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国際非鉄研究会参加報告(3)-2013年春季国際非鉄3研究会合同セミナー参加報告-~金属業界の金融的側面~

2013年4月22~26日、ポルトガル・リスボンにて国際非鉄研究会の秋季会合である国際ニッケル研究会(INSG)、国際鉛・亜鉛研究会(ILZSG)、国際銅研究会(ICSG)及び3研究会合同セミナーが開催された。そのうち3研究会合同セミナーに関しては、金属業界の金融的側面をテーマとして、2013年4月24日午後に開催された。本稿では、当該合同セミナーでの講演及びディスカッションの概要を紹介する。 |
1. 金属業界の金融的側面、価格のボラティリティ、投資家活動
1-1. 新しい規制と市場に関する誤解
(LME、Chris Evans氏)
欧州連合(EU)は商業に対して大きな影響力を持っており、例えば1992年に設立された「単一市場(Single Market)」は、2009年までに約275万名の追加雇用を創出した。だが、あまり歓迎されていない政策もあり、例えばREACH規制(欧州化学物質規制)は、規制の意図は適切であったものの、金属業界が多大な費用を負担する結果となった。これは、EU政府が産業界が十分な原材料を確保できるための政策を実施する一方で、その原材料の輸入を困難にするような政策も支援するといった、政府内における矛盾(paradox)の一例である。金融面での法律でもその矛盾が起こっており、欧州市場インフラ規制(EMIR)は金融市場における安定性を高めることを目的としているものの、逆にボラティリティを高める危険性がある。EMIRによりLMEが義務を課せられることはなく、代わりに取引所の利用者側にデリバティブ取引の報告義務や清算義務が課せられる。LMEメンバーやその顧客が直接的な影響を受けているため、LMEではメンバー企業による義務の履行を容易にするために、多額の費用をかけたシステムの変更をする必要がある。
コモディティ価格に関しては、取引所での取引の有無如何に拘わらず本質的にボラティリティがあり、実際のところ、取引所以外で取引されるコモディティの価格のほうがボラティリティが高く、取引所での取引の場合、リスクを管理できるという利点がある。人々がボラティリティを非難する時、実際には上昇した価格を非難している。価格の高騰は、欧州の消費者にとって望ましくなくても、南米の鉱山にとっては歓迎されるもので、視点によって意味することが異なる。また、「投機(speculation)」という言葉はしばしば「操作(manipulation)」という言葉と置き換えが可能であるかのように用いられているが、投機は完全に合法であり、操作は違法である。その他、LMEでは市場の秩序を維持するための対策を整えている。
最後にLMEの電子取引プラットホームであるLMEselectに関して言及したい。いまだにLMEselectの停止を望む人もいるが、LMEselectは透明性や流動性を向上させただけでなく、市場に民主主義をもたらした。LMEselectの利用に関しては、その規則が十分に理解され順守されており、規則の見直しはあっても停止されることはない。
1-2. ファンダメンタル以外の要素が非鉄金属市場に与える影響
(Citi Research、David Wilson氏)
ベースメタル価格は2005年から高いボラティリティが続いており、一方でコモディティへの投資は、2003年末には300億US$であったものが、2013年初めには4,000億US$までに激増している。特にETF (上場投資信託)に関しては、2004年には約22億US$だったが、2013年初めには2,000億US$にまで増加した。コモディティへ投資が流入し、コモディティが資産として運用されるようになったため、ファンダメンタル以外の要素が価格の歪みを産み出している、という認識を持つ人がでるようになった。この認識は短期的な価格変動においては正しいが、長期的に見ると、需給、在庫、マクロ経済といったファンダメンタルな要素が価格に主な影響を与えていることを認識すべきである。銅市場のファンダメンタルな要素としては、中国における都市化や産業化による需要増や供給量の成長の落ち込みといった価格上昇要素がある一方で、中国経済の成長の低速化といった要素が最近の価格下落の背景にあると考えられる。
1-3. コモディティの金融化
(UNCTAD、Alexei Mojarov氏)
