閉じる

報告書&レポート

2013年1月10日 金属企画調査部 調査課
2013年01号

2012年金属鉱物資源分野の10大ニュース

 JOGMEC金属企画調査部は、2012年の世界の金属鉱業情勢を概観し、金属鉱物資源分野における10大ニュースを次のとおり選定し、それらについてまとめた。

 NO. 1  世界景気後退と停滞する金属価格
 NO. 2  資源ナショナリズムのさらなる拡大
 NO. 3  JOGMEC、金属鉱物資源探鉱で成果相次ぐ
 NO. 4  CODELCOとAnglo American、Anglo Sur社オプション権行使に関して和解
 NO. 5  GlencoreによるXstrata買収
 NO. 6  米国証券取引委員会、紛争鉱物の開示に係る最終規則を制定
 NO. 7  レアアース価格の低迷
 NO. 8  揺れ動くインドネシアの鉱業政策
 NO. 9  南ア鉱山ストライキと白金族金属価格への影響
 NO.10 JOGMEC、新海洋調査船「白嶺」完成、注目の海洋資源探査・開発への貢献に期待

1.世界景気後退と停滞する金属価格

 2012年のベースメタル価格は、中国経済の減速や長期化する欧州債務危機の影響による世界的な景気後退に連動して、2011年の高値圏から一段下げたレンジでの値動きとなった。豪州ファーガソン資源・エネルギー相の「資源ブームは終わった」発言にもみられるように、金属価格は2011年にピークアウトしたとの見方は市場で支配的であり、上値は重く推移した。下期に入ると大型鉱山投資計画の延期が発表されるなど鉱山投資にも価格低迷の影響が表れ出し、また国内でも各商社の資源重視型の収益構造からの脱却が急がれている。
 2012年の大まかな値動きとしては、年初は好調な米中経済への期待感から高値圏で推移するも中国経済の減速を嫌気して年央に下落、その後米欧中の金融緩和により一時反発したものの、米国の「財政の崖」問題が嫌気されて再度値を下げた。年末にかけては米中の景気回復期待から再び上昇基調となった。
 鉱種別では、銅は2月に8,600 US$/t台の年内最高値を付けた後7,200 US$/t台から8,400 US$/t台で推移し、年末にかけて8,000 US$/tを挟む値動きとなった。鉛及び亜鉛についても同様の値動きを見せ、鉛は1,780 US$/tから2,300 US$/tで推移し、亜鉛は1,780 US$/tから2,130 US$/tで推移した。金を始めとする貴金属価格についても、ベースメタルと同様の値動きを見せ年央に下落し、下期は上伸して年末にかけて様子見相場となった。

銅価格の推移(2010年1月~2012年12月)

銅価格の推移(2010年1月~2012年12月)
金価格の推移(2010年1月~2012年12月)

金価格の推移(2010年1月~2012年12月)

2.資源ナショナリズムのさらなる拡大

 2011年に引き続き、資源ナショナリズムのさらなる進展が見られた。2011年に銅、金を初め、レアアース、タングステン価格が史上最高値を記録したことを受けて、資源国政府は、鉱業から得られる利益を増やすために、鉱業に対する課税強化などの政策を実施するようになった。2012年の傾向としては、ロイヤルティまたは鉱業税の導入及び引き上げ、高付加価値化の義務化及び輸出税課税、資源国の所有権保持の強化の3つがあげられる。
 2010年に豪州が鉱業へ超過利潤税の導入を提案したことが世界中の資源国へ波及し、2011年には相次いでロイヤルティや鉱業税が引き上げられた。豪州では最終的に鉱物資源利用税と名称を変更して、対象鉱種や課税率の低減が図られ、2012年7月に施行されたが、2012年もDRCコンゴ、ガーナ、モンゴル、ポーランドなどの国々で課税が強化された。また、南ア、ジンバブエ、インドネシア、ブラジル、ベトナムでは高付加価値化戦略を発表した。国内での高付加価値化を確実にするため、インドネシアのように資源国政府の中には未製練鉱石の輸出に対して高い関税をかけている場合がある。
 さらに資源国政府は鉱物資源の所有権のシェアを拡大しようとしている。南アは既にBEE政策を実施しているが、国営鉱山会社の鉱山プロジェクトへの参加を義務付けることを検討している。インドネシアは操業開始から10年以上が経過した鉱山における外国鉱山会社の権益を49%以下に制限する計画を発表した。モンゴル、中国及びインドでは特定の鉱物資源に関して外国鉱山会社の権益比率に制限を設けているが、2012年5月、モンゴルは外国企業が鉱山へ49%以上投資する場合、投資総額の多少と関係なく政府の承認を義務づけた。
 鉱山プロジェクトにおける権益を拡大している資源国政府は、鉱山会社にとってのリスクを増加させるとともに鉱山会社の利益を減少させており、価格が下落するにつれて将来の直接外国投資に悪影響を及ぼす可能性がある。

