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カナダの重希土類に富むプロジェクト:Strange Lake鉱床

供給不足が懸念されているレアアースであるが、軽希土類については豪州Mt. Weld鉱山の開発や米国Mt. Pass鉱山の操業再開準備等、対応策が進んでいるところである。一方で、世間の関心は重希土類、特にジスプロシウム、テルビウムを如何に確保するかに移っている。 |
1. Strange Lakeプロジェクト概要
1-1. 位置・アクセス
Strange Lake鉱床は、カナダ北東部ケベック州とニューファンドランド・ラブラドル州の州境に位置する。気候はラブラドル沖合のラブラドル寒流の影響で非常に寒冷であり、樹木は疎らで湖沼が多い。
最も近い集落は、鉱床の東約150 kmのラブラドルの海岸に位置するNain(人口1,034人, 2006年国勢調査)であり、鉱床の東約130 kmにはValeが操業しているVoisey’s Bayニッケル・銅鉱山が位置しているが、概してインフラ整備が乏しい地域である。本地域へは、ラブラドル州Happy Valley – Goose Bay、もしくはケベック州Scheffervilleから空路にてアクセスする以外に現状では方法はない。なお、一般的なチャーター機でこれらの町からサイトまではおよそ1.5時間を要する。

図1. Strange Lakeプロジェクト位置図

図 2. Strange Lake鉱床分布域全景(出典:Quest社HP)
1-2. 発見の経緯
鉱床はメインゾーンとBゾーンに大別される。カナダ政府による調査のフォローアップとして、1979年から1984年にかけてIron Ore Company of Canada(IOC)が本地域において広域調査を実施、Strange Lake鉱床の母岩となっているStrange Lake Alkalic Complexを発見し、本岩体に対して1984年までに合計373孔のボーリング調査を実施した。この調査でIOCは、Aゾーンと称するレアアースの鉱徴地を発見している(のちにメインゾーンと改称)。過去の文献等でStrange Lake鉱床と呼んでいるものは、ほぼ全てこのメインゾーンを指す。なお、メインゾーンは州境上に位置しているが、鉱体の主要部はラブラドル側である。一方で、Bゾーン付近はIOCによる地化学探査、基盤地質マッピング調査の際に抽出されたアノマリの一つにすぎず、Bゾーン付近を対象とする調査はなされていなかった。
IOCは1983年にメインゾーンの選鉱試験を実施し、1984~1985年にはZrO2, Y2O3, Nb2O5を対象とし、露天採掘、鉱石処理量250,000 t/y、Scheffervilleでの鉱石処理を想定したプレFSを完成させた。しかし、当時、イットリウムの需要見通しが不確かなこともあり、実際の建設・操業には至らなかった。
2006年、Freewest Resources Canada社は、ウラン探鉱を目的に本地域において合計220,813 haの鉱区群を取得し、George Riverプロジェクトと称して調査を実施した。その後Freewest社は、2007年に当該プロジェクトをQuest Uranium Corp.としてスピンアウトさせた会社に移譲し、2008年から現在までQuest Uranium社(その後、Quest Rare Minerals社と改称)がStrange Lake鉱床の調査を実施している。Quest社は、2009年8月にBゾーンで重希土類に富むレアアース鉱徴地を捕捉し、その後、Bゾーンにおいて本格的な調査を実施している。
1-3. 先住民関係
本地域のラブラドル側は、イヌイットの自治政府であるNunatsiavut自治政府管轄のLabrador Inuit Settlement Areaに包含され、水利用や天然資源の開発行為に対してはNunatsiavut自治政府と交渉し、場合に応じて利益の還元等を規定したImpact and Benefit Agreement(IBA)等を締結するなどが求められる。さらにメインゾーンのラブラドル側は、Nunatsiavut自治政府が地表権とともに地下鉱物の権利を25%所有するLabrador Inuit Land(LIL)に包含されている。メインゾーンを開発する場合、IBA締結による雇用等地元への還元も必要とされるとともに、Nunatsiavut自治政府は鉱物資源から得た利益の25%を享受する。
