報告書&レポート
「第3回欧州原材料会議」参加報告

2013年3月19日、ニッケル協会(Nickel Institute)主催の「第3 回欧州原材料会議」がベルギーの首都ブリュッセルで開催された。本会議の目的は、欧州産業の発展及び競争力強化にとって不可欠な原材料を確保するために欧州が取るべき実践的な政策に関して議論することである。配布された参加者リストによると、欧州議会、欧州委員会、各国政府代表、産業団体、民間企業等から188名が参加登録をしていた。 本稿では、本会議で行われた主な講演の概要を報告する。 |
1. セッション1:基調講演
1-1.講演:「欧州委員会の見解」
Daniel Calleja Crespo、欧州委員会 企業・産業総局総局長
原材料は欧州の経済と社会にとって不可欠であるが、その安定供給が脅かされていることから、厳格でかつ融通性のある法的枠組みが必要である。EUでは2008年に欧州原材料戦略を策定した。欧州原材料政策は、①資源へのアクセスに関する公平な競争条件の確立、②欧州域内での持続可能な供給の促進、③資源効率とリサイクルの向上、の3本柱から成り立っている。一つ目の柱の下では、世界市場において公平かつ持続可能な原材料の供給を確保するため、世界中の国及び地域との対話、外交、協力を行っている。既に米国、日本、ロシア、南米諸国、地中海諸国、中国、グリーンランドそしてアフリカ連合と対話が行われている。また中国によるレアアース輸出制限に関しては、WTOに提訴した。二つ目の柱の下の主な活動には、ベストプラクティス(最良の実践例)の交換、EUの知識基盤の強化、研究とスキルの促進等が含まれる。知識基盤の強化の一環として、「欧州レアアース能力ネットワーク(European Rare Earth Competency Network (ERECON)」プロジェクトが行われ、レアアースの生産と利用に関する研究が近々開始される予定である。三つ目の柱である資源効率とリサイクルに関しては、廃棄物に関する既存のEU規制の執行と廃棄物の輸送に関する規制の強化が主な活動である。
欧州委員会は2010年に、EUにとって不可欠な14鉱種の鉱物資源(CRM:Critical Raw Material)を選定しており、2013年末までにはパブリックコメントや欧州議会の意見を考慮に入れた外部調査に基づきCRMリストの改正案に関する話し合いが行われ、2014年前半には改正版のCRMリストが採択される予定である。
前回の原材料会議以降に始まった新しいイニシアティブとしては2012年10月に発足した原材料に関する欧州イノベーション・パートナーシップ(EIP)がある。これはEUの成長戦略であるEurope2020の主要イニシアティブの一つである「イノベーション・ユニオン」の一環であり、戦略的実施計画が2013年7月までに採択される見通しである。EIPによって、上流及び下流産業の利害関係者が協力し、原材料のバリューチェーン全体におけるイノベーションが促進されることが期待されている。
1-2.講演:「欧州理事会の見解」
Grazyna Henclewska、ポーランド経済省、原材料担当次官
欧州委員会が2008年に原材料に関するコミュニケーションを発表して以来、原材料は欧州において優先的な課題として扱われてきた。原材料はEU加盟国の経済にとって重要であるが、その供給には限りがあり、代替利用が可能でない場合が多い。そのため、欧州イノベーション・パートナーシップ(EIP)により、原材料の安全供給が大きく向上されることを期待している。また欧州の経済回復のために鉱業が担う役割の重要性を欧州委員会が認識しており、欧州産業の復興(re-industrialisation)が呼びかけられていることを好ましく思っている。欧州産業の復興のためには原材料が不可欠であるため、採取産業がより注目されるべきであり、採取産業が提供できるイノベーションのポテンシャルが認識される必要がある。リサイクルに関しては、リサイクル技術の向上と普及はEU域外からの原材料の輸入依存度を減少させることにつながるため、生産の全ての段階においてリサイクルを組み入れ、原材料の無駄をなくすことが重要である。また事務手続きや規制といった不必要な障壁を最小限にすることも不可欠である。欧州委員会は、EIPとEUの他のイニシアティブとの間での一貫性を確立するとともに、産業政策がエネルギーや環境政策からも支援されるようにしなければならない。原材料外交に関しては、欧州委員会の活動を高く評価しており、対話を通じて双方に利益をもたらす結果が得られることを期待する。
