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報告書&レポート

2012年6月14日 金属企画調査部 竹下聡美
2012年33号

国際非鉄研究会参加報告(4)2012年春季国際非鉄3研究会合同セミナー-鉱業及び金属が社会にもたらす利益とは-

 2011年4月23日から27日かけて、ポルトガル・リスボンにおいて国際非鉄研究会の春季会合である国際ニッケル研究会(INSG)、国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)、国際銅研究会(ICSG)が開催された。これに併せて合同セミナーが開催され、欧州委員会、豪州及びポルトガル政府並びに各業界団体が『鉱業及び金属が社会にもたらす利益』をテーマに講演を行った。
 なお、講演資料は各研究会のHPに掲載されているので参照いただきたい。
 ICSG:http://www.icsg.org/index.php?option=com_content&task=view&id=90&Itemid=64
 INSG:http://www.insg.org/presentations.aspx
 ILZSG:http://www.ilzsg.org/generic/pages/list.aspx?table=document&ff_aa_document_type=P&from=7

1. 基調講演/John Atherton氏、国際金属・鉱業評議会(ICMM)

 ICMMにとって、持続可能な発展のために鉱業が担うべき役割については、Rio+20(国連持続可能な開発会議(2012年6月20~24日))に向けて重要なテーマとなっている。
 鉱業及び金属産業は、税やロイヤルティ納付、雇用の確保などを通して社会に貢献している一方で多くの課題を有している。特に資源国においては、鉱業はマクロレベルでは外国直接投資や輸出額に占める割合が比較的大きいのに対して地域経済における税収、GDP、雇用に占める割合となると比較的小さいという現実の問題を抱えている。資源国では工業化や経済成長が遅れる傾向があることを指す「資源の呪い」という経済用語がよく知られているが、資源国自らが行政管理能力(ガバナンス)を高めることにより「資源の呪い」は避けるとともに鉱業からの利益を最大化することが可能である。ガバナンスが不十分な場合であっても、社会的・経済的利益のパイのサイズを大きくしてステークホルダー間の目的を共有化し、役割と責任を明確にしたパートナーシップを組むことができれば、鉱業からの利益を最大化できる。
 現在、気候変動や水問題、人権、生物多様性、汚職と透明性、労働災害、利益分配、貧困削減、先住民問題といった複雑な問題が増大しており、これらは鉱業にも関係している。企業の社会環境対策への重要性が増すのと同じく、資源ナショナリズムの動きも増加している。単一のステークホルダーではこれらの問題を効果的に扱うことはできないという認識が広まっており、多様なステークホルダーが協力し合う必要性が高まっている。利益、コスト、リスク、責任といった全ての面において、企業活動や政府規制、公的支援が短期的及び長期的に強化される必要がある。

2. 業界の視点

2-1. 『ステンレス-社会と環境のためのコスト削減』/Peter Kaumanns氏、国際ステンレスフォーラム(ISSF)
 ニッケルを含有するステンレス鋼は防食作用があり腐食による建築物等の維持管理、リハビリ等に係るコストを大幅に削減する。ステンレス鋼の初期投資費用は高いかもしれないが、5倍の法則でコスト削減を説明できる。例えば、建築物の設計や材料を改良するのに1 US$を使ったとすると、5 US$の予防保全費用を避けることができ、予防保全を実施すれば、25 US$の建設後の保全費用を削減することができ、またこれが実施されれば、125 US$の復旧費用を防ぐことができるというものである。World Corrosion Organizationは、世界での腐食防止に要する費用は1年当たり2.2兆US$で世界GDPの3%以上と試算している。
 ステンレス鋼の生産量は、1950年から2010年にかけて年ベースで5.6%伸びており、他の地金生産量と比較するとその差は明らかである(鉛1.93%、銅2.56%、亜鉛2.43%、アルミ3.09%、ステンレス鋼以外の鉄鋼2.32%)。ステンレス鋼の80%以上は最終的にリサイクルされており、ステンレス鋼の60%以上はリサイクル原料から製造されている。ステンレス産業の2010年の推定売上高は約1,110億US$で2011年の労働人口は約30万人であった。

写真1. メキシコ港町の桟橋。左側は1970年建設された炭素鋼鉄筋製の桟橋で海水腐食により崩壊。右側の桟橋は1941年にステンレスで補強され現存。(出典:講演資料)
写真1. メキシコ港町の桟橋。左側は1970年建設された炭素鋼鉄筋製の桟橋で海水腐食により崩壊。右側の桟橋は1941年にステンレスで補強され現存。(出典:講演資料)

2-2. 『鉱業の社会的利益:ニッケルの場合』/Mark Mistry氏、ニッケル協会(Nickel Institute)
 ニッケル産業及びそのバリューチェーンが社会にもたらす利益及び貢献については現状よく知られていない。ニッケル協会は、ニッケルのバリューチェーンとその重要性を可視化することを目的に2004年(及び2008年に再調査)にニッケル産業の社会経済分析を実施した。その結果、欧州のニッケルバリューチェーンは、EUでの製造業雇用の3~4%に相当する69万人(2004年時点)もの雇用を生み出し、ニッケル産業による付加価値製品売上額は400億€、更に広いバリューチェーンによる付加価値製品売上額では800~1,000億€と試算された。雇用者及び被雇用者は100億€もの雇用税(所得税及び社会保障費)を支払い、企業は法人税や地方税のほか40億€もの売上税を納付しており、ニッケル産業とそのバリューチェーンは税収入の相当部分を占めていると言える。

