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報告書&レポート

2012年6月28日 資源探査部 探査第2課 佐々木洋治
2012年37号

2012年豪州AMIRA探鉱マネージャー会議報告

 2012年3月27日から28日までの2日間、豪州西オーストラリア州パースで第9回AMIRA探鉱マネージャー会議(9th Biennial Exploration Managers Conference 2012)が開催された。会議にはAMIRAのスポンサーである世界各国のメジャー、ジュニア企業の探鉱マネージャーが参加し、AMIRAの研究方針の他、豪州の鉱業政策、参加企業の探鉱結果、技術紹介や大学関係者から各国の地学教育の現状が発表された。また、3月26日には豪州の各州から探鉱政策に関する講演が開催された。
 探鉱関連情報の収集のため、本会議に出席したので、その概要を紹介する。

1. AMIRA探鉱マネージャー会議の概要

 AMIRA: Australian Mineral Industry Research Association(豪州鉱業研究会)は、鉱業関係企業が必要とする産業技術の共同研究開発を目的とする組織である。会員企業はAMIRA が対象とするテーマ毎に設置されている研究開発プログラムに対し共同研究者として参加している。参加企業のメリットは開発された先端技術へのアクセス、使用権を得ることができ、先端探査技術を各社の探査に用いることができることである。本会議は隔年ごとに開催され、スポンサー企業の探鉱マネージャークラスを集めて行われる。
 3月26日はScience at the surveysと題され連邦政府機関であるGeoscience Australia、北部準州を除く各州の地質調査所から鉱業政策や支援スキームに関する7件の発表があった。3月27,28日はAMIRAスポンサー企業により最近の探査状況と技術について、また各国大学関係者により地学教育について10のセッションに分けられ23件の発表が行われた。

2. Science at the Surveys【各州政府の鉱業政策と探鉱支援】

 3月26日は豪州各州政府から各州の鉱業政策や支援制度に関する発表があった。特に興味深かった講演を以下に紹介する。

2-1 <Geological Survey of Queensland>
 「Expanding greenfields horizons – Geological Survey of Queensland initiatives: 2010-14」:(B.John)
 クイーンズランド州地質調査所のBrad John氏(General Manager)は州政府による金属鉱物資源探査とポテンシャル評価への積極的な取り組みを紹介すると共に、グリーンフィールド案件が州内に多数存在することを強調し、さらなる資源投資を呼びかけた。

<講演内容>
・ クイーンズランド州政府は探査活動の支援のために以下のプログラムを予定している。
 基礎的な地球科学的データの取得(2010~2014年):4,900万A$
 Greenfields 2020 プログラムとして、
  ① New Frontiers Initiative
    基盤データ整備(空中磁気・放射能、重力探査):770万A$
  ② Gas Security Initiative
    沿岸域の地熱エネルギー開発:500万A$
    二酸化炭素地層処分に関する技術開発:1,000万A$

・ 既知鉱床形成プロセス解明のために以下のプログラムを実施している。
  ① 地表踏査による地質構造発達過程の解明
  ② 鉱床生成モデルの研究(CSIRO、大学に委託)
  ③ 3D空間モデリング
  ④ 地形形成過程のコンピュータシミュレーション

・ 2010~2014年は以下の3地域に注目し探査活動を行う予定。
  ① 北部地域

Lawn Hill, Quambyなどの地域を対象として、銅、金、戦略鉱物(モリブデン、レニウム、リチウム、レアアース、インジウム、タンタル、ニオブ)のポテンシャルを調査する。当該地域において、年代測定、3次元地質構造モデル、物理探査、既往調査のボーリングコアのHylogger・ハイパースペクトルデータの活用により変質帯解析を実施し深部鉱床の発見を目標とする。

  ② Galilee地域

重力探査、空中磁気探査、放射能探査などのデータ整備に注力している。現在は4㎞測点間隔での重力探査が終了し、400 m間隔測線の磁気、放射能探査が70%終了している。

  ③ Southern Tompson地域

重力探査、空中磁気探査、放射能探査を予定している。また、Southern Tompson地域はCober超層群(デボン紀初期のリフト活動に由来するCu/Auなどのベースメタル有望地域、Cadia鉱山、Northparkes鉱山の鉱床が胚胎)に相当しており資源ポテンシャルは十分期待できる。

