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報告書&レポート

2012年11月29日 ロンドン事務所 森田健太郎
2012年70号

国際非鉄研究会参加報告(2)2012年秋季国際銅研究会(ICSG)参加報告

 2012年10月8~9日、ポルトガル・リスボンにて国際銅研究会(ICSG)秋季会合の一連の会議が開催され、23の国、国際機関、業界団体、コンサルタント等70名ほどが参加した。日本からは、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部鉱物資源課 原田課長補佐、産業界から日本鉱業協会 水谷部長代理、三菱マテリアル上山ロンドン事務所長、パンパシフィック・カッパー営業部 村尾部長他が参加した。JOGMECロンドン事務所からは3名が参加した。また、翌週のLME Weekにあわせて、10月18日、ロンドンにてICSG産業アドバイザリーパネル会合が開催され、日本からはJOGMECロンドン事務所が参加した。
 今回のICSGにおいては、春季会合と同様2012年及び2013年の鉱山生産、製錬生産、消費、需給バランスの予想値などの需給見通しの取りまとめが行われた。また、直近の銅価格は下落傾向からやや持ち直しの動きを見せているものの、不確実性の高まっている将来の需給動向などについて、各国代表、専門家を交えた議論が行われた。なお、次回のICSG会合は、2013年4月25~26日にリスボンにて開催予定である。

2. 第40回統計委員会

(1) 2012/2013年の世界銅市場の需給見通し

 世界の銅市場の需給見通しについて、事務局から全体像の説明があった後、各国の生産予測の議論、修正等を経て、需給見通しの取りまとめを行った(表1~4参照)。

<2012年の銅需給>

 2012年の銅地金生産量は対前年比1.5%増の1,995万t、銅地金需要は同2.6%増の2,037万6,000 t、需給バランスは42万6,000 tの供給不足とし、春季統計委員会時の予測(23万7,000 tの供給不足)から拡大修正した。3年連続の供給不足予想に変わりはない。また、鉱山生産は対前年比2.9%増の1,647万9,000 tと予測し、春季統計委員会時の予測(5.1%増の1,684万8,000 t)から下方修正した。

 <2013年の銅需給>

 2013年の銅地金生産量は対前年比6.0%増の2,114万 t、銅地金需要は同1.5%増の2,068万2,000 t、需給バランスは45万8,000 tの供給過剰とし、2012年の供給不足分をほぼ相殺すると予測した。4年ぶりに供給不足から供給過剰に転ずるとの予想に変更はない。なお、鉱山生産は対前年比6.4%増の1,753万3,000 tと予想した。
 この理由としては、需要面では、中国の工業需要は2013年に5%成長が見込まれるが、前年の見かけ需要(在庫も含めた需要)が8%と大きいため、2013年の見かけ需要は減少すると予想されること、中国を除く世界需要は3.4%成長が予想されることなどが挙げられた。供給面では、鉱石品位の低下、悪天候、不安定な労使関係など懸念材料があり、2013年に操業開始予定であったいくつかのプロジェクトが2014年以降に延期されているものの、既存鉱山の生産回復、新規鉱山の生産開始、アフリカや中国での製錬所の生産回復や能力増強、新規操業により鉱山生産・地金生産は伸びると予想した。

 <中国の見かけ需要の扱い>

 今回のICSG統計委員会では、世界の銅需要の4割を占める中国が見かけ需要を用いていること、その見かけ需要も公表されている生産量、輸入量、輸出量、在庫変動量を足しあげたに過ぎず、公表されていない在庫は考慮されていないことを、合わせて公表すべきだとの意見が出され、プレス発表資料に明記された。

表1. 銅鉱山生産(千t)

