報告書&レポート
『Mines and Money London 2011』カンファレンス参加報告
2011年12月6~7日の2日間、今回で9年目となるMining Journal誌主催『Mines and Money London 2011』がロンドンで開催された。ロンドンは、国際的な鉱山会社や探鉱ジュニアの多くが本社を構え、また世界的な金融の中心地であることから、Mines and Money Londonでは鉱業分野への投資や探鉱企業の資金調達が会議の主要テーマとなっていることが特徴的である。 写真1. Mines and Money London 2011の展示会場 |
1. 世界鉱業の動向
1-1. 基調演説:『資源ナショナリズム-今後の見通し』
(Kemet Group社、Brian Menell氏)
資源ナショナリズムはアフリカ、チリ、豪州を始めとして世界的な規模で起こっており、またこの動きは長期的に継続することが予想されるため、我々は資源ナショナリズムと共生していく方法を学ばなくてはならない。
まず資源ナショナリズムが発生する背景として考えられることは、資源国において高まっている民主化の動きや、一般大衆やメディア感情に対する政府の関心の高まりが挙げられる。例えば、次回の選挙での再選を望む資源国の現政府は、「外国鉱山会社が資源国の富を搾取する」といった歴史的問題に対処しているというふうに国民の目に映る必要がある。また資源国における財政難もロイヤルティ料率の引上げや増税という形で行われる資源ナショナリズムの背景にある。更にアフリカにおいて中国の存在感が増してきたことで、アフリカ諸国は歴史的につながりの深かった西洋諸国からの影響力とのバランスを調整する機会ができた。その結果として、西洋諸国がアフリカにおける以前のような影響力を失ってきたことも資源ナショナリズムの要因として考えられる。
資源ナショナリズムにはいくつかの種類があり、まず一つ目は「税及びロイヤルティ」である。これは政府の財政難に起因する短期的な反応であり、また鉱山会社が資源国政府と十分に対話ができなかった結果であると考えられる。二つ目は「“use it or lose it”(休眠状態の鉱区を国に帰属させる)原則」であるが、これは短期的な日和見主義的投資に対する建設的な反応であり、鉱業プロジェクトが不必要に未開発となることを防げるため、鉱業界にとって良いことであり奨励されるべきである。三つ目は「外国資本の制限」である。アフリカにおいては外国企業がもたらす専門知識は歓迎されているため、このような形式での資源ナショナリズムは稀であるが、ロシアやベネズエラでは外資の制限が行われており、それに対して海外の鉱山会社ができることはほとんどない。四つ目は「高付加価値化(beneficiation)」で、インドネシアでの錫鉱石の輸出禁止といった例がある。地元での加工産業の強化につながる可能性はあるが、資源国での加工は非効率的となる場合もある。五つ目は「(政府や地元企業の)資本参加」であり、これは鉱山プロジェクトの国有化につながるという危険もあるが、一方で鉱山会社にとって大きな機会ともなり得る。「国営鉱山会社」という持続可能な新しいモデルが正しい形で実現されれば、鉱山会社及び資源国の両方にとって有益な(win-win)状況を作り出すことができるため、鉱山会社はそのような国営鉱山会社の確立を模索していくべきである。
資源ナショナリズムの問題には、資源国の文化及び歴史に対する尊敬の念に基づいた建設的な対話を通じ、資源国と長期的なビジネス関係を保つための持続可能なモデルを確立することで対処していく必要がある。
1-2. 講演:『探鉱と発見-メジャー企業の見方』
(Anglo American、Graham Brown氏)
Anglo Americanにとって探鉱活動とは、企業成長、プロジェクト・パイプライン*u0002の確保そして価値の創造を実現するために大変重要な活動である。同社は2010年には17か国において探鉱に総額1億3,600万US$を費やしており、過去10年間で15の鉱床を発見している。
近年鉱業界が直面している課題の一つが経済価値の高い鉱床の発見である。マインライフが長く低コストでの鉱山経営が可能であるいわゆる「Tier 1鉱床」の発見が減少しており、また鉱石の低品位化、鉱山生産までのリードタイムの長期化といった問題もある。MEGの統計によると、2011年の探鉱予算は史上最高であったが、Grass Roots探鉱(新規に探鉱を着手するプロジェクト)に対する探鉱予算は史上最低で、新しいTier 1鉱床の発見の可能性はさらに低くなっていると考えられる。
