閉じる

報告書&レポート

2012年5月31日 ロンドン事務所 萩原崇弘
2012年27号

国際非鉄研究会参加報告(1)2012年春季国際銅研究会(ICSG)参加報告

 2012年4月26~27日、ポルトガル・リスボンにて、第20回一般総会を始め国際銅研究会(ICSG)の一連の会議が開催され、メンバーである23の国・地域の代表、オブサーバー国、業界団体、コンサルタント等70名ほどが参加した。日本からは、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物資源課 鯉江雅人課長補佐、三菱マテリアル㈱、高梨友宏前ロンドン事務所長、上山智嗣ロンドン事務所長のほか、JOGMEC本部及びロンドン事務所から4名が参加した。
 国際非鉄3研究会(ニッケル(INSG)、銅(ICSG)、鉛・亜鉛(ILZSG))は、メンバー各国からの拠出金で運営されている国際機関であり、その最も重要な役割はメンバー国間の情報共有など意見交換にある。特に各研究会統計委員会が公表する需給見通しは、主要生産国等から提出された数値を基に各委員会での議論を経て算出されており、公的統計として世界の市場関係者から高く評価されている。
 今回のICSGにおいても、今後銅生産の生産増が見込まれるイラン、DRCコンゴ等からのプレゼンを含め、2012年及び2013年の鉱山生産、製錬生産、消費、需給バランスなどの需給見通しを始めとした各種テーマについて、各国代表、専門家を交えた議論が行われた。講演資料の多くは、以下のICSGのURLで公表されているので適宜参照していただきたい。
http://www.icsg.org/index.php?option=com_content&task=view&id=90&Itemid=64

写真1. 2012年春季国際銅研究会(ICSG)会合で説明する鯉江氏
写真1. 2012年春季国際銅研究会(ICSG)会合で説明する鯉江氏

1. 第39回統計委員会

(1) 世界の2012/2013銅市場の需給見通し
 世界の銅市場の需給見通しについて、事務局から全体像の説明があった後、各国の生産予測の議論、修正等を経て、需給見通しの取りまとめを行った(表1~4参照)。
 2012年の銅の需給見通しについては、銅地金生産量は対前年比2.5%増の2,014万9,000 t、銅地金需要は同比2.5%増の2,038万6,000 t、需給バランスは23万7,000 tの供給不足と一昨年、前年から引き続き3年連続の供給不足と予測した。なお、鉱山生産は対前年比5.1%増の1,684万8,000 tと予測した。
 また、2013年については、銅地金生産は対前年比6.9%増の2,154万9,000 t、銅地金需要は同比3.9%増の2,118万8,000 t、需給バランスは36万1,000 tの供給過剰と4年ぶりに供給不足から供給過剰に転ずると予測した。なお、鉱山生産は対前年比7.6%増の1,812万7,000 tと予測した。
 この理由として、同研究会のAna Rebelo主任統計官は、需要面では、世界的な景気の減速、欧州の公的債務問題、中東等の情勢の不安定化等から需要が大きくは伸びないと予想されること、これらを受けて中国等新興国の需要拡大が減速していることなどを挙げていた。また、供給面では、鉱石の低品位化、労働問題の顕在化、投資の低迷などの操業面の制約はあるものの、銅価格が比較的高値で推移していること、2012年にはチリ等の既存鉱山の生産回復、2013年にはモンゴル新規鉱山の生産開始などにより銅精鉱不足が短期的には改善される可能性があるとの見解を述べていた。

表1. 銅鉱山生産(千t)

  2010年実績 2011年実績 2012年推計 2012/2011
伸び(%)
2013年予測 2013/2012
伸び(%)
アフリカ 1,306 1,471 12.6% 1,740 18.3%
北米 2,146 2,291 6.8% 2,511 9.6%
中南米 6,848 7,532 10.0% 7,879 4.6%
ASEAN10 766 680 -11.2% 910 33.8%
その他アジア 1,768 1,875 6.1% 2,153 14.8%
(内、中国) 1,299 1,390 7.0% 1,500 7.9%
CIS 470 513 9.1% 537 4.7%
EU27 788 791 0.4% 813 2.8%
その他欧州 844 855 1.3% 865 1.2%
オセアニア 1,099 1,225 11.5% 1,314 7.3%
世界計 16,037 16,035 16,848 5.1% 18,127 7.6%

