報告書&レポート
ナミビア共和国鉱山公社Epangelo社の事業内容について
-南部アフリカ諸国の国営鉱山会社に係る分析報告①-

![]() 写真. Epangelo社による事業説明 右;Eliphas Hawala氏(Managing Director) 左;Etuna Josua氏(Corporate Legal Advisor & Company Secretary) 2000年代に入り、中国・インドなどの新興国における資源需要の急激な増加、鉱物資源価格の上昇に伴い、資源国、特に新興国や発展途上国を中心に資源ナショナリズムの傾向が強くなってきた。その代表的なものに政府が国営鉱山会社を通じ、鉱山開発・操業に関与する形態があり、南部アフリカ地域においてもその傾向は顕著となっている。 |
1. 南部アフリカにおける「国営鉱山会社」設立の動き
資源ナショナリズム政策の代表的なものに政府が国営鉱山会社を通じ、鉱山開発・操業に関与する形態がある。南部アフリカ地域においても、ザンビア共和国のZCCM Investment Holdings Plc(主な対象鉱種:銅、コバルト等)、ナミビア共和国のEpangelo Mining Company Ltd.(主な対象鉱種:ウラン、銅、金、亜鉛、石炭等の戦略的鉱物(詳細は後述))、南アフリカ共和国のAEMFC; African Exploration Mining Finance Corp(主な対象鉱種:石炭等)、モザンビーク共和国のMozambique Mining Exploration Company(主な対象鉱種:ベースメタル等)などその傾向は顕著なものとなっている。
これら各国の国営鉱山会社が目指すものは、鉱業から得られる利益を自国経済発展に最大限に利用しようというものであるが、その方法や内容は各国それぞれ異なっている。本稿では、これら最近設立された鉱山公社のなかでも民間企業との共同事業(JV事業)の実施に向けて具体的な動きを見せているナミビア共和国のEpangelo社について報告する。

図1.南部アフリカの主な鉱山公社
2. Epangelo社設立の背景と経緯
(1) 背景
ナミビア鉱業は、これまでダイヤモンドへの依存度が高く、政府は、世界金融危機(世界同時不況)の影響でダイヤモンドに偏ったナミビア鉱業、特に探査活動が停滞したことを教訓に、鉱業の多角化を図る必要があるとの認識に至った。また、鉱山開発は民間企業に任されていたが、民間企業ではFS段階に入ると数多くの案件を同時に実施することは困難であり、特に初期段階の探査は困難になっていた。そのため初期の探査活動を担う機関が必要となった。

図2. ナミビア鉱業におけるダイヤモンド鉱業の占める割合
(2) 経緯
2008 年7月 100%政府出資(150万N$;約1.8億円)により登記される
2009年12月3日 Epangelo社が正式に設立
2010年7月 Eliphas Hawala氏(国営ダイヤモンド会社NamGemの前社長)が社長に就任
2011年4月20日 戦略的鉱物の探査権をEpangelo社にのみに付与する方針を閣議決定
3. Epangelo社設立の目的とビジネスモデル
(1) Epangelo社設立の目的
Epangelo社は、ナミビア政府100%出資の国営公社であり、その設立目的は、鉱山プロジェクトへ参入し、鉱業への国の関与を拡大し、持続的な鉱物資源開発、地元経済への裨益、JV参加を通じて経済を支えることとされている。
(2) Epangelo社のビジネスモデル
現在、Epangelo社は探査予算が限られており、探査技術者が極めて少ない状況であるが、将来的には、戦略的鉱物の探査権はEpangelo社にのみに付与される予定であり(現在国会にて法案審議中)、今後はナミビアにおける探査活動の中核機関になると目されている。具体的には、Epangelo社は独占的に付与される探査権(探査案件)に対し、JVパートナーをファームインの形で参入させ、権益持ち分(当初100%権益)を探査活動の節目で希釈し、最終的には少数権益、10~35%程度の権益を保有する形態でのJV探査が想定されている。
(3) 経営体制
Epangelo社関係者によれば、「当社は政府100%出資ではあるが、その設立は特別法ではなくナミビア会社法(一般法)に基づく「民間企業」であり、一般的な民間企業との違いは「株主が政府」ということである」とのこと。従い、鉱業法上及び税法上の扱いは他の民間企業と同様であり、事業実施に伴う税金やロイヤルティも民間企業同様に納付する義務を有する。同社は、2009年12月に役員、2010年8月に社長(Managing Director)が選出され、現在、役員9名が経営にあたっている。
同社は、①地質(初期探鉱等)、②鉱山(付加価値化等)、③財務、④法務の4部門から構成されており、2010年の戦略会議によって、①探査(ベースメタル、石炭、鉄鉱石、ウラン、ダイヤモンド等)、②鉱山、③高付加価値化(Beneficiation)の3分野で事業を展開している。
3. Epangelo社の政策上の位置付け
ナミビア政府は、2011年4月20日、ウラン、金、銅、ダイヤモンド及びレアアースを戦略的鉱物(Strategic Minerals)に指定し、これら戦略的鉱物に対する新規(既存案件は対象外)の探鉱・開発案件については、Epangelo社にのみライセンスを付与する方針を閣議で決定している。この閣議決定に基づき、現在国会で審議されている法案が成立した後は、ナミビア国内における戦略的鉱種に係る新規のEpangelo社とのJVによる以外でできないことになる。
4. Epangelo社の実績と課題
(1) 保有・申請中プロジェクト
鉱山エネルギー省が公表している鉱区情報によると、Epangelo社は30件余りの探査プロジェクトを保有・申請している。申請鉱種は、ベースメタル、レアメタル、工業原料、貴金属、貴石等である。Epangelo社との面談では、特にウラン及びベースメタルに重点を置いているとのことである。

