報告書&レポート
第12回CRUセミナー(World Copper 2013)報告

要約 2013年4月9日及び10日に、サンティアゴで恒例の第12回CRUセミナー(World Copper 2013)が開催された。今回の中心テーマは、チリの鉱業投資環境の変化、鉱業投資及び操業コストの上昇、ならびに、減速する世界経済と銅需給及び銅相場の見通し等であった。特に、経済の減速による供給過剰、在庫の増加、今後の銅需給、価格見通しに関心が集まった。 今回のセミナーの主な論点は以下のとおりである。 |
◆ チリの鉱業投資環境の変化
チリの鉱業投資は、低い投資リスクに特徴づけられてきたが、最近はコスト上昇、電力、水等のインフラにおける供給リスクの上昇、地域コミュニティーの発言力の高まり等が顕著となっており、鉱山開発、インフラ開発プロジェクトの中断・遅延が頻繁に起きている。また、資機材価格上昇、賃金上昇等のコスト上昇、鉱石品位低下による操業コスト上昇も顕著であり、投資収益や操業収益を圧迫している現状が共通認識として議論された。銅価格の低下に伴う収益減は、チリの国庫歳入及び貿易収支等にも大きな影響を与えることから、今後の動向に注意が必要である。現在チリの銅鉱業は、おおよそGDPの15%、国庫歳入の30%、輸出金額の50%を占めている。
◆ 銅需給動向
最近の銅価格の高騰を背景にした生産能力拡張の成果が現れ、2012年の鉱山生産は対前年比3.9%増と大きく伸びたが、このことが供給過剰の一因となっている。但し、これらの増産は新規開発によるものではなく、投資環境の悪化から新規開発プロジェクトについては立ち上げが難しくなっている現状もある。LMEの銅価格は、2013年に入り一貫して下降局面が続くとともにLME在庫も600千tを超え、中国市場の在庫を加えると1,500千tという記録的なレベルとなっている。しかし、この在庫レベルは消費の4週分であり、やはり在庫が急増した2002年当時の5.2週間分より少ないことから、その影響は大きくないとの見方もある。
◆ 今後の銅相場の見通し
中国及びその他先進地域の経済の減速により、2015年くらいまで供給過剰や価格の伸び悩みを指摘する声が多かった。銅価格は2013年に入り一貫して下降し、4月現在7,000 US$/t台となっており、依然として生産コストより高いレベルにあるものの、開発、操業コストの上昇も著しく、企業収益が圧迫されることで開発や投資意欲を押し下げている。2013年Q1におけるCODELCOの生産コストは、265 ¢/lb(約5,840 US$/t)というレベルに達している。
今後の銅相場は、中国の経済指標及び米国の量的緩和政策の出口戦略等の金融政策並びに経済回復動向に影響を受ける可能性が示された。また、2013年に入ってからは、鉱山機械メーカー、エンジニアリングサービス業界の業績が悪化していることや、豪州等資源国での利下げも行われていることから、もはや鉱山投資サイクルのピークは過ぎたとの見方も出始めている。今後の銅相場について、いわゆるスーパーサイクルが今後も続くかについての見解は分かれており、引き続き景気や相場の動向を注視する必要があろう。今後の銅価格について、CODELCOのKeller総裁は、銀行やアナリストによる長期的予測の平均として、289 ¢/lbという予測値を述べた。またCuprite Consulting社の David Coombs氏は、こうした低めの予測値は、現在の高コスト生産に対し低すぎるもので、今後10年から15年間の銅価格として、3.0~3.5 US$/lbが必要であるとの見解を示した。
◆ チリ銅鉱業の挑戦
開発、生産コストの上昇、先行き不透明な世界経済と銅需要動向の中で、チリでの鉱山投資及び操業効率の向上が課題となっている。経験的には、銅価格が上昇すると生産効率が落ち、下落すると生産効率が上がる。さらに厳しい鉱山ビジネス環境下においては、生産効率向上は重要な課題である。生産効率の向上にあたって、CODELCOでは連続採掘プログラムやダンプ・ローダの自動運転技術の導入のほか、Komatsuでは効率的な鉱石積み込みシステムの構築に取り組んでいる。今後こうした操業の自動化による効率化が図られることにより、コスト削減の効果が期待されている。
◆ 所感
