報告書&レポート
『Mines and Money London 2012』-カンファレンス参加報告-
2012年12月2~6日の5日間、今回で第10回目の節目となるMining Journal誌主催『Mines and Money London 2012』がロンドンで開催された。Mining Journal誌の発表によれば、出席者は3,000名を超え、展示ブースでは過去最多の220社が出展した。ロンドンは、国際的な鉱山会社や探鉱ジュニアの多くが本社を構えており、また世界的な金融の中心地であることから、Mines and Money Londonでは鉱業分野への投資や探鉱企業の資金調達が会議の主要テーマとなっていることが特徴的である。まず12月2日に『Canada Day』、3日に『Australia Day』と題されたセミナーが開催され、続いて12月4~5日にはメインのカンファレンスと展示が行われた。最終日の12月6日には鉱業におけるデューデリジェンス等に関するセミナーが行われた。なお、12月5日には、JOGMECが参画する南アウォーターバーグ白金族プロジェクトが最優秀探鉱賞(Exploration of the Year Awards)を受賞し表彰された。 本報告では、12月4~5日に開催されたメインカンファレンスでの主な講演の内容を紹介する。 写真 Mines and Money London 2012の展示会場 |
1. 基調講演セッション
1-1.「大規模な発見を世界有数の鉱山に発展させる:成功のための重要な要素」
(Ivanplats社、Robert Friedland氏)
Ivanplats社は1994年からアフリカで探鉱活動を行っている。Ivanplats社の主なプロジェクトは以下のとおり:
・ Platreefプロジェクト
南アのブッシュフェルド地域に位置する白金族金属・ニッケル・銅プロジェクトで、Ivanplats社が権益の90%を有しており、残りの10%は伊藤忠商事、JOGMEC、日揮株式会社からなるコンソーシアムが有している。長期的で倫理的なサプライヤーでもある日本の戦略的パートナーと友好的な関係が築けている。Platreefは、白金族金属の鉱床としては世界最大規模の発見であると認識しており、また鉱床が水平方向に広がっているという利点もある。また同鉱山での操業は完全に機械化し、死亡事故のない100%安全な操業を行い「ノン・ブラッド・プラチナ(non-blood platinum)」の生産を目指す。
・ Kamoaプロジェクト
DRCコンゴのルブンバシの約270 km西方に位置するプロジェクトで、Ivanplats社が95%の権益を有している。世界有数の高品位かつ巨大な銅鉱床である。既に同国の国営電力会社と電力供給に関する契約を締結している。
・ Kipushiプロジェクト
DRCコンゴのKamoaプロジェクトの南東に位置する亜鉛・銅鉱山の再開発プロジェクトで、Ivanplats社が2011年11月に権益の68%を獲得した。同プロジェクトは1924~1993年の間に亜鉛の平均品位が11%、銅の平均品位が7%の鉱石を約6,000万t生産したとされる。旧採掘場の排水除去作業が行われており、亜鉛鉱床の資源量の確定及び拡大のための試掘作業が予定されている。
以上のとおり、Ivanplats社では過去19年間、アフリカを中心とした探鉱活動を実施しており、大規模鉱床の発見という成果をあげてきた。Ivanplats社の今後としては、約6か月以内にロンドンの株式市場での上場を目指している。
1-2.「ファイナンスにおける革新:ストリーミングという融資形態」
(Sandstorm Gold社、Nolan Watson氏)
Sandstorm Gold社では、鉱山会社に対して、ストリーミング(Streaming)という形態での融資を行っている。金のストリーミングとは、鉱山の将来的な金生産量に関して、生産の何パーセントかを固定価格で購入することを条件に、鉱山会社に対して前払いで金額を支払うことである。資金が必要な鉱山会社にとってストリーミングは、デット・ファイナンス(借入れによる資金調達)よりも低リスクであり、またエクイティ・ファイナンス(新株発行による資金調達)による株式の希薄化を避けられる、といった利点がある。鉱山を計画通りに建設し、生産目標をすぐに達成することは大変困難であるため、鉱業においてデット・ファイナンスは利益や株価の面でリスクの高い選択肢である。しかしながら、デット・ファイナンスもエクイティ・ファイナンスも鉱業に必要な融資形態であり、Sandstorm Gold社ではストリーミングを核としつつ他の融資形態とも組み合わせ、各鉱山会社にとって最適な資金調達の方法を提供することを目指している。
1-3.「鉱業におけるM&Aと資金調達の動向」
(Ernst and Young社、Lee Downham氏)
