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報告書&レポート

2011年12月22日 ロンドン事務所 北野由佳
2011年70号

Global Mining Finance:New Frontiers会議参加報告

 ロンドンで2011年11月2日に開催された、Global Commodities Media社主催の「Global Mining Finance: New Frontiers Conference 2011」に参加した。今回の会議は鉱業の新たな発展が期待される未開発地域(New Frontiers;ニューフロンティア)をテーマにして、欧州(トルコ、クロアチア)、アフリカ(エチオピア、ジブチ、ジンバブエ)及びアジア(北朝鮮、インド)の3地域に焦点をあてた講演が行われた。
 なお、講演の一部は、Global Commodities Media社からインターネット上に動画で掲載されているので参照していただきたい。
 講演動画のURL:
(http://www.youtube.com/user/GlobalMiningFinance#p/c/831A74D4B47A89B4)

1. 基調講演『ニューフロンティアにおける鉱業の課題:プロジェクトのリスクアセスメント』

(Control Risks社、Sorana Parvulescu氏)

 鉱業未開の地域(以下、ニューフロンティア)で探鉱及び採掘活動を行うに当たって、留意すべき重要なリスクがいくつかある。リスクが顕在化すると、企業の損益に影響が出るだけではなく、企業の評判にも悪影響を及ぼす可能性がある。鉱業に関係するリスクは、①政治的リスク(Political risk)、②運営上でのリスク(Operational risk)、③安全面でのリスク(Security risk)、④規範面でのリスク(Integrity risk)の4つに分類することができる。各リスクの詳細は以下のとおりである:

① 政治的リスク

 ・政情不安:特に中東で顕著である。クーデターといった政治体制の大きな変化や総選挙が要因である。

 ・法規制の不確実性:ニューフロンティアにおける鉱業関連規則は頻繁に変更される傾向がある。また資源国の政府は鉱物資源からの歳入を増やすために、当初の鉱業契約の内容を後に再交渉により変更する場合がある。

 ・鉱業権の収用:鉱業権が資源国政府によって収用される事例は少ないながらも未だ存在する。

② 運営上でのリスク

 ・インフラ整備:ニューフロンティアではインフラが整備されていなかったり、紛争が起こった地域ではインフラ整備が不十分であったりする可能性が高い。インフラ整備の問題は、鉱業プロジェクトの遅延の要因になる可能性がある。

 ・煩雑な事務手続き:鉱業は厳しく規制されているため、鉱業権の取得等に関して形式的で面倒な手続きを行わなければならない場合がある。

 ・人材確保:ニューフロンティアでは鉱業の歴史が浅く、技能のある鉱業労働者を確保することが困難であり、また、資源国政府や地方政府は鉱山会社に対して地元住民の雇用を求める場合がある。

 ・労働組合:鉱業が根付いた資源国では、鉱業労働組合が存在しており、強い政治的影響力を持つ場合が多く、ニューフロンティアでも労働組合による操業リスクには留意する必要がある。

 ・土地の所有権:旧共産圏諸国では土地の実際の所有者が曖昧な場合がある。また鉱山会社が土地の所有権を獲得した場合でも、地域社会が強い所有意識を持ち続けることもある。

③ 安全面でのリスク

 ・犯罪:犯罪率の高い地域で鉱業プロジェクトを運営する場合は注意が必要である。

 ・武装集団:紛争が終わったばかりの地域では法の執行が行き届いておらず、武装集団が鉱物の密輸入に関わっている可能性がある。

 ・国家間及び国内での紛争:悪化した二国間関係や民族間での緊張状態が存在する場合は安全面でのリスクが高くなる。

 ・抗議活動:反政府抗議運動や特定の地域での鉱業に反対する抗議活動などは鉱業プロジェクトに影響を与える可能性がある。

 ・小規模採掘事業(artisanal mining):特にアフリカや南米で顕著である。鉱山会社が運営する鉱山に隣接して違法な小規模採掘事業が行われる場合がある。その際、小規模採掘事業者にどう対処するかが重要であり、必要以上に小規模採掘事業者と敵対すると、鉱山施設の破壊活動にも繋がりかねない。

④ 規範面でのリスク

 ・贈収賄:鉱業では資源国政府と長期にわたる交渉を行うため、贈収賄のリスクは高い。英国贈収賄防止法(UK Bribery Act)が2011年7月に施行されたように、贈収賄を取り締まる国際的な圧力が高まっている。

 ・地元でのパートナーシップ:パートナーシップの締結は贈収賄のリスクにつながる可能性がある。またパートナーシップを結ぶ相手をよく理解していないと、後々に問題が発覚し、企業の評判に悪影響を与える可能性がある。

