報告書&レポート
カナダ東部の鉄鉱石プロジェクト(その2 探鉱動向とインフラ)
近年、相対的に魅力が高まりつつある鉄鉱石産地としてのカナダ東部について、カレント・トピックス12-57号では、カナダの鉄鉱石産業の現状、稼行中の鉄鉱山及び直近で生産が期待できる開発中のプロジェクトについて紹介した。 |
1. 探鉱プロジェクト
1-1. Labrador City地域
● Kamistiatussent(Kami)プロジェクト
Alderon Iron Ore社が所有するプロジェクト。稼行鉱山であるWabush鉱山とMont-Wright鉱山の中間のラブラドル州側に位置している。なお、Alderon社は2012年4月に河北鋼鉄集団を戦略的パートナーとして迎え、河北鋼鉄集団が本プロジェクトの25%を取得することに合意している。
Rose CentralとMill Lakeの2つの鉱体に別れ、それぞれの概測資源量は3億7,610万t(平均品位29.8% Fe)、1億1,410万t(平均品位30.5% Fe)である。低品位の磁鉄鉱を主とするタコナイトであり、生産物はペレットフィード用精鉱とし、年産800万tを予定している。
初期投資額としては、鉄道、港湾設備建設費を含めて9億8,890万C$と算出されている。
● Fire Lake North(Fermont)プロジェクト
Champion Minerals社が100%保有するMont-Wright鉱山の東約10 kmのケベック州に位置するプロジェクト。精測及び概測資源量として4億t(平均品位30.6% Fe)が算出されており、年間870万tの精鉱を生産し、主として焼結鉱用粉鉱として出荷するとしている。
初期投資額は13億6,790万C$で2015年第3四半期の生産開始を見込んでいる。
表 1 Labrador City地域、その他のプロジェクト一覧
プロジェクト名 | 会社名 |
Bruce Lake, Goethite Bay, Carol Lake, Campground, Huguette Lake, Green Water Lake |
Rio Tinto Exploration Canada社 /Altius Minerals社 |
Mont Reed | ArcelorMittal社 |
Peppler-Lamelee | Cliffs Natural Resources社 |
Julienne Lake | Altius Minerals社 |
Lac Virot | Ridgemont Iron Ore社 |
1-2. Schefferville地域
● Taconiteプロジェクト(LabMag, KéMag)
New Millennium Iron社が所有するタコナイト案件(LabMagについては地元ファーストネーションのNaskapi Nation of Kawawachikamachが20%を所有)。Schefferville地域の州境に位置する(LabMagの「Lab」はラブラドルを意味しラブラドル側、KéMag の「Ké」はケベックを意味しケベック側に位置する)。両プロジェクトを対象にTata Steel社を戦略的パートナーとする契約を2011年3月に締結しており、Tata Steel社が開発を決定した場合、Tata Steel社80%、New Millennium Iron社20%のJV会社を設立して開発を進めるとしている。
KéMagプロジェクトの精測及び概測資源量は2億4,480万t(平均品位31.27% Fe)、LabMagプロジェクトの精測及び概測資源量は3億6,650万t(平均品位29.6% Fe)であり、年産2,200万t(1,500万tはペレット、700万tはペレットフィード)を生産するとしている。Schefferville DSOプロジェクトの開発にも参入したTata Steel社の狙いは資源量の大きなこのTaconiteプロジェクトにあると言われている。
NI 43-101準拠のプレFSによると、山元で磁選した精鉱をスラリーとして750 kmのパイプラインでSept-Îles港のPointe-Noireターミナルへと輸送、当地のペレットプラントにてペレット化するとしている。
2012年末までにFSを完了し、2013年第1四半期には開発決定の最終判断を下すこととしている。なお、プレFSではKéMagプロジェクトの初期投資額を44.5億C$、LabMagプロジェクトの初期投資額を32.4億C$と算出している(それぞれにペレットプラント建設費等の重複あり)。
● Attikamagenプロジェクト
