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報告書&レポート

2012年9月6日 バンクーバー事務所 片山弘行
2012年54号

米国・金融規制改革法第1502条(紛争鉱物)に係る規則について

 米国証券取引委員会は、2012年8月22日、金融規制改革法第1502条に基づく規則を正式に採択した。同条項では、1934年証券取引所法を改正し、紛争鉱物に対するトレーサビリティーを確立して透明性を高めることで、紛争鉱物が資金源となっているコンゴ民主共和国を始めとする紛争国における武装グループによる紛争を抑制することを目的としている。
 その遂行にあたっての規則は証券取引委員会が策定することとなっており、規則案は2010年12月15日に証券取引委員会から公表、パブリックコメントに付されていた。当初予定では2011年4月15日に正式発効となる予定であったが、各ステークホルダー等からの様々な意見の調整に時間を要し、今般、ようやく正式採択となった。
 本稿では、採択された最終規則の概要について速報する。

1. 金融規制改革法第1502条

 2010年にPublic Lawとなった金融規制改革法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)の第1502条では、紛争鉱物に関する情報開示を規定するよう1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)を改正するとともに、国務省に紛争を解決するための政策提言をまとめた報告書を作成するよう定めている。紛争鉱物の開示にあたっては、その規則を米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission, SEC)が策定することとしている。

2. 対象鉱物及び対象国

 本規則の対象となる紛争鉱物は表 1に示される4種類であり、対象金属の頭文字をとってしばしば「3TGs」と称される。対象物には金を除く鉱物の派生物も含まれる。対象国はコンゴ民主共和国(Democratic Republic of Congo, 以下DRC)と同国と国境を接する隣接国である。今後、同様の懸念が他鉱物、他国にも生じた場合は、国務長官により新たに対象を追加できるとしている。
 なお、国務省は、金融規制改革法第1502条(c)(2)に従い、DRC国内における紛争鉱物の豊富な地域、通商ルート、武装グループの支配域などをコンパイルした地図を作成することとされ、現在、国務省の人道情報ユニット(Humanitarian Information Unit)が2011年版の「武装グループ及びその他団体によるDRC鉱物採掘図(Democratic Republic of the Congo Mineral Exploitation by Armed Groups & Other Entities)」を公開している。

表 1 対象鉱物とコンゴ民主共和国での生産

対象鉱物 コンゴ民主共和国での生産
コルタン
(columbite-tantalite)
DRC東部のNord-Kivu, Sud-Kivu, Katanga州で産出。columbite-tantaliteの2006年生産量は52tであったが、2009年には生産量が468t (タンタル金属量130t)と見積もられている。
錫石
(cassiterite)
DRC東部(Katanga, Maniema, Nord-Kivu, Sud-Kivu州)では最も重要な鉱物の一つであり、小規模業者による採掘が多い。2009年の錫精鉱の生産量は15,195tと見積もられている。
DRC東部Orientale, Nord-Kivu, Sud-Kivu州で主に小規模業者により採掘。2006年の生産量は10,300kgであったが、2009年の生産量は3,500kg。
鉄マンガン重石
(wolframite)
DRC東部のManiema, Nord-Kivu, Sud-Kivu州で採掘されており、DRCの2009年のタングステン精鉱の生産量は385tと見積もられている。

(出典:2010 USGS Minerals Yearbook, Congo (Kinshasa))

3. 最終規則の概要及びフロー

 SECにより採択された最終規則(17 CFR 240.13p-1)の大きな流れは、基本的には2011年4月に公表された規則案と同じであり、3段階に分けられる。

【第1段階】
 まず企業が紛争鉱物に関する開示義務を負うかどうかを決定する。紛争鉱物に関する報告義務を負う企業は、(1)証券取引所法第13条(a)、もしくは第15条(d)に基づき各種報告書をSECに提出している公開企業、かつ、(2)製造する製品の機能やその製造過程に紛争鉱物が必要な企業、とされる。本要件に合致しない企業は紛争鉱物に関する開示義務を負わない。

【第2段階】
 開示義務を負う企業は、紛争鉱物に関する合理的な原産国調査(reasonable country of origin inquiry)を実施する。原産国調査の具体的な方法については、特段の規定は設けられていない。
 原産国調査の結果、
  ● 紛争鉱物が対象国産ではない、もしくはリサイクル品であると結論付けられた場合

→ 導き出したその結論、原産国調査の概要及び結果を新たに策定される様式(Form SD)1に則った特別開示レポート(specialized disclosure report)としてSECに提出・開示する。

