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「国際資源ビジネスサミット(J-SUMIT)」講演会報告(その2)-白金族・ニッケルセッション及びマイナーメタルセッション-

JOGMECは、日本企業によるアフリカ等への資源開発投資の促進及び我が国の最先端技術と資源開発分野とのビジネスマッチングを目的として、経済産業省との共催により、日本で初となる国際的な資源フォーラム「国際資源ビジネスサミット(通称:J-SUMIT;Japan Sustainable Mining, Investment & Technology business forum 2013)」を5月16日と17日に都内ホテルにて開催した。 本稿では、6月6日に発行したカレント・トピックス13-30号(国際資源ビジネスサミット(J-SUMIT)講演会報告(その1))での報告に引き続き、アフリカ資源開発をテーマに行われたセッションのうち、初日に行われた白金族・ニッケルセッション及びマイナーメタルセッションについて報告する。 |
1. 白金族・ニッケルセッション
1-1. 「MADAGASCAR’S MINING INDUSTRY POLICY」
Tolotrandry Rajo Daniella Randriafeno, マダガスカル共和国鉱山大臣

マダガスカルでは、鉱業の発展に大きな期待を持っている。従来は小規模に宝石などが採掘されていたが、現在はRio TintoのQMMとAmbatovyの2つの大きなプロジェクトがある。
マダガスカルでは1998年以降、世界銀行の主導により新たな鉱業政策が検討されてきた。2005年には鉱業法が改正され、大規模鉱業投資法も制定された。さらに鉱山登記局(BCMM)なども設立され、地質データベースを整備するとともに、外国からの投資を受け入れる体制を構築している。
環境問題に関しては、2002年に保全地区を大幅に増やし、保全地区及び国立公園内での開発は禁止されているほか、環境影響評価(EIA)を鉱業分野に導入した。
今年7月24日に大統領選挙が行われるため、現在は政権の移行期であるが、法の遵守、投資の保護、透明性の確保などによってプロジェクトは現在も進行しており、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)にも2001年から参画している。今後は、EIA及びEITIを推し進めていく上でも、技術面、環境面での改善を進めていくことが重要と考えている。
マダガスカルには、Ambatovyプロジェクトの他にも多くのニッケル鉱床がある。また、イルメナイト、鉄鉱石、石炭などのプロジェクトも存在しており、支援体制を整備していることから、多くの投資を期待している。また、2国間の協力も深化させていくことで鉱業分野から享受されるメリットを最大化し、Win-Winのビジネス関係の構築を推進・強化していきたい。
1-2. 「アフリカにおける鉱山事業への取組み」
降旗 亨 住友商事 代表取締役 専務執行役員

当社とアフリカとの関係は、南ア・ヨハネスブルグに支店を開設した1963年に遡る。その後、資源を含む多岐に渡る事業をアフリカで展開しており、例えば南アでの風力発電のほか、ナイジェリアやリビアではトヨタ自動車の販売拠点を有している。資源ビジネスでは、南アにおいて、Oresteel社を介してAssmang社の権益を保有することによる鉄鉱石、マンガン及びクロム鉱石の権益投資があり、African Rainbow Minerals社はAssmang社の重要なパートナーである。さらなる挑戦として、マダガスカルにおける世界最大級のニッケル・コバルト一貫製錬所の開発案件であるAmbatovyプロジェクトに取り組んでいる。本プロジェクトでは原鉱石の採鉱から製品までの一貫生産を予定しており、総投資額は2013年3月までの累計額で69億US$に上り、マダガスカルにおける過去最大の外国直接投資となる。うち、21億US$はJBIC等の国際金融機関による協調融資であり、鉱業セクターで過去最大の協調融資額となっている。現在、フル生産に向けた開発を進めているところである。
当社は本プロジェクトの27.5%の株式を保有する主要株主として、社員の労働環境の整備、周辺社会との調和及び環境問題等に対して、マダガスカルの関連法規や関係する国際基準の遵守は当然のこととしながらも、加えて、プロジェクトから派生するあらゆるインパクトを軽減するための国際標準の達成に自律的に取り組むことで、マダガスカルとの共存共栄のための持続可能な責任ある開発を行っている。そのためにも、両国政府には引き続き強力な支援をお願いしたい。
1-3. 「Building and Discovering Competitive PGM Mines」
R. Michael Jones, President & CEO, Platinum Group Metals

