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報告書&レポート

2011年11月10日 ロンドン事務所 北野由佳
2011年57号

国際非鉄研究会参加報告(1)2011年秋季国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)参加報告

 ILZSG(国際鉛亜鉛研究会)は1959年に発足した国際機関で、鉛・亜鉛市場における透明性を確立することを目的とし、需給調査や経済動向など鉛・亜鉛市場に影響を与える分野の情報収集、分析、統計を行っている。
 2011年9月29~30日、リスボンにて、ILZSGによる秋季定期会合が開催された。公式参加者リストによると、本会合には、26か国からの政府関係者、EU本部、産業団体、企業関係者の総勢約130名が参加した。以下、本稿ではその会合の概要について報告する。なお、本会合での講演資料は、ILZSGの公式HPから入手可能である。
 (http://www.ilzsg.org/generic/pages/list.aspx?table=document&ff_aa_document_type=P&from=8)

1. 第66回 統計予測委員会 (2011年9月29日、09:30~12:00)

1-1. 2011、2012年の鉛需給予測 (ILZSG主任予測統計官Paul White氏による発表)
1-1-1.鉛:鉱石生産量 ~ 中国、インド及びメキシコで増産 ~
 2011年及び2012年の鉱山生産量は、中国、インド、メキシコでの増産に加えて、タジキスタン及びウズベキスタンでの新規鉱山の操業開始によりそれぞれ対前年比7.8%増の452万t、同比6.2%増の480万tと予想した。
 一方、豪州では、年間8.5万tの生産能力を持つIvernia社(本社:トロント)のMagellan鉱山が2011年4月から環境への影響を再調査するため操業を自主停止しており、再開の目途が立っていないため減産予想となっている。

1-1-2. 鉛:地金生産量 ~ 中国、インド及びメキシコで製錬能力増強 ~
 製錬での地金生産量は、中国での製錬能力強化が主な要因となり2011年は対前年比7.3%増の1,034万t、2012年は同比3.1%増の1,065万tとなる見通しである。
 中国以外では、2011年にインド北西部のRajasthan製錬所(製錬能力10万t/年)及び使用済み鉛酸蓄電池のリサイクルを行うメキシコのVilla de Garcia二次製錬所(製錬能力13万t/年)がそれぞれ操業を開始した。また2012年にはVilla de Garcia二次製錬所を操業する米Johnson Controls社が米サウスカロライナ州でも使用済み鉛酸蓄電池のリサイクル工場建設を完了するとともに、米EnviroFocus Technologiesもフロリダ州にある鉛酸蓄電池のリサイクル施設の拡張を予定している。

1-1-3. 鉛:地金消費量 ~ 中国、鉛電池生産工場の閉鎖にも関わらず消費増 ~
 2011年及び2012年の鉛地金消費量は、それぞれ対前年比6.1%増の1,015万t、同比4.0%増の1,056万tと予想した。主な理由は、2011年及び2012年の中国の見かけ消費量が、自動車販売の減速や環境への懸念に伴う鉛酸蓄電池の生産工場閉鎖にも関わらず、それぞれ対前年比7.4%増の453万t、同比6.0%増の480万tと見込まれたためである。

表1. 鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)

区分 鉛: 鉱山生産量 鉛: 地金生産量 鉛: 地金消費量
2010年
実績
2011年
推計
2012年
予想
2010年
実績
2011年
推計
2012年
予想
2010年
実績
2011年
推計
2012年
予想
欧州 320 355 367 1,726 1,790 1,812 1,625 1,700 1,702
アフリカ 105 113 109 99 117 117 84 95 97
南北米 1,017 1,014 1,058 2,022 2,115 2,139 1,957 1,991 2,058
アジア 2,085 2,476 2,708 5,559 6,056 6,344 5,865 6,331 6,669
※(内、中国) 1,851 2,200 2,400 4,199 4,580 4,800 4,213 4,525 4,795
オセアニア 661 557 552 229 257 241 30 30 30
世界計 4,188 4,515 4,794 9,635 10,335 10,653 9,561 10,147 10,556

1-1-4. 鉛:世界の需給バランス ~ 2011年、2012年ともに供給過剰 ~
 2011年及び2012年の需給バランスは、それぞれ18.8万t、9.7万tの供給過剰となると予測した。地金消費量の増加が、中国及びインドでの新製錬所稼働、及びメキシコと米国での使用済み鉛蓄電池のリサイクル施設の稼働により相殺される形となる。