1-3.講演:「環境に関する欧州委員会の見解」
Janez Potočnik、欧州委員会、環境委員
欧州産業の競争性を維持するための対策としては、単に欧州で原材料を生産し、輸入依存度を減らすという方法は実行可能ではない。資源効率の向上は、輸入依存度の減少、新しいビジネスチャンスの創造につながり、欧州産業の将来的な競争性の強化につながる。資源の消費量を削減すると同時にGDP成長を実現する絶対的デカップリング(absolute decoupling)の達成なくしては、欧州経済の将来的な成長は難しい。加えて、廃棄物のリサイクル、修復、再利用による循環型経済(closed loop economy)の構築が不可欠であり、そのためには産業界が中心となってイノベーションを推進していかなくてはならない。
2. セッション2:欧州において持続可能で競争力のある鉱業を発展させる
セッション2~4では、異なるテーマに関して各パネリストが短いスピーチまたはプレゼンを行い、それに続いてパネリストと会場参加者の間で質疑応答が行われた。
2-1.Mattia Pellegrini、欧州委員会、企業・産業総局、Head of Unit、Raw materials, Metals, Minerals and Forest-based industries
欧州原材料政策の3本柱のうちの一つが、欧州域内において持続可能な供給を培うことであり、その活動は主に①ベストプラクティスの供給、②EUにおける知識基盤の強化の二つに分けられる。①の具体例としては、各国の鉱物資源政策、鉱業のための土地利用計画、鉱業権発行のプロセスの簡素化、環境影響評価などに関するEU加盟国のベストプラクティスの特定及び共有が挙げられる。②には、一次及び二次資源を含むEUの原材料に関する知識基盤の強化と、高い能力を持った専門家の量と質を向上させるための活動が含まれる。
欧州イノベーション・パートナーシップ(EIP)に関しては、ワーキング・パッケージ3(WP3)が「欧州における原材料の規制枠組み、知識基盤及びインフラの向上」を目的としており、EIPにおいても欧州鉱業の発展のためにベストプラクティスの供給や資源に関する知識基盤の強化が図られる。
2-2. Corina Hebestreit、Euromines、Director
Eurominesは、企業・産業総局が欧州における原材料供給の強化のために行っている取り組みを歓迎している。
欧州産業の復興は、家屋の修復と同じようなもので、まず土台作りが大切である。土台として、資源や商品に関する知識基盤、そして資源・エネルギー効率を向上するための技術を強化することが大切である。またEUの全加盟国が参加する共同研究プログラムを実施することも重要である。土台の次は枠組みである。産業の発展を阻むような数々の法的枠組みを撤廃する必要がある。また欧州における探鉱活動を促進するためには、税金の払い戻し、中小企業への支援、外国投資の誘致に関する政策が有効であると考えられる。最後に、土台、枠組みを支えるための人が必要である。原材料の種類毎に十分な人数の熟練労働者を確保する必要がある。また労働者はトレーニングを受けて能力の維持・向上を継続し、最先端技術を扱えるようにしておく必要がある
2-3.Patrice Christmann、BRGM(仏地質・鉱山研究所)、Head of Mineral Resources Department
車やコンピューターなど商品のサプライチェーンの最上流には地質学的知識がある。他のパネリストが述べていた通り、競争力のある鉱業を欧州で発展させるためには知識基盤が重要である。またサプライチェーンの全ての段階での技術面的イノベーションへの投資や研究も不可欠である。2050年までには世界人口がさらに20億人増加し、生活の質が向上することも考えられることから、原材料需要が増々増加することが予想される。世界の原材料生産における中国のシェアは過去20年で急増した。中国は鉱石等の原料や金属等の材料をそのまま輸出するのではなく製品の形で輸出することを望むので、世界は中国からの原材料供給に期待していてはいけない。欧州で持続可能かつ競争力のある鉱業を発展させるためには、一貫性のあるより良い政策を実施する必要がある。また欧州委員会による原材料EIPのイニシアティブでは、大臣、CEO、学者等の利害関係者が課題に関して対話を行う良い機会になると期待している。