LILに重複する形で、1998年からは地下資源の探鉱・開発が凍結されているExempt Mineral Land(EML)に指定されている。Exempt Mineral Landは、ニューファンドランド・ラブラドル鉱業法の付則(Mineral Regulations)に規定されている。
ケベック州側は、クリー族とイヌイット及び政府との間で締結されたJames Bay and Northern Quebec Agreement、ナスカピ族と政府との間で締結されたNortheastern Quebec Agreementにおいて、これら先住民の狩猟・採取の権利を認めたカテゴリーIIIの土地に該当するため、鉱物資源の開発に当たっては先住民を交えた協議が必要とされる。

図3. Quest社Strange Lake鉱区(一部)及びLabrador Inuit Land, Exempt Mineral Land
1-4. 地質・鉱床モデル
本地域は、前期原生代のSoutheastern Churchill地質区に位置している。本地区は、始生代のNainクラトンとSuperiorクラトン及びその間に挟在した始生代地塊の3者の衝突により形成したと考えられている。本地域には、プレート内花崗岩及びA-type花崗岩の特徴を持つ1,350~1,150Ma頃の火成活動が認められ、その一つのMistastinバソリスは、本地域でのテクトニクス活動の後に貫入したものであり、モンゾニ岩質、花崗岩質、花崗閃緑岩質、ラパキビ型花崗岩質の特徴を有する。
Mistastinバソリス北東縁にStrange Lake Alkalic Complex(SLAC)と称される過アルカリ花崗岩が貫入しており、このSLACにレアアースやHFS元素1が相対的に濃集している。岩体は、gittinsite, elpidite, pyrochlore, zircon, clay, sphene, astrophyllite, narsarsukite, fluoriteで特徴づけられるexotic鉱物の量に応じて、exotic鉱物の多い花崗岩(exotic rich granite)と少ない花崗岩(exotic poor granite)、さらにペグマタイト質過アルカリ花崗岩の3つの岩相に分けられる。岩石学的には、exotic rich graniteはサブソルバス花崗岩2、exotic poor graniteはハイパーソルバス花崗岩3であり、レアアースやHFS元素はサブソルバス花崗岩とペグマタイト質過アルカリ花崗岩に濃集している。ペグマタイト質過アルカリ花崗岩は、アプライトやペグマタイトの岩脈として、サブソルバス花崗岩に貫入している。

図4. Strange Lake鉱床地質図(出典:Quest社2011年5月NI43-101レポート)
1 HFS元素:岩石‐メルト間の元素分配の際にメルトに濃集しやすい元素のうち、イオン価の大きい元素
2 サブソルバス花崗岩:H2O分圧の高い条件で結晶化した花崗岩で、パーサイト組織を示す長石を含む
3 ハイパーソルバス花崗岩:H2O分圧の低い条件で結晶化した花崗岩で、長石はK長石とCa-Na長石の2種類が認められる
Bゾーンでは、Gittinsiteを含むサブソルバス花崗岩、それに貫入するペグマタイト、西方には蛍石角礫岩が分布する。全体的に赤鉄鉱‐エジル輝石変質が認められ、変質が発達する所ではレアアース品位が高くなり、かつ重希土類に富むとされる。ペグマタイトで全酸化希土(TREO)品位は高く、周囲の花崗岩もTREO品位として0.7%以上を示すため、双方とも採掘対象になるとのことである。また、ペグマタイトと花崗岩のレアアース鉱物組成はほぼ同じであるため、鉱石処理も同じ工程で可能とのことである。ペグマタイトは浅所で水平に貫入するため、露天採掘が可能である。

図5. Bゾーンのボーリングコア
メインゾーンでは、ペグマタイト、アプライトでTREO品位として1~2%が確認されるものの、花崗岩ではTREO品位は最大でも0.5%程度であるため、花崗岩は採掘対象とはならない。Bゾーンと同様に赤鉄鉱‐エジル輝石変質を受けているが、その変質の度合いは弱い。ペグマタイトは深部で捕捉されている。
Quest社のNI43-101レポートによる鉱床成因モデルとしては、SLACのサブソルバス花崗岩の結晶化の過程で放出されたフッ素に富む熱水がレアアースやHFS元素に作用、F錯体の形でこれらの元素を運搬し、石灰珪質岩に関連したカルシウムに富む天水がREE-Fを含む熱水と作用してCaFを沈殿、Fを失ったREEがその周囲に沈殿したものとしている。熱水の流路としての蛍石角礫岩が富鉱部の形成に重要な役割を果たしており、Bゾーンでは、蛍石角礫から派生する断層に沿って熱水が通過し、周囲の岩石に赤鉄鉱‐エジル輝石変質が発達、レアアースが沈殿する鉱化作用が複数回及んだことで富鉱部が形成されたと考えられている。一方メインゾーンでは、熱水の主要流路から遠かったため、変質がBゾーンと比較して弱く、花崗岩中のレアアース品位を十分に高めるには至らなかったと考えられている。