コモディティの金融化(Financialization)とは、金融資本がコモディティ先物市場に流入し、またそれが市場に影響を与えることで、コモディティ市場が産業界よりも金融界から大きな影響を受けることを意味している。金融界の投資家は、長年にわたりコモディティ市場に関与してきたが、投資活動の増加とコモディティ価格の上昇が同時に起こったため、コモディティ市場の金融化が価格の上昇を引き起こしたという懸念を生じさせている。コモディティの金融化に関するその他の懸念としては、1)コモディティ市場で投資活動を行う大手金融会社の多くが金融規制の緩いスイスに本社があること、2)先物市場での取引は費用がかかるため大手企業(主に多国籍企業)しか参加できないこと、3)開発途上国の企業は参加が困難であること、4)在庫量といった情報の信憑性に疑いが生じること、などがあるが、他方で、投機資金の流入により、市場における流動性が増加するという利点もある。
金融資本の流入がコモディティ価格に与える影響に関しては意見が分かれているが、UNCTADとしては、コモディティ市場の金融化は、価格発見(price discovery)や産業界によるリスク管理業務に悪影響を与え、産業界の投資決定に影響を与えていると考えている。過去10年間で、ファンダメンタル以外の要素の重要性が増し、価格シグナルが分かりにくくなり不明確さが広がったことは、コモディティ価格のバブルにつながる可能性もある。コモディティの金融化が価格に与える影響に関しては、今後も調査が進められるであろうが、結果がどうであれ、金融界の投資家をコモディティ市場から排除すれば、流動性の減少といった悪影響が生じる。
コモディティの金融化に関して、UNCTADでは、コモディティ市場における報告義務の強化による透明性の向上、コモディティの金融化が産業界に与える影響の調査とコモディティ先物市場における潜在的な不均衡の調査といった政策を提案している。
1-4. コモディティへの投資
(Investec Asset Management、George Cheveley氏)
資産クラス(Asset class)としてのコモディティへの投資は過去15年間で拡大し、より洗練された投資活動が行われており、コモディティへの投資は成熟段階にあると言えるが、投資のほとんどは受動的な投資(in passive vehicles)である。また、コモディティへの投資全体から見ると、銅といったベースメタルへの投資が占める割合は大変小さいのが現状である。また、コモディティへの投資と株式投資(equity investment)を比べてみると、コモディティへの投資は価格の高低に関わらず常に買い手が見つかるため、株式投資と比べて安定しており、株式投資の方がボラティリティは高いと言える。
銅に関しては、供給量の増加と需要に関する懸念が現在の価格を押し下げている。Investecでの銅の短期的な見通しとしては、需要は回復を見せるが、今後2年間は供給量の増加が価格を下押しすると予想している。また中長期的には、操業費及び資本出資(capex)の増加が銅価格を押し上げていくことが予測される。
2. 財政措置とプロジェクト・ファイナンス
2-1.資源がもたらす富と財政政策:資源国の権利と責任
(Raw Materials Group、Masuma Farooki博士)
鉱業に課される税としては、法人税、キャピタルゲイン税、VAT、個人所得税と社会保障費の雇用主負担分(people tax)、資産税等の一般税に加えて、鉱業に課される特殊な税である鉱業ロイヤルティがある。ロイヤルティの定義は曖昧な場合があるが、大きく分けて、鉱山会社の利益に対して課されるタイプ、鉱山生産量に対して課されるタイプ、生産された金属の価値に対して課されるタイプの3つがある。また通商貿易の観点では、生産ライセンスや割当量、輸出入関税といった要素も挙げられる。
鉱業における税制の動向としては、1)既に市場占有率の高い地域が資源税の引き上げを行う、2)市場占有率は高くない地域がコモディティ価格の上昇から恩恵を受けるために資源税の引き上げを行う、3)市場占有率の低い、主として途上国が外国投資誘致のために比較的に魅力的な資源税制を提供する、という3つに分類される。1)に該当する主な国は、豪州、ブラジル、モンゴル、ザンビア、チリなど、2)は米国、中国、インドネシア、南ア、インド、3)はカザフスタン、カナダ、ロシアがある。