次に、探鉱活動で成功を収めるために重要なことは、必要な技能を持った人材を適切な場所に適切な時期に配置し、チームワークを持って探鉱活動を行うことである。また探鉱活動に対して、長期的かつ一貫性のある出資を行うことも大切である。図1のとおり、Anglo Americanでは継続的に一定の探鉱予算を拠出した結果、計15の鉱床の発見につながっている。リスクの低いブラウンフィールド探鉱とリスクの高いグリーンフィールド探鉱との適切なバランスを保つことも重要である。その他には、革新的なアイデアと技術を取り入れること、品質に焦点をあてた探鉱活動を行うこと、根気強く探鉱を行うこと等が探鉱活動で成功するために大切である。
百万$ 10億$
図1. 探鉱予算の過去10年間の推移(出典:Anglo American講演)
*1 (注)「パイプライン」とは、鉱山会社が保有する新規生産開始となるプロジェクト(鉱山)の状況を表す言葉である。
2. 鉱業部門における資金調達の動向
2-1. 講演『2011年の資金調達の動向』
(Ernst & Young社、Lee Downham氏)
2011年は欧州及び米国での債務問題により世界市場で先行き不透明感が広がった影響を受け、ジュニア企業が新規株式公開(IPO)及び追加株式発行(follow-on capital)によって資金調達を行うことが困難となった。一方、メジャー及び中堅企業は財務状況が比較的健康であり、既にほとんどのプロジェクトの資金調達が完了しているため、ジュニア企業に比べて2011年の不安定な世界経済から受けた影響は少ないと考えられる。またメジャー及び中堅企業が株式発行による資金調達を必要としていないため、その資金がジュニア企業に流れるという傾向も見られる。
世界市場における不確実性は株式市場でのボラティリティを高めており、過去数か月間のVIX指数(Volatility Index:投資家心理を示すと言われる数値(恐怖指数))は2008/9年の世界金融危機以降で最高値を記録している。株式市場でのボラティリティの高まりは企業の新規株式公開を困難にしており、スイスGlencoe社の新規株式公開を除けば、新規株式公開による資金調達額は対前年比50%減となっている。しかし興味深いことには、ジュニア企業の2011年の新規株式公開件数は、2010年よりも増加傾向にある。
メジャー企業に関しては財務状況が良好であり、ギアリング率(自己資本負債比率)は2008年の60%から2010年には18%に減少したが、企業の経営陣は不確実な経済情勢の下で大規模な取引(mega deals)を行うことによって、結果的に財務状況を悪化させることを嫌悪しているため、大規模な取引が少なくなっている。しかしながら、メジャー企業がギアリング率を過去数十年の平均値である32%にまで引き上げることを厭わないとすれば、800億US$規模のM&Aを行う能力があると考えられる。
図2. サンプル企業のギアリング率の推移と平均値(出典:Ernst&Young講演)
2-2. 講演『鉱山経営のための資金調達で成功するためには』
(Standard Bank、Vaughan Wickins氏)
市場のボラティリティが高く、投資家にリスク回避傾向が見られる昨今、鉱山会社にとって財政面での強力なパートナーを確保することがますます重要になっている。欧州各国の債務問題及び不況の影響を受けた欧州の銀行の中には、損失を埋め合わせて資本の増強を図るために中核的な産業と地域への融資のみに専念している銀行がある。しかし、Standard Bankのように欧州における財政危機の影響が限定的であり、継続して鉱業分野への融資を行っている銀行もある。現在の不安定な世界経済の中、鉱山経営のための資金調達は困難ではあるが不可能ではない。資金調達で成功するためには以下のような行動計画を立てることが望ましい:
1. 特定のコモディティに専念する。
2. アドバイザーの関与を検討する。
3. 経験豊富で評判のよい産業コンサルタントを利用する(技術面及び法律面)。
4. 利用可能な全ての資金源の情報を収集する。
5. 資金調達のための準備を前もって詳細に行う。
6. 資金調達の金額や条件に関して現実的になる。また他社と自社との比較を行う。