3.JOGMEC、金属鉱物資源探鉱で成果相次ぐ

(1) 大規模銅鉱床の権益譲渡
 JOGMECは、カナダのNGEx Resources Inc.と共同でチリ共和国とアルゼンチン共和国にまたがるフロンテラ地域における銅・金の探査の結果、有望な鉱床を発見した。これを受けて、本件に係るJOGMECの権益(40%)譲渡に関する入札を実施し、落札者であるパンパシフィック・カッパー株式会社(PPC:JX日鉱日石金属株式会社及び三井金属鉱業株式会社の共同出資による銅事業会社)に2012年9月7日に権益を譲渡した。
 今後は、PPCにより鉱山開発に向けた鉱床規模の把握や経済性評価が進むことが期待される。なお、JOGMECから民間企業への探鉱権益譲渡は本件で11件目となる。
 また、本件の調査成果に対して、資源地質学会技術賞が授与された。

(2) 白金族金属鉱床の発見と最優秀探鉱賞受賞
 JOGMECは、カナダのPlatinum Group Metals Ltdと共同で南アフリカ共和国ブッシュフェルド地域北部のWaterberg地域において白金族金属の探査を実施し、新たに高品位の白金族金属鉱床を発見した。予測鉱物資源量として、プラチナ約64 t、パラジウム約116 t、金約25 tと計約205 tの含有金属量を確認しており、更なる資源量の拡大を目指して探鉱を継続中である。
 また、本探鉱事業、白金族金属鉱床新発見の成果は、英国の鉱業専門雑誌Mining Journal誌の読者及び鉱山会社等400社以上の企業により選出されるMining Journal Outstanding Achievement Awards 2012において最優秀探鉱賞(Exploration of the Year Award)を受賞した。

4.CODELCOとAnglo American、Anglo Sur社オプション権行使に関して和解

 CODELCOによるAnglo American Sur(AAS)社に対するオプション権行使問題に関し、CODELCOとAnglo Americanは、2012年5月下旬から裁判手続きを中断し和解交渉を続けていたが、交渉期限の前日である8月23日に和解に合意した。
 CODELCOは、AAS社の株式24.5%を18億US$で取得することで合意が成立し、三菱商事は、Anglo Americanから取得した24.5%株式の一部である4.1%をAnglo Americanに8.95億US$で譲渡し、これにAnglo Americanが保有する0.9%を加えた5%を、CODELCOと三井物産がAAS社株式を共同保有のために設立した合弁会社Acrux社に28億US$で譲渡することとなった。更に、三井物産はAcrux社に11億US$を出資することで、AAS社株式5%を取得する。この結果、合意されたAAS社株式シェアは、Anglo American50.1%、三菱商事20.4%、CODELCO24.5%、三井物産5%となった。
 今回の和解交渉を通じて、三井物産は、CODELCOと包括的戦略提携に合意し、今後、新規ビジネスの構築を目指すとしている。一方、三菱商事は、AAS社の持ち分が4.1%に減少したものの、20%の出資比率を維持するとともに、Anglo Americanとのパートナーシップを強化し、新たな協業の可能性を追求するとコメントした。

5.GlencoreによるXstrata買収

 スイスの商品取引大手Glencore による鉱山大手Xstrataの買収に関して、2012年2月に両社は対等合併で合意したと発表した。しかしながら、Xstrataの第2位株主であるカタール・ホールディングスが買収条件の見直しを要求したことで買収計画は一時停止状態となった。その後、9月に、GlencoreがXstrata1株に対してGlencoreの新株3.05株を割り当てるとの条件引き上げを提示し、Xstrata側がこの提案の支持を表明した。これを受けて、当該買収案は11月20日に双方の株主総会で承認された。また、11月22日には、欧州委員会も、Glencoreがベルギーの亜鉛製錬世界最大手Nyrstar社との排他的引き取り権を打ち切り、所有する株式の7.8%を売却することを条件に買収案を承認したことから、GlencoreによるXstrata買収が完了する見込みとなった。今後、中国と南アの独占禁止当局からの承認取得を残しているため、完了時期は2013年1月末になる見込みである。

