報告書&レポート
「中国のレアアースの現状と政策」白書
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2012年6月20日、「中国のレアアース現状と政策」白書(原文の日本語漢字表記では「中国的稀土状況与政策」白皮書)が正式に発表配布された。全文を仮訳にて紹介する。 <以下本文和訳>以下本文和訳> |
中国のレアアースの現状と政策
(2012年6月)
中華人民共和国国務院新聞弁公室
目 次
はじめに
1.レアアースの現状
2.発展原則と目標
3.資源の有効保護と合理的な利用
4.レアアースの利用と環境の協調的発展
5.技術革新と産業レベルの向上
6.公平な貿易と交際協調の促進
はじめに
レアアースは再生不可能な重要な天然資源であり、経済社会の発展に伴いその用途はますます広がって来ている。
中国はレアアース資源の豊富な国の一つである。1950年代以降、中国のレアアース産業は飛躍的な発展を遂げ、長年の努力が実を結び、中国は今や世界最大のレアアースの生産・応用・輸出国となっている。
レアアースの開発は人類に幸福をもたらした一方で、資源や環境への悪影響も生じさせた。レアアースの開発・利用においては、合理的な利用と環境への配慮が、世界の共通の課題となっている。ここ数年、中国は、レアアースの開採・生産・輸出の各段階で総合的な対策を講じ、資源及び環境の保護に取り組み、レアアース産業の持続的かつ健全な成長の促進に努めている。
経済のグローバル化に伴い、レアアース分野での国際交流や協力がますます活発になっているが、中国は一貫してルールと信用を重んじ、大量のレアアースを世界に提供してきた。中国は今後も引き続きWTOのルールに則り、レアアースの科学的な管理を強化しつつ国際市場にレアアースを提供し、世界経済の発展と繁栄に貢献していく。
中国のレアアースを取り巻く状況や政策に強い関心を寄せている国も多く、さまざまな憶測が飛び交っている現状を鑑み、以下、中国のレアアース事情について紹介し、国際社会の中国のレアアースについての理解を増進させたい。
1.レアアースの現状
レアアースとは元素周期表のランタノイド系元素であるランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)に同族のスカンジウム(Sc)とイットリウム(Y)を加えた17種の元素の総称である。元素分子量及び物理化学的性質によって、軽希土類元素、中希土類元素、重希土類元素に分類され、前5種の元素が軽希土類で、その他は中重希土類である。希土類はその特異な物理化学的性質によって、新エネルギー、新素材、省エネ環境保護、航空宇宙、電子情報等の分野に広く応用され、現代工業に必要不可欠で重要な元素になっている。
中国はレアアース資源が豊富で、世界のレアアース総埋蔵量の23%を占めている。中国のレアアース資源の主な特徴は以下の通り。(訳注;以下の①~⑫の○で囲った数字は原文にはない。原文では「―」により文が区分されているのみであるが、この訳文では見やすさを優先し敢えて○数字で区切っている)
① 分布に「北軽南重」の特徴がある。軽希土類鉱床は主に内モンゴル自治区の包頭等の北方地域や四川省涼山に分布している。一方、イオン吸着型の中重希土類鉱床は主に江西省の贛州や福建省の龍岩等の南方地域に分布している。
② 資源の種類が豊富。バストネサイト(Bastnasite)、モナザイト(Monazite)、イオン吸着型鉱(Rare earth laterite)、ゼノタイム(Xenotime)、フェルギソン(fergusonite)等、レアアース元素の種類が豊富である。イオン吸着型鉱の中重希土類は世界的にも重要な位置を占めている。
③ 軽希土類に随伴する放射性元素の環境への影響は大きい。軽希土類鉱床の多くは大規模な工業的開採が可能であるが、トリウム等の放射性元素の処理が難しく、開採や製錬、分離の際には人体の健康や環境への悪影響を重視する必要がある。
④ イオン吸着型鉱の中重希土類の賦存条件が悪い。イオン吸着型鉱の希土類元素はイオンの状態で土壌に付着しているため、分布がまばらで、品位が低いために大規模な工業的開採が難しい。
