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報告書&レポート

2013年11月14日 ロンドン事務所 小嶋吉広
2013年66号

2013年LMEセミナー参加報告

写真 セミナー会場の様子

写真 セミナー会場の様子

 毎年恒例となっている London Metal Exchange (LME)主催によるLMEセミナーが2013年10月7日、ロンドンで開催された。この期間、世界中から非鉄金属関係者が多数集い、関係企業などによるレセプション、ディナー、また各種セミナーが多数開催され、関係者の交流、情報交換などの機会が提供されている。この時期に開催されるセミナーは市場予測に係るものが多く、供給者と需要家の間における翌年の価格設定の材料として重要性を持っている。

 今回のセミナーは、昨年12月、LMEが香港取引所に正式に買収されて以後、初めての開催となり、また本年9月にはLMEの新CEOにGarry Jones氏が任命されたことから、LMEが今後どのように変化していくのかについて多くの参加者が感心を寄せた。香港取引所の李CEOは、今後もロンドンがLMEの本拠地であることをセミナーの中で述べつつも、ビジネス拡大には中国、アジア市場とのリンケージは不可欠であり、事業展開における拠点としての香港の重要性も強調した。

 また経済関係の講演では、過去数年間世界経済、金属市場において著しい成長牽引力となった中国、エマージング諸国の成長率鈍化が見られる一方、2008年の金融危機以降の経済低迷の底を抜けつつある欧米諸国の動きが、今後市場にどのような影響をもたらすのかを窺う内容が多く見られた。

 本稿では、「LME Metals Seminar」における今後の金属市場の展望をテーマとする講演について紹介する。

1. 世界経済 -成長基調であるが分断含みの経済成長

   Gerard Lyons – International Economist

● 世界経済の成長を数字で見ると、今世紀初めはその規模が32兆US$、5年前の金融危機発生直前には62兆US$、そしてその後の長期におよぶ経済停滞にも関わらず2012年末には72兆US$に回復しており、インフレ要因を勘案するとしてもこの数値は中国を牽引力とした実質的な著しい世界経済成長を示しているものであると言える。

● しかしこの成長は世界全体として一律謳歌されているものでは無く、「持つ者」と「持たざる者」という格差を生み出し、これが各国の政策立案者にとってジレンマともなっている。それは単に旧来のような西側、東側あるいは南北という対立軸では無く、例えば欧米諸国における高い若年失業率など、社会の一部の層が経済成長の富の享受から阻害されている事例が見てとれる。最近の中国での政府主導による贈収賄取締り強化の動きも、こうした国内における格差是正を目的としたものと言える。

● 長期的かつ大局的な視野で見ると、現在は歴史的に見て極めて良好な経済成長期にさしかかっており、米の政府機関閉鎖など足許でのいくつかの懸念はあるものの、ロングスパンで見た場合、今後30~40年間は経済成長が期待できる。経済成長の基本要素は、ファンダメンタルズ、政策、先行きに対する期待である。ファンダメンタルズは国によって異なるが、アジア諸国においては政府が経済政策、特に財政政策を展開する余地はまだ残されている。他方、欧米諸国を見ると政府は負債削減にのみ焦点を当て、投資抑制や借入減少による負の効果を金融政策で始末している。流動性は潤沢であるにも関わらず、企業、投資家はリスクに応じた投資リターン水準を求めず比較的リスクの少ない資産へ資金を避難させるなど、消極的な投資姿勢が広く見て取れる。しかし今後米国の成長が本格化し、中国が7.5%程度の成長を持続出来るなら、投資家は先行きに対してより期待を持つようになり、また債券イールドが正常化すれば、投資リターンは2.5%から3%を基準として投資家は積極的な投資意欲を見せることになるであろう。

● アジア諸国では、未曾有のインフラ建設ブームの到来が見られ、その潜在成長性は極めて大きい。アジア開発銀行によると、アジア地域では今後10年間に8 兆US$のインフラ資金需要があり、この多額の資金調達について方法を検討しているところである。またアフリカの資源国の多くは、資源価格の伸び悩みにより一部の国で成長の鈍化が見られるが、これは2008年の金融危機によって資源産業への投資資金が十分に供給されなかったことが原因であるとする有力意見もある。中国を初め他のエマージング諸国においては環境保全関連の投資(Green Investment)の潜在需要は大きく、中国の第12次五カ年計画では中長期的な観点での成長産業として挙げられている。このような背景により、今後の資源価格は若干の振幅があるもの、底堅くかつ上昇に関しては柔軟に推移するものと思われる。