7. 十分に資金調達計画を練り、それにしたがって計画を実行する。
8. 鉱業に特有のリスクを特定し、そのリスクを軽減する。
資金調達は企業にとっての最大の懸念の一つである。調達可能な資金が乏しくなってはいるものの、全ての資金が消えてしまうことはない。企業の経営陣は、企業の要件に見合った資金面でのパートナーを探さなければならないので、他社との差別化を図り、自社の魅力を売り込んで資金調達を成功させる必要がある。
3. 鉱業のファンダメンタル
3-1. 講演『供給パイプラインの開発』
(Metals Economics Group、 Michael Chender氏)
世界の銅、亜鉛、ニッケル探鉱に費やされた費用(図3参照)を見てみると銅が占める割合は2008年の60%から2011年には70%に上昇しており、銅の供給量が長期的に増加していくようにも思われる。しかし、現在の銅のプロジェクト供給パイプラインの品質は高いとは言えず、さらなる鉱床の発見が必要とされる。
図3. 世界の銅、亜鉛、ニッケル探鉱費の内訳(出典:MEG講演)
現状を見てみると、鉱物資源のプロジェクトの開発には、資本コストの上昇、鉱山労働者の定年退職による人材不足、政情不安定、環境に関する要件の厳格化、広がる先行き不透明感といった課題が付随している。また資本が限られており、株式発行による資金調達に頼らざるおえないジュニア企業は厳しい状況にある。2012年中にジュニア企業に対して魅力的な買収の話がなければ、多くの小規模なプロジェクトは足踏み状態に陥る可能性があるが、強い供給パイプライン及びブラウンフィールド・プロジェクトを既に確保しているメジャー企業は買収に意欲的であるとは考えがたい。
そこで、今後数年間の鉱業界において重要となってくるのが中国の役割である。中国企業は活発に買収活動を行っており、また中国の持つ地質的な潜在性が明らかになってきている。中国五鉱資源有限公司(Minmetal Resources)によるAnvil Mining社(加TSX及び豪ASX上場)の買収やRio tinto社と中国アルミニウム(Chinalco)とのJV設立等の例が、鉱物資源確保に向けた中国の意欲的な活動を表している。現在、中国企業の中には海外事業で困難に直面している企業もあるが、積極的な買収活動と国内探鉱を継続すれば、長期的には世界の銅市場における中国の立場が変わっていくと予想される。
結論として、銅の供給パイプラインを確保するためには、探鉱への継続的な出資、中国や中央アジアといった高いポテンシャルのある地域への進出、新技術の開発が重要であると考えられる。
3-2. 講演『鉱業におけるコミュニティの影響』
(Parsons Brinckerhoff社、Cameron KirKWood氏)
Parsons Brinckerhoff社では通常の業務の一環として「コミュニティ管理(community management)」を取り入れている。同社にとってコミュニティとは、「プロジェクトによって実質的な影響を受けるか否かにかかわらず、そのプロジェクトに大きな関心のある利害関係者(個人若しくは団体)」を意味している。利害関係者の関係は図4のとおり複雑であるため、コミュニティに関する問題には唯一無二の解決法は存在しておらず、個々のプロジェクトごとにコミュニティ管理を行っていく必要がある。
図4. 利害関係者の関係(出典:Parsons Brinckerhoff社を和訳)
コミュニティ管理を実行するためには費用がかかるが、投資額以上の費用対効果がもたらされたり、プロジェクトを早期に完了できたりといった利得を得ることもできるため、コミュニティ管理を企業文化に取り入れることが重要である。コミュニティ管理を成功に導くための実践的方法としては、以下のような項目が挙げられる:
・ 他の産業分野で既に学んだことを活かす。
・ 情報収集及び報告を行うための効率のよい管理システムを構築する。
・ 世界自然保護基金(WWF:World Wide Fund for Nature)のような信頼性のある組織のプロジェクトへの関与を奨励する。
・ 地域のサプライチェーンの理解及びその強化に投資する。
・ コミュニティの要望を初期段階からプロジェクトの計画に取り入れる。
・ プロジェクトの価値を明確にして、コミュニティに対して率直に伝える。
・ 最新の通信技術を用いて、活動内容に関する情報を更新及び公表する。
