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報告書&レポート

2013年3月21日 サンティアゴ事務所 縫部保徳
2013年15号

鉱山開発に影を落とすチリの電力問題

 2012年後半、チリ第Ⅲ州に所在する4件の鉱山開発プロジェクト(San Antonio Oxide、Santo Domingo、Inca de Oro、Relincho)が相次いで開発スケジュールの延期や見直しを発表した。これらは適正価格での電力確保に対する不安が原因とされた。

 第Ⅲ州を含むチリ中北部(Norte Chico、北はCopiapó川、南はAconcagua川に挟まれる地域。第Ⅲ州南半部~第Ⅴ州北半部。)では安価な電力供給に資すると目されていた火力発電所建設プロジェクトが地元住民や環境団体の反対運動により相次いで頓挫、鉱山開発スケジュール見直しの引き金となった。今後のチリ鉱業発展の鍵として、電力問題は水及び技術者確保と並んで最も重要な課題であり、鉱業界首脳も電力の安定供給及び電力コスト競争力についてさかんに警鐘を鳴らしている。

 本稿では、安価で安定的な電力供給が最も不安視されているチリ中北部に注目し、中央供給システム(SIC:Sistema Interconectado Central)管内の今後の鉱業関係電力需要予測、チリの電力コスト競争力、頓挫している発電所建設プロジェクト及び開発スケジュール見直しを迫られた鉱山開発プロジェクトの概要について紹介したい。

 チリの銅鉱業とエネルギー消費の問題に関しては、本稿と同時に発行されるカレントト・ピックス2013年13-14号でも報告しているのでご参照頂きたい。

1. SIC管内の銅鉱業関係電力需要予測

 SICは、北は第Ⅲ州から南は第X州までをカバーする電力供給システムで2011年のシステム内発電能力は12,365 MW、チリ全体の75%を占めている(図1)。SIC管内も含め、チリ全体で銅鉱業が消費する電力エネルギーは年々増加しており、2001年(13.13 TWh)から2011年(19.96 TWh)の10年間に52%増加している。また、全電力消費に占める銅鉱業の割合は30%強で過去10年大きな変動はない。

図1.チリの電力供給システム

図1.チリの電力供給システム

(出典:Minería Chilena(2012)i)

 チリ銅委員会(COCHILCO)のレポート(COCHILCO(2012a)ii)に記載のある2012年以降に開発が予定されている投資総額約1,000億US$に上る非鉄金属鉱山開発・拡張プロジェクト36件のうち、19件がSIC管内に位置しており、図2に示したとおり2012年以降も銅鉱業の電力消費量は堅調に増加することが予測されている。

図2.SIC管内における銅鉱業の電力消費予測(2012年~2020年)

図2.SIC管内における銅鉱業の電力消費予測(2012年~2020年)

(出典:COCHILCO(2012b)iii)

2. チリの電力コスト競争力

 チリの電力コストは他のラテンアメリカ諸国に比べ高いと言われており、それが鉱山開発の競争力低下につながると頻繁に指摘されている。図3はペルーの1 KWh当たりの電力コストを1とした場合のチリの電力コストの値を示したものである。2006年まではチリの電力コストがペルーのそれを下回っていたものの、2007年以降はチリの電力コストが急激に上昇し、2010年には約1.8倍に達していることが分かる。チリの電力コストの急激な上昇は、火力発電の燃料としての天然ガスの減少及びLNGの増加と軌を一にしている。天然ガスの減少はアルゼンチンからの供給途絶が原因である。

図3.チリとペルーの電力コストの比較

図3.チリとペルーの電力コストの比較

(縦軸:チリの電力コスト/ペルーの電力コスト)

 チリ最大の銅生産者であるCODELCOの銅生産コストを見ると、全コストに占める電力コストの割合は2006年までは8%前後で比較的落ち着いて推移していたが、2008年以降は10~12%に達している。チリの銅生産コストはCODELCOの全コストに占める電力コストの割合と同様、2008年に急上昇しており、電力コストの増加がチリの銅生産コスト増の一因になっていると予想される(図4)。

図4.チリの銅生産コスト推移(2005年=100)

図4.チリの銅生産コスト推移(2005年=100)

(出典:COCHILCO(2012c)ivを基に作成)