1970年代末に改革開放政策が実施されて以来、中国のレアアース工業は急速な発展を遂げている。レアアースの開採、製錬及び応用技術の研究開発が大きく進歩し、産業規模も拡大を続け、国民経済と社会の発展に必要な需要をほぼ満たしている。
⑤ 工業体系が整備されている。中国には内モンゴル自治区包頭の軽希土鉱床、四川省涼山の軽希土鉱床、江西省贛州をはじめとする南方5省の中重希土鉱床の三大生産拠点があり、既に、開採、選鉱、製錬、分離技術及び設備製造、材料加工、応用等の一連の工業体系が構築され、400余りの品種、1,000を超える規格のレアアース製品の生産が可能である。2011年の中国のレアアース製錬製品の生産量は9.96万tで、世界の総生産量の90%以上を占めた。
⑥ 整いつつある市場環境。中国はレアアース業界の改革に不断に取り組み、投資主体の多元化、企業の自主的判断、需給バランスで価格が決まるレアアース市場体系の構築を推し進めて来た。ここ数年、中国のレアアースへの投資が急速に伸びており、市場規模も拡大を続けている。国営・民間・外資等のさまざまな形態の企業が参画し、レアアースの市場規模は千億元の大台に達する勢いである。市場秩序も徐々に改善され、企業間の合併や再編も次第に進み、かつてのレアアース業界の「小規模、分散、無秩序」という状態がある程度改善されつつある。
⑦ 科学技術レベルの向上。長年の発展を経て、中国はレアアースの研究開発体制を構築して来ている。レアアースの選鉱・製錬・分離などの分野で世界的レベルの技術をいくつも開発し、その独自の選鉱技法や分離技術によってレアアース資源の開発利用における確固たる礎を築いている。また、レアアースの新素材産業も着実に成長し、レアアースの永久磁石材、発光材、水素吸蔵材、触媒材等のニューマテリアルの産業化も進み、産業の改造及びバージョンアップと戦略的新興産業の成長を後押している。
中国のレアアース産業の急成長は、中国の国内経済や社会の発展ニーズを満たすだけでなく、世界規模のレアアース供給にも大変寄与している。中国はWTO加盟に際しての承諾事項を着実に履行し、WTOのルールを遵守し、レアアースの公平な取引を促進している。目下、中国が世界に占める23%のレアアースで世界市場の90%以上を支え、中国で生産されたレアアースの加工製品である永久磁石材、発光材、水素吸蔵材、研磨剤の世界シェアは70%以上になっている。中国のレアアース素材や機器、LED照明、マイクロモータ、ニッケル・水素電池等の最終製品が世界各国、とりわけ先進諸国の先端技術産業を支えていることになる。
なお、レアアース産業の急成長に伴い、さまざまな問題が露呈し、中国はそれらに対し大きな代償を支払っている。以下、主な問題点を挙げる。
⑧ 行き過ぎた資源開発。半世紀に渡る過度な開発採掘により、中国のレアアース埋蔵量とライフは減少し続けている。主要鉱区で衰退が加速し、鉱山資源の多くが枯渇に瀕している。包頭のレアアース資源は主要鉱区では、わずか1/3を残すだけになっている。南方のイオン吸着型レアアースの回収率(訳注;この部分の原文は「儲採比」、英文訳ではreserve extraction ratioと訳されている模様)は20年前の50から、現在は15になっている。また、南方のイオン吸着型鉱の多くは山間部に点在していて数も多いため、管理コストが高く、監視の目も行き届かないということもあり、違法開採が繰り返され、レアアース資源が大きなダメージを被っている。採算性が高く、採掘の容易な鉱区の開発が進められる一方、品位の高いものだけを求め、採掘しやすい所しか採掘しないなど、資源回収率が低い。南方のイオン吸着型鉱の採掘回収率は50%未満、包頭のレアアース鉱石の採掘選鉱利用率はわずか10%である。
