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報告書&レポート

2012年7月26日 ボツワナ・地質リモートセンシングセンター 久保田博志、武田哲一、沼田安功
2012年42号

ボツワナ鉱業大会「Botswana Resource Sector Conference」報告

写真1. 会場(外観)
写真1. 会場(外観)

 2012年6月26日、27日の両日、ボツワナ共和国の首都ハボロネにおいて、同国最大の鉱業大会「Botswana Resource Sector Conference」が、開催された。同鉱業大会では、ボツワナの主要鉱種であるダイヤモンドのほか、近年、探査・開発が進んでいる石炭や銅等のベースメタル・プロジェクトが紹介された。
 本稿では、この鉱業大会の概要を紹介する

 「Botswana Resource Sector Conference」には、国内外から約500名が参加、約40件のブースが出展された。同鉱業大会は、初日のケディキルウェ鉱物エネルギー水資源大臣(P.H.K. Kedkilwe, Ministry of Minerals Energy and Water Resources)の基調講演に始まり、2日間で約30件の講演が行われた。鉱物資源分野の講演の殆どがボツワナ西部、ナミビアとの国境付近で探査・開発が進む堆積性銅鉱床プロジェクトに関するものであり、関心の高さを示していた。

1. 基調講演 -ボツワナ・鉱物エネルギー水環境大臣-

 ケディキルウェ鉱物エネルギー水資源大臣は、ボツワナの鉱業について、以下のように述べた。
 「2011年のDeBeers社とのダイヤモンド販売契約更新によりダイヤモンド産業の多角化が進んでいる1。」
 「ダイヤモンドはボツワナの国家収入(income)の約40%、GDP(国内総生産)の約30%(2011年)であり、ボツワナの基幹産業である。2008年から2009年にかけて、世界経済危機の影響を受け、特に、2009年のダイヤモンド生産量は17.7百万カラットと前年の32.6百万カラットから半減したが、2010年には22.0百万カラットまで回復した。ボツワナのダイヤモンド産業を持続可能なものにするには、(下流部門の)カットや研磨への進出、地域社会のダイヤモンド産業への参加、国際競争力、世界水準への対応が必要であり、それを進めているところである。」
 「石炭資源開発は、経済の多角化、電力供給、更に、輸出産業へとの期待がある。そのためにもナミビア等の隣国とのインフラ整備等における協力が必要となる。また、石炭資源の開発と石炭産業のサプライチェーンの構築のために官民連携が不可欠である。(民間との連携に関連して、)政府は、魅力ある投資環境・税制(所得税引き下げ25%から22%)、簡潔な法制度に努力している。国内のインフラ整備についても発電所(Morupule B発電所600 MW)、ダム(2か所)の建設などに力を入れている。
 この鉱業大会に集まっていただいた企業には、この鉱業大会によって、ボツワナへの更なる投資が進むよう期待している。」
 また、ケディキルウェ大臣は、講演後、報道陣の質問に時間をかけて丁寧に応対していたが、記者が政府権益が50%に及ぶダイヤモンド企業(Debswana社)について、政府の関与の強さを指摘したことに対して、「ダイヤモンドは他の鉱種とは異なり、特別である。ダイヤモンドからの収入は直接、国家収入となっている(歳入の約40%)。政府は、その収入を確保して行く必要がある。したがって政府の関与は強いものになる」との考えを示した。
 また、記者からボツワナ経済はダイヤモンドに頼りすぎてはいないかとの質問に対して、「ボツワナ経済は、ダイヤモンドに頼るところは大きいが、経済の多角化を進めることが重要であり、そのためには人材育成が不可欠である」と答えている。

写真2. 基調講演
写真2. 基調講演
(ケディキルウェ鉱物エネルギー水資源大臣)
写真3. 会場(講演会場)
写真3. 会場(講演会場)



1 2011年の契約更新で、ボツワナ政府はDe Beers社との50%-50%合弁企業であるDebswana社が生産するダイヤモンドのうち10%を独自に販売できるようになったこと、ロンドンにあるDe Beers社のダイヤモンド・マーケティング部門DTC;Diamond Trading Centreをボツワナの首都ハボロネに移転することなどにより、ボツワナ国内でのダイヤモンドの付加価値化等、下流部門への展開が図られた。

