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2011年下半期 ボツワナ鉱業の10大ニュース

2011年のボツワナ鉱業は、同国の基幹産業であるダイヤモンドに関して、9月にボツワナ政府とDe Beers社との契約更新、11月にAnglo American社によるDe Beers社株式取得の二つの大きな動きがあった。 |
1. Anglo American社によるDe Beers社のダイヤモンド権益取得
Anglo Americanは、2011年11月4日、Oppenheimer一族が保有するDe Beers社の株式40%を51億US$で取得することに合意したと発表した。これによってAnglo American社はDe Beers社株式の保有比率をそれまでの45%から85%に引き上げることになった(残り15%はボツワナ政府所有)。
今回の株式取得に関して、Anglo American社Cynthia Carroll社長は、「今回の権益取得は世界最大のダイヤモンド企業De Beers社の経営権を強固なものにする絶好の機会であり、ダイヤモンド産業が長期に亘り魅力なものとなることを示すとものである」と述べた。
De Beers社のOppenheimer氏は、「100年以上にわたるダイヤモンド・ビジネスの売却は難しい決断であったが、一族の利益にとって最善であると考えた。売却相手のAnglo American社は1926年から主要株主として同社に貢献してきた」と述べた。
De Beers社の株式15%を保有するボツワナ政府は、今回の権益移転に反対するものではないこと、先に合意した10年契約に何ら影響を与えるものではないとの考えを示し、Kedikilwe鉱物エネルギー水資源大臣は、「ボツワナ経済とって重要なダイヤモンド産業へのOppenheimer一族の貢献に感謝する。今後は、Anglo American社とDe Beers社の株主として、また、Debtswana社のパートナーとして良好な関係を構築したい」と述べた。
Oppenheimer一族のDe Beers社株式売却については、「同一族が南アフリカの政治的リスクを回避するために投資先の分散を図った」、「先のボツワナ政府とのダイヤモンドに関する10年契約が株式売却の原因」、「同一族はボツワナから得られるものがないと判断した。その兆しは数年前からカナダや豪州へ投資し始めたことからわかる」、「Anglo American社によるDe Beers社株式取得は、ボツワナのダイヤモンドへのDe Beers社の影響力の終焉を予感させるもので、ボツワナは同社に頼りすぎていた」、「ボツワナは世界第3位の鉱山会社Anglo American社をコントロール出来るのか(出来ない)」、「Anglo American社による合理化が始まるのではないか」などの見方もある。
表1. De Beers社の株主構成
De Beers社株主 | 株式取得前 | 株式取得後 |
The CHL Group(Oppenheimer一族) | 45% | 0% |
Anglo American plc社 | 40% | 85% |
ボツワナ政府 | 15%(1) | 15%(1) |
(1) ボツワナ政府はDe Beers社の株式を25%まで引上げる優先権を保有。
2. ボツワナ政府とDe Beers社とのダイヤモンド契約更新
ボツワナ政府とDe Beers社は、2011年9月16日、両者50:50権益比率のダイヤモンド合弁会社Debswana社に関する今後10年間の契約を更新した。従来、5年間であった契約期間が今回初めて10年間となった。契約は2012年1月1日より有効となる。
今回の契約により、ロンドンにあったDe Beers社のダイヤモンド原石(rough diamond)販売等部門Diamond Trading Company(DTC)を2013年末までにボツワナに移転する。これにより南アフリカ、ナミビア、カナダ等のDe Beers社の鉱山からダイヤモンド原石がボツワナに集積されることになり、100名以上の社員がロンドンからハボロネに異動してくることになる。更に、ボツワナで生産されるダイヤモンドの10%(5年後までには15%)をボツワナ政府が独自で販売することができることも合意されている。
Kedikilwe鉱物エネルギー水資源大臣は、「ボツワナ経済の将来を確かなものにする重要なステップであり、官民連携(PPP)の成功事例である。また、今回の契約によって、ボツワナがダイヤモンド市場へ直接アクセスする機会を得ることができた」として今回の契約に対する政府の考えを示した。