6.米国証券取引委員会、紛争鉱物の開示に係る最終規則を制定

 米国証券取引委員会(SEC)は、2012年8月22日、金融規制改革法(2010年7月成立)第1502条に基づき「紛争鉱物の開示」に係る最終規則を正式採択した。当初予定では2011年4月15日に採択となる予定であったが、各ステークホルダー等からの様々な意見の調整に時間を要した。
 紛争鉱物(対象はコルタン、錫石、金、鉄マンガン重石及びこれらの派生物)はコンゴ民主共和国(DRCコンゴ)及びその周辺紛争国の武装グループの資金源となっており、紛争鉱物へのアクセスに対するトレーサビリティーを確立し、紛争を抑止することを目的として商業取引に法規制が求められていた。今般開示された当該規則は3つのステップに分けられる。

① 紛争鉱物に係る開示義務の有無の確認(米国に上場し且つ製造する製品の機能やその製造に紛争鉱物が必要な企業であるか否か)

② 「合理的な原産国調査(RCOI:Reasonable Country of Origin Inquiry)」で対象国産且つリサイクル品ではないかを判断

③ 該当すると判断された場合、デューデリジェンス調査の実施

 1月~12月の暦年ベースを対象期間とし、翌年5月31日迄に特別開示レポート(Specialized Disclosure Report)の提出及び自社ウェブサイト上での開示を求める。
 既に関係者間でスタンダードになりつつある調達元調査票を2011年に作成した米業界団体EICC及びGeSIは、この他CFS(Conflict Free Smelter)プログラムを実施し、コンフリクトフリーな製精錬業者の認証を行っている。日本のメーカー各社・業界団体、監査法人も2011年から制度の構築に取り組み、具体的な対応を急いでいる。
 規則が採択されたとはいえRCOIやデューデリジェンス調査、そしてその監査方法にも特段の規定はなく、実際にレポート提出となった際に各社がどの程度まで報告でき、SECがどのような判断をするのかは不透明である。2013年以降の各社の実施方法、そして2014年5月の初開示結果によっては今後も対応に追われる可能性がある。

7.レアアース価格の低迷

 2012年1月3日、米国MolycorpがMt.Passレアアース鉱山生産物の78%の販売先を確保したとのニュースにより始まったレアアース動向は、需要減少による中国価格の低迷が続いて2012年を終えた。
 この間、マレーシアで豪Lynas社のレアアース・プラントが仮ライセンスを取得したり、カザフスタンのKazatomprom、が2012年Q3にレアアース精鉱を生産開始予定と発表するなど、中国以外での稼働予定が広がり、これに対して中国では、2月に中国五鉱集団(Minmetals)が傘下の五鉱希土(贛州)株式有限公司の株式シェア増強や、4月の広東省でのレアアース産業集団の設立、6月の湖南省レアアース産業の統合など、各地で産業再編の動きが2011年から継続して行われた。また、レアアース専用伝票制度が6月1日から全省・自治区で実施されるなど、産業管理が強化されたが、価格の低下傾向は続いた。日本の需要量も景気低迷や需要家のレアアース離れなどから減少している。
 中国では、価格上昇と生産者稼働率の向上を目指して、国家物資備蓄局と包鋼希土との間で2012年9月実施の「レアアース買上げ備蓄」が合意に達し、軽希土1.8万tの備蓄が開始された。さらに、10月には、包鋼稀土、五鉱集団の大手2社が製錬分離生産を停止した後、江蘇省も省内全体のレアアース生産を停止することを発表した。中国アルミ業集団も江蘇省の製錬分離企業4社の生産の停止を発表。これによりいったんは価格回復傾向がみられたものの、大勢としては低迷が続いて2012年を終えた。

