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ニッケルは2014年も供給過剰の見通し-2013年秋季国際ニッケル研究会(INSG)参加報告-
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国際ニッケル研究会(INSG)は、国際非鉄3研究会の中では国際鉛亜鉛研究会(ILZSG)に次いで2番目に古い歴史を持つ研究会であり、1990年に国連の招請・勧告によって発足した国際機関である。現在、15の国・地域が加盟しており、事務局はポルトガル・リスボンに置かれている。同研究会は、ニッケル市場の需給予測分析を始め、国際的なニッケルの貿易取引に係る課題について研究するとともに、それらの課題に関して政府・産業界の利害関係者が定期的に話し合う機会を設ける機能を担っている。通常、定期会合は春季、秋季の年2回開催されている。 2013年9月30日~10月2日、リスボンにてINSGの秋季定期会合が開催された。本会合には、INSG加盟国や産業団体、企業関係者の総勢約60名が参加した。以下、本稿では本会合の概要について報告する。 なお、講演資料はINSGのホームページに掲載されている。 |
1. 2013年見込みと2014年予測
1-1. ニッケル鉱石生産量
2013年のニッケル鉱石生産は、Barro AltoプロジェクトやOnca-Pumaプロジェクト等の新規大型プロジェクトが生産を拡大していることから生産量は増大し、対前年比6.0%増の2,356.0千tとなる見込みである。2014年も新規プロジェクトの生産拡大が順調に推移するという予測から同6.3%増の2,504.0千tとなる見込みである。
2014年の予測生産量を国別に見ると、2010年まではロシアが鉱石生産量の1位であったが、近年、中国のニッケル銑鉄(NPI)生産拡大に伴いインドネシアとフィリピンの生産拡大が顕著となっている。インドネシアの2014年生産量は600.0千tであり、対前年比9.1%の増加となっている。第2位のフィリピンは340千t(同3.0%増)と予測され、これら2か国で世界全体の鉱石生産の4割近くを担っている。第3位のロシアは265.0千tであり、近年生産量は横ばいとなっている。以下、4位豪州の250.8千t(同5.3%減)、5位カナダの230.0千t(同2.2%増)となっている。
また、2013年に生産開始を迎えたAmbatovyプロジェクトを擁するマダガスカルは、45千t(対前年比42.9%増)を見込んでいる。
1-2. 一次ニッケル生産量
2013年の一次ニッケル生産量は対前年比8.2%増の1,906.0千tとなる見込みである。また2014年は中国での生産量が減速するとの予想から同3.2%増の1,967.4千tとなる見込みである。但し、中国でのNPIの生産状況や生産障害の発生状況によって生産量が変動することも想定される。
2014年の予測生産量を国別に見ると、中国は2013年に生産が急拡大(対前年比18.5%増)した反動から2014年は微減に転じると予想され、580.0千t(同5.8%減)となっている。2位のロシアは、2009年以降生産量はやや減少傾向を辿っており、2014年の予測生産量は242.0千t(同0.4%減)となっている。以下、日本197.3千t(同7.7%増)、カナダ153.0千t(同2.0%増)が続いている。
1-3. 一次ニッケル消費量
2013年の一次ニッケル需要は対前年比6.7%増の1,769.1千tとなる見込みである。2014年は欧米の景気が持ち直してくるものの、中国等新興国での需要が減速するとの予想から、同4.8%増の1,853.4千tが予想されている。
2014年の予測消費量を国別に見ると、第1位の中国は世界全体の51%を占める950.0千t(対前年比7.3%増)となっている。第2位の米国は145.0千t(同3.6%増)、第3位の日本は141.0千t(同4.4%増)となっている。なお上記予測は、今後の世界経済の動向如何によっては修正もありうるとINSG事務局はコメントしている。
表1. 鉱石、一次ニッケル生産及び消費量
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(出典:INSG会議資料より作成)
1-4. ニッケル需給バランス
