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報告書&レポート

2014年3月27日 ロンドン事務所 森田健太郎
2014年10号

DRコンゴ、ザンビアでの銅プロジェクト等について~中央・東アフリカ鉱業投資サミット参加報告~

 2014年1月21日(火)、22日(水)、ロンドンにて「中央・東アフリカ鉱業投資サミット」が開催された。英国、アフリカ各国の他、米国、ドイツ、アイルランド、ロシア、シンガポール、中国等から、政府関係者、金融関係者、鉱山会社、コンサルタント会社等約100名が参加した。日本からはJOGMECロンドン事務所他が参加した。

 コモディティ価格がやや下落傾向を見せる中、DRコンゴ、ザンビア等では鉱業法改正を検討するなど、投資環境が不安定化している。同サミットでは、ホスト国政府や鉱山会社、投資家等が一堂に会し、活発な議論が行われた。本稿では、これら講演及び議論の概要を報告する。

1.銅市場の見通しについて

CRU社 Peter Ghilchik氏

【銅市場は波が来るのを待っている】

現在、銅市場は“波が来るのを待っている“と言えるだろう。世界需要の回復は見え始めるだろうか? 新規の銅供給はいつどの程度実現するだろうか? 銅価格はどの辺りを動くだろうか? 弱気な(bearish)アナリストは、供給過剰の波が押し寄せて市場が緩み銅価格が下落する、と予測している。これらを考えると、アフリカの銅産業は試練に直面していると言える。

【銅需要は北米、北東アジア、欧州で増加】

世界の銅需要は、2012年は前年比1.5%増、2013年は同4.0%増である。中国、その他アジアが銅消費を牽引するのは言うまでもない。しかし2006年から2012年にかけて経済危機の影響から銅需要が減少した北米、北東アジア、欧州の3大消費地で見ても、2012年から2018年にかけて経済が回復するので、銅需要が増加に転じるであろう(図1)。

図1 世界の地域毎の銅需要の変化

(出典:講演者資料より)

図1 世界の地域毎の銅需要の変化

【実際の銅生産量は低いレベルに止まる】

世界の銅供給は、2014年から2015年にかけてコミット済みの大規模プロジェクトが立ち上がるため、年産220万tの生産能力が追加される。しかし既存のプロジェクトでさえ能力増強や再稼働が順調に進むとは限らない。そのため実際の生産量はずっと低いレベルに止まるだろう。まだコミットしていない銅プロジェクトが立ち上がるという見方もあるが、予定より平均12か月以上遅延するのが常であり、多くは期待できない(図2・3)。

図2 2014年から2015年に立ち上がる予定の銅プロジェクト

(出典:講演者資料より)

図2 2014年から2015年に立ち上がる予定の銅プロジェクト

図3 潜在的な生産能力と実際の生産量の予測

(出典:講演者資料より)

図3 潜在的な生産能力と実際の生産量の予測

【銅価格は6,500US$を底値に2018年に再上昇】

銅価格については、現在の需給は供給過剰に転じたとは言えまだバランスしているため、四半期の平均価格は7,000US$/tを上回っている。今後は、2015年から2016年にかけて供給過剰になり、その打撃を受け6,500US$/t(基本ケース)まで下がるだろう。しかしそれを受けて生産が減少して2018年には再び供給不足となり、銅価格は上昇に転じるだろう(図4)。

図4 世界の銅の需給バランスと銅価格の見通し

(出典:講演者資料より)

図4 世界の銅の需給バランスと銅価格の見通し

【アフリカの銅プロジェクトの弱み】

世界の銅鉱石の生産量は、過去10年間で25%増加し、中でもアフリカは171%増加した。しかし世界の投資家が“アフリカはリスクが高い”と認識するとおり、アフリカ各国は例外なく不安定でリスクが高い。特に銅鉱床地帯(カッパーベルト)は深く内陸に位置している。電力不足という課題もある。アフリカの銅プロジェクトは他地域に比べて、中小規模の事業者の占める割合が多い。そのため、現在のように市場が困難に直面すると、直ちに資金調達が困難となってしまう(図5)。

