報告書&レポート
ERNST & YOUNGによる鉱業におけるビジネスリスクの分析

監査法人Ernst & Young(以下E & Y、本社:ロンドン)は、鉱業が直面しているビジネスリスクを分析した報告書「Business risks facing mining and metals」を2008年から発表している。同報告書は、主要鉱山・金属企業に対するインタビューに基づきリスクのランキングを提示すると共に、それぞれのリスクに対して鉱山・金属企業が実施することができる対策についても言及している。本カレント・トピックスでは、2013年版の同報告書の概要を報告する。 なお、同報告書の要約(英文)は以下のリンクからダウンロード可能である。 また、2012年のビジネスリスク分析については、カレントトピックス12-59号にて詳報していることから、参照されたい。 |
1. 2013年の鉱業ビジネスリスクランキングトップ10
2013年の鉱業におけるビジネスリスクランキングのトップ10に特定された項目は、1位から10位まで昇順に、①資本の配分と資本へのアクセス、②利益の確保と生産性の向上、③資源ナショナリズム、④社会的操業認可、⑤技能不足、⑥価格と通貨のボラティリティ、⑦投資計画の実行、⑧利益の共有、⑨インフラへのアクセス、⑩代替の脅威という結果であった(図1参照)。前年のランキングと比較すると、2012年には第8位であった「資本の配分と資本へのアクセス」が第1位に急上昇している。二つからなるこの資本面でのリスクは、メジャー企業の長期的な成長とジュニア企業の短期的な存続に影響を及ぼすリスクである。一方、2012年に第1位であった「資源ナショナリズム」は第3位にランクを落とした。このことは、資源ナショナリズムの拡大が進行するにつれ、鉱山会社のリスク管理能力が向上している結果とも考えられるが、リスクの深刻度は昨年と同程度であるといえる。また、今回「代替の脅威」が新たにランク入りしたが、金属の代替利用は、特定の市場を急激及び急速に一変する可能性がある。

(出典:E & Y「Business risks facing mining and metals 2013-2014」)
図1. 2013年ビジネスランキングと2012年の同ランキングとの比較
2. ビジネスリスクのトップ10に特定された項目の詳細及び対策
◆ 第1位: 資本の課題-資本の配分と資本へのアクセス(前年第8位)
資本の配分と資本へのアクセスという資本上の双方向の課題(Capital dilemmas)が2013年の最大のビジネスリスクとなっているが、企業の大きさによってリスクの内容は変わってくる。
メジャー企業にとっては、資本をどのように配分するかが課題である。鉱山会社の長期的な投資計画と株主が望む短期的な投資収益との間でずれが生じている。短期的な利益還元を望むタイプの株主は、鉱業における周期的性質(cyclical nature)や長期的な視野での開発、投資、利益還元といった側面には慣れていないが、鉱山会社が今日下した(短期的な)決定が長期的に見ると株主の利益を損ない得るといった深刻なリスクが存在していることから、鉱山会社は短期的な視野の株主と長期的な視野の株主との間でバランスをとらなくてはならなくなる。
一方、ジュニア企業にとっては資本へのアクセスに関し、過去10年間で最も厳しい状況にあると言える。ジュニア企業の資金及び運転資本の状況は大変深刻になっており、よりハイリスクなジュニア企業株の売却が急激に進んでいる。
<資本の分配に対する主な対策>
・ 企業利益に影響を与え得るリスクの許容レベルに関し、明確な共通の認識を持っておく。
・ リスク、プロジェクトの経済性及び想定事項を定期的かつ総合的に評価する。
・ 明確で客観的なガバナンス(統治)を確立する。
・ 投資後のレビューを実施し、実績と計画とを比較する。
・ 投資を単独ではなくより広範囲なポートフォリオと関連付けて検討する。
・ 企業価値を生みだす資産を特定し、企業価値を生みださない資産がある場合には出資の引き揚げを検討する。