● 今後の長期的成長要因としてまず中国が挙げられよう。次いで、貿易の活発化と人口増大、特に新興諸国における中間所得者層の増加と都市化が挙げられる。今後20年は中国の経済成長が世界経済を牽引し続け、その後インドが中国のあとに続くとみられる。インドは2028年には中国を抜いて世界最大の人口大国となると予測されており、世界経済を推進する潜在性を大きく持っている。それに加え、技術革新は経済成長にとって大きいプラス要因として働き続けよう。こうした要因を総合して見るなら、欧米諸国が現在の低迷時期を乗り越えた後の長期的世界成長に関しては、極めて楽観的な展望が開ける。技術革新を勘案せずに、今後の世界経済成長が平均3.4縲�3.5%で成長すると堅く見積もっても2012年に72兆US$であった世界経済規模は、2032年には2倍以上に成長すると見込まれる。

● 過去5年間、世界の経済成長の3分の2は新興諸国の成長によるものであり、欧米の様相とは対極的であった。短期的にみるとまだ解決するべき問題は残されている。今年に入り欧州は相変わらず鈍い動きであるのに対し、米国は成長への動きを見せ始め、新興諸国は高成長から鈍化の動きを見せている。上述のとおり新興諸国では政府の経済政策の舵取りにまだ余地があるが、欧米先進国では金融政策が唯一の政策となっている。欧米の主な中央銀行は、時期尚早に金融引締へと動けば取り返しのつかないような事態を招く可能性があり、こうしたリスクは金融緩和を長く続けることで発生するリスクよりはるかに危険な事態となり得ることを理解している。こうした点から見ても債務上限引き上げなどの課題を抱える米国において、FRBは金融緩和政策をできるだけ長く続けるスタンスを明確にすると考えられる。

● 2008年金融危機直後のアジア開発銀行の年次総会において、アジア諸国の経済政策の重点が貿易主導から内需育成へと移り、そのための債券市場の育成、中小企業への貸出増加などに関心が当てられていた。今年12月に予定されているWTO総会では貿易促進が焦点となろうが、従来の多数国間貿易促進からNew Trade Corridor、即ちアジア-アフリカ間、アジア-ラテンアメリカ間、アジア-中東間といった中国と他の新興諸国/地域間の貿易増加に焦点が移ると見られる。世界の貿易額の成長率は2011年は5.4%、2012年は2.3%で、2013年には2.5%と予想され、近年低下傾向を示しているが、これは世界経済低迷の兆しと見るべきでは無い。EUは世界の貿易額の約3分の1を占めるが、2012年にはゼロ成長、2013年には1.2%のマイナスとなり世界の貿易額の成長を減殺してきた。WTOの予測によれば、新興諸国における貿易額の成長率は2013年は5.8%、2014年は6.2%となっており、世界貿易拡大の推進力となっている。中東諸国を見ても5年前までは先進諸国へ関心が向けられていたが、今や石油需要が著しく伸びる中国を中心とした新興諸国が主な需要先となっている。欧州においては過去2年間、政治問題が経済問題を生み、経済問題が借入れを増加させるに至ったが、この間に欧州中央銀行が取った政策の結果如何によって、今後欧州が世界貿易に大きく寄与できるかどうか決まるであろう。

● 日本での震災やタイでの洪水の影響からも分かるように、サプライチェーンはグローバルに拡大し、その影響は当該地域のみならず世界全体に広がり得る。為替や比較優位を勘案し、企業はこれまでよりも自由に企業立地を検討できるようになるであろうが、今後も中国が世界経済成長で大きな位置を占めることは間違い無い。第12次五カ年計画では、消費増大、経済社会面の改善および環境問題重視等の重点項目を掲げているが、それらの重点項目の中には代替エネルギー推進、先進素材やバイオテクノロジーの開発等の形でコモディティ市場に影響を及ぼすものも多い。沿海部は徐々に高付加価値化産業にシフトし、その代わりに内陸部が労働集約型産業を担うようになってきている。中国では投資がGDPの48縲�50%を占め、世界平均の22%を大きく上回っている。今後も進む工業化、都市化で投資は高いレベルを維持されようが、政府目標として今後この投資レベルを38縲�40%に減少させたいとしている。こうした背景から見て、金属の消費は数十年間増加し続けると見られる。