 ・地域社会との関係:地域社会との問題を防ぐため、地域住民の要望や不満をよく理解し、友好な関係を築く必要がある。v ・人権問題:鉱山の警備員が地元住民に過剰な暴力を加えるといった事例があり、人権問題につながるリスクがある。鉱山会社は雇用した警備員をきちんと管理しなくてはならない。

 ・環境への影響:ニューフロンティアでは環境に対する意識が低いことがあるが、国際的な環境団体が激しい抗議を行う場合もあり、鉱業プロジェクトの遅延につながる可能性がある。

 以上のようなリスクを軽減するための第一段階として、リスクの内容を調査及び理解して、鉱業プロジェクトを実施する前に十分な事前準備を行う必要がある。第二段階では、特定したリスクの具体的なシナリオを想定したり、トレーニングを実施したりするとともに、リスク管理の戦略を構築することが重要である。第三段階では構築したリスク管理戦略を実行に移す。そして、最終段階では、常にリスクを監視して、状況に合わせリスク管理の体制を順応させることが必要となる。

2. 新欧州における鉱業

2-1. 講演『トルコでの金探鉱及び開発』

(Ariana Resources社、William Payne氏)

 Ariana Resources社(本社:ロンドン)はトルコで金探鉱及び開発を行っている探鉱ジュニア企業である。トルコは欧州最大の金産出国であり、数百万oz規模の金鉱床が存在する可能性もあるとされる。同社の旗艦プロジェクトは同国西部のRed Rabbit金プロジェクトで、JORC規程に基づく金の資源量は約44.8万oz(約13.9 t)である。2010年にはトルコの建設会社大手Proccea Construction社(本社:アンカラ)と50:50のジョイントベンチャー契約を締結し、Proccea Construction社がFS、環境影響評価、採掘許可の取得、土地の取得及び周辺地域でのさらなる探鉱活動に関わる費用の資金を提供することになっている。FS及び環境影響評価は2011年末までに完了予定で、2012年中旬に鉱山施設の建設を行い、2012年末までに生産を開始することを目標としている。
 また同社は2008年にトルコ北東部に位置するArdala銅・金プロジェクトに関し、European Goldfields社(本社:ロンドン)とJV契約(同社49%権益所有)を締結した。現在、European Goldfields社がオペレーターとしてボーリング調査を行っている。
 今後もAriana Resources社はトルコ西部を中心にグラスルーツの探鉱を行っていくとともに、トルコ国内での探鉱に関するJVの機会を継続的に模索し、利益性の高い鉱山開発を行っていく予定である。

2-2. 講演『東欧における鉱業法及びビジネス環境―クロアチア』

(Sego法律事務所、Slaven Sego氏)

 Sego法律事務所(本社:Zagreb、クロアチア)のSlaven Sego氏から、クロアチアの鉱業へ投資する際に投資家が犯しやすい誤りについての説明と、鉱業への投資を成功させるためのアドバイスがあった。まず、クロアチアの投資環境は、西欧とは異なり未だ発展途上であると言える。政治の面では、2011年12月に議会選挙が予定されており、政権交代の可能性が高い。また2013年にはEUへの加盟が完了することも期待されており、政治的に大きな変化が予想されている。クロアチアでは観光産業や国立公園事業が盛んであるが、鉱業に関しては魅力的な産業であるとの認識は低いと言える。国内では環境面から鉱業に対する懸念があったが、近年、鉱山会社は環境に配慮した運営を行うようになっており、環境面での懸念が減少していると考えられる。規制面では、鉱業権取得のためのプロセスの合理化を目的として、2009年に新鉱業法を施行したが、実際にはプロセスの簡素化が不十分であるとして、鉱業協会や法律事務所から批判の声があがった。クロアチアでは探鉱権及び採掘権は競争入札の形式がとられており、入札で取得された採掘権は最大40年間有効となる。
 クロアチアの鉱業に投資する投資家がよく犯す誤りの1つに、投資を行う以前の段階で十分なデュー・デリジェンスが行われておらず、結果として不適切な投資を行うということがある。投資を検討する段階で十分に調査を行う必要がある。2つ目の一般的な誤りは、投資を行う企業の専門家チーム内でうまく協調が取られておらず、それが投資に向けた調査の障害となるということである。専門家チームには法律面、技術面、マーケティング面、PR面での専門家がいるので、異なる専門知識を効率よく協調させる必要がある。3つ目は、投資家がクロアチアを法規制のゆるい辺境地であると勘違いしていたり、西欧諸国と同じレベルのビジネス環境を期待してクロアチアに来たりすることであり、投資家はクロアチアの環境に適応する必要がある。4つ目の誤りは、投資家が投資したプロジェクトから早々に手を引くことである。魅力的な報酬を得るためには出資したプロジェクトの成果が出るまで忍耐強く待つことが必要である。