  ● 紛争鉱物が対象国産であり、かつリサイクル品ではないと考えられる場合
  → 対象企業は第3段階に進む。

【第3段階】
 紛争鉱物の原産国及びその流通過程(chain of custody)に関するデューデリジェンス調査を実施する。デューデリジェンス調査の具体的な方法についての規定はないが、OECDガイダンス等の国際的に認められたデューデリジェンスフレームワークを用いることとしている。

 デューデリジェンス調査の結果、
  ● 紛争鉱物が対象国産ではない、もしくはリサイクル品であると結論付けられた場合

→ 対象企業はForm SDにて、導き出した結論、原産国調査・デューデリジェンス調査の概要と結果をSECに提出・開示する。

● 紛争鉱物が対象国産であり、かつリサイクル品ではないと結論付けられた場合、または紛争鉱物の原産国が結論付けられなかった場合

→ 対象企業はForm SDに添付する形で紛争鉱物報告書(Conflict Minerals Report)を提出・開示する。

 さらに、デューデリジェンス調査の結果、

● 製品に含まれる紛争鉱物が対象国産ではない、または対象国産であっても武装グループの利益となっていないことが結論付けられた場合

  → 紛争鉱物を含むその製品を「DRC conflict free」と称することができる。
  ● 結論付けられなかった場合
  → 紛争鉱物を含むその製品を「not been found to be ‘DRC conflict free’」としなければならない。

 紛争鉱物報告書には、デューデリジェンス調査の概要、DRC conflict freeと結論付けられなかった製品、(判明している範囲で)その製品に含まれる紛争鉱物を処理した施設、原産国、産出鉱山・位置について記載する。また、実施されたデューデリジェンス方法が国際的なデューデリジェンスフレームワークに合致したものであるかどうかについて、独立民間セクターによる監査を受け、その監査報告書を添付することとしている。

 最終規則説明書に掲載されている基本フローを図 1に示す。
 紛争鉱物に関する情報開示は暦年ベースで行うものとし、特別開示レポートは対象年の翌年の5月31日までにSECに提出・開示することとしている。したがって、規則発効後の最初の情報開示は、2013年1月~12月を対象とした報告を2014年5月31日までに行うこととしている。
 また、2014年12月31日まで(小規模事業者(smaller reporting issuer)2は2016年12月31日まで)は暫定期間として、DRC conflict freeと結論付けられなかった製品を「DRC conflict undeterminable」とすることができ、紛争鉱物報告書にはデューデリジェンス調査方法、その製品、(判明している範囲で)製品に含まれる紛争鉱物を処理した施設、原産国、産出鉱山・位置を記載しなければならない。ただし、監査は必要とされない。
 なお、本規則の発効は、連邦官報(Federal Register)掲載の60日後となっている。

図 1 最終規則のフローチャート(出典:SEC、筆者加筆)
図 1 最終規則のフローチャート(出典:SEC、筆者加筆)

4. 関係団体等の反応

 Global Witness等の人権保護団体は、今回の最終採択を受けて、DRC等における紛争抑制に向けた重要な第一歩として歓迎する一方で、DRC conflict undeterminableと分類できる暫定期間が設けられたことなどに対して落胆の意を表明している。ただし、本規則がOECDガイダンスを明確に支持したことについては評価している。
 米国商工会議所等の産業界は、当初案と比較して、暫定期間が設けられたことやリサイクル・スクラップが除外されたことに関して前進であると評価しているが、本規則が産業界にとってコスト的に大きな負担、特に小規模事業者にとっては過大な負担となることを改めて強調している。

まとめ

 採択された最終規則は、情報公開義務を負う企業側の負担に配慮した柔軟性を担保したものになったといえる。しかし、関係各所からの意見の調整に時間を要したことは、ステークホルダーの意見が様々であったことを反映しており、また、SECでの採択投票において賛成3票、反対2票と票が分かれたことからも、最終段階となってもSEC内部ですら賛否が分かれていたことがうかがえる。
 最終規則が採択されたとはいえ、金以外のリサイクル品に対する国際的なデューデリジェンスフレームワークが存在しないなど、規則の実際の遂行にはまだ不明な点が多く、今後も引き続き注視が必要である。

参考文献
 2010 Minerals Yearbook, Congo (Kinshasa); U.S. Geological Survey; June 2012.
 Conflict Minerals in Central Africa: U.S. and International Responses; Nicolas Cook; Congressional Research Service; July 20, 2012.
 OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas; OECD; 2011.
 OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas, Supplement on Gold; OECD; 2012.