2012年の鉱業における資金調達額は、2009年の世界金融危機以降初めて減少となった。特に新株発行による資金調達は、メジャー企業以外にとっては大変困難な状況であり、2013年以降もこの傾向が続く可能性がある。借入れによる資金調達も同様で、低リスクで高品位のプロジェクトにのみ利用可能である。一方、銀行からの融資に変わって、社債発行による資金調達が増加しており、2013年にはその調達額がピークに達すると思われる。
2009年の世界金融危機以降、鉱業における資金調達では、国営企業、政府系ファンド、プライベート・エクイティ・ファンドといった新しいタイプの投資家の関与が多く見られるようになった。2012年9月までの9か月間におけるM&A総額の21%は国営企業と金融機関による投資であり、戦略的な鉱物資源の確保や投資による利益獲得が主な目的である。金融関係の投資家が10~15%といった少数の株式を有することが多いのに対して、国営企業はより多数の株式を獲得する傾向がある。
概して、鉱業における資金調達の状況は以前とは変わっており、資金調達で成功するためには、株式発行や銀行からの借入れといった従来の方法と新しい方法の両方を考慮する必要がある。
2. 鉱業とファイナンス
2-1.「鉱業ファイナンスの現状:鉱山開発者のためのデット・ファイナンス」
(Standard Bank、Vaughan Wickins氏)
スキャンダル問題の浮上により金融機関への監視が強まり、規制が強化された。金融機関が融資を行うことが以前に比べて困難になり、資金の流動性は低下した。結果として、鉱山会社は資金調達においてよりクリエイティブな方法を用いるようになり、資金調達の方法も進化している。ジュニア企業では、デット・ファイナンスを獲得することが困難な状況にあるが、一方で転換社債(Convertible Bond)による資金調達が増加傾向にある。このような状況下でも借入れによる資金調達を望む鉱山会社は、1)アドバイザーの雇用、2)管理できるリスクの軽減に専念、3)戦略的かつ慎重に最良の金融業者・銀行を選択、といった対策を講じることによってデット・ファイナンスを獲得するチャンスを増やすことができる。
2-2.「IPO:世界の株式市場における資金調達の機会を特定する」
(PwC、Jason Burkitt氏)
主要な株式市場における株価推移が不安定なため、過去2年間での新規公開株(IPO)成功例は減少している。投資家は、価格パフォーマンスの良いコモディティであり、かつ比較的政情が安定している国にあるプロジェクトを好む。そのため、鉱業税の引き上げや資源ナショナリズムに関して不確実性のある国でプロジェクトを行っている場合には、IPOの実施に影響を与える。株式市場別に見てみると、オーストラリア証券取引所(ASX)及びトロント証券取引所(TSX)はジュニア企業に多く活用されており、一方でロンドン証券取引所(LSE)及び香港証券取引所(HKEx)はメジャー企業を歓迎している。どの取引所でIPOを行うべきかを決めるのは容易ではないが、コモディティと取引所の適合性、サポート内容、規制とIPOの手続き、そして地理的な近接性等を考慮するべきである。
概して、資金調達のために投資家の関心を得るためには、明確な戦略を持ち、外部報告書や事業形態において高い透明性を示し、優れた企業統治を行う等によって投資価値を最大化することが重要であると言える。
3. 主要コモディティの動向
3-1.「ベースメタル:何がコモディティ価格を動かしているか?」
(CRU Strategies社、Philip Newman氏)
コモディティの需要は経済成長と産業化の動向に左右される。また各国の政策が以前にも増してコモディティ需要に影響を与えており、特にユーロ圏、米国、中国における政策の動向が注目されている。また、コモディティの大消費国である中国の影響力は他国とは比較にならないレベルであり、中国に比べるとインドは「大海原の一滴の水」のようである。中国経済の成長率が減速したというニュースに惑わされるべきではなく、世界第2位の経済大国の7~8%成長は、実際の金属消費量の数値で考えると巨大であり、コモディティ需要における影響力は依然として大きい。
今後の見通しとしては、経済的な不確実性が近い将来に解消される可能性は低く、今までと同じように鉱業はリスクを伴う面白味のある産業であると言える。
3-2.「グラファイト:市場の過剰な過熱か、それとも本当の投資機会か」
(House Mountain Partners社、Chris Berry氏)