表2. 銅地金生産(千t)

  2010年実績 2011年実績 2012年推計 2012/2011
伸び(%)
2013年予測 2013/2012
伸び(%)
アフリカ 961 1,165 21.2% 1,320 13.3%
北米 1,706 1,776 4.1% 1,876 5.6%
中南米 3,716 3,695 -0.6% 3,765 1.9%
ASEAN10 518 449 -13.3% 567 26.3%
その他アジア 8,048 8,711 8.2% 9,307 6.8%
(内、中国) 5,197 5,610 8.0% 6,150 9.6%
CIS 428 490 14.5% 505 3.1%
EU27 2,717 2,748 1.1% 2,772 0.9%
その他欧州 1,079 1,109 2.8% 1,144 3.2%
オセアニア 477 503 5.5% 503 0.0%
調整項     -497   -211  
世界計 19,006 19,650 20,149 2.5% 21,549 6.9%

(注)調整項は、精鉱不足に伴う一次製錬生産の減少及び過去5年間の推移からの調整

表3. 銅地金消費(千t)

  2010年実績 2011年実績 2012年推計 2012/2011
伸び(%)
2013年予測 2013/2012
伸び(%)
アフリカ 282 275 -2.5% 291 5.8%
北米 2,202 2,281 3.6% 2,355 3.2%
中南米 592 609 2.9% 650 6.7%
ASEAN10 734 782 6.5% 824 5.4%
その他アジア 11,387 11,749 3.2% 12,276 4.5%
(内、中国) 7,917 8,200 3.6% 8,600 4.9%
CIS 99 100 1.0% 102 2.0%
EU27 3,300 3,264 -1.1% 3,309 1.4%
その他欧州 1,165 1,200 3.0% 1,254 4.5%
オセアニア 123 125 1.6% 127 1.6%
世界計 19,354 19,885 20,386 2.5% 21,188 3.9%

表4. 銅需給バランス(千t)

  2010年実績 2011年実績 2012年推計 2012/2011
伸び(%)
2013年予測 2013/2012
伸び(%)
生産 19,006 19,650 20,149 2.5% 21,549 6.9%
消費 19,354 19,885 20,386 2.5% 21,188 3.9%
バランス -348 -235 -237   361  

(2) 最近の日本の銅産業-2011-2012年の銅の需給/経済産業省 鯉江 雅人氏
 まずは東日本大震災への世界各国からの支援に心から感謝を申し上げる。
 今回の震災の日本の鉱工業生産指数への影響を見ると、2008年以降の世界金融危機と比べると1/11程度と小さいことがわかる。その理由は、自動車等の製造拠点の多くが西日本に位置しており震災の被害が限定されたこと、被害からの回復が早かったこと、外需への影響は限定されたことなどが挙げられる。一方、世界金融危機は、長期間世界市場に大きな影響を与えたことから外需に依存する日本の製造業全体への影響が大きかったためであると考えられる。
 ここで、日本国内の銅地金生産への影響を見ると、小坂、日立、小名浜の各製錬所が被害を受け、特に福島県の小名浜製錬所の被害は大きかった。これらの製錬所の生産能力は日本全体170万t/年の30%に及ぶが、小坂、日立は2011年4月に再稼働し、小名浜は同年7月には65%の稼働率だったが、同年9月には通常操業に戻った。このため、2011年4月以降、銅地金のチリ、豪州、中国、インド及び韓国からの輸入が急増したが、同年6月には国内の生産回復に伴い、輸入も元の水準に戻っている。
 一方、日本の銅地金の需要については、2011年は建設用の需要増はあったものの、電気機械、自動車等の需要減が大きく、全体では4%の減少となった。また、銅地金の輸出については、震災後の生産減の影響を受けて2011年では前年比17%減となった。
 2012年の日本の銅地金の需要については、震災からの復興需要による建設用等の需要増が世界市場の減速に伴う電気機械等の需要減の影響を相殺する形で、ほぼ前年同の水準ではないかと推測している。