2-4. Guy Thiran、Eurometaux、Director-General
原材料のバリューチェーン全体を最大限に活用することが持続可能な経済において重要である。金属に関しては、金属が有する耐久性やリサイクル性を十分に利用することで、持続可能な社会構築のためのソリューションを提供することができる。EUにおいては都市鉱山などもあり原材料のリサイクルに関するポテンシャルが高いが、一方で課題も付随する。EUにおいて原材料のリサイクルを促進するためには、エコデザインの改善によるリサイクル性の向上、使用済み原材料の回収と前処理の向上、廃棄物規制の実施強化、リサイクル市場における平等な競争条件の確立といった対策が有効であると考えられる。原材料のリサイクルのポテンシャルが高いEUにおいては、原材料の種類毎に具体的かつ意欲的な目標値を設定するとともに、リサイクルの利益が政策においてより認識されれば、今後EUにおける原材料のリサイクルがより普及していくと期待している。
2-5.質疑応答(一部抜粋)
・ EUにおいて冶金(metallurgy)能力を維持することが重要である。冶金能力がなくてはリサイクルもできない。
・ 特殊な金属の生産を行っている中小企業を特定し、存続を支援すべきである。
・ レアアースの鉱山生産量に関しては中国による独占状態は変化しつつあるが、レアアースの製錬に関しては依然として独占状態にある。EU内で冶金能力を確保することが重要であり、バリューチェーン全体を注視しなくてはならない。
・ EUで持続可能な鉱業を発展させるためには、EU内で人的資源を確保することが重要である。EU内の大学で鉱業に関する修士課程や技術コースを促進する必要がある。大学の教育科目に関しては各国政府の権限下にあるが、EUレベルでは鉱業に関するトレーニングプログラムの実施を検討すべきである。
・ 欧州内の大学において特定の専門コースに関して大学間で学生の行き来を可能にするプログラムがあり、当初は欧州委員会から資金提供があったが、鉱業への関心が薄れたため、後に援助が途絶えたという経緯がある。鉱業に関してこのプログラムの強化をするというのも一案ではないだろうか。
・ (原材料の)廃棄物の輸出に関しては課題があり、欧州委員会では実態の調査を行うとともに、第三国へ廃棄物が輸出された場合に、その廃棄物が環境に配慮された形でリサイクルされたことを証明することの義務化、といった対策を検討している。
・ 欧州産業の競争性を高め、欧州社会が富を享受するためには、EU政策における一貫性、そして的確な優先順位付けが重要である。
3. セッション3:原材料の安定供給のための国際協力-公平な貿易と統治
3-1. Petros Sourmelis、欧州委員会、貿易総局、Head of Unit、Market Access, Industry, Energy and Raw Materials
世界的に原材料需要が増大しているが、原材料資源は偏在しており国際的に相互依存性が高まっているため、原材料の貿易は必須である。しかし、原材料の貿易においては、貿易の制限的措置が増加傾向にあり、希少な資源の最適配分が行われていないという課題がある。欧州委員会としては、2008年に欧州原材料政策を策定し、「世界市場からの公平で持続可能な供給の確保」を3本柱の一つとした。原材料に関する貿易政策は、①規則(discipline)に関する交渉、②貿易障壁に対する取り組み、③対話とアウトリーチ活動、の3つを主な目標としている。具体的には、①では貿易規制や輸出税等に関する多国間または二国間での交渉及び協定締結、②では貿易障壁の監視と撤去のための交渉そしてWTOを通じた提訴、③では多数の重要なパートナーとの対話とOECD、G8/G20でのアウトリーチ活動等が行われている。
EUでは、原材料の分野における貿易規制措置に対する包括的な手段を構築しているが、今後は貿易障壁を取り除くための努力を一層強化していく予定である。
3-2.Zhang Lirong、中国EU代表部、次席大使