2010年は世界経済の回復を受け、中国等でのステンレス鋼の生産増加により需要超過であった。2011年はほぼ需給が均衡したが、2012年は複数の新規鉱山が生産開始を迎えたことから、需要の伸び以上に供給が増加し、供給過剰となった(表2参照)。2013年及び2014年もこの傾向は続き、2014年は114.0千tの供給過剰が見込まれている。
表2.世界のニッケル需給バランス
(単位:千t)
| 区分 | 2012年実績 | (参考)2013年見込み | 2013年見込み (今回発表) |
2014年予測 (今回発表) |
増減 2014/13 |
| 2013年4月時点 | |||||
| ニッケル供給合計(①) | 1,760.9 | 1,859.9 | 1,906.0 | 1,967.4 | 3.2% |
| ニッケル需要合計(②) | 1,658.3 | 1,772.5 | 1,769.1 | 1,853.4 | 4.8% |
| 需給バランス | 102.6 | 87.4 | 136.9 | 114.0 |
(出典:INSG会議資料より作成)
1-5. LMEニッケル価格と在庫
2013年3月以降、ニッケル価格は徐々に値を下げ、5月1日には15,000 US$/tを割り込んだ。その後、投機資金が入り、5月8~15日と5月23~24日の間、少し値を戻したが、その後は14,000 US$/t台後半を推移した。6月に入っても下げ基調は止まらず、特に6月10日以降、米FRBによる国債買取り縮小の観測から売り圧力が強くなり、2009年以来の14,000 US$/t割れとなった。7月9日に13,160 US$/tを付けてからは、価格の底打ち感が広まり、ニッケル価格は13,000 US$/t台後半を推移するようになった。7月29日に発表された米国でのステンレスベース価格上昇に刺激され、Q3での景気回復期待感から、急激にニッケル価格は持ち直し、8月後半は14,000 US$/t台の後半まで値を戻した。その後は再び下げ圧力が優勢となり、9月は13,000 US$/t台後半を揉み合う展開となった。10月後半以降は、2014年より開始されるインドネシアでの未加工鉱石輸出禁止措置を睨み、供給サイドでの不安感が広がり、14,600 US$/t水準まで徐々に価格が戻っている。
在庫については、昨年からの増加傾向は止まらず、在庫は着々と積み上がり、この期間の在庫量は上昇傾向にあり、7月には200千tを超え、10月末時点では、約237千tとなっている。
(出典LMEホームページ)
図1.ニッケル価格推移
2. 各委員会における主な講演
2-1. 第47回統計委員会(2013年10月2日)
(1) 講演『ニッケル銑鉄の進化とニッケル価格への影響』(Shanghai Metals Market社、Ryan Dong氏)
【中国ではニッケルの84%はステンレス用途】
最近のニッケル市場は、需要拡大の減速、供給過剰、NPIの生産コスト減少により価格は下落傾向にあり、2011年2月の高値時(29,065 US$/t)と比較すると足元では50%も下がっている。需要サイドで見ると、中国ではニッケルの用途のうち、ステンレス生産の割合が高く、世界全体では67%であるが、中国では84%と際だって高いのが特徴。中国は世界のステンレス生産の45%以上を占め、2009~2011年のステンレス生産は年率20~30%で拡大してきたが、2012年は15%に減速した。
【NPIの生産拡大が現在のニッケル価格低迷の一因】
供給サイドで見ると、中国のNPI生産はここ5~6年における世界のニッケル生産の拡大を支えてきた。2007年時点では世界のニッケル供給におけるNPIの割合は5%程度であったが、2013年には20%以上となる見込み。中国ではNPIによる輸入代替が進んでおり、ステンレス生産におけるニッケル地金やニッケル酸化物(主にキューバより輸入)、フェロニッケルの使用割合は減少又は横ばい傾向であるが、NPIの使用割合は年々増加し、2013年は50%を超える見込みである。現在のニッケル価格下落は、需要減速の他、NPIの生産拡大も大いに関係している。
【RKEF方式は高炉/電炉方式に比べコスト面で有利】
NPIの生産コスト減少の背景として、従来の高炉や電炉方式に比べコスト面で有利なRKEF(Rotary Kiln Electric Furnace)方式の普及が挙げられる。2009年時点では、高炉方式(NPIのニッケル純分1~8%)が約6割を占めていたが、2011年よりRKEF方式(NPIのニッケル純分が10~15%)が急速にシェアを拡大し、2013年は5割を超える見込み。RKEF方式の製錬所の多くは沿岸部に立地しているため運搬コストの面で有利であり、また電力コストの面でも電炉方式が6,000~7,000 kWh/tであるのに対し、RKEF方式は3,500~4,000 kWh/tと電力使用量が少ない。このため、RKEFの生産コストは高炉や電炉方式に比べ、トン当たり2,000元ほど低くなっている。