表2. 世界の鉛需給バランス(単位:千t)

区分 2008
実績
2009
実績
2010
実績
2011
推計
2012
予想
増減
2011/2010
増減
2012/2011
鉛供給合計 9,061 8,992 9,635 10,335 10,653 7.3% 3.1%
鉛需要合計 9,049 8,935 9,561 10,147 10,556 6.1% 4.0%
需給バランス 12 57 74 188 97  

1-1-5. 鉛のLME在庫と価格 ~ 在庫の増加、価格も上昇 ~
 LME在庫については、過去2週間で4万tがLME倉庫に納入され、在庫量は37.5万tを記録するなど、図1のとおり増加が続いている。上海先物取引所(SHFE)でも過去数か月間、在庫は増加基調にある。在庫の上昇にも拘わらず鉛価格は最近まで上昇基調にあり、2010年は2,350~2,750 US$の範囲で取引されていた。加えて、2011年1月から約5か月間、LMEの現物価格と3か月先物価格との間で、大幅なバックワーデーションが生じており、鉛の世界市場の現状はやや混乱の様相を示していると言える。

図1. 鉛のLME在庫及び価格(出典:ILZSG)
図1. 鉛のLME在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-2. 2011年の亜鉛需給(ILZSG主任予測統計官 Paul White氏による発表)
1-2-1. 亜鉛:鉱山生産量 ~ 中国及びインドで増産~
 2011年の鉱山生産量は、中国、インド、カザフスタン、メキシコ及びロシアでの増産がペルー及び米国での減産を相殺し、対前年比4.3%増の1,277万t、2012年も中国及びインドでの増産が続き、同4.8%増の1,337万tとなると予想した。特にインドのRampura Agucha鉱山では設備拡大が行われ、世界最大規模の亜鉛鉱山となり、2011年の生産量は70万tを超えることが期待されている。

1-2-2. 亜鉛:地金生産量 ~ 韓国及び中国で製錬能力増強、南アでは製錬所閉鎖~
 亜鉛地金生産量は、中国、インド、韓国での製錬能力増強が主因となり、2011年は対前年比2.7%増の1,316万t、2012年は同2.4%増の1,348万tとなると予想した。一方アフリカでは、南アのGauteng亜鉛製錬所(製錬能力12万t/年)が高い操業費が理由で2011年末に閉鎖することになっており、アフリカの亜鉛地金生産国はアルジェリアとナミビアのみとなる。

1-2-3. 亜鉛:地金消費量 ~ 中国の見かけ消費量の伸び率が減少 ~
 2011年及び2012年の亜鉛地金消費量は、それぞれ対前年比2.2%増の1,285万t、同比3.9%増の1,335万tと予想した。主な理由は、2011年に中国で在庫放出があったと考えられ、見掛け消費量の成長率が対前年比2.1%増に留まったが、2012年には同5.7%増に回復する見通しのためである。
 また欧州の亜鉛地金消費量は、2011年が対前年比2.5%増、2012年が同1.0%増と微増する。米国でも同様の傾向が見られ、2011年が対前年比1.4%増、2012年が同3.3%増である。両地域ともに消費量が増加基調にあるものの、世界経済危機前の水準をいまだ下回っている。

表3. 亜鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量(単位:千t)

区分 亜鉛: 鉱山生産量 亜鉛: 地金生産量 亜鉛: 地金消費量
2010年
実績
2011年
推計
2012年
予想
2010年
実績
2011年
推計
2012年
予想
2010年
実績
2011年
推計
2012年
予想
欧州 1,005 1,089 1,161 2,379 2,425 2,439 2,523 2,586 2,611
アフリカ 295 287 192 271 247 179 173 170 177
南北米 4,145 4,243 4,408 1,813 1,871 1,890 1,722 1,722 1,777
アジア 5,341 5,735 6,193 7,861 8,101 8,443 7,946 8,162 8,574
※(内、中国) 3,700 3,900 4,250 5,164 5,260 5,413 5,358 5,470 5,780
オセアニア 1,458 1,412 1,420 499 519 529 200 206 206
世界計 12,244 12,766 13,374 12,823 13,163 13,480 12,564 12,846 13,345

1-2-4. 亜鉛:世界の需給バランス ~ 2011年、2012年ともに供給過剰 ~
 需給バランスは2011年が31.7万tの供給過剰となる見通しで、2012年には過剰幅が微減し13.5万tの供給過剰となると予測した (表4)。