3. 計画を放棄、または、実施が危ぶまれているチリ北部の発電所建設プロジェクトの概要

 チリ中北部は開発を控えた鉱山開発プロジェクトが多数存在し今後電力需要が大きく伸びることが確実な地域である。また、雨量が少ない地域のため、発電所建設計画は火力中心とならざるを得ない。送電システムの制約から同地域内での発電所建設が望まれるところ、より安価な電力供給を考慮し、石炭火力発電所が建設計画の中心となっていた。しかし、その多くが建設場所、発電方式などを巡って地元住民や環境団体の反対を受け、計画が放棄されたり、実現が危ぶまれている状況となっている。以下では、2008年以降に放棄された発電所建設プロジェクト及び実施が危ぶまれているプロジェクトについて概要を説明する。各プロジェクトの位置は図5を参照のこと。

図5.計画が放棄、または、実施が危ぶまれる発電所建設プロジェクトと

図5.計画が放棄、または、実施が危ぶまれる発電所建設プロジェクトと

開発スケジュールを見直した鉱山開発プロジェクト

(出典:JOGMECサンティアゴ事務所作成)

(1) Castilla

 伯MPX社(75%)と独E.ON社(25%)の合弁による南米最大規模の発電能力2,100 MWの石炭火力発電所建設プロジェクト。第Ⅲ州の州都Copiapóの南西80 km、Punta Cachosへの建設が予定され、同時に計画された港湾建設も含めた投資額として50億US$が見込まれていた。

 2008年12月にCastillaプロジェクトに関する環境影響調査書(EIA:Estudio Impacto Ambiental)が環境当局へ提出された。2010年12月には港湾建設の環境認可(RCA:Resolución de Calificación Ambiental)を取得、2011年2月にはプロジェクト反対派のトップと合意に至るなど、開発に向けた手続きは少しずつ前進をしていき、ついに同年2月25日、新たな環境対策を講じる条件付きで、第Ⅲ州環境委員会は満場一致で発電所建設を承認した。しかし、2012年3月、地域住民の発電所建設差し止め申請をAntofagasta上訴裁判所が受理、2012年5月に最高裁判所が和解を呼びかけ、事業者側はTotoralの漁民を除く全てと和解したものの、漁民側とは合意に至らなかった。MPX-E.ON側が反対者に提示した補償額は920万Peso(約1.9万US$)とされる。2012年8月、最高裁判所は満場一致でCastillaプロジェクトの環境認可を無効にする判決を下した。最高裁は判決の中で港湾建設と発電所建設で個別に行っていたEIA手続きが、実態として1つのプロジェクトであるにも関わらず、港と発電所を結ぶインフラに関連した環境認可が含まれていないとして、2件のプロジェクトを一括した形でのEIAを求めた。この判決により、MPX-E.ONはそれまでに約4,000万US$を費やしていたEIAの一からのやり直しを余儀なくされ、さらに、建設予定地の用途地域が発電所建設に合致しないことも確認され、プロジェクトの継続を諦めざる得ない状況となった。

 Castillaプロジェクトに対する環境認可の無効判決は、電力供給・コスト問題だけでなく、環境認可プロセスの正当性を揺るがすものとして憂慮の声が上がった。

(2) Punta Alcalde

 西Endesa社が手掛ける発電能力740 MWの石炭火力発電所建設プロジェクト。投資額14億US$、第Ⅲ州Huasco郡に建設が予定されている。

 Punta Alcaldeプロジェクトは、2009年3月にEIA手続きを開始した。しかし、2012年6月、第Ⅲ州環境委員会は同EIAを2011年規定の排出基準を満たすことを証明する技術的調査が不十分として却下、Endesa社はこの裁定を覆すべく、閣僚委員会に控訴した。2012年12月、閣僚委員会は“発電所建設地の大気汚染をしない”条件で同プロジェクトを承認した。一方、2013年3月には同プロジェクトに反対する漁民グループからの差し止め請求を認める判決の破棄を求めたEndesa社の訴えをSantiago上訴裁判所が却下し、同裁判所から差し止め命令を受けた。た。この差し止め命令に関し、Endesa社はプロジェクトの建設はまだ始まっておらず影響はないとコメントしている。

(3) Barrancones

 仏GDF Suez社(以下、Suez)による発電能力540 MWの石炭火力発電所建設プロジェクト。投資額11億US$。第Ⅳ州La Higuera郡での建設が予定され、二酸化炭素排出削減のため植物由来バイオマスと石炭との混焼も検討されていた。建設予定地はフンボルトペンギンの生息地として知られるPunta de Choros自然保護区の南25 kmであった。