(3) イランの銅産業/イラン銅公社(NICICO) Ardeshir Saad Mohammadi氏
 イランには北西から南東にかけて銅鉱床が分布している。イランの銅埋蔵量は、世界の全埋蔵量の4%、第7位に相当する2,150万tである。イラン銅公社(National Iranian Copper Industries社:NICICO)は、イラン最大の銅鉱山であるSarcheshmeh銅鉱山のほか、Shahre babak銅鉱山、Sungun銅鉱山などを所有する。Sarcheshmeh銅鉱山は、2011年時点での埋蔵量892万t、年間生産は銅鉱石2,200万t、銅地金25万2,500 tであるが、2015年までに銅鉱石4,600万t、銅地金29万t超にまで生産拡大する予定である。Shahre babak銅鉱山では、現在の年間生産量は、銅鉱石500万t、銅精鉱15万tであるが、2015年までに銅鉱石1,200万t、銅精鉱31万tを生産するとともに、銅地金の生産を20万t規模で開始する予定である。さらに同国北部のSungun銅鉱山では、現在の年間生産量は、銅鉱石700万t、銅精鉱15万tであるが、2015年までに銅鉱石2,100万t、銅精鉱45万tを生産するとともに、銅地金の生産を20万t規模で開始する予定である。
 当社全体の2011年の銅生産(銅純分量換算)は、銅鉱石25万9,000 t(4位/14位)、銅精鉱27万t(6位/16位)、銅地金22万7,000 t(7位/20位)となっている(カッコ内の数字はアジア及び世界での順位)。生産している銅地金は非常に高品質であるため、国内用に販売するほか、海外に輸出している。なお、当社は2006年にテヘラン株式市場に上場している。
 当社としては、鉱物資源の新規探鉱・開発、既存鉱山の再開発、環境保護・持続的開発などを戦略の柱としている。生産面では、2015年までに年間70万tの銅地金生産を目指しており、同国北部、南部を中心に2010年には6鉱山、2011年には5鉱山の開発を新規に行い、製錬所、インフラ等を含めて100億US$の投資を予定している。

(4) 成長する銅鉱山生産(新たな銅供給源)
(a) チリの銅供給の成長/CODELCO Juan Cristobal Ciudad氏
 CODELCOは、2011年での世界の銅生産の11%(第1位:180万t)、銅埋蔵量の9%、モリブテン生産の9%(第2位:2.3万t)を誇り、Chuquicamata鉱山のマインライフ2057年までに代表されるように所有鉱山のマインライフも長い。
 当社としては、特に当社の銅生産が今後とも世界の銅生産を牽引できるように重要プロジェクトを推進することに力を入れている。重要プロジェクトとしては、①Ministro Hales(2013年、16万t)、②Radomio Tomic Sulphides Phase Ⅱ(2016年、34.5万t)、③El Teniente New Mine Level(2018年、41.5万t)、④Chuquicamata Underground(2018年、34.3万t)、⑤Andina PhaseⅡ(2019年、30.6万t)の5つがある(カッコ内は生産開始年、年生産量。以下同じ。)。この5つのプロジェクトに2012~2016年の5年間に260億US$(これは当社の2011年までの35年間の投資の2/3に当たる。)を投資することにより、2012年以降減少する見込みの銅生産に歯止めをかけ、10年後の2021年には年間の銅生産量を2011年の180万tから28%増の230万t近くまで増加させる予定である。
 チリにおける当社の銅生産シェアは現在35%程度(2011年)である。一方、当社以外にもCaserones銅鉱山(2013年、19万t)、Sierra Gorda銅鉱山(2015年、22万t)など新規鉱山が生産を開始予定である。そのため、今後2011~2021年にかけてチリ全体の銅生産量は年平均4%で上昇すると見込んでいる。

(b) メキシコの銅産業/メキシコ地質調査所(MGS) Alfonso Martinez Vera氏
 メキシコの銅生産の多く(74%)は斑岩銅鉱床から生産されている。メキシコの銅生産の推移を見ると、2006年以降、労働組合のストライキの影響で大きく落ち込んでいたが、2011年にはスト前の水準である44万tにまで回復した。主な銅鉱山としては、Grupo Mexico社が所有するBuenavista del Cobre銅鉱山(旧Cananea鉱山:年生産量17.2万t)やLa Caridad銅鉱山(同11.4万t)、Grupo Peñoles社所有のMilpillas鉱山(同2.6万t)などがある。また、同国の鉱物生産高139億US$(2010年)のうち、銅は13%であり、金が20%、銀が16%、亜鉛が8%、鉛が2%となっている。
 同国の銅資源は、2012年現在、世界第4位の3,800万t(5.5%)の埋蔵量を誇るが、また、同国の埋蔵量は5,760万tまで拡大するというUSGSとMGSの合同調査報告もある。
 MEG(Metal Economics Group)によれば、世界の探鉱費のうち同国の探鉱費は6%を占め、銅だけ見ると同国の探鉱費は世界全体の2%(7,170万US$)を占めている。今後、Grupo Mexico社のBuenavista del Cobre銅鉱山等の拡張が実現すれば、2015年の同国の銅生産量は87.5万tにまで拡大する。また、未開発のEl Arco鉱床(鉱石埋蔵量10.6億t)及びBaherachi鉱床(鉱石6億t)等の開発が中長期的な生産量の向上に資する。