● 中国に関するキーワードの変遷としては、10年前は「中国製」(Made in China)であり、現在は「中国による買収」(Bought by China)。これからの10年は「人民元払い」(Paid by Renminbi)がキーワードになるであろう。中国はこれまでのような2桁成長から今後は7縲�7.5%程度の安定成長の時代を迎え、引き続き資源に対する底堅い需要は維持されると予測される。

2. EMIR (European Market Infrastructure Regulation、欧州市場インフラ規制)に関するパネルディスカッション

 LME: Diarmuid O’Hegarty – Deputy Chief Executive
 LME Clear Limited : Trevor Spanner – Managing Director
 OTC Derivatives and Post/Trade Policy Financial Conduct Authority : Tom Springbett – Manager
 Societe Generale : Jeremy Wall – Compliance Officer

● 今回のEMIRに見られるルールの見直しは、2008年の金融危機に露呈したリスクを欧州レベルでより効果的に管理をすることを目的としている。EMIRでは第一に、より透明で見通しの利く市場把握を目的とした内容となっている。2008年の金融危機の際、市場参加者が誰であるのか、そのエクスポージャーはどれくらいであるのか、といった情報を把握できなかったため、更に市場の混迷を招いたことがEMIR導入の大きな動機となっている。EMIRにおいて、取引毎の報告書提出を義務づけているのは、市場の現状を即座に把握する目的に他ならない。第二の目的は、より厳密なリスク管理体制の設定が挙げられる。2008年以後の市場参加者のリスク管理は会社により大きく異なっていたため、EMIRでは標準化されたOCT取引にも中央清算機関(CCP)を通じての清算決済を義務付け、2014縲�2015年の実施を目指している。第三はブローカーと顧客勘定の隔離、区別化が挙げられる。こうした隔離によりブローカーが破綻した場合にも、その被害が顧客勘定に及ぶ可能性を著しく軽減できることになる。顧客の立場から見ると、勘定隔離に際し、コスト面で異なる個人勘定もしくは他顧客と一緒のグループ勘定の選択が必要となり、また取引報告書の提出という新たな業務が追加されることとなった。

● LMEクリアリングは2014年9月開始をターゲットに、関係者とともに準備を進めている。全て法定化された予定表によって進められ、CCP、取引情報保存機関設定などの金融インフラがこれから6縲�9ヶ月の間に認定される予定である。また取引報告書提出の義務化、顧客勘定隔離等は間もなく導入されるものである。こうした認定事項はCCP規則、ブローカー業界、クリアリングハウス、顧客にとって影響を与えることになる。まず、どのブローカー、クリアリングハウスを使うか、また個人勘定かグループ勘定で隔離するかといった選択が生ずるが、差し当たりコストが重要な選択基準となろう。またEMIRにおいて認められる担保は、例えば流動性のある証券や質の高いクレジットよりも更に換金性の高いものが求められ、これはコスト増加の一因にもなる。EMIRはより良い規制体制をめざしているが、それはある程度の規制増加と言う形にならざるを得ない。商業ベースで重要な点は、金属市場は世界市場であるため、ある取引に対し欧州での規制が厳しくコスト高ということであれば、取引は他の市場に流れてしまうおそれがある。よってリスク管理は、国際競争という点も考慮する必要がある。

● ブローカーの立場から見ると、顧客はEMIRによる変更、強化される規制自体を理解し始めているがその情報量の多さから見ても顧客が実際に理解するには数ヶ月ほどかかると見ている。ブローカーとして、顧客に対し何が変わるのか、例えば顧客勘定の隔離/区別化には個人のものと、他の顧客とのグループとして隔離のものがあるが、それぞれの内容、コストなどをきちんと説明していく義務があると考える。

● EMIRに反映される修正内容は政府レベルで決められた「大目標」をFCA(金融指導管理局)という規制当局が実務業務、規制導入を通じて実践化させるものであり、現時点の規制内容が完璧であるとは決して言えるものでは無く、FCAとして今後も導入後の状況を観察しつつ修正を加えていく用意がある。2015年の中頃にEMIRの見直しが予定されており、FCAとして現場の意見を反映させ実情を見ながら必要に応じて変更を加えて行くことに決して反対ではない。

