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報告書&レポート

2013年6月20日 ロンドン事務所 森田健太郎
2013年33号

国際非鉄研究会参加報告(2)-2013年春季国際銅研究会(ICSG)参加報告-

 2013年4月25~26日、ポルトガル・リスボンにて国際銅研究会(ICSG)春季会合の一連の会議が開催され、18か国・国際機関、業界団体、コンサルタント等から50名ほどが参加した。日本からは、経済産業省製造産業局非鉄金属課、同省資源エネルギー庁鉱物資源課、日本鉱業協会、鉱山会社、商社他が参加した。JOGMECロンドン事務所からは3名が参加した。

 今回のICSGにおいては、2013年及び2014年の鉱山生産、製錬、消費、需給バランスの予想値などの需給見通しの取りまとめが行われた。また、銅価格が下落傾向にある中、中国の銅市場が世界に与える影響、EU等のリサイクルの動向などについて、各国代表、専門家を交えた議論が行われた。本会合での講演資料は、ICSGの公式HPから入手可能である。

 (http://www.icsg.org/index.php/meetings-and-presentations-2/viewcategory/225-icsg-meeting-presentations)

 なお、次回のICSG会合は、2013年9月30日、10月1日にリスボンにて開催予定である。

1. 第34回 環境経済委員会

1-1. 世界市場外観:ヘッジファンド・銀行及び現物取引者の視点(Led Kite Capital Management LLP、リサーチヘッド、Michael Jansen氏)
 現在の銅市場は中国の影響で情報が不完全だ。投機家にとっては、新規銅線が主な取引材料だが、それとて部分的である。

 現在のコンタンゴは通常のものではない。LME倉庫の上限が分からないという倉庫主導のコンタンゴである。中国がより大きな在庫をもっているだろう。また在庫というものはしばしば行方不明になる。

 市場は現在でも十分に供給されているが、我々は、中期的には今よりもっと過剰に供給される傾向にあると考える。どのくらい過剰になるか注視が必要である。

1-2. 銅市場における中国の役割(ICSG事務局、環境経済ヘッド、Carlos Risopatron氏)
 過去10年間、中国における銅地金の需要増と世界の鉱業及びリサイクル業からの供給増がバランスを保ってきた。この期間、産業用の銅需要が伸びたのは、中国といくつかの産油国だけだった。

 2012年、ICSGは中国の220の銅線工場を対象に調査したところ128工場から回答があり同国生産量の約9割を把握した。本調査により、2011年から2012年にかけて、中国における銅の産業需要の伸びは鈍化していたことが明らかになった。銅線の需要の伸びは落ち込み、銅管、銅板等の銅製品の伸びはマイナスだった。

 しかしながら、2012年の中国の銅地金の見かけ需要は増えている。いわゆる倉庫ファイナンスと密接に関連する上海の保税倉庫にある銅地金が大幅に増えているためである。2011年から2012年にかけて銅価格が1割程度下落したのを受け、中国は銅精鉱及び銅地金の輸入量を約2割増やしている。

1-3. ICSGリサイクル調査2013年版(ICSG事務局、エコノミスト、Susanna Keung氏)
 二次精錬製品については、世界全体で、2010年の330万tから2011年の350万tへと増加した。増加分の93%をアジアが占めた。

 スクラップ直接溶融については、世界全体で、2010年の519万tから2011年の517万tへと微減した。欧州で13万t減少したが、日米中の増分でほぼ相殺した。

 2012年の推測としては、二次精錬製品は3%増加した一方、スクラップ直接溶融は減少していた。これら合計で、銅スクラップの消費量は4%減少するだろう。

1-4. EUにおける銅及び銅合金のスクラップ供給調査(GmbH、Weitzendorf博士)
 当社の調査では、EU27か国のうち10か国を抽出し、137の銅を取引している会社にコンタクトし、53社の参画を得た。

