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報告書&レポート

2013年1月17日 金属環境事業部 調査技術課 池田 真奈美,古谷 尚稔,迫田 昌敏
2013年03号

鉱業の環境保全に関する国際シンポジウムIMWA2012参加報告

 2012年10月1~4日、豪州バンバリーにおいて開催された、鉱業の環境保全に関する国際学会IMWA(International Mine Water Association)2012に参加し、JOGMEC金属環境事業部で実施している鉱害防止技術開発事業の成果を発表した(写真1)。また、本シンポジウムでは、豪州を中心として、欧州、アフリカ、アジアなど鉱業開発が盛んに進んでいる世界各国から、鉱山環境保全への取り組み(技術開発、調査研究、制度フレームワーク)について多くの発表があり、海外鉱山における坑廃水処理技術について情報収集を行ったのでその概要を報告する。

写真 1 JOGMECの発表

写真 1 JOGMECの発表
写真 2 ポスターセッション

写真 2 ポスターセッション

1. IMWA2012の概要

 IMWAは、“First International Mine Drainage Symposium”において鉱山関連施設からの廃水問題増加が問題視され、その対策として1979年にスペインで設立された国際機関である。1982年にハンガリーにおいて第1回目の会合が行われて以降、概ね3年に1度総会が、その間の年にはシンポジウムが開催されており、坑廃水処理に関する研究発表及び情報交換の場となっている。第17回目のシンポジウムにあたる今回は、西豪州パースから約200 km南に位置するバンバリーで開催された。JOGMECからは2009年の南アフリカ以降、2010年カナダ、2011年ドイツに続き、4度目の参加、発表となった。本シンポジウムには、豪州を中心とした世界21か国から、鉱山会社、コンサルタント企業、政府関係の研究機関、大学関係者約230名が参加した。日本からの参加は、秋田大学及びJOGMECの2機関であった。今回のシンポジウムは、Protecting water values(石炭鉱山での水管理、ウラン鉱山の坑廃水、酸性坑廃水の処理等)、Conserving mine water resources(坑廃水の地球化学、坑廃水と気候変動等)、Maximising use of waters produced by mining(坑内排水、坑廃水の処理等)をテーマとしており、118件の講演及び18件のポスター発表が行われた(ポスターセッションの様子は写真2)。

2. JOGMECの講演概要

 JOGMECは、パッシブトリートメントの技術開発に関する室内基礎試験について発表した。パッシブトリートメントとは、電力(動力)や薬品、人による管理を極力必要としない、植物やバクテリアなどの浄化作用を利用した自然調和型の坑廃水処理法の総称であり、1980年代から現在に至るまで主に欧米で石炭鉱山を対象に研究開発が進められてきたが、金属鉱山への適用事例は諸外国でも少ない。日本の休廃止金属鉱山への実導入事例はまだなく、同技術適用による処理コスト削減の可能性を検討するため、平成19年度より嫌気性バクテリア(主に硫酸還元菌)の活動を利用した坑廃水処理技術に着目し、研究開発を行っている。

 本技術は硫酸還元菌の活動で発生する硫化水素により、坑廃水中に溶け込んでいる有害金属成分を硫化殿物として析出させ、坑廃水から同成分を取り除くものである(図1)。現行では、消石灰や水酸化ナトリウムなどの薬剤を添加し、水酸化物殿物として溶存金属を析出させているが、硫化殿物とした方がより溶けにくく、殿物の嵩も小さくなる。また、本技術では殿物を生成させる素となる硫化水素が菌によって自然に発生するため、薬剤添加のための装置や動力が不要というメリットがある。硫酸還元菌は硫酸成分(呼吸源)と乳酸・酢酸・蟻酸など低分子有機酸(栄養源)を消費して活動する。前者は坑廃水中に含まれているため別途添加する必要はないが、後者については添加する必要があり、極力費用の掛からない入手しやすい有機栄養源を選定する必要があった。そこで本研究では地産地消で調達できるモミガラやバーク堆肥に着目し、発酵させたこれら有機物を菌源および菌の栄養源として充填したバイオリアクター(容量約4 L)を作製した。本講演ではこのリアクターに滞留時間50時間となるように酸性坑廃水(pH3~4、亜鉛濃度:最大10 mg/L、鉛濃度:最大1 mg/L、銅濃度:最大6 mg/L)を連続的に滴下した時、同水中に含まれる金属成分がどの程度除去されて排出されるか調べた結果について紹介した。