チリの鉱業投資リスクは低いとされてきたが、最近はコストアップ、インフラの不足、環境問題の高まり等により、開発プロジェクトの遅延、収益の悪化が起きるともに、電力、水の不足からプロジェクトそのものが立ち行かなくなるケースも出ている。また採掘の深部化、鉱石品位の低下等の技術的な問題、ペソ高による収益の悪化等の経済的要因も顕著になっている。さらに、世界経済、中国経済の減速による銅需要の伸びの鈍化、銅相場の停滞は、銅鉱業への依存度が高いチリ経済に影を投げかけ始めている。その他、技術開発、生産性向上によるコスト削減への取り組みも行われているが限界がある。世界最大の銅産出国の地位は当分ゆるぎないものであるが、今後、チリの銅鉱業を取り巻く鉱業指標、経済指標の動きを注視していく必要がある。
1.セミナーの構成
4月9日(火)午前
● 開会(Solminihac鉱業大臣)
● キーノートセッション I
(Keller CODELCO総裁、Helnandez・Antofagasta社社長他)
● 第1セッション(経済及び銅需給見通し)
4月10日(水)午前
● キーノートセッション II(Larrain財務大臣、Freeport社、KGHM社他)
● 第2セッション(サプライリスク、サイクルファクター)
● 第3セッション(銅需給、チャレンジ及びオポチュニティー)
2.セミナーの内容
4月9日(火)
オープニングセッションで、CODELCO総裁やAntofagasta社社長等が講演を行ったが、上記のとおり、コスト上昇や環境問題等投資環境の悪化についての発言が中心であった。また、Antofagasta社社長からは、チリの鉱業許認可制度の複雑さと手続きの煩雑さについての発言があった。銅需給は、中国経済の停滞による供給過剰や価格軟化が予測された。銅鉱山投資は、コスト上昇、投資環境悪化、プロジェクト遅延により新規プロジェクトの難しさが増している。
◆ 開会 Solminiac鉱業大臣
�� 世界の銅需給、チリの新規鉱山投資、コスト上昇の現状等について述べた。
�� 2013年の政策として、操業開始後の管理体制支援のための法制整備、エネルギー及び持続発展のための支援を行う。
�� エネルギー政策に関し、効率的使用、送電網整備、再生可能性エネルギー導入、競争原理に基づいたエネルギー市場の構築、国際電力接続について言及した。また、水力発電、水節約、海水直接利用、これに伴う権利、政府、民間の支援の重要性について述べた。
�� その他、熟練技術者の育成、鉱山地質局(SERNAGEOMIN)の機能強化、地域社会との連携のためのBetter Practice Guideの策定を進める。
◆ キーノートセッション I
① Thomas Keller(CODELCO総裁)
最近の銅需給、チリにおける銅生産コスト及び初期投資額の増加及びCODELCOのプロジェクト開発への取り組みについて述べた。
�� 銅の需給について、BRICs諸国及び東南アジアでは、消費及びGDP弾性値ともまだ低いものの、今後都市化の進行とともに消費の伸びる余地はある。一方銅価格の動向についてはセンシティブに変動するものの、銀行やアナリストの長期価格見通しの平均は289¢/lb程度である。
�� 銅生産コスト(人件費、エネルギー等)の上昇、初期投資額の増加、鉱石品位低下(0.95%(2000年)から0.7%(2015年)まで低下)、採掘深部化、遠隔地化、コミュニティー対策の増加等が顕著になり、投資環境が悪化する。人件費はキャッシュコストの27%、電力は14%まで上昇し、その他エンジニアリングサービス、熟練技術者の不足、機器コストの上昇の他、チリペソ高も圧迫要因である。
�� CODELCOは、生産の維持、増産を図るために、2013年~2017年に250億US$を投資するといったかつてない大規模な計画を打ち出している。
�� チリ鉱業の挑戦として、労働生産性向上、コスト削減、低コストのエネルギー・水の確保、人材確保、環境許認可の迅速化、地域コミュニティー対策、技術革新が必要である。
② Diego Hernandez(Antofagasta Mineral社社長)
Antofagasta社の銅生産の現状、今後の新規鉱山開発、探鉱戦略について述べられたほか、チリの鉱業開発環境について、政府許認可の複雑さと煩雑さ、投資コスト増加への懸念についての発言があった。