【NPIの原料となるラテライト鉱石の99%はインドネシアやフィリピンより輸入】
NPIの生産コストの約4割は鉱石費であり、安価なラテライト鉱石の安定供給確保が中国の生産者にとって課題となっている。ラテライト鉱石の99%はインドネシアとフィリピンより輸入されているが、2014年より開始されるインドネシアでの鉱石輸出制限に対応するため、多くのNPI生産者はインドネシア国内に製錬所を建設するようになってきている。
(2) 講演『メガトレンドのステンレスとニッケル産業への影響』(Steel and Metals Market社、Markus Moll氏)
【ステンレス産業に影響を及ぼすメガトレンド】
① 人口動態の変化
ステンレス消費量増大に繋がる要因として、途上国での所得向上、都市化、単身世帯の増加、女性の社会進出が挙げられる。他方、高齢化や欧州に見られる人口減少はステンレス消費量減少に作用する。
② エネルギー需要と気候変動
エネルギー資源は今後益々希少性を増すため、バイオ燃料の利用拡大によりステンレス需要は増加が予想される。他方、再生可能エネルギーの普及はエンジンの小型化を通じステンレス使用量減少へと作用する。
③ 資源の利用可能性の変化
水資源が調達困難になるとステンレス使用量は増加するが、金属資源のボラティリティ増大によってステンレスの需要は減退するおそれもある。
④ グローバリゼーションと新世界秩序
世界的規模での生産コスト平準化と地域紛争減少はステンレス使用量増大に働く。
⑤ デザインに対する嗜好の変化
消費財のデザイン変更がより頻繁になり、ステンレス需要増大に作用するが、自動車等の耐久消費財は耐用年数が延びるため、ステンレス需要減少に作用。
【100年後のステンレス産業を取り巻く環境】
世界人口は2075年に92.2億人でピークとなり、その後減少傾向を辿り、2113年には89億人程度となる予想。世界人口に占めるヨーロッパの割合は現在の10%から6%へ減少。アフリカは現在の15%から25%へ増大。
平均寿命は伸び、地域により異なるが66歳から97歳となる予想。
2112年の世界のステンレス使用量は58百万tに増大し(2012年は32百万t)、内訳はアジア54%、インド12%、アフリカ10%となり、他の地域の割合はいずれも10%以下となるであろう。
ニッケルを使用する300系ステンレスの割合は現状57%であるが、2112年ではこれが65%にまで増大する見込み。2113年までのステンレス生産の年平均成長率は0.4%と予測され、世界人口と同様、2075年をピークに減少するであろう。
2-2. 第39回産業諮問委員会(2013年10月2日)
講演『2013年と2014年のニッケル需給』(CRU社、Nikhil Shah氏)
【ニッケル価格下落はH2に入り底を打った】
ニッケル価格は2013年H1においては下落したが、その後H2に入り下げ止まった。2013年H1では、NPI(ニッケル純分10~15%)の価格はLMEニッケル価格を下回っていたが、9月上旬時点では同水準となっている。四半期毎の需給バランスを見ると、2011年Q3より供給過剰が続いており、LME在庫の増加に繋がっている。
ステンレス生産拡大の勢いは強く、2013年は対前年比6.75%増の36百万t、2014年は40百万tが見込まれている。うち中国の生産量は2013年が18百万t、2014年には20百万tを超えると予想される。中国ではステンレスのスクラップ利用率が低いため、2013年の世界全体のスクラップ利用率は対前年比で減少が見込まれているが、中国を除いた場合、利用率の上昇が見られる。
【2014年も供給過剰が予想される】
2014年の一次ニッケル消費量は対前年比7.2%増の1.8百万tとなる見込み。供給サイドに目を転じると、供給拡大は主にRKEF方式によるNPI生産の拡大に支えられており、2014年にかけても供給過剰の傾向は続くであろう。短期的なリスクとしては、景気回復の腰折れによる需要減や、インドネシアでの供給規制、HPAL方式やフェロニッケルプロジェクトの生産拡大の遅延等が懸念される。
2-3. 第32回環境経済委員会(2013年10月1日)
講演『ニッケル協会によるLCAに係る活動』(ニッケル協会、Mark Mistry氏)
【地球温暖化係数はフェロニッケルよりもニッケル地金が低い】
