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報告書&レポート

2012年9月20日 バンクーバー事務所 片山弘行
2012年57号

カナダ東部の鉄鉱石プロジェクト(その1 現状)

 カナダ東部では、現在、複数の稼行鉄鉱山と並行して、多数の新規鉄鉱石プロジェクトが開発に向けて活発化しており、さながら鉄鉱石ブームの様相を呈している。現在、鉄鉱石生産国としてのカナダの地位はそれほど高くないが、鉄鉱石獲得競争が世界で激化する中、地政学的なリスクの低いカナダ東部は、中国勢も盛んに権益獲得の動きを見せるなど、鉄資源フロンティアとして見直されつつある。
 本稿では、カナダの鉄鉱石プロジェクト報告の第一弾として、鉄ブームに沸くカナダの鉄鉱石鉱業の現状と、カナダ東部の稼行鉄鉱山及び開発プロジェクトの概要を報告する。

1. カナダの鉄鉱石鉱業

 米国地質調査所発行のMineral Commodity Summaries 2012によると、世界の鉄鉱石埋蔵量は鉄含有量で約800億tと推定されており、そのうちカナダの埋蔵量は鉄含有量で約23億tとされている。これは世界の埋蔵量のうち約3%を占める(図1)。

図 1 世界の鉄鉱石埋蔵量(鉄含有量(億トン))
図 1 世界の鉄鉱石埋蔵量(鉄含有量(億トン))
(出典:Mineral Commodity Summaries 2012, USGS)

 カナダの鉄鉱石生産量は年産約3,000万t前後を推移しており、ほぼ全てがケベック州とニューファンドランド-ラブラドル州(以下、ラブラドル州と略す)に位置しているラブラドルトラフと呼ばれる地域から産出している。以前はオンタリオ州でも生産があったが、現在はブリティッシュ・コロンビア州で休止銅鉱山(Craigmont鉱山)の尾鉱から選炭用の磁鉄鉱をごくわずかに生産しているのみである(表1)。

表 1 カナダ各州の鉄鉱石生産量(単位:千t)

  2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
NL 17,486 18,860 19,927 15,279 19,054 19,796 17,880 18,667 17,221 19,076 16,523
QC 9,560 11,950 13,324 13,233 11,227 13,649 14,820 13,358 14,434 17,009 16,995
BC 72 92 71 84 106 98 75 77 73 93 55
Total 27,119 30,902 33,322 28,596 30,386 33,543 32,774 32,102 31,728 36,178 33,573

(出典:Natural Resources Canada)

 世界的にはカナダの鉄鉱石生産量は大きいものではなく、特にオーストラリア、ブラジルが世界的な需要増加に合わせてその生産量を増大させるにつれて、世界の供給量に占めるカナダの割合は徐々に低下し、1995年には約4.2%だった占有率が2011年は約1.9%を占めるにとどまっている(図2)。

図 2 主要各国の鉄鉱石生産量(百万t)
図 2 主要各国の鉄鉱石生産量(百万t)(出典:Raw Materials Data)

 カナダの鉄鉱石資源は概して品位が低いため選鉱が必要であり、その結果、性状として微粉となることが多い。したがって、微粉精鉱を加工したペレット、またはペレットフィード用微粉精鉱としての輸出がほとんどである。
 2011年のカナダの鉄鉱石輸出先としては、中国、アメリカで過半数を占め、産地が大西洋側であることから欧州にも多く輸出されている(図3)。なお、中国の2011年鉄鉱石輸入量(6億8,700万t)のうちカナダの占める割合は約1.76%、米国の2011年鉄鉱石輸入量(527万t)のうちカナダの占める割合は約74.2%である。
 焼結鉱比率の高い日本の高炉にとっては、微粉精鉱・ペレット主体のカナダの鉄鉱石資源の位置付けは、遠距離ソースであることも相まってそれほど高いものではなく、日本のカナダからの輸入を見ると、過去には200万t近くまで輸入していたこともあるが、平均的には60~100万t前後を推移しており、2011年には粉鉱を約91万t、ペレットを約24万t輸入しているに留まっている。これは、2011年の鉄鉱石輸入量(1億2,840万t)の約0.9%を占めるに過ぎない(図4)。