⑨ 生態環境の破壊。レアアースの開採・選鉱・製錬・分離工程のプロセスや技術が遅れているため、地表植生の破壊、水土流出、土壌の汚染や酸化を招いている。農作物の収穫量が減り、作付けすらできない地域もある。以前はイオン吸着型鉱の中重希土類の採掘には遅れた堆浸法・池浸法が採用され、1tのレアアース酸化物を生産するのに2,000 tの残渣が発生していた。現在は現地浸鉱法が用いられているが、やはり大量のアンモニア窒素や重金属汚染物質が発生し、植生や生態環境を破壊し、地表水や地下水、農地が汚染されている。軽希土類鉱床の多くが多金属共生鉱・随伴鉱であり、製錬や分離の過程で大量の有毒・有害ガス、高濃度のアンモニア窒素廃水、放射性残渣等の廃棄物が発生する。また、地域によってはレアアースの過度な開採によって山崩れが発生したり、河道が塞き止められたり、突発性環境汚染事故が発生したりしているが、中には重大事故や災害となって人々の健康や生態環境に深刻な影響をもたらしている。生態環境の復元と保全がレアアース生産地域に大きな負担となってのしかかっている。
⑩ 不均衡な産業構造。製錬・分離能力が過剰であるのに対し、レアアース素材や機器の研究開発が進んでおらず、レアアース新素材の開発や応用技術で外国に遅れをとっている。レアアース素材や機器の加工生産技術のうち知的財産権を有しているものはわずかで、ローエンド製品が過剰にある一方、ハイエンド製品が不足している。また、レアアース開発業者は小規模事業者が多いため、産業集積度が低く、核心的競争力を擁する大型企業が少ないために業界のモラルが形成されにくく、悪性の過当競争も存在する。
⑪ 価値と価格の乖離が甚だしい。長期に渡り、レアアースの価値が価格に正当に反映されずに低迷を続けてきた。レアアースの希少価値が正当に評価されずにいるため、生態環境を犠牲にした代償が得られずにいる。2010年下半期以降、レアアースの価格は徐々に値を上げつつあるものの、金、銅、鉄鉱石などの原材料と比べると、その伸び率は小さい。2000年から2010年にかけてレアアースの価格は2.5倍に跳ね上がってはいるが、一方で金は4.4倍、銅は4.1倍、鉄鉱石は4.8倍の伸びとなっている。
![図1 1986年‐2010年の中国レアアース価格の推移 (出典:新華社)](/wp-content/old_uploads/reports/current-topics/images/12_53/12_53pic01.jpg)
図1 1986年‐2010年の中国レアアース価格の推移 (出典:新華社)
![図2 2000年‐2010年のレアアースとその他製品の価格上昇幅の対比 (出典:新華社)](/wp-content/old_uploads/reports/current-topics/images/12_53/12_53pic02.jpg)
図2 2000年‐2010年のレアアースとその他製品の価格上昇幅の対比 (出典:新華社)
![図3 1986年‐2010年のレアアースと金、銅、鉄鉱石価格の推移の比較 (出典:新華社)](/wp-content/old_uploads/reports/current-topics/images/12_53/12_53pic03.jpg)
図3 1986年‐2010年のレアアースと金、銅、鉄鉱石価格の推移の比較 (出典:新華社)
⑫ 密輸出の横行。中国税関がレアアースの密輸に対する取り締まりを強化しているが、国内外の需要の変化やさまざまな要因により、密輸を完全に封じ込めるまでには至っていない。2006年から2008年のデータによると、海外の税関が把握している中国からのレアアース輸入量は、中国の税関が発表している輸出量を2006年で35%、2007年で59%、2008年で36%上回っており、2011年に至っては1.2倍超の数字になっている。