図5 アフリカとその他地域の事業者(銅)の規模別割合

(出典:講演者資料より)

図5 アフリカとその他地域の事業者(銅)の規模別割合

【アフリカの銅プロジェクトの強み】

ただし巨大で費用がかかるという銅プロジェクトの特性が、他地域と比較したときにアフリカでのプロジェクトに競争力をもたらしている。すなわち、政治リスクやインフラ、電力は高コストだが、低廉な労働力がそれらを相殺できている。また副産物としてコバルトが採取できるのがアフリカの銅鉱床の特徴であり、経済性に貢献している。未開発地域が多いのも特徴で、ザンビアの国土の4割以上が地質図を未作成である。銅品位も優位にあり、2012年の銅品位の世界平均は0.64%で下落傾向だが、アフリカは1.51%でまだ上昇傾向にある(図6)。

図6 世界とアフリカの銅品位の推移

(出典:講演者資料より)

図6 世界とアフリカの銅品位の推移

2.アフリカにおけるリスク変化について

Africa Practice社 Tom Wilson氏

【資源ナショナリズムの変容】

 現在、ほとんどの資源国政府は鉱山資産の国有化が利益をもたらすとは考えていない。例えばザンビアでは1970年代に鉱山の国有化に踏み切ったが、生産が減少してしまった。多くの国が国有化は失敗すると認識している。したがって国有化(nationalize)リスクという意味での「資源ナショナリズム」は、今や大きなリスクではなくなった。

 しかしながら、2005年以降、私の知る限り11か国が鉱業法を改正している。現在、ケニア、南ア、ザンビアで改正中である。10か国が政府の鉱業分野での権益比率を増やした。また最近は、あらゆる鉱業プロジェクトがプロジェクト以外の要因と関連するようになっている。例えばローカルコンテンツ(原材料や資機材の現地調達)が主要課題になるケースも多い。今までの資源ナショナリズムは、今や資源国政府と鉱業プロジェクトのバランスの再調整という形に姿を変えている。

【3つのトレンド】

 その要因として3つのトレンドがある。一つは“価格の変動”である。価格はいつの時代も資源国政府の鉱業政策に影響を与える。資源価格は2008年から2009年にかけて下落した(図7)。この時期に、多くの資源国政府が政策枠組みの変革に着手した。現在の資源価格は比較的高いが、いつまでも高止まりはしないであろう。

図7 過去10年間の資源価格の変化

※2003年の価格を100
(出典:講演者資料より)

図7 過去10年間の資源価格の変化

 二つ目のトレンドは“競争の激化“である。アフリカは国有化の失敗に学んだ後、民営化により参入者を増やしてきた。そのため投資を行う民間企業が増え、競争が激化している。

 三つ目のトレンドは“政治の影響力の増大”である。最近の民主化の動きにより、政治が以前より大きな影響を持つようになり、政府はより一層の透明性と成果を求められることとなった。

【資源ナショナリズムから資源ポピュリズムへ】

 私はこれらの3つのトレンドを「資源ポピュリズム」と表現したい。今や政治の中心課題は、力強いGDP成長や若年雇用創出の達成について、いかにして鉱業分野に牽引させるか、という点である。政治が鉱業分野に対して、雇用創出と国家収入の両方を求めるようになった。その結果、政治からの影響がプロジェクト・リスクに直結する傾向にある。

 また民主化と透明性の進展により、政治と地域の間に新たな関係が生まれ、鉱業プロジェクトにも影響が出始めている。地域社会は、鉱業プロジェクトがあらゆる分野のローカルコンテンツに貢献することを期待しており、より一層鉱業プロジェクトを吟味する傾向にある。

 今や鉱山会社にとっての最大のリスクは、国政自体が混乱するという意味での政治リスクではない。むしろ政府、地域社会など新たなステークホルダーが次々に登場することであり、それらリスク要因が相互に関連してしまうことである。事業を実施する上でのリスク環境が多様化・複雑化している。