 回収については、スクラップから直接銅を回収している業者が7割を占めた。販売については、41社中8社が2万t以上の銅を販売していた。回収先・販売先は規模の経済に応じて完全に棲み分けがなされていた。

 取扱量の大きさは、必ずしも用地面積の大きさと相関はなく、むしろビジネス形態に依存する。例えば銅電線のリサイクルを行っている事業者は、年間リサイクル量が2万t以上の大手業者よりも同2万t以下の中小業者の方が多かった。唯一規模の経済が見られるのは、電気モーターのリサイクルであった。

 EUのリサイクル業者、取扱業者、回収業者は、極めて強固なEU精錬業界に直面している。リサイクル業者は、取扱量の大きさと輸出に回すというオプションを持つことにより、交渉力を強めようとしている。

1-5. スクラップの流通と盗難問題(国際リサイクル事務局及びEUROMETRIC代表、Ross Bartley氏)
 世界のリサイクル業界(非鉄金属のみならず、鉄、紙、プラスチック、タイヤ等を含む)には、160万人以上の労働者により年間8億tが処理され、2千億US$を超える売上高がある。

 社会インフラからの金属の盗難は、列車の脱線や銅電線絶縁体の燃焼など被害が大きい。金属の国際貿易のうち盗難物は1%に満たないとされるが、他方で廃棄物という形での違法な輸出は7%と推定されている。金属盗難は組織的犯罪であり深刻な問題であることから、もっと注目されるべきである。

2. 第41回 統計委員会

2-1. 2013年、2014年の銅需給予測(ICSG事務局、主任統計官 Ana Rebelo氏)
2-1-1. 2013年の予測:地金生産量、地金需要、鉱山生産量
 2013年の銅地金生産量は、対前年比4.3%増の2,098万3千t、銅地金需要は同比0.3%増の2,056万6千t、需給バランスは41万7千tの供給過剰とし、2012年までの3年連続の供給不足から供給過剰に転ずるとした。また2013年の鉱山生産は、対前年比5.2%増の1,756万1千tと予測した。

2-1-2. 2014年の予測:地金生産量、地金需要、鉱山生産量
 2014年の銅地金生産は、対前年比5.1%増の2,204万6千t、銅地金需要は同比3.9%増の2,136万6千t、需給バランスは2年連続の供給過剰となる68万1千tと予測した。また2014年の鉱山生産は、対前年比5.6%増の1,854万1千tとし、過去5年間の平均増加率1.5%を2年連続で大きく上回ると予測した。

 これらの理由としては、需要面では世界経済の減速、いまだ残る欧州債務危機の影響、中東及びアフリカでの政権移行による政情不安などが挙げられた。生産面では雇用不安による生産障害の懸念、インフラ・資金面の制約はあるものの、2012年まで維持補修等のために抑制されていた生産が回復すること、アフリカや中国でプラントが運転開始あるいは能力増強に至ること、などが挙げられた。

2-1-3. 中国の見かけ需要について
 なお、世界の銅需要の4割を占める中国需要について、見かけ需要を用いているが、その見かけ需要は公表されている生産量、輸入量、輸出量、在庫変動量を足しあげたものであり、公表されていない在庫は考慮されていないこと、そしてその量は需給バランスに大きく影響する規模である可能性があることが、併せて言及された。

表 2014年見通し

  鉱山生産量 地金生産量 地金消費量
  2012 2013 2014 2012 2013 2014 2012 2013 2014
アフリカ 1,450 1,753 2,039 1,057 1,295 1,506 251 258 269
北米 2,284 2,351 2,636 1,647 1,691 1,826 2,216 2,270 2,333
中南米 7,109 7,407 7,675 3,420 3,637 3,663 618 640 667
ASEAN10 636 857 922 402 553 577 789 818 881
その他アジア 1,945 2,185 2,388 8,881 9,295 9,816 12,195 12,044 12,541
CIS 546 551 571 439 462 465 100 101 102
EU27 826 832 837 2,742 2,691 2,801 3,079 3,079 3,182
その他欧州 852 875 901 1,067 1,091 1,122 1,240 1,240 1,273
オセアニア 1,039 1,145 1,175 461 495 495 115 115 118
世界計
(調整後)
16,687 17,561 18,541 20,116 20,983 22,046 20,566 20,566 21,366
変化率 5.2% 5.6%   4.3% 5.1%   0.3% 3.9%
バランス -393 417 681