図 3 カナダの鉄鉱石輸出相手国(出典:Statistics Canada)
図 3 カナダの鉄鉱石輸出相手国(出典:Statistics Canada)
図 4 日本のカナダからの鉄鉱石輸入量推移(出典:財務省貿易統計)
図 4 日本のカナダからの鉄鉱石輸入量推移(出典:財務省貿易統計)

2. カナダ鉄鉱石産地

 カナダの鉄鉱石は、ケベック州Ungava湾西岸からGrenville地質区に面するケベック南部までの延長約1,000 kmにも及ぶラブラドルトラフ地域を主たる産地としている。ラブラドルトラフ地域は、始生代のSuperior地質区とNain地質区に挟在する原生代のSoutheast Churchill地質区の西側に位置し、特にラブラドルトラフの西側では厚い堆積層を特徴としており、鉄鉱石を産するスペリオル型縞状鉄鉱層(Banded Iron Formation, BIF)はこの堆積層に認められる。
 本地域の鉄鉱石は3つのタイプに分類される。

● 細粒の二次鉄酸化物(赤鉄鉱、針鉄鉱、褐鉄鉱)からなる強度の弱い鉄鉱石。スーパージーン変質による溶脱と富化作用を受けてやや変成した細粒のチャート質な鉄鉱層。

● 細粒の弱い変成作用を受けた鉄鉱層で、平均品位30%前後の磁鉄鉱及び赤鉄鉱。いわゆるタコナイト。

● 強く変成作用を受けたやや品位の高い鉄鉱層。粗粒の鏡鉄鉱とそれより少量の磁鉄鉱からなる。メタタコナイトと呼ばれる。

 ラブラドルトラフの鉄鉱層は、その岩相や変成度から3地域に分類され、Ungava湾西岸から南端部かけて位置する北部地域はメタタコナイトを主とし、激しく褶曲し、始生代の片麻岩を不整合に覆う。Labrador City近くまでの中部地域は弱い変成を受けたチャート質鉄鉱層を主とするが、一部でスーパージーン変質を受けて高品位化した鉄鉱石も認められ、これら高品位化した鉄鉱石は、選鉱などの処理を経ずに直接船積鉱石(Direct Shipping Ore, DSO)として出荷される。未変質の鉄鉱層はタコナイトとして採掘対象とされる。Labrador Cityを含む南部地域は、少なくとも2度の造山運動による褶曲、断層を受け、鉄鉱層は再結晶化で粗粒となった鏡鉄鉱質片岩となっている(図5)。
 過去の鉄鉱山、現在稼行中の鉄鉱山は、ほとんどがLabrador City周辺もしくはSchefferville周辺に位置している。これらの地域は、鉄鉱山開発によりインフラが整備され、街が形成されたところであり、他地域とは隔絶されている。ケベック州は2011年5月8日に、同州北部地域の経済発展を促進するために25年間総額800億C$にも及ぶ投資計画Plan Nordを発表しているが(カレント・トピックス11-42号参照)、これはラブラドルトラフ地域の鉄鉱石資源開発の促進を念頭に置いたものとされている。

図 5 ラブラドルトラフ地域地質区
図 5 ラブラドルトラフ地域地質区
(出典:Mineral Deposits of Canada収録データより作成)

3. 稼行鉄鉱山

 現在、カナダで稼行している鉄鉱山は8つあり、そのうちの6つがラブラドルトラフ地域に位置している(図6)。以下に各鉱山の概要を示す。なお、その他2つの鉄鉱山は、BC州のCraigmont鉱山(Craigmont Mines社)、ケベック州南部のチタンを主鉱種とするLac Tio鉱山(Rio Tinto、Fer et Titane社)である。現在稼行中の鉱山は、James鉱山を除いて低品位のタコナイトを採掘対象としており、選鉱を経た上で、微粉精鉱もしくはペレットの形状で輸出されている。

● Carol Lake鉱山

 Iron Ore Company of Canada社(Rio Tinto:58.7%、 三菱商事:26.2%、 Labrador Iron Ore Royalty Income Fund:15.1%) (以下IOC社)所有でLabrador Cityの北約10 kmのラブラドル州に位置する鉱山。1962年に操業が開始され、現在までの総生産量は10億t(平均鉄品位39%)を超える。なお、2011年の生産量は1,346万t(Rio Tinto 2011年Annual Report)。2011年末時点での埋蔵量(確定+推定)は5億7,800万t(鉄品位65.0%換算)である。
 山元でペレット化(一部は精鉱のまま)し、鉄道にてSept-Îles港まで輸送、同港にあるIOC社所有の港湾施設から出荷している。
 現在、2013年までに精鉱生産能力を2,600万t/年まで増強する拡張工事を実施しており、2016年以降に5,000万t/年にまで増強する予備的な調査を実施することとしている。

