報告書&レポート
African Mining INDABA 2014(第20回アフリカ鉱山投資会議)Part 1:政府代表者による講演
2014年2月3~6日、南アフリカ共和国のケープタウンにて今回で第20回目の節目となるMining INDABA 2014(アフリカ鉱業投資会議)が開催された。世界6大陸から資源メジャー及びジュニア探鉱会社を含む2,100社、そして政府関係者、非政府団体、アナリスト等が集い、7,250名以上がINDABAに参加した。 日本政府からは磯崎仁彦経済産業大臣政務官を代表とし、在南アフリカ共和国日本大使館から吉澤裕大使、経済産業省から萩原崇弘鉱物資源課長他が参加し、アフリカ各国の鉱物資源大臣との二国間会談やカンファレンスでの講演を行った。日本企業からは、主要な商社、非鉄会社等から参加があり、その他、日本貿易振興機構(JETRO)、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)からも参加があった。 JOGMECのMining INDABAへの参加は2004年から継続しており、今回で参加は11年目となる。また2007年からは展示会場にブースを設けているほか、JOGMEC役員による講演も行っている。今年は、講演を行った上田英之金属資源開発本部理事始め、東京本部、ボツワナ・地質リモートセンシングセンター、シドニー事務所、ロンドン事務所から15名が参加し、政府間協議に同席したほか、ジュニア企業との面談、講演からの情報収集等を行った。 本稿では、今回のMining INDABAでの主要講演の概要を「Part 1:政府代表者による講演」と「Part 2:鉱山会社による講演」の2回に分けて報告する。なお本稿は、Mining INDABA事務局による資料に基づき作成したものであり、また講演者の職名は会議開催当時のものである。 |
1.アフリカ各国の鉱業大臣による講演
Mining INDABAのホスト国である南アのShabangu鉱物資源大臣が大ホールにて基調講演(写真1.)を行ったほか、アフリカ開発銀行(AfDB)主催のアフリカ大臣フォーラム1~4が2日間にわたって開催され、DRコンゴ、エチオピア、モザンビーク、ナイジェリア、コートジボワール、ギニア、ケニア、ザンビア、ガーナ、タンザニア、アンゴラ、ガボン、ソマリランド(ソマリア北部の未承認独立国)、ルワンダ、マリ、ボツワナの各政府代表者が自国における鉱業の概要や鉱業政策に関する講演を行った。
1-1. 南ア鉱物資源省(DMR)、Shabangu大臣による基調講演

写真1. 大ホールで行われた
Shabangu大臣の基調講演
(1) 南ア鉱業の背景
南アには、白金族金属(PGM)、金、クロム、マンガン等多くの鉱物資源が賦存している。特に白金に関しては、世界における生産シェア(2012年)は73.3%で第1位である。
南ア鉱業に関する最近の主な動きとしては、2012年12月に内閣承認を受けた鉱物・石油資源開発法(MPRDA)の改正案が2013年6月に国会に提出された。また、2014年1月23日、白金生産大手のAnglo American Platinum (Amplats)、Lonmin及びImpala Platinum (Implats)の3社の白金鉱山において、鉱山労働者建設組合連合(AMCU:Association of Mineworkers and Construction Union)が賃上げを求めてストを開始した。
(※執筆時点ではストは継続中。)
(2) 講演概要1
● 石油資源開発法(MPRDA)
MPRDAが2004年に制定されてから今年で10年となった。MPRDAは改正のための国会手続きの最終段階にきており、現政権の任期中に改正法が制定されることを確信している。改正されたMPRDAでは鉱業における高付加価値化が促進されるが、鉱山会社に鉱物資源の高付加価値化を要求したり、加工業への支援を強制したりすることはない。
● 鉱業憲章(Mining Charter)
2014年は、鉱業憲章施行から10年目の節目の年でもある。鉱業憲章の見直しが検討されており、鉱業憲章の実施状況に関する評価作業が行われている。鉱山会社の多くは既に自主的にこの評価作業に参加してくれているが、全ての利害関係者の協力を要請したい。評価作業の結果は、鉱業憲章の見直し作業の助けとなる。
● 能力開発
南ア経済そして鉱業における変革(transformation)は、南ア政府そしてビジネスにとっての責務である。そこで、我々は、給与総額の5%を能力開発のための資金に充てることで鉱業界と同意した。能力開発には技術的トレーニングやエンジニア養成のための支援が含まれる。
● 不安定な労働環境
最近の新聞記事の見出しでは、(南アにおける)不安定な労働環境といった問題ばかりが報道されている。南ア政府は、鉱業における安定を取り戻すために、断固とした態度で労使問題に介入し、リーダーシップを取っている。南アの労働法は融通性が欠けていて労働者のみを保護するために作られた法律であるいうのは誤った通念である。それとは反対に、南アの憲法は労働者に法の規定に従ってストライキを行う権利を与えると同時に雇用者には法的な情報を与え、両者の均衡がとれるようにしている。南アそして鉱業において法の支配が尊重されるよう、全ての利害関係者は責任を果たさなくてはならない。