2. 鉱物資源プロジェクトの探鉱・開発状況 -堆積性銅鉱床-

 今回の鉱業大会において、鉱物資源分野の話題の中心であったボツワナ西部、ナミビアとの国境付近で探査・開発が進む主な堆積性銅鉱床プロジェクトの概要を以下に記す。

(1) Mwashya-Shalesプロジェクト
 権   益 : Tsodilo Resources Ltd. 100%
 場   所 : カラハリ・カッパーベルト(Kalahari Copper Belt、ボツワナ北西部)
 開発状況 : 探鉱
 鉱床規模 : 延長90 ㎞×幅30~40 ㎞
 生産規模 : 未定
 採掘方法 : 未定
 操業期間 : 未定
 そ の 他 : -

(2) Bosetoプロジェクト
 権   益 : Discovery Metals Ltd. 100%(本社:豪・ブリスベン、ASX上場)
 場   所 : カラハリ・カッパーベルト(Kalahari Copper Belt、ボツワナ西部、
         Hana Mining Ltd.社鉱区の北側隣接鉱区)
 開発状況 : 2012年6月生産開始(計画期間内、予算範囲内)
 鉱床規模 : (資源量)131百万t、Cu 1.3%、Ag 16.2g/t
         (埋蔵量)29.1百万t、Cu 1.4%、Ag 19.8g/t
 生産規模 : 5万t/年(Cu量)
 採掘方法 : 露天採掘、坑内採掘
 操業期間 : 25年以上
 そ の 他 : Selene、Plutus Deep、Zeta NE、Mango地区で新たな資源量獲得の可能性あり

(3) Ghanzi(Banana Zone、Zone 5)プロジェクト
 権   益 : Hana Mining Ltd. 100%(本社:加・バンクーバー、TSX上場)
 場   所 : カラハリ・カッパ-ベルト(Kalahari Copper Belt、ボツワナ西部、Discovery Metals社鉱区の南側隣接鉱区)
 開発状況 : 経済性評価/進んだ探鉱
 鉱床規模 : (Banana資源量;Indicated)   40.9百万t、Cu 0.87%、Ag 12.5 g/t
         (Banana+Zone5資源量;Inferred) 207.7百万t、Cu 0.69%、Ag 7.7 g/t
 生産規模 : 3万t/年(Cu量)、27 t/年(Ag量)
 採掘方法 : 坑内採掘
 操業期間 : 13年以上
 そ の 他 : Banana, Chalcocite, Zone 5, 6地区で新たな資源量獲得の可能性あり

(4) Ghanziプロジェクト
 権   益 : MOD Resources Ltd. 100%、一部JV(本社:豪・パース、ASX上場)
 場   所 : カラハリ・カッパーベルト(Kalahari Copper Belt、ボツワナ西部)
 開発状況 : 探鉱
 鉱床規模 : 100 ㎞にわたり鉱化が期待される
         ボーリング結果;Cu 0.70~4.31%、Ag 1.56~174 g/t、鉱化部の幅;1.5~10 m
 生産規模 : 未定
 採掘方法 : 未定
 操業期間 : 未定
 そ の 他 :  -

(5) Ghanzi(Kuke)プロジェクト
 権   益 : New Hana Copper Mining Ltd. 100%(本社:加・バンクーバー、TSX上場)
 場   所 : カラハリ・カッパーベルト(Kalahari Copper Belt、ボツワナ西部、Hana Mining Ltd.鉱区の南側隣接11鉱区)
 開発状況 : 探鉱
 鉱床規模 : (期待する鉱床規模)100百万t、Cu 1.4%、Ag 17 g/t、鉱化帯の厚さ60~90 m
 生産規模 : 未定
 採掘方法 : 未定
 操業期間 : 未定
 そ の 他 :  -

写真4. 会場(展示ブース)  写真4. 会場(展示ブース)
写真4. 会場(展示ブース)
図1. ボツワナにおける主な堆積性銅鉱床プロジェクト位置図
図1. ボツワナにおける主な堆積性銅鉱床プロジェクト位置図
(出典:ボツワナ鉱物エネルギー水資源省資料に加筆)