・ プロジェクトの合理化を図り、費用対効果を向上させる。
・ プロジェクトの現場にコミュニティ対応のための専用チームを配置する。
鉱業の発展に貢献するような新しい変化をもたらすためには、鉱業界全体が協力し、イノベーションの促進や費用の削減に加え、コミュニティへの投資を積極的に行っていくことが重要である。
4. 主要コモディティの動向
4-1. 『金属価格の概要とコモディティの見通し』
(CRU社、Peter Ghilchik氏)
過去数年間の金属価格の推移をみるとボラティリティが高いということは明白であり、特に2011年は政治的および経済的要因が影響し、金属価格の上下変動が激しい。世界経済全体では、2011年には先行き不透明感が広がっており、CRUでも2011年の経済見通しを下方修正しており、今の不安定な経済回復の様相は2012年に二番底の不景気(double-dip recession)に陥る可能性を示している。このように経済情勢が不透明な中でも、世界の金属需要は今後5年間で伸び続けることが予想され、特に国の発展に不可欠なインフラ建設に必要とされる鋼鉄及びアルミニウムの需要の伸びが著しい(図5参照)。これまで金属の需給と価格は相関関係にあった。しかし、近年の各金属価格の上昇率と需要の伸び率との相関を見ると、銅及びニッケルのように需要の伸び率が比較的低いにもかかわらず、価格の上昇率が大きいものが出てきている。これは金属市場において中国が最大の消費国になり、その影響ではないかと思われる。銅、鉛、亜鉛およびニッケルに関しては、中国の消費量が国内生産量を上回っているが、鋼鉄及びアルミニウムに関しては自給自足の状態にある。つまり、金属価格は金属需要の伸び率ではなく、中国の輸入量や需給の不均衡といった要因に大きく影響されていると言える。
したがって、CRUではコモディティへの投資を考えている顧客にアドバイスをする際、中国の影響を考慮に入れ、1)需要面、2)供給面、3)地域に特有の問題、といった3つの観点から各コモディティを分析し、数値化することによって客観的な評価を提供している。
図5. 産業用金属の需要の推移(出典:Mines & Money 2011 CRU講演資料)
4-2. 『銅の供給と価格』
(Brook Hunt & Wood Mackenzie社、Paul Benjamin氏)
近年の銅価格は、需給逼迫が要因となり高止まりとなっている。銅の需給が逼迫している原因としては、落盤、ストライキ、鉱石の品位低下、技術的問題、悪天候等が挙げられる。今後数年間も同様の課題に直面することが考えられる。銅鉱石は2012~2013年頃には中部アフリカ等での新鉱山の稼働により品位が一時的に上昇することが考えられるが、2025年にかけて長期的に見ると品位の下降傾向が続くと予想される。一方、鉱山会社は低下する銅鉱石の品位に対して、より大規模な機器や設備を使用し大規模生産を行うという「規模の経済(economy of scale)」の原理で適応していくことが考えられる。また銅鉱山の操業に必要な水資源の不足も深刻になってきている。海水を利用する場合の淡水化プラントの建設は、費用面で鉱山プロジェクトに大きな影響を与える。代替策としては、生の海水または処理された生活用水(town water)の利用が考えられる。また鉱業全体では人材不足が課題となっており、鉱山の運営費及びプロジェクトの進捗速度に悪影響を与える可能性がある。これに対して鉱業界では、地域住民を対象とした訓練プログラムの実施といった革新的な対応策を講じている企業も出てきている。
今後10年間の銅需給見通しとしては、上昇し続ける需要に見合うためには、2021年までに新規鉱山から約620万t/年の銅生産が必要となってくることが考えられる。このうちブラウンフィールド・プロジェクトからの生産が見込まれているのは約170万t/年であるため、需給バランスを取るためには、残りの約450万t/年をグリーンフィールドプロジェクト等から生産する必要がある。総じて、銅生産に関わる上記のような課題を考慮すると、今後10年間で銅の需給バランスが構造的な余剰状態となる可能性は低いと考えられる。
5. 鉱業における新局面
5-1. 「ナイジェリア鉱業への投資機会」
(ナイジェリア鉱業省、Musa Mohammed Sada大臣)