Century Iron Mines社が51%、Champion Minerals社が49%を保有するプロジェクト。Scheffervilleの北東約15 kmに位置するDSO案件。Century Iron Mines社は、武漢鋼鉄集団と中国五鉱集団を戦略的パートナーに迎えており、それぞれがCentury社発行済み株式の25%及び5%を保有している。また、Century社と武漢鋼鉄集団はJVを組成し、武漢鋼鉄集団は本プロジェクトに係るCentury社権益分の40%を取得しているとともに生産物のオフテイク権を60%取得できるオプション権を有している。資源量等は未算出。
表 2 Schefferville地域、その他のプロジェクト一覧
プロジェクト名 | 会社名 |
Lac Ritchie, Perault Lake, Sheps Lake | New Millennium Iron社 |
Block 103, Redmond, Porky Lake, Snelgrove | Cap-Ex Ventures社 |
Snelgrove Lake | Altius Minerals社/CIP Magnetite社 |
Altius (Schefferville, Astray, Menihek, Grenville) | Century Iron Mines社 |
Sunny Lake | Century Iron Mines社 |
Gabbro Lake | Metals Creek Resources社/Golden Dory Resources社 |
1-3. その他地域
● Lac Otelnukプロジェクト
武漢鋼鉄集団が60%、Adriana Resources社が40%を保有するプロジェクトで、Scheffervilleの北西約160 kmに位置する。Adriana Resources社は2011年に武漢鋼鉄集団を戦略的パートナーとして迎え、本プロジェクトの権益60%を賦与した(武漢鋼鉄集団はAdriana Resource社の発行済み株式19.9%も取得)。
NI 43-101準拠の技術レポートによると概測資源量は42億9,000万t(平均品位29.08% Fe)でラブラドルトラフ地域最大規模の資源量を誇り、操業時にはペレットを年5,000万t生産すると想定している。その分初期投資も巨額であり、130億C$と推定されている。
表 3 その他のプロジェクト一覧
プロジェクト名 | 会社名 | 場所 |
Roche Bay | Advanced Exploration社 | ヌナブト準州Melville半島 |
Lac Connelly | Cap-Ex Ventures社 | ラブラドルトラフ北部 |
Duncan Lake | Century Iron Mines社 | ケベック州James湾東岸 |
Ungava (Roberts Lake, Morgan Lake, Hopes Advance) |
Oceanic Iron Ore社 | ケベック州Ungava湾西岸、 ラブラドルトラフ最北部 |
図 1 カナダ東部地域の探鉱プロジェクト
(出典:Mineral Deposits of Canada, ケベック州天然資源・野生生物保護省、ニューファンドランド・ラブラドル州
天然資源省のデータより作成)
2. カナダにおける今後の鉄鉱石生産動向
カレント・トピックス12-57号及び本稿で見てきたとおり、ラブラドルトラフ地域を中心に中国、インド等新興国の旺盛な需要を予見した稼行鉄鉱山の拡張計画及び多くの開発・探鉱案件が続いている。図 2に稼行鉱山の拡張計画で示されている生産能力及び開発・探鉱案件の生産計画に基づき、2020年までのカナダにおける鉄鉱石生産能力の見込みを示す。
すべてが計画通りに進捗するとは限らないが、もし計画が順調に推移した場合、現在の生産能力の3倍以上となり、世界の鉄鉱石海上貿易量に占めるカナダの割合も増加する可能性が高い。
図 2 2020年までの鉄鉱石生産能力見込み
(各社annual report, technical report掲載のデータより作成)
3. インフラ
本地域では、鉄鉱石を運搬する鉄道や港湾、電力などの周辺インフラに関して、各鉱山の拡張計画、プロジェクト開発の進捗に伴い、その許容量の限界が指摘されている。ここでは、今後の鉄鉱石生産能力増強に際し、ボトルネックとなる周辺インフラについて概説する。
3-1. 鉄道
ラブラドルトラフの南部地域には鉄鉱石運搬に供せられる鉄道が複数路線存在する。なお、これらの路線はカナダ他地域の鉄道ネットワークとはつながっていない。
● Schefferville~Emeril Junction (Ross Bay Junction)~Sept-Îles