  2011/2010
伸び(%)
2012 2012/2011
伸び(千t)(%)
2013 2013/2012
伸び(千t)(%)
2014 2014/2013
伸び(千t)(%)
アフリカ 5.3% 1,396 90 6.9% 1,712 316 22.6% 2,024 312 18.2%
北米 11.7% 2,244 93 4.3% 2,536 292 13.0% 2,666 130 5.1%
中南米 -2.6% 6,993 146 2.1% 7,209 215 3.1% 7,499 290 4.0%
ASEAN10 -29.4% 653 -112 -14.6% 909 256 39.1% 911 2 0.2%
その他アジア 7.3% 1,977 209 11.8% 2,298 321 16.2% 2,453 155 6.7%
CIS -4.4% 487 17 3.6% 500 13 2.7% 514 14 2.8%
EU27 4.0% 804 16 2.0% 814 10 1.2% 833 19 2.3%
その他欧州 1.8% 853 21 2.5% 870 17 2.0% 906 36 4.1%
オセアニア 6.0% 1,118 26 2.4% 1,300 182 16.3% 1,310 10 0.8%
世界計
(調整後)
  16,479 460 2.9% 17,533 1,055 6.4% 18,582 1,048 6.0%

表2. 銅地金生産(千t)

  2011/2010
伸び(%)
2012 2012/2011
伸び(千t)(%)
2013 2013/2012
伸び(千t)(%)
2014 2014/2013
伸び(千t)(%)
アフリカ 9.9% 1,064 103 10.7% 1,326 262 24.6% 1,553 227 17.1%
北米 2.8% 1,701 -5 -0.3% 1,886 185 10.9% 1,941 55 2.9%
中南米 -4.6% 3,463 -254 -6.8% 3,606 142 4.1% 3,659 53 1.5%
ASEAN10 -3.5% 398 -119 -22.9% 575 177 44.3% 573 -2 -0.3%
その他アジア 6.6% 8,772 724 9.0% 9,367 595 6.8% 9,969 602 6.4%
CIS 3.6% 447 18 4.3% 472 25 5.7% 475 3 0.6%
EU27 3.5% 2,768 52 1.9% 2,790 21 0.8% 2,837 47 1.7%
その他欧州 5.5% 1,049 -31 -2.8% 1,095 45 4.3% 1,110 15 1.4%
オセアニア 12.4% 503 26 5.4% 504 1 0.3% 504    
世界計
(調整後)
  19,950 299 1.5% 21,140 1,190 6.0% 22,288 1,148 5.4%

表3. 銅地金消費(千t)

  2011/2010
伸び(%)
2012 2012/2011
伸び(千t)(%)
2013 2013/2012
伸び(千t)(%)
2014 2014/2013
伸び(千t)(%)
アフリカ -1.2% 256 -25 -9.0% 262 6 2.2% 272 10 3.8%
北米 0.5% 2,241 38 1.7% 2,340 99 4.4% 2,398 58 2.5%
中南米 -9.6% 608 8 1.3% 641 33 5.4% 659 18 2.8%
ASEAN10 -1.8% 788 53 7.2% 819 31 3.9% 861 43 5.2%
その他アジア 3.0% 12,005 674 5.9% 12,014 10 0.1% 12,600 586 4.9%
CIS 3.2% 100 1 1.4% 101 1 1.0% 102 1 1.0%
EU27 -1.4% 3,137 -158 -4.8% 3,207 70 2.2% 3,294 87 2.7%
その他欧州 35.8% 1,120 -82 -6.8% 1,173 53 4.7% 1,197 24 2.0%
オセアニア -8.6% 122 2 1.4% 125 3 2.8% 128 3 2.4%
世界計 2.7% 20,376 511 2.6% 20,682 306 1.5% 21,511 829 4.0%

表4. 銅需給バランス(千t)

  2007 2008 2009 2010 2011 2012予想 2013 2014
          暫定値 上半期 下半期 通年 予想 予想
生産 17,933 18,239 18,270 19,003 19,651 9,815 10,134 19,950 21,140 22,288
消費 18,196 18,053 18,070 19,346 19,865 10,327 10,049 20,376 20,682 21,511
バランス -263 185 199 -343 -214 -512 86 -426 458 777

(2) 各国の銅の需給動向などの紹介
 (a) 講演『EUにおける銅地金消費』

(IWCC(世界銅精錬業会議)Mark Loveitt議長)

 EUにおける銅地金消費は、2006年にピークに達したのち、欧州債務危機の影響で2009年に激減し、翌2010年はその反動で短期間は回復したものの、その後引き続き同債務危機の影響で減少し続けている。
 現在、EUでの再生可能エネルギーへの投資が銅消費を下支えしているものの、欧州全域の危機的状況と加工業者へのコスト負担が需要の伸びを抑制している。
 2012年については、銅線の生産は横ばいを維持するだろうが、黄銅工場での生産は10~15%減少するかもしれない。ただ後者については、もともとスクラップを原料としているので、銅地金消費への影響は小さいだろう。2013年については、EUの銅地金消費は少し回復すると予想する。
 世界におけるEUの銅地金消費の割合は、30年前の30%から16%まで縮小したとは言え、消費量でみればたった25万tしか減っていない。