  ④ その他

・ 10万分の1のGISデータ、3Dモデル、基盤深度情報を整備中。

・ 2011年から2014年にはMt. Isa Projectの一つとして、Mount Dore Corridor, Quamby, Lawn Hill, Mount Annable (IOCG、SEDEX Pb-Zn)鉱床のポテンシャルを探る調査を実施している。この調査結果は2012年5月に公開予定である。

・ その他、地熱、二酸化炭素地下貯留の可能性を探るプロジェクトもサポートしている。

2-2 <Geological Survey of Victoria>

 「Earth resource investment opportunities in Victoria, Australia」: (P. McDonald)
 ビクトリア州1次産業部のPaul McDonald(Director)氏から州内の地質と今後の探査計画について発表があった。

<講演内容>
・ VIC州の鉱物資源探査には、主に以下のような先入観がある。
  ① 極小規模な海底火山に関連するCu-Pb-Zn鉱床が存在し、大規模な鉱床が存在しない。
  ② ポーフィリー銅鉱床はすでに削剥され存在しない。
  ③ 鉱床とテクトニックセッティングの関連性が解明されていない(鉱床生成機構へのアプローチが成されていない)。
  ④ 唯一、自然金のみが探査されただけである。
  ⑤ 非常に厚いカバーが存在する。

・ 2009年に深部地震探査データの取得、2011年に新しく連続地質図カバー範囲の完備を行った。2012年は一部地域で地表からモホ面までの三次元データの取得を行い、地下の火山弧と構造セッティング解析から金とベースメタル探査へ応用させる。

・ 2009年の深部地震探査データによりカンブリア紀の背弧-島弧-前弧の付加体地質セッティングを示すと考えられる地質構造を把握した。これにより、Escondidaクラスのポーフィリー銅鉱床の胚胎ポテンシャルが高まったと考えている。

・ VIC州には南方から東方にかけてオルドビス紀のMacquarie火山弧が見つかっている。本地域の周辺探鉱によりポーフィリー銅金鉱床の発見が期待され金属量で5.5 MozAu, 490 ktCuを見込んでいる。

・ 以下未開発鉱徴地の鉱区保有企業
  ① BCD Resources NL. 10.6 Mt@ 0.45%Cu, 0.7 Mt@2.7%Cu
  ② Jabiru Metals Ltd. 12.7 Mt@ 2.1%Cu, 4.4% Zn, 0.7%Pb
  ③ Dart Mining NL. 105 Mt@ 0.07%Mo

・ 近年に取得したデータを駆使してオロジェニックタイプの金鉱床探査が進められる見込みであり、未探鉱地を総計すると52,000~1.8 Moz Au@1.5~12.4 g/tの資源量を見込んでいる。

3. -Smart Exploration: Insights, Technology and Practices-

 3月27,28日は各企業の探鉱マネージャーが参加し新しい物理探査技術の紹介や各企業の探鉱結果の概要、大学関係者による各国での地学教育の現状が紹介された。参加者は、CODELCO、Anglo American、BHP Billiton、Rio Tinto、Buenaventura、Gold Fields、Vale, Votorantin, Barrik Gold, First Quantum, Anglo Gold Ashanti, Freeport-McMoran, Newmont, Newcrest, Cameco, OZ Minerals、Xstrata、 Boart Longyear,の鉱山関係各社の他、豪州、カナダ、フランス、イギリス、南アフリカの大学教授、豪州各州地質調査所であった。以下に、講演概要と特に各国の地学教育の現状につき報告する。

3-1 「State of the art of geophysical logging in petroleum exploration and development: An opportunity for the mineral industry?」:(T. Neville)Asia・Australia Petrophysics Advisor, Schlumberger社
 T. Neville氏は石油業界で使用されている物理探査手法が金属探査にも応用可能で質の高いデータを提供する事ができる事を発表した。

<講演内容>
 石油探査の分野では大深度をターゲットとすることやそれに係るコストが膨大であるために、検層など様々な手法を用いて地下の状況を推測する技術が発達してきた。例えば、Bore hole Geophysical logging法は、EM、放射能、地震探査が可能であり、これらは地上で実施されるのに対し解像度が非常に高い。また応用例として、well-bore deep imaging法があり、2本の掘削孔を用いて間に挟まれる地質を物理探査する方法がある。歴史的に、金属探査は石油探査とは異なる分野の探査手法を用いており、極めて限定的な探査対象を捕捉するために、多数のボーリングを掘削し膨大な数のコアを調査することが鉱床探査の基本であった。しかし、最近の金属鉱床探査はさらに高深度化、複雑化している。実際に上記石油探査の手法は、地表調査、地下水調査、環境影響調査、地熱調査、地下への炭素固定などの分野で使用されている。金属鉱床探査への応用も可能と考えられ、今後活用される事が期待される。

