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チリ閉山法

チリの閉山法(Regula el Cierre de Faenas e Instalaciones Mineras、法律第20,551号)が2011年10月28日に発布され、同年11月11日に官報に掲載された。官報掲載の1年後、2012年11月11日に同法は施行される。閉山法は2005年から制定に向けた動きが始まっていたが、長年にわたる議論の末、ようやく制定に至った。この法律により、粗鉱生産量10,000 t/月を超える鉱山が閉山計画の提出を求められることとなり、日本企業が参画する既操業鉱山や開発プロジェクトへも少なからず影響があることが予想される。閉山法に関連する施行細則は現在準備中であり、同法の実際の運用について未だ明確でない点も多い。本稿では閉山法の枠組みを紹介する。 |
1. 閉山法の目的
閉山法が導入される主な目的は、閉山後の人間や環境に対する安全衛生上のリスクを防止または管理することである。同法では閉山計画(Plan de Cierre)を「閉山を実行するために必要な一連の対策を、鉱山とその周辺の特性に応じて、規則正しく、効率的で、漸進的に、タイミング良く法的な枠組みの中で実施するための包括的かつ詳細な作業スケジュールとコストを示した文書」と定めている。
閉山計画には閉山に起因するリスクの防止が求められている。閉山により起こりうる環境負荷対策の事前検討を義務化することで、鉱山会社は閉山に必要なコストを開発計画に組み込むことになる。また、閉山後の対策が明確になることから、鉱山周辺の住民に閉山後の懸念がなくなる効果も期待できる。
閉山に必要なコストを事前に用意することにより、チリの鉱山会社の国際競争力向上に繋がることも期待されている。
2. 閉山法施行以前の規制
現在閉山について規制しているのは、鉱山保安規則令(Reglamento de Seguridad Minera、鉱業省政令第72号)であり、2004年の改正(鉱業省政令第132号)で閉山に関する規制が盛り込まれた。
鉱山保安規則令では、鉱山会社は閉山計画を作成し、SERNAGEOMIN(Servicio Nacional de Geología y Minería:チリ地質鉱山局)の承認を受けることが義務付けられている。
鉱山保安規則令第489条では、閉山計画を「鉱山の労働者及び特定の条件下で鉱山と何らかの関連を持ち、その施設及びインフラストラクチャーに立ち入る人の生命と健康の保全のために、鉱山の操業が終了する際に発生しうるリスク及び負の効果、または操業を停止した後も存続し続けるリスク及び負の影響を防止または最小限にとどめ管理する目的で、鉱山が閉鎖する際に実行すべき措置を事前に決定しておくための文書」としている。また、全ての閉山計画案は、規則令の目的に沿うよう鉱山の現場及びその周辺の特性に適したものでなければならず、少なくとも以下の要素を含んでいなければならないとされている。
・鉱山の特性
・地理的な所在地
・近傍集落との距離
・地形の状況、気候、周辺の水系、鉱化タイプ
・地震発生によるリスク
鉱山保安規則令第10篇第2章は閉山計画案の技術的側面について定めており、坑内採掘、採石場、露天採掘、尾鉱、ズリ、浸出残渣など、施設の特性に関連した検討事項を区分している。さらに、同法令は、「鉱山会社が規則を遵守しない場合、第13篇で定める制裁措置に関係なく、SERNAGEOMINは鉱山会社の費用と責任で閉山計画の作成と実施を行う」と定めている。
第590条には罰金について定められており、鉱山会社が犯した違反に応じて、20 UTM*1から50 UTMの罰金を科す権限がSERNAGEOMINに与えられている。再犯の場合、罰金は2倍となる。
3. 閉山法の概要
3-1. 閉山計画
閉山法では、閉山計画は部門認可(Permiso Sectorial)のひとつと位置づけられている。現行のチリの環境影響評価システム(Sistema de Evaluación de Impacto Ambiental)では、環境省*2(Ministerio del Medio Ambiente)傘下の環境評価局(Servicio de Evaluación Ambiental)が環境影響評価書(Estudio de Impacto Ambiental)または環境影響宣言書(Declaración de Impacto Ambiental)の認可手続きを管理している。しかし、それらの評価は農業牧畜局や森林公社など、それぞれが関係する分野の審査を行っており、最終的な認可を得るには関係全当局の認可を得る必要がある。最終的には環境評価局が全体の認可の取りまとめを行っており、個々の当局の認可は部門認可と呼ばれる。
環境基本法(法律第19,300号)では、プロジェクトの閉鎖・放棄は環境認可(Resolución de Calificación Ambiental)が必要な活動ステージのひとつと見なされており、閉山法は閉山計画も環境認可に準じて用意されなければならないと定めている。
