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2011年中国レアアース産業動向
2011年中国レアアース産業の工業総生産高は、前年比130.1%増の852.4億元で、実質売上高は前年比152.4%増の943.1億元と過去最高を記録した。稀土信息4月号で、国家発展改革委員会産業協調司が「2011年中国レアアース産業動向」を発表したので、とりまとめのうえ、ここに紹介する。 |
1. 産業の動向
(1) 政策
温家宝首相は、2011年2月16日に国務院常務会議を主催し、レアアース産業の持続的かつ健全な発展を促すための政策・対策を検討し、「レアアース業界の持続的かつ健全な発展に関する若干の意見(国発[2011]12号。以下「若干の意見」)」を採択した。5月10日に国務院は、「若干の意見」を発表し、次に掲げる方針を打ち出した。
① 2年以内の資源開発、精錬分離及び市場流通秩序の規範化、並びに無秩序な採掘、生態環境破壊、盲目的生産拡大及び密輸の抑制。
② 大企業主導の産業構造の形成、南部イオン吸着型レアアースに関しては80%以上をトップ3に集中。
③ 新製品及び新技術の開発、普及・利用の加速化。
④ レアアース備蓄の増加、応用産業の積極的発展。
⑤ 統一的・規範的・効率的な業界管理システムの確立、政策及び法体系の整備。
(2) 政府関連部門
発展改革委員会及び関連部門は4月25日、「産業構造調整指導目録」を改訂(2011年版)し、奨励類・制限類・淘汰類の製品及びプロセスを明確にし、プロジェクト認可を厳格にし、既存製錬分離設備の生産規模拡大を禁止した。財政部及び税務総局は、4月1日よりレアアース資源課税基準を大幅に引き上げ、軽希土60元/t、中重希土30元/tに引き上げた。商務部及び税関総署は、5月20日よりレアアース元素含有量10%以上の合金鉄を輸出総量規制対象とした。工業情報化部は、レアアース弁公室を立ち上げ、業界管理を行うこととした。商務部は、企業の輸出資格の審査を厳格に行い、12月26日に発表した2012年第1回輸出枠では、企業数を32社から26社注)に減らした。
環境保護部は、「レアアース工業汚染物質排出基準」を発表した。また国土資源部、工業情報化部、環境保護部及び税関総署は、それぞれ採掘、生産、環境保護及び密輸撲滅等の特別取締りを行った。
注) 五鉱有色金属株式有限公司、贛県紅金稀土有限公司及び江西南方希土ハイテク株式有限公司が五鉱集団公司に、内モンゴル包鋼希土(集団)ハイテク株式有限公司、内モンゴル包鋼和発希土科技開発株式有限公司、包頭華美希土ハイテク有限公司及び包頭天驕清美希土研磨剤有限公司が包鋼集団公司にそれぞれ集約された。
(3) 地方及び重点企業
地方政府及び関連部門は、「若干の意見」を重視し、一連の措置を次々に発表し、組織・指導・協力を強化したほか、「意見」徹底の作業プログラムを作成し、地元業界の発展目標・重点業務・任務の分業を明確化及び責任体制を確立し、政策措置が確実な実施を図った。
内モンゴル自治区政府は、「事業調整指導グループ」を立ち上げ、業界管理を一元化し、「自治区レアアース川上企業の整理統合淘汰事業プラン」を発表し、包頭鋼鉄(集団)有限公司による①統合・再編、②補償金支払いによる閉鎖、③淘汰などにより、採掘選鉱及び製錬分離企業35社を整理統合することを明らかにした。また、江西省と贛州市は、「整備事業指導グループ」を設置により資源開発管理を強化し、「贛州レアアース整備案」策定したほか、贛州の鉱区調整により採掘権88件を42件に整理統合する予定であり、地方の党・政府指導責任制及び市・県・郷・村の4級監督管理責任システムを健全化させた。
中国アルミは、江蘇省及び広西チワン自治区の採掘、精錬分離企業再編で実質的かつ効果的な進展を見せ、中国アルミ稀土(江蘇)有限公司及び中国アルミ広西有色稀土開発有限公司を設立した。五鉱集団は、南方レアアース精錬分離企業再編を積極的に進め、同集団の分離能力はイオン吸着型レアアース企業の1/3を占めるまでになっている。中国有色は、広東省に中色南方レアアース(新豊)有限公司を設立し、精錬分離企業再編を積極的に進めた。また、中国鋼研科技集団有限公司は、山東微山湖希土鉱の精錬分離及び高度加工企業の一部を統合している。一方、地方国有企業の広晟有色及び包鋼希土は、南部及び北部の資源開発及び産業連携強化のため、協定を締結し、高度加工及び技術協力だけではなく、戦略及び資本面での協力強化を図った。
(4) 生産秩序、製品価格
