閉じる

報告書&レポート

2012年11月22日 ロンドン事務所 北野由佳
2012年69号

国際非鉄研究会参加報告(1)2012年秋季国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)参加報告

 ILZSG(国際鉛亜鉛研究会)は1959年に発足した国際機関で、鉛・亜鉛市場における透明性を確立することを目的とし、需給調査や経済動向など鉛・亜鉛市場に影響を与える分野の情報収集、分析、統計を行っている。
 2012年10月11~12日、リスボンにて、ILZSGによる秋季定期会合が開催された。公式参加者リストによると、本会合には、27か国からの政府関係者、EU本部、産業団体、企業関係者の総勢約140名が参加した。以下、本稿ではその会合の概要について報告する。なお、本会合での講演資料は、ILZSGの公式HPから入手可能である。
 (http://www.ilzsg.org/generic/pages/list.aspx?table=document&ff_aa_document_type=P&from=3)

1. 第67回統計予測委員会(2012年10月11日、09:30~12:00)

1-1. 2012、2013年の鉛需給予測(ILZSG主任予測統計官Paul White氏による発表)
1-1-1. 鉛:鉱石生産量 ~中国で大幅な増産~
 2012年及び2013年の鉱山生産量は、中国における増産が主因となり、それぞれ対前年比10.9%増の521万t、同2.8%増の536万tと予想した。中国の生産量は2012年に対前年比18.7%増と大幅な増加となることが予想され、中国の鉛一次製錬業の需要を上回っていることから、中国において鉛精鉱の在庫積み上げが行われているか、若しくは生産量が過大に見積もられているのではないかとの推測がされている。

1-1-2. 鉛:地金生産量 ~世界各地で製錬能力増強~
 製錬での地金生産量は、ペルー及びイタリアで休止製錬所の再開が予定されているほか、米国における二次製錬所の操業開始や中国及びカザフスタンでの製錬能力強化によって、2012年は対前年比2.9%増の1,090万t、2013年は同3.8%増の1,132万tとなる見通しである。

1-1-3. 鉛:地金消費量 ~中国、鉛電池生産が回復~
 2012年及び2013年の鉛地金消費量は、それぞれ対前年比3.4%増の1,080万t、同3.3%増の1,115万tと予想した。中国に関しては、2011年に環境への懸念から鉛蓄電池の生産工場が多数閉鎖されたが、2012年には鉛蓄電池の生産及び輸出が大幅に回復したことに加えて、乗用車や電動自転車(e-bike)も生産増となり、2012年及び2013年の鉛地金消費量は、それぞれ対前年比4.8%増の486万t、同4.7%増の508万tとなる見込みである。

表1. 鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量

(単位:千t)

区分 鉛:鉱山生産量 鉛:地金生産量 鉛:地金消費量
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
欧州 353 364 367 1,742 1,764 1,855 1,604 1,601 1,621
アフリカ 104 103 102 116 115 114 100 99 100
南北米 1,009 1,045 1,021 2,216 2,304 2,361 2,181 2,291 2,318
アジア 2,654 3,109 3,285 6,285 6,492 6,745 6,531 6,784 7,087
※(内、中国) 2,358 2,800 2,950 4,648 4,820 5,050 4,632 4,855 5,082
オセアニア 576 589 581 239 229 247 26 21 22
世界計 4,696 5,210 5,356 10,598 10,904 11,322 10,442 10,796 11,148

1-1-4. 鉛:世界の需給バランス ~2012年、2013年も供給過剰が継続~
 2012年及び2013年の需給バランスは、引き続き供給過剰が続き、過剰幅はそれぞれ10.8万t、17.4万tとなると予測した。

表2. 世界の鉛需給バランス

(単位:千t)

区分 2009年
実績
2010年
実績
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
増減
2012/2011
増減
2013/2012
鉛供給合計 9,211 9,866 10,598 10,904 11,322 2.9% 3.8%
鉛需要合計 9,223 9,848 10,442 10,796 11,148 3.4% 3.3%
需給バランス -12 18 156 108 174