1 <参考資料> http://www.dmr.gov.za/publications/finish/89/1058.html
1-2. DRコンゴ、Kabwelulu鉱山大臣(Bene M’Poko在南アDRコンゴ大使が代理で講演)
(1) DRコンゴ鉱業の背景
DRコンゴは、銅、コバルト、ダイヤモンド等の鉱物資源が賦存するアフリカ有数の資源国である。しかしながら、DRコンゴ産の特定の鉱物資源は、武装集団の活動の資金源となっているとの懸念があることから、2012年8月、DRコンゴ及びその周辺国を原産とする紛争鉱物の利用及び取引に関して米国証券取引委員会(SEC)への報告義務を課す米国金融規制改革法(Dodd-Frank 法)が採択された。また同国政府は国内での付加価値化を促進するため、銅精鉱等の輸出禁止措置を計画しており、現時点での施行予定日は2015年1月1日となっている。
(2) 講演概要
DRコンゴ経済を主に牽引しているのは鉱業である。Katanga州のLubumbashiで開催された鉱業会議では、DRコンゴ鉱業における統治と透明性に関する課題が議論され、法的枠組みの改革、ビジネス環境の向上、地質データ提供による探鉱活動の支援、工業化推進に関して様々な勧告があった。法的枠組みに関しては、鉱業法(Mining Code)の見直し作業を現在行っているが、国内における要望を満たすだけではなく、アフリカ連合から推奨されているとおり他の南部アフリカ開発共同体(SADC)加盟国の鉱業法との調和を図る必要がある。探鉱活動の支援に関しては、世界銀行等の支援を受けて国家地質研究所(National Geological Survey)の設立に向けた準備が進んでおり、地質及び鉱山のデータベースの提供による探鉱活動支援を計画している。また工業化推進に関しては、高付加価値化を促進するため加工及び製造業への投資を歓迎している。DRコンゴは、採取産業透明性イニシアティブ(EITI)には10年以上も取り組んでおり、またアフリカ大湖地域国際会議(ICGLR)の鉱物認証制度(Certification Scheme)の重要なメンバーであり、DRコンゴのICGLR認証は2014年1月10日に正式に発行された。これにより、DRコンゴおける鉱物資源の密輸が取り締まられ、同時に税収入の増加につながることが考えられる。
DRコンゴ政府は、民間企業のパートナーとして、友好な投資環境を整える重要な役割を担っている。DRコンゴの鉱業に参画した企業が後悔をすることはないと確信している。(※講演は仏語及び英語で行われた)
1-3. モザンビーク、Noormahomed鉱物資源副大臣
(1) モザンビーク鉱業の背景
モザンビークでは、エネルギー資源である石炭及び天然ガスが産出されるほか、アルミニウム、イルメナイト、タンタル、ジルコンといった鉱物資源も生産されている。北西部のTete 州には、アフリカで最大規模の石炭資源が賦存しており、ValeのMoatizeプロジェクトやRio TintoのBengaプロジェクトが操業中である。
(2) 講演概要
モザンビークの鉱業法(2002年)は改正が予定されており既に改正案が国会に提出されているが、大幅な変更は計画されていない。その他の鉱業関連の法律としては、鉱業活動に関する環境規則(2004年)、鉱業法施行細則(2006年)、鉱業安全規則(2006年)、鉱物資源取引規則(2011年)、鉱山操業に対する会計制度法等があり、鉱業に特化した安定した法的枠組みがある。現行の鉱業ライセンスには探鉱権(期間最長5年間、最長5年間の更新可)、採掘権(期間最長25年間、最長25年間の更新可)の他、モザンビーク人に対してのみ発行される採掘免許、採掘許可書、鉱物取引権がある。また、鉱物資源省はMining Cadastre Portal(オンラインの鉱業権台帳)を開発し、世界中のどこからも鉱区の情報を閲覧できるようにし、また鉱業権発行のプロセスにおける透明性が実現された。鉱物資源賦存のポテンシャルが高く、政治、社会及び経済的な安定性のあるモザンビークは、投資のための良い機会を提供できる。モザンビーク政府としては、国内における高付加価値化を促進し、モザンビーク企業とパートナーを組み、モザンビーク人の技術者の育成を行い、地元企業から必要物資を調達してくれるようなプロジェクトを奨励していきたい。
1-4. ザンビア、Yaluma鉱山・エネルギー・水開発大臣
(1) ザンビア鉱業の背景
巨大な銅鉱床地帯(カッパーベルト)が存在するザンビアでは、銅鉱業が同国の鉱業において中心的な役割を担っている。Vale、Vedanta、First Quantum Mineralsといった鉱山会社に加え、中国企業による投資も活発である。一方で、電力不足が懸念されている。
(2) 講演概要
ザンビアにける現行の鉱業法は2008年鉱山・鉱物開発法(Mines and Minerals Development Act,2008)であるが、鉱業の発展とその他の産業の成長を促すために、同法の改正を計画している。鉱業法は、投資家への報酬を提供すると同時に、ザンビア国民に利益を与え持続可能な鉱業の育成を促すものでなくてはならない。現行鉱業法における課題に対処するため、採掘権の発行における不要な行政手続きの改正、探鉱権の期間延長、上訴手続きの策定などが改正法に含まれる。また経済状況により鉱山会社がプロジェクトを進められない場合の鉱区留保手続きを含むことも検討されている。