・ 既存のプロジェクトを新規プロジェクトと同じ基準で定期的に評価する。
・ 資本の出資先の順序付け、優先付けまたは変更するための融通性を持つ。
・ 選択性を提供できるような代替的で革新的な資金調達方法を模索する。
<資本へのアクセスに対する主な対策>
・ 比較的不透明な市場の中で誰が資本提供者であるかを理解する。
・ 異なるタイプの資金調達方法に関して、短期的及び長期的な影響とその実際の費用を理解する。
・ 対等合併の可能性を検討する。
・ 適切な資本目標と戦略の決定、正しい商品と提供者の選択、最良の条件での取引に関して助言を求める。
・ 先行投資資本(upfront capital)の必要性を再検討する。
・ 資金提供者との関係構築のために、適切で革新的な手段を用いる。
◆ 第2位: 利益の確保と生産性の向上(前年第4位)
鉱山会社の利益を圧迫している主な要因としては、金属価格の下落、技能労働者やタイヤなど希少な人材・資材に対するプレミアム(割増金)の増加、鉱石の低品位化、資本及び労働の生産性の緩やかな低下などが挙げられる。このような状況下で投資家からの信頼も弱まったことで、鉱業界は単なる(企業)成長ではなく操業費資本配分の長期的な最適化を目指すよう方向転換をすることになった。生産性に関しては、労働者、設備、プロセス、物流におけるそれは過去約10年間にわたり低下しており、鉱業における投入産出比率(input-output ratio)に影響を与えている。生産性を上昇させる(もしくは低下を食い止める)ためには、鉱業界はより少ない投入(インプット)でより多くの生産(アウトプット)を達成するためのイノベーションに専念する必要がある。また操業プロセスのデジタル化を進めることによって、鉱山会社は鉱山の操業を監視・分析でき、生産性の低下を特定し、操業の改善を行うことが可能である。
<主な対策>
・ 持続可能な費用削減プログラムを実施する。
・ 中核部門以外の資産を売却する。
・ 鉱山の操業契約、売却、リースバック契約を検討する。
・ サプライヤーとの契約を見直す。
・ 外部委託を検討する。
・ 規模の経済性(economies of scale)の原理を最大限に活かすために、戦略的な合弁事業を行う。
・ より頻繁にカットオフ品位を変更する。
・ 労働者の転職率(turnover)を改善する。
・ 賃上げ交渉の際に生産性を交換条件として取り入れる。
・ 自動化(automation)を進める。
◆ 第3位: 資源ナショナリズム(前年第1位)
過去5年間で、①高付加価値化の義務化、②資源国政府の所有権の拡大、③輸出制限、④税またはロイヤルティの引き上げ、という主に4つのタイプの資源ナショナリズムが世界中に広がった。このことより、鉱物資源から得られる利益を最大化するための政策を実施または検討している資源国政府の数は、ますます増えている。これら資源国政府からの鉱業界に対する要望が強まる一方で、鉱山会社はコモディティ価格の低下を受けて、鉱業プロジェクに対してより慎重なアプローチを取るようになっており、鉱業における資本投資額は大幅に減少した。結果として、一部の資源国では既に鉱業投資に悪影響を与えるような政策案を撤回するといった動きも見られている。しかしながら、歳入不足を抱える資源国政府は鉱山会社からの財源提供を引き続き期待するため、資源ナショナリズムが無くなる見込みはない。また、投資ブームが終息する直前である現時点こそが、当該政府が鉱業プロジェクトにおける所有権を拡大しようとするタイミングである場合が多い。鉱山会社は資源国政府との対話を継続し、鉱業プロジェクトが資源国政府、国民、コミュニティにもたらす価値に関するより深い理解を得ていかなければならない。
<主な対策>
・ 鉱業プロジェクトがもたらす利益を受入れ国側に理解してもらうため、同国政府との透明な関係(transparent relationships)構築のための投資を行う。