表4. 世界の亜鉛需給バランス(単位:千t)

区分 2008
実績
2009
実績
2010
実績
2011
推計
2012
予想
増減
2011/2010
増減
2012/2011
亜鉛供給合計 11,766 11,282 12,823 13,163 13,480 2.70% 2.40%
亜鉛需要合計 11,505 10,845 12,564 12,846 13,345 2.20% 3.90%
需給バランス 261 437 259 317 135  

1-2-5. 亜鉛のLME在庫と価格 ~ 在庫が増加、価格も上昇 ~
 亜鉛のLME在庫は増加基調が続いており、2011年には1994年以来初めて80万tを超える高水準となった。ニューオリンズのLME倉庫には55万tの在庫があると言われており、在庫引き渡し量をめぐって議論が行われている。
 亜鉛価格に関しては、在庫と価格の関係は従来の傾向から逸脱する動きが依然として顕著である。2008年頃から在庫が増加するにも拘わらず価格も上昇していたが、過去数週間は、在庫が減少するとともに価格も下落するという動きが生じている。

図2. LME亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)
図2. LME亜鉛の在庫及び価格(出典:ILZSG)

1-3. 講演『インドの鉛・亜鉛市場』

(インド鉛亜鉛開発協会(ILZDA)、L.Pugazhenthy氏)

 インドの鉛市場は、自動車、電気通信、再生可能エネルギー、パソコン用のUPS(無停電電池装置)といった産業の需要によって支えられている。鉛は主に鉛蓄電池に使用されており、インドの鉛蓄電池市場は32.2億US$規模で、2015年には50億US$、2020年には90億US$以上に成長すると予想されている。鉛蓄電池の60%は自動車産業で利用されているほか、REVA社といったメーカーが電気自動車や電動バイクの生産を強化し電気自動車革命(EV Revolution)が起こっており、政府は生産者及び消費者の両方に対して電気自動車の利用に関する奨励政策を実施している。また夏の電力不足等の対策として、インドでは今後太陽光発電及び風力発電による発電量を増加させる計画であり、鉛蓄電池が更に必要となる。
鉛の供給面に関しては、使用済み鉛蓄電池のリサイクルによる二次製錬鉛の生産量が増加傾向にあり、同国の環境森林省(Ministry of Environment and Forests)は、環境に配慮しているリサイクル業者・処理業者の登録、鉛蓄電池の輸入業者の登録、広報活動、「バッテリー(管理及び処理)規則 2001年」の制定等により、使用済み鉛蓄電池のリサイクル業務に関する管理体制を強化している。
 一方、インドの亜鉛市場の成長を支える主な要因の一つは、電力、電気通信、高速道路、港湾、空港といったインフラ整備であり、2012年までの5カ年計画ではこれらのインフラ整備に5,000億US$を費やすことになっている。またインドが熱帯地域に属していることから、鉄の防食として亜鉛が多く用いられる傾向がある。同国では亜鉛消費の61%が亜鉛めっき用で、その内45%が電力産業、16%が電気通信産業で利用されている。
 インドでは今後も経済成長が続き、インフラ整備、建設、自動車及びサービス産業の成長が見込まれ、同国の鉛・亜鉛市場は拡大していくと考えられる。

1-4. 講演『インフレが金属業界にもたらす影響』

(Crédit Agricole CIB社 Robin Bhar氏)

 インフレ、つまりUS$等のある特定の通貨での購買力の低下は、消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)、GDPデフレーター等の指数によって測定することができる。コモディティに関してはCRBコモディティ指数やLME指数(LMEX)といった指標があり、これらはCPIより1~2年先行した動きを見せるとされている。またコモディティ指数はその他の指数と比べてボラティリティが高く、株価指数と似たような動きを見せる。
 コモディティ価格は全体として過去10年で3倍以上(232%増)に高騰しており、年間平均では13%増である。価格高騰の主な要因としては、新興国の経済での需要増、ドル安、欧米の中央銀行による金融刺激及び低金利政策、インフラ懸念及び過去20年間に生産能力増強が不十分であったことに起因する供給上の制約等が挙げられる。一方、鉱山会社では生産コスト増、鉱山労働者不足と人件費増、資源国での鉱業法改正による増税といった様々な課題を抱えている。大手鉱山会社は規模の経済性(economies of scale)により生産コストの上昇をカバーできると考えられるが、中小企業にとっては生産コスト増の影響が更に大きいため、経営が困難になることが考えられる。
 マクロの経済情勢を見ると、欧米の中央銀行はデフレを回避したいため、緩和的な金融政策を今後もしばらく持続することが考えられる。アジアの新興国の経済成長は緩やかになるものの、2011年のGDPは対前年比7.8%増、2012年は同比7.9%増の成長が続くと見込まれており、旺盛なコモディティ需要も続くことが予想される。このような背景を受けて、コモディティ価格の上昇基調は継続すると考えられる。