工業情報化部は、産業のマクロ調整を一段と強化し、指令性生産計画の作成・通達・監督管理を厳密化し、採掘計画と製錬分離計画の整合性を強化した。2011年10月中旬には、包鋼希土及び贛州稀土鉱業の重点企業2社が自発的生産停止に踏み切ったほか、一部製錬分離企業による指令性生産計画量達成後の自発的若しくは命令による生産停止により、鉱産品及び製錬分離製品の2011年生産量は2010年より大幅に減少し、生産秩序が明らかに好転した。製品価格は、採掘・生産・環境コスト上昇等を受け、全体的に大きく上昇し年初と比べ2~4倍に跳ね上がった。製品輸出は、価格が上昇し、輸出量は年間輸出枠の55.7%であった。輸出量減少は、輸出枠が不十分だったわけではなく、価格の問題であった。
2. 生産状況
レアアース鉱産品及び製錬分離製品の生産は、工業信息化部が指令性生産計画による管理を実施した。
(1) 鉱産品
合法的なレアアース鉱産品生産量は、8.49万t(前年比4.84%減)であった。(表1)
表1. 中国希土鉱産品の生産量 (REO,t)
2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | |
混合型希土 | 69,000 | 66,000 | 65,000 | 49,900 | 49,960 |
イオン型希土 | 45,000 | 36,000 | 32,695 | 14,722 | 10,214 |
バストネサイト | 6,800 | 22,500 | 31,710 | 24,637 | 24,769 |
計 | 120,800 | 124,500 | 129,405 | 89,259 | 84,943 |
(2) 製錬分離製品
製錬分離製品生産量は、9.69万t(同比18.47%減)であった。(表2)
表2. 中国希土製錬分離製品の生産量 (REO,t)
年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 |
塩化希土 | 6,108 | 5,899 | 5,301 | 3,528 | 2,452 |
炭酸希土 | 3,908 | 4,744 | 4,911 | 4,031 | 3,524 |
希土合金 | 3,807 | 2,042 | 2,060 | 1,772 | 1,088 |
ミッシュメタル | 5,275 | 4,697 | 5,092 | 4,255 | 4,144 |
ジスプロシウム鉄合金 | 1,630 | 3,301 | 1,282 | 1,519 | 1,055 |
他の一次製品 | 2,362 | 7,251 | 3,178 | 2,226 | 2,456 |
酸化イットリウム | 8,705 | 18,737 | 8,381 | 7,725 | 5,258 |
酸化ランタン | 16,546 | 15,057 | 16,952 | 17,674 | 13,188 |
酸化セリウム | 19,034 | 11,178 | 19,020 | 20,839 | 19,577 |
酸化プラセオジム | 2,781 | 3,460 | 3,101 | 2,487 | 1,354 |
酸化ネオジム | 10,042 | 15,900 | 11,223 | 10,743 | 7,745 |
プラセオジム・ネオジム酸化物 | 6,787 | 1,236 | 5,986 | 5,495 | 5,941 |
酸化サマリウム | 1,580 | 4,697 | 1,902 | 1,457 | 821 |
酸化ユーロピウム | 845 | 792 | 759 | 754 | 612 |
酸化ガドリニウム | 1,700 | 1,279 | 1,574 | 1,159 | 1,077 |
酸化テルビウム | 486 | 478 | 489 | 429 | 190 |
酸化ジスプロシウム | 2,539 | 2,182 | 1,924 | 1,712 | 742 |
酸化エルビウム | 905 | 598 | 969 | 791 | 658 |
他の酸化物 | 4,050 | 3,702 | 5,831 | 4,301 | 4,139 |
金属ランタン | 2,645 | 3,808 | 2,820 | 3,044 | 3,220 |
金属ネオジム | 9,523 | 7,020 | 7,730 | 7,355 | 4,913 |
金属プラセオジム&ネオジム | 9,970 | 12,530 | 12,675 | 11,179 | 8,630 |
金属サマリウム | 270 | 383 | 281 | 300 | 258 |
金属ジスプロシウム | 16 | 31 | 30 | 28 | 50 |
金属テルビウム | 26 | 39 | 37 | 31 | 83 |
他の金属 | 4,433 | 3,603 | 3,812 | 4,064 | 3,759 |
合 計 | 125,973 | 134,644 | 127,320 | 118,898 | 96,934 |
(3) 新材料
