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報告書&レポート

2012年3月8日 金属企画調査部 渡邉美和
2012年13号

中国、「外商投資産業指導目録(2011年修訂)」を公布

 中国の国家発展改革委員会と商務部は、2011年12月24日付けで、2012年1月30日施行の「外商投資産業指導目録(2011年修訂)」を発表した(発展改革委員会・商務部令、第12号)。これに伴い、「外商投資産業指導目録(2007年版)」は廃止される。
 この目録(リスト)は、中国から見た外国企業が中国に直接投資して企業運営する際に、投資を奨励する産業や禁止する産業をリストアップして明示したもので、産業構造の変化、科学技術や中国経済の発展動向などに基づき改定されてきた。前回の改定は2007年版で、それ以前の2004年版に代わって運用されてきた。このように、数年に1度の見直しが行われている。
 ここでは、2011年版を2007年版と比較しながら、投資の奨励や禁止などについて、非鉄金属産業に関わる部分を抄出して紹介する。
 なお、本稿での中国語表記の和訳は著者による仮訳である。和訳で十分な意が伝わらない懸念がある場合は、「原文のママ」などの表記を付加し、原文を日本語漢字表記した。

1. 外資の中国への直接投資の基準

 中国への直接投資による企業運営に関しては、以下の各段階に基づき、中国国内への投資参入が、中国の国策面から判断され、それらを満たしたうえで認可が行われる。

1-1. 産業構造調整指導目録
 この目録では、中国が当面、国として奨励・制限・禁止したい産業分野が規定されている。外資が中国に投資しようとする場合、この目録で禁止されていない必要があり、更に制限されている場合はその制限に基づく必要がある。最近の改訂は2011年に実施されている。詳細はJOGMECカレント・トピックスNo.11-31「中国、産業振興項目改定- 産業構造調整指導目録2011年版発表 -」を参照されたい。

1-2. 外商投資産業指導目録
 この目録では、中国が当面、国として外資の導入を奨励・制限・禁止したい産業分野が規定されている。外資が中国に投資しようとする場合、この外商投資産業指導目録(以下「投資リスト」と呼ぶ)で禁止されていない必要があり、更に制限されている場合はその制限に基づく必要がある。2011年6月には新版がまもなく完成発表されるという報道もあったが、正式な発表は2011年12月となった。

1-3. 各産業ごとの参入条件
 各産業ごとに参入条件が決められていて、例えばあまりに零細な規模では設立参入できないなど、能力や技術面での対応力などの決めがあり、産業ごとに異なる。

2. 投資リストの2011年改定版

 発表された投資リストの概要について2011年版と2007年版をリストアップされた項目件数で比較して一覧すると表1のようになる。

表1. 投資リストの構成の概要と、2007年版-2011年版の比較

産 業 区 分 奨励 制限 禁止
2007 2011 増減 2007 2011 増減 2007 2011 増減
 1 農業・林業・牧畜業・漁業 12 11 3 3 3 3
 2 採鉱業 9 9 8 8 3 3
 3 製造業  1 農副食品加工業 3 3 2 2      
 2 食品製造業 3 3            
 3 飲料製造業 1 1 2 1 1 1
 4 タバコ製造業 3 1 1 1      
 5 印刷業と記録媒体の複製       1 1      
 6 紡績業 5 6            
 7 皮革・皮毛・羽毛及びその製品業 3 4            
 8 木材加工及び木・竹・藤・粽・草製品業 1 1            
 9 製紙及び紙製品業 1 1            
10 石油加工、乾留、核燃料加工業 1 1 1 1      
11 化学原料及び化学製品製造業 26 19 10 10      
12 医薬製造業 16 12 6 5 2 2
13 化学繊維製造業 6 5 2 2      
14 プラスチック製品業 3 3 1        
15 非金属鉱物製品業 20 23            
16 非鉄金属製錬及び圧延加工業 2 2 3 3 1 1
17 金属製品業 3 3 1        
18 一般設備製造業 19 22 2        
19 専用設備製造業 71 78 3 2 1 1
20 交通運輸設備製造業 26 24 1 1      
21 電気機械及び器材製造業 13 15       1 1
22 通信設備、計算機及びその他電子設備製造業 35 32 2 1      
23 測定機器及び一般機械製造業 18 14            
24 工芸品及びその他製造業 3 4       6 6
 4 電力、ガス及び水の生産供給業 7 9 2 3 1 1
 5 交通運輸、倉庫と郵便業 14 14 7 7 2 2
 6 卸売、小売業 2 3   6 6      
 7 金融業       5 5      
 8 不動産業       3 3      
 9 商務サービス業 3 6 3 3 1 1
10 科学研究、技術業務と地質調査業 14 15 3 3 2 2
11 水利、環境と公共設備管理業 4 4 1   2 2
12 教育 1 2 1 1 1 1
13 衛生、社会保障と社会福利業 1 1 1        
14 文化、体育と娯楽業 2 2 5 5 11 10
15 その他産業             1 1
  小計 351 353 86 77 39 a

