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報告書&レポート

2011年10月13日 メキシコ事務所 高木博康
2011年52号

メキシコ・サカテカス州の鉱業の現状について

図1. メキシコ合衆国・サカテカス州位置図

図1. メキシコ合衆国・サカテカス州位置図

 サカテカス(Zacatecas)州は、メキシコ中央部に位置し、面積は7万3,000 km2とメキシコ全土の4%に過ぎないが、州別生産量で銀、鉛及び亜鉛が第1位となっている。なかでも植民地時代から生産の盛んな銀については、2010年の世界生産の約1割を生産している。
 JOGMECメキシコ事務所は、サカテカス州鉱業局、メキシコ鉱業センター(SGM)サカテカス事務所、2010年9月に商業生産を開始し、メキシコ最大級の鉱山となった加GoldcorpのPeñasquito鉱山、Peñolesの主力鉱山の1つのFrancisco.I.Madera鉱山、加Capstone Minerals社のCozamin鉱山等を訪問し、関係者からサカテカス州の鉱業の現状について聴取することができたので、ここに紹介する。

1. サカテカス州の鉱業の現状と今後の見通し

(1) サカテカス州の金属鉱業生産量
 サカテカス州は、州別生産量で銀、鉛及び亜鉛が第1位、銅が北東部のソノラ州に次ぐ第2位、金がソノラ州、チワワ州に次ぐ第3位となっている。

表1. サカテカス州及びメキシコの主要金属の鉱山生産量(2010年)

鉱種

サカテカス州〔①〕

メキシコ計〔②〕

世界計〔③〕

サカテカス州の対メキシコ計割合
〔①/②〕

メキシコ計の対世界計割合〔②/③〕

サカテカス州の国内順位

メキシコの世界順位

金(t) 12.8 79.4 2,550 16% 3% 3 11
銀(t) 2,029 4,411 21,299 46% 21% 1 1
銅(千t) 40.2 270.1 16,099 15% 2% 2 12
鉛(千t) 97.9 192.1 4,102 51% 5% 1 5
亜鉛(千t) 228.9 570.0 12,115 40% 5% 1 8

(出典:Zacatecas州とメキシコはメキシコ国立地理情報院(INEGI)、世界計はWBMS2011)

図2. サカテカス州及びメキシコ全体の金生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

図2. サカテカス州及びメキシコ全体の金生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

図3. サカテカス州及びメキシコ全体の銀生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

図3. サカテカス州及びメキシコ全体の銀生産量の推移(出典:INEGI、単位:t)

 鉱種別に生産量2004年から2010年までの推移を見ると、金(図2)及び、銀(図3)はメキシコ全体の生産量とともにサカテカス州の生産量も増加傾向にある。なかでも銀については、メキシコ全体の高い生産の伸びによりメキシコ国内での州別シェアは50%台から低下したものの、2010年においてメキシコ全体の46%、世界全体の生産の9.5%を占めている。
 銅については、少しづつであるがサカテカス州の生産は増加傾向にある(図4)。なお、メキシコ全体の銅の生産が減少傾向にあるのは、2007年~2010年6月まで続いたソノラ州のCananea(現Buenavista)銅鉱山等のストライキの影響である。
 サカテカス州の鉛(図5)及び亜鉛(図6)の生産量については、少しづつではあるが減少傾向にあったが、2009年以降増加している。これは、2010年9月に商業生産を開始したメキシコ最大級のPeñasquito鉱山の影響である。
 サカテカス州の金、銀、鉛及び亜鉛については、2011年以降、Peñasquito鉱山がフル操業に向かうことなどに伴い、更に増加するものと見られている。

図4. サカテカス州及びメキシコ全体の銅生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図4. サカテカス州及びメキシコ全体の銅生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図5. サカテカス州及びメキシコ全体の鉛生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図5. サカテカス州及びメキシコ全体の鉛生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図6. サカテカス州及びメキシコ全体の亜鉛生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

図6. サカテカス州及びメキシコ全体の亜鉛生産量の推移(出典:INEGI、単位:千t)

(2) サカテカス州の金属鉱業生産額
 サカテカス州の金属鉱業生産額は2003年の約5億US$から2007年の約13億US$へと増加した後、金属価格の低迷により2008年に約9億US$に減少したものの、生産量の増加と貴金属を初めとする金属価格の上昇により、2010年には、約29億US$へと大幅に増加している(図7)。