1950年代初頭にSchefferville近くの鉄鉱山(Schefferville鉱山)からSept-Îles港まで鉄鉱石を運搬するためにIOC社により敷設された総延長568 kmの路線。Schefferville鉱山が1982年に閉山して以降は、ScheffervilleからLabrador Cityへの分岐点であるEmeril Junctionまでの約213 kmの区間は鉄鉱石運搬に供されなくなったが、本鉄道がSchefferville付近の住民にとって生活インフラの一部となっていたため、政府補助金による旅客運行のみ継続していた。2005年になりIOC社は地元ファーストネーション(Innu Takuaikan Uashat Mak Mani-Utenam, Naskapi Nation of Kawawachikamach, Nation Innu Matimekush-Lac John)が設立したTshiuetin Rail Transportation Inc.に所有権を譲渡し、Tshiuetin社がSchefferville~Emeril Junction間の運営を行っている。なお、Labrador City~Ross Bay Junction~Sept-Îles間は引き続きIOC子会社であるQuebec North Shore & Labrador社(QNS&L社)が運営している。
● Labrador City~Ross Bay Junction
Labrador City周辺のWabush鉱山及びCarol Lake鉱山から上記QNS&L社路線との合流点であるRoss Bay Junctionまでの路線。IOC社とWabush Mine社による共同運営(North Lands Railway社)。
● Arnaurd Junction~Pointe Noire
Sept-Îles港の手前からPointe Noireへと分岐する支線であり、Cliffs社の鉄鉱石をPointe Noireターミナルに運搬している。Arnaurd Railway社による運営。
● Mont-Wright鉱山~Fire Lake鉱山~Port-Cartier
ArcelorMittal社の所有(Québec Cartier Railway社)であり、上記路線とは接続していない孤立路線。現在のところ、ArcelorMittal社の鉄鉱石のみを運搬しており、今後も他会社の鉱石を運搬する予定はない模様。
Schefferville~Sept-Îlesの路線については、ラブラドルトラフ地域鉄鉱石案件の進捗次第では輸送能力を超える可能性が指摘されており、2015年には本路線で運搬される鉄鉱石は年間6,000万tが見込まれ、2016年以降には許容量である8,000万tを超えるとされている。ラブラドル州政府が実施したラブラドルトラフ地域鉄鉱石案件に関するインフラ調査(Stassinu Stantec, 2011)によると、年間で8,800万tの鉄鉱石輸送が可能なようにこれらの路線を増強するには総工費として4億2,250万 C$が必要と試算している。また、増強計画の一つとして上記インフラ調査報告書には、Labrador City~Sept-Îles間の鉄道とMont-Wright鉱山~Port-Cartier間の鉄道を互いに接続して環状路線とする構想も挙げられているが、こちらも1億4,850万C$の総工費が見込まれている。
一方、ケベック州では、2012-2013年予算としてラブラドルトラフ地域の鉄道増強計画としてCN鉄道及びケベック州投資信託基金(Caisse de dépôt et placement du Québec)による共同事業可能性調査を計上している。これは、ラブラドルトラフ地域の開発促進だけでなく、将来的にはScheffervilleより北の鉄鉱石案件の開発促進を意図したものとされ、受益者である複数の鉱山会社(Cliffs Natural Resources社、Labrador Iron Mines社、New Millennium Iron社、Cap-Ex Ventures社、Alderon Iron Ore社)が支援に名乗りを上げている。
3-2. 港湾
本地域の鉄鉱石はSept-Îles (Pointe Noire), Port-Cartierの2港湾より出荷されている。
● Sept-Îles/Pointe Noire
Sept-Îles港は、セントローレンス湾に面するカナダ東部最大級の港湾であり、Sept-Îles港湾局が管理している。2011年は約2,590万tの鉄鉱石が本港から出荷されている。CityセクターとPointe Noireセクターから構成され、Pointe NoireはCityセクターとSept-Îles湾を挟んで対面する形で位置する。CityセクターにはIOC社所有の埠頭があり、同社Carol Lake鉱山からの鉄鉱石はここで積み出される。
Sept-Îles港湾局所有のPointe Noireバルクターミナルでは、Cliffs社がWabush鉱山及びBloom Lake鉱山からの鉄鉱石の積み出しを行っている。Pointe Noireバルクターミナルでは、現在、小型船に鉄鉱石を積載、沖合に停泊するケープサイズのバルク船(約15万t)に移し変えている。