 投資リストの各項目は、再分類の産業形態で指定されたもの(例えば、2011年版の奨励リストの内の「農業、林業、牧畜業、漁業」のうちの「水産品養殖」)や、技術程度で指定されたもの(例えば、2011年版の奨励リストの内の「化学原料及び科学製品製造業」のうちの「燐化学工業やアルミ精錬からフッ素資源の回収」)、装置名称で指定されたもの(例えば、2011年版の奨励リストの内の「専用設備製造業」のうちの「血液透析機、血液濾過機製造」)、仕様により指定したもの(例えば、2011年版の奨励リストの内の「測定機器及び一般機械製造業」のうちの「1,000万画素以上のデジタルカメラ製造」)などがあり、レベルは揃っていない。また、1項目で1品目を規定しているものと、1項目が多品目を含んでいるものが混在し、単純な比較も難しい。
 敢えて全体の項目による概要の比較を行ってみると、全般的には外国企業の投資を「奨励」する項目がやや増え、制限や禁止が減少している。この数値からは中国の投資受け入れが拡大している様に見える。表1の矢印は、2007年版と2011年版を比較した増減を示している。
 これらを踏まえて奨励項目での主な増減の特徴を示すと以下のようになる。

・ 増加:
 「廃棄物総合利用」(皮革・皮毛・羽毛及びその製品業)、「省ニッケルステンレス鋼生産」(金属製品業)、「大気汚染防止設備製造」「水汚染防止設備製造」「固形廃棄物処理設備製造」「尾鉱総合利用設備製造」(専用設備製造業)など、施策を受けた環境・省資源などの観点での新指定が目立つ。
 また当然のことながら、新技術キャッチアップの項目も増加している。例えば、「先進新技術によるグリーン電池製造:動力用ニッケル水素電池、亜鉛ニッケル蓄電池、亜鉛銀蓄電池、リチウムイオン電池、太陽光電池、燃料電池等(電気機械及び器材製造業)である。

・ 減少:
 「多結晶シリコン生産」(非鉄金属製錬及び圧延加工業)、「遠洋漁業船舶製造」(交通運輸設備製造業)などで、既にキャッチアップできたと見られる産業は「奨励」から排除されている。

 また、「通信設備、計算機及びその他電子設備製造業」は技術の進展が速いことを映してか、全面的に指定の内容が見直されている。一方で、前述の「1,000万画素以上のデジタルカメラ製造」や「直径200mm以上のシリコン単結晶及びウェハー生産」が奨励項目として残っていることは、日本の技術現状から見るとやや遅れた項目であり、或いは見直しのタイムラグが生じたことを示しているのかもしれない。

3. 投資リストの2011年改定版の2007年版との比較

3-1. 投資奨励項目
 表2~4に2001年版の投資奨励項目のうちの非鉄金属産業関連の項目を抄出して掲げる。赤字で示しているのは2007年版と比較して追記されている部分で、緑字で示しているのは2007年版と比較して記載内容が異なっている部分である(表5~6についても同様)。黒字で示しているのは2007年版と2011年版で同じ記載がされている部分であり、各表ごとにこれに表わしきれない2011年版での削除事項やコメントを掲げている。全般的には変化はないが、所々で更新が見られる。なお、一部に石油・石炭関連を含み、非鉄金属産業関連で大づかみに抄出している。
 表2では採鉱業として設定されている投資奨励項目を掲げた。

表2. 投資奨励リスト-1

2.採鉱業
   1 石炭ガス(原文は「煤層気」)の探査、開発と鉱井ガスの利用(合資、合作に限る)
 2 石油、天然ガスのリスク探査(原文は「風険堪探」)、開発(合資、合作に限る)
 3 低浸透ガス田(原文は「低滲透油気蔵(田)」)の開発(合資、合作に限る)
 4 原油採収率の向上及び関連新技術の開発と応用(合資、合作に限る)
 5 物理探査、ボーリング、検層(原文は「測井」) 、録井(原文のママ)、油井作業等の石油探査
   開発に関わる新技術の開発と応用(合資、合作に限る)
 6 オイルシェール、オイルサンド、重油、超重油等の通常と異なる石油資源の探査と開発
  (合資、合作に限る)
 7 鉄、マンガン鉱山の探査、開発及び選鉱
 8 鉱山尾鉱の利用効率を向上させる新技術開発と応用及び鉱山生態回復技術の総合応用
 9 シェールガス、海底天然汽水合物(原文のママ)等の通常と異なる天然ガス資源の探査と開発
  (合資、合作に限る)