(百万US$)

図7. サカテカス州の金属鉱業生産額の推移(出典)SGMサカテカス事務所

図7. サカテカス州の金属鉱業生産額の推移(出典)SGMサカテカス事務所

(注) メキシコ中央銀行発表の年平均Peso/US$為替レート(2003年10.7913、2004年11.2871、2005年10.6255、2006年10.7975、2007年10.9180、2008年13.8050、2009年13.0730、2010年12.3550)で換算。

2. サカテカス州の主要鉱山及び主要探鉱開発プロジェクトの現状

(1) サカテカス州の主要鉱山の生産量
 2010年のサカテカス州の主要鉱山の鉱種別生産量は、表2.のとおりとなっている。州内の生産量に占める割合は、金についてはEl Coronel鉱山が43%、Peñasquito鉱山が41%、銀についてはFresnillo鉱山が55%、Peñasquito鉱山が21%、鉛についてはPeñasquito鉱山が45%、亜鉛についてはPeñasquito鉱山が30%、Francisco.I.Madero鉱山が19%、銅についてはCozamin鉱山が40%、Sabinas鉱山が21%等となっている。
 なお、Peñasquito鉱山のフル操業後(後述の同鉱山所長の話では2012年Q1からの予定)の年間生産予定量は、金、15.6 t、銀871 t、鉛90.8千t、亜鉛204.3千tとなっている。
 また、2011年2月には加Aura Minerals社のAranzazu銅鉱山(年間生産予定量は銅4.1千t、金0.19~0.25 t、銀4.0~4.4 t)が、2011年4月にはPeñolesのSaucito金・銀鉱山(2011年生産予定量は、銀146 t、金0.7 t、2014年以降の年間生産予定量は、銀286 t、金1.4 t)がそれぞれ商業生産を開始した。
 これらのことから、サカテカス州の今後の生産量は更なる増加が見込まれる。

表2. サカテカス州主要鉱山の2010年生産量及びそのメキシコ国内シェア

    金(t) 銀(t) 鉛(千t) 亜鉛(千t) 銅(千t)
Fresnillo Peñoles 0.78
(6%)
1,117
(55%)
12.2
(12%)
11.5
(5%)
Francisco.I.
Madero
Peñoles 32
(2%)
11.4
(12%)
42.6
(19%)
1.7
(4%)
Sabinas Peñoles 110
(5%)
7.3
(7%)
25.2
(11%)
8.6
(21%)
Peñasquito Goldcorp 5.23
(41%)
434
(21%)
44.2
(45%)
70.1
(30%)
Tayahua Frisco 0.16
(1%)
57
(3%)
4.9
(5%)
34.9
(15%)
6.7
(17%)
El Coronel Frisco 5.44
(43%)
1
(0%)
Cozamin Capstone 44
(2%)
4.2
(4%)
7.9
(3%)
16.1
(40%)
La Colorada Pan American 0.13
(1%)
115
(6%)
1.4
(1%)
2.9
(1%)
その他 1.06
(8%)
119
(6%)
12.3
(13%)
33.8
(15%)
7.1
(18%)
サカテカス州 計 12.8 2,029 97.9 228.9 40.2

(出典:INEGI、各社HP等)

(2) Peñasquito(ペニャスキート)鉱山訪問結果(Tim Collins所長他)
 Peñasquito鉱山は、サカテカス市から約250 km北東のコアウイア州との州境近くのコンセプシオン・デル・オロ町から国道を外れ、西に約30 kmに位置する。Goldcorpが100%権益を持つメキシコ最大級の多金属鉱山である。
 2010年9月に商業生産を開始し、2011年初頭にフル操業を予定していたが
 未だフル操業に至っていない。マスコミにおいては、HPGR(High Pressure Grinding Roll)の故障及び用水の不足がその原因だと報道されていた、Tim Collins鉱山長の説明では、最新型の高速HPGRを導入したものの、粗鉱を規格の粒径にしないと同装置が十分な能力を発揮できないことが判り、HPGRに送る粗鉱の粒径を規格内に収めるためのプラント(Alimentador Complementaria)を2011年内を目途に建設しており、フル操業は2012年Q1からとなる見通しとのことである。なお、マスコミにおいて、用水不足や地下水の利用を巡る地元住民との軋轢が報道されたが、これは全くの誤報で、水は十分に足りており地元住民との関係も良好であるとのことであった。