�� Antofagasta社の重点事業あるいは重点戦略は、Centinela Mining地域(Esperanza、Tesoro鉱山周辺)の探鉱開発、Los Perambles鉱山拡張(2020年)、Antucoya 鉱山開発、Twin Metals鉱山開発(米国ミネソタ州)である。国外での探鉱事業は米国、欧州、アフリカ、豪州で実施しており、豪州ブリスベーンに探鉱事務所を開設する。Reco Diqプロジェクト(パキスタン)は国際調停中である。
�� 鉱石品位低下、高いエネルギーコスト、人件費の高騰、海水淡水化コスト、強いチリペソ等により、チリ鉱業の事業環境は悪化している。電力コストは操業コストの14%を占め、さらに新規発電所建設に対する反対運動も根強い。人件費は先進工業国並みの水準になっているが、労働生産性は2004年をピークに低下傾向が続く。
�� チリでは鉱業開発許可に関わる行政手続きの煩雑さが挙げられるほか、許認可の数が多すぎる。また、政府許認可に対する訴訟による、許認可の無効化判決が増えている。
③ Jean-Sebastien Jacques (Rio Tinto Copper、CEO)
�� 鉱業を取り巻くメガトレンドの認識は、①中国の需給動向、②環境配慮の推進、エネルギー使用効率化、③地政学リスクの上昇、④生産の高コスト化、⑤銅需要の拡大基調の継続(都市化、工業化の進展、新エネルギー分野での銅需要の増加)、に集約される。
�� 開発リスクの上昇とコスト増加要因としては、①ハイリスク地域での開発、②採掘の深部化、鉱石高硬度化、③生産障害の増加、④鉱石品位低下(1.3%(2000年)→1.15%(2012年)→1.15%→0.85%(2024年))、⑤エネルギーコスト上昇、が挙げられる
�� Rio Tintoの重点事業目標は、①鉱山操業の安全性向上(ブロックケービング等の深部開発)、②コストパフォーマンスの改善、優良プロジェクト発掘、③ポリティカルリスク、操業の社会ライセンス、④環境優先の投資、Tier1プロジェクトの開発、⑤人材開発、人材確保、である。
�� 技術的重点課題は、①Copper NuWave(鉱石処理の効率性向上)、②トンネルボーリング技術、③ブロックケービングナレッジセンター、④ヒープリーチング技術、である。
�� 優良プロジェクトへの集中投資、経営効率化、安全性の向上が重点目標である。Oyu Tolgoi、Grassberg、Resolutionを、Tier1プロジェクト(大規模、長寿命、低コスト)として位置付ける。
④ Martin Abbott(LME CEO)
�� LMEの最近の動向及び2012年の香港証券取引所(Honk Kong Exchanges & Clearing Ltd.)による買収について述べた。
�� 新体制への移行は順調に進んでおり、LMEは香港証券取引所の一部門となり、引き続き金属市場としてグローバルな位置を占めている。
⑤ Vanesa Davidson(CRU 銅部門長)
�� 価格高騰は沈静化し、鉱山生産の増加(特に2012年)に伴って在庫も増加しているが、現時点で供給過剰とは言い切れない。銅価格の上値はマクロ経済、下値は供給不安(新規プロジェクト遅延、供給障害等)に制約される。在庫は10年ぶりの高水準であるが、消費量の4週分程度で、2002年当時の5.2週より低水準である。現時点では、スーパーサイクルの終わりではないとみている。なお、中国の在庫は2013年に入り減少傾向にある。
�� 2013年の銅消費は、欧州を除き北米、南米、インド、中国、日本、アジアで伸びることにより、世界で3.6%増と予測している。
�� 生産マージンはまだ大きいが、コスト上昇が生産マージンを圧迫している。また、鉱石品位の低下傾向は今後も続き、品位低下をバランスするための増産も必要である。新規鉱山開発計画は22プロジェクト(140千t/年以上)あるが、確実なものは半分以下であり、2014年には若干の鉱石不足につながる可能性がある。最近の増産は、新規プロジェクトによるものではない。
�� 電力不足、水不足、環境問題、資源ナショナリズム、インフラ不足、高い税金、コミュニティ対策、開発の遠隔地化等リスク要因が増加している。