【最善策はステークホルダー・コミュニケーション】

このようなリスクをマネジメントする確実な方法はなく、最善の方法はステークホルダーとのコミュニケーションを進め理解を深めることである。誰がステークホルダーとして参入してくるか、彼らの立場は何か、いつ彼らを巻き込むべきか、どのような形で巻き込むべきか、これらを先取りして革新的な形で対応策を提供しなければならない。そして全てのステークホルダーとの関係を追跡し、評価しなければならない。

3.DRコンゴ国営鉱山会社Gecaminesの活動について

Gecamines社CEO Ahmed Kalej Nkand氏

【Gecaminesの歴史】

1980年代Gecaminesは、銅については47万6千tを生産して世界第5位、コバルトについては14,500 tを生産して世界第1位、亜鉛については6万4千tを生産して世界第1位であった。しかし1990年代、政治的な理由から、Gecaminesは国際市場から隔離されてしまった。1995年にジョイント・ベンチャー契約を開始し、2002年に新鉱業法の下で鉱物資源の採掘を自由化した。2007年から2010年にかけて鉱山契約の再評価を行って鉱山権益を回復し、2012年にジョイント・ベンチャー契約で生産しているプロジェクトの監査を行った。

【Gecaminesの社会経済的な役割】

現在Gecaminesは、DRコンゴのGDPの25%、外貨獲得の70%、国家予算の50%に貢献している。DRコンゴ政府に次いで二番目に大きな雇用者である。約40の病院、111の小・中学校のネットワークを持っている。カタンガ州では初期段階にある大都市建設に参画している。

【Gecaminesの鉱業ポテンシャル】

現在Gecaminesは、7千km2超にわたって11の探鉱権と75の採掘権を有している。8百万tの銅の確認埋蔵量(identified reserves)があり、そのうち5百万tがJORC基準で認定されている。これまでに26のジョイント・ベンチャー・プロジェクトを設立していて、Gecaminesは2~4割の権益を保有している。ジョイント・ベンチャー・プロジェクトは「初期フェーズ」「事業可能性調査(FS)フェーズ」「建設フェーズ」「商業生産フェーズ」の以下4つに分類される。

事業可能性調査(FS)フェーズの主なプロジェクト

プロジェクト名 開始年 事業者名
Metalkol Sarl 2010 Highwind Properties Ltd (ENRC)
Secakat Sprl 2010 Mining Mineral Resources
SMK Sprl 2013 Simco

建設フェーズの主なプロジェクト

プロジェクト名 開始年 事業者名
Sicomines Sarl 2008 Consortium Societes Chinoises
Kico Sprl 2007 Ivanhoe

商業生産フェーズの主なプロジェクト

プロジェクト名 開始年 事業者名
Tenke Fungurume Mining 1996 Lundin Holding Ltd
Freeport-McMoran Copper and Gold Inc
GTL Ltd 1997 EGMF Sprl, OMG
Ruashi Mining Sprl 2000 Metorex Ltd
Kamoto Copper Company 2004 Katanga Mining Ltd
Boss Mining Sprl 2004 ENRC

【銅・コバルトの生産量】

 2013年のGecaminesの権益見合い分生産量は、銅40,616t、コバルト755tである。同年のGecaminesが参画しているジョイント・ベンチャー全体の生産量は、銅484,334t、コバルト30,034tであり、Gecaminesの権益見合い分生産量の10倍超である。

 DRコンゴ全体での生産量は2010年以降着実に増加しており、2012年で銅619,942t、コバルト86,433tとなっている。ジョイント・ベンチャー形態による生産が大きく貢献している。

図8 Gecaminesの銅・コバルトの生産量の推移

(出典:講演者資料より)

図8 Gecaminesの銅・コバルトの生産量の推移

【今後のジョイント・ベンチャー・プロジェクトの見通し】

 したがって、ジョイント・ベンチャー・プロジェクトから十分な収益を得ることが、Gecaminesの活動を拡大する上で重要である。ジョイント・ベンチャー・プロジェクトは、Gecaminesに対して、容易な参入(pas de porte:玄関前の階段)を提供し、ロイヤルティ、配当、レント収入、その他各種サービス事業からの収入をもたらすからだ。