グラファイト(黒鉛)は18~24か月前であれば話題に上がることはなかったが、昨今、投資家がグラファイトを投資機会であるとして注目するようになった。 2012年1月時点では、株式を公開しているジュニア企業のうち9社のみがグラファイトの探鉱活動に関与していたが、現時点ではその数は70社に増え、加えて株式非公開の12社も探鉱活動をしている。世界の天然黒鉛の生産量は約110万t/年で、その約8割を中国が生産、その他はインド、ブラジル、北朝鮮、カナダ、スリランカ、メキシコ等の国々が生産しているが、需要の高まりに生産量の増加が追い付いていない状況である。ユーロ圏における景気後退、米国の財政問題、BRICs諸国の経済成長減速化等、グラファイトを含む工業用金属にとって短期的にはマイナス要素が存在しているものの、新興諸国における人口増加、平均寿命の延び、そして生活の質の向上といった要素を考慮すると、工業用金属の長期的な見通しは明るいと考えられる。
3-3.「銅市場の分析と投資環境」
(Beijing Antaike Information Development社、Li Yusheng氏)
銅価格に影響を与える要素には、米ドル指数、在庫、ファンダメンタルズ、そして予測不可能な出来事がある。中国は2002年に世界第一位の銅消費国となり、2002~2011年の銅地金消費量の年平均成長率は11.8%、銅地金生産量は同13.7%であった。一方で、2012年1~9月における銅地金消費量は前年同期比4.6%増となり、消費量の増加が減速したものの、世界最大の銅消費国であることには変わりはなく、世界銅市場における主要な影響力であると言える。2013年の見通しとしては、製錬能力の増強により中国の銅地金生産量は対前年比8.9%増となると予想される。銅地金消費量に関しては、中国政府の経済刺激政策により2012年のレベルからは回復し、対前年比5.5%増となる見通しである。2013年には世界経済がやや回復に向かい、銅価格は平均約7,900 US$/t近くで推移すると予想される。
4. 鉱業における機会とリスク
4-1.「鉱業における次世代の機会」
(SNL Metals Economics Group社、Michael Chender氏)
鉱業を取り巻く環境としては、中国経済の成長が減速化していることや企業の焦点が企業成長から利益性へと移っていることが新しい特徴である。また、経済問題、運営・資本コストの上昇、金融市場の逼迫、資源ナショナリズムの広がり、人材不足、新しい鉱床の発見率及び品位の低下等、鉱業においては厳しい状況が続いている。2011年及び2012年における国別の試掘調査及び新規プロジェクト予算を見てみると、試掘調査に関しては、コロンビア、ブラジル、DRCコンゴ、ザンビア、タンザニア、パプアニューギニア、豪州のニュー・サウス・ウェールズ州及びサウス・オーストラリア州で増加しており、新規プロジェクト予算に関してはメキシコ、チリ、アフリカ北西部諸国、ナミビア、ロシア、インド、カザフスタンで増加している。今後、見込みのある地域としては、リスクの高い地域、深部鉱床、北極及びグリーンランド等の極北地域等が挙げられるが、それらの地域における活動には課題が付随する。鉱業における機会を見出していくためには、有利な探鉱活動や投資の引きあげ(Divestment)を行うほか、新しい現実には新しい体制で臨機応変に対応していくことが重要である。
4-2.「鉱業投資における政治的リスク-法的観点」
(Fasken Martineau社、Christopher Gooding氏)
コモディティ価格があがると、資源国政府は鉱業から得られる恩恵を増やすために政府関与を強める。そして政府関与が強くなれば鉱山会社からの投資が減り、それに対応するため資源国政府は投資誘致のための奨励策を行う、といったようなサイクルが継続している。鉱業において政治的リスクがあることは確実であり、それをどのように管理していくかが重要である。リスク管理の例としては、資源国政府との契約締結、適切なJVパートナーの獲得、防衛策としてのCSR活動、リスク分析、政治リスク保険の付保等が挙げられる。
リスクとは機会でもあるので、リスクを特定し、適切に管理することは利益につながる。問題が発生してから解決策を講じるよりも、事前に予防策を取っておくことが大切である。
4-3.「鉱業における不正・腐敗のリスクの管理」
(PKF社、Jim Gee氏)
以前は、不正・腐敗が発生してから対応するというアプローチが取られることが多かったが、今では事前に包括的な対策を取るというアプローチに変わってきている。重要なことは、不正・腐敗をビジネスコストとして認識し、実際にそのコストを計算し、削減することである。英国政府では毎年不正指数(Annual Fraud Indicator)を発表しており、2012年度版によると、不正による損失は計730億£であり、その特徴として、不正のほとんどが察知されておらず、また損失の大部分は、少額だが発生回数の多いタイプの不正によるものであった。またPKF社の調査によると、不正による損失は経済不況の後に増加するという傾向が確認された。鉱業に関しては、困難な職場環境、有能な現地スタッフの不足、地域の政治的緊張、物理的なセキュリティーや盗難に関する問題など、不正・腐敗が発生しやすい環境にある。しかし、不正をビジネスコストとして認識・管理することによって、不正による損失を短期間で大幅に削減し、企業の利益につなげることは可能である。加えて、自分の企業が不正に対してどれほどの耐性があるかを評価することは重要な防御手段である。PKF社では同社のホームページ上で無料の「不正耐性評価ツール」を提供している。