Platinum Group Metals社(以下PGM社)では、コスト優位性のある白金族鉱山の開発を目指し、南アとカナダで探鉱活動を行っている。カナダに本社を置き、ニューヨーク証券取引所及びトロント証券取引所に上場している。
南アではWestern Bushveld Joint Venture-WBJVプロジェクト(PGM社:74.0%シェア)及びWaterberg プロジェクト(PGM社:49.9%シェア)の開発を進めており、WBJVプロジェクトでは2014年後半の商業生産開始を予定している。一方、Waterbergプロジェクトは2009年から約4年間に渡り、JOGMECと共同探鉱を行っている案件で、2013年2月現在の予測鉱物資源量で10.1百万oz(Pt:約3百万oz、Pd:約6百万oz、Au:約1百万oz)を確認している。本鉱床の特徴は、地表浅部に賦存しており、かつ鉱化帯の層厚が比較的厚いことから、開発と生産の両面で競争力に優れている点にある。
白金族は、自動車の排気ガス浄化触媒や宝飾品の用途で今後も力強い成長が期待できる金属であり、当社はコスト優位性のある白金族鉱山の開発に注力していく。
1-4. 「Platinum-Group Metals: Future Fundamentals」
Stephen Forrest, Director, Principal Consulting Analyst & Engineer,
SFA OXFORD

PGMの需要は、自動車の排気ガス規制強化が世界的なトレンドとなっていることから、中長期的に継続して増加すると考えられる。例えば、中国が2014年から全土導入を予定しているChina-4 (Euro-4に相当)は、プラチナ(Pt)及びパラジウム(Pd)需要の拡大要因となる。さらに、China-5(Euro-5に相当)の全土導入が2017年に予定されており、PGM需要は一段と増加すると予想される。また、欧州で2014年から導入されるEuro-6の規制をクリアするには、触媒中のPt比率を増やすことで触媒性能を向上させる必要があると言われており、特にPtの需要を増加させる要因となるであろう。
こうした将来的な需要増に対して、主要産出国である南アでは労働争議の頻発や電力不足による製錬所の低稼働等の物理的な問題により、足元の生産量が伸びていない。また、賃金コストの上昇、電力料金の値上げ及び鉱化帯の深部化等に伴う生産コストの大幅な上昇により、採算性の低い鉱山が閉山され、さらに計画されていた新規鉱区の開発も延期されており、中長期的な供給量不足を招くと考えられる。
したがって、PGMの需給バランスはタイトに推移すると考えられ、中長期的な価格は上昇傾向にある。一方、ロジウム(Rh)については、2008年の極端な価格高騰が需要家(自動車業界)の逃避を招き、結果として市場在庫が依然として多いことから早期の価格回復は難しいと思われる。
1-5. 「The discovery of World Class mineral deposits in Botswana and Australia」
Michael G. Jones, Managing Director, Impact Minerals