 (b) 講演『中国における銅消費の見通し』の要旨

(BGRIMM(北京鉱冶研究総院)Li Lan氏)

 <在庫>

 中国の在庫については、商社や倉庫会社、生産者、消費者の在庫が不明なため正式に報告された統計はないが、当研究所としては2011年12月末から2012年9月末にかけて62万8,000 tが増加していると推定している。そのうち40万tが輸入増による保税倉庫での在庫の増と推定している。

 <経済成長率>

 2012年の中国の経済成長は、第1四半期8.1%成長、第2四半期7.6%成長だったが、第3四半期の経済活動は予想より弱かった。政府は税や補助金による財政政策を講じており、第4四半期は緩やかに持ち直して通年で7.5%成長となることを目指している。

 <銅消費>

 銅の消費については、①電力分野では、中国内陸部で大型プロジェクトがあるため電力網への投資が期待されている。同分野での銅消費が今年の中国の銅消費をけん引するだろう。しかし、夏季の需要が予想外に低かったため、当研究所の予測としては前年比5%から4%に下方修正する。②建築分野では、不動産業界の制約を緩和する意向は見受けられないが、住宅取引は今年半ばから持ち直し、家財取引は反動で改善し融資条件も改善している。そのため、建築分野での銅消費は2012年には3%成長するだろうし、2013年は4%成長を期待する。③運輸分野では、小型車への補助金制度が2012年6月から始まり、省エネ車の生産が増加している。しかし2012年8月までに、鉄道分野での投資は前年同期比24.1%減少し、完工した造船も前年同期比12.4%減少しており、オートバイ生産も前年同期比11.4%減少している。そのため、運輸分野での銅消費は2012年は前年並み、2013年は5%成長を期待している。④一般消費財分野では、主要な家電製品の生産活動は、在庫の取り崩しと国内外の景気の停滞のため弱いままである。在庫が低水準となったこと、政府の補助金政策、住宅取引の改善、そして米国へのエアコン輸出が力強いことなど良い兆候もあるが、アルミ電線による代替、家電製品の輸出の低成長など、悪い兆候もある。そのため、一般消費財分野での銅消費は2012年は8%減少したのち2013年は3-5%回復するだろう。

 <銅生産>

 銅の生産については、①銅線では、生産能力は稼働率が60%と余剰となっており、リスクが高い。小規模事業者は淘汰されるだろう。電力分野で銅線の需要は増加するが、建築分野ではまだ前年並みである。今年の銅線の生産は前年比2.5%増にとどまるだろう。②銅管では、生産は低調なままで補助金制度でも牽引できず、良い兆候と言えば低水準な在庫だけだ。そのため銅管の生産は、2012年は8%減少するだろう。③銅片では、接続用銅片を用いるiPhoneやiPadの需要は力強く、パソコンや家電の需要も緩やかである。

 以上を総合すると、銅生産業者の2012年上半期の利益は軒並み減少しており、夏季の発注も失望させるものだった。9月はやや持ち直したものの、10月以降の発注も前年をかなり下回るだろう。

3. 第33回環境経済委員会

 環境経済委員会では、事務局から銅の一次消費量とリサイクル消費量の報告がなされた後、「世界景気の不確実性と銅消費」というテーマの下、専門家による講演が行われ議論が交わされた。また事務局より、銅消費に影響する制度改正にかかる調査結果が報告された。これに関連し、国際非鉄研究会のDon Smale事務局長より、特にIMOばら積み船残渣廃水規制について留意するよう、追加的なプレゼンがあった。

(1) 講演『中国における銅スクラップ消費』の要旨

(BGRIMM(北京鉱冶研究総院)Li Lan氏)