当協会によるLCA(ライフサイクルアセスメント)分析の特徴は、ニッケル使用の環境負荷をめぐる社会的及び政治的な議論に対し、製錬会社やリサイクル企業の視点も考慮している点にある。世間の議論では一般に、ニッケルの使用やリサイクルを行うことで長期的には環境負荷を軽減できることを見落としがちである。当協会では2011年に、ニッケル生産に係るインベントリ分析を行い、生産過程で必要とされるエネルギー使用量や環境負荷について分析を行った。この結果によれば、ニッケル純分kg当たりの地球温暖化係数(カーボンフットプリント)は、ニッケル地金では7.79(CO2kg相当)であるのに対しフェロニッケルは32.80(CO2kg相当)となった。また、生産過程での一次エネルギー消費量で見た場合でも、ニッケル地金は150.8MJ、フェロニッケルは553.5MJとなり、温室効果及びエネルギー使用の面でニッケル地金はフェロニッケルに優っていることが明らかになった。NPIとの比較を参考までに挙げると、高炉方式のNPI生産では70(CO2kg相当)、電炉方式でのNPI生産は98(CO2kg相当)とのデータがあり、NPIはニッケル地金やフェロニッケルに比べカーボンフットプリントが大きいことが分かる。
【ステンレス鉄筋は長期的な観点では地球温暖化係数は低い】
当協会では最近、2011年に行ったLCA分析の補足として、構築物の鉄筋を一般の炭素鋼鉄筋とした場合とステンレス鉄筋とした場合について、寿命や維持費用の観点から比較を行った。炭素鋼鉄筋(0.45 US$/kg)は価格の面でステンレス鉄筋(2.99 US$/kg)よりも安価であり、かつ、製造過程における地球温暖化係数や一次エネルギーもステンレス鉄筋よりも低い(表3参照)。
表3.ステンレス鉄筋と炭素鋼鉄筋のカーボンフットプリント比較
| 一般の炭素鋼鉄筋 | ステンレス鉄筋 | |
| 一般的な価格 | 0.45US$/kg | 2.99US$/kg |
| 地球温暖化係数 (kg CO2/kg) |
2.3 | 7.4 |
| 一次エネルギー消費量 (MJ/kg) |
25.8 | 106 |
しかしながら、炭素鋼鉄筋を使った構築物は腐食に弱いため、建設後10年で鉄筋の10%を取り替える必要があり、さらに50年後に建物を再構築しなくてはならない。他方、ステンレス鉄筋は腐食に強いため、鉄筋の10%を取り替えるタイミングは建設後44年と非常に長く、また寿命も80年以上と有利である。
ステンレス鉄筋の寿命の長さを示す具体例として、メキシコ湾でのProgresso Pierの写真を示す(写真参照)。Progresso Pierを具体例として、建築後のメンテナンスも考慮したLCA分析を行った結果、ステンレス鉄筋は製造時の地球温暖化係数は高いものの、ライフサイクル全体で見た場合、地球温暖化係数は炭素鋼とほぼ同じという結論が導き出せた。また、一次エネルギー消費量も炭素鋼鉄筋(200百万MJ)と比較し、ステンレス鉄筋(220百万MJ)はほぼ同じレベルと言える。

写真.ステンレス鉄筋の例(右側)
3. INSG各委員会のプロジェクト進捗報告
産業アナリストからの講演発表の後、各委員会に関する活動内容報告、作業プログラムの動向と進行状況についての報告がなされた。特記事項のみ以下に報告する。
3-1. 統計委員会
① 現在進行中のプロジェクト
・ 2013年中に「World Directory of Nickel Producing Facilities」を発行予定
・ 中国で開催される「China International Nickel & Cobalt Industry Forum」にINSG事務局から参加し、プレゼンを行う予定。
② 新規プロジェクト
・ 中国でのニッケル需要動向に係る情報収集(Chief Statisticianが中国を訪問予定)
・ 米国でのニッケル市場の動向調査
3-2. 産業諮問委員会
特になし。
3-3. 環境経済委員会
① 現在進行中のプロジェクト
・ リサイクルに関する調査
・ ニッケルの環境及び人体への影響に係る調査
② 新規プロジェクト
・ 一次産品共通基金(CFC:Common Fund for Commodities)でのラテライト鉱石の需給情報収集強化に向けInternational Commodity Body(UNCTADの一機関)と連携
4. 2014年春季会合の日程
次回の国際ニッケル研究会は、2014年4月3日から4月4日までポルトガル・リスボンにて開催予定である。
以 上