2. 第15回 鉱山・製錬所プロジェクト委員会(2011年9月29日、13:45~15:00)

2-1. 講演『北米における使用済み鉛酸蓄電池の市場』

(Interstate Batteries社 David Willis氏)

 北米では使用済み鉛酸蓄電池のリサイクル率が98%という報告があるとおり、鉛酸蓄電池のリサイクルが活発に行われている。当社は1万6千種のバッテリーを販売するだけではなく、鉛酸蓄電池リサイクル業では米国最大手である。また、当社は米国資源保全及び回収法、バッテリー法、運輸省の有害物質の輸送に関する規制等に遵守しているだけではなく、当社独自の基準である「Green Standard」を設けている。同基準では使用済み電池の包装や輸送に関するベストプラクティスの実行、安全な輸送のための独自の包装、荷物の追跡による責任追及に加え、当社バッテリーの「閉ループリサイクル(closed loop recycling)」を実行している。閉ループリサイクルでは、バッテリーの製品サイクル全体での管理を行っているとともに、同社が販売した以上のバッテリーを回収することにも成功している。

2-2. 講演『東日本大震災後の日本の鉛・亜鉛産業の現状』

(経済産業省資源エネルギー庁鉱物資源課 課長補佐 鯉江 雅人氏)

 講演の冒頭では2011年3月11日に発生した東日本大震災に対する各国の支援への感謝が述べられ、震災による日本国民及び経済全体への被害状況が説明された。
 鉛については、国内の主要鉛製錬所2か所で被害があったものの2011年3~4月に既に操業を再開した。2011年の鉛地金生産量は前年より若干減少する程度であり、2011年の内需は前年と同程度で2012年には復興作業のため増加することが予想されている。
 一方、亜鉛に関しては国内の主要亜鉛製錬所4か所で被害があったが2011年4~6月に操業を順次開始した。亜鉛地金生産量は2011年3月及び4月は減産となったものの、5月には地震前とほぼ同等の生産量に戻っている。内需については、2011年に若干減少するものの2012年には復興のため約2.8万tの増加が見込まれている。
 よって、日本の鉛亜鉛の需給状況は既に安定を取り戻しており、世界の需給に与える影響は限定的との見方を示した。

3. 第47回産業諮問委員会(2011年9月29日、15:30~17:30)

3-1.講演『自動車生産技術の変化による鉛酸蓄電池市場への影響』

(Focus Consulting社 Geoffrey May氏)

 世界の鉛消費量の約85%が鉛酸蓄電池に使用されている。2010年の鉛酸蓄電池の世界市場の規模は312億US$で、その内訳は自動車用蓄電池が228億US$、予備電池(standby battery)が53億US$、けん引用蓄電池(traction battery)が31億US$となっている。自動車用蓄電池の市場は欧州及び北米では2013年にかけて対前年比1~3%増との予想であるが、中国では毎年同8~10%増の高い成長が続いていくことが予想される。また自動車用蓄電池メーカー最大手のJohnson Controls社は中国でも大規模な事業拡大を行っている。
 近年、排ガス規制、税金、環境問題等が主な理由となり、ハイブリッド電気自動車(HEV)市場が急速に成長している。HEVで用いられる自動アイドリングストップ用バッテリーには、出力密度が比較的高い鉛酸蓄電池が適しており、この分野での需要拡大が期待できる。フルハイブリッド車では自動アイドリングストップ用の鉛酸蓄電池は必要ないものの、自動アイドリングストップが用いられるマイクロハイブリッド車はHEVの中でも費用効果が最も高いため環境規制が厳しい欧州を中心として需要の伸びが期待でき、自動車生産技術の変化による鉛酸蓄電池市場へのマイナス影響は限定的と考えられる。

3-2. 講演『KCM社の紹介』

(KCM社 Anton Shukerov氏)