● Wabush(Scully)鉱山

 Cliffs Natural Resources社所有でLabrador Cityの南約2 kmのラブラドル州に位置し、1965年以来操業している鉱山。2011年末現在の埋蔵量は6,920万t(確定+推定)。現在の生産能力は約560万t/年である。鉱石は赤鉄鉱主体であり、山元で重力選鉱し、精鉱を480 km離れたケベック州Sept-Îles港のPointe-Noireへ鉄道にて輸送、Pointe-Noireのプラントでペレット化し、同地の港湾施設から出荷している。一部精鉱はペレットフィードとして直接出荷されている。

● Bloom Lake鉱山

 Cliffs Natural Resources社が権益の75%をWugang Canada Resources Investments社(武漢鋼鉄集団公司の子会社)が25%を所有しており、Labrador Cityの南西約28 km、Mont-Wright鉱山の北約8 kmのケベック州に位置する2010年に操業開始した鉱山。鉱石は赤鉄鉱主体であり、2011年末現在の埋蔵量は3億6,110万t(確定+推定)。前述のWabush鉱山とあわせた2011年生産量は690万tであった(Cliffs社2011年Annual Report)。
 現在、Phase 2として追加の選鉱施設及び付属施設を総額4億7,000万US$を投じて建設中。Phase 2完成後にはさらなる拡張工事を予定しており、拡張後には800万tから1,600万tまで精鉱生産能力が増強する予定である。精鉱はWabush鉱山と同様にPointe-Noireまで鉄道輸送する。

● Mont-Wright鉱山

 ArcelorMittal Mines社所有でLabrador Cityの南西約30 kmのケベック州に位置する1976年から操業している鉱山。埋蔵量は10億t、マインライフは28年である。2011年は、後述のFire Lake鉱山と合わせて1,510万tの精鉱を生産、そのうちペレット生産は約900万tとなっている(ArcelorMittal社2011年Annual Report)。
 鉱石は鏡鉄鉱主体であり、山元で選鉱し、自社鉄道にてケベック州のPort-Cartierまで輸送し、同地のプラントでペレット化、自社港湾施設から世界に向けて精鉱またはペレットを出荷している。
 現在、21億US$を投じて鉱山、選鉱施設、ペレットプラント、港湾設備の拡張工事を実施しており、2013年までには現在の生産能力の年産1,600万tから2,400万tにまで増強する予定である。

● Fire Lake鉱山

 ArcelorMittal Mines社所有でMont-Wright鉱山の南約55 kmのケベック州に位置する季節限定(5~10月)で採掘されている鏡鉄鉱主体の小規模鉱山。一時休止していたが、昨今の鉄鉱石価格高騰を受けて操業を再開している。選鉱施設等が付随していないため、鉄道にて同社のMont-Wright鉱山選鉱施設まで運搬されている。

● James(Schefferville)鉱山

 Labrador Iron Mines社が所有し、2011年6月に操業開始したDSOを生産する鉱山。上記5鉱山が集まるLabrador City周辺には位置せず、Scheffervilleから約3 km南に位置している(ラブラドル州)。Scheffervilleでは、IOC社が1954~1982年にDSOを生産していたが、1982年に鉱山が閉山して以降は地元ファーストネーション(Innu)の拠点町となっている。
 Labrador Iron Mines社はScheffervilleの旧鉱山跡を中心に複数の鉱区を所有しており、これらを順次開発するとしている。James鉱山はそのうち最初に稼行した鉱山であり、資源量は6,700万tである。鉱石は赤鉄鉱を主とし、2011年のDSO生産量は44万t(平均品位65%)、これとは別に近くのSilver Yards処理場で塊鉱と焼結鉱用粉鉱を23万t生産している。2012年の生産量は250~350万tを予定しており、そのうちDSOは約40%、塊鉱は約10%、焼結鉱用粉鉱は約10%、その他粉鉱は約10%と見込んでいる。2015年には生産量として500万tを予定している。
 生産物は地元ファーストネーション及びIOC社が運営している鉄道により運搬される。2011年の生産物のうち38.5万tはIOC社に販売され、アジア方面に販売されたとしている。