ナイジェリアの主要産業は原油及び天然ガス産業であるが、同国政府は鉱業分野の活性化にも注力し始めている。首都及び36州の全てで1つ以上の鉱床の存在が確認されているとされ、特に石炭の資源量は2兆tと見積もられており、石炭発電所の建設が政府の最優先事項となっている。石炭の他に豊富な資源が確認されている鉱種には、タールサンド(ビチューメン)、石灰岩、金、鉄鉱石、錫、鉛・亜鉛、タンタル等が含まれる。
ナイジェリア政府は、同国鉱業への直接投資を促進するため「鉱物投資促進ユニット(Mineral Investment Promotion Unit)」を発足し、投資家に対して鉱物資源情報の提供を行っている。また鉱業への投資誘致のために、3~5年間の免税期間、ロイヤルティ料の延べ払い、100%の外国資本出資の容認といった奨励策を設けている。鉱山会社の鉱業権を保証する現代的な鉱業法があり、鉱業権に関するデータはコンピュータ化が進んでいる。
5-2. 「アフリカ-法規制に改善の兆し」
(Webber Wentzel社、Peter Leon氏)
アフリカの鉱業における最近の法規制の動向としては、民主主義の高まり及び資源ナショナリズムの動きが顕著である。また米国のDodd-Frank法や英国贈収賄防止法等に代表されるように、国際社会において説明責任(accountability)及び透明性(transparency)がますます重要視されるようになってきている。今回の講演では、アフリカでの鉱業に関する異なる形式での法規制を、ボツワナ、ガーナ及びリベリアの3か国を例にして説明する。
・ ボツワナ
大変よい法規制が整っており、アフリカ鉱業におけるモデル国家と言っても過言ではない。NGO団体トランスペアレンシー・インターナショナル(Transparency International)が発表する腐敗度認識指数によると180か国中第36位であり、アフリカでは最上位である。ボツワナの鉱業法は内容が明確で分かり易く、特別な解釈が必要ではないため透明性が高い。また同国政府は、鉱業の魅力を高めるため、短期間でのライセンス付与を目指している。
・ ガーナ
財政改革を通じて資源ナショナリズムを実施する政府の一例である。2011年11月に鉱山会社に対する法人税を現行の25%から35%に引き上げると共に、鉱山会社から10%の超過利潤税(windfall tax)を徴収することを発表した。この動きに関してガーナ鉱業会議所は、同国鉱業への投資を遠ざけ、既存プロジェクトの拡大の妨げとなる可能性があるとして懸念を表明している。
一方で、独立した規制当局である鉱業委員会(The Minerals Commission)があり、行政面での不確実性の除去、煩雑な手続きの簡素化、汚職の抑制といった面で成功を収めている。
・ リベリア
アフリカの鉱業において「第三の道(Third Way)」となる大変革新的なアプローチを行っている。同国における鉱業プロジェクトは入札方式を取っており、早い者勝ちではなく、最高値を付けた適格企業がプロジェクトを入札することができる。基準に従って客観的に決断が下されるため、透明性の向上といった利点がある一方、費用と時間がかかるという欠点もある。
以上のとおり、アフリカ全体としては、ジンバブエのような極端な資源ナショナリズムを模倣する国は少なく、多くの国は中道的な法規制を選択し、自国への投資を誘致するために明確で一貫性のある法制度の整備を目指すことが考えられる。重要なことは、投資家、資源国政府及び地域のコミュニティにとって公平でバランスのとれたシステムが採用されることである。
5-3. 「中国とアフリカの関係」
(SAMI Funds社、Anthony Desir氏)
近年中国による外国投資が活発になるにつれ、西洋諸国において「中国が現金で世界を買いあさっている」というような間違った認識がされている。しかし、実際には中国のアフリカへの投資活動は、同国中央政府の明確な戦略に従って組織的に行われている。そのため、中国政府は政府間での取引、もしくは政府の支援を受けたプロジェクトに対する投資を好む傾向があり、単なる民間企業のプロジェクトへの投資は敬遠する場合がある。
中国によるアフリカ投資の約85%は石油関連であり、アルジェリア及びアンゴラが最大の投資先である。鉱物資源関連への投資では、コンゴ共和国、DRCコンゴ、ボツワナが主要な投資先である。ここで注目すべきことは、2005~2009年に中国はDRCコンゴに40億US$を投資したのに対して、南アフリカへの投資額は2億US$であった。これは、中国は南アのような既に商業プロセスが確立している国に投資するより、中央集権国家への投資を好むためである。