1-1-5. 鉛のLME在庫と価格 ~在庫が増加、価格は小幅な推移~
 LME在庫については、2012年3月に在庫量が最高値の37.7万tを記録したが、図1のとおり、過去3か月間は在庫量が徐々に減少し、現時点では27万tとなっている。鉛市場は供給過剰が続いていることから、LME在庫の減少は市場関係者の予想に反していたと言え、在庫減少の理由の一つは倉庫間での在庫の移動であったと考えられる。過去一年間の鉛価格を見てみると1,850~2,300 US$の狭い範囲で取引されており、現時点の価格は約2,250 US$となっている。

図1. 鉛のLME等在庫及び価格

(出典:ILZSG)

図1. 鉛のLME等在庫及び価格

1-2. 2012、2013年の亜鉛需給予測(ILZSG主任予測統計官Paul White氏による発表)
1-2-1. 亜鉛:鉱山生産量 ~主に中国で増産~
 2012年の鉱山生産量は、中国の生産量が対前年比13.7%増となることが主因となり、同比5%増の1,360万tと予想した。2013年は、中国での増産が継続することに加えて、豪州、ブルキナファソ、カザフスタン、ポルトガル、メキシコ、米国でも増産が予想されていることから、対前年比2.7%増の1,396万tとなる見込みである。

1-2-2. 亜鉛:地金生産量 ~2012年は中国で23年ぶりに減産~
 2012年の亜鉛地金生産量は、中国で対前年比5.2%減となることから、全体では同2%減の1,286万tと予測される。ILZSGのデータによると、中国が亜鉛地金生産量で減産を記録したのは過去23年間で初めてである。一方、2013年には中国の生産量が対前年比9.1%増に回復し、イタリア、日本、韓国、ペルーでも製錬能力増強が予定されることから、同4.8%増の1,348万tとなると予想した。

1-2-3. 亜鉛:地金消費量 ~欧州の消費量が減少~
 2012年の亜鉛地金消費量は欧州における消費量の減少を受けて、対前年比0.3%減の1,271万tと微減になる見通しである。しかし、2013年には対前年比3.8%増の1,319万tとなり再び増加に転じると予想した。中国の見かけ消費量は、2012年には対前年比0.5%増と限定的な増加となるが、2013年には同5.6%増と再び大幅な成長を記録する見通しである。

表3. 亜鉛の鉱山・地金生産及び地金消費量

(単位:千t)

区分 亜鉛: 鉱山生産量 亜鉛: 地金生産量 亜鉛: 地金消費量
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
欧州 1029 1047 1107 2,438 2,421 2,475 2,556 2,416 2,477
アフリカ 318 312 370 246 178 178 176 162 169
南北米 3,960 4,074 3,989 1,870 1,901 1,940 1,727 1,756 1,791
アジア 6,154 6,723 6,996 8,060 7,849 8,369 8,097 8,195 8,566
※(内、中国) 4,308 4,900 5,100 5,222 4,950 5,400 5,468 5,495 5,805
オセアニア 1489 1440 1497 517 513 517 197 180 183
世界計 12,950 13,596 13,959 13,131 12,862 13,479 12,753 12,709 13,186

1-2-4. 亜鉛:世界の需給バランス ~2012年、2013年ともに供給過剰~
 需給バランスは2012年が15.3万tの供給過剰となる見通しで、2013年には過剰幅が広がり29.3万tの供給過剰となると予測した(表4)。

表4. 世界の亜鉛需給バランス

(単位:千t)

区分 2009年
実績
2010年
実績
2011年
実績
2012年
推計
2013年
予想
増減
2012/2011
増減
2013/2012
亜鉛供給合計 11,282 12,841 13,131 12,862 13,479 -2.0% 4.8%
亜鉛需要合計 10,920 12,593 12,753 12,709 13,186 -0.3% 3.8%
需給バランス 362 248 378 153 293

1-2-5. 亜鉛のLME在庫と価格 ~在庫が100万tを超える~
 亜鉛のLME在庫は、長期にわたる供給過剰により2007年以降増加基調が続いており、2012年7月には在庫量が100万tに近づいた。2012年8月及び9月は在庫が減少基調であったが、10月に入って再び増加し100万tの水準を突破した。鉛と同様に、在庫量の増加の背景にはLME倉庫間での在庫の移動があると推測されている。
 亜鉛価格に関しては、上下幅が狭く1,850~2,050 US$の間で変動しており、政府の金融政策の発表が市場のファンダメンタルズと同程度の影響を価格に与えていると考えられる。