レアアース開発に伴う深刻な問題に対処するため、中国政府はレアアース業界に対する監督強化に乗り出している。2011年5月、国務院は「レアアース業界の持続的かつ健全な発展促進に関する若干の意見」(以下「意見」とする)を発表し、資源と環境の保護、持続可能な発展の実現をこれまで以上に重視し、レアアースの開採・生産・流通・輸出入に対する管理を強化し、レアアース産業の管理強化に関する法律・法令の制定及び整備を進めるとしている。また、中国政府はレアメタル(訳注;原文はこの部分「稀有金属」)の発展戦略や計画及び政策等の重要課題について統括的な話し合いを行う場として各部間(訳注;「省庁間」の意)の意見を調整するためのメカニズムを設け、また、レアアース弁公室を設けてレアアースの開採・生産・備蓄・輸出入計画等の調整や提案を行ったりしている。なお、国務院の関係部門がその職能に応じて管理業務を行っている。さらに2012年4月には、レアアース産業のモラルと秩序の形成、積極的な国際協力事業の推進に重要な役割を担う中国レアアース産業協会が設立されている。「意見」が実施されて一年余りになるが、レアアース産業の発展には大きな変化が見られ、業界の発展秩序にも明らかな改善が見られる。
2.発展原則と目標
(1) 基本原則(訳注;以下の①~④は原文では○数字では示されていない)
① 環境保護と資源節約を堅持する。レアアースの資源開発に対しより厳しい生態環境保護基準と環境に配慮した開採政策を実施し、早急にレアアース管理の法整備を進め、法に依り各種違法行為を厳しく取り締まる。
② 総量規制と在庫量の最適化を堅持する。大型企業集団戦略の実施を加速させ、レアアース産業の構造調整を促す。技術革新を積極的に進め、開採・製錬・分離能力を厳しく制限し、旧式設備による生産能力を淘汰し、レアアース産業の更なる集積化を目指す。
③ 国内・国外の2つの市場と資源を共に重視する姿勢を堅持する。開採・生産・輸出に対し同時管理を行うと共に、国際交流や提携を奨励する。
④ 地方経済・社会の発展との協調を堅持する。全体と一部、現在と将来とのバランスを取りながら、レアアース産業の正常な発展秩序を維持する。
(2) 主な目標(訳注;以下の①~⑤は原文では○数字では示されていない)
短期的な課題としては以下のいくつかが挙げられる。
① 秩序ある開発・製錬・分離・市場流通体制を構築し、レアアース資源の過度な開採、生態環境の悪化、盲目的な生産拡大、密輸の横行を食い止める。
② レアアース資源の回収率、選鉱回収率、総合利用率の引き上げを図り、行き過ぎた開発を規制し、可採年数を適正レベルに戻す。
③ 廃水・廃ガス・廃棄物の排出が基準を満たすようにし、重点地区の生態環境の復元を図る。
④ レアアース業界の合併・再編を急ぎ、一定規模を持ち、高効率でクリーンな大型企業を誕生させる。
⑤ 新製品の開発、新技術の普及応用のスピードアップを図る。これらを踏まえた上で、レアアースに関する政策や法律の整備を更に進め、一元的かつ規範化された高効率な業界管理システムを徐々に構築し、合理的な開発、秩序ある生産、効率的な利用、先端技術の開発、集約的発展が持続可能で健全な発展局面を目指す。
3.資源の有効保護と合理的な利用
レアアースは再生不可能な天然資源であるため、しっかりと保護を行い、合理的に利用していく必要がある。中国は長年、レアアースに対し保護的開採を行い、資源の持続可能な利用に取り組んで来ている。
中国は1980年代に「鉱産資源法」を公布し、国家計画鉱区、国民経済に重要な価値を持つ鉱区、国が保護的開採を行っている特定鉱種に対し、計画的な開採を行って来た。1991年にはイオン吸着型鉱を保護的開採対象鉱種に指定し、開採から選鉱製錬、加工、市場での販売、輸出に至るまでの各過程を計画的かつ一元的に管理することにした。また、2006年にはレアアースの開採総量規制を実施し、2007年にはレアアースの生産を指令性生産計画による管理の対象とした。2008年には「全国鉱産資源計画」(2008-2015年)を策定し、レアアース等の保護的開採が必要な特定鉱種に対し計画調整、開採制限、参入そして総合利用の厳正化を行っている。2009年には国が保護的開採を指定している特定鉱種の探査、開採登記、審査権限を上級機関に移管している。さらに2011年にはレアアース鉱の原鉱資源税の税額の調整を一斉に行っている。調整後の税額は軽希土類(バストネサイト、モナザイトを含む)が60元/t、中重希土類(ゼノタイム、イオン吸着型鉱を含む)が30元/tと、調整前の0.4元/t~2元/tから大幅に引き上げられた。また、レアアース戦略的備蓄制度を構築し、レアアースの資源地備蓄と製品備蓄を進めている。まず11のレアアース国家計画鉱区を指定し、レアアース資源重点計画区(鉱区)特別計画を作成している。なお、鉱業権の管理を厳格化し、鉱業権設置方案制度を実施し、原則として新規のレアアース探査及び開採申請の一時不受理を続行し、開採を行っている既存鉱山の生産能力の拡大を禁止した。開採及び生産総量を厳しく制限し、資源開発の強度を下げて資源の枯渇時期を延ばし、持続可能な発展を促している。