3. 鉱物資源プロジェクトの探鉱・開発状況 -金、ウラン、石炭等-

 今回の鉱業大会において、堆積性銅鉱床以外の探鉱・開発プロジェクトの概要を表1にまとめた。

表1. 鉱業大会で紹介された堆積性銅鉱床以外の主なプロジェクト

No プロジェクト 鉱種 権益保有企業 開発
段階
概要
1 Mupane Galane Gold(加) 操業 34百万US$でIAMGold社から取得、2004年から操業、生産量1.56 t(2011年)、鉱山寿命が近付き、鉱区1,200 km²の探鉱に期待。
2 Xada Cu-Ni
-PGE
Impact Minerals(豪) 75% 探鉱 鉱区7,000 km2、大規模貫入岩(260×180 km)、地化学探査、空中物理探査実施予定。
3 Botswana Karoo ウラン Impact Minerals(豪) 100% 探鉱 鉱区26,000 km2、カルー層群中のカルクリート型、砂岩型(古河川)を対象に探鉱中。
4 Letlhakane ウラン ACAP Resources(豪) PF/S
F/S
2006年発見、試錐3,500孔(140 km)、資源量1,041百万t、品位150 ppm U3O8、351.8 lb U3O8
5 Mmamabula 一般炭 CIC Energy Corp(豪) 探鉱 資源量24億t、6.3百万t/年、
発電用
6 Mmamantswe 一般炭 Aviva Corporation(豪) 探鉱 資源量27億t、200万t/年輸出、
100万t/年国内消費、発電用
7 Moiyabana 一般炭 Hodges Resources(豪) 探鉱 目標資源量14~16億t、660万t/年
8 Morupule South 一般炭 Hodges Resources(豪) 探鉱 目標資源量14億t
9 Morupule 一般炭 Morupule Coal Mine(ボツワナ)
(Debswana;De Beers -政府)
操業 資源量29.1億t、層厚6~10 m
拡張;100万t/年から320万t/年
Morupule A(120 MW)、B発電所(600 MW)へ供給。
10 Sese 一般炭 African Energy Resources(豪) 探鉱 資源量27億t、350万t/年、
洗炭60万t/年、Maputoから輸出、
発電用
11 Takatokwane 一般炭 Nimrodel Resources(豪) 探鉱 資源量42億t
12 Orapa、Mmashoro CBM
(炭層メタン)
Kalahari Energy(ボツワナ) 探鉱 ガス鉱区3,200,000 acre(Karoo盆地)
トルコ系企業とIPPを形成、BPC(ボツワナ電力会社)へ電力供給予定(Orapa 90 MW、Mmashoro 180 MW)。
13 ボツワナ国内 CBM
(炭層メタン)
Exxaro(南ア) 探鉱 Sekaname(Pty)Ltd.と共同探査。
14 ボツワナ国内 CBM
(炭層メタン)
Exxaro(南ア) 探鉱 Kalahari Energyと共同探査。
15 ボツワナ中央部 CBM
(炭層メタン)
Kudu Energy
(Sasol(南ア) -Origin(豪))
探鉱 鉱区3,000 km2、2013年9月までに空中磁気探査、試錐30孔、試験井5ケ所、環境調査を計画。

出典:各社講演、各社Webサイト、「Botswana Resource Sector Overview 2012/13」(Capital Resources)をもとに作成

4. 考察

 2012年のボツワナ鉱業大会「Botswana Resource Sector Conference」の話題の中心は、金属鉱物資源の堆積性銅鉱床開発と石炭資源開発であった。その背景には、Discovery Metals社が2012年6月に堆積性銅鉱山からの生産を一部開始したこと、国内電力供給を担うMorupule B石炭火力発電所(600 MW)の試運転開始、インドの一般炭需要の伸びへの期待がある。
 他方、石炭開発は、国内電力需要に対してプロジェクト数が多いことから、これらプロジェクトが現実のものとなるためには、必然的に周辺国への電力輸出やインド・中国などへの輸出を考えなければならい。そこで問題となるのが、周辺国への安定した価格での電力輸出と石炭を輸出するための鉄道・港湾インフラ整備である。
 電力輸出に関しては、南部アフリカ諸国間の共通の課題である電力需給に関して余剰電力を融通するための枠組み「Southern African Power Pool;SAPP」が議論されている。
 また、鉄道インフラ整備に関しては、ナミビア・Walvis Bay等を積出し港とし、そことボツワナ国内の鉱山を結ぶ鉄道Trans Kalahari Rail構想と、ジンバブエ或いは南アフリカを通過してモザンビークMaputo港を積出し港とする構想を各社は考えてはいるようだが、事業主体、資金確保など具体性に欠けるものがほとんどであった。

おわりに

 ボツワナにおける政策の最重要課題の一つである経済の多角化(ダイヤモンド産業に偏らない産業構造の構築)にとって、同国西部での銅鉱山開発や石炭資源プロジェクトの活発化は歓迎すべきことであることには違いないが、これらが現実のものとなるためには、複数の国が関係するインフラ整備や電力需給に関する枠組の構築など、南部アフリカ地域全体に関わる諸問題の解決が不可欠であろう。

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