図1 硫酸還元菌の活動を利用した坑廃水処理技術の概要

図1 硫酸還元菌の活動を利用した坑廃水処理技術の概要
図2試験結果の一部(処理後水に含まれる銅、鉛、硫酸イオン、硫化水素の濃度変化)

* 坑廃水は1か月~3か月に一度鉱山から採水した。採水した時期が各々異なるため水質がたびたび変動している。

図2試験結果の一部(処理後水に含まれる銅、鉛、硫酸イオン、硫化水素の濃度変化)

 実験の結果(図2参照)、試験に用いた酸性坑廃水は50時間リアクター内で滞留させると排水基準を十分満たすレベルまで浄化されることがわかった(その効果は1年間以上継続)。また処理後水の硫酸成分濃度が坑廃水の濃度より低下しており、硫化水素も処理後水から検出されていることから、硫酸還元菌がリアクターの中で図1に示すように活動していることがわかり、坑廃水に含まれる溶存金属は金属硫化物としてリアクターに固定されていることが推察された。参加者からは「パイロット試験は実施していないのか」という質問を多数受けたが、スケールアップ試験については来年度現地で実施する予定である。また、モミガラをバクテリアの栄養源として使用したバイオリアクターは例を見ないことから、その点に関心が寄せられた。

3. その他の講演概要

① MWHGlobal社(豪州)のDr. Johann Poinapenからは、「Biological sulfate reduction of acid mine drainage using primary sewage sludge」と題して、下水汚泥を硫酸還元菌の菌源および栄養源として充填したバイオリアクターによる坑廃水処理試験(室内試験)の結果が紹介された。処理対象となる坑廃水としては硫酸イオンを多量(1,500 mg/L)に含むものを用いており、図3に示すリアクター(円筒形)に13.5時間滞留させると、下水汚泥中の硫酸還元菌が坑廃水中の硫酸成分を消費して、処理後水の同イオン濃度が112 mg/Lまで低減した。なお、この処理プロセスについては南アフリカGrootvlei gold mineにおいて、処理量10 ML/day(=約7 m3/min)の規模で実導入されているとのことである(写真3参照)。

図3 下水汚泥を用いたバイオリアクターによる硫酸坑廃水処理試験の概要

図3 下水汚泥を用いたバイオリアクターによる硫酸坑廃水処理試験の概要
写真 3 Grootvlei gold mine における下水汚泥を利用したバイオリアクター

写真 3 Grootvlei gold mine における下水汚泥を利用したバイオリアクター

② University of Adelaide, School of Chemical EngineeringのSanaz Orandi氏からは、「A novel approach to exploit indigenous mining algal-microbes in a photo- rotating biological contactor for heavy metal removal from acid mine drainage」と題して、耐酸性の藻類(Green micro-algae)を利用した坑廃水処理技術に関する研究について発表があった。本講演では藻類等を表面に繁殖させた回転盤に坑廃水を接触させることで溶存金属を吸着除去する技術に関する基礎試験結果が紹介された。実験にはイランのSarcheshmeh copper mineから流出する坑廃水と同等の水質の模擬水が処理対象水として使用されており、pHは3.5と酸性で主に銅、亜鉛、マンガン成分が20~80 mg/L含まれる(なお藻類の栄養源となる窒素やリンも微量含まれる)。この模擬水を、藻類が繁殖した回転盤を有する反応装置(図4参照)で連続処理し、週に1度の頻度で10週にわたり処理後水の金属濃度を分析した結果、処理後水の銅、マンガン、亜鉛濃度は、導入した模擬水の濃度と比較して、それぞれ平均約40、30、25%低くなる結果が得られた(図5参照)。現状マンガンや亜鉛を処理する場合は、石灰を添加してpHを9~10まで上昇させ、水酸化物として沈殿除去するが、本技術によればpHを調整することなく酸性のまま、藻類への接触のみで重金属が除去でき、この点が最大のメリットと考える。ただし、環境温度と藻類の生育度合いの関係や、金属吸着しきれなくなった場合の対応、金属を吸収した藻類の処理(金属回収や最終処分)など課題は様々あり、さらなる検討が必要とのことであった。