3-2 「Fluids and ores in sedimentary basins – a uranium perspective」:(D. Brisbin) Chief Geoscientist, Cameco Corporation
 D. Brisbin氏からは、ウラン鉱床の概要と効率的な探査法につき発表があった。

<講演内容>
 異地性のウラン資源探鉱には、周辺地域の砂岩層解析が必要で以下のような特徴がある。
 ① ウランは6価のイオン状態で酸性水中を移動する(水の起源は砂岩中の間隙水や続成作用を被った地層中の変成水)。
 ② 流体は浸透率の高い岩石層や断層沿いに移動する。
 ③ 含ウラン流体は還元的な岩石層や流体と反応することにより急速にウランを沈殿させる。
 ウラン探鉱において上記流体の移動経路解析と周辺地質との関連、沈殿場を解析する事がウラン探鉱技術者に求められる。探鉱活動は探査が進むにつれて明らかになる事実に沿って戦略を変更しつつ実施しなければならない。カナダアサバスカ盆地に胚胎する不整合関連型鉱床では鉱体周辺に変質帯が発達する。これに伴われる変質帯の捕捉にEM法が有効である。本地域での物理探査結果の知見を他の地域に応用させていきたい。
 ウラン探査に関しては他の金属探鉱と異なり、現場では民間企業と政府関係機関が実践的研究を行っている。一方で鉱床成因論は大学研究室などで行われている。これら二つを有機的に組み合わせてより効率的な探鉱開発を行うことが今後の課題である。

4. 各国の地学教育の現状

 各国の大学研究者により地学教育の現状が発表された。以下に講演内容を要約して各国毎に紹介する。

4-1 豪州
鉱業活動と技術者不足M
 豪州は鉱山国として、計画的に地球科学教育と人材育成に力を入れてきた国の一つである。近年の金属価格高騰の影響もあり、現在豪州での探鉱活動は活況を呈している。実際に6,000名以上の鉱山技術者が鉱業セクターで従事しており、今後ますます技術者への需要は増大すると思われる。National Resource Sector Task Forceの試算によれば現在の大学の教育実績からすると、2011年~2015年の間で3,000名の鉱山技術者が不足するとされている。

大学での教育状況
 2010年のAustralian Geoscience Councilのレポートによれば豪州には21の総合的な地学専門コースを持つ大学と36の地学を履修できる大学が存在している。これらの大学から多数の優秀な学生が卒業しているものの、優秀な人材の65%は鉱業界以外の業種に就職している。
 一方で大学とMineral Research Centre、鉱山会社との共同研究も盛んに行われており(表1)、共同研究を実施した学生、研究者が直接鉱山会社またはMineral Research Centreへ就職している。これらのネットワークは研究内容を即現場投入できる点において大きなメリットとなっており、産学官の人材交流が盛んに行われている。これらMineral Research Centreや大学の中でも特にCentre for Exploration Targeting(CET), ARC Centre for Ore Deposits Research(CODES), James Cook University(JCU)は特定の鉱床タイプに関する研究に力を入れており、多様な鉱床タイプが存在する豪州において優秀な人材を輩出し続けている。例えば、CETは、Precambrian, Fe, Ni, Au、CODESは、Phanerozoic、VMS and Porphyry systemに注力している。

表1. 研究機関と大学との共同研究

Mineral Research Centre   University
Centre for Mineral Exploration Targeting Under Cover (CMXUC) x University of Adelaide
Centre for Exploration Targeting (CET) x University of Western Australia, Curtin
ARC Centre for Ore Deposits Research (CODES) x University of Tasmania
Economic Geology Research Unit x James Cook University (JCU)

まとめと問題点
 豪州での大学教育は学生へのトレーニングプログラムや分析機器も充実しており、引用論文数の統計からも世界トップレベルにある。一方で研究資金を企業や政府に依っているため、経済や政治の動向により安定的な資金調達ができない問題を抱えている。また教員不足による大学受け入れ可能な学生数のキャパシティも限界で指導者の雇用保障と賃金の改善、退職後の再雇用を含めて、現在の研究レベルを維持するための抜本的な改革が求められている。