ここ数年、中国はレアアースの開採と生産に対する取り締まりを行い、レアアース資源の有効な保護と合理的な利用に努めている。衛星航空写真、監視カメラ、定期検査、月報制度、専用移動伝票による管理、電話通報等の方法でレアアースの開採総量と指令性生産計画指標を厳しく管理している。また、レアアースの違法開採や規制値を超えた開採、レアアース製錬企業の無計画及び計画を超えた生産については、厳しい取り締まりを行っている。更に重点レアアース産出区に対する監視連携を強化し、違法な開採と生産を行った企業や環境汚染企業、資源の浪費や安全生産の条件を備えていない企業に対し取り調べを行い、問題のあった企業や関係者の責任を追及している。交付済みの探査許可証と開採許可証の再審査を行い、合法的に採掘している企業名を公表している。ルールに則ったレアアースの開採、生産秩序及び管理のための永続効果メカニズムの構築を推進しているほか、レアアース企業の合併・再編を進め、遅れた技術や生産能力を淘汰し、大規模化及び集約化生産を図っている。なお、特別取り締まりでは600数件のレアアースの違法な探査と開採を摘発し、うち100件余りを立件し、13の鉱山と76の製錬分離事業者に対し生産停止や業務改善を命じ、レアアースの違法な開採及び生産を抑制している。
また、中国政府はレアアース資源の総合利用を非常に重視している。最近はイオン吸着型鉱の地質構造の研究に力を入れ、環境に配慮したエコ鉱山や総合利用のモデル基地の建設を積極的に推進しているほか、自然環境に配慮した高効率な開採技術を開発してレアアースの回収率を大幅に引き上げたり、新型浮選薬剤や選鉱設備の開発を支援してレアアースの回収率を引き上げ、貧鉱や尾鉱からのレアアース回収事業にも取り組んだりしている。また、国はレアアース元素のバランスのとれた利用も進めている。ランタン(La)やセリウム(Ce)等の比較的豊富な軽希土類元素の応用研究を奨励し、ユウロピウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)等の希少重希土類元素の使用削減や代替技術の開発を急いでいる。処理が複雑で難しいとされている希少なレアアース・金属の共生鉱の選鉱と製錬過程における総合回収利用を進め、レアアース鉱石中のニオブ(Nb)、タンタル(Th)、トリウム(Th)、ストロンチウム(Sr)、カリウム(K)、蛍石等の随伴鉱の回収利用を支援している。
中国は循環経済の発展を非常に重要視し、レアアース二次資源の回収と再利用に取り組んでいる。レアアースを含有する廃棄物の収集・処理・分離・抽出に関するプロセス、技術、設備の開発を奨励し、レアアース素材の総合回収に特化した拠点の建設を進め、レアアースの乾式冶金によって出るフラックス、スラッジ、レアアース永久磁石等の廃棄物や廃永久磁石モーター、廃ニッケル・水素電池、廃レアアース蛍光灯、効果のなくなったレアアース触媒、廃レアアース研磨剤、その他のレアアースを含有している機器等からのレアアース資源の回収・再利用を支援している。
4.レアアースの利用と環境の協調的発展
近年、環境保護の必要性の観点から、中国はエネルギー多消費・高度の汚染・資源性製品及びそれらの関連産業に対する管理を強化し、整備を進めている。特にレアアース分野では、国は一連の有効な対策を講じ、レアアースの開発利用と生態環境の両立を促し、環境を犠牲にしたレアアース産業の発展はあってはならないとしている。
