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報告書&レポート

2012年7月26日 ロンドン事務所 小嶋吉広 ボツワナ・地質リモートセンシングセンター 久保田博志
2012年43号

ZIMEC 2012(Zambia International Mining & Energy Conference 2012)参加報告

 2012年6月20~23日、ザンビアのルサカにてZIMEC 2012(Zambia International Mining & Energy Conference)が開催された。ZIMECはザンビアにおける鉱業分野への投資促進を図るため2011年に第1回が開催され、今回が第2回目にあたる。第1回目と同様、鉱山エネルギー・水資源省及び投資庁が主催者となった。スポンサーには、Rio TintoやVale、Konkola Copper Mines社、Barrick Goldなどが名を連ねザンビア政府関係者や鉱業関係者約600名が参加し、大々的に開催された。
 会場となったGovernment Complexはルサカの官庁街に立地し、政府機関が集う合同庁舎ビルに隣接する大規模な国際会議場である。ザンビア政府が当初建設を計画していたが資金難のため着工が遅れ、中国からの27.8百万US$の借款により2012年に竣工した。この会議場は、中国による資金供与で建設されたザンビアでの大規模建築物の一つと言われている。
 JOGMECロンドン事務所及びボツワナ・地質リモートセンシングセンターは本会議に出席する機会を得たので、ザンビアにおける鉱業を概観するとともに、ZIMEC 2012における主な講演についての概要を報告する。

写真1. 会場となった
写真1. 会場となった
Government Complex
写真2. 講演会場
写真2. 講演会場

1. ザンビア鉱業の現状

1-1. 概観
 ザンビアの2011年銅生産量は740千tであり、アフリカでは第1位、世界全体では第6位(シェア4.6%)の産銅国である。国内における主要な銅生産プロジェクトは表1及び図1のとおりである。ザンビア政府は今後も銅生産を積極的に拡大させる計画を掲げている。2011年時点では、2015年で1,500千t、2020年には2,000千tまで生産を上げるという野心的な計画を掲げていたが、2011年の生産量がKansanshi鉱山やChambishi鉱山等で発生したストライキの影響により、当初予定の900千tを達成できなかったことを受け、直近の政府発表では目標値を下方修正し、2015年で1,000千tを新たなターゲットとして設定している。

表1. ザンビアでの主な銅プロジェクト

プロジェクト名 保有企業 2010年
生産量
(千t)
Chambishi -China Nonferrous Metals Group(中国有色鉱業集団有限公司)(85%)
-ZCCM-IH(15%)
22.0
Chibuluma South -Metorex Ltd.(85%)
-ZCCM(15%)
17.1
Kansanshi -First Quantim Minerals Ltd.(80%)
-ZCCM(20%)
234.9
Konkola -Vedanta Resources plc(79.4%)
-ZCCM(20%)
78.9
Luanshya -China Nonferrous Metal Mining Corp.(80%)
-ザンビア政府(20%)
24.0
Lumwana -Equinox Minerals Ltd.(100%) 146.7
Mufulira -Glencore International AG(73.1%)
-First Quantum Minerals Ltd.(16.9%)
197.4
図1. 主要鉱山位置図
図1. 主要鉱山位置図

1-2. 最近の動向
 2011年9月、雇用創出や格差是正、汚職撲滅を掲げて政権の座に就いたサタ大統領は、就任後、鉱物資源に対する国家管理を強化する政策を推し進めている。例えばサタ政権は、バンダ前大統領治世下での鉱業ライセンス発給手続きの不透明性が汚職の温床になったと指摘し、ライセンス発給手続きの透明性向上に向けライセンスの新規交付、更新、譲渡を2012年3月まで見合わせる措置を取った。また、鉱物資源の輸出管理を強化するため、2012年2月、全ての輸出業者に対し輸出許可証と鉱物分析証明書の取得を義務づけ、ロイヤルティの徴収徹底化の観点から輸出に当たって鉱物ロイヤルティ支払証明書の提示義務を課した。さらに歳入増加に向け、鉱山会社に対しては、銅地金の出荷量や精鉱品位等の情報を四半期毎に政府へ提出するよう義務づけている。
 上記の財政的措置の他、鉱山経営への国民の参画を促進させる観点から、政府は鉱山会社に対しルサカ証券取引所への上場義務を検討している。このような措置は「忍び寄る国内資本化」であると見る専門家も多い。