● EMIRは欧州全体としての大事業であり、欧州レベル、国家レベルでの規制監督局が関わり、その為に20以上のCCPが認可を受けることになる。この大事業が、新規制に対するコンプライアンスの問題で作動しない場合のコスト的損失は甚大である。LMEクリアリングは、2014年9月を開始予定として人民元のサービスなど新事業も予定しており、まずはコンプライアンスを最重要視している。

3. アジアの成長および金属需要展望

  Wood Mackenzie : Jonathan Barnes – Principal Analyst

● 銅、アルミニウム、鉛、亜鉛といったLMEにおける主要金属を見ると、2012年の世界需要においてアジアが60%を占め、ニッケル、錫においては70%近くを占めるなど、明らかにアジア主導、特にアジアの需要の70%を占める中国の需要は圧倒的な存在。今後は中国の成長が鈍化を見せようが、依然大きな需要であり続ける一方、他のアジア諸国がより大きく需要成長に貢献することになるであろう。

● アジアでの急速な需要の伸びは、増大し続ける人口が背景となっている。人口増加がもたらす急速な都市化、そして政府主導の活発な産業推進政策のもと進められる交通インフラの整備、確実なエネルギー・電力供給体制、有利な為替相場、およびこれらの要因が可能ならしめた5%強のGDPの成長持続、国際競争力強化、それによる恩恵を受ける川下産業の成長が全て奏功して需要の拡大を引き起こした。

● 中国やインドを見ると、人口が国家全体の金属需要を決定する要因であることは間違いないが、今後の金属消費潜在性は単に人口規模だけでは語れない。鉱工業のGDPに占める割合は中国では45%に達するのに対し、BRICs諸国のインド、ブラジルともに約25%と全世界平均の35%を大きく下回り、今後の需要量拡大のポテンシャルを秘めていると言える。また金属需要に影響を与える統計としては、人口の他、一人当たり電力消費量や輸出額も挙げられる。日本、韓国、台湾といった既に脱工業化したアジア諸国、米国、独仏などの先進欧州諸国は、一人当たりの電力消費量および一人当たり輸出額ともに世界平均を大きく上回っているが、中国の一人当たり電力消費量は世界平均水準であり、インドはその30%程度となっている。一人当たり輸出額について見ると、中印とも世界平均を大きく下回っている。こうしたことから、産業振興による輸出額の増大と金属需要には強い相関関係が見られ、中国、インドは今後、経済成長に伴う輸出額拡大によって、金属需要はさらに増える可能性が十分にある。

● 都市化も需要量に影響を及ぼすファクターである。全世界では、2013年から2025年までに更に12億人の人口が都市に流れ込むと予想され、そのうち7億人がアジアと見込まれている。日本、韓国、台湾など既に高度に都市化した国を除くと、都市化が50%程度で現在も進行している中国、マレーシア、インドネシア、また都市化が過去10年間で徐々に進行し30%程度に至りつつあるインド、タイ、ベトナムなど、アジアにおける今後の都市化の潜在性は極めて高い。特にその人口の大きさを背景に、中国では2億人以上、インドでは1億5千万人程度の人口が都市に移り住むと予想され、数多くの大都市が創出されよう。2030年までに中国では224都市の人口が100万人を越え、そのうち23都市が人口500万人以上、インドでは68都市が人口100万人以上、うち13都市が400万人以上となると予測されている。

● 中国でのアルミニウム、銅、亜鉛、鉛に係る今後10年間の需要予想を図1に掲げる。今後10年間は1ケタ成長へと成長率は鈍化するが、需要の増加量はこれまでの10年と大きく違わないと予想される。例えば、図中右上の亜鉛については、2003年から2013年迄の需要量の増分は4.1百万tであったが、2013年から2023年の増分は4.3百万tと予想している。

図1.中国の過去及び今後10年間の金属需要量

(出典:講演資料)

図1.中国の過去及び今後10年間の金属需要量

● 特にアルミニウム需要の伸びは顕著であり、中国国内での高圧ケーブル配電網に使用する架空配電線需要のような国内需要に加え、アジア向けの輸出の伸びも加わり、2013年のアルミニウム需要は対前年比11%の伸びが予想されている。