・ 受入れ国政府の長期的な経済的及び政治的インセンティブに沿った事業展開を行い、本事業が同国のインフラの貴重な一部分となるようにする。
・ 有効な地域コミュニティ開発プログラムを積極的に実施することにより、受入れ国の地域コミュニティに直接的かつ持続可能な利益をもたらす。
・ 多国間組織や利害関係者と協力して、資源ナショナリズムがもたらす経済的及び社会的な悪影響と、安定した相互利益のある鉱業政策がもたらす持続可能な利益に関する認識を広める。
・ 政府との強力な関係を築いている国営企業と提携する。
◆ 第4位: 社会的操業認可(前年第6位)
社会的操業認可(SLTO:social license to operate)は、E&Yのビジネスリスクランキングで常に中位を維持しており、鉱業ビジネスにおいて重要な要素であることが分かる。利害関係者がソーシャルメディア等の媒体を通じて情報を共有できる現代においては、鉱山会社はコミュニティの懸念や不満に緊急に対応する必要があり、またプロジェクトの開始段階からコミュニティと協議を行って潜在的な課題を特定・排除するべきである。
利害関係者の知識が深まるとともに、反鉱業感情(anti-mining sentiment)も高まってきている。NGOの中には、大規模な鉱山開発を阻止する目的で、水へのアクセスや零細鉱業権の喪失などコミュニティが抱える懸念を利用して活動している団体も確認されている。他方で、政府機関では、コミュニティの要望と既存の法律との間の格差を埋めるために規制を強化する動きが見られるうえ、裁判所がプロジェクトの差し止めを命じるといった事例も増えている。
鉱山会社にとって、SLTOを取得することとそれを維持することの両方が課題である。課題解決の鍵となるのは、鉱山会社と広範囲な利害関係者にとっての「共通価値(Shared value)」を創造し、その価値を定量化し、発表することである。
<主な対策>
・ 初期段階における地域コミュニティとの率直な対話を通じ、鉱山操業に関する懸念について理解した上で対処し、鉱山が及ぼす影響を減らすための戦略を実施する。
・ コミュニティのための価値をより多く創造し、その結果として会社が得られる価値を増やすために、鉱山操業をどのように調整できるかを特定する。
・ 企業のリスク管理フレームワークに社会的操業認可に関するリスクも組み入れるとともに、明確なリスク軽減戦略も構築しておく。また、その戦略を全ての重要な業務プロセスに組み込み、総合的なアプローチを取れるようにする。
・ 持続可能性の重要業績評価指標(KPI:Key Performance Indicator)を、生産性の評価及び給与構造の中に取り入れる。
・ 持続可能性に関する成果を、労働者の確保及び維持に結び付ける。
・ 社会的操業認可に関する問題に対処するスピードを向上させる。
・ 紛争地域においては安全面でのリスクを軽減するために、全ての利害関係者との友好的な信頼関係を促進する。
・ 全ての長期計画に持続可能性に関する目標を含める。
◆ 第5位: 技能不足(前年第2位)
熟練鉱山労働者の確保は、鉱業が抱える深刻な長期的課題の一つである。鉱業への新規投資が低迷したことで、建設や開発部門での労働者の必要性は短期的に軽減したものの、長期的には鉱山労働者の需要は増加傾向が続くと考えられる。
例えば、BHP Billitonによると、豪州の資源産業は2016~17年までに、追加で17万名の労働者が必要であるとしているほか、カナダの鉱業人材評議会(Mining Industry Human Resources Council)によると、カナダの鉱業労働者の約40%は2014年までに定年退職を迎え、2017年までに6~9万人の熟練労働者不足に陥る可能性があるとされている。また、チリやブラジルといった他の国々も同様の課題を抱えている。世界的に技能不足が深刻化しており、これは鉱業界の長期的な成長を抑制し得る問題であり、鉱山会社は長期的な解決策の必要性を認識している。鉱山会社の一部は既に政府等と協力し、大学や職業訓練施設での鉱業教育の増加を図っている。加えて、多くの鉱山会社は労働集約的な作業の自動化といったイノベーションも実施している。技能不足の問題に対処するためには、創造的で革新的なアプローチを取っていく必要がある。
