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報告書&レポート

2013年5月16日 サンティアゴ事務所 縫部保徳
2013年27号

第6回探鉱フォーラムの概要

 2013年4月8日、第6回探鉱フォーラムがチリ・サンティアゴのHotel Sheratonにおいて、参加者約450名を集め開催された。今回で6回目を迎える同フォーラムでは、過年度よりチリでの探鉱に関連する投資プロジェクトの状況、規制及び政策についての問題点が議論されてきた。今回のフォーラムでは、チリの探鉱促進に必要な施策、同国で探鉱開発プロジェクトを展開中のジュニア・中堅企業の活動状況、世界的に難しさを増している探鉱資金調達と鉱業への影響、持続的な鉱物資源探鉱をテーマとして議論が行われた。本稿ではフォーラムで行われた講演の概要を紹介する。

表 第6回探鉱フォーラムプログラム

  講演者 講演タイトル
Opening Remarks Hernán de Solminihac (Minister of Mining) Advance in Mineral Exploration in Chile: Challenges and Responses
Opening Presentations Michael Chander (Strategic Advisor and Founder, Metals Economic Group) Global Exploration Trends
Session 1 Louis Vos (Chief Investment Officer, IFC) Trends in Mining
Cristián Quinzio (Director, CESCO) Necessary actions to promote the mineral exploration
Session 2 Iván Garrido (General Manager, Andes Iron) Dominga Project
Isac Burstein (Vicepresident of business development, Hochschild Mining Plc) Expanding our exploration portfolio
Christian Easterday (Managing Director, Hot Chili Limited) Emerging Major Copper Producer
Juan Pablo Vergas (General Manager, Estrella Resources Chile) Chile’s Star in Copper-Gold
Session 3 Orlee Wertheim (Head of Business Development, TSX) A Captital Opportunity
Samantha Alfonzo (Partner, Fasken Martineau LLP’s Global Mining and Business Law Groups) Alternatives to finance mining projects – What do we do when there is no appetite in the capital market
Edward Meir (Senior Commodity Consultant, INTL FCStone) Capital Restrictions for Exploration and its Impact on the Mining Industry
Session 4 Glenn Nolan (President, PDAC) Sustainability in Mining Exploration
Jaime Solari (General Manager, SGA) Sustainability in Mining Exploration in Chile
David Brereton (Center for Social Responsibility in Mining, The University of Queensland) Sustainable Exploration Practice: the Social Dimension

1. 講演概要

1-1. 冒頭セッション
(1) Advance in Mineral Exploration in Chile:Challenges and Responses:Hernán de Solminihac鉱業大臣
 ・ 近年のチリへの鉱物探鉱投資状況

2012年にチリに投入された探鉱資金は、金属価格の下落にもかかわらず前年比25%増の10.35億US$に達し、この額はカナダ、豪州、米国、メキシコに次ぎ世界で5番目である。銅探鉱に限ってみれば、チリへの探鉱投資額が世界全体の15%を占めトップである。チリへの探鉱投資の内訳では、過去5年においてはベースメタル探鉱費の割合が減少し、金及びその他金属の割合が増加しており、わずかずつではあるが探鉱対象が多様化する傾向が認められる。

 ・ チリにおける鉱物探鉱の課題

未来の鉱源確保活動とも言える探鉱ジュニア企業による探鉱投資及びマインサイト以外での探鉱投資は世界平均と比べると低調であり、チリにおける鉱物探鉱の課題である。

 ・ チリ鉱業省による探鉱促進政策

チリ鉱業省は探鉱促進のため、①新規地質図類の整備、②地質及び鉱業権情報へのアクセス改善、③鉱業権手続き期間の短縮、④探鉱可能領域の拡大(国有企業(ENAMI)鉱区入札)、⑤探鉱資金調達制度の整備、の5つの計画を推進している。