�� 2013年は供給過剰、2014年は若干の不足と予測するが、2015年がターニングポイントとなって同年以降鉱山生産が増加して供給過剰が続き、2016-2017年に価格下げ要因となる。
◆ 第1セッション(経済及び銅需給見通し)
① マクロ経済概観 (Mike Harris、Rio Tinto エコノミックス&マーケット部門長)
�� コモディティー価格は、短期的ボラティリティーと中長期市場サイクルが組み合わさり、これらを区別する必要がある。鉄鉱石は2012年下期以降、ボラティリティーが上昇した。
�� 世界景気は、欧州経済危機、中国減速、米国経済の回復の遅れ等の懸念があるが、2013年に入り、ECBによる追加対策、中国のインフラ支援、米国量的緩和(QE3)の出口戦略等に関心が集まっている。米国経済も、耐久財受注・出荷、雇用等上振れリスクが出ている。米国株式相場とコモディティー価格はリーマンショック前後以降連動していたが、2011年末から乖離している。
�� 中国経済は今後も長期的に発展するが、政府金利政策、地方政府財政、税制改革、戸籍問題、国営企業、エネルギー不足と環境問題等、リフォームも必要である。
�� インドの発展は中国より遅いが、中国経済が成熟後、インド、東南アジアの経済発展、都市化の進展が世界経済をけん引する。鉄鋼需要の他、アルミ、チタン等の金属の消費も伸びる。
�� 資源供給に関する制約要因として、投資コスト上昇、プロジェクトの複雑化、カントリーリスク上昇、コミュニティー対策があるものの、投資家の期待も拡大している。
② 銅需給見通し
(Michael Widmer、Bank of America/Merrill Lynch社 金属リサーチ部門長)
�� 最近の安定した投資とファンダメンタルの軟化により、2014年及び2015年の銅需給は供給過剰に転ずるが、新規プロジェクトの遅れもあり、供給過剰は押さえられると予測される。在庫の増加は続くものの、影響は限定的である。市場在庫は増加しているが、中国では市場外在庫は減少を続けている。その他、鉱石の買鉱条件は改善すると予測される。
�� 価格下落が企業収益を圧迫しているが、大手生産者は生産調整により価格維持や収益確保を図ることができる。「金属OPEC」の出現のようである。
�� CAPEXが大きく増加するが、投資家は投資額(production capacity)よりも投資の質を重視しつつあり、現実にはShare Price Performanceは低下している。CODELCOも逆風に遭遇する。
③ 中国経済と銅需給見通し(Max Layton、Goldman Sachs社 シニアメタルエコノミスト)
�� 2015年にかけて、中国経済の減速等で相場は弱含みで推移し、その後も長期的に軟調に推移すると予測される。欧州経済は弱く、米国市場は住宅建設の回復等の兆しがみられる。
�� ビジブル在庫(LME、COMEX、上海等)は、2009年以降増加傾向が続いているが、2002年当時と同水準の1.6百万tであるものの、全世界の在庫は2002年当時の10週分より少ない7週分程度と推定している。
�� Goldman Sachsの予測では、2020年までに400~500万t/年の新規鉱山開発が実現されるためには、銅価3.0~3.3 US$/lbが必要とみている。
④ Ivanplats社の戦略(Robert Friedland(Ivanplats社社長)
�� メガシティーの誕生と銅消費の増加により、銅消費の主体は先進国よりも中国、インドの中間層に移行する。銅は導電体としての安定した需要が続くと同時に、抗菌作用を利用した用途も重要である。
�� 新たな銅鉱山プロジェクトとして、Oyu Tolgoiは一つの例であるが、今後アフリカでの鉱山開発が進む。Ivanplats社はKamoaプロジェクト、Kipushiプロジェクト(DRコンゴ)等高品位プロジェクトを推進する。
4月10日(水)
◆ キーノートセッション II
① Jon Benjamin 英国大使
�� チリにおける英国企業による鉱業投資には歴史があり、現在も英国企業は重要な投資を担っており、LMEも金属市場で重要な役割がある。投資サイドから見ると、チリの安定した投資環境、経済は魅力である。今後もより多くのチリ企業がLMEを利用することを望んでいる。
�� 鉱業投資は、バイラテラルな関係構築に需要な役割を持っている。