表3. Peñasquito鉱山の生産量の推移とフル操業後の4半期の生産予定量(純分)

  2010年Q3 2010年Q4 2011年Q1 2011年Q2 フル操業後
金(t) 0.5 1.7 1.8 1.8 3.9
銀(t) 48 143 136 143 218
鉛(千t) 5.1 15.6 16.6 17.5 22.7
亜鉛(千t) 8.5 24.6 25.2 30.2 51.1

(出典:Goldcorp社HP)

 鉱床はいくつかの鉱体で賦存しており、複数のサイトで採掘が進められているが、最大のサイトは直径4~5 kmの楕円形で、深さは場所により異なるが概ね地表下40~50 mから鉱化し、そこから数十mが酸化鉱、それ以深が硫化鉱となっている。なお、将来的に別の露天採掘サイトと繋がり、露天採掘場がより拡大する可能性もある。深さは地下1,000 mまで鉱化作用が確認されており、可能なうちは露天掘で採掘するが、将来的には坑内掘に移行する見通しである。また、深度が増すに従って銅の品位が高くなっており、将来は銅も生産することとなると思われる。主要ピットではズリと併せ200万t/日の採掘が行われており、大量のズリは将来の廃さいダムの堤体の材料として野積みされている。
 酸化鉱については、粗鉱処理能力13万t/日のリーチングで金銀ドーレに処理され、硫化鉱については、粗鉱処理能力42万t/日の選鉱プラントで鉛精鉱と亜鉛精鉱に選鉱されている。
 労働者は、下請会社従業員も含め約3,000人で、7時と19時の2交代制となっている。
 鉱山用地は、かつてはエヒード(政府から与えられた農業集落の共有地)であったが全て買収しており、周辺のエヒードの住居民に対しては電気及び水の供給、学校及び診療所の建設、子供の鉱山体験学習による交流等を行い、良好な関係を築いている。
 治安対策については、鉱山用地は警備員が厳重に警護しており、一番危険なのは通勤時(特に国道から鉱山までの30 km)の誘拐であることから、鉱山労働者に対しては護衛付きの専用バスで通勤し、自家用車を使用しないよう奨励するとともに部長職以上については、小型飛行機により通勤しているとのことであった。なお、所長は10日間泊まり込みで仕事をし、飛行機でモントレー国際空港を経由して米国の自宅に帰り4日間の休日をとるとのことであった。

(3) Francisco.I.Madero(フランシスコ・イ・マドロ)鉱山訪問結果(Minera Madero社(Peñoles100%子会社)Octavio Alvidrez渉外部長他)

写真1. Francisco.I.Madero鉱山の鉱石運搬設備

写真1. Francisco.I.Madero鉱山の鉱石運搬設備

 本鉱山は、サカテカス市近郊に位置するメキシコ最大級の亜鉛を主とする多金属鉱山で、2001年に操業が開始され、2007年頃まではCharcas鉱山(Grupo Mexico・サン・ルイス・ポトシ州)とメキシコにおける亜鉛の生産量のトップを競っていたが、2010年生産量では、Peñasquito鉱山(Goldcorp、サカテカス州)、Charcas鉱山、Bismark鉱山(Peñoles、チワワ州)に次ぐ第4位となっている。本鉱山はPeñolesが国有鉱区の入札によって取得した鉱山であり、メキシコ鉱業センター(SGM)に対し2.5%のロイヤルティ(Net Smelter Royalty)を支払っている。1
 本鉱山は、亜鉛生産の比率が高く、亜鉛価格により操業が左右される。2002年~2003年には亜鉛を初めとする金属価格の低迷により、操業の一時停止が検討された。また、金属価格が低迷した2008年にも一時赤字操業に陥っている。本鉱山の亜鉛の損益分岐価格は0.80 US$/lb(1,762 US$/t)とのことである。
 確定・推定埋蔵量は、25百万t、平均品位は亜鉛2.3%、鉛0.55%、銅0.12%、銀22 g/tで、マインライフ約10年(Peñoles社2010年次報告では14.5年)であるが、資