4. 開発プロジェクト

 既存鉄鉱山周辺を中心に、現在複数の鉄鉱石プロジェクトが生産に向けて開発中である(図6)。

● Schefferville DSOプロジェクト

 New Millennium Iron社が20%、Tata Steel社が80%を保有している次のDSO案件として最も期待されているプロジェクト。IOC社により1954~1982年まで操業されていた旧鉱山を中心としている。参入者であるTata Steel社は、本プロジェクトの初期投資のうち3億C$を拠出することで、マインライフにわたって生産物のすべてを引き取る権利を有している。
 Schefferville周辺に位置し、DSO2からDSO4の3つの地域に点在する25鉱床から構成され、2010年1月に公表されたFSレポートによると確定及び推定埋蔵量は6,411万t(平均品位58.87% Fe、0.418% Mn、8.15% SiO2)と算出されている。スーパージーン変質を受けて高品位化した鉄鉱石を複数のピットから採掘し、それらをブレンドして出荷するとしている。生産物の80%は粒径75μm~6 mmのシンターフィードとし、20%を75μm未満のペレットフィード用微粉鉱石とする。
 2012年下半期には生産開始、約1,000万t/年の生産を見込んでいる。

● Mary Riverプロジェクト

 Baffinland Iron Mines社 (ArcelorMittal社: 70%、Iron Ore Holdings社: 30%)が保有するプロジェクト。今までの稼行鉱山等と異なり、ヌナブト準州のBaffin島北部、北緯71.18度の北極圏内に位置している。
 ArcelorMittal社とNunavut Iron Ore Acquisition社が2010年9月からBaffinland Iron Mines社を巡る買収合戦を繰り広げたが、最終的には両社が提携して2011年3月に買収した。
 Churchill地質区の変堆積岩と変火山岩を伴う縞状鉄鉱層からなるMary River層群に胚胎するアルゴマ型鉄鉱床である。本地域には複数の縞状鉄鉱層が確認されており、いずれもHudsonian造山運動による強い変成・褶曲を被っている。5つの鉱体が存在しており、そのうち開発対象とされているのは3鉱体である。2011年1月に公表されたNI 43-101準拠技術レポートによると3鉱体合わせた概測及び精測資源量は4億4,400万t(66.2% Fe)、確定及び推定埋蔵量は6,070万t(66.2% Fe)である。生産物の75%は7~25 mmの塊鉱とし、25%は7 mm程度の粉鉱を予定している。年産2,100万tを予定し、21年のマインライフ全期にわたっての鉱石品位は平均で66.2% Fe、0.025% P、0.065% S、0.14% Mnと算出されている。
 山元で一次・二次破砕された鉱石は、鉄道にて南に150 km離れたSteensby港湾へと輸送され、分級、場合により三次破砕を行ったうえで塊鉱・粉鉱として出荷される(鉄道、港湾ともに新規に建設予定)。
 2013年上期の建設開始を目指して、現在、環境許認可手続き中である。

図 6 カナダ東部地域の稼行鉄鉱山及び開発中プロジェクト
図 6 カナダ東部地域の稼行鉄鉱山及び開発中プロジェクト
(出典:Mineral Deposits of Canada収録データより作成)

まとめ

 将来の需要増大を背景とした供給能力の増強や州政府等による積極的な支援などから、鉄鉱石生産地域としてのカナダ東部、特にラブラドルトラフ地域に対する注目度が高まっている。本地域から産する鉄鉱石は概して低品位であるため、豪州やブラジルの優良案件と比較すると見劣りするのは否めないが、地政学的リスクが低い点などから、従来よりも相対的に魅力が高まりつつあると言えよう。
 しかし、元来インフラの乏しい地域であるがゆえ、元々のインフラにも余力がなく、拡張・開発の進展につれてこれら周辺インフラがボトルネックとして浮かび上がってきている。次稿では、探鉱案件の紹介とともに、ボトルネックとなるであろう周辺インフラについて述べることとしたい。

参考文献
 Iron Deposits of the Labrador Trough; H. E., Neal; Explor. Mining Geol., Vol. 9, No. 2, pp. 113-121, 2000.
 Mineral Deposits of Canada; Special Publication No. 5, Geological Association of Canada; 2007.

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