(c) 国際海底機構(ISA)の役割/ISA事務局長 Nii Allotey Odunton氏
 国際海底機構(ISA:International Seabed Authority)とは、国連海洋法条約に基づき1994年11月16日に設立された国際機関である。加盟国は161か国及びEUで、事務局はジャマイカの首都キングストンにある。
 同機構の主な役割は、国連海洋法条約により人類の共同の財産であると規定された深海底(いずれの国の管轄権も及ばない区域(各国の大陸棚の外側の海底及びその下))の資源の管理であり、資源開発に係る各種手続規則の策定や採択のほか、深海底鉱物資源の科学的調査の推進、深海底の環境保護問題への対応などを行っている。
 海底に賦存する主な鉱物資源としては、多金属団塊(いわゆるマンガン団塊)、コバルトリッチクラスト、多金属硫化物(いわゆる海底熱水鉱床)が挙げられる。
 1982年の決議において、マンガン団塊については、先行投資を保護するために一定額の支出を行う事業主体を先行投資者として資格を付与し、条約発効後も優先権を与えることとされていた。そのため、先行投資者として日本(㈱深海資源開発(DORD))のほか、インド、ロシア、フランス、中国、東欧諸国連合、韓国の7者が登録され、条約発効、マンガン団塊の規則の採択・承認(2000年)を経て、探査活動が行われた。その後、ドイツ(2006年)、ナウル(2011年)、トンガ(2012年)からの探査申請が承認され、現在では10者がISAとの間で探査契約を結んでいる。具体的な探査活動地域は、ハワイ南東方沖のClarion-Clipperton断裂帯(CCZ)と中央インド海盆(CIOB)とがあり、それぞれ9つ、1つの探査契約がなされている。
 また、海底熱水鉱床及びコバルトリッチクラストについては、1998年の第4回総会においてロシアから1980年代以降の調査結果が示されたものの、マンガン団塊と比較して必要な情報が不十分だったことから、ワークショップ等により知見の蓄積がなされてきた。その後、海底熱水鉱床については、2007年の法律技術委員会の勧告を経て、2010年の理事会・総会で規則案が採択された。現在、中国及びロシアの探査活動の申請が承認されている。コバルトリッチクラストの規則については、2010年の法律技術委員会の勧告を経て、2011年の理事会から審議が開始されており、2012年の理事会・総会で採択される見込みである。

(d) Nautilus Minerals/Nautilus Minerals社 Tony O’Sullivan氏
 現在、海底資源として熱水活動や海底鉱物が300か所以上で発見されており、そのうち100か所が多金属硫化物鉱床(いわゆる海底熱水鉱床)であるが、まだ探査が全く不十分であり、潜在的には3倍以上の鉱床が賦存していると言われている。
 海底熱水鉱床は、地殻内の元素が抽出された高温水が海底から噴き出す際に冷却されて鉱物が沈殿して生成する鉱床である。
 当社は、トロント市場(TSX)及びロンドン市場(AIM)に上場しており、時価総額は4億1,500万US$で、パプアニューギニアのSolware 1プロジェクト(S1:開発中)のほか、トンガ、ソロモン諸島等のCCZで探鉱案件を保有している。
 S1プロジェクトは、パプアニューギニアのビスマルク海にあり、周囲の水深は1,600 mである。これまでの探査結果によれば、鉱物学的には黄銅鉱、黄鉄鉱、無水石膏、バライトから構成されており、硬度も非常に柔らかいという特徴があり、銅は品位7.2%、埋蔵量7万4,169 t、金は品位5.0 g/t、埋蔵量16万5,600 ozと非常に高品位である。
 本プロジェクトは、フェーズ1:海底生産システムとフェーズ2:製錬・精練システムの2段階からなり、フェーズ1を現在の資金で行い、フェーズ2はフェーズ1の結果として得た資金で実施する予定である。
 本プロジェクトの海底生産システムは、海底で3機のリモートの生産機器が岩を細かく砕いて回収し、それを海上の生産サポート船まで吸い上げるという仕組みである。既に生産サポート船の製造に入っており、今後2012年Q4から各種生産テストを実施し、2013年Q4には生産開始にこぎ着けたい。なお、先週には中国安徽省南部銅陵(トンリン)市の企業と精錬銅の買い取り契約を締結したところである。
 当社としては、海底鉱床の開発は、設備も最小限で、残渣も少なく、環境にやさしい操業体系だと考えている。