源量の増加を目的とするボーリング探査を実施中である。なお、銅の生産は、あと3年に限って行われる予定である。
 坑内掘で現在の切羽位置は地表下約200 mであるが、300~350 mまで鉱化作用が確認されている。粗鉱処理量は8,000 t/日で、労働者は約700人、操業キャッシュコストは28 US$/tとのことである。
 鉱山開発時にエヒードの住民の反対により操業開始が多少遅れたが、Peñoles社の社内規則に基づき鉱山用地は全て買収しており、その後、エヒード、環境団体、労働組合等との問題は発生していないとのことである。


1(注)メキシコにおいては、国有鉱区を入札で取得する場合を除き、国家にロイヤルティを納める義務は無い。SGMによれば、国有鉱区の入札においては、通常NSR 2%を下限に入札が行われている。

表4. Francisco.I.Madero鉱山生産量(金属純分)

  2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
銀(t) 46.0 51.4 44.0 34.7 31.7
鉛(千t) 9.1 11.3 10.8 11.4 11.4
亜鉛(千t) 64.6 61.1 48.1 47.2 42.6
銅(千t) 0.5 1.3 1.9 2.0 1.7

(出典:Peñoles社HP)

(4) Cozamin(コサミン)鉱山訪問結果(Capstone Gold社(加Capstone Minerals社100%子会社)Mariano Ibarra地質部長)
 Cozamin鉱山は、サカテカス市近郊に位置する銅を主とする多金属鉱山であり、2010年の銅生産量は、La Caridad鉱山(Grupo Mexico、ソノラ州)、Milpillas鉱山(Peñoles、ソノラ州)、Buenavista鉱山(Grupo Mexico、ソノラ州)、NEMISA鉱山(S.M.de la Paz y Anezas、サン・ルイス・ポトシ州)に次ぐメキシコで第5位となっている。

写真2. Cozamin鉱山全景

写真2. Cozamin鉱山全景

 加Capston・Minerals社は、2004年に地元資本のGrupo Basis社から100%権益を取得し、2006年から本鉱山の操業を開始した。買収時の鉱区は5 km×2 kmの範囲であったが、鉱脈延長上の2 kmの鉱区を個人鉱区所有者から買収し、現在の鉱区は7 km×2 kmとなっている。同社は、今後更に鉱脈延長上の鉱区の買収を検討している。なお、Captone社は、契約に基づきGrupo Basis社や個人鉱区所有者に対し3%のロイヤルティ(Net Smelter Royalty)を支払っている。
 概測・精測資源量は、地表下600 mまでで8百万t、平均品位銅2.0%、亜鉛1.7%、鉛1.5%、銀70 g/tであるが、地下1,000 mまでの鉱化作用が確認されている。
 坑内掘で粗鉱処理量は3,500 t/日。労働者は、労組非加盟約900名と下請会社従業員約500名が働いている。現在の操業キャッシュコストは40 US$/tとのことである。
 鉱山用地はエヒードであったが、全て買収済みである。なお、エヒードは最近では個人所有地に代わってきており、個人所有者と用地交渉することが多くなっているとのことであった。

 なお、Capstone社はカナダにMinto鉱山を保有しているが、人件費が高い等操業コストが高く、同社の利益の大半はCozamin鉱山によるとのことであった。

表5. Cozamin鉱山生産量(金属純分)

  2006年 2007年 2008年 2009年 2010年
銅(千t) 1.7 9.2 12.0 16.4 16.1
鉛(千t) 0.6 1.7 2.9 4.6 4.2
亜鉛(千t) 1.4 3.4 4.4 7.0 7.9
銀(t) 7.0 23.2 40.4 47.3 43.6

(出典:Capstone社HP)

図8. サカテカス州の主要鉱山及び探鉱開発プロジェクト位置図

図8. サカテカス州の主要鉱山及び探鉱開発プロジェクト位置図

おわりに

 サカテカス州の鉱業は生産量、生産額とも高い伸びを示している。また、将来的にも今回訪問したPeñasquito鉱山は、2012年Q1に予定されるフル操業後の年間予定生産量が金15.6 t、銀871 t、鉛90.8千t、亜鉛204.3千tと膨大であり、最近商業生産を開始したばかりの鉱山や大規模な探鉱開発プロジェクトも存在することから、サカテカス州の鉱業は今後ますます発展するものと予想される。

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