1-3. 原体験としての国有化の蹉跌
 ザンビアは歳入拡大を図る目的から、1970年代前半より銅産業を始めとする主要産業の国営化を推し進め、1982年にZCCM(ザンビア国営鉱山公社)を設立して銅産業を完全国有化した。しかしながら、国有化による放漫経営と70年代後半からの銅価低迷により、銅の生産量はその後下降傾向を辿り、90年代後半には200千t近くまで低下することとなった(図2参照)。1992年に設立された民営化庁は世銀のアドバイスを受けながら銅産業の民営化に取り組み、2000年にZCCMは持ち株会社(ZCCM-Investment Holdings)に改組され、銅産業は民間資本主導で再構築されることとなった。民間資本の導入と比例する形で銅の生産量は2000年以降拡大を続けている。
 ザンビア政府はこのような国有化による失敗を教訓とし、その轍は踏まじとして、国有化はないと公式に明言しているが、サタ大統領は雇用創出や格差是正、歳入増大を公約としているため、鉱業に対する政府の関与拡大の動きは今後もくすぶり続けると予想される。

図2. 銅生産量の推移
図2. 銅生産量の推移
(出典:ZIMECでの鉱山エネルギー・水資源大臣講演資料)

2. 主な講演

2-1. 「ザンビアにおけるValeの活動 -戦略的パートナーシップ構築と探査活動の積極展開-」
(Eduardo Etchart、Exploration Manager、Vale)
 Valeは現在、38か国で活動を行い、126,000人を雇用している。対象事業は多岐に亘り、鉱種としては鉄鉱石、銅、石炭、ニッケルをカバーするとともに、肥料や製鉄、エネルギー分野でも事業を行っている。アフリカはその資源ポテンシャルの高さから、Valeの主要投資先の一つに位置づけられており、9か国で事業を展開中(表2参照)。2012年度は77億US$の投資を計画している。

表2. アフリカにおけるValeの事業

国名 内容
アンゴラ  ・ 銅、ニッケルの初期探鉱実施中。
DRCコンゴ  ・ Gecemines社との協力の下、Katanga州で銅、コバルト、ニッケルの初期探鉱実施中
 ・ Grcamines社・ARM社とのJVにより、Luputo/Niamumenda銅鉱床プロジェクトを開発中
ギニア  ・ BSG Resources社(ギニア)とのJVにより、2012年の操業開始に向けSimandou Block1,2(鉄鉱石)
   の建設中
エチオピア  ・ Konso地域でのベースメタルをターゲットとした初期探鉱実施中
リベリア  ・ ギニアでの鉄鉱石・ニッケルプロジェクトのロジスティックスのため、道路及び港湾整備検討中
マラウィ  ・ Nacala回廊の鉄道・整備を実施中
 ・ 鉱物資源の案件を発掘中
モザンビーク  ・ Moatize石炭プロジェクトが2011年5月に生産開始。生産増強に向け、ベイラ回廊及びナカラ回廊
  での鉄道、港湾を整備中
 ・ Evateプロジェクト(リン)のFS実施中
 ・ Cabo Delgado地域において原料炭、ニッケル硫化鉱、リンをターゲットとした初期探鉱実施中
南ア  ・ ヨハネスブルグにアフリカ地域での探鉱事業に係る統括事務所を設置
 ・ ニッケル硫化鉱やマンガンの初期探鉱実施中
ザンビア  ・ ARM(African Rainbow Minerals)、ZCCM-IHとのJVによるKonkola North銅プロジェクトが2012年
   11月に生産開始予定。
 ・ 子会社を通じ、銅、コバルトの初期探鉱を実施中。

(出典:講演資料からJOGMECが作成)