(e) 長期的な銅市場動向/Deutsche Bank社 Xio Fu氏
 過去の世界の銅需要の伸びとGDP成長率とを比較してみると、1970~2010年の平均で、銅需要の伸び/GDP成長率=0.68となっている。今後は、新興国の産業化が進むことにより、この比率が高まるが、GDP成長率の鈍化により、銅需要の伸びは過去50年間の3.4%から今後3%程度に低下すると考えており、銅地金は2025年までに新たに1,100万t必要となると推計している。
 銅は、アルミニウムよりも熱や電気の伝導率が65%優れているなど、電気伝導性や展延性等に優れている。しかし銅価格がアルミニウム価格の1.7倍を超えると銅からアルミニウムへの代替の検討が始まると言われている。2004年以降、銅/アルミニウム価格比率は、1.7倍を超え、2005年以降は2倍を超えており、国際銅協会(ICA)の推計では2004~2009年間で220万tの銅需要がアルミニウム等に代替したとしており、当社としては2009年以降に40~50万tは代替が進んだと推計している。具体的には、建設用ケーブル・ワイヤー、産業機械、運送機械、自動車等の分野で代替が進んだが、今後は冷凍機、空調機等銅管部分の代替が進むのではないかと考えている。
 銅需要の一定量はリサイクルにより賄われるが、銅価格により銅需要のうちリサイクル銅が占める割合は14~21%の間で変化すると想定している。1980年代以降、リサイクル銅の消費量は年平均約3.1%で伸びており、これは銅全体の消費量の伸びよりも0.4%大きい。これは、銅価格が高値で安定しているためである。
 一方、銅鉱山からの生産については、品位の低下、生産コストの上昇が顕著である。世界の銅鉱山の平均品位は、新規に銅鉱山が発見されると一時的に上昇するが、傾向としては低下傾向にある。高い銅価格は、低品位の銅鉱山からの生産を促進する効果があると考えている。また2020年までに閉山により年産390万tが減少し、鉱山拡張や新規案件とスクラップで補完されるものの、こうした傾向の下では、2020年までに当社としては、銅鉱山から新たに600万tの銅生産に見合う鉱石生産が必要となると考えている。
 銅価格については、2004年以前は3,000 US$/t以下で推移していたが、2004年以降、中国等の新興国需要の高まりから銅価格が急騰し、その後、世界金融危機の際に下落したもののその後は持ち直している。当社の推計によれば、銅供給は当面の10~15年間は十分確保されるが、生産コストは上昇傾向にあることから、長期的に新たな銅鉱山開発が進み、需要に見合った銅供給が確保されるための銅価格(“Copper incentive price”)としては、2.77 US$/lb(6,101 US$/t)以上の水準は必要であろうと考えている。