4-4.「アフリカにおける鉱業と開発:投資家と地域コミュニティの双方に利益を生み出すための戦略」
(国際金融公社(IFC)、Stephan Vermaak氏)
IFCは、新興市場における民間産業に対して融資を行う世界最大規模の国際金融機関である。鉱業においては、合計23か国37プロジェクトへの投資を行っており、地域別ではサハラ以南のアフリカ地域が大半を占めている。アフリカでは、経済成長、人口動態、政情の安定化等の好条件があることに加え、近年ではインフラへの民間投資が増加しているほか、増加傾向にある外国直接投資(FDI)は2014年にはピークに達すると予想される。しかしながら、アフリカに対しては、不十分なインフラ、貧困、熟練労働者の不足、不正、政治的リスク、資源ナショナリズムといったイメージが根強く残っている。IFCでは財政的な支援に加えて、新興市場におけるリスク軽減のため、培った知識や経験に基づいたコンサルタント業務も行っている。
5. 所感
金融の中心地ロンドンで開催される『Mines and Money London』では投資関連の講演が多いことが特徴的であるが、今年は特に、資金調達の種類ごとに詳細な講演があった。従来からの資金調達手段である新規株式発行や銀行からの借り入れに加えて、ストリーミングといった新しい資金調達手段が注目を集めてきており、鉱山会社は従来の方法と新しい方法の両方を検討し、適宜組み合わせながら最良の資金調達を行っていく必要がある。またコモディティに関しては、レアアースに変わって、グラファイトへの関心が急速に高まっているという印象を受けた。また新興国におけるリスクと機会に関するセッションが新しく設けられたことから、鉱業におけるリスクに対する懸念と新興市場における機会への注目が高まっていることが感じられた。鉱業にリスクが存在するのは当然であり、リスク管理がプロジェクト成功のためのカギであると複数の講演者が口にしていた。
JOGMECロンドン事務所では今後も金属資源や金融業界から関係者が多数が出席する本会議に参加し、鉱業の動向に関する情報収集を継続していきたい。
※ 付表:探鉱プロジェクトの講演(金、ダイヤモンド、石炭の案件、鉱山設備の提供会社は除く)
企業名(本社) | 探鉱プロジェクト場所(ターゲット鉱種) |
Woulfe Mining(加、TSX-V上場) | 韓国(金、銀、亜鉛、鉛、タングステン) |
Rio Alto Mining(加、TSX-V上場) | ペルー(金、銅、銀、モリブデン) |
Northland Resources (ルクセンブルク、TSX上場) |
スウェーデン、フィンランド (鉄鉱石、金、銅、亜鉛、鉛) |
EMED Mining (キプロス、AIM及びTSX上場) |
スロバキア、キプロス、スペイン (金、銅、亜鉛、銀) |
Baobab Resources (豪、AIM上場) |
モザンビーク (鉄鉱石、チタン、バナジウム、銅、マンガン) |
Talga Resources(豪、ASX上場) | 豪州、スウェーデン(鉄鉱石、金、グラファイト) |
Catalyst Copper(加、TSX-V上場) | メキシコ(銅、金、銀、モリブデン) |
Manhattan Corp(豪、ASX上場) | 豪州(ウラン) |
Lydian International (英、TSX上場) |
トルコ、コソボ、アルメニア (銅、銀、亜鉛、鉛、ニッケル) |
Stratex International(英、AIM上場) | トルコ、エチオピア、ジブチ(金、銀、銅) |
South Boulder Mines(豪、ASX上場) | エリトリア、豪州(カリ、ニッケル) |
Weatherly International(英、AIM上場) | ナミビア(銅、銀、金、鉛、亜鉛) |
Stellar Resources(豪、ASX上場) | 豪州(鉄鉱石、錫、ウラン、ニッケル、銅) |
KEFI Minerals(トルコ、AIM上場) | トルコ、サウジアラビア(金、銅) |
Venture Minerals(豪、ASX上場) | 豪州(錫、タングステン) |
Yellowhead Mining(加、TSX-V上場) | 加(銅、金、銀) |
Avalon Minerals(豪、ASX上場) | スウェーデン(銅、鉄鉱石、金) |
Condor Resources(加、TSX-V上場) | ペルー、チリ(金、銀、銅、亜鉛) |
Catalyst Copper(加、TSX-V上場) | メキシコ(銅、金、銀、モリブデン) |