今回の契約更新は、ダイヤモンド産業の高付加価値化とボツワナを世界のダイヤモンド産業の中心(Diamond Hub)としたい同国政府の意向が強く反映されたものとみられている。
3. ボツワナ、ダイヤモンド生産額2010年に世界第1位に返り咲く
2010年の世界のダイヤモンド生産額は、第1位がボツワナの25.9億US$、第2位はロシアで23.8億US$、以下、カナダ、南アフリカ、アンゴラ、DRCコンゴ、ジンバブエ、豪州と続いている。生産量は、第1位がロシアの34百万CT(0.2 g/t)、第2位はボツワナで22百万CT、以下、DRCコンゴ、南アフリカ、カナダ、ジンバブエ、アンゴラと続く。
ボツワナ中央銀行(Bank of Botswana)によるとの2011年ダイヤモンド輸出額は、2011年Q2が対前期22%増の91億プラ(1プラ=約10円)と記録的な額に達し、2011年Q3が86.5億プラとなった。
2011年H1、De Beers社の利益(EBITDA)は、ダイヤモンド価格の35%上昇によって55%増加の12億US$に達した。ボツワナ政府とDe Beers社との50%/50%合弁会社のDebswana社の生産量は11.32百万CT、De Beers社の生産量の72%を占める。ボツワナ政府の収益は、Debswana社権益分、De Beers社の権益15%分の配当、税金、ロイヤルティ等を含めるとDebswana社収益の80%を占める。

図1. 国別ダイヤモンド生産量
(2010年、百万CT)

図2. 国別ダイヤモンド生産額
(2010年、10億US$)

図3. 国別ダイヤモンド消費量シェア(2010年;単位%)
4. 活発化するボツワナのベースメタル資源開発
ボツワナ西部Kalahariカッパーベルト地域では、豪州、カナダ系探査ジュニア企業によって堆積性銅・銀鉱床探査が活発に行われ、良好な結果が報告されている。
(1) Discovery Metals Ltd.社のBoseto銅・銀プロジェクト
① Boseto銅・銀プロジェクト
Bosetoは、Discovery Metals社(本社、豪州ブリスベン)が2006年から探鉱開発を進めているボツワナ西部からナミビアにかけて伸びるカラハリ・カッパーベルト(Kalahari Copperbelt)に位置する堆積性銅・銀鉱床プロジェクトである。Zeta, Plutus、Petraなどの鉱体があり、開発と並行して周辺探鉱も継続されている。2012年H1に生産開始を目指して建設中である。
表2. 埋蔵量・資源量(2010.12.20)
区分 | 鉱量 | 品位 | 対象 |
埋蔵量 (Proved, Probable) |
21.8百万t | 銅:1.4%, 銀:18.2g/t | Zeta, Plutus & Petra |
資源量 (Measured, Indicated, Inferred) |
111.5百万t | 銅:1.4%, 銀:17.6g/t | Zeta, Plutus & Petra |
表3. 生産計画(FS)
銅生産量 | 銀生産量 | 操業期間 | IRR |
36,400 t/年 | 1.1百万oz | 15年 | 32% |
② Mangoプロジェクト
Discovery Metals社は、Boseto鉱山周辺の探鉱を継続。ボーリング調査によって同鉱山の南Mango地区で新たな堆積性銅・銀鉱化作用を捕捉した(コア幅4.4 m, Cu 3.2%・Ag 561g/t、コア幅6m,・Cu 1.0%・Ag 153g/t)。鉱化作用は走向方向20㎞にわたり連続する可能性がある。
(2) Hana Mining Ltd.社のGhanzi銅・銀プロジェクト
Hana Mining Ltd.社(本社バンクーバー)は、ボツワナ西部に同社が権益70%を保有するGhanzi鉱区(2,149㎞2)において勢力的に堆積性銅・銀鉱床の探査を実施している。2011年は総延長40,000 mのボーリング調査(Infill drilling)を実施、11月中旬までに291孔、37,500 mを完了し、Banana Zone地区でコア幅4.0m・Cu 2.35%・Ag 30.0g/tなど良好な結果を得ている。2012年Q2までに予備評価が完了する予定。
表4. 資源量(2010.12.20)
区分 | 鉱量 | 品位 | 金属量 | 対象 |
概測鉱物資源量(Indicated) | 37.4百万t | 銅:0.93%, 銀:13.4g/t |
銅:762百万lb (23,700 t), 銀:16百万lb (497 t) |
Banana Zone |