(f) DRCコンゴ/DRCコンゴ鉱山省 技術連携・企画部次長 Dieudonné-Louis Tambwe氏
 DRCコンゴは、西部、南部等において数多くの鉱物資源を産出している。銅については、Katanga州南部に隣国ザンビアにも跨るカッパーベルトがあり、その中は西部(Kolwezi)、中央部(Likasi)、南部(Lubambashi)に分かれている。
 国内には、①Tenke Fungurumeプロジェクト(埋蔵量1,050万t)、②SICOMINES社のプロジェクト(同698万t)、③Katanga Mining社の3プロジェクト(同220万t)、④SODIFORプロジェクト(同143万t)、⑤RUASHIプロジェクト(同114万t)などが賦存している。②は今回の会議直前に国営鉱山会社Gecamines社と中国企業のコンソーシアムから報告されたものである。
 現在生産中のTenke、Katanga等の7プロジェクトから2013年には少なくとも28万t/年以上の生産増を見込んでいる。特にKatanga鉱山は現在の7万t/年から2012年には15万t/年に、2015年には25万tに拡張予定で、Tenke鉱山は現在の銅生産量11万5,000 t/年から2012年には25万t/年、さらに将来的には40万t/年になる予定である。
 こうしたことからDRCコンゴの銅生産量は、現在の50万8,103 t/年(2011年)から、2012年には59万1,939 t/年、2015年には150万t/年ほどまで増加すると考えている。
 銅産業が持続的に発展するためには、銅地金生産を増やす等の高付加価値化、資金調達コストの低減やマインライフを延伸することも重要である。DRCコンゴの鉱山は品位が高く、世界の銅鉱山でも比較的低コストで操業可能であり、実は最も問題なのは、鉱山ではなく、エネルギー、輸送等のインフラ等の整備の問題である。電力エネルギーについては、鉱山生産の拡大に対応するべく、140 GWhレベルの水力発電の開発を行う予定であり、2015年までには電力の需給ギャップは100 MW以内となる予定である。また、広大な国土をカバーする道路、鉄道の建設、鉱石等を備蓄する倉庫の建設なども重要である。こうしたインフラ建設にはPPP(官民パートナーシップ)により民間企業からの投資を求めて整備を進めていく予定である。

(g) 銅生産における新興国/ICSG事務局 Ana Rebelo氏
 この10年間の世界の銅埋蔵量(2011年:USGS)の推移を見ると、チリ及びペルーにおける銅埋蔵量の増加が著しく、その他の既存の銅生産国が微増又は減少傾向であるものの、新規の銅生産国の台頭が見て取れる。
 この10年間で銅鉱石生産を開始した国としては、ラオス、パキスタン、モーリタニア、オマーン、サウジアラビア、ドミニカ、ボリビアがあり、2012年にはこれらの国々の銅鉱石生産量は30万t/年、2020年には60万t/年まで達すると期待される。
 一方、今後10年間で銅鉱石生産を開始する国としては、アフガニスタン、エクアドル、パナマ等があり、2020年にはこれらの国々で150万t/年まで生産が拡大する可能性がある。
 さらには、スペイン、ブラジル、アルゼンチン、モンゴル、DRCコンゴ等は、現在の銅鉱石生産量はあまり大きくはないが、今後生産量が急速に拡大し、これらの国の合計で2020年には300万t/年まで生産が拡大する可能性がある。
 それ以外にもNautilus Minerals社から説明があったとおり、海洋資源の開発など新しい供給源の可能性が指摘されており、既存の銅生産国の動向とともに、新しい生産国の動向に注目することが重要である。

(3) 銅生産国紹介:ザンビアの銅産業/ICSG事務局 Susanna Keung氏
 ザンビアでは、Rohdesia-Selection-Trust社及びAnglo Americanにより1930年代から鉱山開発活動がはじまった。1964年のザンビア独立後、銅産業は、国営鉱山会社(ZCCM)により国営化され、1969年に75万t/年の鉱石生産を誇っていたが、1970~80年代の新規投資の不足により、銅生産が減少していった。1991年以降、Chiluba政権下で、銅産業の改革が行われ、銅鉱山の民営化がすすみ、安定した投資と高水準の銅価格により銅鉱石生産量は2000年の24万9,000 t/年から2010年には68万6,000 tまで増加した。
 同国には11銅鉱山が稼働中で2011年の銅生産能力は111万5,000 t/年、4銅製錬所が稼働中で2011年の銅粗銅生産能力は62万t/年、8銅精錬所が稼働中で2011年の銅地金生産能力は89万3,000 t/年となっている。
 同国内の銅消費については、74%が銅線、20%が銅管等となっており、近年は3万t弱で推移している。一方、銅の輸出は、そのほとんどが銅地金の輸出であり、鉱石・精鉱輸出は銅価格が高くなり始めた2004年から比率が少し大きくなったが、10万t/年前後と、銅地金75万t/年と比較すると小さくなっている。また、同国の銅地金の輸出先は、輸入国からの情報では主に中国、エジプト、サウジアラビア、韓国等と思われるが、新政権になったばかりで同国からの輸出国のデータが不十分であるという問題が生じている。
 ICSGとしては、同国の銅生産の見通しについて、2015年には銅鉱石173万7,000 t/年、銅精鉱75万t/年、銅地金111万3,000 t/年の生産能力に達すると予想している。

