報告書&レポート
5th Lithium Supply & Markets Conference 2013 参加報告
2013年1月30日及び31日の両日、米国・ラスベガスにおいて英国調査会社Metal Bulletin社主催の5th Lithium Supply & Markets Conference 2013が開催された。本会議は2009年1月に第1回目がチリ・サンティアゴで開催された後、米国・ラスベガス、カナダ・トロント、アルゼンチン・ブエノスアイレスと毎年開催され、今回は第5回目の開催となった。 今年の講演プログラムは、リチウムの将来的な需要予測、リチウム業界の最近のM&A事例及び個別のリチウム鉱床開発プロジェクトの紹介に関する講演の計12講演であった。昨年の講演内容と比べ、今年は個別プロジェクトについての講演数が減り、資源量計算法やマーケット分析など、技術的、学術的な内容の講演が増えた印象であった。昨年の参加者は170名を数えたが、今年は毎年講演の後に企画されるフィールドトリップがプログラムに含まれなかったことを反映してか、今年の参加者は登録者数で119名であった。会場では中国、韓国からの参加者は少数で、日本、南米からの参加者が目立った。本稿では、今次会議での講演の内、Li需要動向についての講演の内容を中心に報告する。 図1. 講演会場 |
1. リチウム需要予測
今回の会議では、第三者的立場として英国調査会社Roskill社が、素材メーカー側からUmicore社(本社ベルギー)がそれぞれのリチウム資源の需給予測について発表した。
1.1. Roskill社のリチウム需要量予測
Roskill社は、2次電池、セラミックス工業、ガラスセラミックス、グリス、ガラス、工業用粉末、大規模空調システム、薬品・化学、リチウムアルミ合金、樹脂など、各用途別の炭酸リチウム換算の需要量について、2000年から2017年までの需要量を積み上げ、2017年までの消費量の見積りを発表した(図1)。
図1. 2017年までの全品目リチウム需要量予測(Roskill社講演資料より抜粋)
図1に示すように、2001年に全品目で約65,000 tLCE(Lithium Carbonate Equivalent:炭酸リチウム換算量)であった需要量は年率10%で増加し、2008年には約120,000 tLCEに増加している。その後、リーマンショックによる経済低迷により2009年に約100,000 tLCEまで需要量は減少するが、翌年の2010年にはリーマンショック以前を上回る約130,000 tLCEにまで回復した。2012年には全品目で約150,000 tLCEであるリチウム需要は、2012年以降年率11%で増加し、2017年には2012年比約170%の約260,000 tLCEに達すると予測している。この需要の急増は2次電池需要の急速な伸びに起因しており、2012年には2次電池向けの需要量は約40,000 tLCEであり、全品目の需要量に対し占める割合は全リチウム需要量のうち30%弱であるのに対し、2017年までにスマートフォン、自動車の車載バッテリー及び電力貯蔵システム用蓄電池用途としての2次電池需要の伸びにより、2次電池用途のリチウム需要量は年率20%~30%の割合で増加し、2017年には2次電池用途の需要量は2012年比で3倍以上の130,000 tLCEに急増する。これにより2017年の2次電池向けの需要量が全品目の需要量に対し占める割合は概ね50%になるとの試算となっている。また、2次電池用途以外の用途においても、2017年のリチウム需要は2012年比で概ね20%増加し、約130,000 tLCEと見積もられている(図2)。
Roskill社は昨年の同カンファレンスにおいて、2020年の全品目のリチウム資源の需要量について約300,000 tLCEとの見積もりを発表している。今年のカンファレンスでは2017年までの需要予測を発表しているため単純に比較はできないが、全品目ベースで年率11%の需要増加率が2017年の後、2020年まで続くと想定すると、2020年の需要量は約346,000 tLCEと試算されることから、今年のカンファレンスで発表された需要予測は昨年よりもより強含みの需要予測であると言える。
図2. 2017年のリチウム製品別の需要予測(Roskill社講演資料より抜粋)
1.2. Umicore社のリチウム需要予測