2-2. 銅市場:現況と中国の非公表の在庫(CRU、マネージングコンサルタント、Robert Edwards氏)
 銅の価格は、マクロ経済的な懸念と在庫の積み上がりにより上昇するにも限界がある一方、供給途絶とプロジェクトの遅延により下降するにも限界があるため、8,000 US$/t前後で一進一退で推移している。

 しかしながら、特にチリのような国では、操業コストと資本コストが急速に上昇している。当社の調査によれば、4分の1の鉱山が現在の銅価格を上回るコストで操業されている。

 他方で、銅在庫は積みあがっている。アントワープ、ジョホール、ニューオーリンズの3つのLME指定倉庫で在庫が積みあがっていて、また在庫引き出しのために多くの行列待ちができている。これら3か所の指定倉庫で、LMEの総在庫の4分の3近くを占めている。

 中国の銅地金の輸入量は2011年から2012年にかけて約2割増加したが、これは必ずしも真実を示していない。すなわち実際のビジネス用の輸入量は前年に比べて減少しているからだ。残りは非公表の在庫として保税倉庫に積みあがっている。2007年以降、中国の見かけ需要は実消費を上回り続けており、余剰分は保税倉庫に蓄積されていることを示している。

2-3. フィリピンの銅産業(ICSG事務局)
 1960年から1980年まで、フィリピンの銅鉱山は、輸出に支えられて生産が堅調に伸び黄金時代を築いた。しかし1980年から1990年にかけて、銅価格の下落と輸出需要の減少から、大規模鉱山でさえ生産性と生産量が落ち込み、閉山が進んだ。1990年代、フィリピン鉱山法により産業の自由化を進めた。1996年、Marcopper鉱山の尾鉱で漏出事故が起こるとともに、2000年代に入るまで生産量は下落し続けたが、2006年に最高裁判所は鉱山法を承認し、2008年以降は銅の高価格が鉱業を後押しし始めた。

 他方でフィリピンの製錬量は、1980年代後半から現在まで約15万t/年でほぼ一定である。国内の鉱山生産が低調であったため多くの精鉱を輸入し、製錬し、電解銅にして輸出してきた。

 フィリピンは、今まで鉱山開発が停滞してきたため相当な銅の埋蔵量があり、これからプロジェクトが立ち上がっていくため(2016年にはKingking Project、2019年にはTampakan Projectが始動予定)、今後10年は大きな潜在成長力がある。今年3月に、政府が新規鉱業権承認のモラトリアムを撤回したのも追い風になる。環境影響と現地住民の権利、外国企業への鉱業ロイヤルティの水準に注意が必要である。

2-4. ICSG銅鉱山・銅プラント目録(ICSG事務局、主任統計官 Ana Rebelo氏)
 ICSGは、半年に一回、企業からの報告を基に、銅鉱山・銅プラント目録をリバイスしている。当該目録は、生産能力の現状と将来5年間の見通しを国ごとに示している。今回の目録は、2012年から2016年までの生産能力を表している。

 なお実際の生産量は市況や技術的・ビジネス的要素、予期せぬ操業停止・閉山、プロジェクトの遅延・撤回等に左右されるものであり、生産能力の見通しは必ずしも生産量の見通しではないことを付言する。