原材料の持続可能な安全供給は欧州だけではなく国際社会全体に関わることであり、国際協力を通じて原材料供給を確保する効果的な方法を見つけることが重要である。そのためには、技術的イノベーションの強化、原材料価格の安定化、公平な貿易の支援の3つが大切であると考える。貿易摩擦は協議を通じて解決し、保護主義には断固として反対していかなくてはならない。
中国は原材料の主要輸入国であると同時に、中国からの輸出は世界経済にとって不可欠なものとなっている。中国は原材料に関する国際協力に積極的に参加しており、互恵的なwin-win協力に傾注している。特定の原材料に関する中国政府の輸出管理に対して懸念が抱かれているが、輸出規制は環境保護の観点から導入されたものである。レアアースに関しては、長期にわたり無秩序な状態で採掘されており、環境と中国国民へ多大な被害を与えた。そのため、国民からの要望に応える形で措置がとられたものである。実際には、現在、中国からのレアアース輸出量は既に国際市場の通常の需要を満たすものである。加えて、我々はレアアース供給の多様化は長期的には利益があると考えており、レアアースが賦存している国には(レアアース供給の)責任を分かち合い、世界の発展のために貢献してもらいたい。
また中国の工業情報化部(MIIT)と欧州委員会は、原材料に関するワーキンググループ会合を既に二度行っており、中国の第12次五カ年計画など原材料に関する最新の情報を交換している。中国としては、今後、EUとの協力関係を強化し、イノベーションやwin-win協力のためのより効果的な計画を策定していきたい。
3-3. Marinke van Riet、Publish What You Pay、International Director
原材料に関しては世界的に相互依存性が高く、欧州に関してはアフリカといった不透明性の高い地域からの資源供給に依存しており、エネルギー安全保障の面で脆弱性がある。アフリカでは、資源から得られる利益が国民ではなく少数の政府上層部によって浪費されたり、資源が国に平和や安定ではなく紛争をもたらした例もある。この問題への対策としては、採取産業における透明性の向上が重要であり、Publish What You Pay(PWYP)ではそれを推進するための活動を行っている。PWYPのキャンペーン活動が実り、2002年に当時のTony Blair英首相が採取産業透明性イニシアティブ(EITI:Extractive Industries Transparency Initiative)を発足した。EITIは現在37カ国で実施されており普及が進んでいるが、参加は各国政府の意思にかかっており、ロシアや中国といった採取産業における透明性から大きな利益を享受できる国がまだ参加していない。また不準拠の際の制裁措置もない。PWYPでは歳入に関する情報開示の義務化を求めてキャンペーンを行っている。採取産業における透明性の向上は世界的な流れであり、2010年には米Dodd-Frank法が成立し、EUでは財務に関わる透明性指令の改正を行っている。今後は、全ての利害関係者にとって平等な条件を与えられるような歳入の透明性に関する国際基準の設定が必要であると考える。
3-4. Markus J. Beyrer、BUSINESSEUROPE、事務局長
原材料に関しては自給自足できる国はないが、欧州は原材料の輸入依存度が高いため、欧州原材料政策は重要な政策であると支持している。原材料の安定供給を向上するための欧州委員会の活動は高く評価しているが、ロシアや中国といった主要生産国による輸出規制といった問題が残っている。国内産業に価格優遇を与える目的での輸出制限は、貿易における平等条件を乱すため、WTOはそのような輸出制限措置を禁じている。EUがWTOに輸出制限措置に対する異議の申し立てを行ったり、反ダンピング規則を導入したりしたことは、自由な市場を促進する上で意義のあることであるが、今後は資源国とのより緊密な外交関係を構築していく必要がある。
原材料外交に関しては、主要な原材料供給国との関係強化のための努力がされている一方で、欧州規制の中には供給国との協力関係を損なうような規制がある。BUSINESSEUROPEは、持続可能性という名の下に、欧州委員会が産業界のコスト増となり供給国との関係悪化につながるような規制を推進していることには反対する。
