報告書&レポート
Investing in African Mining INDABA 2013-第19回アフリカ鉱山投資会議-(その1)
2013年2月4~7日、南ア・ケープタウンでMining INDABA 2013(第19回アフリカ鉱山投資会議)が開催された。世界各国から資源メジャー企業、ジュニア探鉱会社、政府関係者、非政府団体、アナリスト等が集い、6大陸100か国から史上最多の約7,700名が出席した。INDABA事務局の発表によると、参加者の地域別内訳はアフリカが57%、アジアが5%、欧州が18%、豪州が12%、南北アメリカが7%であった。i 日本からは菅原一秀経済産業副大臣を代表とし、在南アフリカ共和国日本大使館から吉澤裕大使、経済産業省から安永裕幸鉱物資源課長、安居徹石炭課長他、JOGMECが参加し、アフリカ各国の鉱物資源大臣との二国間会談やカンファレンスでの講演を行った。日本企業からは、伊藤忠商事、新日鉄住金、住友商事、双日、豊田通商、丸紅、三井物産、三菱商事等から約30名の参加があり、その他、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)からも参加があった。 JOGMECはMining INDABAに2004年から参加しており、今回で参加は10年目となる。また2007年から7年連続で展示会場にブースを設けているほか、役員による講演を行っている。今年は、講演を行った上田英之金属資源開発本部理事及び久保田博志ボツワナ・地質リモートセンシングセンター所長を始め15名が参加し、政府間協議に同席したほか、ジュニア企業との面談、講演からの情報収集等を行った。 本稿では、今回のMining INDABAでの主要講演の概要を2回に分けて報告する。なお、講演者の職名は会議開催当時のものである。 |
1. African Mining INDABA 2013の展示会場の状況
世界最大規模の鉱業投資会議であるMining INDABAの展示会場ではメジャー/中堅鉱山会社、ジュニア探鉱会社、政府機関、金属需給動向やファイナンスのアナリスト及びコンサルタント、証券取引所や金融機関、鉱山設備会社等様々な企業・団体がブースを設けた。特に、Norilsk Nickel、Anglo American、BHP Billitonといったメジャー企業のブースはそれぞれ個性的なデザインで来場者の注目を集めていた(写真1)。政府機関のブースでは、豪州貿易促進庁(Australian Trade Commission)やカナダ天然資源省(Natural Resources Canada)が来場者との面談がしやすいようにラウンジ型の広いブースを設けていた。
JOGMECはJETRO、JBIC、JICAと共に今回初めて「4J」としての合同ブースを設置した(写真2)。日本政府及び民間企業のアフリカへの関与や投資に関心を持ちブースに訪れる人々に対して日本政府全体としての鉱業支援体制を説明したほか、個別のプロジェクトに関する情報交換を行った。また2013年5月に日本で開催される「国際資源ビジネスサミット(通称:J-SUMIT;Japan Sustainable Mining, Investment & Technology business forum 2013)」の概要を説明して参加を促した。
写真1. 立体的なNorilsk Nickelのブース
写真2. 4J (JOGMEC、JETRO、JBIC、JICAの合同ブース
2. アフリカ各国の鉱業大臣による講演
アフリカ開発銀行(AfDB)主催でアフリカ大臣フォーラム1~4が2日間にわたって開催され、Mining INDABAのホスト国である南アフリカのShabangu鉱物資源大臣が大ホールにて基調講演(写真3)を行ったほか、エチオピア、ザンビア、ブルキナファソ、シエラレオネ、コンゴ民主共和国(DRCコンゴ)、ガーナ、タンザニア、ガボン、ギニア、マラウイ、レソト、モザンビーク、ウガンダ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリアの16か国の政府代表者が自国における鉱業の概要や鉱業政策に関する講演を行った。