図3. Epangeloが保有・申請中のプロジェクト
(2) 実績
Epangelo社は、2009年の設立以降、これまでに以下の外国企業等とMOUを締結してJV探査事業を実施している。Epangelo社100%権益から相手方企業が探査費を負担して徐々にEpangelo社権益が希釈されていく形になっている。
表1. Epangelo社の主な共同事業
No | 相手方 | 国 | 時期 | 案件 | 鉱種 | 内容等 | |
1 | AtomRedMetzoloto;ARMZ) | (国営) | ロシア | 2010.5 | MOU | ウラン | 案件発掘、協力に向けたワーキンググループ設置 |
2 | Namibia Rare Earth Inc | (民間) | カナダ | 2011.9 | Lofdal | REE*、Nb、U | 探査、権益*10% |
3 | Swakop Uranium | (民間) | 豪州 | 2011.12 | Hussab | ウラン | 開発、権益*10% |
4 | Vedanta | (民間) | インド/英 | 2012.2 | MOU | 石炭、BM* | 探査、採掘、加工等 |
5 | Bannerman Resources | (民間) | 豪州 | 2012.4 | Etango | ウラン | DFS*終了、権益*5% |
*) BM:ベースメタル、REE:レアアース、DFS*: Definitive Feasibility Study、権益:Epangelo社権益
(3) 課題
Epangelo社が抱える課題は、資金不足と技術者不足である。資金面では、株主は政府であるが、Epangelo社の年間予算は500万US$であり、資金的に潤沢とはいえない。また、技術面では、地質技術者数が一桁であり、契約により地質技術者を調査等に充ており、同社の技術力は極めて脆弱である。そのため、JV探査形態は、必然的に探査技術者や探査費を相手方に負担させるファームイン形式となっている。
5. おわりに
Epangelo社は、戦略的鉱物の探査権の独占権という政策的な後押しを受けて、設立以降、既に数件の外資とのJV探査等事業を開始し、順調な滑り出しと言えよう。
今後、同社がその経営に成功するかは、JV探査案件が鉱山となり操業を開始することで資金不足の課題が解決されるか次第であるが、それ以上に、開発につながるような優良案件を発掘・評価することのできる自社の探査技術者の育成が急務と言える。
参考資料等
Bannerman Resources (2012), “Bannerman Reports Positive DFS Results & Milestone Agreement with Namibian State-owned Mining Company”, Stock Exchange Announcement 10 April 2012
Extract Resources (2011), “Response to press speculation”, ASX Media Release, November 29, 2011
JOGMEC (2012), “豪:ウラン探鉱会社のBannerman Resources社、EtangoウランプロジェクトのDFS結果発表”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2012. 4. 17
JOGMEC (2012), “ナミビア:国営鉱山会社Epangelo、Vedanta現地法人とMOU署名”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2012. 2. 27
JOGMEC (2011), “ナミビア:鉱物資源開発の国営企業化の続報:国営企業社長がJV参入比率は未定と発言”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2011. 5. 23
JOGMEC (2011), “ナミビア:Katali鉱業・エネルギー大臣、鉱物資源開発の国営企業化に関する閣議決定は既得ライセンスには適用されない旨を明言”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2011. 5. 16
JOGMEC (2011), “ナミビア:戦略的鉱物の全ての探鉱権及び採掘権を鉱業公社に付与”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2011. 5. 9
JOGMEC (2011), “タンザニア:ロシアARMZ、Mantra Resources及びUranium Oneとの合意を発表”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2010. 12. 20
JOGMEC (2011), “ナミビア:カタリ鉱物・エネルギー大臣、国営鉱山企業Epangelo の社長人事を発表”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2010. 7. 30
JOGMEC (2011), “ナミビア:ロシア、ナミビア政府間で、ウラン共同開発に関する覚書(MOU)を締結”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2010. 6. 8
JOGMEC (2011), “ナミビア:鉱業公社”Epangelo Mining”設立へ”, JOGMECニュース・フラッシュ, 2009. 12. 4
JOGMEC (2011), “世界の鉱業の趨勢2011 ナミビア”, JOGME鉱業の趨勢
JOGMEC (2010), “世界の鉱業の趨勢2010 ナミビア”, JOGME鉱業の趨勢
Ministry of Mines and Energy (2012), “Current Licence Map 02 Apr 2012”
Ministry of Mines and Energy (2012), “Exploration Licence List 02 Apr 2012”
Namibia Rare Earth Inc (2011), “Namibia Rare Earths Plans to Test Uranium-Niobium Target at Lofdel”, Press Release, October 4, 2011
Namibia Sun (2012), ” Epangelo sign deals”, 10 Apr, 2012
New Era (2011), “All eyes on Swakop Uranium, Epangelo deal”, 07 Dec 2011
New Era (2012), “Dilemma for cash-starved Epangelo”, 20 April 2012
RIANOVOSTI (2010), “Russia’s Rosatom applies to develop Namibian uranium deposit”, 20 May 2010