図2. 亜鉛のLME等在庫及び価格

(出典:ILZSG)

図2. 亜鉛のLME等在庫及び価格

1-3. 講演『ラテンアメリカにおける鉛・亜鉛産業』

(Votorantim GmbH社及びICZ Brazil、Savio Ce氏)

 伯多国籍企業Votorantim Groupの金属部門であるVotorantim Metais社は米国及びアジアの18か所に事業拠点を持っており、亜鉛(地金)に関しては米国で最大、世界で第5位の生産者である。
 ラテンアメリカは2010年に世界第4位の経済地域となり、GDPは2012年から2016年にかけて3.9%~4.1%の間で着実に成長することが予想されている。失業率の改善、インフレの制御、インフラへの投資といった堅実なマクロ経済的条件が期待されている一方で、現在ラテンアメリカで見られる産業の空洞化が、予想される経済成長に影響を与える可能性もある。
 ラテンアメリカにおける亜鉛産業に関しては、亜鉛精鉱及び地金ともに生産が需要を上回っており、ラテンアメリカ内での貿易に加えて、米国、欧州及びアジアへ輸出されている。最終用途の内訳は、60%が亜鉛めっき鋼板、18%が亜鉛合金である。産業別の内訳は、50%が建設業、25%が自動車産業であることから、インフラ整備と自動車産業がラテンアメリカの亜鉛産業の成長のために重要な要素であると言える。
 鉛産業に関しては、ペルー及びメキシコがラテンアメリカの鉛精鉱の生産量の80%を占めており、2016~2025年にかけてそのシェアが85%にまで増加することが予想されている。鉛一次地金の生産量は2013年までに約16.5万tとなることが予想されており、メキシコが生産量の約94%を占めている。鉛地金の輸出入では、鉛の需要が年平均6.2%増(2011~2014年)と予想されているブラジルがラテンアメリカの輸入量の大半を占めている。鉛精鉱に関しては、ペルーが主にアジアに輸出をしている。

1-4. 講演『倉庫在庫-問題は利用可能性か若しくは財政面か』

(Macquarie Securities社、Duncan Hobbs氏)

 まずベースメタルの「プレミアム(premium)」とは、地金を実際に購入し所有するためにLMEの現物価格に上乗せして支払う金額であり、物理的に購入可能な地金の実際の在庫量と金属市場における実需のバランスによって変動しうる。倉庫費用等の保管費がかかるため、通常であると先物価格が現物価格よりも高い状況であるコンタンゴが発生するが、一刻も早く地金を売却し在庫を減らすためのインセンティブがある場合には先物価格より現物価格が高いバックワーデーションが発生する。
 LME倉庫の在庫を見てみると、アルミニウム、亜鉛及び鉛は過去数年間で在庫量の大幅な増加があった。しかしながら、コンタンゴやプレミアムの上昇の影響でキャリートレード(carry trade)が活発であることに加え、LME倉庫の受け渡し量に関する問題が原因で、十分な量の地金が生産されているにも拘わらず、消費者に対する利用可能性(availability)が制限されている状況である。
 LME倉庫には在庫量によって一日当たりの最小受け渡し限度が定められているが、問題はこの受け渡し限度は営業日一日あたりの各所在地における倉庫会社毎に定められており、倉庫のユニット数は考慮に入れられていない。さらに鉱種によっては数箇所の倉庫に在庫が集中していることも、地金の受け渡しに要する待ち時間の長時間化の原因の一つである。アルミニウムに関しては、プレミアムが歴史的な最高値を記録しており、亜鉛及び鉛に関しても同様にプレミアムが急上昇する可能性がある。概して、従来の価格と在庫の関係は、崩壊してしまったようである。

2. 第16回 鉱山・製錬所プロジェクト委員会(2012年10月11日、13:45~15:00)

2-1. 講演『MMG社、Centuryプロジェクト』

(MMG社、Stephen Whitehead氏)