② Felipe Larrain チリ・財務大臣
�� マクロ経済の動向について、特に先進国による金融政策の拡大は、通貨切り下げ、通貨戦争等流動性トラップのリスクがあると警告した。
�� これとは逆に、発展途上国にとって、通貨高は輸出製品の競争性を下げる。チリではリスク回避のために、慎重な経済政策、負債の抑制、景気刺激、解放市場政策を進め、為替介入は限定的に行う。
�� 世界経済のリスクは、欧州の景気停滞、米国の低成長、アルゼンチン及びブラジルの停滞である。
�� チリでは、鉱業投資や港湾等インフラ投資に対する社会不安の増加のほか、鉱業投資コストの上昇があるが、特にCODELCOの収益悪化は政府の財政に影響する。鉱業収益と政府歳入の安定化が今後の課題である。
③ 銅鉱山投資のファンダメンタル
(Javier Targhetta、Freeport McMoRan Copper & Gold社 営業担当副社長)
�� 銅需要は堅調に推移する(2025年まで3.2%/年)とみているが、銅鉱山プロジェクトは、操業や開発リスクの上昇傾向にあり、大規模プロジェクト発見の機会は少ない。
�� 新規鉱山開発は、大規模プロジェクトの欠如、インフラ投資上昇、コストオーバー、行政手続きコスト上昇、地域社会対策の増加、地政学リスク上昇等の特徴がある。
�� Freeport社は世界最大クラスの銅生産者として、世界クラスのプロジェクトに対する投資や操業を行っている。2012年からは石油、天然ガスプロジェクトも取得し、経営体制を強化している。銅埋蔵量は半分が北米であり、その他、インドネシア、アフリカ、南米に保有しており、当面はCerro Verde、Morenci、Tenke鉱山の拡張に注力する予定である。
�� 今後の銅需要は、都市化の進展に伴い中国を中心とするアジア地域がけん引するものの、今後中国は地金輸入より鉱石輸入を増やしていくだろう。新規鉱山開発プロジェクトは進捗が遅く、長期的な供給はチャレンジングである。
④ KGHM社の国際展開と技術チャレンジ(Herberet Wirth、KGHM Polska Miedz社)
�� KGHM社は世界クラスの銅生産者(第8位)で、銀生産は世界最大である。国営企業から民営化に移行して国際展開を図り、北米及び南米で銅、ニッケル、モリブデン等鉱山に対する投資を拡大している。経営戦略は、資源量増加による長期的経営基盤確保、技術力強化、地理的展開である。国外資産は、M&Aにより取得する。
�� ポーランド国内の銅鉱床の採掘深部化、低品位化により、有機的成長の機会がなく、国際展開が不可欠となった。また、技術力強化の観点では、地下深部採掘のほか露天採掘技術の強化も推進し、高硬度鉱石採掘、採掘自動化に取り組むこととしている。
◆ 第2セッション(サプライリスク・サイクルファクター)
鉱山生産の効率性を決める要素として、労働生産性、電力消費、自動化に焦点を当て、Tiltonチリカトリカ大学客員教授(労働生産性)の他、CRUチリ社(電力消費)、CODELCO(採掘自動化)、Komatsu(操業自動化)、Finning社(人事管理)から講演があった。
① 鉱業の生産効率(John Tilton、カトリカ大学客員教授)
�� 生産効率を決める要因には、①技術革新:機械化、IT導入、②資源制約:品位、剥土比等、③政策:規制、労働者能力、経済規模、人材活用、ストライキ等、④サイクリカル、がある。
�� 歴史的に価格が上がると生産性が落ち、価格が下がると生産性が上がるのが経験則であり、生産性の向上が、価格の引き下げにもつながり、生産者、消費者とも利益がある。
�� チリでは、1990年代生産性が大きく向上したが、1999年以降頭打ちとなり、2003年以降は価格上昇とともに下降局面に入っている。技術革新のみでは、もはや鉱石品位の影響を克服できない状況にある。
② チリ銅鉱業と電力消費(Erik Heimrich、CRUチリ社アナリスト)
�� チリ鉱業の課題は、①高い電力コスト、②天然ガス供給途絶と石炭火力、LNG依存度上昇等エネルギー供給問題である。2007年以降、降雨量の低下による水力発電量の減少もあり、火力発電依存度が上昇している。しかし、新規発電プロジェクトに対する反対運動や建設遅延も起きている。