当社はボツワナ、豪州及びトルコにおいて探鉱活動を行っているオーストラリア証券取引所(ASX)の上場企業であり、ボツワナではウラン、金、銅及びニッケルを対象とした探鉱活動を行っている。
ボツワナは独立以来、複数政党制にもとづく民主主義が機能しており、政情は極めて安定している。国民1人あたりのGDPはアフリカ諸国のトップランクに位置しており、人口ピラミッドは若年層中心で、教育・技能水準も高い。
御存知のようにダイヤモンドが主な産業で、De Beersとボツワナ政府のJV企業が採掘から研磨、流通までの一貫体制を国内で事業化していることが、国家及び鉱業に対するボツワナの高い信頼性を証明していると思う。
ASX上場企業を経由したアフリカの鉱業分野への投資は、昔から良く使われている方法で、成長するアフリカの鉱業ビジネスにおいて当社をパートナーとする日本の企業がいれば、是非とも協業したい。
2. マイナーメタルセッション
2-1. 「MALAWI’S POTENTIAL FOR RARE EARTH MINERALS」
John Bande, マラウイ共和国鉱業大臣

国家経済の構造を一次産業(タバコの葉に代表される換金作物)から二次産業(鉱業)へ転換する計画を進めており、その実現を目的として、リモートセンシングを活用した地質データの蓄積・拡充や関連法規の整備を進めている。その結果、2010年からウランの開発が始まっており、他の鉱物・エネルギー資源としては、宝石やチタン、ニオブ、ボーキサイト、金、PGM等の鉱物及び石油・ガスの開発実現に期待を寄せている。特に、マラウイ南部には大規模なレアアース鉱床の賦存が確認されており、アフリカ最大のレアアース産出国となるポテンシャルを秘めている。これらの資源開発を加速化するために、鉱物資源開発政策を新たに策定し、既存の鉱物法の改正作業も行っている。もちろん、開発の実現には探鉱に必要な基礎データの高度化と蓄積及びオープンアクセスが必要であることは言うまでもない。
日本に対しては、まずはJOGMECによる探鉱活動や人材育成における支援に深謝申し上げる。JOGMECとの共同調査を進めていく過程においては、日本企業による早期の開発参画を強く望んでいる。レアアースにおいては、Chambe-Basinにおいてイオン吸着型鉱床の賦存が期待され、日本企業にとっても参画のメリットがあるものと期待している。
2-2. 「日本のレアメタル市場における紛争鉱物問題」
吉永宏明 アドバンスト マテリアル ジャパン 営業部長

DRコンゴ及びその周辺諸国産の紛争鉱物/3T鉱物(タンタル・タングステン・錫)の使用に関し、米Dodd-Frank法への正しい対応が同法に関係する企業にとって重要な課題となっている。特に携帯電話やスマートフォンなどの消費者が直接手にする商品に欠かせないタンタルは、当該紛争地域からの供給が世界シェアの26%を占めており、適切な対応が不可欠である。日系企業は欧米の同業他社と比較して、本件への取り組みで出遅れている感があるが、iTSCi認証の錫など、トレーサビリティの具体的手法が整備されつつあり、十分に後れを取り戻せるだろう。そのためにも、自らの積極的な対応が肝要であり、“3T”になぞえて例えるならば、「Traceable・Transparentable・Tackleable」の原則に従った自律的なアクションが求められる。
日本は3T鉱物を自国資源として保有しておらず、そうした資源を豊富に持つ中央アフリカ諸国とのフェアなトレードを促進することこそが、資源確保につながっていくことを強く意識すべきである。
2-3. 「マラウイ・ソンウエ(Songwe)レアアースプロジェクト」
Alexander Lemon, MKANGO Resources社長