2. 環境経済委員会(第32回)

 今回の環境経済委員会では、世界経済の見通しと銅需給への影響に関連したプレゼンが行われたほか、世界銅フローモデルの開発状況、毎回ICSG事務局が実施しているリサイクルに関する調査研究の発表などが行われた。

(1) ICA世界銅フローモデル開発/ Fraunhofer Institute社 Simon Gloeser氏
 世界銅フローモデルは、国際銅協会(ICA)と共同で当社が開発中のものである。まず、世界の銅の一次生産、製品製造、消費、廃棄物処理、リサイクルによる銅の二次生産などを生産プロセス別、製品別等に分けて分析し、フロー図を作成し、そこにICSG、IWCC、ICAなど関係機関の有するデータを入力することにより、世界の銅フローの仮想的な姿を年次のシミュレーションモデルとして実現した。これにより例えば、製品別のリサイクル率の推計が可能となり、製品寿命が変化した場合の製品別のリサイクル率の変化などのシミュレーションを行うことなどが可能となる。
 今後はこのモデルを基に欧州銅協会(ECI)との協力の下、欧州モデルを作成することを予定している。

(2) 世界経済の銅需給への影響
(a) 世界経済の見通しと世界の銅需要・貿易・在庫への影響/CRU社 Paul Settles氏
 世界経済を見ると、低成長のOECD諸国と高成長の新興国との2つの成長のスピードがある。今後5年間の新興国の経済は、中国のGDP成長率は依然として高いものの緩やかに鈍化し、インドのGDP成長率が早晩中国を追い越すと推計している。一方、先進国と比較すると、中国もインドも人口一人当たりの経済規模は小さく、都市人口比率も中国50%、インド30%と低く、先進国の70%に到達するには相当の時間がかかる。今後の世界経済へのマイナス要因としては、ユーロ圏の公的債務問題、中東の不安定化、中国の経済失策等がある一方で、プラス要因としては金融政策の効果による米国、ドイツ等の経済回復等が考えられる。
 次に、2012~2016年の銅地金消費の将来見通しを地域別に見ると、当面は引き続き中国が世界全体の消費を牽引すると推測される。中国の半製品製造業における銅消費の動向を見ると、2011年H2には銅スクラップ消費が落ち込み、一次製錬銅の消費が拡大している。
 銅消費量の対実質GDP比の推移及び将来予測を見ると、2025年まで上昇するが、その後低下傾向に転ずると予想される。一方で、銅消費量の対人口比を見ると、引き続き上昇傾向が続くと予想される。
 半製品製造における銅スクラップ使用比率は、今後2035年までに徐々に増加傾向となる一方で、直接溶解の使用は減少傾向になると予想している。
 銅地金市場にとっては、電気自動車等環境技術や風力発電等再生可能エネルギーの増加などはプラスに、銅価格高騰に伴うアルミニウムへの代替などはマイナスに働くと考えられる。
 一方、供給面を見ると、2010年から2011年にかけてEscondida鉱山、Grasberg鉱山、Batu Hijau鉱山等カスタム製錬所向けの精鉱生産が大きく減少した。鉱業における減産リスクとしては、鉱石の低品位問題、労働問題、ライセンス料や税制等の制度改正、自然災害などが考えられる。今後予定されている新規の製錬所は中国に集中しており、2012~2016年における製錬所の能力増を国別に見ると87%を中国が占めている。今後の中長期的な銅供給の見通しとしては、銅スクラップ等の二次地金の利用増加が銅供給増の相当部分を占めると予想している。
 当社としては、銅価格については、2013年Q2以降在庫が大きく減少するものの価格は下落に転ずると予想している。また、2014~2016年は銅生産増により在庫増となり価格はさらに低下すると推測している。近年は在庫増にもかかわらず価格が上昇していたが、今後の在庫と価格の動向は従来のように逆相関の関係に戻ると予想している。また、銅価格の低下に伴い、2013年をピークに鉱山会社の利益率は下がり始め、生産コストの上昇の相俟って、2019~2022年には銅価格が限界費用銅価格を下回るという事態に陥ると推計している。銅価格に関するリスクは幅広く、生産リスク、経済・金融情勢、銅需要代替可能性、価格下落による新興国の需要増など様々な要因が関係している。