<主な対策>
・ 鉱業と関連のある産業やより広範囲の労働者層から人材を確保する。
・ 投資に関する決定を下す際に、人口動態や多様性を考慮に入れる。
・ 半熟練(semi-skilled)労働者の技能向上や引退した元労働者の再就職を促進するプログラムを実施する。
・ 引退間近の熟練労働者が持つ重要な技能を引き継ぐためのプログラムに焦点をあてる。
・ 給与とキャリア開発の機会とのよりよいバランスを保った雇用条件を提示する。
・ 鉱山の経営計画の中に早期の人員確保を組み込む。
・ 関連団体やコミュニティとの戦略的な協力関係を確立しておく。
・ 生産性を理解し最適化するためのイニシアティブに焦点をあてる。
・ 労働者の代わりに資本を用いてイノベーションを促進する。
◆ 第6位: 価格と通貨のボラティリティ(前年第7位)
過去10年間の大半において、中国を中心とした新興経済によって駆り立てられたコモディティ需要により金属価格が上昇し、新しい供給源の開発が促進されてきた。現在、金属の需要と供給は均衡(equilibrium)に近づいているが、生産量を修正するためには長いリードタイムを要するため、供給過剰や供給不足が発生する可能性があり、価格のボラティリティの上昇を引き起こし得る。革新的な鉱山会社の中には、より急激で頻繁な価格変動が予想される今後数年間を通しても利益を享受するため、新しいボラティリティ管理方法を見出している企業もある。現況における最善策は、(価格と通貨の)不確実性、起こり得るシナリオ、そして下した決断が鉱山の利益に与え得る影響を予測することである。
2013~14年においては、鉱山会社は金属価格と通貨のダウンサイド・リスクへの対応に追われるであろうが、次に価格の上昇が起こった時は、同社にとって、将来起こりうる価格下降のボラティリティに対するより効果的な保護策となるヘッジ・プログラムを開始するよい機会となる。
<対策>
・ 重要なキャッシュフローにおけるボラティリティに関する理解を明文化する。
・ 鉱山計画と財政計画の一体化を向上する。
・ ボラティリティに対応するために鉱山計画のスピードを改善する。
・ 鉱山計画における変更点を内部及び外部に素早く通達するための通信計画を構築する。
・ 特定したビジネスリスクを、将来のリスク管理計画に活かす。
・ 価格と通貨のボラティリティが企業のリスク選好度(risk appetite)に与える影響を検討する。
・ 価格面でのリスクに対応するための選択肢を特定・評価するにあたっての適切な方法を選択する。
・ 例え全体のコストが上昇する場合でも容易に生産レベルを変更できるよう、コスト面における融通性を向上させる。
・ 短期的な価格面でのリスクを管理すると同時に、次に価格が上昇基調になった時に備えてヘッジ・プログラムを準備しておく。
◆ 第7位: 資本投資計画の実行(前年第5位)
不安定なコモディティ価格や採算性の低下に加えて、短期間での利益還元の最大化を要望する株主からの圧力が強まる中、2012年には新しい資本投資計画の発表件数が前年と比較して21%減となり、金額では57%減少した。過去12か月間で資本投資計画の実行に関するリスクは大幅に上昇しており、積極的な管理を要するリスクであると認識されるようになった。資本投資計画の実行に関するリスク管理がおろそかであると、プロジェクトの進行予定や予算面で支障を来すだけでなく、企業の採算性、成長目標、社会的操業認可、そして全体的な経営状態に悪影響を及ぼす可能性がある。鉱山会社が講じた特徴的な対策の例として、2012年に経営トップの交代が数多く発表されたことが挙げられる。戦略的なリスク管理のため、企業のポートフォリオ管理、プロジェクトの選定、規模や範囲に関する意思決定における経営幹部の関与と説明責任が強化された。その他には、資本支出の予測可能性の向上、健全な企業統治体制の構築、緊急時対策の強化等も注目されている。今後は、大規模プロジェクトを複数のプロジェクトと共に「プログラム」として承認することで、経営幹部がプロジェクトのライフサイクル全体を通した評価を下すためのより多くの選択肢を持てるようにするべきである。