 BarranconesプロジェクトのEIAは2007年12月に提出された。2010年8月、第Ⅳ州地方環境委員会(COREMA)は環境負荷軽減策を要求した上で、賛成15、反対4をもって同プロジェクトのEIAを承認した(実際、Barranconesプロジェクトの環境認可は2010年9月7日付けで交付されている)。しかし、COREMAのEIA承認後、市民グループが発電所建設は環境破壊につながるとして承認取り消しを求める街頭デモをサンティアゴ市で実施、国家警察軍が出動する事態にまで発展した。市民グループは2009年の大統領選挙で環境破壊につながる発電所建設は許可しないとしていたとして2010年3月に政権の座についたSebastián Piñera大統領を非難した。この様な事態を受けて、2010年8月26日、同大統領は発電所建設場所の変更をSuezと合意したと発表した。Barranconesプロジェクトの環境認可は2010年11月22日に放棄された。

 本件については環境当局の認可に対する大統領による介入を問題視する報道もあった。

(4) Cruz Grande

 チリの鉄鉱石・鉄鋼メーカーであるCAP社が計画した発電能力300 MWの石炭火力発電所建設計画。投資額は4.6億US$とされていた。Barranconesプロジェクトと同様、第Ⅳ州La Higuera郡での建設が計画されていた。

 CAP社はCruz Grandeプロジェクトに関するEIA手続きを2008年6月に開始した。当局からの第2回質問に対する回答期限を10日残した2011年3月21日、同社は自発的に同プロジェクトのEIA継続を放棄した。同社はこのEIA放棄について、鉄鉱石採掘及びインフラ整備が必要な地域の新規開発に重点を置く同社の戦略上、発電所建設計画地区を鉄鉱石の集積・積み込み場として維持することが望ましいとの結論に至ったとコメントした。一方で、Cruz GrandeプロジェクトもBarranconesプロジェクトと同様、環境団体からの反対運動にあっていたとされる。

(5) Farellones

 CODELCOによるSICから電力を調達する4事業所(Salvador、Andina、Ventanas、El Teniente)の電力コスト抑制を目的として計画された発電能力800 MWの石炭火力発電所建設プロジェクト。投資額は11億US$とされていた。Barranconesプロジェクト、Cruz Grandeプロジェクトと同じく、第Ⅳ州La Higuera郡に建設が予定され、2012年の操業開始が見込まれていた。計画では、煤塵を除去する電気集塵装置を設置するなど、環境影響に対する配慮がなされていたとされる。

 CODELCOは2007年9月にFarellonesプロジェクトのEIA提出を発表した。その後の2008年11月、同社は主に海岸線に関連する問題の調査に時間を取るためとして、EIA手続きの一時中断を発表した。EIA手続き中断の前には、同プロジェクトの環境負荷を指摘する報告書が複数出されていたとされる。Piñera大統領がBarranconesプロジェクトに対して発電所建設場所の変更を要求した後の2010年9月には、Farellones発電所建設のために設立した子会社(Central Farellones S.A.)の解散が決定されたと報道された。

 上述のとおり、Punta Alcalde以外のプロジェクトはすべて放棄されており、Punta Alcaldeも実現までに非常に困難が予想される状況にある。チリ政府は中北部地域への電力安定供給策として、SICと北部電力システム(SING:Sistema Interconectado Norte Grande)の接続や南部からの送電強化が必要としている。

表1.放棄または、実現が危ぶまれるチリ北部の発電所建設プロジェクト

プロジェクト名
(開発主体企業)
燃料 発電能力
(MW)
略歴
Castilla
(MPX, E.ON)
石炭 2,100 2012年8月、最高裁判所が発電所と港湾で分割して環境認可を得ていた同プロジェクトに対し、単一のEIA手続きを命令。
Punta Alcalde
(Endesa)
石炭 740 2012年6月、環境委員会にEIAが却下されるものの、12月に閣僚委員会が承認。2013年2月、反対派の訴訟手続きを上訴裁判所が受理。
Barrancones
(GDF Suez)
石炭 540 EIAの環境認可を得たが、2010年8月、Piñera大統領の要請により建設場所の変更に合意。
Cruz Grande
(CAP)
石炭 300 2011年3月、EIA手続きを自発的に放棄。
Farellones
(CODELCO)
石炭 800 2008年11月、EIA手続きを一時中断。2010年9月に開発会社解散。

(出典:新聞報道などを基にJOGMECサンティアゴ事務所作成)