(b) 2011~2013年における銅及び代替材料の需要:銅線・ケーブル産業から見た展望/Integer Research社Philip Radbourne氏
 世界の銅線・ケーブル消費は、地域別に見るとアジア、国別に見ると特に中国の大幅な消費増に牽引されている。中国におけるケーブル生産量は、1995年は1,000 t弱だったが、2011年には8,000 t弱になっている。直近の2012年Q1の伸銅品の生産量はギリシャで前年比57.4%減、スペイン同10%減、イタリア同9.8%減等と急減し、EU全体でも前年比0.9%減となっている。スペインの生産減は企業合併の影響が出ている可能性がある。なお、当社では、3,000社に及ぶ主な伸銅メーカーの地域別、製品別の生産高情報を把握している。
 インドでは、近年急速に伸銅品の生産量が増加しており、2007年以降は年間生産量が50万t前後で推移している。インド伸銅メーカーの多くが中国にも進出しており、業態が非常に複雑になっているのが特徴である。
 一方、中国における伸銅消費の増加要因としては、同国における電気産業の拡大、特に日本の電気機械産業の中国進出が大きいと考えている。中国の伸銅分野への投資についても、日本、台湾等の電気機械産業の強い国の投資が大きい。中国では主な伸銅メーカーとして住友電気工業、TE Connectivity(米)、BELDEN(米)、LS Cable & System(韓)、古河電気工業、大電産業、日立製作所、フジクラなど900社以上が活動しているが、日本、韓国、米国等の主要電機メーカー用のハロゲンフリー銅線やEUのRoHS指令などに対応できる事業者は限定される。
 伸銅品の代替材料については、様々な製品にアルミニウムへの代替が考えられる。特にインド、米国、中国を除くアジア各国では建築用の分野で代替が進んでいる。一方、中国や中東では、アルミニウムは電線需要に使われている。最近では中東でアルミニウムのより線加工機が導入されている。また、欧州では、電気自動車への移行に伴う軽量化対策として自動車産業でアルミニウムへの代替が進んでいる。

(3) その他
 事務局から世界の銅半製品における銅の一次地金利用に関するデータベースの更新状況、中国の銅産業の現状に関する調査、世界の銅スクラップ取引における中国の銅スクラップの輸入・利用に関する調査など、現在実施中の調査研究の現状について説明があった。また、現在委託調査中である銅・鉛・亜鉛・ニッケルの副産物に係る調査研究のうち、銅関係の部分について委託調査会社(Oakdene Hollins社 Peter Willis氏)から現状の報告があった。
 これらの調査研究のうち、最終的に取りまとまった報告書やデータベースについては、ICSGのホームページから購入、利用が可能である。

3. 産業アドバイザリーパネル

 前回の2011年秋季会合において、ICSGの各種調査に対して様々な改善要望がなされたことや、今後のICSGで取り上げるべきテーマとして、銅資源を開発していかないと将来的に銅資源が枯渇する可能性について、世の中が正しく理解をしていない可能性があり、ICSGとして取り上げていくべき課題であるとの指摘があったことなどが紹介された。

4. おわりに

 前回の2011年秋季会合では銅地金のコモディティ化など、銅地金市場の最近の動向に焦点を当てていたが、今季は短期・中期の銅需給動向に焦点を当て、特に世界経済の減速がどのように銅需給に影響を及ぼすのかについて専門家からの様々な見解が示された。世界経済の減速傾向、特に欧州の公的債務問題などの影響は、銅価格の大幅な下落に一時的には影響はあったものの、現状では大きな影響を及ぼしていない。他方、チリ等の従来の銅の大生産国では、銅品位の低下、開発コストの増大、労働組合との問題など、様々なリスクが顕在化してきている。
 こうした銅供給の不安定要素を打開するためには、新規の銅鉱山開発が必要となるが、金融市場が不安定な中で投資コストの高まりなどが指摘されている。他方、銅価格の高値安定を背景として、銅生産の新興国が台頭しつつあり、近年中の生産開始を目指したプロジェクトが始まっているという報告は、新鮮な情報として関係者に受け止められた。
 次回の秋季会合は、例年どおりLMEウィーク前週の2012年10月8~10日にリスボンにて開催予定である。
 引き続きJOGMECロンドン事務所としては、世界の銅の需給動向に注視しつつ、情報収集及び発信に努めてまいりたいと考えている。

ページトップへ