 ブルガリア南部のプロフディフに本社を置くKCM社は、1961年に亜鉛製錬所の操業を開始し2011年で創業50周年を迎える。今回の講演では約15分間のビデオが上映され同社の事業内容が紹介された。2010年には亜鉛地金7万t、鉛地金6万tを生産しているほか、金、銀、カドミウム等も生産している。また同社では環境保護や地域社会への関与等を通じての社会貢献にも力を入れている。
(参考:http://kcm2000.bg/)

3-3. 講演『亜鉛市場の今後5年間の見通し』

(Citigroup Global Markets社 David Thurtell氏)

 世界経済全体の短期的な見通しは、ユーロ圏での債務危機や米国債の格下げ等を受けて悪化している。購買担当者指数(PMI)やISM製造業景況指数は低迷しており、世界経済における需要薄が予想される。米国、欧州、日本で経済的に厳しい状況が続く中、中国は経済成長の増加幅は縮小するものの、中国政府が金融政策を緩和方向に転じることにより、経済成長が継続していくことが予想される。
 亜鉛価格に関してはETF(上場投資信託)の導入、中国の需要、生産コスト増など様々な要因が重なり、従来の価格と在庫のバランスから逸脱した価格の動きが見られている。在庫は高い数値を保つことが予想され、今後数年間の亜鉛価格は現在のレベルの±300 US$/tの幅で推移すると考えられる。亜鉛消費量に関しては、過去十年間でOECD諸国の消費量が大幅に減少しており、OECD諸国で2011年Q4及び2012年に新たに景気後退が起こった場合、亜鉛消費量に更なる影響が出ると予想される。だが、2009年を除けば、中国の亜鉛消費量がOECD諸国での消費減を相殺している。
 2009~2011年には中国政府が自動車及び家庭電化製品購入の奨励政策を実施し、消費が増大している。Citi Global社の予測では、中国の亜鉛消費量が現在の値より下がったとしても、東アジアでの人口増加やGDP成長を考慮に入れると、世界の亜鉛消費量は2020年まで対前年比6%増で推移すると思われる。供給面では、今後の主要亜鉛鉱山の鉱量枯渇による供給不足が懸念されていたが、現在の予想では2017年までは小幅な供給過剰に落ち着くと予想している。

4. 第21回 経済環境委員会 (2011年9月30日9:00~12:00)

4-1. 講演『亜鉛とゲルマニウムの経済的関連性』

(Indium社 Claire Mikolajczak氏)

 欧州連合のクリティカルな原材料としても選定されているゲルマニウムの2011年の世界1次生産量は約120tで、リサイクルによる2次生産量は約80tであることから、市場規模は約200tと推測される。1次生産量のうち中国が約65%を生産しており、その60%を亜鉛鉱石から、40%を石炭から産出している。ゲルマニウムを含む亜鉛鉱石は中国、米国、豪州、インドの鉱山を中心に生産されているが、実際にゲルマニウムを製錬できる製錬所に届くゲルマニウム含有亜鉛鉱石はそのうち3%のみであり、製錬能力が不足しているのが現状である。中国を除けば、米国及びカナダに2か所製錬所があるのみであり、製錬能力の強化が必要である。
 ゲルマニウムは、光ファイバー、半導体、太陽電池、高輝度LED、赤外線光学など主にハイテク分野で利用されている。特に光ファイバーの需要は2015年まで年平均5~7%の成長率で増加すると予想されているため、ゲルマニウムの供給確保が重要となってくる。

4-2. 講演『OneMine Global Libraryの紹介』

(鉱山冶金探査学会(Society for Mining, Metallurgy and Exploration) Gregg Tiedeman氏)

 鉱山及び鉱物に関連するオンライン図書館「OneMine」が紹介された。OneMineを用いると、学会やそのほかの非営利団体が発表した論文等のデータにアクセスすることが可能となる。OneMineに保存されているデータを閲覧するためには、加盟学会の会員になるか若しくは必要な資料ごとに25 US$を支払う必要がある。
(参考:http://www.onemine.org/about/)

4-3. 講演『亜鉛製錬の経済性』

(Brook Hunt Wood Mackenzie社 John Anderson氏)

