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報告書&レポート

2011年11月10日 ロンドン事務所 萩原崇弘
2011年58号

国際非鉄研究会参加報告(2)2011年秋季国際銅研究会(ICSG)参加報告

 2011年9月26~27日、ポルトガル・リスボンにて国際銅研究会(International Copper Study Group;ICSG)の一連の会議が開催され、メンバーである22の国と地域の代表、業界団体、コンサルタント等50名ほどが参加した。日本からは、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物資源課 鯉江課長補佐、三菱マテリアル㈱高梨ロンドン事務所長のほか、JOGMECロンドン事務所から3名が参加した。また、その翌週LME Weekのロンドンで産業アドバイザーパネル会合が開催された。

写真1. 2011年秋季国際銅研究会(ICSG)会合でプレゼンを行うMETI鉱物資源課鯉江課長補佐
写真1. 2011年秋季国際銅研究会(ICSG)会合で
プレゼンを行うMETI鉱物資源課鯉江課長補佐

 国際非鉄金属3研究会(ニッケル(INSG)、銅(ICSG)、鉛・亜鉛(ILZSG))は、メンバー各国政府からの拠出金で運営される国際機関であり、その最も重要な役割は、世界の需給及びそのバランスについて各国の代表から提出された数値を基にした各金属需給の基本統計を作成し、公表することである。
 今回のICSG会合においては、春季会合と同様2011年及び2012年の鉱山生産、製錬生産、消費、需給バランスの予想値などの需給見通しを始め、足下で金属価格が大幅に下落した中、不確実性の高まっている市場動向などについて、各国代表、専門家を交えた議論が行われた。講演資料は以下のICSGのHPで公表されているので適宜参照していただきたい。なお、次回のICSG会合は、2012年4月26~27日にリスボンにて開催予定である。

 http://www.icsg.org/index.php?option=com_docman&task=cat_view&gid=65&Itemid=62

1. 第38回統計委員会

(1) 世界の2011/2012年銅市場の需給見通し
 世界の銅市場の需給見通しについて、事務局から全体像の説明があった後、各国の生産予測の議論、修正等を経て、需給見通しの取りまとめを行った(表1~4参照)。
 2011年の銅地金生産量は対前年比2.3%増の1,947万5,000 t、銅地金需要は同1.5%増の1,967万6,000 t、需給バランスは20万1,000 tの供給不足と前年の35万1,000 t供給不足から大きく縮小すると予想した。なお、鉱山生産は対前年比0.7%増の1,609万8,000 tと予測した。
 また、2012年の銅地金生産は対前年比3.4%増の2,013万6,000 t、銅地金需要は同3.6%増の2,039万2,000 t、需給バランスは25万6,000 tの供給不足と幅が拡大すると予想した。なお、鉱山生産は対前年比9.4%増の1,761万2,000 tと予想した。
 この背景としては、欧米の景気後退等を背景として中国等新興国の需要拡大が減速すること、特に中国は在庫の取り崩しにより見かけ消費の伸びが1%以下になること、新規開発中の銅生産拠点は中小規模が多いことなどが挙げられた。他方、参加者からは、欧米経済の急速な減速に伴い、中長期的な銅の需要は増加する傾向は変わらないものの、2012年はICSGの予想より供給過剰になるのではないかとのコメントが出されていた。
 なお、今回の需給予測においては、当初中国産業界から2008~2010年の銅地金の在庫データの提供があり、それを含めた需給統計作成について議論がなされ、産業界から当該データの出典、継続的な提供が可能かどうか確認するよう指摘があり、最終的には提供されたデータは中国産業界が作成した推計値であることが判明したことから、需給統計には採用されないこととなった。

表1. 銅鉱山生産(千t)

  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び(%)
2012年予想 2012/2011
伸び(%)
アフリカ 1,215 1,350 11.1% 1,619 19.9%
北米 1,915 2,080 8.6% 2,353 13.1%
中南米 7,031 6,985 -0.7% 7,727 10.6%
ASEAN10 1,087 851 -21.7% 786 -7.6%
その他アジア 1,626 1,655 1.8% 1,741 5.2%
(内、中国) 1,156 1,185 2.5% 1,250 5.5%
CIS 491 474 -3.5% 501 5.7%
EU27 758 784 3.4% 792 1.0%
その他欧州 826 836 1.2% 847 1.3%
オセアニア 1,030 1,084 5.2% 1,246 14.9%
世界計 15,897 15,979 16,098 0.7% 17,612 9.4%