2-4-1. 銅鉱山の生産能力
 世界全体の銅鉱山の生産能力は、2016年まで平均年8%で伸び、2016年には2,770万tになると期待される。2,770万tのうち、銅精鉱が2,200万t、SX-EWが570万tである。地域別にみると、南米の生産能力が引き続き最大であり、2016年までにさらに230万tの能力が増加する(世界全体の伸びの31%)と期待される。アジアとアフリカの生産能力も堅調に増加する。南米、アジア、アフリカで2016年までの全世界の能力増加の78%を占める。国別にみると、チリが最大生産国であることに変わりはないが、増加分については160万t増のペルーが最も貢献すると期待される。2016年までの能力増加のうち、既存プロジェクトの拡張・向上による増加分は220万tであり、新規プロジェクトによる増加分は520万tである。

 将来の銅鉱山については、企業は沖合の大水深での金属探鉱の可能性を検討し始めている。地球の表面積の7割は海であり、海底には銅、亜鉛、ニッケル、マンガン、金、銀など重要な鉱物資源があると信じられている。増大する銅需要を満たすためには新規資源の発見・探鉱が不可欠であり、海底鉱床は供給増のための重要な機会である。いかに効率的かつ経済的に採取するかが課題である。ICSG事務局は、近い将来生産可能な沖合銅プロジェクトとして3つ挙げる。ハワイとメキシコの間にある太平洋International WatersのClipperton Fracture Zone、Red SeaにあるAtlantis II Basin Project、パプアニューギニアのBismarck SeaにあるSolwara I Projectである。

2-4-2. 銅の製精錬製能力
 世界全体の銅の製錬能力は、2012年から2016年まで、主にチリで190万t伸びると期待される。その他、イラン、インド、ザンビア、インドネシア、メキシコでも30万t程度ずつ伸びると期待される。

 精錬能力については、2012年から2016年まで、世界全体で460万t(18%)伸び、3000万tになると期待される。460万tの伸びのうち、360万tは電解精錬であり100万tは電解採取(Sx-Ew)である。増加分のほとんどをアジア-中国、インド、イラン-が占める。

3. 第13回 産業諮問パネル

3-1.国際海事機関による銅に影響を与える規制変更 (欧州銅協会、健康環境持続可能開発課長、Katrien Delbeke氏)
 本年1月に発効した改訂MARPOL条約(ばら積み貨物の洗浄水の排出規制)に対応するため、本年1月、欧州銅協会はEUと協議した。銅はニッケル、鉛よりも毒性が高く、CuFeS2は問題ないがCu2Sは有害とのことだった。

 これを受け、欧州銅協会は2か月毎に集まり定期的に情報共有をしている。ただし、影響を受けるのは銅だけではない。これは港における受入れ施設の問題であり、国レベルで横断的な対応をすべきである。

4. おわりに

 今回のICSGは、短期的には銅の供給過剰が予想される中、必ずしも銅価格が下がっておらず、また先物価格もコンタンゴが続く中で開催された。参加者の多くが中国における非公表の在庫、すなわち保税倉庫における在庫の積み上がりを指摘した。またLME指定倉庫を含め、これら倉庫の上限が不透明なことも原因の一つとして指摘された。ただし、かかる倉庫需要が価格を下支えしている側面もあり、倉庫需要が剥落した後の価格下落を懸念する声も聞かれた。

 金属の盗難問題、国際海事機関(IMO)によるバラ積み船残渣廃水規制の問題、運転コスト・資本コストの急速な上昇も指摘された。

 中期的には、ICSG事務局による銅鉱山・銅プラント目録で示されたように、これまでの高価格に支えられて鉱山開発・新規プロジェクトが立ち上がるため、2016年に向けて世界全体の鉱山生産・製錬・精製能力は増大することが期待された。ただし中国の実需が減少しているなど中期的に需要が増大するかどうかは不透明であり、能力増大は生産増大につながるとは限らないとの認識が得られた。

 長期的な供給については、事務局から沖合・大水深の鉱床開発にかかる言及があり、いくつかの具体的プロジェクトの例示があった。

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