�� 銅生産工程において、銅生産原単位当たりの電力消費量増加、鉱石品位低下、SX-EWでの電力消費量増加が進んでいる。また、海水淡水化及び揚水のための電力消費量の増加が大きい。
�� 電力コストは、2007年から2012年までの間に年率12%上昇し、キャッシュコストの15%に達している。チリ以外での電力コストの割合は、8%程度である。
�� 世界的にプロジェクト遠隔地化や電力インフラの不足に直面している。
③ パネルディスカッション(技術開発、人材開発)
現在の鉱山技術、技術開発動向、人材開発のほか、自動化による生産性の向上、コスト削減のための戦略が語られた。
�� 鉱山連続総量システムの開発(Fidel Baez、CODELCO 技術開発・採鉱部長)
�� 採掘条件の変化として、採掘深部化、工学的変化(裂罅、岩石硬度、ストレスレベル等)、鉱石運搬、有効労働時間、鉱石品位低下、人材不足等の問題がある。そこで、採掘の機械化、自動化、遠隔操作化を進めているほか、採掘現場から処理施設までの連続操業システムの開発(Mine Factory構想)を推進している。Gaby鉱山では、鉱石ダンプの自動運転、El Teniente鉱山での鉱石ローダの自動運転化に取り組む。自動化は、人件費削減よりも操業効率向上効果を狙っている。
�� 銅鉱山における操業効率化の取り組み
(Darko Louit Nevistic、Komatsu Cummins Chile社)
�� 2004年以降、世界的に鉱山生産性の低下現象が起きている。要因としては、鉱石品位低下、採掘深部化、運搬長距離化、コスト上昇、熟練技術者不足がある。
�� 生産性向上のポイントとして、労働時間当たりの付加価値化(Gross Value Added)、資本、操業資産当たりのリアルアウトプットに注目している。
�� AHS(Autonomous Haulage System)による生産性改善、予測的運転技術の導入に取り組む。露天採掘の生産性、安全性の向上のほか、機械寿命の長期化、燃料消費改善、コスト削減を行う。予測的操業により、不確実性や変動性を回避し、制御及び計画性を向上させる。
�� 操業自動化への道のりとして、モニタリング→運転者支援半自動システム→リアルタイム遠隔操縦→自動運転→無人自動化と進める。この過程で、データ蓄積とナビゲーションシステムの開発がポイントである。
�� 鉱山経営と総合人事管理(Juan Antonio Winter、Finning社 採鉱担当副社長)
�� Finning社の基本戦略は、教育である。教育、訓練、専門家、能力開発から始め、リーダーと専門家養成へと進める。生産性を向上させることにより、人件費の上昇を抑える。
�� 総合的人事管理:戦略的人員配置(予測、ニーズ管理、対策)、熟練技術者の雇用・教育・技術管理、戦略コミュニケーション(戦略明確化のための投資と資源)、人材確保(給与、待遇、リーダーの役割と資質)、待遇保障等による総合管理を行う。
◆ 第3セッション(銅需給-チャレンジ及び投資の機会)
① 鉱山開発の経済性(David Coombs、Cuprite Consulting社)
�� 鉱山開発は大型案件が減少し、製錬所プロジェクトは大型化する傾向が続いている。
�� 企業間格差の拡大により、大企業は規模拡大によりキャッシュリッチになり、中規模企業は、資金調達困難、買収標的の危険、コストオーバー、開発遅延等に直面している。国営企業または公的ファンドの重要性が拡大し、探鉱ジュニアは資本調達難、再編成リスクが拡大している。
�� 投資環境は、課税強化、社会ライセンスコスト、行政手続きリスクの拡大により悪化している。
�� 2000年以降、基本的な指標の変化はキャッシュコスト上昇(50→150 ¢/lb)、初期投資コスト上昇(5,000→15,000 US$/t(年間銅生産量))、銅価格上昇(1,500→7,500 US$/t)であるが、今後、10-15年の長期的銅価格として、3.0~3.5 ¢/lb(6,600~7,700 US$/t)が必要である。
② 中規模企業から見た鉱山投資環境の変化(Jay Grewal、Capstone Mining社)
�� 生産コスト上昇(鉱石品位低下、電力コスト上昇、労働者要求の増加と生産性の低下)