(※ボツワナ政府による講演はキャンセルとなった。)
2-1. 南ア鉱物資源省(DMR)、Shabangu大臣による基調講演
(1) 南ア鉱業の背景
南アには、白金族金属(PGM)、金、クロム、マンガン等多くの鉱物資源が賦存している。特に白金に関しては、世界における生産シェア(2011年)は74.5%である。
南ア鉱業に関する最近の主な動きとしては、2012年12月7日に鉱物・石油資源開発法(MPRDA)の改正案が閣議決定され、2013年2月8日までパブリックコメントが受け付けられた。産業界の専門家等からは鉱業投資に悪影響が出るとして批判が上がっている。また白金生産大手LonminのMarikana鉱山では、2012年8月16日に暴動を起こした鉱山労働者と警官隊が武力衝突し、警官隊の発砲で34名が死亡したことに加えて、その余波と見られる労使交渉が同国の他の白金鉱山でも発生した。
(2) 講演概要ii
● 鉱山の国有化
南ア政府及びアフリカ民族会議(ANC)にとって鉱山の国有化は政策における選択肢ではないことを再度強調したい。同国政府は、民間企業からの資本投資がなくては資源開発が実現不可能であるという現実を十分に認識している。民間企業と政府の両方が利益を得られる機会があり、実際には民間企業と政府は相互依存の関係にある。
● 鉱物・石油資源開発法(MPRDA)
MPRDAの改正案は既に内閣の承認を得ており、パブリックコメントの受付が終了した後、さらなる話し合いのために国会へ提出される予定である。改正の目的は、現行のMPRDAが含む解釈における曖昧性を取り除くこと、鉱業に関係する他の法律との整合性を取ること、そして法律違反に対する制裁を強化するために行政手続きを向上することである。鉱物資源の高付加価値化促進や鉱業権の申請及び譲渡に関する大臣の権限の強化などが検討されている。
● Marikana鉱山での暴動
南アにおいて、移住労働、劣悪な住宅状況や生活条件、低い識字率、スキル不足といった歴史的な遺産(legacy)が残っていることが、Marikana鉱山での暴動発生の一因となった。このような課題を永続的に解決するためには、根本にある構造的また歴史的な問題に取り組むことの必要性を認識することがまず第一歩である。同じような暴動が繰り返される可能性を排除するためには、鉱業における利害関係者がパートナーとして協働することが求められる。
写真3. 大ホールで行われたShabangu大臣の基調講演
2-2. ザンビア、Mukanga鉱山・エネルギー・水開発大臣
(1) ザンビア鉱業の背景
巨大な銅鉱床地帯(カッパーベルト)が存在するザンビアでは、銅鉱業が同国の鉱業において中心的な役割を担っている。Vale、Vedanta、First Quantum Mineralsといった鉱山会社に加え、中国有色鉱業集団といった中国企業も活発に銅鉱山に投資を行っている。
2011年9月にSata大統領が就任して以降、鉱業の税制改革が意欲的に行われている。2011年11月にベースメタルのロイヤルティ料率を3%から2倍の6%に、貴金属では5%から6%にそれぞれ引き上げることが発表された。また2012年6月には歳入の増加とコンプライアンスの向上のため、鉱業税制の内容が強化された。
(2) 講演概要
鉱山・エネルギー・水開発省の地質調査庁は現在、地質図の作成作業を急速に進めている。地質調査庁が収集した地質データはすばやくデジタル化され、一般に公開されている。国土の約40%に関しては、まだ地質図が利用可能ではないが、同国の鉱物資源のポテンシャルは高い。また既存の鉱業権登記(mining cadastre)システムの効率と透明性を向上させるため、鉱業権のオンライン申請や鉱業権に関するデータの閲覧等を可能にするアップグレード作業が実施されている。電力不足問題への対策としては、発電所の拡張等による発電量の増大プロジェクトが実施されている。加えて、鉄道や道路といった運輸インフラの整備プロジェクトが複数計画されている。またザンビアは政情、税制及び規制が安定していることから良好な投資環境があると言える。ザンビアでは長年にわたって鉱業が行われているため、ザンビア人のスキルは比較的高く、訓練にかかる時間と費用も少なくてすむ。以上のような好条件がそろっているザンビアの鉱業に投資すると、投資に見合う価値(value for money)が得られる。