 モザンビークでは、Moatize石炭プロジェクトが2011年5月より生産を行っており、2012年中に2百万tをベイラ港から輸出できる見込みである。Moatizeプロジェクトは計画では年産11百万tまで生産を上げる予定である。現在開発中のMoatizeⅡプロジェクトは22百万t/年の大規模プロジェクトであり、2014年Q2の生産開始を見込んでいる。CAPEXはMoatizeを凌ぐ20億US$を予定している。
 ザンビアではVale:40%、ARM(African Rainbow Minerals社):40%、ZCCM-IH:20%の権益比率でKonkola Northプロジェクトが2012年11月に生産開始を迎える予定。計画では粗鉱生産量2.5百万t/年、精鉱生産量45千t/年を見込んでいる。CAPEXは453百万US$、操業に伴う全ての許認可は既に取得済みである。
 Valeが探鉱を行う際に最も重視しているのは、鉱床の大きさである。調査に当たり技術者は意欲、想像力、迅速性を重視し、特に初期段階においては机上分析に過度に依存することの無いよう、フィールド調査に力点を置いている。
 ValeはCSRにも力を入れており、環境社会配慮に対する措置として2012年は全世界で16億US$を支出する予定である。また、現地企業の育成にも取り組んでおり、例えばMoatizeプロジェクトの場合、現地企業249社より調達を行い、436百万US$の契約を発注している。Konkola Northプロジェクトにおいては、農業の生産性向上や学校病院の建設を精力的に行っているところである。

2-2. 「ZCCM-IHが担う戦略的役割」
(Mukela Muyunda、CEO、ZCCM-IH)
 ZCCM-IHは銅産業の民営化に伴い、ZCCMの後身として設立された持ち株会社である。現在、13のプロジェクトに対し主に少数株主として権益を保有している。ZCCM-IHはルサカ、ロンドン、NYSEユーロネクストの各証券取引所に上場しており、時価総額は約223百万US$。
 ザンビア政府は現在、民間投資主導による鉱業セクターの発展を掲げており、探鉱活動や鉱業関連産業の振興により経済成長の実現を目指しているが、このような目的の達成においてZCCM-IHは投資企業として、また開発企業として重要な役割を担っている。投資企業としての目標は株主利益の極大化であり、開発企業としての目標は鉱山開発に伴う周辺産業への連関性強化により、鉱山開発による便益を経済全体に享受させることである。また、中小・零細採掘事業の振興に向け、ベンチャーキャピタルや小規模の融資も行っている。
 現在、ZCCM-IHが保有するプロジェクトは銅が主であるが、今後は、貴石や銅以外の鉱種、さらに石油・ガスのプロジェクトへも参画する方向である。また、セメント事業や伸銅事業等の鉱業周辺産業や下流産業にも事業展開を計画している。
 ZCCM-IHはベースメタル及び貴金属をターゲットとした以下の鉱区を保有しており、投資家を募っているところである。

表3. ZCCM-IHが探鉱ライセンスを保有する鉱区(出典:ZIMECでの講演資料)

Serial#  Place Size(Km2)  Minerals
1  Chinsali District,
 Northern Province
817  Manganese,Copper,Gold,Silver,
 Rare Earths
2  Chinsali District,
 Northern Province
793  Manganese,Copper,Gold,Silver
3  Chinsali/Mungwi District,
 Northern Province
748  Copper,Diamond,Gold,Rare Earths
4  Isoka District,
 Northern Province
336  Diamond, Rare Earths,Copper
5  Serenje District,
 Central Province
328  Copper, Gold,Coal,Diamond
6  Chama District,
 Eastern Province
187  Manganese,Diamond