 Brook Hunt Wood Mackenzie社では亜鉛製錬所の収益性をキャッシュ・マージン(cash margin)と呼び、総利益から生産費用を差し引いて計算する。生産費用の内訳は人件費、エネルギー費、メンテナンス費、消耗品、現場でのその他の費用で、このうちエネルギー費が費用全体の50%を占めており、1999年から2009年にかけて83%上昇した。エネルギー費は2008年にピークに達したと考えられるが、エネルギー効率のよい機器や自家発電装置の設置等を行うなど、常に対策を行うべきである。人件費は1999年から2009年にかけて12%上昇しており、欧米と日本で人件費が高い。製錬所のオートメーション化や人員調整等を行うことで人件費の削減を図ることができる。
 総利益に関しては、そのほとんどは亜鉛の加工費からの収益であるが、亜鉛の製錬プロセスにおいて可能な限り全ての金属の回収を試みることによって、金や銀といった亜鉛以外の金属からの増収が今後期待できる。概して、慎重な費用管理と総利益の最大化がキャッシュ・マージンを増加させる鍵であると言える。

4-4. 講演『鉛産業における最近の進展』

(国際鉛協会(ILA) David Wilson氏)

 欧州を中心とした鉛に関する規制の状況について以下のとおり説明した:

● REACH Restriction on Lead In Jewellery(宝飾品における鉛の使用に対するREACH規制)
 2010年4月、フランスは鉛及び鉛化合物の宝飾品への使用をREACH規制の下で禁止することを、欧州化学品機関(ECHA :European Chemicals Agency)に提議した。REACH規制鉛産業界では既に子供の宝飾品における鉛の使用は不適切であると結論付けているが、宝飾品における鉛のリスク評価を行う際に適切な方法が用いられることが重要であるため、ILA及びEurometaux(欧州非鉄金属協会)はリスク評価のプロセスに積極的に参加している。最終的には、宝飾品における鉛含有率を0.05%(重量比)以下に制限するという結論が出ると考えられる。

● EU Water Framework Directive(EU水質枠組み指令)
 水質枠組み指令(Water Frame Directive:Directive 2000/60/EC)は、欧州における水質保護を目的とし、2000年12月に採択された。同指令において現在鉛は「規制優先物質(Priority Substance)」に分類されているが、鉛を「規制優先有害物質(Priority Hazardous Substance)」に分類し直そうという試みがあった。鉛が規制優先有害物質に分類された場合には、排出が一切禁止されることになり産業界で困難が生じるため、ILA及びILZRO(国際鉛亜鉛研究機構)が積極的に意見を述べた結果、鉛を規制優先有害物質に再分類する提案は却下された。しかしながら、規制物質の分類は4年ごとに再検討されることになっており、2014年の見直し前に、鉛を規制優先有害物質に再分類する提案が再び行われる可能性が高い。

● Norwegian Product Regulations(ノルウェー商品規制法)
 ノルウェーは2007年に鉛を含む18の化学物質の消費財での使用を規制することを同法で提案した結果、多くの反対意見が寄せられたため、2010年12月、規制対象の化学物質を4項目にまで減らしたが、鉛は依然として規制対象物質に含まれている。同法は、鉛化合物の消費財への使用を、一部の例外を除き全面的に禁止するものである。同法が鉛産業に与える影響として最も懸念されたのは、屋根材での鉛の使用であった。そのため、ILAと欧州鉛板産業協会(ELSIA)は欧州委員会に対して同法に対する意見書を提出した。欧州委員会はノルウェーの商品規制法のようなEU内における単独的行動には強く反対している一方、ノルウェーに対しEUのREACHの下で規制案を提出するように勧告したと考えられる。REACHで鉛が規制された場合、EU加盟国すべてに深刻な影響を与える可能性がある。

● 鉛が小児のIQに与える影響に関する研究
 米国のLanphear氏らが2005年に発表した鉛の血中濃度と小児の知能指数(IQ)との関連性に関する研究が、現在の鉛規制の重要な要素となっている。この研究では7か国の小児を対象として鉛の血中濃度とIQを測定し、鉛とIQの負の相関関係を導き出した。図3が示すとおり、鉛の血中濃度が少量増加した段階(10μg/dL以下程度)で、IQが急激に低下している。Lanphear氏の研究は現在公開されているため、分析方法などに関して綿密に審査されている。鉛とIQの関係に関する研究は鉛規制に影響を与えるため、産業界では鉛の血中濃度が10μg/dL以下の場合に小児のIQに与える影響に関する情報を更に収集していくことで対応している。

図3. 鉛の血中濃度とIQ(出典:ILAプレゼン資料)
図3. 鉛の血中濃度とIQ(出典:ILAプレゼン資料)

4-5. 講演『亜鉛産業における最近の進展』

(国際亜鉛協会(IZA) Stephen Wilkinson氏)