 赤字で示しているように、2007年版ではただし書きとして「合作に限る」とされていた項目のいくつかに「合資」が加えられた。JVとしての資本参加が可能となっている。また9項の「シェールガス、海底天然汽水合物(原文のママ)等の通常と異なる天然ガス資源の探査と開発(合資、合作に限る)」は2007年版では海底メタンハイドレード(原文は「海底可燃冰」)の探査、開発(合作に限る)」であり、定義が広くなっている。他にも海洋関連での項目新設も見られ(例えば「科学研究、技術業務と地質調査業」に「海洋開発及び海洋エネルギーの開発技術、海洋化学資源の総合利用技術、関連する産品の開発と高度加工技術、海洋医薬と生化学製品開発技術」や「海洋監測技術(海洋浪潮、気象、環境監測)、海底探測と海洋資源探査評価技術(原文のママ)」などが奨励リストに挙げられている)、中国の今後の海洋への進出が表明されている。
 表3は投資奨励項目のうちの製造業として設定されている非鉄金属産業関連の項目を抜き出したものである。

表3. 投資奨励リスト-2

3.製造業 その1
  14.非金属鉱物製品業
   14 精密高性能陶磁器原料生産
   炭化ケイ素(SiC)超微粉体(純度>99%、平均粒径<1μm)、窒化ケイ素(si3n4)超微粉体(純度
   >99%、平均粒径<1μm)、高純度超微細酸化アルミ粉(純度>99.9%、平均粒径<0.5μm)、低
   温焼結酸化ジルコン(ZrO2)粉体(焼結温度<1,350℃)、高純度窒化アルミ(aln)粉(純度>99%、
   平均粒径<1μm)、ルチル型tio2粉(純度>98.5%)、ホワイトカーボン(粒径<100nm)、チタン酸
   バリウム(純度>99%、平均粒径<1μm)< td="">
 16 非金属鉱の精細加工(超微粉破砕、高純度、精製、改質)
 23 非金属鉱山尾鉱の総合利用の新技術開発と応用及び鉱山生態回復(原文のママ)
15.非鉄金属製錬及び圧延加工業
   1 直径200mm以上のシリコン単結晶及びウェハー生産
 2 先進新技術による以下の非鉄金属材料生産:
   化合物半導体材料(ヒ素-ガリウム、リン-ガリウム、インジウム-リン(原文は「燐化錮」)、窒素-
   ガリウム)、高温超電導材料、記憶合金材料(チタン-ニッケル、銅基及び鉄基の記憶合金材料)
   、ナノメートル炭化カルシウム超微粉及び超微粉晶質合金、超硬複合材料、放熱器用アルミ箔
   、中高圧コンデンサ用カソードアルミ箔、特殊大型アルミ合金型材、アルミ合金精密鍛造部品、
   電化鉄道架空導体、超薄銅箔、耐食熱交換器銅合金材、高性能銅ニッケル・銅鉄合金条、ベ
   リリウム銅の条・線・管及び棒加工材、耐高温抗減衰タングステン線、マグネシウム合金鋳物
   部品、鉛フリー半田、マグネシウム合金及びその応用品、泡沫(原文のママ)アルミ、チタン合
   金条及びチタン溶接管、原子力用スポンジジルコニウム、タングステン及びモリブデンの高度
   加工品

 2007年版では「精密高性能陶磁器原料生産」の項目分類は「精密高性能陶磁器及び多機能原料生産」と「及び多機能」の部分が2011年版では削除されている。また、前述のように環境への対応から「非金属鉱山尾鉱の総合利用の新技術開発と応用及び鉱山生態回復(原文のママ)」が新規奨励項目として追加されている。
 「15.非鉄金属製錬及び圧延加工業」のうち、2011年版で「直径200 mm以上のシリコン単結晶及びウェハー生産」と記述されている項は、2007年では直径200 mm以上のシリコン単結晶及びウェハーと多結晶シリコン生産」で、「多結晶シリコン」が削除されている。中国国内での多結晶シリコン技術が向上し、今や競争過多に陥っている状況を映しているものと見られる。
 また、2007年版では「15.非鉄金属製錬及び圧延加工業」の中の「先進新技術による以下の非鉄金属材料生産:」に続いて「新型高性能水素貯蔵材料、リチウムイオン電池電極材料」が掲げられていたが、2011年版では表5の通りこの字句が削除されている。これは表4の「先進新技術によるグリーン電池製造:」の新設項に含まれたものと見られる。
 表4では表2~3に続く投資奨励リストの製造業を掲げた。「省ニッケルステンレス鋼製品の製造」は2011年版で新たに登場した項目で、具体的にはマンガン系(200番台)を示しているのではないかと思われる。