永久磁石材料生産量は、88.5千t(現物量、同比7.14%増)であった。内訳は、NdFeB焼結磁石83千t(同比6.41%増)、NdFeBボンド磁石4.4千t(同比10%増)、サマリウムコバルト磁石1.1千t(同比83.33%増)であった。
蛍光材料生産量は、8.86千t(現物量、同比5.72%減)であった。内訳は、ランプ用3原色蛍光材料8千t(前年と同じ)、カラー蛍光材料0.2千t(同比60%減)、長残光蛍光材料0.45千t(前年と同じ)、LED用蛍光材料は約10t、その他の蛍光材料が約200 tであった。
各種自動車用排気ガス浄化装置は、約1,750万セット(同比15.13%増)が生産された。水素吸蔵合金材料生産量は、12.50千t(現物量、同比29.78%減)、研磨材料生産量は約15.5千t(現物量、同比11.51%増)であった。
3. 国内消費
中国のレアアース消費量は、8.31万t(同比4.50%減)であった。冶金、石油化学、ガラス・セラミック、農業・軽工業・紡績の分野は計2.81万t(同比15.36%減)で、消費量の33.80%を占めた。新材料分野での消費は、一定の伸び率を維持し、計5.5万t(同比2.20%増)で消費量の約66.20%を占めた。(表3)
表3. 中国内実用分野別希土年間消費量 (REO、t)
年度 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | 2011年 | 2011/’10 | ||||||
実用分野 | 消費量 | 割合 (%) |
消費量 | 割合 (%) |
消費量 | 割合 (%) |
消費量 | 割合 (%) |
消費量 | 割合 (%) |
伸び率 (%) |
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既存分野 | 冶金/ 機械 |
10,994 | 15.15 | 10,370 | 15.32 | 11,000 | 15.07 | 11,200 | 12.87 | 10,100 | 12.15 | -9.82 |
石油/ 化学工業 |
7,548 | 10.4 | 7,520 | 11.11 | 7,500 | 10.27 | 7,500 | 8.62 | 7,500 | 9.02 | 0 | |
ガラス/ セラミック |
7,872 | 10.85 | 7,160 | 10.58 | 7,200 | 9.86 | 7,600 | 8.73 | 7,000 | 8.42 | -7.89 | |
農業・ 軽工業・ 紡績 |
7,686 | 10.59 | 7,120 | 10.52 | 7,000 | 9.59 | 6,900 | 7.93 | 3,500 | 4.21 | -49.28 | |
小 計 | 34,100 | 47 | 32,170 | 47.53 | 32,700 | 44.79 | 33,200 | 38.15 | 28,100 | 33.8 | -15.36 | |
新材料分野 | 蛍光材料 | 4,490 | 6.19 | 2,870 | 4.24 | 3,700 | 5.07 | 5,000 | 5.75 | 4,800 | 5.78 | -4 |
液晶研磨 | 2800 | 3.86 | 3,500 | 5.17 | 4,100 | 5.62 | 4,600 | 5.28 | 4,800 | 5.78 | 4.35 | |
永久磁石材料 | 22,250 | 30.67 | 20,100 | 29.70 | 23,000 | 31.51 | 34,125 | 39.21 | 36,600 | 44.04 | 7.25 | |
水素貯蔵材料 | 6,200 | 8.55 | 6,160 | 9.10 | 6,200 | 8.49 | 6,300 | 7.24 | 4,430 | 5.33 | -29.68 | |
触媒材料 | 2,710 | 3.74 | 2,880 | 4.26 | 3,300 | 4.52 | 3,800 | 4.37 | 4,380 | 5.27 | 15.26 | |
小 計 | 38,450 | 53 | 35,510 | 52.47 | 40,300 | 55.21 | 53,825 | 61.85 | 55,010 | 66.2 | 2.2 | |
合 計 | 72,550 | 100 | 67,680 | 100 | 73,000 | 100 | 87,025 | 100 | 83,110 | 100 | -4.5 |
4. 輸出状況
(1) 精錬分離製品
製錬分離製品は35ヶ国・地域に輸出され、輸出量は15,660 t(同比54.68%減)で、輸出額は266,714万US$(同比183.83%増)であった。
