報告書&レポート
トルコ・マイニング・ショー2013(その3)-鉱山会社の取組み、エネルギー需給-

7・ トルコにおける鉱山会社の戦略、投資そして大きな挑戦
Alp Malazgirt, Yildirimホールディングス社 最高経営責任者
【トルコの実質成長率は世界平均を上回る】
トルコの実質GDP成長率は世界平均を上回っている。2013年のIMFの推定値で見ると、EUは0.0%成長、先進国全体で1.2%成長、途上国全体で5.3%成長である。世界平均では3.3%成長で、トルコは3.4%成長と推定されている。

(出典:IMFより講演者が作成)
図11. 地域毎の実質成長率の傾向
【トルコ鉱業分野への外国投資】
トルコの鉱業分野への外国投資は最近増加傾向にある。2007年から2008年にかけて半減して以降、投資額は1億~2億US$の間で停滞していた。しかし2012年に2億US$を超え、2013年は第1四半期だけで1億5千万US$を超えている。全ての外国投資額に占める鉱業分野の割合についても、これまで2%前後で推移してきたが、2013年第1四半期は11.7%となっている。
今後、GDP3%成長、鉱業輸出の10%成長が続くと控えめに仮定しても、2023年の鉱業分野への外国投資額は約6億US$まで拡大するだろう。GDP5%成長、鉱業輸出が200億US$に届くと仮定すると、2023年の鉱業分野への外国投資額は9億US$を超えるだろう。

(出典:講演者資料より)
図12. トルコ鉱業分野への外国投資の推移
8・ ヤニパザール(Yenipazar)複数金属プロジェクト
Mario Caron, Aldridge Minerals社 社長兼最高経営責任者
当社はトロントで上場し、トルコのヤニパザール(Yenipazar)でプロジェクトを行っている。現在フィージビリティ・スタディの段階だが、今年から2014年初めにかけて土地を取得し許認可を得、2014年から建設を開始し、2016年に生産を開始する予定である。
【複数金属によるリスクヘッジ】
合計3千万tの金、銀、銅、鉛、亜鉛の賦存が確認されている。100 ㎢の土地があるが未だ探鉱は限定的にしか行っておらず、今後さらに埋蔵量が増える見込みである。複数の金属の生産が見込まれるので、自然とリスクヘッジとなっている。
【極めて良好な財務体質】
プロジェクトの財務体質は規格外に良い。税引後の現在価値は約3億6千万US$、内部収益率にすれば23.7%、元本回収期間は2.8年、本年3月時点の手元流動資金は1,400万US$である。
【地理的優位性】
プロジェクトはトルコ中央部に位置し、74 ㎞のところに鉄道、17 ㎞のところに154 kVの電線が通っている。生産に至るまでの資本コスト(CAPEX)は約3億8千万US$だが、鉱床が浅く露天掘りであるため、操業コスト(OPEX)は小さく約3千万US$である。

(出典:講演者資料より)
図13. ヤニパザール・プロジェクトの位置
【地域社会と持株会社を設立】
地域社会との関係は戦略的に考えている。メディア、エンジニアリング会社、建設会社と共同で持株会社を作っている。当社の持ち分は30%である。地元の銀行、政府と強い関係を構築している。昨年4月に1,120万US$、今年2月に450万US$の出資が行われ、開発移行へと加速している。
9・ トルコにおける新規探鉱フロンティア
Steve Williams, Pasinex Resources社社長
当社はトルコ国内の5つの州に21の資産を持つ。アダナ(Adana)州の鉛・亜鉛、シバス(Sivas)州の銅・銀、アフィオン(Afyon)州の銅・金が重点である。当社は初年の2012年に9千を超える試料を採取した。
【アダナ州の鉛・亜鉛プロジェクト】
アダナ州には16の資産があり、全て20 ㎞以内の位置にある。1974年から1982年にかけて品位30%の酸化亜鉛が420万t生産されていた。
アダナ州ではAkmetal社と協力している。Akmetal社はクロム鉄鉱の操業を通じて地元でプレゼンスがあり、アダナ州近郊に約1,200人の雇用を擁する会社である。Akmetal社は操業の経験と現地の知識を提供できる。当社は最新の技術を提供できる。そのためAkmetal社と当社で50対50のジョイント・ベンチャーを設立した。16の資産のうち8つはこのジョイント・ベンチャーによるものである。
同州ではトップクラスの地質専門家が現場で調査している。また世界クラスのコンサルタントも参加している。トルコ政府の地質図も重要である。現時点の我々の概念モデルは“カーボナタイトモデル”である。このモデルは、溶解度の違いにより、近隣に位置するアッカヤ(Akkaya)、ピナルゴズ(Pinargozu)、ホルズム(Horzum)の違いを説明することができる。他方、化石が多く見つかるパサリ(Pasali)は、カーボナタイトモデルでは説明できず、ミシシッピバレー型に似た鉱床である可能性が高い。
【シバス州の銅・銀プロジェクト】
シバス州内のゴルコク(Golduk)は、火山性層状銅鉱床又はマント型銅鉱床である。類似の鉱床がミシガンのケゥィーナゥ(Keweenaw)プロジェクトで確認できる。
当社はゴルコクをEurasian Minerals社から2012年9月に買収した。2009年から2010年にかけて20以上の掘削井が掘られていた。銅のアノマリー(Anomalies)がある。当社は試掘を続けており、2013年1月の試掘では9.7 mの地点での銅品位が2.97%であった。
【アフィオン州の銅・金プロジェクト】
アフィオン州内のダダク(Dadak)は、銅・金が期待されるプロジェクトである。地化学的サンプリングにより銅・金のアノマリーが確認されている。つかみ取り法による最も良い品位は、銅2.27%、金0.13%であった。
10・ トルコにおけるエネルギー輸入危機の解決策
Alp Gurkan, Somaホールディングス社 社長
【エネルギー自給率が大きく低下】
トルコのエネルギー消費量は、1990年に5千3百万Tep (石油換算t)だったが、2011年には1億1千4百万Tep(石油換算t)まで倍増した。国内でのエネルギー生産量の増加は少なく、消費量の増分を輸入で賄ったため、1990年に49%だったエネルギー自給率は2011年には28%まで低下した。トルコは今や世界第7位の石炭輸入国であり、世界第8位の天然ガス輸入国となった。