(2) Global Exploration Trends:MEG 戦略アドバイザー・設立者 Michael Chander氏

 中国の景気減速、コストの高騰、相次ぐ資源メジャーCEOの交代、投資家の関心低下などにより探鉱分野の状況は大きく変化している。探鉱により獲得される資源量は長期的減少トレンドを示しているが、今後さらに減少傾向が加速化する(新規鉱源発見がより難しくなる)シナリオも考えられる。現在の探鉱分野の目立った傾向として、メジャーが投資に慎重になっていること、買収件数が減少していること、資源国からより大きな権益シェア取得が要求されていることが挙げられる。

 世界の2012年探鉱投資額は、2009年からの上昇トレンドを保った。グラスルーツ探鉱への投資割合は近年世界的に減少傾向にあり、その分マインサイト探鉱の割合が漸増している。一方で、銅探鉱に絞ってみた場合、2009年以降グラスルーツ探鉱の割合が増加傾向を見せている。世界の探鉱投資では、メジャー企業からの投資がジュニア企業からのそれを3年ぶりに上回り、ラテンアメリカでは2009年以降同様の傾向であったものの、その差が開いた。

 2013年の探鉱費は、ジュニアは縮小傾向に、メジャーは企業間での差異はあるものの、全体として10%程度の減となると予測されている。

1-2. セッション1:チリでの探鉱促進に何が必要か?
(1) Trends in Mining:IFC 最高投資責任者 Louis Vos氏

 世界の中流階級人口は2030年までに36億人に達し(現在19億人)、この中流階級の急速な拡大が世界の経済成長を牽引する。また、都市人口増加の傾向は将来にわたって継続し、途上国でも都市部の人口が農村部の人口を2020年には上回り、ITインフラ投資需要の成長が見込まれる。

 今後の鉱業生産はガバナンスの未発達な国々へシフトし、住民による鉱業に対する要求は拡大していく。この様な地域で鉱業開発を行っていくため、高い透明性を確保した上で、地元労働者の技術力の向上、長期的視野に立った育成、インフラ問題解消のための思い切った資金調達などが重要である。

(2) Necessary actions to promote the mineral exploration:CESCO 理事 Cristián Quinzio氏

 チリの鉱業大国としての地位を維持するため、これまでにも政府はフェニックスファンドの立ち上げや鉱物資源・埋蔵量評価有資格者委員会(Comisíon Calificadora de Competencias de Recursos y Reservas Mineras)(法律第20,235号)を設立するなど制度面での改善を図ってきているが、更なる探鉱振興施策として以下が提案された。

 ・ 地質情報の質・量の充実

各鉱山会社が探鉱で得た地質基本情報をSERNAGEOMINへ提出させ、国の地質基本情報を最新化していく。

 ・ 鉱業のチリ金融市場への取り込み

中小鉱山企業のチリ金融市場へ取り込み、これらの企業が民間資金を得やすい環境を整える。

 ・ 国営企業の鉱業権益へのアクセス改善

現在行われている入札プロセスの簡易化及び迅速化。

 ・ 鉱業法制の改善

探鉱鉱区の有効期間を4年へ拡張する。また、同一人物により同一箇所へ申請することに関して制限を行うこととし、活動を行っていない採掘鉱区は返納させる。

1-3. セッション2:チリの鉱山開発プロジェクトの課題
(1) Dominga Project:Andes Iron 社長 Iván Garrido氏

 Andes Iron社(以下、AI)がチリ第IV州に保有するDomingaプロジェクト(現在FSステージ)はLa Serenaの北70kmに位置し、インフラ状況の良いプロジェクト。同プロジェクトは2002年にPhelps DodgeとLatin America CopperのJVでスタートし、2011年にAIがMinera Activa社から購入、現在に至っている。チリ海岸山脈中の酸化鉄銅金(IOCG)鉱床ベルトに位置し、Dominga鉱床の資源量として20億t、Fe 24%、Cu 0.1%、Au 0.014 g/tが試算されている。鉱床の分布は、地表磁気探査で把握された高磁気異常と非常に良く一致する。露天採掘(剥土比2.7)、海水利用、Pellet Feed(Fe 65%)及び銅精鉱(Cu 25%)の生産が計画されている。プロジェクト開発に係る全ての資金はチリ国内で調達している。

(2) Expanding our exploration portfolio:Hochshild Mining ビジネス開発部門副社長 Isac Burstein氏