図6. Strange Lake鉱床Bゾーンの模式断面図
(出典:Quest社プレゼンテーション, 2011年11月)
表1. Strange Lake鉱床Bゾーンの鉱石鉱物
鉱物 | 化学式 |
Gerenite | (Ca,Na)2(Y,REE)3Si6O18 |
Kainosite | (Ca, Na)2(Y, REE)3Si6O18•(H2O) |
Gadolinite | (Ce,La,Nd,Y)2Fe++Be2Si2O10 |
Zircon | ZrSiO4 |
Gittinsite | CaZrSi2O7 |
Pyrochlore | (Ce, Na, Ca)2(Nb)2O6(OH,F) |
Bastnäesite | Ce,(CO3)F |
Monazite | (Ce, La, Nd)PO4 |
Allanite | Ca(REE,Ca)Al2Fe2(SiO4)(Si2O7)O(OH) |
Keiviite | (Y)Y1.55Gd0.15Dy0.15Si2O7 |
Parisite | Ca(Nd, Ce, La)2(CO3)3F2 |
Y-LREE Silicate | To be determined |
Ca-LREE-Silicate | To be determined |
Fe-Ca-Ti-Zr-Silicate | To be determined |
Ca-Yb-Lu-Silicate | To be determined |
Y-Yb-Silicate | To be determined |
Fe-Nb-Ta-Pb-Ti-Oxide | To be determined |
(出典:Quest社2011年5月25日付ニュース)

図7. Strange Lake鉱床の生成モデル
1-5. 資源量
2011年5月25日付NI43-101レポートでは、Strange Lake鉱床Bゾーンの資源量が算出されている。カットオフ品位としてTREO 0.579%を採用した場合の概測資源量は1億4,000万t(平均TREO品位0.933%)、予測資源量は9,000万t(平均TREO品位0.882%)となっている。鉱体そのものは北側に連続している可能性があり、資源量は今後の探鉱次第でさらに増大する余地がある。本鉱床の特徴として、軽希土類と比較して重希土類の占める割合が約40%と高く、ジスプロシウムでは平均品位0.034%となることが挙げられる。
表2. Bゾーンの資源量
資源量 (千t) |
ZrO2 % |
Nb2O5 % |
HfO2 % |
BeO % |
U3O8 % |
THO2 % |
TREO % |
HREO % |
LREO % |
HREO:TREO Ratio |
概測資源量 | ||||||||||
140,259 | 1.93 | 0.18 | 0.05 | 0.08 | 0.01 | 0.03 | 0.933 | 0.371 | 0.562 | 40% |
予測資源量 | ||||||||||
89,629 | 1.83 | 0.16 | 0.05 | 0.06 | 0.01 | 0.03 | 0.882 | 0.334 | 0.548 | 38% |
(出典:Quest社2011年5月NI43-101レポート)
表3. Bゾーンの資源量とレアアース品位
資源量 (千t) |
La2O3 % |
Ce2O3 % |
Pr2O3 % |
Nd2O3 % |
Sm2O3 % |
Eu2O3 % |
Gd2O3 % |
Tb2O3 % |
|
概測 | 140,259 | 0.126 | 0.269 | 0.03 | 0.112 | 0.025 | 0.001 | 0.025 | 0.005 |
予測 | 89,629 | 0.125 | 0.261 | 0.029 | 0.109 | 0.024 | 0.001 | 0.023 | 0.005 |
資源量 (千t) |
Dy2O3 % |
Ho2O3 % |
Er2O3 % |
Tm2O3 % |
Yb2O3 % |
Lu2O3 % |
Y2O3 % |
TREO % |
|
概測 | 140,259 | 0.034 | 0.008 | 0.024 | 0.004 | 0.025 | 0.004 | 0.241 | 0.933 |