● 日本、韓国、台湾といったアジアにおける銅主要消費国の動向を見ると、2004年頃をピークに需要量が下落している。その原因の一つは輸出量の減少であるが、これは2005年以降中国が銅の半製品供給を自国で賄えるようになり、アジア近隣諸国からの輸入に代替したことが影響している。中国の銅半製品は、国内市場から輸入を駆逐しただけでなく、さらに日本、韓国、台湾の国内市場へも進出しつつあり、これらの国々の生産者にとって脅威ともなっている。

● 鉛の世界の需要に対するシェアは、中国が45%であり、インド、韓国、日本等他のアジア諸国が17%となっている。今後中国の需要成長は鈍化すると予測されるが、他のアジア諸国における自動車向け蓄電池、電動自転車等の需要の拡大が期待できる為、アジア地域の需要の伸び率は、その他地域の5倍になると見込まれている。

● 亜鉛については、国家の政策としてインフラ整備を進めているインドネシア、タイの消費が今後拡大するであろう。特にインドネシアでは、日本車を初めとした自動車生産台数が今年は50%の伸びを見せると予想されており、需要増加に拍車をかけている。

4. 北米/欧州の成長と金属需要展望

  Prestige Economics : Jason Schenker – President

● 世界経済を短期的視点で見ると、景気の先行きを示すPMI(購買担当者景気指数)は今年初めから上向きとなり、表1に示すように 2013年から2014年にかけて経済成長がわずかながらも好転すると予想されている。また経済面では成長率、失業率等から見ても米国が欧州全体に比べて優位にあると言えよう。

表1.Prestige Economics社による経済成長率等の予想

  米国 英国 ユーロ圏 中国 全世界
2013年GDP成長率予想 1.6% 0.9% ▲0.3% 7.7% 2.9%
失業率 7.3% 7.7% 12.0%
PMI 56.2 56.7 51.1
2014年GDP成長率予想 2.0% 1.5% 0.7% 7.8% 3.3%

(出典:講演資料)

● サプライチェーンの観点から見ると、米国、欧州の主要産業は川下に位置し、中国は他のエマージング諸国と同様に川下と川上の中間、ブラジルなどコモディティに経済が左右される国々は川上市場に位置していると要約できる。主要各国のPMI推移(図2)を見ると、景気は2012年に世界的に底を打ち2013年半ばから50を上回り上昇の動きとなり、世界経済の回復を示している。こうした中、米国の生産者が懸念するのは、今後の中国人民元の動きである。2005年まで1米ドル当たり8.27元で固定リンクしていた人民元は、その後徐々に切り上げられ、現在は6元に近づきつつある。世界のサプライチェーンの中間に位置する中国の人民元レートが、生産コストに跳ね返る米国生産者は、今後5縲�10年における人民元の対ドルレートに大きな関心を寄せている。IMFも人民元の切り上げと中国の人件費上昇は、世界経済予測においてマイナス要因として捉えている。

図2.主要各国のPMI推移

(出典:講演資料)

図2.主要各国のPMI推移

● ユーロの動向は今後も注視されるところである。結論から言うと、ユーロ圏においては引続き統一通貨ユーロの存続が大きな問題として残るであろうが、今年初めのキプロス問題の際のメンバー諸国による懸命の努力から推測すると、ユーロは困難な問題に直面しても必ず生き残るであろう。ユーロ圏においては、ギリシャを初めとして困窮状態にある数カ国は他のメンバー諸国に提示された「財政緊縮政策」を受け入れざるを得ないであろうし、一方他のメンバー諸国はできる限りの援助の手を差し伸べるであろう。こうした背景のもと、為替市場はより具体的な解決策が見つかるまでボラタイルな動きを続けるであろうが、ユーロ圏諸国の結束はユーロをより強い通貨に導いて行くと見られる。一方それはドル安を意味するものであり、コモディティ価格面では長期的なリスク要因と言える.