�� 初期投資コスト上昇、技術者不足によりEPCM契約増加、プロジェクト遅延も増え、プロジェクトの中止も増加した。行政手続きの長期化、利害関係者の増加、地政学リスク増加(ナショナリズム、増税、安全性他)も起きている。
�� 企業は、優良パートナー(ファイナンス、オフテイク)、地政学リスクの低減(アフリカより、米州、中央アジア)を求めている。社会操業ライセンスのためのアプローチ(包括的計画の立案、初期段階からの対処、適切なアドバイス支援)、優良案件の獲得(メジャー企業の売却資産の獲得、案件評価能力)も重要となっている。
�� 大手メジャー企業が資産整理を行っており、中規模企業にとって優良案件獲得のチャンスである。
③ 銅開発プロジェクトはより挑戦的に(Sean Waller、Candente Copper社)
�� 銅需要の増加(3.5%/年)により、655千t/年の新規銅プロジェクトの開発が必要である。しかし、大規模鉱床発見の確率低下、開発長期化、品位低下、生産コスト上昇(2002年以降)により、新規開発はより困難になり、開発投資コストの上昇、探査期間の長期化も起きている。
�� この結果、新規開発プロジェクトの遅れ、ファイナンスの困難化により開発意欲が減退している。探鉱ジュニアも資金難に陥っている。
④ 鉱山投資のパフォーマンス(David Humphreys、カトリカ大学 客員教授)
�� 鉱山生産は伸びたが、2012年大規模鉱山はパフォーマンスが低下し、価格の伸びも減速した。ナショナリズム高揚、操業許可の難しさ、プロジェクト遂行の困難さの増加が共通事項として認識されている。
�� 鉱業投資は長期的視点が必要であるが、長期プロジェクトはより困難となっている。また、探鉱投資への関心も下がり、今後の探鉱の減退が懸念されている。価格高騰はアルミ代替の懸念もある。また常に需給ギャップも起きる。
⑤ 銅加工品市場の見通し(Vivienne Llyod、CRU マネージャー)
�� 過去10年で、中国が銅加工品の生産を大きく伸ばした結果、供給過剰が懸念されている。需要分野では、銅管、通信向け地金需要が減少した。
�� アルミニウムとの競合も強まったが、銅/アルミニウム価格比(現在約4倍に拡大、2012年にピーク)は今後縮小するが、代替リスクの高い分野は、冷蔵庫、熱交換器、自動車向けワイヤーハーネス、エアコンである。
�� 水道管向けの用途はなくなり、通信分野向けは半分に減少したが、他の用途は増加し、全体で需要は増加している。ワイヤーロッド向け需要が、銅地金の72%、銅加工品の55%を占める。
�� 中国は国内に加工品工場を建設し、自国市場及び輸出市場向けの生産を行っている。2003年からの10年間で、生産能力は2倍になった。銅合金管、銅管生産は国内需要を超えたため輸出が増加した。
�� これに対し、欧州、米国、アジア(日本、韓国、台湾)での生産は、2003年から2012年に15%減少した。
⑥ 鉱業ファイナンスのトレンド(Felipe Diaz, Sam Sherman、Sumitomo Mitsui Banking Corp.)
�� 最近の大規模鉱業プロジェクト向け金融支援の特徴
�� バランスシートファイナンス、プロジェクトファイナンスにより支援。
�� 公的機関によるファイナンスの増加:日本、韓国、カナダ、ドイツ、米国、IDB
�� 民間金融機関の役割の変化:欧州金融機関の衰退、カナダは融資短期化、日本は自国企業支援から国際化、地場金融機関は国際的金融機関の支援を受けながら鉱業プロジェクトに参加し始める。
�� 鉱業向け融資の特徴
貸し手グループの重複、経験豊富な法律・技術コンサルタントの支援、完成保証の非遡及化への移行、環境問題等を含むデューディリジェンスの厳密化、オフテイク契約重視、貸し手の価格リスク負担、融資額は長期的価格見通しに依存する等のトレンドがある。
�� アジア諸国の公的金融機関
公的ECA(輸出信用機関)が鉱業開発投資額の一部を融資し、残りを民間金融機関が融資することが一般的で、より条件の良い公的融資により競争性が増す。日本、韓国のECAによる融資は、オフテイク、自国企業の参加等の条件付けがある。
�� 大型プロジェクトはインフラ(電力、送電、水)投資も伴うが、これらのプロジェクトは、一般的に別案件(outeside of the fence)として融資される傾向が強まる。