4. 電力問題により開発スケジュール見直しを発表した鉱山開発プロジェクト

 前章で述べたようにチリ中北部の発電所建設プロジェクトが相次いで頓挫したことにより、安価で安定的な電力確保に不安があるとして、開発スケジュールの見直しが明らかとなった鉱山開発プロジェクトの概要を本章で述べる。それらの位置は図5に示す。

 新聞報道などによると、ここで紹介する4プロジェクト以外にも加Barrick Gold社のCerro Casale(金・銅)及びPascua Lama(金・銀)、加Exeter Resources社のCaspiche(金・銅)、加Goldcorp社のEl Morro(金・銅)などもCastilla火力発電所建設プロジェクトの頓挫による影響が危惧される鉱山開発プロジェクトとして名前が挙がっている。

(1) San Antonio Oxides銅プロジェクト

 CODELCOのSalvador事業所で計画されている同事業所の延命を目的とした酸化鉱採掘計画。Salvador事業所は低品位化のため2011年に閉山が予定されていたが、銅価格の高騰により2021年までマインライフを延長することが決定された。San Antonio Oxideプロジェクトでは当初、3万t/年の銅生産が計画されていたが、選鉱試験結果及び銅価格予測をもとに生産計画が6万t/年に引き上げられた。

 2012年8月のCastillaプロジェクトへの最高裁判決が下された際、Thomas Keller総裁は判決に失望の意を示すとともに、同発電所からの電力供給を期待していたSan Antonio Oxidesプロジェクトの延期もやむを得ないと言及していた。2012年11月、作業中のプレFSにおいて電力関連コストの高騰がプロジェクトに影響を及ぼす可能性が示され、より適切な条件での電力確保が必要であることが明らかにされた。COCHILCOはプレFS再評価によって、2015年とされていた生産開始が2年遅れると予想した。

 2013年2月末、FSにおいて十分な経済性が見いだせないことを理由に、今後5年のCODELCOの投資計画からSan Antonio Oxidesプロジェクトが除かれたことが発表された。Keller総裁はプロジェクトを放棄したわけではなく、検討は継続して行うと述べた。これについてメディアは電力及び水のコストが影響したと指摘している。

(2) Santo Domingo酸化鉄・銅・金プロジェクト

 Santo Domingoプロジェクトは加Capstone Mining社(70%)と韓国KORES(30%)の合弁プロジェクトである。生産に移行した際、KORESが銅の50%、鉄鉱石の50%の生産物購入権を保有する。現在FSステージで、プレFSでは投資額12.4億US$、生産開始後5年の銅生産量は11.6万t/年が想定されている。

 2011年11月までにCapstone Mining社はSanto Domingoプロジェクト向け電力供給に関する入札を行い、供給元をCastillaプロジェクトに絞っていたという。しかし、Castillaプロジェクトは最高裁の判決によって事実上ストップし、提案は取り下げられた。Capstone Mining社は現在のチリ電力市場の状況を考慮すると妥当な価格での電力供給は2017年~2018年まで見込めないとして、2013年Q1としていたBankable FSの完了時期を2014年Q1に見直すとした。このため、Santo Domingoプロジェクトの生産開始は最も早くて2017年中頃となり、同社はチリの電力供給状況に合わせ継続的に見直しを行うとした。

 2013年1月、Capstone Mining社のDarre Pylot CEOは、Punta Alcaldeプロジェクトが閣僚委員会で承認されたことや送電網充実が期待できることなどから、2013年中にSanto Domingoプロジェクトの電力問題は決着すると信じているとコメントした。

(3) Inca de Oro銅-金プロジェクト

 豪PanAust社(66%)とCODELCO(34%)の合弁プロジェクトで現在FSステージ。PanAust社とCODELCOの合弁形成に当たっては、CODELCO単独開発によるSalvador事業所とのシナジー効果を求める労働組合や政治家からの反対があったが、2011年2月、Piñera大統領がこの取引を承認した。これまでにInca de Oro鉱床の概測及び予測資源量として7.7億t、平均銅品位0.36%、平均金品位0.1 g/t、平均モリブデン品位0.01%が報告されている。同プロジェクトは当初2013年中頃に建設着手、2014年半ばまでに生産を開始する計画であった。

 2012年9月、PanAust社は電力コストの高騰を理由にInca de Oroプロジェクトの開発延期を決定したとのメディア報道が流れた。COCHILCOは適正価格での電力確保のための交渉及びプロジェクトの経済性を高めることを目的とした衛星鉱床開発の評価のため、開発スケジュールが2年遅れ、2016年の生産開始と予想している。