 国連食糧農業機関(FAO)は、作物を栽培する世界の土壌の50%で亜鉛が不足しているとしており、作物における亜鉛不足は深刻である。世界人口の増加に伴い、2050年までに農業生産量を70%増加させる必要があるが、亜鉛含有肥料は作物の成長を助けるとともに作物の栄養素を強化することによって、それを摂取する人間の健康を促進するとされている。インド政府は「栄養素に基づく助成金制度(NBSS:Nutrient Based Subsidy Scheme)」を2010年から開始しており、新しく23種類の肥料で亜鉛が加えられた。また中国とIZAは、2011年8月、中国における亜鉛含有肥料促進及び研究のための共同プロジェクトを開始した。亜鉛含有肥料は世界の食糧安全保障に貢献することができ、今後、市場規模の拡大が期待される。
 また、亜鉛は人間の健康にとって欠かせない栄養素である。IZAでは2010年1月から国連児童基金(UNICEF)との共同プロジェクト「亜鉛が子供を救う」を実施しており、同プロジェクトでは重度の亜鉛欠乏症を患っている子供に対する治療や、亜鉛欠乏症の治療及び予防のためのサプリメント配布を行っている。ペルーでのプロジェクトでは、同国の保健省が下痢の治療として亜鉛のサプリメント配布を含むことに同意した他、貧血症の減少といった効果が見られている。また、欧州委員会は子供の健康な成長における亜鉛の重要性を認識しており、ネパールでのプロジェクトに320万€(2011~2013年度)の共同出資を行っている。
 上記の2点を重要事項とした上で、亜鉛が鉄鋼を腐食から守る耐性の高い素材であること、亜鉛のエネルギー貯蔵における有利性、着色亜鉛めっきの開発、亜鉛の持続可能性に関しても言及があった。

4-6. 講演『建設用亜鉛めっきの動向』

(Bluescope Steel社 Carl Perry氏)

 世界の鉄鋼の60%以上は建設用に用いられているが、建設資材市場における鉄鋼の占有率は5%以下と大変低い。そのため、建設市場における鉄鋼の成長の余地は十分に残されている。発展途上経済が世界のGDPに占める割合は2005年には47%であるが、2015年には56%に増加すると予想されており、発展途上経済の発展と都市化の影響を受け、建設用鉄鋼の消費量も増加することが予想される。
 インドを例に挙げると、2010年のインドの鉄鋼生産量6,520万tのうち、平鋼(flat steel)が占める割合は51%で、平鋼の14%が被覆鋼(coated steel)である。被覆鋼の生産量は470万tで、その内訳は亜鉛めっきが84%、着色亜鉛めっきが10%、ガルバリウム鋼板(Galvalume)が6%である。着色亜鉛めっきとガルバリウムの占める割合が5年前は4%であったが2010年には16%に増加しており、注目すべき分野である。インドの被覆鋼の生産量は2006年から2011年にかけて年平均7%増で成長してきたが、消費は今後5年間、年平均15%増で急成長することが考えられる。この背景にはインフラ整備や外観のよい鉄鋼屋根、及び外壁への需要増による建設分野での消費拡大がある。
 亜鉛消費の今後の動向としては、鉄鋼の薄型化及び新しい用途の開発による亜鉛使用量の増加に加え、新興経済での亜鉛需要の増加等が期待される一方、鉄鋼の新しい被覆素材及び被覆技術の開発により亜鉛使用量が減少するといったマイナス要因も考えられる。

図4. インドの鉄鋼生産内訳(出典:Bluescope Steel社プレゼン資料)
図4. インドの鉄鋼生産内訳(出典:Bluescope Steel社プレゼン資料)

4-7. 講演『鉛酸蓄電池の回収及びリサイクルの向上』

(国際鉛管理センター(ILMC)、Brian Wilson氏)

 ILMCは国際鉛亜鉛研究機関(ILZRO)の運営の下、国際鉛協会(ILA)の支援を受け、鉛によるリスク軽減を目的として活動している団体である。ILMCは国際機関、各国政府機関及び産業界と協力して、鉛製品の環境保全型管理(ESM: Environmentally Sound Management)を推進するための様々なプロジェクトに関与している。
 今回の講演では、国連一次産品共通基金(CFC)から資金援助を受けてILZSGと共同で行っている「セネガルでの使用済み鉛酸蓄電池回収プロジェクト」の進捗状況を説明した。同プロジェクトでは、セネガルのダカールに位置する鉛酸蓄電池リサイクル工場でのESM向上のため、排水処理施設の設置、蓄電池切断のための適切な器具の設置、男女別の更衣室の設置をリサイクル工場に既に約束させている。使用済み鉛酸蓄電池のリサイクルに関する安全な作業手順の確立はまだ完了していないが、セネガル政府と話し合いを続けており、適切な場所での蓄電池回収センターの設置、地域住民の雇用とトレーニング、適切な価格設定等で合意している。