当社は加トロント証券取引所・ベンチャー(TSX-V)に上場したジュニア探査企業で、マラウイ南部のSongwe地域において、重希土類を比較的多く含むカーボナタイト鉱床のレアアース開発プロジェクトを進めている。Ce、La、Ndで製品数量の約85%を占める軽希土類中心の鉱床だが、EuやDy、Y等の中重希土類も含んでおり、経済性で見れば、中重希土類が企業価値の約35%を構成する案件である。探査結果については、自社のボーリング作業に加え、過去のフランス地質・鉱山研究所(BRGM)やJOGMECの支援による確度の高い基礎データも活用しており、鉱量特定作業のための追加ボーリング作業は不要と考えている。採鉱は露天掘りで、地表から鉱床までの深度は200 mと比較的浅い場所に位置しており、経済的に望ましい鉱床と言える。
現在の最大の関心事は、原鉱石の分離抽出工程における最適化モデルの検証作業であり、南ア・鉱業技術研究所(MINTEK)にて委託研究を進めている。その結果をベースとして早期に最終経済性評価を終え、必要資金を調達することで、2015年には建設を開始したい。輸送インフラに関して、Songwe地域は、現在Valeがモザンビークで開発しているNacala鉄道のマラウイ国内敷設エリアの近傍に位置しており、容易なアクセスが可能である。
Bande鉱業大臣の発言にもあったが、マラウイはアフリカ大陸におけるレアアース開発の中心地となるポテンシャルを秘めており、日本企業の積極的な参入を期待している。
2-4. 「南アにおける蛍石鉱床開発、及びフッ素ケミカル工場プロジェクト」
Lelau Mohuba, Chairman, Sephaku Fluoride Limited

当社はヨハネスブルグ証券取引所に上場するSephaku Holdingsから、蛍石採掘及びフッ素ケミカル製造を行う独立会社としてスピンオフした南アの私企業である。首都プレトリアの北部80 km~100 kmに連続して賦存する2つの蛍石鉱床の開発に加え、同鉱床付近において無水フッ酸及びフッ化アルミを生産する工場建設も含めたグリーンフィールド事業を計画している。
具体的には、60万t/年の蛍石粗鉱を採掘し、鉱区にて高品位の化学用蛍石(18万t/年)にアップグレードした後、鉱区から50 km南下したEkandustriaにて6万t/年の無水フッ酸を製造し(硫酸16万t/年は同エリアのSasolから調達予定)、うち4万3千tの無水フッ酸から6万t/年のフッ化アルミを生産する計画である(6万tの水酸化アルミは輸入により調達)。残りの無水フッ酸1万7千tは、無水フッ酸のまま販売するか、フロロケミカルのダウンストリーム用原料として内製利用する。本プロジェクトは自国資源の高付加価値化を狙ったものであり、南アでは初めての試みとなる。
日系企業には、鉱山開発への投資はいうまでもなく、無水フッ酸以降のダウンストリーム事業についても参画を是非期待したい。本投資によって、日系企業にとってはフッ素ビジネスにおける中国依存の低減というリスク分散につながるものと考える。
2-5. 「BRGM Exploration in Africa for States and Mining Companies」
Jean Claude Guillaneau, Director, Georesources Division, BRGM

BRGM(Bureau de Recherches Géologiques et Minières/フランス地質・鉱山研究所)では、アフリカの資源開発を古くから支援している。例えば、90年代にはマラウイでレアアース鉱床の探鉱を行ったほか、マダガスカルではUSGSと共同で地質図を作成し、その結果として大規模なグラファイト鉱床を発見するに至った。他にも、セネガル、アンゴラ、ガボン等で地質データを収集し、過去のデータをアップデートするとともに、統合電子化の作業を実施した。こうした地質データの作成支援活動は、旧フランス領アフリカ諸国以外の国々でも展開している。また、探鉱や経済性評価の支援も行っており、例えばボーキサイトについては、サブサハラ地域を対象とした広域な探鉱活動を実施するとともに、ギニアのボーキサイト鉱床の経済性評価活動に参加している。
このような支援活動は、AEGOS(African-European Georesources Observation System/アフリカ-欧州資源観測システム)の枠組みにおいて実施されており、現在実施中のフェーズ2(2012年~2016年)においては、アフリカ大陸全体の地質データの統合化を完成させる目標に向け、BRGMは主導的な役割を果たしている。
天然資源は再生可能な資源ではなく、その開発は規律を持って行われるべきであり、持続可能な開発には統一されたフォームによる地質データのアーカイブ化が重要な役割を果たすと考えていることから、早期完成を目指したい。