2-3. 「ザンビアの鉱業セクター」
(Peter Von Klemperer, Director Mining & Metals, Corporate Investment Banking, Standard Bank)
 ザンビア経済は鉱業に依存しており、輸出収入に占める銅の割合は70%、金額にして60億US$の輸出収入を稼いでいる。ザンビア政府が掲げる国家開発計画によれば、GDPにおける鉱業の寄与率を現在の10%から2020年には25%にまで引き上げる予定である。仮に他の産業が創出されない場合、銅依存度は今後一層上がる可能性がある。
 ザンビアの銅生産量は2000年以降、年率12%の勢いで成長しており、アフリカにおける銅生産の約4割を占めるまでに至っている。
 今後の生産拡大に向け大規模な新規/拡張プロジェクトが現在進められている。例えば、First QuantumはKansanshi銅鉱山の生産能力を2014年を目途に60%増強させる計画であり、これにより銅生産量は250千t/年から400千t/年に増加する。また、中国有色金属公司は2011年~2015年までの間で20億US$の投資を表明しており、現在建設中のMuliashi銅鉱山は2012年に300千t/年で生産開始を迎える予定である。さらに、Vedantaが出資するKonkola銅鉱山は、2014年目途に生産能力を400千にまで引き上げる計画であり、今後3~4年間で10億US$の投資を行う予定である。
 ザンビアの電力の約7割を鉱業セクターが消費しているが、これら活発な鉱業投資により電力不足が懸念されている。例えばKonkola Northプロジェクトでは100 MW、Muliashiプロジェクトでは30 MWの電力使用増加が予想され、2012年は対前年比7.7%増の2,624 MWの電力需要が見込まれている。(図4参照)。他方、供給サイドに目を転じると、Kariba North Bank Extensionプロジェクト(360 MW)の生産開始は2013年の予定であり、増加する電力需要に供給が追い付かない状況はしばらく続くと見込まれる。

図3. 電力需給の状況
図3. 電力需給の状況
(出典:講演資料)

 現在ザンビアの電力の99.6%が水力発電で賄われているが(現在の発電能力は1,812 MW)、ザンビアはZambezi川、Kafue川の流域に位置するため、水力の電源ポテンシャルは全体で6,000 MWと言われており、開発ポテンシャルは十二分にあると言える。
 電化率について見ると、ザンビア国内での電化率は20.3%にとどまっており、特に農村部では3%と著しく低くなっている。ザンビア政府は国家開発計画において、2030年までに農村部の電化率を51%にまで引き上げるとしており、電源開発とともに送配電網の整備も課題となっている。

3. 所感

写真3. Vale ZambiaのHart探鉱部長
写真3. Vale ZambiaのHart探鉱部長
(右)による昼食会でのスピーチ(正面左
がスコット副大統領)

写真4. ブースの様子
写真4. ブースの様子

 当初はサタ大統領が基調講演を行う予定であったが、大統領はリオデジャネイロで開催された「国連持続可能な開発会議」(Rio+20)に出席するため、代わってスコット副大統領による基調講演が行われた。基調講演後、在ザンビア・ブラジル大使によるエスコートの下、副大統領始め参加者一同はValeのスポンサーによる昼食会会場へと案内された(昼食会会場の建物も中国の資金支援によるもの)。そして、副大統領と大使、Vale ZambiaのIan Hart探鉱部長はメインテーブルに着席し、両者の緊密な関係をアピールするといった、Valeとブラジル政府による資源外交さながらの演出が目を引く場面があった。
 リオデジャネイロ滞在中、サタ大統領はValeの幹部と会談し、Konkola Northプロジェクトに対する投資について感謝の意を示すとともに、今後は雇用創出、技術移転に繋がるような投資を増やすよう懇願した。会談に出席したValeのGlobal HeadであるRafael Tiago Juk Benke氏は、「ザンビアは銅のポテンシャルがあり、十分な鉱量が確認できればKonkola Northプロジェクト以外でも投資を考えている。Valeは世界中で技術移転促進を図る取り組みをしており、技術移転は貴国におけるプロジェクト実施に当たり最重要事項として認識している」と回答し、双方は緊密な関係構築に向け協力を確認したとメディアは報じている。ザンビア大統領府のHPは「President Sata gives Vale green light」というタイトルのメディア報道を掲載している1

 2011年の会議では、中国企業のブース出展や中国投資に関する講演があったが、政権交代による影響か、今回は全く影を潜めたのが印象的であった。先進国だけでなく、ブラジル、中国、インドによる投資が持つそれぞれの特性を熟知した上で、巧みにそれらを選別し、時には相互に補完させるという、ザンビアの投資受け入れ国としての「したたかさ」、バランス感覚を改めて感じさせる会議であった。



1 以下サイト参照
http://www.statehouse.gov.zm/index.php/component/content/article/48-featured-items/4290-president-sata-gives-vale-green-light

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