する数値が「生産能力」で発表されている省区と「生産量」で発表されている省区が混在している。「生産量」の場合、2010年の実績と明示されている場合もあるが、「生産能力」が誤反映されている可能性もある。この結果、全省区の会計で集計することが難しい。

② 対象企業数で第2位の浙江省のデータでは省データの基になっていると思われ、より詳細である市データと対照すると、生産個数と電池容量換算(VAh)の混乱、生産個数の単位(万個と個)の混乱などがあるようにも見え、生産量データの信頼性に疑問がある。

③ 対象企業数の大きな5省区が「生産能力」または「生産量」のどちらで表記しているかは、江蘇省(生産能力)、浙江省(生産量)、広東省(生産能力)、山東省(生産量)、河北省(生産能力)であり、「生産能力」での集約の方が原単位推移を行う上で母集団数を大きくとることができ、より妥当と見られる。

5-1. 江蘇・広東省のデータから推定される影響度

表4. 組立企業の生産能力推定

    生産継続 建設中 改善迄停止 生産停止 閉鎖 合計

企業数 31 16 17 210 72 346
有効企業数 31 17 182 45 275
有効生産能力計(千個) 38,650 10,398 38,815 3,458 91,321
平均生産能力(千個) 1,247 612 213 77 332

企業数 20 3 101 25 11 160
有効企業数 20 99 22 10 151
有効生産能力計(千個) 16,635 29,634 4,172 1,924 52,366
平均生産能力(千個) 832 299 190 192 347

企業数 51 19 118 235 83 506
有効企業数 51 116 204 55 426
有効生産能力計(千個) 55,285 40,033 42,987 5,382 143,686
平均生産能力(千個) 1,084 345 211 98 337

JOGMEC作成

 表4は、江蘇・広東両省の発表資料から集計した組立企業に関する生産能力である。江蘇省資料に基づき、それぞれの対象企業に対して生産能力が記載されている企業を表中の「有効企業数」として示した。生産能力は千VAh(ボルト・アンペア・アワー)で示されている。しかし、中には鉛蓄電池数量として記載されている場合もあり一貫していない。VAhを鉛蓄電池の数量へ換算するために、鉛蓄電池電圧を12V、容量を48Ahと仮定した。これはほぼ乗用車に搭載する鉛蓄電池容量に該当する値であり、蓄電池の用途が、より小さな電動自転車・バイクからより大きなバス・トラックや電車そしてUPSなどの据置型まで広いことを考え、その中間的で使用量も大きなものを仮定の値とした。「有効生産能力」とは「有効企業数」の企業の生産能力の合計値である。

 表4から分かることは以下の通り。

① 「生産継続」とされた企業の生産能力が大きく、「閉鎖」とされた企業ほど生産能力が小さい。

② 「閉鎖」とされた企業の有効生産能力に占める比率は、江蘇(3.8%)、広東(3.7%)、小計(3.7%)であり、これは冒頭に述べた報道(「鉛蓄電池企業1,930社の検査により、閉鎖は252社」)から求めた閉鎖企業割合13.1%と比べて格段に低い。すなわち企業数で見ると多いが、生産能力ではそれ程影響が大きくないと言える。

③ 「生産継続」とされた企業の有効生産能力に占める比率は、江蘇(42.3%)、広東(31.3%)、小計(38.5%)である。

④ 江蘇省と広東省の比較では、鉛蓄電池企業がより多く集積している江蘇省は、広東省よりも「生産継続」企業の「平均生産能力」は大きく、「閉鎖」企業の「平均生産能力」は小さく、閉鎖の影響はより少ない。

⑤ 江蘇省の「生産停止」のシェアが高いが、この内鉛蓄電池生産個数1,000千個以上の大量生産能力を持つ企業数は10社であり、この10社で「有効生産能力」38,815千個の内の20,484千個を占める。その原データの抜粋を日本語訳して示すと表5のようになり、停止後の改善指導による再開又は再編による再開の可能性も高いことが推察される。

表5. 江蘇省の生産継続が認められた組立企業(生産能力上位10社)