4-2 南ア
南ア鉱業の熟成と地学教育
 近年アフリカでは外国企業による探鉱投資が増大しており、特に西アフリカ、DRCコンゴ、ナミビアで多くの探査活動が行われている。一方で南アの鉱業は成熟期を迎えており、特に金、白金、マンガン、石炭、ミネラルサンドの探査において全世界に向けてモデル鉱山を提供できるレベルにある。このように同一国に複数の鉱種を高いレベルで産出する国は他には無く、鉱業分野での人材育成の拠点として発展を遂げている。また、南アの地質学専攻の学生のうち30%が南ア以外のアフリカ諸国からの留学生であり、ヨーロッパからの学生受け入れも増加傾向にある。南アは現在アフリカ全体の教育機関としての機能を果たしている。
 このような背景を元に南アの大学ではこれまでアフリカ全土の鉱業界に対して多数の鉱山技術者を供給しており、将来の鉱山技術者の需要増に対しても設備や教育プログラムの拡充を図っているところである。

University of the Witwatersrand Johannesburg
 Witwatersrand大学は南アの中でも資源地質学とフィールド調査の分野で高い実績をもつ大学でありアフリカ全土に卒業生を輩出している。本大学は長期的なビジョンに立った特徴的な地学教育プログラムを実施している。以下に概要を列挙する。
 1. 地球化学、岩石学的研究:特にブッシュフェルト複合岩体を対象とする。
 2. 鉱床生成機構の解明:特に南アの白金、ナミビアのウラン、西、中央アフリカ地域での地質構造発達史と鉱化作用との関係。
 3. 古生物学:特に獣弓目、ゴンドワナ大陸の植物相、ヒト科に関する研究。
 4. 地球物理学
 5. 環境科学:特に水文地質学と環境変動。
 また南アの鉱山を中心にWitwatersrand大学卒業生と在校生が共同で研究を行っており、研究成果を実際の鉱山現場にフィードバックしている。鉱山会社と研究機関の協力関係が築かれており、豪州、カナダに次ぐ鉱床学の研究拠点になりつつある。

投資環境上の問題
 資源国であり外国投資も盛んであるが、定常的に電力供給障害と感染症問題を抱えている。
 電力供給障害は、電力設備が40年以上前のもので極めて老朽化しているにも係わらず、緊縮財政のため設備投資を行ってこなかったことが一因で発生したが、南ア経済の低迷、電力需要の低下により、現在は供給障害を免れている。しかし、電力供給不足の構造的な問題は解決されておらず、経済が回復すれば供給障害の再発が懸念される。2008年1月の大停電以降に導入されている鉱山会社に対する必要な電力量の10%削減は、鉱産物の増産の足かせとなっている。さらに、景気及び雇用情勢の悪化により、実施が見送られてきたロイヤルティ法が2010年3月に施行された事も今後探鉱投資をにぶらせる可能性がある。
 その他、同国では、HIV/AIDSの問題が深刻で、国民の1/5~1/4がHIVキャリアといわれる。特に鉱山労働者の感染者が多いことも懸念されており、労働力確保の面からも感染対策が急務となっている。

4-3 チリ
国内鉱業の活況
 チリは伝統的に鉱山国であるが、近年の金属価格の高騰を受け探鉱投資が増大している。しかし、金属資源の枯渇と深部化、低品位化を受け探鉱コストは上昇傾向にある。また、チリでの探査活動の増大は同時に鉱山技術者の不足をもたらしている。近年では地熱、環境調査、地下水探査の需要が地質技師の不足に拍車をかけている。現在チリ国内には1,600人の地質技師がおり、その70%が鉱山会社で従事している。不足人員は南ア、ヨーロッパから技術者を受け入れることで補われている。また統計では約70%の鉱山労働者が現在の雇用環境について、賃金や安全対策の面で不満を持っており、資源高騰に沸く鉱山業界とは裏腹に労働者の待遇面での苛立ちは募っている。