● 本年9月には量的緩和政策の縮小が予想されていたが、米FRBは量的緩和政策を維持すると発表し、政策変更がいつになるか予測がつかない状況である。現在米国政府は債務上限問題から政府機関の閉鎖問題に揺れているが、この状況では量的緩和は少なくとも来年末まで、状況によっては2015年まで続くと見られる。

● 量的緩和の縮小が早急には行われないと見る理由は、依然脆弱な米国経済状態にある。住宅バブルの負の影響が多大であった米国南西部、南東部は依然失業率が極めて高く、現状において住宅市況が大きく量的緩和政策に依存していることから、米国経済は自律的な回復基調にあるとは言い難く、現時点で量的緩和を縮小させれば経済の悪化を招くことは十分予想される。

● FRBが今後取ると見られる主な政策は、以下に要約できる。

1) モーゲージ証券や米国債の購入を通じた量的緩和を今後も続ける。FRBは月ベースで400億US$のモーゲージ証券、450億US$の米国債の購入持続を明らかにしている。

2) 失業率が6.5%を上回り続けると予想され、インフレ率が今後1縲�2年間においてFRBが長期目標とする2%に対し0.5%以上上回らないと予想され、かつインフレの長期予想の振れが少ないと見る限りにおいては今後も超低金利を維持する。

3) 満期となった国債は借り換えという形で続行させ、国債の償還には充てない。

4) 今後労働市場が本格的に改善しない場合、状況に応じた追加的な金融緩和策も取り得る。

● 当社の予想によれば(表2参照)、今後3年間の米国経済は緩やかながら成長を続け、失業率もわずかながら改善基調を維持し、インフレ率も2%台に落ち着いて行くと予想される。

表2.米国の経済予想

(単位:%)

  2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
実質GDP成長率 1.8 2.8 1.6 2.0 2.2
失業率 9.0 8.1 7.5 6.8 6.3
消費者価格指数 3.2 2.1 1.6 1.8 2.1
重要品目消費者価格指数 1.7 2.1 1.8 2.2 2.4
FRB金利 0.25 0.25 0.25 0.25 0.75

(出典:講演資料)

● 5年後に現在の2013年を振り返るなら、現在は以下のことに特徴付けられている。

1) ドルが強かったこと

2) コモディティ価格が低かったこと

3) 金利が低かったこと

4) 米国での税率が低かったこと

5) エマージング諸国の成長率は低く、その富裕規模が小さかったこと

6) 米国は社会保障費用、メディケア(高齢者、障害者向け公的医療保険制度)費用など大きく嵩みつつある支出内容を、出来るうちにきちんと整理しておくべきだったと反省するであろう。

● Prestige社が予想する2014年及び2015年のLME金属価格(US$/t)は以下のとおりである。

表3.Prestige社によるLME金属価格予想

  2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
8,813 7,958 7,446 7,859 8,135
アルミニウム 2,398 2,022 1,861 1,956 2,075
ニッケル 22,843 17,530 15,080 14,838 16,000

(出典:講演資料)

5. 供給サイドから見た今後の動き

  AME Group : Shaun Browne – Chairman

● ここ10年、金属市場はアジアを中心に著しい成長を遂げてきた。中国を始めとするアジア諸国は、政府主導の下、資金調達、長期投資、技術教育、規制緩和を通じ、産業界を積極的に支援し、製錬所や製鉄所の整備を進めてきた。こうした背景のもと、中国の銅生産は2005年から2012年の間に135%の成長を遂げ、今後5年間も40%の伸びを見せると予想される。アジアでの金属地金生産の成長率は今後鈍化するであろうが、引続き世界の重要供給地であり続けることは変わりない。

● アルミニウムの供給状況を見ると、急速な変化が見て取れる。効率性が低い旧式のSoderberg方式から、高効率のPre-bake方式への転換が急速に行われてきている。Rio Tinto Alcan、Alcoa、Norilsk Hydroなど世界の主要アルミニウム製錬会社を見ても、Pre-bake方式の使用率が2000年には20縲�40%であったものが、2013年には70縲�90%強に達している。また中国では政府の方針により、200kA以下の電解炉が取り壊され、高電流の電解炉の割合が増えており、200kA以上の電解炉は全体の90%、うち400kA上の電解炉は50%近くを占めるようになってきている。中国を除いた世界全体で見ると、未だ35%の電解炉が200kA下となっていることから、中国生産者は今後アルミニウム供給市場を席巻する可能性もある。一般にPre-bake方式導入に係る課題は、操業コストを低下させるのに相応の資本が必要となることだが、中国では政府がアルミニウム生産者に対し、技術面や資金面でのサポートを提供し、導入を促進している。