 2013年2月、PanAust社のGary Stafford Managing Directorが、FS完成時には応札者のなかった電力購入の再入札に応札者が出てきており、電力確保に目処がつく可能性が出てきたことに言及、衛星鉱床開発によるプロジェクトの経済性改善とあわせ、2014年中頃までに投資決定ができるだろうと述べた。

(4) Relincho銅-モリブデンプロジェクト

 加Teck Resources社が保有するFSステージのプロジェクト。マインライフ18年、平均銅生産量18万t/年、平均モリブデン生産量6,000 t/年がプレFSにおいて計画されている。

 Teck Resources社の2012年Q3ニュースリリースの中でRelinchoプロジェクトが使用を予定していた第三者の港湾及び電力供給施設の認可の遅れによりFS完了に遅れが出ると発表された。これを受け、COCHILCOは当初2018年としていた生産開始予想年を1年遅らせ2019年とした。2013年1月、Teck Resources社は独自での港湾建設の調査を2012年11月から開始、電気供給に関しても既存発電所との契約等様々な方法を検討中とのメディア報道があった。同プロジェクトのFS完了は2013年Q4末が計画されている。

表2.チリ中北部で開発スケジュールが見直された鉱山開発プロジェクト

プロジェクト名
(オペレータ企業)
予定投資額
(百万US$)
計画生産量 予想生産開始年
見直し前 見直し後
San Antonio Oxides
(CODELCO)
963 銅:6万t/年 2015 2017
Santo Domingo
(Capstone Mining)
1,242 銅:11.6万t/年
鉄鉱石:410万t/年
2016 2017
Inca de Oro
(PanAust)
600 銅:5万t/年
金:4万oz/年
2014 2016
Relincho
(Teck Resources)
3,900 銅:18万t/年
モリブデン:6,000t/年
2018 2019

(出典:COCHILCO(2012d)vなどを基にJOGMECサンティアゴ事務所作成)

おわりに

 電力問題はチリ鉱業の持続的発展に最も重要な課題の一つである。鉱石品位の低下、採掘サイトの深部化、鉱石の硬化、海水淡水化や鉱山サイトまでのポンプアップなど様々な要因から鉱業分野の電力需要は拡大の一途をたどることは確実であるが、電力供給の礎である発電所の建設はチリ南部では水力発電所が北部では火力発電所が地元住民や環境団体の反対を受け、膠着状態にある。エネルギー省は、解決策として電力が逼迫するチリ中北部に南部や北部からの電力を供給するための送電システム強化を推進しようとしているが、SICとSINGの接続には投資・操業・システム障害コストの問題などから電力業界や鉱業界から反対の声が上がっており、これも簡単には進まない可能性がある。

 今回取り上げた発電所建設プロジェクトのうち3件は、現行法のルールに則り環境認可を受けているにも関わらず、司法や政治の介入によって頓挫している。政府当局からの環境認可に対する司法の介入については、批判の声があり、近未来に改正される環境影響評価システム規則令によって、住民参加のシステムなどが十分に整備され、企業が行うべき環境影響評価作業が明瞭になることが期待されている。

 エネルギー省の予測では、今後10年間で8,000 MWの電力需要増があるとされており、本稿で紹介した発電所建設プロジェクトが頓挫していることの影響は大きい。電力安定確保の動きのひとつとして大手鉱山会社が自前での発電所建設計画を加速させている。本稿で対象としなかったがSING管内でCODELCOがLNG火力発電所建設プロジェクトを最近開始、BHP Billitonも火力発電所プロジェクトの再開を発表した。また、本稿で紹介したSanto DomingoプロジェクトのCapstone Mining社やInca de OroプロジェクトのPanAust社から電力確保に楽観的なコメントが2013年に入り出てきたことは、送電システム強化などの動きが電力市場に明るい兆しを与えていることを示すものかも知れない。今後どのような方向でチリ鉱業及びチリ全体が電力問題を克服していくのか、非常に注目される。


【参考資料】

i   Minería Chilena(2012):Compendio Minería Chilena 2012. 606p

ii  COCHILCO(2012a):Inversión en la minería chilena, Cartera de Proyectos 2012. 55p

iii COCHILCO(2012b):Proyección del consumo de energía eléctrica de la minería del cobre en Chile al 2020 – Actualización 2012. 39p

iv COCHILCO(2012c):Anuario de estadísticas del cobre y otros minerales, Yearbook:Copper and other Mineral Statistics 1992-2011. 170p

v  COCHILCO(2012d):Informe de actualización de la cartera de proyectos de inversión en minería. 54p

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