図4 藻類の金属吸着作用を利用した坑廃水処理技術に関する基礎試験の概要

図4 藻類の金属吸着作用を利用した坑廃水処理技術に関する基礎試験の概要
図5 藻類の吸着作用による坑廃水中の銅、マンガン、亜鉛濃度の低下率

図5 藻類の吸着作用による坑廃水中の銅、マンガン、亜鉛濃度の低下率

4. Mid Conference Excursions

 シンポジウムの一環として開催されたエクスカーションに参加し、コリー石炭鉱山地帯(図6参照。バンバリー東部)にて、石炭鉱山地域における水の管理状況を見学した。

図6 コリー位置図(灰色の部分が石炭鉱山地帯)

図6 コリー位置図(灰色の部分が石炭鉱山地帯)

 コリーはパースの南南東160 kmに位置している。石炭産業の規模は西オーストラリア最大であり、現在も生産が続けられている。炭田の大きさは225 km2、炭層の厚さはおよそ1.5~5 mであり、資源量約13億t、可採埋蔵量は4.8億tと推定されている。採掘、生産が続けられている一方で、廃坑になった露天掘り後には地下水や地表水が徐々に溜まり、ピットレイクが形成される。コリー石炭鉱山地帯には、写真4に示すようなピットレイクが10以上存在している。湖水のpHは4.0~4.5で若干酸性であるが、高濃度の重金属は含まれていない為、継続的な処理は行われておらず、定期的なモニタリングのみが行われている。これらのピットレイクは環境保全局(Western Australian Department of Environmental and Conservation:DEC)によって管理されている。あるピットレイクではCurtin University of Technology協力のもとアクアファームを設置し、石灰で中和した湖水を利用してエビの養殖を試みている(写真5参照)。

写真 4 Lake Kepwari (ピットレイク)

写真 4 Lake Kepwari (ピットレイク)
写真 5 アクアファーム

写真 5 アクアファーム


おわりに

 今回のシンポジウムでは、JOGMECから硫酸還元菌を利用した坑廃水処理技術について発表したが、南アフリカにおける同様の研究事例もいくつか紹介された。そこで印象的であったのは、重金属除去より硫酸イオンの除去に焦点があてられていた点であった。同国では、硫酸イオンが数千mg/Lレベルで含まれている排水を浄化して生活用水に利用するケースがあることから、硫酸成分の除去に関しての問題意識が高い。現状では逆浸透膜(RO膜)による処理プロセスが導入されているケースもあるが、処理コストの観点から、より安価な硫酸還元菌による処理法についても注目が集まっていると思料する。なお、同処理法で発生する硫化水素ガスを固体の硫黄として資源回収するプロセスについても、University of Cape Townなどで研究が進められているとのことであった。その他、微生物の金属吸着作用を利用した研究についてもいくつか紹介されていた。まだ室内試験レベルではあるが、いずれも実用化を見据えて研究を進めていく予定とのことで、今後のさらなる展開が期待される。ただしこのような自然の浄化機能を利用したパッシブトリートメントに関する発表は比較的少なく、確実な管理の下、薬剤や動力、逆浸透膜などの浄化装置を使用した処理プロセスに関する発表が多く見られた。オーストラリアをはじめ諸外国の鉱山地域では利水域と密接している場合が多く、鉱山廃水を確実に生活レベルまで処理する必要がある、また、このような地域では生産活動があるため処理に多少コストがかけられるという点が、このような傾向の背景として考えられる。エクスカーションではコリー石炭鉱山地域のピットレイクを訪れ、その管理状況について見学したが、貯水されている水については積極的な有効利用が検討されていた。西オーストラリアでは比較的降雨が少ないため、pH4程度の酸性の湖水も貴重な水源として考えられている。

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