大学での地学教育
 チリでは増加する鉱山技術者需要に対して、大学での教育プログラムや定員の増大を図っているが、未だに追い付いていない。チリにはUniversidad de Atacama(UA), Universidad de Chile(UCH), Universidad Catolica del Norte(UCN), Universidad de Concepcion(UdeC)などの伝統的に地学コースを抱える大学が存在する。これらの大学では、地質学、岩石学、地球化学、地球物理学などを通じて体系的な教育が実施されており、チリ鉱業界への人材供給を長年支えてきた。2010年にはUniversidad Pedro de Valdivia, Universidad Andres Bello, Universidad Santo Tomas, Universidad Diego Portalesなどの私立大学が新たに地学コースを開設した。
 また、大学と企業との交流が増え共同研究も実施されているようで、特にBHP Billiton, Anglo American, Collahuasi, CODELCO, Antofagastaなどの企業は奨学金制度を設けて優秀な学生を支援しており、チリ国内大学出身者を多数雇用している模様である。

問題点
 年間の地学コースの定員は1,200名に及び、各大学では概して資金と教員の不足が発生している。これらの不足は教育レベルの低下を引き起こし、特に地質技師の減少をもたらしている。各大学は企業への資金援助を要望している。

4-4 各国の地学教育状況の整理
 表2は、各国の大学における地学履修者数と地学を専門に研究し卒業する学生数を比較した表である。1990年代以降、世界的に資源系大学や学科の統廃合が進んだが、近年の地質系技術者需要の高まりを背景に各国地学コースの定員数、卒業者数が増加している。カナダを例にとってみると2005年に約3,000人だった学生数が、2010年には3,500人にも上り、同国ジュニア企業を中心に人材を提供している。

表2. 各国の地学履修者数と卒業者数

国名 地学履修者数(年) 卒業者数(年)
カナダ 3,500(2010) 1,100(2010)
オーストラリア 約2,500(2011) 約100(2012)
イギリス 1,400-1,500(2011) 793(2012)
チリ 1,184(2012) 115(2012)

 表3は各国の地学コースを持つ大学数を整理したものである。豪州やカナダといった鉱山国に多数の大学が存在する一方でイギリス、イタリアなどの操業鉱山の少ない国にも同様に多数の大学が存在している。ヨーロッパでは学生数も1970年以来減少傾向だったものの、2004年を契機に学生数が増加している。たとえばイギリスでは2003年、約1,200人だった学生数が、2011年には1,400人以上に増加している。世界的にみてヨーロッパは探鉱活動こそ活発ではないが、充実した設備と講師陣、豊富なフィールドワーク実習により数多くの鉱山技術者を世界に輩出している。他方、斑岩銅鉱床を主体に世界の3分の1の銅鉱石を生産するチリでは地学を教える大学が少ない。結果的にチリは同国以外から多数の鉱山技術者を受け入れて鉱山国として発展している事が窺える。
 また、前述の通り豪州では2011~2015年の間に約3,000名の鉱山技術者の不足が予想され、さらにカナダの鉱業界でも年間約1,000人の新しい地質技師を必要としている。各国は2000年代に入り相次いで地学系大学や学生数を増加させたものの世界的にみれば、指導者、技術者の不足が深刻になりつつある。

表3. 各国の地学コースを持つ大学数

国名 大学数
豪州 57
フランス 35
カナダ 35
イギリス 30
イタリア 28
ロシア 26
ドイツ 25
スペイン 10
チリ 8

おわりに

 本会議では、民間企業だけでなく政府機関や大学研究者など異なる業種からの参加者が探査技術や鉱業政策について活発に意見を交わした。豪州にとって鉱業は雇用、経済の中心であり、同国は更なる鉱業投資を呼び込むために政府が主体となって自国の資源ポテンシャルの把握に努めている。ウェブでの地質情報公開や補助金制度を通して、以前よりも良好な投資環境が整備されている事が強調された。
 また世界的に鉱床の深部化、鉱石の低品位化や住民問題、環境問題など様々な課題が存在する中で、今後ますます産官学による共同研究の重要性は高まると考えられる。
 金属価格の高騰や中国、インドなど新興国の大勢な金属資源需要に起因する現在の資源ブームは世界的に活況を呈しており、しばらく続くとみられる。一方で企業には急増した探査案件に費やす人的資源が不足しており、労働者の不満も高まっている。同時に育成機関である大学でも学生受け入れキャパシティの限界が来ているのが現状である。
 各国企業、大学、政府間ではすでに活発に共同研究が行われており、より実践的な研究結果が出始めている。本会議の参加者間では今後も継続的に共同研究や探鉱援助政策が行われることと同時に、企業間での情報共有、共同研究促進の必要性が議論の中心になっていた。

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