閉山計画の目的は、適用される環境規制に準じ、採掘活動が行われていた場所の物理・化学的安定性を確保するため、鉱山開発によって生じる影響を緩和するあらゆる対策と行動をまとめ、それを実行することにある。
鉱山会社は、事前に当該プロジェクトを承認した環境認可に準じて用意した鉱山施設の閉山計画をSERNAGEOMINに提出し、その承認を得なければならない。鉱山会社は、閉山計画に対するSERNAGEOMINの承認なしに、鉱山の操業を開始することはできない。
閉山計画の承認、追跡、監督はSERNAGEOMINが実施する。これは、環境認可及び環境犯罪に関連して環境当局に付与されている同様の権利とは無関係である。したがって、場合によっては、不履行、違反に対し2つの当局からの制裁を受ける可能性がある。閉山法施行の際には、このような二重コントロールが起こらないようにすることが行政当局に求められる。閉山法の施行細則によって、行政当局間の担当範囲を調整すべきところであるが、施行細則は現在まだ作成されていない。
*1 UTM:月間課税単位。2か月前の消費者物価上昇率に応じて毎月改定される。2012年2月の1 UTM=39,373チリペソ。1 US$=497.05チリペソ(2011年1月19日)。
*2 2010年1月に環境基本法の改正(法律第20,417号)により環境省が設立され、同省が廃止となったCONAMA(チリ環境委員会)の役割を受け継いでいる。
3-2. 閉山計画の承認
探鉱、採掘、製錬所または鉱石処理プラントの操業開始前にSERNAGEOMIN局長による閉山計画の承認が必要である。
閉山計画の承認には、以下2つの手続きがある。
(1) 一般申請手続き(Procedimiento de Aplicación General)
粗鉱生産量10,000 t/月を超える能力を有する施設が対象で、閉山計画は以下に関する適切な情報を盛り込まなければならない。
(a) 鉱山会社または鉱業事業者の詳細
(b) 鉱山、施設、特性、プロセス、製品の記載(関係する地域及び鉱床、使用されるもの、当該地域の地質及び大気の状況)
(c) 対応する環境認可
(d) マインライフの論拠となる鉱物資源・埋蔵量に関する有資格者*3による報告書
(e) 鉱山施設の立地する場所の物理・化学的安定性を維持するために鉱山会社が提案する対策と活動内容
(f) 閉山計画の推定コスト
(g) 閉山後の対策のスケジュール、実施プログラム、及び推定コスト
(h) 保証する閉山計画のコスト、保証期間、利用する証券
(i) インフラ、国の記念物、人類学、考古学または歴史学的に重要な場所、また、建築学的または環境的に価値を有する場所など公共の財産とみなされるものに関する技術情報の開示
(j) 閉山計画実行をコミュニティに知らせるための広報計画
*3 有資格者:鉱業技術士法(法律第20,235号、2007年12月31日官報に掲載)で定められた技術者の資格を有する者。「鉱業部門に関連する科学分野の専門技能を有すること」及び「最低5年の経験」が要求される。
(2) 簡易手続き(Procedimiento Simplificado)
探鉱活動、または粗鉱生産量10,000 t/月以下の施設が簡易手続きの対象となる。閉山法では、今後制定される施行細則に簡易手続きの詳細を先送りしており、SERNAGEOMINが閉山計画案を作成するための方法論的ガイドラインまたは技術基準を準備すると述べているのみである。
簡易手続きが適用される鉱山や鉱業施設の閉山計画案は、SERNAGEOMINの作成する方法論的ガイドラインの指示に従って作成しなければならない。
閉山計画案には少なくとも下記の情報が必要である。
(a) 鉱山会社、当該施設及び法定代理人の詳細
(b) 閉山計画の実施に関連した対策及び活動のリスト
(c) 実施計画
石油・ガス田の場合、それぞれ生産能力が600 m3/日、1,000,000 m3/日を超える場合、一般申請手続きの対象となる。
SERNAGEOMINからの閉山計画承認を受けたのち、鉱山会社は特定の期間内に、閉山計画で定めた方法と条件により、そこで掲げた全ての対策と活動を完全な形で遂行することが義務付けられる。
SERNAGEOMINにより承認された閉山計画は、段階的かつ完全な形で実施されるよう、鉱山操業期間中に更新を行わねばならない。環境影響宣言書や環境影響評価書中で閉山ステージについての修正を行った場合には、関連する閉山計画の修正も求められる。
一般申請手続きが適用される閉山計画は5年毎に監査を受けなければならない。監査は外部監査員公共登記所(Registro Publico de Auditores Externos)に登録した監査員によって行われる。監査の結果が不調であった場合については、閉山法は触れておらず施行細則に先送りされているが、鉱山操業の一時停止命令などSERNAGEOMINへの懲罰権の付与がなされるものと予想される。