予測 | 89,629 | 0.031 | 0.007 | 0.022 | 0.003 | 0.022 | 0.003 | 0.216 | 0.882 |
(出典:Quest社2011年5月NI43-101レポート)

図8. 各レアアース鉱床におけるジスプロシウム量(出典:各社HP等)
一方、メインゾーンの資源量は、1985年のIOCによるプレFSでは5,700万t、平均品位はZrO2 2.93%,Y2O3 0.38%,Nb2O5 0.31%,BeO 0.08%, TREO 0.54%と算出されている(NI43-101非準拠)。
1-6. 予備的経済性評価
2010年9月にBゾーンを対象とした予備的経済性評価(Preliminary Economic Assessment, PEA)の結果が出されている。
PEAによると、鉱石処理量を1日当たり4,000 t、マインライフ25年として、Strange Lakeプロジェクトで想定される起業費は、後述するスラリーによるパイプライン輸送の場合で5億6,340万C$となり、Thor Lakeプロジェクトの起業費7億2,875万C$(建設時コストのみ、Avalon社2010年7月29日付NI43-101レポート)と比較して少額である。
Bゾーン鉱床から生産されるレアアース量はマインライフ全体で合計30万tとなるが、ニオブ、ジルコンも生産物として考慮すると単純合計で約90万t強が見込まれる。これら副産物の価値も考慮すると、Bゾーンでの生産物1 kgあたりのキャッシュコストは3.68 US$となり、Thor Lakeプロジェクトのキャッシュコスト5.93 US$/kg(生産物TREO, Nb, Ta, Zr)と比較しても有利な数字である。
TREO価格を21.94 US$/kg、Nb2O5価格を45.00 US$/kg、ZrO2価格を3.77 US$/kgと仮定した場合、ペイバック期間4年、割引率10%の税引き前NPV18億2570万C$、IRR36.36%との結果となっている。
ただし、現時点でのStrange Lakeプロジェクトの経済性評価精度はあくまで予備的なものであり、Thor Lakeプロジェクトの精度までには至っていないことに注意する必要がある。
表4. 予備的経済性評価(PEA)で用いられたパラメータ
Mining Life | 25 Years | |
Mining | Ore Mined | 33,929,000 t |
Strip Ratio | 0.4 | |
Ore Grades | TREO | 1.16% |
Nb2O5 | 0.25% | |
ZrO2 | 2.07% | |
Throughput | 4,000 t/d | |
Net TREO Recovery | 76.80% | |
Metal Oxides Produced | TREO | 302,527.25 t |
Nb2O5 | 64,622.53 t | |
ZrO2 | 539,129.10 t |
(出典:Quest社PEA、2010年9月27日付ニュース)
表5. 予備的経済性評価(PEA)結果
Operating Costs | C$101.94 /t-ore milled | |
Cash Cost | US$3.68/kg | |
Capital Costs | Direct Costs | C$397,399,171.00 |
Indirect Costs | C$165,971,767.88 | |
Total Cost | C$563,370,938.88 | |
Payback Period | 4 Years | |
Pre-tax NPV @ 10% | C$1,825,703,831.00 | |
IRR | 36.36% |
(出典:Quest社PEA、2010年9月27日付ニュース)
2. 開発可能性の鍵となる要素
本プロジェクトの開発可能性は、鉱石処理とインフラが鍵と考えられる。
2-1. 鉱石処理
現在、Hazen Research社がPhase 2の浸出試験を実施している。基本的なフローとしては、鉱石を全量破砕、磨鉱し、硫酸にて溶出することを想定している。現時点のフローは2段階で構成され、まず磨鉱した鉱石(22μmサイズが80%)を硫酸で焼成(220℃で1時間)してケイ酸塩鉱物を分解し、その後硫酸で溶出(80℃で2時間)するとしている。高品位鉱石をサンプルとして実施した試験では、焼成工程での硫酸消費量は鉱石1 t当たり150~500 kg、溶出工程では鉱石1 t当たり100 kgとなっている。Y+HREEの回収率が最も高い場合で88%の結果が得られており、その時の硫酸消費量は焼成工程で500 kg/t、溶出工程で100 kg/tの合計600 kg/tとのことである。低品位及び変質した鉱石では、Y+HREEの回収率が68~78%、LREEの回収率が86~93%で、硫酸消費量は焼成工程170 kg/t、溶出工程180 kg/tとなっている。現在、安定的な回収率が達成できるよう、最適条件を試験している。