2-3. DRCコンゴ、Ngoy鉱業省事務局長
(1) DRCコンゴ鉱業の背景
DRCコンゴは、銅、コバルト、ダイヤモンド等の鉱物資源が賦存するアフリカ有数の資源国である。しかしながら、DRCコンゴ産の特定の鉱物資源は、同国東部における深刻な暴力、特に性的暴行やジェンダーに基づく暴力を伴う紛争や武装集団の活動の資金源となっているとの懸念があることから、2012年8月、DRCコンゴ及びその周辺国を原産とする「紛争鉱物(タンタル鉱石、錫鉱石、金、タングステン鉱石とこれらの派生物)」の利用及び取引に関して米国証券取引委員会(SEC)への報告義務を課す米国金融規制改革法(Dodd-Frank法)が採択された。
また2012年11月、同国は鉱業法(Mining Code)を改正し、鉱業プロジェクトにおける政府の最低権益比率を現行の5%から35%に引き上げる意向であることを明らかにしたため、同国でプロジェクトを行う企業から懸念の声が上がっている。
(2) 講演概要
DRCコンゴ政府は同国の経済の柱として、鉱業と農業の重要性を強調している。鉱業の発展には法制度が不可欠である。適切な構造の鉱業法を施行することによって、生産量の増加等の結果が得られる。
鉱業が同国のGDPに占める割合は約27%で、同国で活動する民間企業の数は増加しており、GDPに占める割合が今後さらに増加していくと思われる。また探鉱権や採掘権の発行数も増加していくと期待されている。
(※講演は仏語で行われた)
2-4. モザンビーク、Bias鉱物資源大臣
(1) モザンビーク鉱業の背景
同国では、エネルギー資源である石炭及び天然ガスが産出されるほか、アルミニウム、イルメナイト、タンタル、ジルコンといった鉱物資源も生産されている。北西部のTete 州には、アフリカで最大規模の石炭資源が賦存しており、ValeのMoatizeプロジェクトやRio TintoのBengaプロジェクトで既に生産が行われている。
(2) 講演概要
同国は、天然ガス、重砂(heavy mineral sands)、石炭、ボーキサイト、チタン、ベースメタル、タンタライト、金、といった豊富な天然資源に恵まれている。特に石炭に関しては、同国における資源量は世界有数であり、既に生産を行っているMoatizeプロジェクトやBengaプロジェクト等の他にも現在7社が新規採掘権の申請を行っており、2~3か月後には採掘が開始されることが予想される。最大の課題は、鉄道や港湾施設といったインフラの整備である。
鉱業関連の法律としては、鉱業法(2002年)、鉱業活動に関する環境規則(2004年)、鉱業法施行細則(2006年)、鉱業安全規則(2006年)等があり、安定した法的枠組みがある。現行の鉱業ライセンスには、①予備調査権(2年間有効、更新不可)、②探鉱権(最長継続期間5年間、同じ期間で更新可)、③採掘権(最長継続期間25年、最長25年更新可)、④採掘免許(2年間有効)、⑤採掘許可書(12か月間有効、同じ期間で更新可)の5種類があるが、鉱業法の見直し作業が行われており、探鉱活動の期間が変更される可能性がある。
モザンビークには、豊富な鉱物資源があることはもとより、安定した鉱業法規・税制度があることから、投資に適した国であり、同国政府は知識・技術・財務能力を有する外国企業の同国鉱業への参加を歓迎し、地元企業とのパートナーシップを奨励する。
参考資料(その1)
i https://twitter.com/MiningIndaba
ii http://www.dmr.gov.za/publications/finish/89/910.html