<主な対策>
・ ポートフォリオの厳密な管理と、プロジェクトの選択、優先付け及び管理に関してより綿密な調査を行う。
・ 情報や技術面での進展及びベンチマークを全ての手順やデータベースに組み込み、知識管理をオペレーション可能にする。
・ 全ての潜在的なプロジェクトリスクに対処できるよう、戦略と明確な目標を持って、効率的なリスク管理手順を実施する。
・ プロジェクトの所有者と請負業者が協調し、プロジェクト及び供給チェーンのパフォーマンスが監視及び管理されていることを確実にする。
・ 第三者によるプロジェクトの評価及び監督を行い、プロジェクトの実績を確かめられるシステムを構築し実施する。
◆ 第8位: 利益の共有(前年第9位)
2012年には、コモディティ価格の低迷、コストの上昇、投資計画の予算超過などを背景に、多くの鉱山会社の利益が減少した。それに伴い、鉱業プロジェクトの利害関係者が享受できる利益も減少したが、利害関係者の要望は現状には遅れて再調整されるため、ほとんどの利害関係者はより多くの利益の配分を要求している。2013~14年には、配分可能な利益ベースがより縮小するため、利害関係者の要求への対応は一層の緊急性を要する。また、未だほとんどの企業が、受け身的な対応で利益の共有を調整している。利害関係者の要望の再調整に時間がかかる原因は、金属価格が低下した場合、鉱山会社が即時に影響を感じるのに対して、サプライヤー、株主、政府、雇用者、コミュニティといった利害関係者がその影響を感じるのは何か月も後になるからである。そのため、鉱山会社はリスクを長期的な視野で認識し、先を見通して利害関係者の要望を管理していく必要がある。
利害関係者の要望は時間がたてば自然と(鉱山会社の現況との)バランスを取り戻すと思われるが、利害関係者と積極的に意見交換をして、その要望を早く再調整できた鉱山会社はより大きな価値を創造できるだろう。また、金属価格の低下にあわせて利害関係者の要望を再調整する場合、次に金属価格が上昇した際に備えて、不満の種をまかないよう気をつけなくてはならない。
<対策>
・ 鉱山評価(mine valuation)のプロセスにおいては、利害関係者の意見を検証する。
・ 鉱山評価への影響を制限できるようなトレードオフ(妥協策)を得る。
・ 価値を創造するようなトレードオフとして、リスクの移転を行う。
・ 価値の共有は短期的な解決法でしかないため、利害関係者をより長期的な解決法に導く。
・ 鉱山及び関連施設から利害関係者が受け取る利益に関する報告書の透明性を高める。
◆ 第9位: インフラへのアクセス(前年第3位)
鉱山会社がフロンティア地域における鉱床開発を活発化させる中、インフラへのアクセスが大きな課題となっている。特に、輸送、水及びエネルギーのためのインフラ開発は、鉱山開発プロジェクトに割り当てられた投資資本の大部分を占めるようになっている。1990年代には鉱山の開発費用全体の約40%を占めるに過ぎなかったが、現在では最大で80%を占める場合もある。本割合の上昇は、経済全体でのインフレも要因ではあるが、多くの新規鉱床が遠隔地にあることやプロジェクトを商業生産段階に移行するために必要とされる開発事業の規模と複雑性が主な原因である。また様々な政府機関や地方政府からの鉄道、土地、港湾施設等に関する要望が鉱業権の取得要件の中に組み込まれるようになってきたことも、プロジェクトの開発費用を上昇させ、プロジェクトの成功を脅かす一因となっている。