山元でレアアース精鉱まで生産する場合は硫酸の調達が必要となるが、Quest社は、硫黄の形で鉱山まで運搬、山元で硫酸を生成することも選択肢の一つとしている。
レアアース各元素への分離については、ケベック州政府が2011年5月に発表したPlan Nord(カレント・トピックス11-42号参照)による研究開発支援を受けることを視野に入れている。ケベック州は、低廉な電力コストを武器に電気自動車産業の招致に積極的であり、サプライチェーンの最上流に位置するレアアース関連産業を支援することにも積極的である。これらを背景に現在Quest社は、ケベック州内でPlan Nordの支援を受けた分離プラント研究開発に向けて関係省庁と協議を重ねているとのことである。
2-2. インフラ
前述の通り、本地域には電力、道路を始め、インフラは皆無である。IOCが1985年に作成したメインゾーンのプレFSでは、当時Voisey’s Bay鉱山が存在していなかったこともあり、ケベック州Scheffervilleまでの道路を360 km建設することとしていた。
2010年のPEAでは、山元で一次破砕の後、High Pressure Grinding Roll (HPGR)により固形分45%のスラリーにし、これをパイプラインでラブラドル側海岸まで輸送、海岸で鉱石処理を行うというものであった。上記の起業費、操業費はその設計をベースとして算出されたものである。
現在、Quest社では、山元で鉱石処理を行い混合レアアース精鉱の形で、東のVoisey’s Bay鉱山付近までエスカー4を利用した道路(約130 km)によりトラック輸送する案を有力としている。この場合、道路建設に係る投資額は約1億3,000万C$との概算が得られている。ラブラドル側への道路敷設では、Nunatsiavut自治政府からのさらなる協力が必要となるが、Quest社では道路建設に係る雇用等、地元への還元が期待できることから、大きな問題にはならないとの見解である。
一方で、Scheffervilleまでの道路または鉄道敷設も代替案として考えられ、ケベック州政府Plan Nordによるインフラ整備支援で実施される予定のSchefferville – Kuujjuaq間道路/鉄道建設計画の経済性評価で良好との結果が出た場合、建設ルートにもよるが、本プロジェクトでのインフラ計画に影響を及ぼす可能性も否定できない。
ラブラドル側の港湾施設は、Voisey’s Bay鉱山開発時に建設されたものである。本地域の気候的な問題により、一般的には7~10月に利用が限定される(Voisey’s Bay鉱山からの鉱石は5~12月にかけて出荷)。
電力については、PEAではディーゼル発電を想定している。水力が豊富なことから現地での小型水力発電も考えられるが、可能性は低いようである。現在、Quest社では、Plan Nord支援によるScheffervilleからの電力線敷設を検討しており、そのための協議をケベック州政府と行っているとのことである。この場合、Quest社は電力線敷設費用の一部を負担することになるが、電力料金にこれらの費用を上乗せした額を支払う形になる模様であり、低廉なケベック州の電気料金を考え合わせると、十分なコスト競争力を維持したまま電力を利用できることが想定される。
4 エスカー:停滞氷河の底のトンネル内を流れる融氷流水が運搬・堆積した砂礫がつくる堤防上の地形(地学辞典より)
3. 許認可・今後の見通し
現時点では、開発で必要となる環境許認可類は取得されていない。しかし、Quest社によると既に環境ベースライン調査には着手しており、2011年末~2012年にかけて許認可を申請する予定とのことである。
今後、2012年4~5月頃にかけてプレFSを完成させ、操業開始は2015~2016年を見込んでいる。
まとめ
> これまでStrange Lake鉱床はレアアース鉱物組成が複雑であり、遠隔地にありかつインフラ整備が乏しく、近くのVoisey’s Bay鉱山の操業に至るまでのラブラドル州政府・地元先住民との交渉過程を見ても、具体的な投資対象案件として検討俎上に載ることは少なかった。しかし、Quest社によるBゾーン鉱体の発見及びケベック州政府によるPlan Nordにより、これまでのStrange Lake鉱床の印象を再考しなければならなくなったと言える。