欧州産業は採取産業における透明性の向上を目的としたEITIを積極的に支持しているが、残念なことにEU透明性指令はEITIとは異なるアプローチを取っている。EUは欧州企業に対して、プロジェクト毎に資源国政府への支払額を報告するように命じているため、企業の会計コストが増大し、それが下流産業に転嫁される。また資源国政府がそのような情報の開示を禁止している場合でも、EUは企業に報告を義務付けているため、欧州企業は欧州の法律に違反するか資源国の法律に違反するかのどちらかを選択せざるを得なくなり、結果的にプロジェクトが収用されるリスクがある。また紛争鉱物に関しては、EU機関、産業、NGOが協力して対処すべき課題であるが、EUでは事実上の禁輸措置となった米Dodd-Frank法を模倣するのではなく、より建設的な政策を策定するべきである。
3-5.質疑応答
・ 中国はレアアースの埋蔵量は世界全体の30%以下だが、世界需要の90%を満たしている。このような状況を継続するよう要請されるのは不公平であるばかりか、持続可能ではない。中国はできる限りの貢献をしているが、他の国にもレアアース生産の多様化のために貢献してほしい(Lirong次席大使)。
・ 欧州委員会では紛争及び高リスク地域からの鉱物資源に対するイニシアティブの発足を検討中で、近いうちにパブコメの受付けが開始される。利害関係者が意見を提出し、Dodd-Frank法の単なるコピーではなくEUにとっての最善策を見つけられることを期待している。中国のレアアース問題に関しては、環境保護政策の実施は支援するが、国内企業とそれ以外の企業に対する条件に差があることが問題である。(欧州委員会Sourmelis氏)
4. セッション4:バリューチェーンにおける原材料需要-資源の効率的な利用によって課題に対処する
4-1. Judith Merkies、欧州議会委員(オランダ労働党)
経済成長を消費によって測定することには問題がある。消費量ではなく、生産性やそのほかの指数によって経済成長を評価すべきである。そこで、私は「賃貸経済(leasing economy)」の構築を提案したい。賃貸経済とは、顧客が商品を購入するのではなく、生産者に賃貸料を支払って商品を借りる社会で、従来の所有権の概念がない。賃貸期限になると顧客は商品を生産者に返却していくらかお金を受取り、生産者は返却された商品を修繕し再使用・再利用する。生産者は商品が返却された時のことを考えて商品を生産するため、自然とエコデザインでエネルギー効率のよい高品質の商品を生産するようになる。また循環型社会であるため、供給不足が生じることはなく、顧客は高品質の商品を手ごろな価格で入手することができるようになる。賃貸経済の構築のためには、EUが豊富に有する革新的なアイデアをうまく利用し、法制度を整えていく必要がある。
4-2. Ester Van der Voet、Leiden大学、助教授
EU資源戦略におけるデカップリングとは、成長する経済において天然資源の利用による環境への負荷を軽減しつつ、経済における全体的な資源の生産性を向上することで、資源の消費量が主な指標として用いられている。しかし、需要と供給のダイナミクス、資源毎の見解、異なる資源間での関連性、そしてイノベーションや技術に関する多くの情報が不足しており、EU資源戦略におけるデカップリングの概念では、資源効率に関する全体像をつかめない。持続可能な資源供給に関しては、長期的な視野を持って、人口だけではなく、福祉、資源効率といった要素を考慮に入れる必要がある。また循環型社会を構築するためには、資源需要を安定化させることが重要である。
4-3. Kevin Bradley、Nickel Institute、President
欧州の金属業界は、採掘技術、生産効率、リサイクルの向上の面で積極的な活動をしてきており、資源効率に関しても実績がある。EU政府の活動に関しては、原材料の安定供給を確保するための努力を支持しており、EIPはよいアイデアだと考えている。資源効率の目標値については、あまりに意欲的すぎる数値を設定することは危険であり、また適切に測定できない目標値を設定することは避けなくてはならない。また化学物質規制(REACH)に関しては、多くの金属物質が懸念物質の候補として挙げられているが、低炭素社会の構築や航空産業等で必要な防食技術に不可欠な金属物質も候補に含まれている。低炭素社会の実現のためには、EUの異なる政策間での一貫性を保つことが必要で、そうでない場合は結果的により多くの資源を消費することにもなりかねない。