閉山計画に記載した全ての対策及び活動を終了した時点で、一般申請手続きが適用された鉱山会社は閉山計画の実施を証明する最終監査報告書をSERNAGEOMINに提出しなければならない。
3-3. 閉山計画の遂行と罰則
鉱山会社または鉱山会社に委任された第三者は、鉱山の操業期間中に閉山計画を遂行しなければならない。鉱山会社あるいは鉱業事業者は、閉山計画実行の責任を負う。閉山計画を履行しなかった鉱山会社の法定代理人及びその責任者は、100 UTMから1,000 UTMの罰金を科せられる。
環境当局に与えられた制裁措置の権限とは関係なく、SERNAGEOMINは以下の罰則を科すことができる。
(a) 罰金:10,000 UTMを上限に、不履行1日あたり10 UTM
(b) 鉱山操業の一時停止
(c) 履行保証の譲渡及び現金化命令
3-4. 履行保証(Garantía de Cumplimiento)
閉山法は、金融または保険証券を含む金融保証として履行保証を組み入れている。一般申請手続きが適用される鉱山の操業を行う全ての鉱山会社または鉱業事業者は、閉山法に定められた閉山計画履行義務を完全かつタイムリーに達成することを国に保証するために保証金を積み立てなければならない。
保証額は閉山までに実施する全ての閉山措置実施費用に加え、閉山後の追跡及び管理対策の費用の現在価値をもとに決定される。現在価値の更新は、チリ中央銀行が発表する少なくとも10年間のインフレ調整指数(UF*4)建の債券(Bonos)の割引率、あるいは、その代替として発行される中央銀行の金融商品を考慮して行う。
推定マインライフが20年未満の場合、保証金の全額を推定マインライフの2/3の期間内に積み立てなければならない。推定マインライフが20年以上の場合には、15年以内に全保証金を積み立てなければならない。
鉱山会社は鉱山の採掘開始をSERNAGEOMINに通知したのち、履行保証の積み立てを開始する。通知後30日以内に、鉱山会社は閉山措置にかかる全費用の現在価値の20%以上を積み立てなければならない。操業2年目以降は、上述の期間に応じ均等に積み立てる。保証金の積み立ては、閉山法で定められた金融商品の構成ルールに従って行わなければならない。
保証金は以下のとおり、段階的に払い戻される。
(a) 閉山計画の実行開始後 30%まで
(b) 重要かつ恒久的な段階完了後 60%まで
(c) 最終閉山証明書(Certificado de Cierre Final)の提出後 100%
*4 UF:消費者物価指数の変化率に応じてインフレ調整されるインデックス。毎月9日に発表され、翌10日から次月の9日まで適用される。1 UF=22,356.53チリペソ(2011年1月19日)。
3-5. 税制上の優遇措置
閉山法は以下の税制上の優遇措置を定めている。
(a) 鉱山会社は各年に積み立てられた保証金を引当金として計上できる。
(b) 実際に積み立てた保証金は必要経費として所得税から控除される。
(c) 閉山計画を実施するための物資の購入またはサービスに対する付加価値税は税額控除の対象となる。
3-6. 閉山後鉱山施設管理基金(Fondo para la Gestión de Faenas Mineras Cerradas)
閉山後の長期的な物理的・化学的安定性を確保し、住民の生活・健康・安全を維持するための活動資金を調達することを目的とした閉山後鉱山施設管理基金の創設を閉山法は定めている。
基金は、鉱山会社の分担金、閉山法により科せられた罰金、個人、企業、自治体や国からの寄付金と助成金で構成される。鉱山会社は、管理コストを含めた閉山計画で定められた閉山措置後の全費用の現在価値分を基金に拠出しなければならない。
基金の運営は、証券・保険監督局(Superintendencia de Valores y Seguros)に認定された金融資産管理専門団体が行い、鉱山会社には分担金の拠出以外の義務は定められていない。
3-7. 施行
閉山法は官報掲載日から1年後、2012年11月11日に施行となる。
施行時に操業中の鉱山へは、同法の段階的な適用が定められている。当該鉱山には、鉱山保安規則令に準じてSERNAGEOMINから承認された閉山計画を評価するため、2年間の猶予が与えられている。SERNAGEOMINがその評価について承認した6か月後の第一就業日から鉱山会社は保証金の積み立てを開始しなければならない。
おわりに
冒頭でも触れたように閉山法の運用の要となる施行細則が明らかとなっておらず、同法の運用について明確でない点も多い。施行細則は現在の鉱業保安規則令をベースに作成され、関係者によれば準備にあまり多くの時間は要しないとのことである。閉山法中にも関連細則を施行までに決定することが定められており、2012年中には同法の運用の詳細が明らかになって来るものと思われる。
サンティアゴ事務所としては、閉山法に関連する情報を継続して集めていく所存である。