Strange Lake鉱床の重希土資源量は他プロジェクトと比較して大きく、市場アナリストらによるレアアース需給予測でも、本プロジェクトが操業開始する2015年頃までジスプロシウムは供給不足のまま推移するものの、本プロジェクト操業後は供給不足が緩和するとの見通しを示しており、本鉱床の重希土類の鉱量が如何に市場に大きな影響を与えるかが示されている。
今後のレアアース需給を判断する上でも、本プロジェクトの成否は大きな鍵であり、要注視案件である。JOGMECバンクーバー事務所は、引き続き情報収集に努めて参りたい。
付表(図8. 出典一覧)
プロジェクト名 | 会社名 | 鉱量・品位出典 | レアアース品位分布出典 | カットオフ |
Strange Lake B-Zone | Quest Rare Minerals Ltd. | NI43-101 Report, September 24, 2010 | 0.579% TREO | |
Mt. Pass | Molycorp Inc. | 2010 Annual Report | US DOE Critical Materials Strategy | 5% TREO |
Mt. Weld | Lynas Corp. | Lynas社HP | US DOE Critical Materials Strategy | 2.5% TREO |
Thor Lake | Avalon Rare Metals Inc. | News Release, January 27, 2011 | C$260/t | |
Dubbo | Alkane Resources Ltd. | Alkane社HP | Company Presentation Nov. 2011 | – |
Kvanefjeld | Greenland Minerals and Energy Ltd. | Pre-FS Report, December 2009 | Company Presentation April 2011 | 150ppm U3O3 |
Zandkopsdrift | Frontier Rare Earths Ltd. | NI43-101 Report, October 29, 2010 | 1% TREO | |
Kipawa | Matamec Exploration Inc. | News Release, June 30, 2011 | 0.5% TREO | |
Kutessay II | Stans Energy Corp. | NI43-101 Report, March 21, 2011 | 0.1% TREO | |
Hoidas Lake | Great Western Minerals Group Ltd. | NI43-101 Report, November 20, 2009 | US DOE Critical Materials Strategy | 1.5% TREE |
Nolans Bore | Arafura Resources Ltd. | Arafura社HP | 1% TREE | |
Eco Ridge | Pele Mountain Resources Inc. | NI43-101 Report, August 19, 2011 | 0.028% U3O8 | |
Bear Lodge | Rare Element Resources Ltd. | NI43-101 Report, November 2010 | 1.5% TREO | |
Steenkampskraal | Great Western Minerals Group Ltd. | (Historical reserve) Scoping Report, January 2011 | – | |
Norra Karr | Tasman Metals Ltd. | NI43-101 Report, January 20, 2011 | 0.4% TREO | |
Bokan Mountain | Ucore Rare Metals Inc. | NI43-101 Report, April 21, 2011 | 0.4% TREO | |
Sarfartoq | Hudson Resources Inc. | NI43-101 Report, January 4, 2011 | 0.8% TREO |