4-4. John Ludden教授、英国地質調査所、Executive Director
持続可能で責任ある方法で地球の天然資源を利用すべきである。そのためには、環境への配慮やリサイクル、適切な監視システム等が大切であるが、天然資源の利用において歴史・経験を持つ欧州は、資源採掘に利用された地域の復興事業において商機を見いだせると考えている。解体作業を必要とする施設が多数あり、これは中小企業が新たな市場を開拓する機会であり、欧州が世界に輸出できるような産業へと発展できる可能性を秘めている。資源のバリューチェーンにおいては人間の存在が重要であり、情報収集、意思決定、ニンビー主義(NIMBYism)の間で適切なバランスを取ることが求められる。鉱業の発展には、地域コミュニティときちんと向き合って、適切な情報提供をしていくことが必要である。また欧州鉱業は、地質学的に考えてもアフリカ、アメリカ、豪州といった地域と競合することはなく、原材料の欧州への輸入は常に起こることを理解しなくてはならない。また鉱業の新しいフロンティア地域としては、パキスタンや、アフガニスタン、中国のヒマラヤ山脈などがあり、再び注目を集めている古い鉱山地帯としてはザンビアのカッパーベルト、独ザクセン地方、英デボン州などがある。また海底鉱物資源の採掘に加えて、将来的には宇宙で資源開発が行われる可能性もある。
4-5.Michel Baumgartner、Eurobat、EU Affairs Manager
蓄電池産業は、原材料の循環型システム(closed loop system)の実施において最良の例であると言える。ニッケルやリチウムなど蓄電池に利用できる金属は種類が限られているが、利用された金属の100%近くがリサイクルされており、また蓄電池の種類によっては、原料の80%が再生素材という蓄電池もある。車に使用されている蓄電池のリサイクル率が高い理由としては、まず蓄電池そのものの価値が高いこと、そして法律によって回収が義務付けられていることが挙げられる。EUの政策には蓄電池産業の追い風となる政策もあるが、逆にREACHのように悪影響を及ぼし得る規制もある。蓄電池産業は、資源効率の向上に関して独自に努力しているが、欧州における蓄電池産業の発展には、安定した法的枠組みが必要である。
4-6.質疑応答
・ 資源効率の目標値を設定することには現状把握の面では意義があるかもしれないが、政治的な動機で目標値が設定されればソビエト連邦政府下での制度のような誰も希望しない制度につながる危険性がある。一方、リサイクルは測定も比較的容易でよい指標である。
・ 資源効率を測定するための指標としては、既存のグローバル・レポーティング・イニシアティブ(GRI)で使用されている指標がOECDやUNEPにも認識されているので、新しい指標を設定するよりは、この指標を改善して利用するのがよいのではないか。
・ EUの基準は、EU内の企業だけを対象にするのではなく世界的に適用された方がよい。また目標値に関しては、進捗状況を適切に測定できる指標を先に設定する必要がある。
・ 循環型社会の構築のためには、原材料の需要が落ち着き、同時に2次生産量を増大させる必要があるので、循環型社会の実現にはまだ10年以上はかかると思われる。
5. 所感
本会議は、欧州委員会、欧州議会、各国政府代表、産業団体、民間企業、NGO団体など様々な立場の利害関係者が集うため、同じテーマでも異なる視点から見た欧州原材料政策の現状が確認できる。産業界は欧州委員会の原材料政策を基本的には歓迎・支持しているものの、前回の会議と同様、他の欧州政策との一貫性に関する懸念を強く表明していた。欧州イノベーション・パートナーシップ(EIP)や透明性指令に関しては、次回の会議までに大きく進展していくと考えられるため、動向に注目していきたい。
また今回の会議に中国EU代表部の次席大使が講演者として招かれていたことは、中国のレアアース輸出規制問題に対するEUでの関心の高さ、そしてEUと中国との関係強化の動きを示していると思われる。EUとEU以外の国との関係に関しても引き続き注視していきたい。