(出典:ICSG会議資料から作成)

表2. 銅地金生産(千t)

  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び(%)
2012年予想 2012/2011
伸び(%)
アフリカ 859 996 15.9% 1,188 19.3%
北米 1,690 1,661 -1.7% 1,833 10.4%
中南米 3,897 3,917 0.5% 4,048 3.3%
ASEAN10 534 569 6.6% 573 0.7%
その他アジア 7,558 7,806 3.3% 8,301 6.3%
(内、中国) 4,541 4,937 8.7% 5,200 5.3%
CIS 413 440 6.5% 497 13.0%
EU27 2,624 2,704 3.0% 2,771 2.5%
その他欧州 1,035 1,086 4.9% 1,119 3.0%
オセアニア 424 498 17.5% 510 2.4%
調整項   -201   -704  
世界計 18,272 19,035 19,475 2.3% 20,136 3.4%

(注)調整項は、精鉱不足に伴う一次製錬生産の減少及び過去5年間の推移からの調整
(出典:ICSG会議資料から作成)

表3. 銅地金消費(千t)

  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び(%)
2012年予想 2012/2011
伸び(%)
アフリカ 285 285 0.0% 301 5.6%
北米 2,182 2,230 2.2% 2,279 2.2%
中南米 646 628 -2.8% 657 4.6%
ASEAN10 748 758 1.3% 772 1.8%
その他アジア 11,052 10,990 -0.6% 11,556 5.2%
(内、中国) 7,394 7,403 0.1% 7,880 6.4%
CIS 96 101 5.2% 101 0.0%
EU27 3,348 3,346 -0.1% 3,362 0.5%
その他欧州 897 1,198 33.6% 1,223 2.1%
オセアニア 131 140 6.9% 141 0.7%
世界計 18,108 19,386 19,676 1.5% 20,392 3.6%

(出典:ICSG会議資料から作成)

表4. 銅需給バランス(千t)

  2009年実績 2010年実績 2011年推計 2011/2010
伸び(%)
2012年予想 2012/2011
伸び(%)
生産 18,272 19,035 19,475 2.3% 20,136 3.4%
消費 18,108 19,386 19,676 1.5% 20,392 3.6%
バランス 165 -351 -201   -256  

(出典:ICSG会議資料から作成)

(2) 各国の銅の需給動向などの紹介

(a) チリにおける銅鉱山投資及び銅生産予測/Cochilco(チリ銅委員会)Vicente Perez Vidal氏
 チリにおいて2011年以降予定されている鉱山投資総額は668.9億US$であり、うち銅及び金・銀鉱山への投資が96%を占める。地域別では同国北部のAntofagasta、Trapacáなどに集中している。企業別には民間の大企業が43.4%、国営鉱山会社CODELCOが36.6%などとなっている。投資額をプロジェクトの段階や種類別で見ると建設中が22.1%、確実なものが32.6%、可能性があるものが45.2%、一方では新規投資が50.0%、拡張投資が27.3%、補修投資22.6%となっている。
 チリでは新規プロジェクトを含めた投資が行われる予定であることから、政府としては2020年の同国金属生産量について銅は2010年比43%増の780万t、金は同300%増の120 t、モリブテンは同62%増の6万t、鉄は同170%増の1,500万tに増加すると予想しており、将来的にも安定した生産が続くと見込んでいる。

(b) 日本の銅産業の現状-震災からの復興/経済産業省 鯉江 雅人氏
 まずは東日本大震災への世界各国からの支援に心から感謝を申し上げたい。
 2011年3月11日14時46分に東北三陸沖で発生したM9.0の地震とそれに伴う津波により、死者は約1万6,000名に、行方不明者は4,000人超に及び、経済的にもインフラ等に推計2,110億US$もの被害が生じている。
 震災により東北地方の生産拠点が大きな打撃を受けたため、サプライチェーンが寸断され経済にも大きな影響が出たが、回復は市場の予想よりも早かった。具体的に自動車産業を見ると、西日本方面に組立拠点があったことから、6月には震災前の生産水準にまで回復した。今後は、欧米の経済不安や円高の影響が懸念される。
 日本国内の銅地金生産への影響を見ると、小坂、日立、小名浜の各製錬所が被害を受け、特に福島県の小名浜製錬所の被害は大きかった。これらの製錬所の生産能力は日本全体170万t/年の30%に及ぶが、2011年9月中には生産が完全に回復する予定である。この間の銅地金供給は、豪州、中国、インド及び韓国等からの輸入により賄われた。一方、銅地金の内需は、ほぼ例年と同水準で推移している。
 日本の2011年の銅需給予測については、生産は震災前の143万1千tから135万6千tへと7万5千tの下方修正、消費は1,060千tから1,030千tへと若干減になると予測している。このように日本の銅の需給については既に安定を取り戻しており、世界の銅需給に与える影響は小さいと考えている。