 2009年6月に設立したMMG(Minerals and Metals Group)社は、2010年12月にMinmetals Resources Limitedに買収され、完全子会社となった。本社はメルボルンにあり、中国人のオーナーを持ちながら西欧の企業経営を保っている。
 現在生産中の主なプロジェクトには豪州のCenturyプロジェクトがあり、2012年には49.5~50.5万tの亜鉛精鉱、2.2~2.5万tの鉛精鉱の生産が予想されている。そのほかには豪州のGolden Groveプロジェクト(亜鉛、銅、鉛)、Roseberyプロジェクト(亜鉛、鉛)等がある。現在開発中のプロジェクトには豪州のDugald Riverプロジェクト(亜鉛、鉛)、カナダのIzok Corridorプロジェクト(亜鉛、銅、鉛)がある。
 MMG社では多様なベールメタルにおける国際的なメジャー企業になるため、既存プロジェクトの最適化及び新規プロジェクトへの投資を行っており、2012年には7,400万US$が探鉱に費やされる。

2-2. 講演『鉛及び亜鉛のTC(製錬費)-最近の傾向と可能な代替法』

(Wood Mackenzie社、Chris Parker氏)

 鉛及び亜鉛の製錬には、TC(Treatment Charge、製錬費)、プライス・パーティシペーション(PP:Price Participation)といった独特の制度があり、必要以上に複雑であると言える。TCの決定に関しては、鉄鉱石のように指数に基づいた価格決定方式(Index-linked pricing model)を採用することで、透明性が向上すると考えられる。また、TCの決定にプライス・パーティシペーションの制度が用いられていることで複雑性が増すが、実際のTCの決定における影響度はそれほど高くはないと考えられるため、プライス・パーティシペーションの制度を廃止し、現物市場やほかの産業のように固定価格制度を導入することを検討すべき時期が来ているかもしれない。また亜鉛に関しては、製錬所は鉱山会社に対して購入する亜鉛鉱石の85%のみを支払う(加えてTCが割引される)というペイアビリティ(Payability)の制度は特殊であるため、ペイアビリティが95%に変更される可能性がある。しかしその場合には製錬所が得られる利益が減少するため、その損失が補われなくてはならなくなる。そのため、85%という亜鉛精鉱のペイアビリティは今後何年も続いていくことが予想される。

3. 第48回産業諮問委員会(2012年10月11日、15:30~17:30)

3-1.講演『鉛酸蓄電池を用いた自動車のCO2排出量削減のためのアプローチ』

(Advanced Lead Acid Battery Consortium(ALABC)、Allan Cooper氏)

 Advanced Lead Acid Battery Consortium(ALABC)は鉛酸蓄電池の性能を向上することを目的として1992年に設立された国際研究開発団体である。現在、ハイブリッド電気自動車(HEV)に用いられる鉛炭素電池(lead carbon batteries)の研究開発プロジェクトを実施しており、鉛炭素電池は比較的低価格で高いパフォーマンスを維持できることに加えて、CO2排出量の面でも費用効果が高くなる。屋内での研究に加えて、実際にHondaやVolkswagenのHEV車を用いた試運転も既に行われており、モーターショーに展示された例もある。

3-2. 講演『投資管理会社から見た亜鉛市場』

(Fidelity Management and Research社、Jonathan Bates-Kawachi氏)

 Fidelity Investments社はボストンに本社を置く国際的な投資会社である。
 投資家が鉱山及び金属会社の株式に投資をする際に特に留意することは、1)コモディティの利益性、2)資本分配及び投資資本利益率(ROIC)、3)株主への利益還元である。ちなみに、亜鉛の過去10年間の投資資本利益率を見てみると、産業界の平均を上回っている。そのほかに、投資に影響を与える要素としては、生産量の成長率、政情、地理、管理体制の質、過去の実績、産業内での企業結合(industry consolidation)の度合い等がある。
 亜鉛への投資に関しては、プラス面としては大規模な亜鉛鉱山の閉山や既存の鉱山での減産が予想されていること、より大きな企業結合の可能性があること等が挙げられる。また、マイナス面としては、在庫量の水準が高いこと、製錬能力が過剰であること、中国の消費量が市場の予想を下回る可能性があること等が挙げられる。

3-3. 講演『中国経済の中期見通しとベースメタル産業への影響』

(Antaike社、Hu Yongda氏)