資源国政府は、税収と(外国)投資のバランスを考えて、長期的に見て鉱業から最大の利益を得られるような税制を実施し、また直接的収入と間接的収入との間で最適なバランスを実現することを目標とするべきである。また、鉱業に対する税制は、価格と費用面でのリスクを共有し、価格サイクルと投資サイクルに応じた柔軟さを提供するようなものであるべきである。鉱業に特有の税制は、鉱山会社が投資を検討する際に大きな影響を与えることを資源国は十分に認識しておく必要がある。鉱業から資源国が得られる税収を最大化することは、資源国が鉱業から得られる恩恵を最大化することと同じではない。
2-2. 危険にさらされる鉱業?-鉱業におけるプロジェクト出資
(Raw Materials Group、Masuma Farooki博士)
鉱業プロジェクトに対する2012年の投資を段階別に比較してみると、プレFSが全体の37%、FSが28%、開発段階が11%、そして既に採掘が行われているプロジェクト(Brownfield projects)の拡張等に対する投資が24%を占めている。プロジェクト数では、2011~12年にFS段階のプロジェクトが増加したのに対して、プレFS段階のプロジェクトが減少しており、これは将来的に新規生産開始を始めるプロジェクトの数で偏りが発生するリスクがあることを意味している。その他のリスクとしては、リスク選好度(risk appetite)が減少し、プロジェクト出資に影響を与えていることや、また探鉱を行うジュニア企業において財政上の問題が増加していることが挙げられる。
費用に関しては、鉱石の難処理化、鉱床の深部化、鉱山の奥地化、鉱山機器のタイトな供給、熟練労働者の不足といった要素の影響を受けて、一般的に費用は上昇傾向にある。
また鉱石の品位低下が懸念されているが、金属価格が上昇すれば経済的に採掘可能な鉱石の品位は下がるのは自然の流れであり、現在の平均品位は特に異常ではないと考えられ、今後新規生産を始める鉱山から生産される鉱石の平均品位はより低下していくと思われる。
3. パネルディスカッション
パネリスト:本セミナーの講演者5名
講演の後、パネリストに対する質疑応答が行われた。会場での主な質問とパネリストの回答は以下のとおり:
Q : プロジェクトの費用において、通貨の騰貴はどれくらいの影響があるか。
A : はっきりした答えは分からないが、鉱山会社は通貨の変動よりも政治的及び地理的な要因をより懸念していると思われる。
Q : LMEは実物市場であると思っていたが、アルミの場合、LME倉庫から金属を取り出すのに8か月~1年もかかると言われている。これでは実物市場ではなく、富の保管庫ではないのか。
A : 金属は最高入札者に販売される。現在の状況は理想的ではないが、LMEではLME倉庫からの最低受け渡し量の改正を行うなど、状況緩和のための措置を取っている。またLME倉庫に保管されている金属のほとんどは金融機関が所有しているものであり、金属が必要な消費者はLME倉庫以外から金属を入手できている。
Q : 最終消費者が参照する価格が、LME価格を基準としてない場合が増えているとすれば、LME価格は有効なベンチマークであると言えるのだろうか。
A : LME価格に代わって用いることができるベンチマークがあるだろうか。その他全ての物事がそうであるように、LMEにも欠点があることは否めないが、価格においては最良の方法を提供していると思われる。他の方法を用いる場合、透明性や正当性が問題になってくる。
Q : 資源国は、鉱業への投資だけではなくインフラ整備や国全体への投資を必要としているのではないか。
A : インフラへの投資は重要である。資源国政府は、鉱山会社から得た税収入で、鉱山施設のためだけでなく、より多くの国民が利用できる交通機関といったインフラを建設でき、またインフラ整備のための雇用も創出できる。資源国政府は、鉱山会社がもたらす間接的な利益を十分に検討すべきである。
A : インフラ部門では、政府の汚職が存在しているという問題があり、注意が必要である。
4.2013年秋季3研究会合同セミナーについて
次回の3研究会合同セミナーはポルトガルのリスボンにて、2013年10月2日午後に開催される予定である。次回のテーマは、「銅、ニッケル、鉛・亜鉛の副産物」である。
< 2013年秋季の国際非鉄金属3研究会の日程 >
9月30日:国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
10月1日:国際銅研究会(ICSG)、国際ニッケル研究会(INSG)
10月2日午前:国際ニッケル研究会(INSG)
午後:3研究会合同セミナー、『銅、ニッケル、鉛・亜鉛の副産物』
10月2~4日:国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)