レアアース産業の環境管理と法整備を強化することは、レアアースの利用と生態環境を協調的に発展させる上で極めて重要である。中国は1980年代以降、「環境保護法」、「水汚染防止法」等10余りの環境保護関連法を相次いで制定し、環境アセスメント、汚染物質総量規制、期限を定めた整備制度を確立している。また、「採掘跡埋め戻し条例」を公布し、鉱産資源の開発においては開採と環境保護を両立させ、採掘跡の埋め戻しと鉱山の生態環境の復元を義務づけている。「第11次五カ年計画」(2006-2010年)では、省エネと排出削減を国民経済及び社会発展計画の目標として盛り込み、エネルギー消費の削減、COD(化学的酸素要求量)と二酸化硫黄の排出削減を拘束力のある指標としていたが、「第12次五カ年計画」(2011-2015年)では、二酸化炭素、アンモニア窒素、窒素酸化物の排出削減も拘束力のある指標として定めている。また、レアアース業界の生態環境保護を更に強化するため、2011年には「レアアース工業汚染物質排出基準」を施行し、レアアース生産企業のアンモニア窒素、COD、リン、フッ素、トリウム、重金属、二酸化硫黄、塩素、顆粒状物質などの汚染物質の排出規制値を明確に定めた。なお、中国はレアアース産業環境リスク評価制度の制定についても検討している。
環境保護に関する法律・法令の厳密な施行が、レアアースの開発利用における環境保護の鍵となる。ここ数年、中国では環境アセスメント制度が厳密に実施されており、レアアースの新規建設・拡張・改造プロジェクトでは、環境への影響を分析・予測・評価し、予防措置と環境への影響を軽減するための措置を講じることが義務づけられている。環境アセスメントで問題が確認された場合はプロジェクトが実施できないようになっている。また「3つの同時」制度というのがある。即ち、レアアースプロジェクトにおける環境保護施設は、主体工事と同時に設計され、同時に施工され、環境保護部門の検収後に同時に使用が開始されるという制度である。この他にも汚染物質排出許可制度と「レアアース工業汚染物質排出基準」がある。それによりレアアース事業者はまず環境部門の認可を得て、排出基準で定められた濃度・量・方法に従って汚染物質を基準値内に抑えて排出することが義務づけられ、許可証の交付を受けずに勝手に排出することを禁じている。また、強制淘汰制度によってイオン吸着型鉱で堆浸・池浸法を採用することや、モナザイト単一鉱種の開発、環境負荷の大きいプロセスを禁止し、環境汚染や生態系の破壊を未然に防ぐようにしている。なお、最近はレアアース鉱山地質環境復元保証金制度の運用を一層強化しており、レアアース開採企業が生態環境の保全と復元に経済的責任を負うように促し、鉱山環境の保全と生態系の復元に対する責任制を構築しつつある。
レアアース産業の特別環境整備事業も展開されている。特別整備事業では、各級政府が既存のレアアース事業者に対し環境保護施設の建設と基準値内での排出、クリーンな生産を義務づけ、それに従わない場合は生産停止とし、期限内に改善が見られない企業については厳重に取り締まることになっている。また、2011年から、全てのレアアース鉱山、製錬分離事業者、金属生産事業者を対象に環境保護審査を実施し、レアアース事業者による環境汚染行為の調査・処分を行っている。既に二回にわたり、環境基準を満たしている計56の事業者名を公表して、レアアース業界及び事業者に対し環境保全や技術革新のための資金として40億元を拠出するように促し、レアアース業界における環境保護事業が大幅に改善されている。環境汚染が深刻で、環境安全に潜在的リスクが認められ、住民から多くの苦情が寄せられ、環境保護法に合致していない企業に対しては、営業許可証の取り消しや期限付き業務改善命令等の措置を講じて厳重に処罰するようにしている。なお、各級政府によってこれまでに発生した生態環境の破壊、尾鉱や廃棄物による汚染問題を解決するために資金が投入されることになっている。
5.技術革新と産業レベルの向上
中国政府はレアアースの科学的な開発と応用技術の向上を重要な位置に据えていて、政策環境を整え、レアアース技術と産業のレベルアップを促進し、資源と環境が抱えているボトルネックの問題の解決に努めるなど、レアアースの持続可能な発展を技術面でサポートしている。