レアアース酸化物の中国価格指数推移

レアアース酸化物の中国価格指数推移

8.揺れ動くインドネシアの鉱業政策

 2012年は、インドネシアで鉱山業を営む企業・関係者にとり目まぐるしい1年であった。
 2月にエネルギー・鉱物資源大臣令第7号(高付加価値化義務に関するもの)が公布されたことに始まり、同号21条における外資の国内資本への権益移譲比率の大幅引き上げ(20%→51%)、5月からの輸出規制を巡る混乱や輸出関税の導入など、特に前半は情報が交錯した。
 同国は2009年の新鉱業法で「国家利益の最大化、国民福祉向上」を掲げ、鉱業権の一本化、インドネシア民間企業への一部資本移譲義務、生産物への高付加価値化の実施義務などを規定しており、詳細については関連政省令を制定している。このうち、特に高付加価値化義務に伴う2014年1月以降の鉱石禁輸措置については、我が国企業に少なからず影響を及ぼすものであり、経済産業省はじめ日本鉱業協会や非鉄・商社各社など官民連携して同国政府に懸念を伝えている。
 一方、同国ニッケル協会及び地方自治政府協会Apkashiは、5月の鉱石輸出規制を地方自治法及び新鉱業法違反として最高裁に訴え、9月にはこれを認める判決が出た。ただし、この訴えは2014年からの鉱石禁輸は対象にはならないとの情報もあり、引き続き対応を検討していく必要がある。この高付加価値化義務の施行まで1年を切り、企業から提出された製錬所建設計画は150件前後とのことであるが、2014年までに何件が操業を開始できるかは不透明である。
 このように、2012年は新鉱業法下で、国内資本化義務51%への引き上げ、国内高付加価値化義務及びそれに関連した鉱石輸出規制など、資源ナショナリズムの傾向がさらに顕著になった。鉱業セクターと下流産業の統合はMP3EI(インドネシア経済開発加速化及び拡大マスタープラン)においても重要視されており、ユドヨノ政権の目玉政策の一部とも言える。与党・民主党幹部の汚職問題などで求心力低下が指摘される同政権の任期は2014年までとなっており、本件は政権の動向にも大きく左右されると考えられる。
 2014年からの鉱石禁輸実施前の最後の1年である2013年も、引き続き業界の注目を集めることになるであろう。

9.南ア鉱山ストライキと白金族金属価格への影響

 2012年1月20日、南ア北部に位置するImpala Platinum社のRustenburg白金族鉱山で、坑内作業員による違法ストライキが発生し、採掘コンビナートがその後6週間閉鎖され、死者4名を出す事態に発展した。そのほか、Modikwa白金鉱山(African Rainbow社 50%、Anglo American 50%)でも、3月15日から約3週間に及ぶ労働争議が発生した。これらの影響を受けて、プラチナの価格は年初の1,400 US$/ozから、3月には1,730 US$/ozまで上昇した。
 一方、5月にJohnson Matthey社が2012年の見通しについて、供給過多となるとの見解を示したことなどから、3月以降下落したプラチナ価格は更に軟化し、7月22日には、1,400 US$/ozを割り込んだ。
 しかし、南アにおける鉱山ストライキは引き続き過熱し、8月にはLonmin社のMarikawa鉱山で暴動が発生、これを受けて価格は再び上昇に転じた。Anglo Platinumでも長期ストライキの影響で生産に大きな障害が出た。
 11月13日にJohnson Matthey社は、2012年の中間報告において、プラチナ、パラジウム、ロジウムについて全て供給不安があると報告した。この発表を受けて、一時1,550 US$/ozまで下がったプラチナ価格は1,600 US$/ozまで上昇した。
 一方、パラジウムの価格については、南アの供給量がロシアと比較して少ないことなどから小幅な値動きとなった。また、ロジウムの価格についても、需要が年々低下している状況下であまり動きはなかった。

2012年のプラチナ、パラジウムの価格推移

2012年のプラチナ、パラジウムの価格推移

10.JOGMEC、新海洋調査船「白嶺」完成、注目の海洋資源探査・開発への貢献に期待

 JOGMECは、海洋資源の探査・開発を促進するため、これまで運航してきた調査船「第2白嶺丸」に代わる新たな海洋資源調査船「白嶺」の建造を2010年1月より進め、2012年1月31日完成し三菱重工業株式会社下関造船所において引き渡された。「白嶺」は、総トン数6,283トン、全長118.3 m、幅19.0 mの調査船で、各種の調査機器を搭載している。
 「白嶺」は2012年2月より就航し、海洋資源調査を開始した。今後、レアメタル、エネルギー資源の新しいフロンテアとして注目される海洋資源に対する調査・開発の加速化に寄与することが期待される。
 また、3月24日~25日に、三次元物理探査船「資源」と共に、東京湾で一般公開が行われ、多くの人々に開示・紹介された。

新海洋調査船「白嶺」

新海洋調査船「白嶺」
ページトップへ