2-3. Tony Lea氏、国際銅協会(ICA)
 銅は電力、建設、インフラ、電気機械、自動車、通信等を始めとして様々な分野で使用されている。その中でも電力分野について、未だアフリカや南米、アジアの農村地域を中心に約14億人が電気を利用できない状態にある。銅はこれら送電インフラに係る400万t規模の潜在的な市場を有しているものの、現在の政策や投資はこれら需要を満たすには不十分である。また、銅はCO2削減でも大きな役割を果たしており、世界の電力使用の半分を占めるモーターについて、銅を使用する産業用高効率モーターに転換すれば、3,200億kW/hの電力削減及び2億tのCO2削減に寄与すると見込まれている。さらに、銅の高い抗菌作用から水産養殖や医療器具に利用されており、これらの分野で大幅なコスト削減に寄与している。

2-4. Frank Van Assche氏、国際亜鉛協会(IZA)
 亜鉛は様々な製品に使用され、現代生活に欠かせない元素である。亜鉛めっきは鉄鋼の防食対策として最も効果的・経済的で、自動車等の車体や住宅、商業設備、インフラの軽量鉄骨のほか、消費財や工業製品に広く使用されている。また、低コストで高いエネルギー効率が達成できるとして、酸化亜鉛を使用した次世代太陽電池の研究が進行中であるほか、燃料電池の一種である空気亜鉛電池が注目されており、実際に空気亜鉛電池は南アの農村地域で重要な電力源となっている。ニッケル亜鉛電池の充電式バッテリーは電気自動車にも応用でき、蓄電池システムは再生可能エネルギーの重要な要素である。さらに、亜鉛不足は世界の食料生産にとって重要な課題となっており、国際連合食糧農業機関(FAO)は、世界の穀物生産向け土壌の50%が亜鉛欠乏であると推定している。食糧生産は2050年までに人口増加に伴って70%増加させる必要があり、亜鉛は肥料への添加を通して重要な役割を果たすことが可能である。

2-5. Andy Bush氏、国際鉛協会(ILA)
 鉛は過去の金属と認識されているが、実際には消費量は年々拡大を続けており、主に鉛バッテリーとして自動車や小型航空機、船舶等のほか、産業用のバックアップ電源に使用されている。鉛産業は、リサイクルを促進し、鉛が持続可能な手段で製造され使用されているということを明らかにし、鉛に対するネガティブな見方を改善する必要がある。鉛は、多くの用途において価格面、資源再利用性、技術的性能の面で有利であるが、特に鉛酸バッテリーについては、他のバッテリーと比較して有利であると言える。

3. 政府の視点

3-1. 『鉱業と社会;義務と機会』/Chris Stamford氏、豪州資源エネルギー・観光省資源部門鉱物局
 豪州は世界規模の資源ブームを受けて、輸出額増、大規模な外国投資、雇用創出、地域開発、技術力向上、歳入増と確実に利益を享受してきた。また資源ブームは豪州国内において鉱業政策の議論を促進させ、鉱業への社会の期待を高めた。ただし、鉱業からの利益は、鉱山側、地域コミュニティ及び政府の三者が一定の義務を担うことによって確保されるものである。豪州政府は、途上国で活動する資源会社に向けた『途上国における鉱業及び金属部門での社会責任(Social Responsibility in the Mining and Metals Sector in Developing Countries)』ハンドブックを発行しており、また資源開発事業に伴う資金の流れの透明化を求めるEITI(採取産業透明性イニシアチブ)及び豪州鉱山開発イニシアチブを支援している。

3-2. 『CSRに係る欧州委員会の政策』/Tom Dodd氏、欧州委員会産業総局
 鉱山会社が社会にもたらす影響は、ポジティブではあるが時にネガティブになり得る。これら影響は収益、税金、雇用、人権、生産プロセス等について総合的な見方で考える必要がある。欧州委員会のCSR政策は、価値を最大化して悪影響を抑制又は軽減することを目標としており、国際的に認知されているCSRガイドラインである「OECD多国籍企業ガイドライン」、「国連グローバル・コンパクト」、「ISO26000ガイダンス」、「ビジネスと人権に関する指導原理」(国連)及び「国際労働機関(ILO)中核的労働基準」等の既存ガイドラインを考慮している。ステークホルダーの関与は、社会が鉱業及び鉱産物から得る利益を最大化するには必要であり、CSRガイドラインはそのプロセスにおいて重要な役割を果たす。

3-3. 『鉱業セクターの利益の最大化』/Alfredo Franco氏、ポルトガル経済革新開発省エネルギー地質総局
 資源国政府は、鉱業投資により、経済、環境、社会開発を促進させようとする場合、まずは脆弱な行政管理の改善、鉱物資源分野の人材育成等に係る法律制定や規制、ガイドラインを整備する必要がある。持続可能な開発にとって、閉山後に多様で発展的な産業を生み出すにはどうすればよいのかという課題があるが、物品・サービスの面で地域住民参加型の機会が与えられることが重要である。また同時に、売上高に応じたロイヤルティ等の透明性の高い方法で政府が鉱山企業から相応の収益を得ることも必要である。さらに、鉱山操業に際しては、高い環境評価基準での閉山計画を策定する必要があり、資源国政府は以下の取り組みを実施する必要がある。
 ① 閉山に係る法的規制枠組みを提供する。
 ② 閉山対策を監視する組織能力を有する。
 ③ 閉山目的と計画をステークホルダーに理解してもらう。
 ④ 新規鉱山が承認されるための許認可の前提条件として、閉山計画とそれに要する十分な財政補償を要求する。

4. 2012年秋季会合について

 2012年秋季会合は、2012年10月8~12日にポルトガルのリスボンにて開催される予定である。
 10月8日:国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
 10月9日:国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
 10月10日午前:国際ニッケル研究会(INSG)、午後:3研究会合同セミナー

テーマ『インドにおける鉱業と金属の重要性の高まり』

 10月11~12日:国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)

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