 中国のGDP成長率は2007年には11.4%、2008年及び2009年は一桁の成長に落ち込こみ、2010年には再び10.3%と二桁の成長に回復した。しかし、2011年のGDP成長率は9.2%と再び一桁成長に戻り、2012年Q2の成長率は7.6%を記録したことから、中国経済の成長は鈍化したと言える。しかし、中国経済は経済改革の余地が十分にあること、科学研究及び技術のイノベーションの重要性が以前よりも認識され成果がでてきていること、コスト面での優位性が継続すると考えられることから、中国経済の成長の鈍化は一時的なものであり、2~3年後には再び二桁の成長に回復すると考えられる。
 中国の鉛・亜鉛産業に関しては、生産能力が年々強化されている。鉛は2012年に多数のプロジェクトが始動し、122万tの生産能力が追加された。亜鉛に関しては、2012年に新たに追加された生産能力は29万tのみであるが、2013年には61万tの生産能力追加が予定されている。
 中国内の需給バランスに関しては、鉛の場合、2012年は15万tの供給過剰、2015年は4万tの供給過剰になると予想した。亜鉛の場合は、2012年は42万tの供給不足、2015年には23万tの供給不足となる見込みである。

4. 第23回経済環境委員会(2012年10月12日9:00~12:00)

4-1. 国際海事機関(IMO)の残さ排出規制に関して

(国際非鉄研究会、Don Smale事務局長)

 IMOが海洋汚染防止を目的としたマルポール条約を改正し、精鉱を運ぶバラ積み貨物船からの残さの排出が(2013年1月から)規制されることは、金属業界に大きな影響を与える。汚染防止の観点から残さの排出を規制すること自体には反対はしないが、残さの有害性を判断する評価基準は何か、誰が評価するか、どのように実施されるか、といったことに関しては疑問が残る。非鉄研究会のメンバー国政府の運輸省だけではなく、鉱物資源担当省もIMOの残さ排出規制に関する問題を理解する必要がある。国際非鉄研究会では、IMOへの関与を強化する努力を継続するとともに、各研究会のメンバー間でのIMO規制に関する情報の共有を率先していく。

4-2. 講演『世界経済の見通しと金属業界への影響』

(CHR Metals社、Huw Roberts氏)

 CHR Metals社では、独自のIP指数(鉱工業生産指数)に基づいた経済分析及び予測を行っている。2005年にはOECD諸国が世界生産の3分の2を占めていたが、2011年にはそのシェアが60%を下回った。IP指数及び金属需要の成長に関しては、2005年以降、中国を中心としたアジアが主な原動力となっており、世界経済と金属需要の今後の見通しはアジア諸国によって左右されると言える。中国では政策の支援を受け、輸出と固定資産への投資を拡大することで中国経済の成長を支えてきた。しかしながら、過去5年間のような速度での成長は持続可能ではなく、2012年中期には成長が大幅に鈍化した。中国のインフラを見てみると、実際の需要に対して、住居ビル、高速道路、トンネル、空港、高速列車用の線路、風力・太陽光発電所、鉛・亜鉛製錬所等の設備が過剰にある。一方、病院、学校、ケアセンター、浄水場、大気汚染管理施設、年金受給額等が不十分であり、資本の分配が不均等に行われてきたことが推測できる。インフラ整備や建設活動への投資を過去数年間と同程度の速度で行うことは持続可能ではないため、金属需要の増加は制限されると予想される。
 欧州に関しては、2011年Q4から再び景気後退に陥っているが、2008/9年の不況と比べると深刻度は低く、2014年後半には景気後退前のピークに回復すると予想している。金属需要に関しては、ごく小幅な増加となる見通しである。
 米国に関しては、欧州よりは見通しが明るく、2013年Q3には既に景気後退前のピークに回復すると見られ、自動車産業を中心とした金属需要も期待できるが、持続可能な成長のためには建設事業の活性化が必要である。

4-3. 講演『CFCプロジェクト』

(国際亜鉛協会(IZA)、Stephen Wilkinson氏)