企業名 所在地 グリーン
生産状況
汚染物質排出状況 企業形態 生産能力
廃水 廃気 KVAh 千個
徐州徳尔陽光電源有限公司 徐州市 未展開 基準達成 基準達成 組立 576,000 1,000.0
江蘇金鼎蓄電池有限公司 宿遷市 未評価 基準達成 基準達成 組立 694,000 1,204.9
徐州浣沙電源有限公司 邳州市 未展開 未検証 未検証 組立 765,000 1,328.1
徐州通聯電源有限公司 邳州市 未展開 未検証 未検証 組立 800,000 1,388.9
徐州百徳力電源科技有限公司 邳州市 現在進行中 基準達成 基準達成 組立 864,000 1,500.0
昆山市港昆双龍蓄電池有限公司 昆山市 評価承認 基準達成 基準達成 組立 1,000,000 1,736.1
浙江天能電池江蘇新能源有限公司 宿遷市 評価承認 基準達成 基準達成 組立 1,000,000 1,736.1
浙江天能電池(江蘇)有限公司 宿遷市 評価承認 基準達成 基準達成 組立 1,500,000 2,604.2
江蘇统博華泰電源有限公司 鎮江市 未展開 未検証 未検証 組立 1,600,000 2,777.8
姜堰市双源電池廠 泰州市 未展開 基準達成 基準達成 組立 3,000,000 5,208.3

 表6は、同様に、江蘇省と広東省の発表資料から集計した回収企業に関する生産能力である。生産能力は金属重量(t)で示されている。表6から分かることは、組立企業の場合と同様に、「生産継続」とされた企業の有効生産能力が大きく、「閉鎖」とされた企業ほど有効生産能力が小さいことであり、実際の生産能力への影響はより小さいことが推定される。ただ、回収企業に関しては「生産停止」とされた企業の有効生産能力が「生産継続」企業よりも大きいことが組立企業と大きく異なる点である。すなわち、今後の改善の動向如何では、回収システムは大きく様変わりせざるを得ない。

表6. 回収企業の生産能力推定

    生産継続 建設中 改善迄停止 生産停止 閉鎖 合計

企業数 4 2 0 14 51 71
有効企業数 4 0 14 36 54
有効生産能力計(t) 188,000 0 527,860 94,690 810,550
平均生産能力(千t) 47.0 0.0 37.7 2.6 15.0

企業数 1 0 5 2 4 12
有効企業数 1 4 2 0 7
有効生産能力計(t) 12,000 95,000 22,000 0 129,000
平均生産能力(千t) 12.0 23.8 11.0 0.0 18.4

企業数 5 2 5 16 55 83
有効企業数 5 4 16 36 61
有効生産能力計(t) 200,000 95,000 549,860 94,690 939,550
平均生産能力(千t) 40 24 34 3 15

JOGMEC作成

 回収企業の原データが、どのように再生鉛企業と関連しているかは不明だが、2011年8月には「再生鉛産業参入条件」の案が発表されている。この案では年間処理量の下限が示され、それ以下の企業は現在稼働の場合淘汰の対象となる。
 また、回収・再生が回収元や再生品納入先などのルートやそのシステムと関連していることを考慮すると、「改善迄生産停止」、「生産停止」企業の対処次第では、廃棄鉛蓄電池の未回収滞留が生じる懸念がある。

5-2. 鉛蓄電池組立産業の全中国への推定拡張
表7に、組立企業に関して江蘇省と広東省から得られたデータを基に、全中国に推定拡張した結果を示す。表中の各項目の内容は以下の通りである。

・ 企業数(全中国):
表3の福建省と新疆ウィグル自治区を除くデータを集約した「計」。このデータの拡張を全中国とみなす。なす。

・ 推定平均生産能力:
表4の江蘇と広東を合わせた平均年産能力で1社あたりの蓄電池個数

・ 単純推定年産能力(全中国)千個:
企業数(全中国)と推定平均生産能力の積、単純推定した全中国での生産能力、ただし単位は蓄電池量千個。

・ 単純推定年産能力(全中国)KVAh:
単純推定年産能力(全中国)の単位をKVAhで換算。

・ (修正)推定年産量(全中国)千個:
2009年鉛蓄電池生産量12,000万KVAhを2011年換算(ほぼGDP成長率と同じと見なし20%増とする)すると14,400万KVAhとなり、これと単純推定年産能力(全中国)の24,644万kVAhを比較すると約60%となる。仮定誤差や与えられたのデータの信頼性の不備など多くの要因が含まれているものの、60%の値は見掛け稼働率と考えることが可能である。