(出典:トルコ・エネルギー天然資源省資料より)
図14. トルコにおけるエネルギーの生産量/消費量の推移

(出典:トルコ・エネルギー天然資源省資料より)
図15. トルコにおけるエネルギー輸入量の推移
【国内での石炭開発を促進】
再生可能エネルギーは増加しているとはいえ不十分であり基幹電源にはならない。1千万kW分の原子力発電を計画しているが2023年時点で8%を賄うに過ぎない。基幹電源を強化しエネルギー自給率を上げるため、国内の石炭開発が重要となっている。
そのため2005年以降、トルコ政府が石炭の探鉱予算を増大させ、国内での探鉱活動を活発化させた。その結果、埋蔵量については飛躍的に増大し、2013年時点で149億tとなった。
生産については、トルコ政府は、石炭鉱山と石炭火力発電を優先投資分野として宣言し、減税、付加価値税の免除、社会保障費用の免除で助成している。トルコ石炭公社が所有している鉱床も入札にかけることとした。しかし生産量は、今に至っても7千万t台のまま停滞している。
今後はこれらの政策が効果を発揮し、2023年には2千2百万kWが上積みされ、エネルギー自給率が向上することが期待される。

(出典:トルコ・エネルギー天然資源省資料より)
図16. トルコにおける石炭の生産量及び輸入量の推移
11・ トルコにおける無煙炭産業の開発の現状
Necdet Bicer, トルコ無煙炭公社(TTK)プロジェクト計画局長
【トルコ石炭産業の課題】
トルコは一次エネルギー供給の72%を輸入に依存している。トルコにとって、石炭の国内生産を増大すること、そして国際市場においてバーゲニングパワーを持つことが課題である。またトルコは急速な産業化の過程にある。石炭産業においても、高度な技術の導入、新規の石炭火力発電所の建設、既存の石炭火力発電所の効率的利用が不可欠となっている。
【TTKの事業概要】
当社は完全な国有企業である。イスタンブールから東に380 ㎞、黒海の北西岸にあるゾングルダク(Zonguldak)石炭盆地で無煙炭を生産している。トルコで無煙炭が生産されているのは同盆地だけである。5箇所の生産地域があり全て坑内掘りである。2012年は230万t生産している。地質構造が大変複雑なため、当社では生産の機械化ができず、伝統的な労働集約型の生産方法にならざるをえない。
【民営化により生産拡大】
民間企業の参入について法律上の制約はないが、当社は事実上の独占企業である。しかし当社は石炭以外の事業には投資ができない。石炭以外の事業にも携わっている民間企業が、当社所有の操業権を得ることができれば、新たな技術が導入され、新たな鉱山が開発されることが期待される。
そのため、トルコ政府は鉱業法を改正し、当社の4つの大きな鉱区及び26の小さな鉱床を入札にかけることを可能とした。民間企業の参入により、年間800万tの石炭が生産されることが期待される。
おわりに
トルコ経済は年5%程度のペースで成長している。トルコはOECD加盟国であり、さらにEU加盟を申請している。国の財政や投資・貿易ルールはEU並みと言っても過言ではない。またアルプス・ヒマラヤ造山帯に位置し、73種類もの鉱物資源が存在する。
2010年に鉱業法が改正されて以降、許認可プロセスが円滑になされるかどうかなど見定める動きがあった。しかし2012年から2013年にかけてトルコに参入し始めているカナダや豪州の企業があり、2013年に入ってトルコ鉱業への投資額が伸びている。許認可面でも「関係当局の手続きは数か月で終了した」との声もあった。投資環境に変化があると言うことができる。
ただしトルコの主要産業は、サービス業や工業、農業であり、鉱業分野がGDPに占める割合は1.5%(2010年)に過ぎない。高いGDP成長率のためベースメタルは輸入に依存しているが、エネルギー天然資源省は輸入依存を本格的に打開するまでの政策は打ち出していない。新たに参入した企業の中には期待されるものもあるが、未だ探鉱段階であり順調に生産に至って資金回収できるかどうかは未知数である。むしろシアンなど毒性の強い物質については、適正管理が最優先課題となる。トルコ政府が鉱業分野への投資を本格的に促す政策をとるか否か、引き続き注視する必要がある。