製錬分離製品の輸出量は、上位10位までの国・地域が総輸出量の97.51%を占め、金額では97.53%を占めた。輸出量に占める国別割合は、日本58.32%の9,132.77 t、米国が13.49%の2,112 t、EUは16.37%の計2,563.41 tであった。(表4及び表5)
表4. 希土精錬分離製品の輸出量
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表5. 希土精錬分離製品の主要輸出国一覧表
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(2) 磁石製品
レアアース永久磁石は、89ヶ国・地域に16,339.62 t(現物量、同比17.67%増)、輸出額は181,376.6万US$(同比190.07%増)であった。ニッケル水素電池は、113ヶ国・地域に8.36億個(同比12%減)、輸出額は1,447.16万US$(同比0.54%減)であった。(表6)
(3) その他磁性材料
凝固速度の速い永久磁性体は、12,079 t(現物量、同比187%増)で、輸出額は98,235万US$(同比1,015.03%増)であった。ネオジム磁粉は、1,279 t(現物量、同比14.31%減)であったが、輸出額は6,758万US$(同比149.46%増)となった。その他ネオジウム合金は、526 t(現物量、同比68.75%増)で、輸出額は4,161万US$(同比510.78%増)であった。また、レアアース元素10%以上の鉄合金は、8,034 t(現物量)で、輸出額は86,266万US$であった。
表6. 希土磁性体の主要輸出国一覧表
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5. 輸入状況
税関統計によると、金属は5,119.56 t(現物量、同比54.69%減)で、輸入額は1,746.36万US$(同比15.80%減)であった。製錬分離製品は、883.66 t(同比70.55%減)で、輸入額は6,686.04万US$(同比78.54%増)。永久磁石は、5,043.94 t(現物、同比23.93%増)で、輸入額は6,1062.32万US$(同比143.02%増)。ニッケル水素電池は、3.39億個(同比14.82%減)で、輸入額22,453.87 US$(同比11.92%減)。
6. 問題点
2011年、レアアース産業は管理強化により、採掘、生産及び輸出秩序の規範化が図られ、産業集積度等の面が改善されるなど大きな成果があった一方で、次のような課題もあった。
① 製品価格の上昇に伴い、一部の製錬分離企業が利益重視に走り、違法鉱産品の買付けが横行した。なお、2011年5月の統計によると中国内の製錬分離設備能力は、昨年の指令性生産計画9.04万tを遥かに上回る約30万tである。現地報道によると、川下の需要が旺盛のため、現在も製錬分離企業の多くは違法採掘による鉱石を買う状況という。取締り強化につれ、取締りの網を掻い潜り、儲けられるうちに儲けようとする違法採掘が増加傾向にある模様である。
② 一部業者の買い占め、売り惜しみにより、需給バランスが崩壊し市場秩序が乱れ、製品価格が大幅に変動し、川下の加工企業と応用企業の生産に影響が出た。
③ 指令性生産計画及び輸出割当枠が、現実に即していない。生産計画では、鉱山を有しない江蘇省、陝西省及び甘粛省に精錬分離生産量が配布されている。また2012年より輸出割当枠は、軽希土類及び中重希土類に分け、各社へ配布されたが、生産する製品と合致していない部分がある。
中国政府は、環境保護及び枯渇性資源の観点から、採掘・生産・輸出の各段階で管理措置を実施している。これらの措置は、「1994年WTOの関税及び貿易に関する一般協定」第20条第2項「保護動物・植物或いは人類の生命もしくは健康に必要な措置」、第20条第7項「枯渇する自然資源の保護」一般例外条項の要件に適合するが、米日欧等の国々は中国のレアアース政策の調整に対し、敏感に反応し、2012年3月13日には正式にWTOに対しレアアース訴訟を提起するなど、中国のレアアース産業が直面している状況はますます厳しさを増している。
7. 業界再編の今後
北方では、包頭鉄鋼(集団)有限公司による業界再編が、基本的に完了しつつある。一方、南方では中央国有企業の中国アルミ、中国五鉱、中国有色及び地方国有企業の贛州レアアース、江西銅業、広晟有色の大企業6社によるトップ3の争奪戦が膠着状態に陥っている。多くの業界関係者は、「6社の実力は拮抗し、資源獲得が難しくなっている。地方政府は、税収財源である資源の他省への流出を望んでいない。このため、2~3社への再編の可能性は少ない」と見ている。
なお、2012年の全人代期間中、工業情報化部苗部長は「今後は、省単位を超える全国規模の企業2~3社に再編」との方針を打ち出している。