● 2011年までに世界中で生産量300万t相当のアルミニウム製錬所が閉鎖されたが、2013年にはほぼ同じ規模のプロジェクトが認可されている。閉鎖の多くは製錬所設備の老朽化によるものであり、他方、生産性の高い多くの新規プロジェクトが立ち上がりを見せてきたことでアルミニウム価格は軟調となり、2013年Q3においては1トンあたり1,800US$を割り込む水準まで落ちた。

● 中国においては2000年来、アルミニウム生産量は伸び続けており、2015年までに計画されている製錬所新設を含めると、2017年までには中国のアルミニウム生産量は全世界の半分を占めるようになる。中国の新規大規模製錬所の多くは、電力代が沿海地域より安価な新疆ウイグル自治区へ立地するようになってきている。

● 銅についてもアルミニウムと同様、製錬方法によって生産コストが大きく変わってくる。反射炉法ではエネルギー消費量が大きいため、設備投資費用がかかるものの、操業コストが安価であり、かつ環境面でもクリーンな三菱連続製銅法やBath方式の冶金炉が多く使われるようになっている。コストに加え、新技術導入で鍵となるのは製錬時における二酸化硫黄の放出抑制である。WHOが設定している空気中の二酸化硫黄量規制に適合させるため、今後も多数の製錬業者が生産技術を改善していく必要がある。中国を初め、多くの国がまだ規制レベルを上回る二酸化硫黄を排出していることから、新技術導入が今後本格化し、結果的に銅価格へ転嫁される。

● 銅需要は極めて堅調であるが、新規の大型案件の減少や、操業中鉱山からの鉱石供給遅延が一部で見られ、将来的に需給に影響を与えるおそれもある。現在、新規鉱山の立ち上げ遅延が一部見られるため、2016年時点の新規鉱山からの生産量は4,000千tと当社は当初見込んでいたが、最新の予測では2,000千t程度に下方修正されている。

● ニッケルについては、ここ数年の堅調なステンレス需要に支えられ、需要も拡大してきた。当社の予測では、本年の中国でのニッケル銑鉄(NPI)生産量は430千tと見込まれる。生産コストの面では、RKEF(ロータリーキルン・電炉)方式が最も優れているが、高炉生産では鉄価格のメリット(ニッケル1ポンド当たり3US$程度と予想)が利くため、現状ではRKEFよりも高炉方式の法がコスト安と推測される(図3参照)。

図 3.ニッケル銑鉄の生産コスト(2013年)

(出典:講演資料)

図 3.ニッケル銑鉄の生産コスト(2013年)

● 中国はインドネシアからニッケル鉱石を多く輸入しているが、2014年より開始される鉱石輸出制限に伴い、フェロニッケルの製錬所をインドネシア国内に建設する動きに出ている。プロジェクトの多くは2014年から2019年に生産開始となる予定であるが、中国国内で拡大するニッケル需要を賄うことは難しいため、中国はフィリピンからの輸入を徐々に増やしている。

● 亜鉛については、世界金融危機直前までは供給不足であったが、ここ数年は供給過剰となっており、昨年は中国の消費量が1%減少した。しかしながら、世界景気回復による自動車生産拡大によって、2013年Q4以後は需要が上向くと予想される。

● アジア経済の成熟の動きは、一般に見られるほど欧米諸国の景気循環を十分補うレベルにまだ至ってはいない。アジアのうち、特に中国では、過去に供給不安による在庫積み増しによって需要が一時急激に増えることもあったが、このようなセンチメントによる需要は今後10年位の間に徐々に消えて行くであろう。中国のこれまでの2桁成長率は1桁台に移行し、安定成長の段階へと移るが、それでも中国が依然大きな影響を持つと思われる。中国政府は今後も投資、許認可、技術者養成などの面で積極的に関与し、強い国内需要に支えられ金属市場では大きな影響力を維持し続けるであろう。

おわりに

 今回のセミナーは、昨年来の中国経済の景気減速懸念が和らぎ、安定成長への展望が見え始めたことで、中国経済を礼賛する内容の講演が多く目に付いた。香港取引所によるLME買収は、市場資本主義の象徴とも呼べる取引機関(市場)が、中国の国家資本主義の傘下に収まったことを意味し、中国の経済覇権の過程において歴史的な出来事と言えよう。LMEはマネーの流入に欣喜するだけでなく、指標としてのLME価格の信頼を失墜させないよう情報開示に努め、市場の透明性向上に向け不断に取り組む必要があると言える。

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