 一次産品共通基金(CFC:Common Fund for Commodities)とは国連の枠組みの中で設立された政府間金融機関であり、一次産品に依存している発展途上国の社会的及び経済的発展を援助することを目的としている。IZAは亜鉛のCFCプロジェクトの実施機関となっている。
 CFCの亜鉛プロジェクトの例としては、中国の一般溶融亜鉛めっきプロジェクト(2005年)、マラウィの亜鉛電池プロジェクト(2007年)及び亜鉛肥料プロジェクト(2011年)、インド、バングラデシュ及びネパールの一般溶融亜鉛めっきプロジェクト(2012年)、インドの亜鉛ダイカストプロジェクト(2012年)が挙げられる。
 CFCプロジェクトのほかに、IZAでは国連児童基金(UNICEF)との共同プロジェクト「亜鉛が子供を救う」を実施している。同プロジェクトでは重度の亜鉛欠乏症を患っている子供に対する治療や、亜鉛欠乏症の治療及び予防のためのサプリメント配布を行っている。なお、国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長の呼びかけでスタートした国際的プログラム「Every Woman Every Child」では、2015年までに下痢が原因で死亡する100万人の子供の命を亜鉛及び経口補水塩を与えることで救うことを目標としており、亜鉛は「命を救う一次産品(Live-saving commodity)」として国連に認識されている。

4-4. 講演『クリティカルな鉱物資源の研究における米国政府のイニシアティブ』

(米国商務省、Salim Bhabhrawala氏)

 米国政府は2010年から学界、産業、政府のトップクラスの科学者を集合し、エネルギー技術の進歩における障害を克服するための総合的研究プロジェクトである「Energy Innovation Hub(エネルギー・イノベーション・ハブ)」を開始した。2012年5月には、エネルギー・イノベーション・ハブの5つ目のプロジェクトとなる「クリティカルな原材料ハブ(the Critical Materials Hub)」の設立計画を発表した。クリティカルな原材料ハブは、米エネルギー省の「クリティカルな原材料戦略2011年(2011 Critical Materials Strategy)」の報告内容に基づいて設立される。最終目標は、クリティカルな原材料に対する米国の依存を減少させること及び国内エネルギー技術の展開が将来的な材料の供給不足によって妨げられることがないようにすることである。ハブの設立のために2012年に合計2,000万US$の資金が提供される予定である。

4-5. 講演『鉛産業における最近の進展』

(国際鉛協会(ILA)、Andrew Bush氏)

 鉛に関する規制の現況について主に以下のような説明があった。

● REACH(欧州化学物質規制)

2012年8月、欧州委員会は高懸念物質(SVHC)の認可候補物質リストに一酸化鉛、四酸化鉛及びほか19種類の鉛含有物質を追加することを提案し、2012年10月18日までの間、パブリックコンサルテーションが行われた。この動きは、2012年までに138物質をSVHCの認可候補物質リストに追加するという欧州委員会の目標値達成のための政治的動機に基づいた決定であると考えられる。鉛の効果的なリスク管理や社会貢献、イノベーションや競争性における影響が考慮に入れられていない。鉛産業界は、パフリックコンサルテーションで意見を提出するとともに、候補に挙げられた物質が認可されることに反論するための準備を進めていく。

● EU Water Framework Directive(EU水質枠組み指令)

水質枠組み指令(Water Frame Directive:Directive 2000/60/EC)は、欧州における水質保護を目的とし、2000年12月に採択された。2013年に施行される可能性が高い。鉛の水質基準(EQS)は1.2μg/Lである。

● マルポール条約の改正

マルポール条約が改正されることによって、2013年1月1日から海洋環境に悪影響を及ぼす物質(SHME)に特定された貨物の残さを海に排出することが禁止される。

 上記の規制以外にも世界各国で鉛に関連する規制がある。規制を設けて環境を守ることは望ましいが、同時に、鉛の社会貢献も認識されるべきであり、法律はフェアでなくてはならない。

4-6. 講演『使用済み鉛酸蓄電池のESMに関する官民パートナーシップ』

(バーゼル条約地域センター、中米準地域、Miguel Araujo氏)

 バーゼル条約地域センター(BCRCs)はバーゼル条約の実施に関連する活動や技術移転に関するトレーニング、情報発信、助言、啓蒙活動等を行っている。
 地域センターの主導により、中米、メキシコ、カリブ海諸国、コロンビア、ベネズエラにおける使用済み鉛酸蓄電池の環境上適切な管理(ESM)に関する地域戦略が2002~2008年に作成された。同戦略はUNCTADや国際鉛管理センター(ILMC)等に支援されたほか、16か国の保健省及び環境省、複数の民間企業及び学術機関が参加した。結果として、使用済み鉛酸蓄電池のESMの模範例、評価手順、トレーニングマニュアルが確立されたほか、新規リサイクル施設の開設や既存のリサイクル施設の改良が実施された。今後は、今までの成果をより強化し、またほかの地域とも経験を共有するための新プロジェクトが必要である。