 しかし現実には、投資額が少ないためGecaminesの参画シェアは低いレベルに止まっている。また最近は採掘コストや資金調達コストが高いため、十分な配当が得られていない。そこでGecaminesはジョイント・ベンチャー・プロジェクトの監査キャンペーンを行うこととなった。

 将来的には、既存のジョイント・ベンチャー・プロジェクトに対しては監査をより厳しくして収益性を改善させる。新規のジョイント・ベンチャー・プロジェクトに対してはGecaminesの参画シェアを高めるとともに、プロジェクトの各段階における有効期限の順守を求める。

 現時点では、このようなジョイント・ベンチャー戦略は上手くいかないと評価されている。しかし近い将来“Gecaminesはあのときは完全には期待に応えていなかっただけだ”と再評価されるに違いない。なぜなら、Gecaminesは巨大な未開発鉱床を有しており、カタンガ州における広範な経験を有しているからである。

【質疑応答】

質問: インドネシアは精鉱輸出禁止に踏み切った。DRコンゴでも輸出禁止措置の動きがあるが今後はどうなるか。

回答: 精鉱輸出を禁止するのは国内で付加価値を付けるためだ。しかし現在は、電力不足で企業が付加価値を付けると言っても限界がある。そこで先日、鉱業大臣が、全ての企業に更に一年間の猶予期間を与えたところだ。

4.ザンビアにおける新鉱業法について

ザンビア鉱業会議所会長 Emanuel Mutani氏

【ザンビア鉱業の方向性】

 ザンビアでは、1970年代に鉱山資産を国有化したため生産量が減少したが、1999年から回復した。現在のザンビア政府の鉱業ビジョンは、民間企業の参入促進であり、官民パートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)を増大することである。これにより7%の経済成長を目指している。

 公表されているザンビアの埋蔵ポテンシャルは、やや過小評価されている。ザンビアの未発見のポテンシャルは大きい。国土の西側に新たな銅鉱床地帯(カッパーベルト)を発見している。資源メジャー、探鉱ジュニアが投資を始めている。

【鉱業法改正】

現在、鉱業法を改正中である。改正の目的は、投資家保護、環境保護、透明性や説明責任の確保である。2014年中に成立するだろう。ザンビアの鉱業はまだ十分に民営化されているとは言えない。今回の改正は、鉱業投資を大いに刺激すると期待する。鉱業投資が刺激されれば、労働者の技能が向上し、インフラの開発も期待でき、地域社会にメリットをもたらす。病院やその他サービスも発展する。電力不足は深刻な課題である。現在はほとんどが水力発電に頼っており、投資の促進進により改善する必要がある。

5.おわりに

 中央・東アフリカは、政治の不安定性・不透明性、鉱業法改正の懸念、電力や、インフラの不足、さらには紛争鉱物への対応等、ビジネスリスクが少ないとは決して言えない。特に昨今、多くのコモディティ価格が下落傾向を示している中、鉱山プロジェクトの資金調達は困難を極めている。中央・東アフリカにおけるプロジェクトも例外ではなく、財務基盤がぜい弱な探鉱ジュニアのみならず中・大規模な鉱山会社も含めて、鉱山資産の再編成を余儀なくされている。

 しかしながら、中央・東アフリカがカッパーベルトを含む資源ポテンシャルに恵まれた未開発地域であることは疑いがない。また、今次会合に参加したアフリカ諸国からは「過去に鉱山資産を国有化したが失敗に終わることを学んだ」との声が何度か聞かれた。税・ロイヤルティや輸出入のルール変更リスクは依然として高いが、国有化という抜本的な形での政府介入のリスクは減少していると感じた。またコモディティ価格が下落しているからこそ、上場企業にコスト削減・短期配当の圧力がかかり始めている。今次会合に参加した中国系企業からは「探鉱段階で参画するよりも生産段階の資産を買収する方針だ」との声が聞かれた。またファンド系企業からは「優良資産が低廉な価格で取り引きされ出した」との声が聞かれた。

 中央・東アフリカにおけるビジネスリスクは、変動しながらも確実に減少している。コモディティ価格が次に上昇に転じるとき、検討可能なプロジェクトは大きく増えているであろう。

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