 当社は、中国では2015年までに二次生産業者が銅地金生産の4割を占める、と予想する。大企業の優位が続き、二次精錬の5割以上を上位10位以内の企業が占めるだろう。それまでに技術力と設備は大幅に改善するだろう。会社の整理・統合が進み、最新型の製錬炉が発展するだろう。また、単位当たりのエネルギー消費は低減し(二次精錬1t当たり石炭290kgまで低減)、リサイクル率は95%を超えるだろう。
 中国政府は「再生可能な非鉄産業に向けた改革発展計画」を打ち出している。現行の5つの産業地帯を有効活用することとし、新たな非鉄リサイクル産業地帯の設立は認めない。また、生産規模、技術・設備、エネルギー消費量、環境保護等の指標で産業界を最適化し、トータルの生産能力を厳しく取り締まっている。

(2) 講演『投資家の視点から見た投資と最終消費』の要旨

(ロスポート投資 Daniel McCovey氏)

 新たな千年の暗闇の中で、貴金属とベースメタルの価格は、3つの力によって完全な嵐の中に入ってしまった。3つの力とは、①中国の成長、②実質マイナス利率による投資需要の押上げ、③90年代の鉱山への投資控えとまだ見ぬ供給制約、である。
 1999年12月31日までは、アジア通貨危機、ロシアの債務不履行からの脱却、新経済への期待の中で、金価格・銅価格は下落し続けた。最もなるべきではないもの、それは鉱山技術者か鉱山への投資家だった。
 しかしそれは変わった。2003年から2004年にかけて、鉱山投資が停滞しているにもかかわらず中国の需要が年18%で伸びていたころ、LME銅価格が3,000U S$/tから少し急落したのを見て、価格は反発して一気に8,000 US$/tまで急騰した。今まで高値が続いている。2001年に中国はWTOへ加盟し、中国の2000年代の成長が価格高騰のキックオフになったとみている。
 米商品先物取引所での投資やコモディティ指標は何倍にもなっているのに、銅の取引量は小さいままだ。他方、金など貴金属の取引量は2005年以降急拡大している。これは金の用途が装飾か投機なのに対し、銅の用途は産業用でしかなく、投資対象として落第したからだ。しかし実は金と銅と価格には正の相関がある。多くの投資家が、需給が締まっていて低金利のうちに、銅に投資したいと思っている。

(3) 『銅消費に影響する制度改正』の説明要旨

(ICSG事務局 Carlos Risopatron氏)

2012年に行われた銅に影響するマルチの規制関連の情報としては以下がある。
- IAEAによる放射能に汚染された金属スクラップ等の行動規範
- UNEPにおける水銀に汚染された地域に係る政府間委員会
- OECDにおける金属の環境影響評価の委員会
- IMOにおけるばら積み貨物船に対する規範
- IMOによる危険物に関する規範
- WTOにおける日米欧による中国のレアアース輸出規制の提訴
- WTOにおけるブラジルへの銅管輸入のアンチダンピング調査
 国別でみれば、中国の資源・環境対策の税制、2012年~2015年の戦略的成長7分野、省資源・リサイクルの政策、重金属公害への対策、水質・大気の汚染対策、金属スクラップ輸入業者の取締り強化、さらには不動産市況が銅の消費に影響する。
 米国のSECによる新たな銅現物取引への提案、CFTCの執行能力強化、そして本年8月に承認された紛争鉱物に対する規制が銅の消費に影響する。
 EUでは、インフラ投資ガイドライン、電話回線網に係るアジェンダ、ネットワークアクセス規制、全電気製品に対するリサイクル法制、資源効率化ロードマップ、資源使用税に係る対話、EU議会による資源効率及びリサイクルに係る決議、原材料を代替する技術革新のパートナーシップ、韓国FTA、太陽光パネルのアンチダンピング調査等が銅の消費に影響する。
 アフリカでは、ザンビアでの当該分野の説明責任の改善、鉱物ロイヤルティの引上げ、鉄鉱石等の輸出禁止、探鉱活動の許認可の一時停止、南アフリカでの資源税制、炭素税の議論、DRCコンゴでの鉱山プロジェクトへの高課税、新規鉱山の所有規制(IMFが是正勧告)、新たな付加価値税が銅の消費に影響する。
 その他、中南米、アセアン、ロシア、中央アジアでも、銅の消費に影響する制度改正がある。