5. 各委員会のプロジェクト進捗報告

5-1. ILZSG統計予測委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規プロジェクト
報告書

・ 中国における亜鉛の一次用途の調査
(2012年6月発行)

・ 鉛亜鉛市場の年間レビュー
(2012年2月発行)

・ インド鉛市場調査
(2012年2月発行)

・ 月間統計報告書

・ 鉛亜鉛市場のレビューと予測
(年2回)

・ ILZSGの統計の正確性に関する報告書

・ プレスリリース(月1回)

・ 鉛・亜鉛の一次利用法に関する年次報告書
(2012年末発行予定)

・ 世界の鉛及び亜鉛鉱山の住所録
(第8版2012年末発行予定)

・ 世界の一次・二次亜鉛製錬所の住所録
(第4版2012年末発行予定)

・ 中国の鉛・亜鉛産業に関する調査

・ 自動車産業における亜鉛の使用に関する調査

そのほか

・ 統計データベースの対話型インターフェースの発表

・ プレゼンテーションの実施『新規亜鉛鉱山プロジェクト』IZA主催国際亜鉛会議にて、『世界亜鉛鉱山生産量の傾向と見通し』Metal Bulletin主催第16回亜鉛セミナーにて、『国際非鉄研究会の透明性に関する活動』OECDワークショップにて、『亜鉛のファンダメンタルズ』IZA亜鉛カレッジにて

・ ILZSGのウェブサイトの向上

・ 統計データベース及び情報源の管理と向上

・ リサイクル率計算法の開発(継続)

・ 地域セミナーの計画(継続)

・ ILZSG・CNIA主催『中国の鉛・亜鉛市場セミナー』
(2012年11月7~8日開催)

・ 鉛・亜鉛鉱山及び製錬所データベースの対話型インターフェースの開発

5-2. ILZSG鉱山及び製錬所プロジェクト委員会

進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト

・ 新規の鉛・亜鉛鉱山及び製錬所プロジェクト報告
(2013年1月に次号発行)

・ 新規の鉱山及び製錬所のデータベース及び自由自在のインターフェースの開発

5-3. ILZSG経済環境委員会

  完了したプロジェクト 進行中のプロジェクト 新規のプロジェクト
報告書

・ 鉛市場の状況
(2012年3月発行)

・ ILZSGインサイト報告書『国連持続可能な開発会議(リオ+20)』
(2012年9月発行)

・ 3研究会合同プロジェクト、鉛・亜鉛の副産物に関する調査(2012年6月発行)

・ 3研究会合同プロジェクト、中国の非鉄金属統計データの調査
(2012年3月発行)

・ ILZSGインサイト報告書
(継続)

・ 合同研究会”Metals Despatch”ニュースレター(継続)

・ 鉛・亜鉛の副産物に関する調査(継続)

・ 3研究会合同プロジェクト、採掘及び金属業に対する財政措置に関する調査

そのほか  

・ ILZSGのウェブサイトの向上

・ 製品スチュワードシップGreen Lead Initiativesへの協力

・ CFCプロジェクト:
『アフリカにおける亜鉛空気蓄電池の利用』(継続)
『亜鉛含有肥料促進プロジェクト』(継続)
『インドにおける溶融亜鉛めっきのプロジェクト』(継続)
『セネガルでの使用済み鉛蓄電池の回収プロジェクト』(継続)

・ CFCプロジェクト
『インドでの亜鉛ダイカストに関するプロジェクト』

6. 2013年春季会合について

 国際鉛亜鉛研究会の2013年春季会合は、2013年4月24日にポルトガルのリスボンにて開催される予定である。

 <2013年春季の国際非鉄金属3研究会の日程>

4月22~23日: 国際ニッケル研究会(INSG)
4月24日午前: 国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)

午後: 三研究会合同セミナー

4月25~26日: 国際銅研究会(ICSG)

ページトップへ