開発費用が上昇する一方で、利用可能な資本は益々制限されてきているため、資源国政府及び鉱山会社の双方とも鉱業プロジェクトにおいて必要な全てのインフラを整備するための資金調達ができない、といったインフラにおける資金不足(funding gap)が発生している。この状況に対処するため、鉱山会社はインフラにおける必要性を再評価し、企業戦略を修正せざるを得なくなっている。メジャー企業は資本配分における選択をより慎重に行い、ジュニア企業は他社やオフテイク契約を結ぶ顧客との協力体制を強化している。また資源国政府は、インフラ事業全体の資金を提供することはできないものの、インフラ開発のプロジェクトにおける影響力は依然として強く、プロジェクトの支援者としての役割を果たしている。
インフラ開発が(投資資本の)大部分を占める鉱山開発プロジェクトに関しては、鉱山会社は他機関との協力・協働を強化することが今後必要となる上、革新的なビジネスソリューションを模索し、また意欲的にインフラの権益を共有していくことが求められる。
<主な対策>
・ インフラ不足が企業価値に与え得る影響の範囲を特定する。
・ インフラを含めたすべての設備投資から得られる利潤を理解した上で、適切な資金調達を行う。
・ インフラに関する問題に他の利害関係者と協力して取り組み、利益を共有する。
・ オフテイク契約を含めた資金調達方法を視野に、インフラ事業への潜在的出資者とのパートナシップを検討する。
・ テイク・オア・ペイ契約(引取保証)が最適な水準で遵守されることを確実にするため、鉱山開発計画を改善する。
・ 全ての関係者にとっての商業、資金調達、配達、規制面でのリスクに対処できるようなインフラに関する解決策を、政府と協力して構築する。
◆ 第10位: 代替の脅威(新たにランク入り)
主に一種類のコモディティを取り扱っている企業にとっては、代替材料の出現は差し迫る脅威となり得る。代替材料の利用が一旦始まると、元に戻すことが不可能な状況になるほど市場を一変させる可能性がある。金属の代替利用を促す主な要因として、以下が挙げられる:
・ 規制の影響
・ 市場の影響‐コモディティの価格及び供給量
・ 品質及び性能の重要性が低く、かつマージンも低い商品の出現
・ 環境面での懸念
・ 技術の進歩
金属の代替利用の例としては、シェールガスによる石炭の代用、アルミによる鋼鉄の代用、パラジウムによる白金の代用、アルミ、プラスチック、光ファイバー、鋼鉄及びグラフェンによる銅の代用、ニッケル銑鉄(NPI)によるニッケルの代用などがあり、また中国が90%を生産するレアアースに関しては安全供給における課題に対処するために、代替品を開発しようとする動きが見られる。
鉱山会社は、政府の規制、新技術の開発及び金属価格に連動する動きを常に注視し、また積極的に対応策を準備しておく必要がある。
<対策>
・ 政府の規制に注意を払い、政策変更に関する業界内での議論には積極的に参加する。
・ 社内に取引部門を設置し、国内市場が枯渇した場合に世界市場にアクセス可能な状態にしておく。
・ エネルギー、公共事業、石油、ガスなど相互依存関係にある産業の動きを監視する。
・ 非在来型の資源(unconventional resources)の生産に関して認識されているリスクについて規制機関、一般市民、利害関係者とバランスのとれた積極的な話し合いを行う。
3. 所感
2011年及び2012年に第1位であった資源ナショナリズムが第3位にランクを落とした一方で、資本の課題(資本分配と資本へのアクセス)が前年の第8位から第1位に急上昇したことは、背景にある金属価格の低迷や費用のインフレを考えれば納得できる。資源ナショナリズムは、緊急性が高い他のリスクにランキング上では追い抜かれたものの、世界各地で資源国政府が自国の利益を最大化するための政策の導入を検討もしくは施行しているため、鉱山会社は引き続きリスク管理を行っていく必要があるだろう。また、代替の脅威が今回新たにランクインしたが、米国でのシェールガスによる石炭の代替の例にもあるように、金属の代替によって特定の市場に多大な影響が出る可能性があることから、代替によるリスクは注視すべき事項であると言える。