予測鉱物資源量(Inferred) | 423.9百万t | 銅:0.93%, 銀:13.4g/t |
銅:56億lb (174,000 t), 銀:85.4 百万lb (2,650 t) |
Banana Zone, Banana 5, Banana 6 |
5. 鉱業生産状況
(1) African Copper plc社のMowana、Thakadu銅鉱山
African Copper plc(本社英国)は、ボツワナ北部にMowana、Thakadu銅鉱山を操業中で、2011年H1の銅生産量は、前年同期比95%増加の3,386 t(精鉱中銅量)に達した。好調の要因として、同社は、選鉱設備の戦略的なメンテナンス、Thakadu鉱山の生産の改善、両鉱山の二次富化帯からの高い回収率の達成などを挙げている。
また、同社は11月1日、Thakadu鉱山の採掘権の変更により、これまで、露天採掘が行えなかった地区における露天採掘が可能になることを発表していている。
表5. Mowana銅鉱山の資源量と埋蔵量
区分 | 鉱量(百万t) | 銅品位(%) | 銅量 |
埋蔵量(Proven + Probable) | 14.80 | 1.11 | 361百万lb (11,200 t) |
資源量(Measured + Indicated) | 87.67 | 0.71 | 1,366百万lb (42,480 t) |
(2) Selibe PhiKWeニッケル製錬所(BCL社)操業を一時停止
BCL社(Bamangwato Concessions Ltd.)のSelebi PhiKWeニッケル製錬所は、計画的な一時操業停止を実施したが、操業再開は予定していた2011年7月15日から大きく遅れ、9月中旬までの約4か月間の操業停止となった。
同製錬所は一時操業停止の理由を、最近発生している設備(電気炉、ボイラー等)の不具合と労働災害防止に対処するためであり、この操業停止による年間目標生産量及び同製錬所に鉱石を供給しているTatiニッケル鉱山(Tati Nickel Mine Company)への影響はないとしていたが、メンテナンスの過程で新たな設備(自溶製錬炉)の不具合が見つかるなど操業再開が遅れていれた。なお、鉱山部門の坑内採掘は継続され、貯鉱されていた。
同製錬所の生産規模は2,250 t/月、年間約25,000 tのニッケル・マットを生産。生産物の75%はノルウェーへ、25%はジンバブエに輸出されている。
6. ボツワナ唯一の金鉱山売却
ボツワナで唯一操業中の金鉱山であるMupane鉱山は、2011年9月2日、Iamgold Corp.社(本社トロント、以下Iamgold社)からGalane Gold Ltd.社(本社トロント、以下Galane社)へ、34.2百万US$で売却された。この売却に合せて、Iamgold Corp.社は、9月2日、ボツワナ証券取引所(Botswana Stock Exchange:BSE)の上場を廃止した。
Mupane鉱山を5年間操業したIamgold社は、売却の理由を操業期間の長い鉱山に集中する企業戦略に基づいたものであると説明している。同鉱山は、埋蔵量量の枯渇が近付いており、2015年までには閉山する見込みであるが、Galane社は、鉱山だけではなく周辺探鉱の可能性を評価して同鉱山の権益を取得したとみられている。
Mupane鉱山は、1998年に発見され、2004年に生産開始、2005年から2008年の間、年間平均85,000 oz(約2.6 t)を生産していたが、資源量が減少したことにより、2009年は51,000 oz(約1.6 t)、2010年は57,000 oz(約1.8 t)と生産量が減少していた。
表6. Mupane鉱山の金生産量
年 | 2005 | 2006 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 |
金生産量 | 95,500 oz | 106,000 oz | 283,000 oz | 57,000 oz |
*) Mmegi 2011.9.2, “End of an era in gold mining”を元に作成
7. 増加する中国企業による探査権取得
中国企業によるボツワナ国内の探査鉱区面積は、2008年にほぼ0件だったものが、2009年には100件以上の70,400㎞2(台湾の面積の約2倍)に達し、2010年には歴史的に関係のある南ア、豪州、英国に並ぶ勢いである。中国企業は、銅・ニッケル・白金族などの金属鉱物を対象としており、ほとんどが新規取得であることから、現行の鉱業法上、最大7年間(当初3年+延長2年×2回)は鉱区を保有することができる。