Sept-Îles港湾局では、近年の鉄鉱石運搬船の大型化に対応すべく、Chinamaxクラス(40万トン)の大型バルク船が受け入れられるように総工費約2億2,000万C$の拡張計画を推進している。拡張工事では、Pointe Noireターミナルに鉄鉱石積出用として新たに2箇所のバース、2機のシップローダーを建設することとしており、これにより本港湾の鉄鉱石積出能力が年間5,000万t拡充されるとしている。連邦政府は本拡張計画に5,500万C$の財政支援を予定しており、鉄鉱石プロジェクトを保有している企業も資金拠出を表明、それぞれの拠出資金割合に応じて新たに利用可能となる鉄鉱石積出能力を活用できる(Labrador Iron Mines社が500万t分、New Millennium Iron社が1,500万t分、Champion Minerals社が1,000万t分、Alderon Iron Ore社が800万t分)。
● Port-Cartier
Sept-Îlesの西約30 kmに位置するArcelorMittal社所有の港湾施設。ペレットプラントも併設している。現在の貯鉱能力は精鉱250万t、ペレット170万tであり、年間積出能力は2,000万tである。年間積出能力3,000万tまでは追加投資なく拡張できるとしている。現在、ケープサイズのバルク船(約18万t)による鉄鉱石の出荷が行われており、2011年は1,760万tの鉄鉱石が出荷された。
これらの港湾設備とは別に、ケベック州ではScheffervilleからの鉄道の北方延長端であるUngava湾に面するイヌイットコミュニティのKuujjuaqに、Plan Nordの一環として大水深港湾を建設する可能性も検討している。これは、将来、気候変動の影響により航行可能期間の長期化が想定される北西航路(北米東岸からカナダ北極諸島間を抜けて太平洋側へ抜ける航路)を利用した極東アジア市場への鉱石輸送を視野に入れたものとされる。
3-3. 電力
現在、Labrador City及びその周辺鉱山へは、ラブラドル地域のChurchill湖に位置するChurchill Falls水力発電所(5,428 MW)、またはケベック州のHart Jaune発電所(51 MW)から供給されている。
Scheffervilleでは、約40 km離れたMenihek水力発電所(18.7 MW)から69 kV送電線にて電力が供給されているが、すべてのプロジェクトが稼動し始めると能力不足になる可能性が高い。現時点では、他のグリッドに接続するような具体的な電力網計画は存在しないが、ケベック州の公営電力会社Hydro Québec社がPlan Nordの一環として小型水力発電設備など隔絶地域における電力供給について調査研究を実施するとしている。
まとめ
低品位のタコナイトが主体でありながらも、鉄鉱石生産地帯としての本地域のポテンシャルは非常に高く、既存鉱山の拡張のみならず、新規開発案件、探鉱案件の進捗により、今後本地域からの鉄鉱石の生産は増大するものと考えられる。しかし、本稿で見てきたとおり、今後の生産拡大に耐えうるインフラの整備には至っておらず、インフラが最大のボトルネックとなっている。
それにもかかわらず、中国、インドによる積極投資が顕著であり、比較的開発が近いと目される案件の多数に中国、インド資本が参入している。世界における高品位の優良案件に対する競争が激化する中、これら国々の旺盛な需要を満たすためには豪州やブラジル以外への投資が不可欠であり、その中でも地政学的リスクの低いラブラドルトラフ地域は、低品位鉱でペレット主体とはいえ、投資に値する地域との判断に基づくものであろう。また、気候変動の影響を受けた北西航路による将来的な航路短縮も、これらの投資活動を後押しする一つの要因として考えられる。
図 3 ラブラドルトラフ地域インフラ
(出典:Hydro Québec社、Nalcor Energy社、Railway Association of Canada等の公開資料より作成)
参考文献
Canada’s juniors on the hunt for iron ore, gold; Mining Markets, September 2011, Vol. 4, No. 3.
Mineral Exploration & Development Highlights 2011; Department of Natural Resources, Mines Branch, Newfoundland and Labrador; January 2012.
Analysis of Infrastructure Constraints on the Future Development of Iron Resources in Labrador, Canada, FINAL REPORT; January 25, 2011, Stassinu Stantec Limited Partnership.