また、国はレアアース業界の技術革新を奨励している。「国家中長期科学技術発展計画要綱(2006-2020年)」では、レアアース関連技術を重点支援対象に指定している。国がレアアースの基礎研究、先端技術、キーテクノロジーの研究開発と普及応用を支援し、企業を主体として、市場を導き手とする、産学研が一体となった技術イノベーション体制の構築が国によって推進されている。さらに、積極的に環境に配慮した先進的レアアース開採技術や複雑な地形条件にも適応可能な高効率な採掘技術、共生・随伴鉱の総合回収技術を開発し、資源の回収率と循環利用率を引き上げている。また、炭素と塩(訳注;NaClや塩素の意ではなく、 化学用語の塩(エン)のことと思われる)の排出抑制、超高純度製品の調製、膜分離、随伴トリウム資源の回収と利用、排気中のフッ化硫黄の回収処理、化工原料の循環利用、生産自動制御システム等の先端技術の研究開発を強力に推し進め、レアアースのクリーンで高効率な製錬と分離の実現が進められている。レアアースの生産・応用企業や研究機関、大学等がレアアースの深度加工や新素材の応用技術の開発を積極的に進めるように働きかけると同時に、レアアースの研究開発に携わる人材の育成にも力を入れ、知的財産権の保護や技術標準の確立を強化することも、レアアースの技術開発に有利な環境の醸成になるのである。
最近、国は企業による技術改良のスピードアップを図っている。現地浸鉱等の高効率で環境に配慮した選鉱技術や先進設備を導入し、既存レアアース鉱山の改造、資源の総合利用、生態系の復元、環境保護及び安全生産のレベルアップを推進すると同時に、尾鉱専用の貯蔵処理施設を設けて尾鉱の保護と利用を強化している。また、アンモニア窒素の発生しない製錬分離法や連動抽出分離法等の先端技術や設備を用いて既存のレアアースの製錬、分離の生産ラインの改良を進め、化工材料の消耗と「気体・液体・固形廃棄物」(訳注;原文では「三廃」)の排出を減らしている。新しい低排出・省エネの技術や設備を導入してレアアース金属の製錬工程を改良し、生産効率と生産品質を高め、エネルギー及び資源の消費を抑えている。アンモニアけん化分離、塩化物電解、湿式での希土類フッ化物調製等の遅れた技法や生産設備の淘汰を急いで進めている。また、企業が技術改良、合併再編、遅れた生産設備の淘汰を並行して進めるように支援し、技術的に遅れた企業の操業停止や合併・譲渡のスピードアップを図っている。
産業構造の最適化がレアアース産業の健全な発展の持続にとっては重要になる。中国政府はレアアースの製錬・分離総量を厳しく制限しており、国が認可している再編プロジェクトと最適化プロジェクト以外の新規のレアアース製錬・分離プロジェクトの審査を中断し、既存のレアアースの製錬・分離プロジェクトの生産規模の拡大を禁じている。違法プロジェクトを断固食い止め、越権行為によるプロジェクトの認可や違法建設が認められた場合は、法に照らして関係機関の責任者の責任を追及するようになっている。また、レアアース加工製品の製品構造を調整し、ローエンド製品におけるレアアースの過度な消費を抑え、ローエンド製品やレアアースを大量消費する加工製品の生産量を抑制している。また、海外のレアアース技術やレアアース産業の発展に合わせ、技術レベルと付加価値の高いレアアース応用産業の発展を奨励している。高性能なレアアース永久磁石材、発光素材、水素吸蔵材、触媒材等の新素材、機器の開発を加速させ、情報、新エネルギー、省エネ、環境保護、医療分野におけるレアアースの応用を推進している。企業の管理手法の改善と現代的企業制度の確立を奨励し、産業のレベルアップに努め、資源の節約が可能で環境にも配慮した、集約成長型で社会的責任を進んで履行する現代企業の育成に力を入れている。
6.公平な貿易と国際協力の促進
対外開放は中国の基本国策である。レアアース分野においても、中国は国内外という2つの資源と2つの市場とのバランスを考慮しながら、国際市場にレアアースを合理的に供給したり生態環境の保全及び資源の確保を行ったりするウィンウィン戦略の下、公平な貿易と国際協力を促進している。