図4. ボツワナ国内の国別探査鉱区取得状況
8. 石炭開発の推進
ボツワナの石炭埋蔵量は2,120億tと言われ、政府はダイヤモンドに頼る経済の多角化の一つに石炭資源開発を位置づけており、行程表(Road Map)を2012年1月にも完成させるとしている。
現在、Morupule Colliery石炭鉱山(Debtswana社の石炭部門)が同国唯一の石炭鉱山であり、Moruple A発電所(120 MWから600 MWに拡張中)に石炭を供給している。同鉱山は、現在、年間生産量を約100万tから320万tへ拡張中である。
また、Morupule Colliery社のほか、African Energy社、Aviva Corp.社、Hodges Resources Ltd.社など40社以上が探査鉱区を保有するなど石炭鉱山開発が進んでいる。
表7. ボツワナの主な石炭開発プロジェクト
プロジェクト名 | 企業 | 概要 |
Morpule | Morupule Colliery |
17億プラ(1プラ=10円)を投じて年間生産量を320万tに拡張中。埋蔵量29億t。MCM2, MCM3鉱山開発の構想もある。 |
Sese | African Energy |
BFSの一部として選炭等試験(Bulk sampling)を実施中、2012年Q2には資源量を確定し、2013年には生産開始予定。 |
Mmamantswe | Aviva Corp. |
2012年初めに環境影響評価(EIA)を完了する予定。埋蔵量895百万t |
Moiyabana | Hodges Resources Ltd.(豪) |
資源量把握のためのボーリング調査(125孔、14,000 m)を実施。2012年Q1には資源量を評価する予定。 |
Morupule South | Hodges Resources Ltd.(豪) |
ボーリング調査(34孔予定)で地下浅所で炭層を捕捉。鉱量800百万t(既知鉱量414百万t)が目標。 |
CBM; Coal Bed Methane (Central Province) |
Kuba Energy Resource Pty-JV (Sasol Ltd. (南ア) /Origin Energy Ltd.(豪)) |
3,000 km2の鉱区保有。 |
9. 政府機関からの人材流出
ボツワナ鉱物エネルギー水資源省から民間企業への人材流出が止まらない。最近も国家地質情報センター(National Geo Information Centre)のマネジャーがカナダ系鉱山会社へ、その数年前にも英国系ダイヤモンド会社へ転出している。
同省幹部は、人材流出の理由として民間と政府機関の報酬の違いを挙げ、また、鉱業権の付与に関わっている地質調査局(Geological Survey Department)からの人材流出は利益相反の恐れもあると指摘している。
10. ケディキルウェ鉱物エネルギー水資源大臣の旭日大綬章受勲
ケディキルウェ(Ponatshego Honorius Kefhaeng Kedikilwe)鉱物エネルギー水資源大臣(Minister of Minerals, Energy and Water Resources)は、2011年11月7日、平成23年秋の叙勲において外国人としては最高の旭日大綬章を受章した。
同大臣は、JOGMECボツワナ・リモートセンシングセンター事業への協力等の資源エネルギー技術協力の推進及び鉱物資源・貿易投資政策の情報提供により、資源分野における日本・ボツワナ関係強化、我が国の資源戦略の安定化に貢献したことが受章の理由となった。
おわりに
2011年、ボツワナはDe Beers社と10年契約によってダイヤモンド産業のより付加価値の高い下流部門への道筋をつけたが、その直後にOppenheimer一族はAnglo American社に保有するDe Beers社の株式のすべてを売却した。2012年は、ボツワナがこれまでに強めてきたダイヤモンド産業への影響力を維持拡大できるかが試されることになる。
他方、銅鉱床探査の活発化、石炭鉱山の拡張、新規開発は、早ければ2012年には生産を開始する鉱山も現れるが、このことがボツワナ政府が進めたいと考えているダイヤモンド産業からの産業多角化を具体化するものとなるかこれもまた試されることになる。
※本報に関連する文献情報については、直接ボツワナ・地質リモートセンシングセンター(久保田博志所長(kubota-hiroshi_1@jogmec.go.jp))までお問い合わせ下さい。