3. アフリカにおける鉱業

3-1. 講演『東アフリカでの貴金属及びベースメタルの探鉱と開発』

(Stratex International社、David Hall氏)

 Stratex International社(本社:ロンドン、以下Stratex社)はエチオピア、ジブチ及びトルコを中心に、金及びベースメタルの探鉱を行っている。またAntofagasta Mineral社やAngloGold Ashanti社、Centerra社といった大手企業とJV契約を締結し、主要な探鉱プロジェクトの商業生産を目指している。
 豊富な鉱物資源があるとされるアラビア・ヌビア楯状地(Arabian Nubian Shield)の南端に位置するエチオピアでは、金、カリウムに加え亜鉛及び銅資源の存在が有望である。Stratex社は、同じくアラビア・ヌビア楯状地に位置するエジプト、スーダン、エリトリア、サウジアラビアに比べて、エチオピアにおける鉱業の投資環境がより良好と判断したため、エチオピアでの探鉱プロジェクトに専念している。エチオピアは法人税が35%、ロイヤルティが4~8%であることに加え、輸入は無関税であり、安定した透明性のある鉱業規制が存在している。また採掘プロジェクトにおける政府の所有権は5%となっている。
 現在Stratex社はトルコで8件、エチオピア及びジブチで8件の探鉱案件に関わっている。今回の講演で紹介があった主な探鉱プロジェクトは以下のとおり:

● Afar金探鉱プロジェクト
2,709 km2の範囲にわたる金探鉱プロジェクトで、エチオピアでの5鉱区の排他的探鉱権とジブチでの6鉱区の排他的探鉱権から構成されている。AngloGold Ashanti社が2年間で300万US$を出資することにより権益の51%を獲得する権利を持っている。AngloGold Ashanti社は既に100万US$を出資し、3,000 mのボーリング調査を完了させている。ボーリング調査の結果、Megenta鉱区で大規模な金鉱床が確認された。

● Shehagne金探鉱プロジェクト
 エチオピア北部のアラビア・ヌビア楯状地に位置する金探鉱プロジェクト。Stratex社は21か月間で35万US$を出資することで、Sheba Exploration社(本社:英Hereford)から権益の60%を獲得することになっている。鉱区内の河床の露頭でのサンプリング調査が完了している。

3-2. 講演『アフリカ南部での探鉱と開発―ジンバブエ』

(Mayfair Mining and Minerals社、Peter Ganya氏)

 Mayfair Mining and Minerals社(本社:Lindfield、英)はジンバブエ国内の金探鉱プロジェクトに特化した探鉱ジュニア企業である。今回の講演では、ジンバブエにおける鉱業の現状について以下のような説明があった:
 まずジンバブエは多様な鉱物が豊富に存在しており、地理的に恵まれている。特にダイヤモンドの資源量と品質は世界有数である。また鉱業に必要なインフラも比較的整備されており、道路や鉄道施設などは必要な修繕を行えば容易に利用できる。また識字率は92%と大変高く、労働者の技能は高い。また資産が安価であることも投資に適している。鉱業法は世界的に見ても大変よい内容である。現地化・経済権限拡大法の規定は鉱山の国営化ではない。現地資本を51%以上に引き上げるというのは目標値であり、ジンバブエ政府はコミュニティ・トラスト(Community Trust)という形で地域社会に鉱山プロジェクトの権益を売却することも容認している。鉱業への投資を考えているならばジンバブエは最適な投資先であり、今こそが好機である。

4. アジアにおける鉱業

4-1. 講演『最後のニューフロンティア―北朝鮮』

(RJH Trading社、Charles Swindon氏)