【追補】紛争鉱物に係る情報開示規則についての詳細事項
 対象鉱物

● 当初案では金も含む4鉱物のすべての派生物も含むとしていたところ、金以外の3鉱種(タンタル、錫、タングステン)の派生物と変更された。

 対象企業

● 当初案どおり、報告義務を負う企業は、証券取引所法第13条(a)または第15条(d)に基づき各種報告書をSECに提出している公開企業とされ、中小企業や外国企業の除外規定は設けられていない。

● 公開企業のうち対象となる企業は、機能やその製造過程に紛争鉱物が必要な製品を製造する企業、またはその製造を請け負う企業とされている。

 「製造(Manufacture)」には、紛争鉱物が含まれる製品に対するサービス、メンテナンス、修理のみを行う企業は含まれない。

 「製造の請負(Contract to Manufacture)」に該当するかどうかについては、製品の製造に対する影響度により決定されるとしている。

 紛争鉱物を採掘する企業または採掘を請け負う企業、いわゆる鉱山業は対象企業から除外された(鉱山業とともに紛争鉱物を含む製品の製造を行っている企業はこの限りでない)。

 「機能に紛争鉱物の必要な製品」については、指針として、(1)意図的に製品に紛争鉱物を含めていること、(2)一般的に期待される製品の機能・目的に紛争鉱物が必要なこと、とされた。紛争鉱物が単なる装飾であっても、その製品の主たる機能・目的が装飾の場合は報告対象となるとされた。

 「製造過程に紛争鉱物が必要な製品」については、指針として、(1)製造過程に意図的に紛争鉱物を使用しているか、(2)製品に紛争鉱物が含まれているか、(3)製品の製造に紛争鉱物が必要か、で決定されるとし、製造過程で紛争鉱物を触媒として用いるのみで最終製品には含まれない製品を製造する企業は対象とはされないことが示された。また、製造に必要な工具や機器に紛争鉱物が含まれている場合でも、その工具や機器が製品を構成するものでない限り、対象とはならない。

 紛争鉱物の含有量については、特段の規定はない。すなわち、微量でも含まれている場合は報告対象となる(上記、触媒の例において、触媒としての紛争鉱物が完全に取り除かれずに最終製品に残留した場合は、製造工程に必要かつ微量でも含有されるということで、報告対象となる)。

 報告期間・方法

● 紛争鉱物に関する特別開示レポートは、当初案では、対象企業は自らの年次報告書に紛争鉱物報告書を添付する形での報告としていたが、最終規則では新たに規定されるForm SDにて会計年度ベースではなく暦年ベースでの報告に変更された。これにより全ての企業の報告時期が一致することとなる。

● 当初案では、紛争鉱物に関する報告はSECに「furnish」(提出)することとされ、これは証券取引所法第18条「Liability for Misleading Statements」に規定される潜在的な法的責任(虚偽もしくは誤解を生じさせる表示に対する法的責任)の対象とはされていなかったが、採択規則ではSECに「file」(提出)することとされ、紛争鉱物に関する報告が証券取引所法第18条に規定する法的責任の対象となった。

● 2013年1月31日以前に(1)製錬されたコルタン、錫石、鉄マンガン重石、(2)精製された金、(3)製錬、精製されていないが対象国外にあった紛争鉱物またはそれら派生物、については、武装グループ等の資金源にもはや寄与しないとの考えから、報告対象から除外された。

 合理的な原産国調査

● 当初案と同様、具体的な調査ステップ等は規定されていない。

● 合理的な原産国調査は、紛争鉱物が対象国産かどうか、あるいはリサイクル品であるかどうかを合理的に結論付けられ、かつ誠実に実施できるよう設計されていなければならないとされる。

 一例として、紛争鉱物を処理した施設等から、紛争鉱物が対象国産でない、あるいはリサイクル品であるとの表明を直接、間接に取得することが挙げられている。

 原産国調査の結果と開示、その後のプロセス

● 原産国調査の結果、(1)紛争鉱物が対象国産ではない、もしくはリサイクル品であると結論付けられる場合、または、(2)紛争鉱物が対象国産であると信ずる理由がない、もしくはリサイクル品であると合理的に信ずることができる場合、対象企業は導き出したその結論、原産国調査の概要及び結果をForm SDにてSECに提出・開示する。

● 原産国調査の結果、(1)紛争鉱物が対象国産であると知っている場合、(2)紛争鉱物が対象国産であり、リサイクルされたものではないと信ずる理由がある場合、デューデリジェンス調査を実施しなければならない。