表4. 投資奨励リスト-3

3.製造業 その2
  16.金属製品業
   4 省ニッケルステンレス鋼製品の製造
18.専用設備製造業
    1 無軌道の鉱山採掘運搬設備
   200t以上の鉱山ダンプトラック、移動式破砕機、5,000m3/時以上の大型採炭機、8m3以上の
   鉱山用ホイールローダー、2,500kW以上の電動牽引採炭設備等
  2 物理探査、測定設備
   MEME地震検波器、デジタル震度テレメーター、デジタル画像計測システム、自動ボーリング
   装置と器具、MWDボーリング測定儀
 15 多元素、細顆粒で難選鉱冶金金属鉱産品の選鉱装置製造
 59 アルミ工業の赤泥総合利用設備の開発と製造
 60 尾鉱総合利用設備の製造
 61 廃棄プラスチック、電器、ゴム、電池回収処理再生利用設備の製造
20.電気機械及び器材製造業
   11 先進新技術によるグリーン電池製造:
   動力用ニッケル水素電池、亜鉛ニッケル蓄電池、亜鉛銀蓄電池、リチウムイオン電池、太陽
   光電池、燃料電池等(新エネルギー自動車用動力電池を除く)

 「18.専用設備製造業無軌道の鉱山採掘運搬設備」の「無軌道の鉱山採掘運搬設備」では仕様がアップされている。2011年版の「200 t、5,000 m3/時、8 m3、2,500 KW」は2007年版ではそれぞれ「100 t、3,000 m3/時、5 m3、2,000 KW」であった。
 また、「アルミ工業の赤泥総合利用設備の開発と製造」「尾鉱総合利用設備の製造」「廃棄プラスチック、電器、ゴム、電池回収処理再生利用設備の製造」はそれぞれ2011年版で新規設定されている。前述のように環境対応施策を表したものと見られる。

3-2. 投資制限項目
 表5に投資制限項目について非鉄金属産業関連の項目を抄出して掲げる。2007年版と比較して削除された項目はなく、ほとんど2007年版を引き継いで2011年版となっている。採鉱業では「ダイヤモンド、アルミ含有の高い耐火粘土、ウオラストナイト、石墨等重要な非金属鉱物の探査、開発採掘」の項目で「アルミ含有の高い耐火粘土、ウオラストナイト、石墨」が追加され、「貴重な」が「重要な」と書きかえられている。

表5. 投資制限リスト

2.採鉱業
   1 特殊及び不足石炭種の探査、開発採掘(中国側がコントロールすること)
 2 重晶石探査、開発採掘(ただし、合資、合作に限る)
 3 貴金属(金、銀、プラチナ族)の探査、開発採掘
 4 ダイヤモンド、アルミ含有の高い耐火粘土、ウオラストナイト、石墨重要な非金属鉱物の
  探査、開発採掘
 5 燐鉱石、リチウム鉱石、硫鉄鉱の開発採掘、選鉱 、 塩湖鹹水資源の分離精製
 6 アシャライト(原文は「硼镁石」)及びルドウィル(原文は「硼镁鉄鉱石」)の開発採掘
 7 天青石(以上原文のママ)の開発採掘
 8 海洋マンガン団塊、海砂(原文のママ)の開発採掘(中国側がコントロールすること)
3.製造業
  9.非鉄金属製錬及び圧延加工業
   1 タングステン、モリブデン、錫(錫化合物を除く)、アンチモン(酸化アンチモン
  と硫化アンチモンを含む)等レアメタルの製錬(渡邉注;精錬を含むか)
 2 電解アルミ、銅、鉛、亜鉛等非鉄金属製錬(渡邉注;精錬を含むか)
 3 レアアースの製錬と分離(ただし、合資、合作に限る)

3-3. 投資制限項目
 表6に投資禁止項目について非鉄金属産業関連の項目を抄出して掲げる。2007年版と比較して追加・削除・書き換えされた項目はなく、2007年版を引き継いで2011年版となっている。

表6. 投資禁止リスト

2.採鉱業
   1 タングステン、モリブデン、錫、アンチモン、蛍石の探査、開発採掘
 2 レアアースの探査、開発採掘、選鉱
 3 放射性鉱産品の探査、開発採掘、選鉱
3.製造業
  3.非鉄金属製錬及び圧延加工業
   1 放射性鉱産品の製錬、加工

4. まとめ

 外商投資産業指導目録の改定に伴い、2011年版を2007年版と比較して内容の変化を検討した。この結果、最近の中国の動向を映した改定が行われていることが確認でき、全般的には大きな変化はないことが分かった。
 なお、原文は以下のサイトで見ることができる。
2007年版
 http://www.sdpc.gov.cn/zcfb/zcfbl/2007ling/W020071107537750156652.pdf
2011年版
 http://wzs.ndrc.gov.cn/gzdt/W020111229383246456230.pdf

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