報告書&レポート
第9回国際レアアース会議2013参加報告
毎年香港で開催される国際レアアース会議(International Rare Earths Conference)はレアアースの会議としては代表的かつ最大級の会議であり、主に中国国外のレアアースの探査、開発、生産、精錬、素材、販売など幅広い分野に関わる企業が集結する会議として知られており、2004年に初めて開催され、2006年以降は毎年開催されている。 第9回目となる今年は、2013年11月13日~14日の日程で開催された。以下、本稿では本会合の概要について報告する。 |
1. 概要
レアアースの価格高騰を受けた後の2011年に開催された会議では、会議史上最大の約400名の参加者があったが、今年2013年は183名(参加名簿による)の参加に止まっており、昨年2012年の参加者数約300名よりも更に参加者が激減しており、2011年レアアースの価格高騰前の規模に戻ったと言える。
レアアースの価格高騰時に多数参加していた香港レアアース企業(トレーダー)、中国レアアース企業の参加者は多くない印象であった。
欧米及び日本からはエンドユーザーや商社等が参加しているが、昨年並みの参加者数であった(2011年からは半減)。
中国以外のレアアース開発・生産企業としては、Molycorp社(米)及びCBMM社(ブラジル)によるプレゼンテーションが行われた。
レアアースの探鉱企業の参加は18社で、そのうち次に挙げる6社の発表及びブース展示が行われた。
・ Alkane Resources Ltd(豪州Dubboプロジェクト)
・ Avalon Rare Metals Inc(カナダNechalachoプロジェクト)
・ Frontier Rare Earths Limited(南アフリカZandkopsdrifプロジェクト)
・ Hasting Rare Metals(豪州Hastingプロジェクト)
・ Matamec Explorations Inc(カナダKipawaプロジェクト)
・ Rare Element Resources(米国Bear Lodgeプロジェクト)
2. 主な講演内容
2-1 Molycorp Inc, USA社President&CEOのConstantine Karayannopoulos氏による基調講演
同社の米国Mountain Passプロジェクトのアップデートについて講演。その紹介後、「レアアースに関して過去から学んだこと」として、
写真.1 基調講演を行うMolycorp Inc, USA社President&CEOの
Constantine Karayannopoulos氏(講演ステージ右)による基調講演の様子
① レアアース価格は長期的に持続可能なレベルでなければならない(2001~2005年の価格低迷時や2011年の価格の超高騰時には市場は能率的には機能しない)。
② レアアース価格の下限:中国国内外における環境問題に対するプレッシャーによって、長期的にレアアース価格の上昇を招く。レアアース価格の上限:レアアース代替品に対する市場及び政治のプレッシャーにより価格の適正化を強いられる。
③ 中国国外での鉱山開発・分離・精製に関する技術がレアアース産業の一部として必要であり、供給源の多様化がレアアース市場の長期的信頼性を向上させる。
④ ドイツ軍人モルトケの言葉「敵に遭遇すれば計画は必ず変わる/計画を立てても、敵に遭ったらその通りにはいかない(No plan survives contact with the enemy.)」を挙げ、レアアースの初期探鉱には予想よりもコストがかかり時間もかかる。
を挙げ、今後注視すべきこととして、
① 磁石向けレアアース(Nd、Pr、Dy及びTb)の動向
② 重希土類のテーマとして、
・ LEDと蛍光灯の動向
・ Nd-Fe-B 系磁石中のDy削減
③ レアアース市場のバランスと軽希土類の動向
④ 違法採掘及び生産、密輸
を挙げた。
2-2 Roskill Consulting社 Judith Chegwidden女史による2013年の中国レアアース産業についての講演
写真.2 Roskill Consulting社 Judith Chegwidden女史
◆ 中国のレアアース下流産業の需要を喚起するため、高付加価値化及び中国国内での外資との合弁を奨励するも、結果として過剰生産能力となっている。
◆ 供給におけるレアアース生産制限のインパクトについて、2012年の重希土類の違法採掘はレアアース価格の下落もあり1/3に減少した。さらに、中国国内の違法採掘の取り締まりによって2013年の違法採掘は40~50%減少した。
◆ 2013年の価格動向について、上昇要因としては、主にNd/Pr及び重希土類の政府による買い上げが行われる可能性と、この買い上げの噂に反応したトレーダーによる買い付け、一部の下流部門での在庫減少、違法開発の取り締まり、が挙げられる。一方、下落要因としては、中国国内の下流産業の需要減少、一部の供給チェーンでの在庫過剰、下流産業の過剰生産能力、が挙げられる。足下は需要が回復しないので、供給過剰の状態が継続している。
◆ 結論として、2018/19年には中国国外からの重希土類の供給は25%を占めるようになるが、そのころには重希土類の需要の85~90%を中国が占めるようになる。
◆ 疑問符(?)付きの結論として、違法開発の取り締まりにより中国の供給が減り、結果として中国は重希土類の輸入国に転じるのではないか?、下流産業の過剰生産能力が存在する中、高付加価値製品の市場となりうるか?、軽希土類の輸出許可証と税の撤廃が、新たなCeとLaの価格競争を生み出すか?、RE企業統合は未だ進行中だが、包頭稀土支配下での北部の統合は進むか?、中国共産党第18期第3回全体会議(三中全会)で、下流産業の過剰生産能力の解消のための中央政府系及び地方政府系企業の役割が明確にされるのか?が挙げられる。
2-3 Roskill Consulting社のSue Shaw女史によるRE価格乱高下におけるレアアース代替について
写真.3 Roskill Consulting社Sue Shaw女史(右)と
司会進行のMetal Events社Rachel Carnac女史(左)
◆ レアアース代替技術及び代替製品の現状等について述べ、レアアース使用の主要な最終製品には多かれ少なかれ代替・使用量削減といった研究が進んでいる。
◆ 磁石(Dy)、蛍光体、研磨剤、製鋼原料等では、使用量削減が進むが、自動車助触媒やガラス添加用Ceについては、その代替は難しい。また、磁石に関しては、代替の影響は限定的で2013/2012では若干の増加の見込みである。
◆ レアアース需要は全世界で減少する見込み。主に中国国外における軽希土類の需要が減少している。2013年の世界需要は121,000 tで、うち中国需要が82,500tと68%を占める(日本需要減少分は中国需要の増加で相殺となる)。
◆ 2020年の需要は磁石向けが増加傾向にある。主に中国により、2012~20年のレアアース市場は7~8%増加する見込みである。2020年にはレアアース酸化物で201,250 tの世界需要が見込まれ、うち中国需要は144,250 t。(中国シェア71%)となる見込みである。
おわりに
中国の生産調整、備蓄によりレアアースの価格の上昇も若干見込まれてはいるものの、足元のレアアース需要が大きく回復せずに供給過剰の状態が継続している間は、中長期的に価格上昇は見込めない。このため、新規のレアアース開発案件が前に進むことが困難な状況となっている。
今後、開発案件が生産に移行するためには、少なくともレアアース需要の回復あるいはレアアース価格上昇傾向への転換が必要条件と思われる。