Roskill社が2次電池以外のリチウム需要を含む品目のリチウム需要量の推移を試算しているのに対し、Umicore社は2次電池用途に限定してリチウム需要量を試算しており、2次電池をパソコンやスマートフォンなどの民生用エレクトロニクス、自動車の車載バッテリー、風力発電及び太陽光発電やスマートグリッドなどに利用される充電用の電力貯蔵システム用蓄電池の3つのセグメント別に、2016年及び2020年の需要量の試算を行っている(図3)。
2012年のそれぞれの需要量の試算は、需要量の多い順に、民生用エレクトロニクス用途が約20,000 tLCE、自動車の車載バッテリー用途が約5,000 tLCE、充電用の電力貯蔵システム用蓄電池用途が約800 tLCEであり、これら3セグメントの需要量を合算すると2012年の需要量は約25,800 tLCEである。3セグメント合計の需要量は2016年には2012年比約2倍の50,300 tLCEに増加し、2020年には2012年比約3倍の78,700 tLCEに達すると予測している。
図3. 民生用エレクトロニクス(左上)、自動車の車載バッテリー(右上)及び電力貯蔵システム用蓄電池(左下)の各用途別のリチウム需要量予測(以上、Umicore社講演資料)とそれらの合算値(右下:Umicore社講演資料から著者作成)
1.2.1. 民生用エレクトロニクスセグメントのリチウム需要予測
パソコンやスマートフォンなどの民生用エレクトロニクス用途のリチウム需要量は2012年には約20,000 tLCEであり3セグメントの合計量の8割近くを占めるが、2016年には2012年比で150%増加し約31,000 tLCE(3セグメントの合計量の約60%)に、2020年には2012年比で200%増加し約41,000 tLCEに増加するものの、2020年に民生用エレクトロニクス用途のリチウム需要量が3セグメント合計量に占める割合は約50%と、その3セグメントの合計量に占める割合は他の2セグメントの需要量の急増に伴い徐々に減少していくと見込まれている。
Umicore社は講演の中で民生用エレクトロニクス需要のうち、ノートパソコン、スマートフォン、タブレットなどの製品別の正極材需要量の推移を示しており(図4)、これによるとスマートフォン及びタブレット用途以外の正極材需要量は2012年から2020年までほぼ横ばいで、スマートフォン及びタブレット用途の正極材需要量は2012年にはそれぞれ全需要量の約2割を占めるに過ぎないが、2020年までに急増し、2020年にはスマートフォン向けは2012年比約3倍に、タブレット向けは2012年比約4倍に急増するとしている。これにより2020年には民生用エレクトロニクス向けの正極材需要の約7割はスマートフォン向け及びタブレット向けの需要となるとしている。
図4. 民生用エレクトロニクス用途の正極材の製品別需要量の推移(Umicore社講演資料より抜粋)
1.2.2. 自動車の車載バッテリーセグメントのリチウム需要予測
自動車の車載バッテリー用途の需要量について、2012年の需要量は約5,000 tLCEで3セグメントの合計需要量の約20%を占めるが、その後2016年には2012年比350%の17,500 tLCEに急増し、2016年から2020年にかけて185%増加し約32,500 tLCEにまで増加、2020年には2012年比で650%の需要量となり、3セグメントの合計量需要量の約40%を占めると試算している。
Umicore社は自動車の車載バッテリー需要のうち、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車、電気自動車などの車種別の正極材需要量の推移についても試算しており、いずれの車種向けの正極材も需要量を伸ばすとしている(図5)。全車種の正極材需要量に占める割合では、2012年、2016年、2020年いずれも電気自動車向けの占める割合が最も多く、次いでプラグインハイブリッド車向けの正極材需要の割合が多い。ここで、正極材の需要量は車種別の普及率を反映したものではなく、全車種の正極材需要量に対して電気自動車に使用される正極材需要量の割合が最も多いのは、電気自動車に使用されるバッテリーの容量が最も大きいことを反映していると見られる。
また、車載バッテリーに使用されるリチウムを使用した2次電池について、これまでLCO(Lithium Cobaltite:LiCoO2)を使用した電池の実用化に向けた技術開発が進められてきたが、最近の発火事故及び使用金属材料の希少性と価格を鑑み、より安定性が高く、汎用的且つ廉価な金属元素で構成されるNMC(三元系 Nickel Manganese Cobalt:Li(NiXMnYCo1-X-Y)O2)やLFP(リン酸鉄系 Lithium Iron Phosphate:LiFePO4)の需要が今後伸びるではないかとの予測も発表された(図6)。