同国鉱業の飛躍的な発展における障害は不十分なインフラ施設であると認識している。電力不足の課題に対処するため、2015年までに発電能力を1,500 MWに増大するための数々のプロジェクトを実施している。2030年までにザンビアを中進国へと移行させるため、活力のある鉱業を発展させることがザンビア政府の願いである。ザンビアは安定した投資先であり、探鉱から高付加価値化産業まで幅広い投資の機会がある。ザンビア鉱業へ投資を考える全ての人を歓迎する。
2.非アフリカ政府による講演
例年と同様、今回のMining Indabaにおいても非アフリカ政府フォーラムが開催され、各国の政府代表者が40分間の講演及び質疑応答を行った。カンファレンス2日目のフォーラムでは、豪州、カナダ、インドが、3日目には日本、中国の政府代表者がアフリカ鉱業に対する投資状況や支援プログラム等について説明した。

写真2.磯崎経済産業大臣政務官の講演
写真3.JOGMEC上田理事の講演
2-1.日本政府/JOGMECによる講演
日本政府の代表として磯崎仁彦経済産業大臣政務官がINDABAに参加し、2月5日の非アフリカ政府フォーラムで「日本の新しいアフリカ支援策(Japan’s new assistance package for Africa)」と題した講演を行った(写真2.)。この中で磯崎政務官は日本企業のサプライチェーンにおけるアフリカ諸国の重要性を強調し、また日本政府による包括的なアフリカ支援策について説明した。支援策の内容として、金融支援、インフラ整備、JOGMECによるJV探査、研修生の受入れや技術移転といった具体例について言及し、アフリカの自立した成長を支援するための日本の総体的な取り組みを紹介した。
また同日午後のアフリカ大臣フォーラム4の冒頭部分では、JOGMECの上田英之理事が「日本の対アフリカ鉱業投資の促進(Facilitating Mining Investment from Japan to Africa)」と題した講演を行った(写真3.)。JOGMECの役割を説明した後、JV探査プロジェクトやボツワナ地質リモートセンシングセンターといったアフリカにおけるJOGMECの活動を紹介した。また同センターの3カ年計画(2013~2015年)について言及し、リーダー(技術の指導者)の育成と具体的な探査プロジェクトの形成が目標であると説明した。
2-2.カナダ、天然資源省長官、Stefania Trombetti氏
アフリカにおけるカナダのプレゼンスは増々高まってきており、カナダにとってアフリカは重要な鉱業地域であると言える。2012年には、155社のカナダ企業がアフリカ36か国で鉱業プロジェクトに関わっており、カナダ企業がアフリカに有している鉱山資産(Mining Assets)の総額は223億C$であった。これはカナダ企業が国外に有する鉱山資産総額の約15%にあたる。カナダは、アフリカを含む資源国において共通して見られるガバナンスと透明性、経済的・社会的利益、環境保護、コミュニティの関与、先住民問題、政策及び市場へのアクセス、企業の社会的責任(CSR)等に関する課題に熱心に対処している。このような課題に対して、アフリカ諸国の政府とは過去10年以上協力関係にある。特に「採掘、鉱物、金属及び持続可能な開発に関する政府間フォーラム(Intergovernmental Forum on Mining, Minerals, Metals and Sustainable Development)」、「採掘産業と開発のためのカナダ国際研究所(Canadian International Institute for Extractive Industries and Development (CIIEID))」、「アフリカ鉱物資源開発センター(AMDC)」の設立においてカナダ政府が貢献しており、また今後も支援を継続したいと考えている。カナダ政府はアフリカ諸国の政府との既存のパートナーシップへの支援を強化するだけではなく、さらなる協力の機会も模索していきたい。
2-3.中国、国土資源部副長官、Bai Xingbi氏
中国では今後、産業化、都市化そして近代化がさらに進み、金属需要が引き続き高まることが予想される。中国政府は鉱業部門の改革を進めており、その一つとしてグリーンな鉱業(Green Mining)を推進し、鉱山の近代化による環境保護の強化を促進している。鉱業部門の改革により、公平で高効率な鉱山操業が可能となる。また中国政府は中国企業に対して、資源国政府及び地域コミュニティに対して相互利益を産み出すような外国投資を実施するように奨励している。中国はアフリカにとって最大の貿易国であり、中国の対外投資においてアフリカは第4位の地域である。中国とアフリカのパートナーシップは歴史があるが、今後はより新しい戦略的パートナーシップを強めていきたい。特に地質調査、鉱山技術の共有、技術者のトレーニングといった点での有意義な協力が可能であると考えている。