(4) 『IMOばら積み船残渣廃水規制』の説明要旨

(国際非鉄金属三研究会 Don Smale事務局長)

 2013年1月から発効するIMOのばら積み船残渣廃水規制は、銅精鉱の船舶輸送に直接影響する。本件は各国の運輸省が中心となって進めており、鉱物資源部局に情報が入っていないかもしれない。2013年1月からは、廃水処理施設が整備された港でなければ荷揚げできないことになるが、現在、世界の大半の港がそのような施設を用意していないので大変心配(greatest concern)している。また今後IMOがどのように毒性の分類をするかも心配である。
 産業界は2013年1月の発行を延期するようIMOに要請したが却下されている。ICSGとしてもIMOに要請したが却下されている。ICSGとして、引き続きメンバー国に注意喚起を促すとともに、IMOに対してさらに要請していくことを考えている。

4. 産業アドバイザリーパネル(IAP:10月18日(木)、ロンドン)

 ICSGの産業アドバイザリーパネル(IAP)は、国際鉛・亜鉛研究会のIAP、国際ニッケル研究会のIAPと異なり、LME Weekにあわせてロンドンで開催されている。今回のIAPもリスボンでの国際非鉄金属三研究会の翌週10月18日(木)、ロンドンにおいて開催され、銅に係る民間企業の代表約20名が参加した。
 ここでは、LME Weekにあわせてロンドンで開催する場合、民間主体の場になってしまい官民の意見交換が活性化しないこと、また対外的にも大々的なLMEイベントの陰に隠れてしまうことから、今後とも同様の開催時期・開催場所が望ましいかどうか、問題意識が提起された。
 また、前週にICSGとしてプレスリリースした銅の需給見通しについて、IWCC発表の需給見通しとの違いが不明瞭で、内容的にも中国の見かけ需要の分析が不十分だったため、発信力不足だったことが指摘された。
 最後にDon Smale事務局長から、IMOばら積み船残渣廃水規制についての注意喚起があった。これを聞いた民間企業の代表の一人は、Don Smale事務局長に対して「そんな規制をされては8割の取引が止まってしまう」と苦言を呈した。

5. おわりに

 今回のICSGは、米金融緩和や景気刺激策による期待感から、銅価格が7,000 US$/t台から8,000 US$/t台に持ち直す中で開催された。
 ICSG統計委員会では、2012年の供給不足は前回予想よりも拡大するものの、2013年は4年ぶりに供給過剰に転ずるとされた。ただその供給過剰分も、前年の供給不足を相殺する程度であり、需給の緩みによる再度の銅価格下落の懸念は聞かれなかった。
 むしろ現在、世界の銅需要の4割を占めるに至っている中国において現実の銅の需給がどうなっているか、あまりに情報に乏しいことが話題となった。上海取引所以外には公表されているデータがなく、二次精錬業者や小規模企業、流通在庫など主要なデータがほとんど把握できていないことが指摘された。それはICSGの公表資料の正当性をも危うくするため、今次ICSGのプレス発表資料には、かかる留意点を明記することとなった。
 ICSG環境経済委員会においては、そのような不透明性がある中にあっても、足元の投資動向としては、“需給が締まっていて実質利息がマイナスの今のうちに良い銅鉱山プロジェクトに投資したい”旨のある投資会社の見方が示された。
 中長期的には、中国における東方から西方への電力網構築のための銅需要の伸び等が期待される一方で、技術革新と価格競争力によりアルミ電線が銅線を代替してしまうという懸念も指摘された。ICSG全体として、中長期的な需給見通しの一定の見解には至らなかったと感じられた。
 他方、上記ビジネスベースの需給要因だけではなく、消費国側であるEU・米国等による環境目的・人道目的の規制強化、資源国側の資源ナショナリズムによる制度改正も、今後の銅市場に影響する要因として紹介された。特に、ICSG環境経済委員会及び産業アドバイザリーパネルの両方の場で、国際非鉄金属三研究会のDon Smale事務局長が、2013年1月発効のIMOばら積み船残渣廃水規制に対する注意喚起を促しており、今後とも注視する必要がある。
 JOGMECロンドン事務所としては、引き続き、銅市場・鉱山投資の動向に注視しつつ、情報収集及び発信に努めてまいりたいと考えている。

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