 RJH Trading社(本社:ロンドン)は、レアメタル及び非金属等の現物取引に特化した金属トレーダーで、代理店を通じ世界中にネットワーク網を巡らせている。今回の講演では北朝鮮(DPRK:Democratic People’s Republic of Korea)における鉱業の機会が紹介され、講演の冒頭では北朝鮮の代表として出席していた国家共同事業及び投資委員会(National Joint Venture & Investment Commission)の役員2名及び北朝鮮大使館の一等書記官の紹介があった。
 まず北朝鮮への投資に関しては、中国及びロシアといった大国に近いという有利な地理条件、優れた交通網、1,200万の労働人口、政府による外国投資の奨励政策という条件が整っており、北朝鮮政府は国内におけるビジネスを活性化させる意向があるとの説明があった。北朝鮮政府は北朝鮮経済の現代化のために必要な外国資本を積極的に受け入れることを政策の中心としている他、社会主義憲法の下で同国内における外国人の法的な権利と利益を保護することが保証されている。北朝鮮政府が特定している優先産業の中に鉱業が含まれているため、鉱業に関しては輸出入税が課税されず、法人税も低い。また北朝鮮政府は金属の輸出及び取引に関して、LMEの規則を遵守する意向であるとされている。同国での投資状況に関しては、最近、アジアの企業が磁鉄鉱のプロジェクトに20億US$を出資しており、2011年9月にはドイツの国有会社と五つ星ホテル及びレジャー施設の開発に関する9,000万US$の契約が結ばれた他、2011年7月にはコカ・コーラやKFCといった大手食品チェーンが国内に支店及び事務所を設置した。
 北朝鮮の鉱業に関しては、海州(Haeju)港から64 km離れた金川郡(Kumchon)で磁鉄鉱、金及び銀の探鉱プロジェクトが有望である。金川郡は交通の便がよく、4つの貯水池があることから鉱山の建設には適した場所である。1992年には、沙里院地質大学の探査チームが、金川郡プロジェクトの資源量を高品位磁鉄鉱(Fe 25~30%)が1億t、低品位磁鉄鉱(Fe 15%以上)が3億tと見積もっている。採掘は露天掘りが可能であるため、低コストで高い生産性が期待できる。
(なお、発表後の質疑においては、北朝鮮に投資をすること自体が現実的ではないなどとの厳しい意見が相次いでおり、上記発表内容については十分に精査する必要があると考える。)

4-2. 講演『インドでの探鉱と開発』

(Pebble Creek Mining社、Andrew Nevin氏)

 Pebble Creek Mining社(本社:加New Westminster)は、インドに特化した探鉱及び鉱山開発事業を行っている。講演ではインドの鉱業の概要及び同社の主要プロジェクトの説明があった。
 インドのGDPは対前年比7~9%で増加しており、インド経済は高成長を続けている。インドは既に鉄鉱石、一般炭(steam coal)、ボーキサイトといった比較的探鉱が容易な鉱物の主要な生産国になっているが、金、銅、銀、鉛、亜鉛、ニッケル、白金族金属、タングステン、モリブデン、ダイヤモンドといった発見が困難な鉱物に関しては十分な探鉱が行われていない。これは、1947年から1994年まで、インド政府が探鉱と採掘を独占し、十分な探鉱活動に資金を提供できなかったためである。まだ未開発の資源は、アフリカや豪州と同程度賦存するとも考えられる。近年、インド政府は、探鉱、開発及び採掘における外国投資や技術移転の促進等を柱とした国家鉱業政策2008(National Mineral Policy 2008)を決定し、概査許可の非独占化、ライセンス付与等の手続きの簡素化を実施するなど鉱業分野における規制緩和を続けており、2011年9月には新鉱山鉱物(開発規制)法案が内閣の承認を受けた。銅に関しては、インドの鉱山生産量は3.5万t/年のみで消費量は約100万t/年であるが、インドで中流階級層が成長するにつれ国民一人当たりの銅使用量が拡大すると考えられるため、インドの銅市場の今後の成長が期待される。
 Pebble Creek Mining社の主要プロジェクトは、インド北部、ネパールとの国境から3 kmに位置するAskotプロジェクトで、1968年から1988年にかけて政府機関及び国連開発計画(UNDP)が57孔のボーリング調査を実施した後、同社が2000年に同プロジェクトを獲得し、2006~2007年に22孔のボーリング調査を行った。同プロジェクトの概則資源量は186万tで、品位は銅が2.62%、亜鉛が5.8%、鉛が3.83%である。鉱山建設及び商業生産開始は2013年を目標にしている。

5. 所感

 今回のセミナーは講演者自らが関与する「新たな未開地」について鉱業及び外国投資の状況を紹介するという形式で行われた。トルコやエチオピア、インドに関する講演の後には参加者から鉱業権取得のプロセスやプロジェクトに関する質問が積極的に行われた。それとは対照的に、ジンバブエ及び北朝鮮の講演に対しては、現政権下での投資は現実的ではないとの厳しいコメントが参加者から上がっていた。こうした地政学的リスクが高いと言われる地域の情報が、ビジネスと割り切った形で提供されるのもロンドンならではないかと感じた。一方で、新たな未開地と言われる地域の国々の中にも投資環境には明らかな格差があることが伺える。
 JOGMECロンドン事務所としては、今回の講演の対象となった地域に限らず、資源量の潜在性が高いが探鉱がまだ十分に行われていない国々の鉱業への投資状況に引き続き注目していきたい。

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