中国のアフリカ投資は過去10年間、2009年を除き増加傾向にある。2009年は世界的な不況の中、中国も海外投資から一時撤退をしていた。この間、アフリカ諸国は今後の中国との関係を見直す機会を持つことができ、その後、中国とアフリカとの関係はより熟成したと言える。アフリカ諸国は、バリューチェーンの川上に位置するため、中国に対して資源国内での製錬所建設を求めたりするようになり、また中国との関係に関する世論にも以前より真剣に声を傾けるようになった。中国企業は国外でビジネスを行う際にも中国労働者を雇用するという傾向があるため、中国企業の進出による恩恵を受けていないと感じる地元住民の不満は地方政府に寄せられることとなる。ザンビアの新Sata大統領が中国からの投資に批判的な立場を取って選挙戦に勝利したことは、中国からの投資に関して資源国の国民がマイナス感情を抱いていることを表す例である。
中国政府及び中国企業と取引をする場合には、彼らの真意が何であるかをよく理解し、長期的な視野を持って対話を始める必要がある。またYESが単にYESを意味しない場合があることにも留意する必要があり、契約書に調印をしてから交渉が始まることもあるため、ビジネスに関する慣習の違いを認識することが重要である。概して、中国とのビジネスを成功させるためには、投資を単なるビジネス上の取引として考えるのではなく、友好的な関係構築として認識することが鍵である。
6. 所感
欧州各国の債務問題への対応が叫ばれる中、過去最大規模で行われた今回の『Mines and Money London 2011』の講演では、「資源ナショナリズム」、「アフリカ」、「中国」の3つがキーワードのように度々取り上げられていた。講演は全体的にポジティブなメッセージが多く、英国監査法人のErnst & Youngが2011年鉱山開発リスクランキングのトップとしていた資源ナショナリズムに関してでさえ、「逆境における好機(opportunity in adverse)」であるとして理解し、課題に取り組んでいくことで成功につなげるべき、といった前向きなコメントが述べられていた。また、毎年注目を集めているAnthony Desir氏が中国とアフリカとの関係に関する講演を終えた後、例年にも増して多くの聴衆がDesir氏の周りに集まり名刺交換をしていた姿は印象的であり、中国によるアフリカへの投資活動に関する参加者の関心度の高さが伺えた。
JOGMECロンドン事務所は、金属資源と世界金融の中心地であるロンドンにおいて、今後、投資家、銀行、鉱山会社、コンサルタント等がどのような事例に注目し、鉱業に関する新たなキーワードとなっていくのか、2012年も引き続き注意していきたい。
※付表:探鉱プロジェクトの講演(金、ダイアモンド、石炭の案件、鉱山設備の提供会社は除く)
企業名(本社) | 探鉱プロジェクト場所(ターゲット鉱種) |
Nautilus Minerals(加、TSX上場) | パプアニューギニア(銅) |
Woulfe Mining(加、TSX-V上場) | 韓国(金、銀、亜鉛、鉛、タングステン) |
Rio Alto Mining(加、TSX-V上場) | ペルー(金、銅、銀、モリブデン) |
Baja Mining(加、TSX上場) | メキシコ(銅、コバルト、亜鉛) |
Manhattan Corp(豪、ASX上場) | 豪州(ウラン) |
Azimuth Resources(豪、ASX上場) | ガイアナ(金、ウラン) |
Baobab Resources(豪、AIM上場) | モザンビーク (鉄鉱石、チタン、バナジウム、銅) |
EMED Mining (キプロス、AIM及びTSX上場) |
スロバキア、キプロス、スペイン (金、銅、亜鉛、銀) |
Yellowhead Mining(加、TSX-V上場) | 加(銅、金、銀) |
Mt Isa Metals(豪、ASX上場) | 豪、ブルキナファソ(銅、金) |
Rex Minerals(豪、ASX上場) | 豪(銅、金、ウラン) |
Aviva Corp(豪、ASX上場) | フィリピン、ケニア(金、銅、亜鉛) |
Concordia Resource Development (加、TSX-V上場) |
ガボン、DRCコンゴ、ジンバブエ、アルゼンチン (金、ベースメタル) |