5. 各委員会のプロジェクト進捗報告

5-1. ILZSG統計予測委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規プロジェクト
報告書

・鉛亜鉛市場の年間レビュー
(2011年2月発行)

・統計データの更新とレビュー
(2010年末実施)

・世界の一次・二次鉛製錬所の住所録(2011年5月)

・ILZSGインサイト報告書『ハイブリッド電気自動車の鉛市場への影響性』
(2010年3月発行)

・月間統計報告書

・鉛・亜鉛の一次利用法に関する報告書
(2011年内発行予定)

・インド鉛市場調査

・ILZSGの統計の正確性に関する報告書

・鉛亜鉛市場の年間レビュー

・世界の鉛及び亜鉛鉱山の住所録

・世界の一次・二次亜鉛製錬所の住所録

・中国における亜鉛の最終用途の調査

その他

・プレゼンテーションの実施
『世界の鉛、亜鉛、ニッケル、銅市場の動向』インド金属学会の会合にて、『鉛・亜鉛の世界的な現状』Chanderiya製錬所訪問時

・Mining Journalに記事『亜鉛の立ち直り』を掲載 (2010年12月発行)

・月間統計報告書のデザイン変更

・鉛・亜鉛需給調査
(年二回発表)

・リサイクル率計算法の開発(継続)

・地方セミナーの計画(継続)

・ILZSGのウェブサイトの向上

・統計データベースのカスタマイズ利用の実現化

・鉛・亜鉛鉱山・製錬所のデータベース及び、自由自在のインターフェース開発

 

5-2. ILZSG鉱山及び製錬所プロジェクト委員会

進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト

・新規の鉛・亜鉛鉱山及び製錬所プロジェクト報告
(2012年1月に次号発行)

・新規の鉱山及び製錬所のデータベース及び自由自在のインターフェースの開発

5-3. ILZSG経済環境委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト
報告書

・ILZSGインサイト報告書『ハイブリッド車及び電気自動車が鉛需要にもたらす影響』(2011年7月発行)
『中国における亜鉛めっきプロジェクト』
(2011年5月発行)

・鉛の環境及び作業場での規制に関する報告書(2011年5月発行)

・亜鉛の環境及び作業場での規制に関する報告書(2011年5月発行)

・ILZSGインサイト報告書(継続)

・合同研究会”Metals Despatch”ニュースレター(継続)

・鉛の市況報告書
(2011年12月発行予定)

・3研究会合同プロジェクト
中国の非鉄金属統計データの調査
(2012年4月発行予定)

・鉛・亜鉛の副産物に関する調査
(2012年7月発行予定)

その他

・国連一次産品共通基金(CFC)プロジェクト
『中国における溶融亜鉛めっきのプロジェクト』
(2010年11月)

・製品スチュワードシップGreen Lead Initiativesへの協力

・CFCプロジェクト:
『アフリカにおける亜鉛空気蓄電池の利用』(継続)
『インドでの溶融亜鉛めっき用作業工具の普及』(継続)
『セネガルでの使用済み鉛蓄電池の回収プロジェクト』(継続)

・UNCSDへの協力(政府間フォーラムへの参加など)

・CFCプロジェクト
『マラウィでのIZAによる亜鉛含有肥料促進プロジェクト』
『インドでの亜鉛ダイカストに関するプロジェクト』

・ILZSG、ILA、ILMC及び産業界主導プロジェクト『中国における鉛酸蓄電池の回収及びリサイクル、最高の環境衛生基準に沿ったシステムの構築』

6. 2012年春季会合について

 国際鉛亜鉛研究会の2012年春季会合は、2012年4月25日にポルトガルのリスボンにて開催される予定である。

< 2012年春季の国際非鉄金属3研究会の日程 >
 4月23~24日:国際ニッケル研究会(INSG)
 4月25日午前:国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)
      午後:3研究会合同セミナー
 4月26~27日:国際銅研究会(ICSG)

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