図1. 日本の銅生産・消費に関する震災の影響(出典:ICSG会議資料)
図1. 日本の銅生産・消費に関する震災の影響(出典:ICSG会議資料)

2. 第31回環境経済委員会

 環境経済委員会では、事務局から銅スクラップ、リサイクルなどの調査研究の状況報告、各国の制度動向などの説明の後、足下で銅価格が急落する中、最近の銅市場の動向、マクロ経済との関係、ETFの影響などについて専門家を交えた議論が行われた。

(1) 2011~2012年の銅産業・銅市場に関するマクロ経済の影響/
 Societe Generale社 David Wilson氏
 世界経済は欧州各国のソブリンリスクに端を発したユーロ危機、米国の経済低迷や国家債務上限の混乱など嵐の中にある。米国の実質個人消費は2011年H1に急激に減速した。米国を始め各国の中央銀行は協調して金融緩和を実施し、政府は緊縮財政に舵を切っているが、将来世代にツケを回している感が否めない。一方、好調だったアジア経済は中国を始めとして減速傾向にある(日本を除く。)。欧州は、欧州金融安定化基金(EFSF)を承認し、欧州中央銀行(ECB)は国債購入プログラム(SMP)を必要に応じて行使するだろうが、綱渡りの状況が続くだろう。こうした欧州発の金融不安は、少なくとも今後12か月にわたり金属市場に影響を及ぼすと考えている。
 近年の銅需要の伸びを見ると、欧米よりも中国等新興国の需要が支えているのは明らかである。しかし、新興国では成長が鈍化し、インフレが問題となっている。中国の金融機関の貸付の鈍化は生産活動に影響しており、中国での銅半製品の生産は2011年1月以降対前年比の伸びが急減し、銅地金の輸入も減少してきている。銅市場を見ると、欧米経済の不安定要素や新興国の成長鈍化に加え、銅からアルミニウムへの代替の進展(銅/アルミニウム価格の比率が3.5倍超)など需要にとって弱含みの要素ばかりが目立ってきている。銅鉱石については、中長期的には生産不足が顕在化するだろうが、当社としては2011~2012年はメキシコ、米国、中国、アフリカからの生産増の影響が大きいと考えている。
 なお、現物ETFの銅等ベースメタル市場への影響は限定されるだろう。貴金属の現物ETFは金属価格に比べて倉庫代等現物提供のためのコストが低かったことから成功したが、ベースメタルのETFはコストが高いことから市場への影響は小さいと考えている。
 当社としては、鉱山からの鉱石供給について2011年は前年比2.4%増、2012年は同8.4%増、銅需給バランスについて2011年は12万tの供給不足から2012年は19万tの供給過剰に転じ、銅価格は2011年の9,145 US$/tから8,710 US$/tに下落すると予想している。

(2) NAFTA諸国における銅スクラップのリサイクル/
 Nathan Associates社 Robert J. Damuth氏
 当社では、ICSGからの委託を受け、1,561プラントに及ぶ銅スクラップ業者の調査(中国を除く。)を行っている。今回の調査では、北米では米国に446プラント、カナダに87プラント、メキシコに1プラントをそれぞれ調査対象としている。
 北米の事業者の特徴として、特に米国では業界の寡占化が進み、トップ5社が全体の71%の事業所を所有し、全体の33%の事業所は外国法人が所有している点が挙げられる。また、近年ではスクラップ業者のM&Aも盛んである。全米には220台の裁断機があると言われているが、業界大手のDavid J. Joseph社は、裁断機15台を有し、13州にまたがり61施設で操業している。米国では1,500万tの製品が裁断され、1,200万tがリサイクルされている。リサイクルされたもののうち3%(36万t)以上が銅地金や銅合金である。
 各事業者へのヒアリングからは、最近のスクラップ業者の問題が浮かび上がっている。従来はスクラップ価格が年間5%程度しか変動しなかったが、現在は1週間や1日で5%の価格変動が起こる。これまでスクラップ業者は6か月先までの需要を見込んでスクラップ在庫を抱えていたが、こうした銅価格の乱高下に伴い、スクラップ在庫を維持する事業者のリスクが非常に大きくなっている。最近では、スクラップ市場にファンド等も参入しており、事業者も日々のスクラップ価格への対応を主に行っており、継続的な事業の障害となっている。
 このようなスクラップ業者の動向調査の実施は、包括的な調査があまり行われていないことから意義がある。今後は、メキシコの業者の動向や古いスクラップに関する状況等についての調査も行うことが必要である。