・ (修正)推定年産量(全中国)万KVAh:
(修正)推定年産量(全中国)の単位を万KVAhとしたもの。

表7. 中国の組立企業生産能力推定

  単位 生産継続 建設中 改善迄停止 生産停止 閉鎖 合計
企業数 166 55 298 494 417 1,430
推定平均年産能力 千個/社 1,084 345 211 98
単純推定年産能力 千個 179,944 102,810 104,234 40,866 427,854
単純推定年産能力 万KVAh 10,365 5,922 6,004 2,354 24,644
(修正)推定年産量 千個 107,966 61,686 62,540 24,520 256,712
(修正)推定年産量 万KVAh 6,219 3,553 3,002 1,412 14,186

 表7から読みとれることは、「閉鎖」企業数から推定される影響に比べ、その影響はより小さいことである。
 既に「改善迄停止」~「閉鎖」までの企業も検査前に通常生産していることを考慮すると、2011年下期以降に必要な推定生産量は128,000千個である。これに対し、「生産継続企業」の単純推定年産能力で90,000千個が生産能力で生産可能である。「改善まで停止」の企業の再稼働と、生産停止期間を平均2カ月と仮定すれば、生産能力によれば2011年下期は34,000千個となり、これを合算するだけでほぼ必要生産量を満たすことが可能である。
 実際には製品鉛蓄電池の在庫が流通・生産者などに存在し、更に稼働率を向上させることも可能であり、総量的には需要を満たす生産は可能と思われる。ただし、鉛蓄電池の品種別の需給状況の相違は不明であり、自動車産業の供給不足に対する情報が少なくとも表面上はあまり見えず、電動自転車産業では価格上昇をもたらしているなど業界による違いがあるのかもしれない。

5-3. 全中国の蓄電池回収企業の生産能力推定
 表8に、組立企業に関して江蘇省と広東省から得られデータを基に、全中国に推定拡張した結果を示す。表中各項目の内容はほぼ表7と同じである。

表8. 中国の回収企業生産能力推定

  単位 生産継続 建設中 改善迄停止 生産停止 閉鎖 合計
企業数 21 13 21 41 78 174
推定平均年産能力 千t/社 40 24 34 3 15
単純推定年産能力 千t 840 499 1,394 234 2,967
(修正)推定年産量 千t 353 209 585 98 1,246

JOGMEC作成

 表8から推定されることは、「閉鎖」企業数から推定される影響に比べ、その影響はより小さいことである。
 しかし、組立産業と傾向はやや異なる。組立産業と同様に2011年下期以降に必要な推定生産量を求めてみると623千tとなるが、これに対し、「生産継続企業」の単純推定年産能力で420千tが生産可能であり、「改善まで停止」の企業の再稼働と、生産停止期間を平均2カ月と仮定すれば、生産能力によれば2011年下期は170千tとなり、これを合算するだけではほぼ必要生産量を満たすことは可能である。
 しかし、回収産業では生産停止期間が直接に市中から未回収の期間となる。すなわち、前述仮定の2か月分の未回収83千tがそのまま市中未回収在庫となる可能性がある。加えて、再生鉛産業への環境対応検査があり、少なくとも80千tあるいはそれを上回る再生鉛用原料が回収産業から供給されない可能性がある。
 2011年8月29日の上海有色網は、再生鉛企業のトップメーカーである河南豫光金鉛有限公司が再生鉛生産ラインの第二期建設を延期するかもしれないと報道した。再生用原料の廃棄鉛蓄電池価格の上昇と原料確保に問題が生じるとも伝えている。回収産業からの供給量減少の一時的現象が、実際にこのような影響を生じている。また、再生鉛原料への影響は新地金による代替の可能性を伴っている。

6. まとめ

 各省区で公開されている情報を収集することにより、この鉛蓄電池産業の一斉検査の結果とその影響について検討した。この結果、鉛蓄電池の組立企業に関しては、少なくとも「閉鎖」対象企業は企業数こそ注目すべき多さを示しているが、生産能力の点からは大きな影響を与えないと推定された。これによる鉛地金生産への大きな影響もないと推定される。
 「回収」企業については、組立メーカーより影響は大きく、回収・再生が回収元や再生品納入先などのルートやそのシステムと関連していることを考慮すると、廃棄鉛蓄電池の市場での滞留の懸念もある。
 今後も検査及び指摘による改善実施の動向いかんで、及ぼされる影響も変化が予想され、その動向に注視が必要である。

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