●  リサイクル品に関する規定は当初案から変更され、原産国調査の結果、(1)リサイクルされたものであった場合、(2)リサイクルされたものであろうと信ずる理由がある場合は、デューデリジェンス調査を実施する必要はないとされた。

● 当初案では、紛争鉱物が対象国産でないとの結論の証拠となる記録の保管を求めていたが、記録の保管は不要となった。

 デューデリジェンス調査方法

● 当初案と同様、具体的なプロセス等の規定はなし。ただし、対象となる紛争鉱物に対して有効な国際的に認められたデューデリジェンスフレームワークを用いることとしている。

 OECDのガイダンス「紛争及び高リスク地域からの鉱物についての責任あるサプライチェーンのためのデューデリジェンスガイダンス(Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas)」は本規則の基準に合致するものとして明示しているが、採用の強制はしていない。

 デューデリジェンス調査の結果と開示

● デューデリジェンス調査を実施した結果、紛争鉱物が対象国産ではない、もしくはリサイクル品であると結論付けられた場合、紛争鉱物報告書を提出する必要はない。ただし、Form SDにてその結論、原産国調査・デューデリジェンス調査の概要と結果について提出・開示する。

 紛争鉱物が対象国産でないとの結論の証拠となる記録の保管は不要。

● デューデリジェンス調査の結果、

 紛争鉱物が対象国産でない、あるいは対象国産であっても武装グループの利益となっていないことが判明した場合、その紛争鉱物を含む製品を「DRC conflict free」と称することができる。

 紛争鉱物が対象国産でないと結論付けられない場合、あるいは対象国産の紛争鉱物が武装グループの利益となっていないことが結論付けられない場合、製品を「not been found to be ‘DRC conflict free’」と記述しなければならない。

● 紛争鉱物報告書には、実施されたデューデリジェンス調査についての記載に加え、DRC conflict freeであることが結論付けられなかった製品、(判明している範囲で)その製品の紛争鉱物を処理した施設、その紛争鉱物の原産国、産出鉱山・位置について記載する。また、独立民間セクターによる監査報告書を添付。

 監査

● デューデリジェンス調査方法に関して、独立民間セクターにより、米国会計検査院の基準に従った監査を受ける。

 新たに米国会計検査院の監査基準が制定されることはない。政府監査基準(Government Auditing Standards)が準用されるとしている。

 紛争鉱物報告書に関する監査法人は、対象企業の会計監査法人と同一であっても、証券規則上求められる会計監査法人の独立性とは矛盾しないとしている。

● 監査の目的は、(1)紛争鉱物報告書記載の実施されたデューデリジェンス調査方法は国際的なデューデリジェンスフレームワークに合致したものであるか、(2)紛争鉱物報告書記載のデューデリジェンス調査方法は対象企業が実施した方法に合致したものであるか、について結論及び提言を記載することとされた。

● 紛争鉱物報告書全体についての監査ではない。すなわち、DRC conflict freeと結論付けられなかった製品に関する記述等に対しての監査ではない。

● 紛争鉱物報告書に監査報告書とともに、対象企業が独立民間セクターから監査を受けたことについての声明を掲載。

 リサイクルまたはスクラップ

● 紛争鉱物がリサイクルまたはスクラップ品からのものである製品はDRC conflict freeとすることができる。

● リサイクル・スクラップの定義としては、OECDガイダンスのリサイクル金属の定義に準拠。

 エンドユーザー製品から回収・再生されたリサイクル金属、製品製造過程で発生したスクラップ金属。

 リサイクル金属には精製・処理された金属を含有する余剰分、未使用分、不良品、スクラップの金属を含む。

 部分的に処理された金属、未処理の金属、他の鉱石の副産物としての金属はリサイクル・スクラップの定義には含まれない。

● リサイクル品に対するデューデリジェンス調査は、国際的なデューデリジェンスフレームワークに合致した方法で行う。

 金のみOECDの補足ガイダンス(OECD Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas, Supplement on Gold)が2012年に公表されている。

 タンタル、錫、タングステンのリサイクル・スクラップ品については、現時点では公表されているデューデリジェンスフレームワークは存在せず、これらガイダンスなしでデューデリジェンス調査を実施する必要がある。

 新たにこれらのリサイクル品に対して6月30日までにガイダンスが承認された場合、そのガイダンスに従ったデューデリジェンス調査を行うこととしている。


1 Form SD(17 CFR 249.448)は、本稿出稿時点では未公開
2 浮動株の時価総額が7,500万US$未満の企業。詳細は、証券取引所法に基づくRule 12b-2 (17 CFR 240.12b-2)を参照

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