 ペルーに本社を置き、同国以外にメキシコ、チリ、アルゼンチンにも銀鉱山及び探鉱開発プロジェクトを有するHochshild Mining社の企業戦略及びプロジェクトを紹介した講演。同社の銀の年間生産量は2,000万oz(622 t)で、2014年末にはこれを50%増加させることを計画。中長期的には多様な新規探鉱プロジェクトを軌道に乗せていくことで、持続的な成長を続けていく戦略である。

(3) Emerging Major Copper Producer:Hot Chili 専務 Christian Easterday氏

 チリ第III州から第IV州にかけて銅の探鉱開発プロジェクトを手がけるHot Chili社の旗艦プロジェクトProductoraを中心に、同社の戦略を紹介した講演。Productoraプロジェクトは第III州Vallenarの南に位置する現在本格探鉱ステージのプロジェクトで、資源量1.65億t、Cu 0.6%、Au 0.1 g/t、Mo 132 ppmが見積もられている。鉱体は延長7.5kmに対し、幅が300mと南北に引き延ばされた形状を示す。プレFS完了は2013年Q3に予定されており、2014年中に開発決定を行いたい考え。Hot Chili社はProductora以外にもCODELCOとのJVであるLos Mantosプロジェクトを保有している。

(4) Chile’s Star in Copper-Gold:Estrella Resources Chile 社長 Juan Pablo Vergas氏

 2013年2月にチリ第II州のSQM鉱区でIOCG鉱床をターゲットとしたオプション契約を締結したEstrella Resources社(以下、ER)の企業戦略を紹介した講演。ERはIOCG鉱床探鉱に特化し、チリ第II州から第IV州にかけて4プロジェクトを保有している。同社はSQMを戦略パートナーとし、JVを通して探鉱を推進する戦略。金融市場が探鉱への融資を回避する現状において、ERはブティック型投資銀行を利用し資金を調達している。

1-4. セッション3:世界的に見た探鉱資本の抑制と鉱業への影響
(1) A Captital Opportunity:TSX ビジネス開発部長 Orlee Wertheim女史

 カナダ・トロント証券取引所の概要を紹介した講演。ラテンアメリカで探鉱を行っているトロント証券取引所(TSX)及びトロントベンチャー取引所(TSX-V)上場の鉱山企業数は合わせて491社、鉱業プロジェクト数は1,526にのぼる。TSX及びTSX-Vにおいて、ラテンアメリカでの鉱業プロジェクト関連で2012年に集められた資本金は19億C$である。これらをチリに絞ってみると、企業数は55社、鉱業プロジェクト数は145、2012年に集められた資本金は1億2,600万C$である。

(2) Alternatives to finance mining projects – What do we do when there is no appetite in the capital market:Fasken Martineau パートナー Samantha Alfonzo女史

 鉱業プロジェクトが資本市場以外で資金を獲得するための方法として、プロジェクト・ファイナンス、民間金融、債権発行、ロイヤルティ・ストリーム(Royalty Streams:プロジェクトによる生産の一定権益を与えるもの)、ストリーミング契約(Streaming Agreement:プロジェクトからの生産物の一部または全ての副産物の権利を売却し事前に資金を得る)、自社株式を利用した融資、資金を持つが優良なプロジェクトを持たない会社との合併が示され、これらの実際の例が紹介された。

(3) Capital Restrictions for Exploration and its Impact on the Mining Industry:INTL FCStone シニアコモディティコンサルタント Edward Meir氏

 探鉱資金調達の現状を、銅価格を通して分析した講演。2000年以降の銅価格を見ると、2004年までが下げ相場(Bear Market)及び上げ相場(Bull Market)への過渡期、2005年後半から2010年前半を上げ相場、2010年後半からは上げ相場から下げ相場への過渡期と見ることができる。2004年までの下げ相場では銅価格と銅の使用量に相関が認められるが、2005年以降はその相関は認められなくなる一方で、インデックスファンドと非常に似た値動きを示している。LMEの顧客数では2003年ぐらいまではトレーダーが優勢であったが、それ以降はファンドが多くなり、今日では60%以上を占めるに至っており、ファンドの活動がヘッジを上回っている状況である。