図5. 自動車車載バッテリー用途の正極材の車種別需要量の推移(Umicore社講演資料より抜粋)
図6. 各リチウム電池の容量、電圧、安全性、耐用年数、コストの比較(Umicore社講演資料より抜粋)
1.2.3. 電力貯蔵システム用蓄電池セグメントのリチウム需要予測
風力発電及び太陽光発電やスマートグリッドなどに利用される充電用の電力貯蔵システム用蓄電池用途の需要量は2012年には約800 tLCEで3セグメントの合計のわずか3%を占めるに過ぎないが、2016年には1,800 tLCEに、その後2020年までの間に急増し2012年比650%の5,200 tLCEに達すると試算されている。この急増により、2012年に3セグメント合計需要量のうち3%であった充電用の電力貯蔵システム用蓄電池用途は2020年にはその割合を約7%に増やすと見込まれている。
2. リチウム開発プロジェクトの進行状況
今回の会議では個別プロジェクトの紹介として、Western Lithium社が米国・ネバダ州で進めるKings Valleyプロジェクト、Altura Mining社がオーストラリア・西オーストラリア州で進めるPilgangooraプロジェクト、Lithium America社がチリ・Cauchari塩湖で進めるプロジェクトについて、各社から紹介された。
1.で述べたように、自動車の車載バッテリー用途の急増により今後のリチウム需要量は2020年までに急増すると見込まれている。これら需要量の急増に対し現在、多数の新規プロジェクトが開発に向けて進められている。これら新規プロジェクトについて、図7に主要なプロジェクトを、図8に主要プロジェクトの進捗度合いを示す。
図7 主要な新規開発プロジェクト一覧(Li3 Energy社資料)
図8 主要プロジェクトの進捗度合い
3. まとめ
今回のRoskill社の試算に依れば、全品目ベースのリチウム需要量は2012年以降年率11%で増加し、2017年には2012年比約170%に達するとしている。急増の要因は、2次電池用途以外のリチウム需要も2017年までに20%増加し堅調に推移するが、それを凌駕する勢いで2次電池用途の需要が急増し、2012年には全品目需要量の3割弱であった2次電池用途の需要が2017年には全需要量の約半分を占めることに依るとしている。また、Umicore社は2次電池用途のリチウム需要量について、パソコンやスマートフォンなどの民生用エレクトロニクス、自動車の車載バッテリー、風力発電及び太陽光発電やスマートグリッドなどに利用される充電用の電力貯蔵システム用蓄電池の3つのセグメントはそれぞれ需要量を増加させ、2020年のリチウム需要量は2012年比約2倍の78,700 tLCEに急増すると試算している。2012年にはパソコンやスマートフォンなどの民生用エレクトロニクス用途が2次電池用途需要の大部分を占めているが、自動車の車載バッテリー需要量が特に2012年から2016年にかけて急増することにより、2020年には民生用エレクトロニクス用途のリチウム需要量と自動車の車載バッテリー用途の需要量はほぼ同量になると見込んでいる。風力発電及び太陽光発電やスマートグリッドなどに利用される充電用の電力貯蔵システム用蓄電池用途のリチウム需要量は2016年から2020年にかけて急増するものの、2020年の3セグメントの合計需要量に占める割合は依然として低いとしている。
なお、2次電池のリチウム需要量について、Roskill社の試算した値(2017年に130,000 tLCE)とUmicore社の試算した値(2020年に78,700 tLCE)に相違が見られるが、この相違は2次電池向けのリチウム需要量の積算方法の相違に依ると推測され、両社ともに2次電池用途のリチウム需要量は2012年比で2020年には3倍以上に急増するという点では一致している。
今回の講演ではこのように将来的なリチウム需要は急増する見込みであるとの強気の需要予測が発表された一方で、国内の一部のメーカーは既に生産設備の拡張計画を延期することを決定しているように、日本側のリチウム産業の川中・川下からの参加者からは足元の需要は最近全く伸びておらず、これら2社の試算は実需を反映した予測値ではないとの声も聞かれた。