(3) トルコの銅産業/ICSG事務局 Susanna Keung女史
 トルコは欧州と中東の間に位置し、地政学的に戦略的な拠点である。同国の銅鉱石生産は1980年以降平均年率4.4%増で推移し、年間生産量は10万t前後で推移している。銅製錬所は、2011年Q1に生産能力7万5,000 tのEtibakirが稼働し全体で年間20万tの生産能力まで拡大してきている。一方、銅消費は、特に自動車や電化製品用の電線・ケーブル等に使われる銅半製品産業が発達してきており、1990年以降平均年率6.7%増の37万9,000 tまで拡大している。このため、同国では銅地金をロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、ブルガリア、チリなどから輸入しており、輸入量が増加傾向にある。銅製品の輸出先としては、イタリア、イスラエルに加えて近年ドイツ向けの輸出が拡大している。今後ともトルコの銅産業は、銅半製品加工を中心に発展することが予想される。

3. 産業アドバイザリーパネル(IAP(Industry Advisery Panel):2011年10月6日(木)@ロンドン)

 今回のIAPには、欧米の銅産業界を始め豪州、チリ、インド、中国から事業者が参加し、今後のICSGの活動について議論を行った。
 具体的には、ICSG事務局作成のFact BookのWeb化、2011年に実施中の中国のスクラップや半製品に関する調査など、ICSGが実施する調査の方法や類似の調査との関係整理などについて、出席した業界関係者から事務局に要望が寄せられた。また、一般的に銅の資源不足について情報が十分に浸透していないことから、ICSGとして銅資源不足について一層情報提供を行うべきとの指摘がなされ、次回春季会合のトピックとして取り上げることを検討する旨事務局が引き取った。

おわりに

 今回のICSGは、欧州発の金融危機のおそれから銅価格が会合2週間前の約9,000 US$/tから7,000 US$/t近くまで20%以上急落したタイミングで開催された。銅価格の急落について市場関係者との会話で話題となったのは、前回の世界金融危機を救った中国の動向とともに中長期的な鉱山投資の冷え込みへの懸念であった。
 リーマンショック時には、中国の急激な在庫積み増しや投機資金の流入により急速に価格が回復した銅市場であったが、今回は同様の役割を果たすプレーヤーが市場に現れるかは不透明である(中国は在庫を放出していると言われている。)。こうした中、欧州政府は米国同様、金融市場の構造的な問題を是正するため金融商品市場指令(MiFID)改正案を議会に提出しており、投機的な資金によるコモディティ価格の乱高下の抑制に期待が寄せられる一方で、金融市場への参入コストが拡大することも懸念されている。
 一方、近年の金属価格の高騰により資源国では資源ナショナリズム強化が顕在化する中で、欧米の景気低迷、中国等新興国の景気減速に加え、昨今の金属価格の急落が鉱山への投資資金の縮小につながる可能性は大きく、金属鉱物の中長期的な開発資金が絶対的に不足するという懸念が生まれてきている。
 中長期的な資金が不可欠な鉱山開発は、資源メジャー、資源国の国営鉱山会社、中小の鉱山会社が市場で資金調達を行い、大きな役割を担ってきた。将来的には銅などの鉱物資源の不足は明らかになっており、金属市場に不透明感が高まる中で、資源確保のための中長期なリスクをどのように負担していくかが改めて問われている。
 引き続きJOGMECロンドン事務所としては、銅市場、鉱山投資の動向に注視しつつ、情報収集及び発信に努めてまいりたいと考えている。

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