資源環境の保護と持続可能な発展という理念に基づき、国内外の市場、資源環境、国内の生産状況を総合的に考慮した上で、レアアースの開採と生産総量を厳しく制限すると同時に、開採・生産・消費・輸出に関する規制措置を実施し、レアアースの年間輸出限度量を合理的に確定して国際市場における通常の需要をほぼ満たしている。また、税関における監督や企業の申告を厳密に管理し、レアアース輸出事業者に対し産業政策、参入条件、環境保護標準等の規定を遵守するように義務づけている。輸出事業者に対する監督と業界モラルを強化し、レアアースの不正輸出や非正規ルートからの輸出製品の調達及びその他輸出秩序を乱す行為のあった企業に対しては、法に基づき法的責任を追及する。2011年にはレアアースの密輸に対する特別取り締まりを行い、8件のレアアース密輸事件を摘発し、計769 tのレアアースを押収し、密輸に関わった23人を逮捕している。同時に、中国は放射性物質が基準値を超えるレアアース鉱産品の輸入を厳禁している。
中国は今後も引き続き国際市場にレアアースを供給していくことを重ねて表明している。中国政府はレアアースの輸出に対する管理を強化すると同時に、レアアースの開採と生産などに対する管理の強化も進めているが、これは中国の持続可能な発展と世界各国の利益に符合するものである。中国政府はレアアースを政治的問題に発展させることには反対であり、建設的かつ責任ある態度で他のレアアース生産国や消費国との対話と協力を強化し、レアアース市場への過度な投機を防止し、産業の発展過程における資源及び環境問題を解決していきたいと願っている。また、レアアース資源を豊富に有する他の国々が自国のレアアース資源の開発を積極的に進め、国際市場への供給ルートを拡大し、レアアースの供給源の多元化と貿易規模の拡大を図り、中国と共に世界市場へのレアアースの供給の責任を担い、世界経済の持続的発展を支えていくことを望んでいる。
![図4 2011年の中国のレアアース輸出構造 (出典:新華社)](/wp-content/old_uploads/reports/current-topics/images/12_53/12_53pic04.jpg)
図4 2011年の中国のレアアース輸出構造 (出典:新華社)
近年、中国は、積極的に、公平で開かれた投資環境の整備に力を入れており、外国企業が中国レアアースの環境保全、廃棄製品の回収再利用、ハイエンド製品への応用と設備製造業へ参入することを奨励している。目下、アメリカ・ドイツ・フランス・カナダ・日本等の企業が既に中国のレアアース産業への投資を行っている。38社の独資と合弁企業で合計61億元が投資されているのである。これらの企業で生産された製品は主に輸出され、それぞれ本国の国内需要をまかなっている。
中国はレアアース分野の国際交流に積極的に参加している。最近、「国際レアアース開発と応用研究シンポジウム」、「国際レアアースサミットフォーラム」、「国際包頭レアアースフォーラム」等の学術交流を相次いで開催している。また、「国際レアアース永久磁石と応用機構」、「国際ディスプレイ・照明機構」等の催しにも参加し、アメリカ・EU・ロシア・日本等の国々と二国間或いは多国間の交流及び対話を行い、情報交換や相互理解を深め、共同して世界のレアアース技術と産業の持続的発展を推進している。
レアアース産業の持続的かつ健全な発展は、重要な天然資源であるレアアースの永続的利用に関わる問題であり、人類にとってかけがえのない地球の調和とも関係のある問題である。今日、世界の国々は相互に依存し合う共生共栄(訳注;原文のママ)の関係にあるが、レアアースの分野でも同様に協力を深め、共に責任を果たし、成果を共有し合うべきである。今後も中国は科学的発展観の下、レアアース政策の整備と管理を強化し、国際社会と共に公平かつ合理的なレアアースの市場秩序を維持しつつ、レアアースの開発利用と資源環境との調和を促進し、世界経済と科学発展のために新たな貢献をしていきたい。
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