 金属価格以外に資金調達を難しくしている要因として、鉱業プロジェクトが立ち上げに長い時間を要すること、投資家が下げ相場が長く上げ相場の短い状況で大規模な資本投資を嫌っていることなどが挙げられた。

 資金調達のための新規株式発行は現状困難であり、かつ、有名どころでない場合はさらに難しい。債権市場はよい資金源ではあるものの、市場の信用がないと資金調達が難しいのは新規株式発行と同じである。

1-5. セッション4:鉱物探鉱ビジネスにおける持続可能性
(1) Sustainability in Mining Exploration:PDAC 会長 Glenn Nolan氏

 鉱物探鉱は世界規模の競争にさらされ、新しい課題に直面している。探鉱成功の際の見返りが大きくなっているとともに、リスクも拡大している。資源国は鉱物探鉱の課題を認識しており、政策面から探鉱産業を振興しようとしている。今後も探鉱産業を持続的に発展させていくためには、政府・鉱山会社・地元コミュニティの協力、鉱業関連教育の促進、地元労働力のトレーニング、地方産業の育成、環境に優しい開発などが鍵となる。

(2) Sustainability in Mining Exploration in Chile:SGA 社長 Jaime Solari氏

 チリにおける探鉱関連規則には、環境影響評価システムに関する規則令、鉱山保安規則令、閉山法施行細則、ILO第169号条約がある。1997年以前には各種関連規則を統括する当局からの規制を受けるだけであったが、1997年からは初期探鉱(exploration)と本格探鉱(prospection)の区別が導入され、本格探鉱のみが環境認可を要求されるようになった。当初、本格探鉱は鉱床規模を把握するための作業とされ厳密な定義はなされていなかったが、2012年になり本格探鉱はチリ北部で40試錐座以上、南部で20試錐座以上の探鉱作業と定められた。

 チリで持続的に探鉱事業を行うためには、環境及びその他規則の遵守、地表権者との合意、地元コミュニティの懸念払拭への取り組み、プロジェクトの将来に関する説明と対話が重要である。

 チリの地元コミュニティはいまだ鉱業開発に好意的であり、探鉱事業参入への敷居は低い。しかしながら、先住民族の土地においてはILO第169号条約遵守違反として先住民が停止請求を行うなど状況が複雑化してきている。

(3) Sustainable Exploration Practice:the Social Dimension:Queensland大学教授 David Brereton氏

 探鉱及び鉱山開発が直面する問題として、新規大規模資源の発見及び開発が難しくなっていること、社会・政治・環境問題の複雑化、先住民の権利意識の高まり、鉱業への世界的な監視の高まりがある。社会的リスクの管理を怠ると現地へのアクセスが難しくなったり、自社の社員や請負企業の社員へ危害が加えられたり、会社への風評被害が出たり、アセットの価値が落ちたりするなどの結果を招く恐れがある。探鉱を行う上で、重要な6つの柱として、①コニュニティを理解するための投資を行う、②プロジェクト開始当初から社会的影響を予測し管理する、③プロジェクトの影響範囲を自ら狭めず幅広いアプローチを行う、④コミュニティの利益とは何かを考える、⑤適宜な情報提供を心がける、⑥閉山の管理もしっかり行う、が挙げられる。

おわりに

 過去2年の探鉱フォーラムと異なり、資本市場からの探鉱資金獲得が困難になっている状況やチリで昨年来鉱山・発電所プロジェクトへの影響が大きい環境問題が強く意識された構成であった。

 鉱業権益の流動化といった鉱業法制の改正は、国会で与野党勢力のねじれが生じている昨今のチリの政治情勢では難しく積年の課題となってしまっているが、一方で新規地質基本図の作成・発行や中小鉱山企業へ探鉱資金を融資するフェニックスファンドの創設などここ数年で前進した施策もある。金属価格の下落やコストの高騰など厳しい課題がある中で、過去5年世界平均を上回る成長を見せてきたチリの探鉱が今後どのような方向に進んでいくのか注目される。

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