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報告書&レポート

2014年3月27日 前ボツワナ・地質リモートセンシングセンター 久保田博志、ボツワナ・地質リモートセンシングセンター 大岡隆、武田哲一、Lebohgang Leepile
2014年11号

ボツワナ共和国地質研究所設立の動き

 ボツワナでは、2014 年半ばを目途に地質調査所(Department of Geological Surveys Botswana; DGS)が組織改編されて新たに地質研究所(Botswana Geoscience Institute; BGI)が設立される予定である。

 本稿では、この地質研究所についてその概要を報告する。

1.はじめに

 ボツワナ地質調査所(Department of Geological Surveys Botswana; DGS)は、類似の機能がグループ化・簡素化され、また、一部機能は鉱物エネルギー水資源省(Ministry of Minerals, Energy and Water Resources;MMEWR)の他の局へ移管され、調査研究部門は地質調査所があったロバッツェ(首都ハボロネの南方約70㎞)に残され、より研究所としての機能が強化されて新たに地質研究所(Botswana Geoscience Institute; BGI)となる。

2.地質研究所の設立の背景と経緯

(1) 背景

 地質調査所については、以前から成果物の充実が求められており、特に、近年、同国における銅・ニッケルや石炭などダイヤモンド以外の資源開発への関心が高まる中、これらの資源に対する民間の探鉱開発活動を促進するためには、地質調査所の基礎的地質・探査情報提供機能の強化が不可欠であるとの認識が高まっていた。

 また、探査権の管理機能を鉱物エネルギー水資源省(ハボロネ)へ移管することで手続きの合理化や申請者側の利便性を図れること、同様に、水文部門についても行政部門と調査研究部門を鉱物エネルギー水資源省に集約することによる業務の円滑化が指摘されていた。

(2) 経緯

 地質調査所の組織改編と地質研究所の設立に関する調査・コンサルティングは2010 年頃から検討され、鉱物エネルギー水資源省はその効果等につき英国地質調査所(British Geological Survey)と南アフリカ地質調査所(Council for Geoscience of South Africa)に委託し、調査レポートがまとめられた。また、2011 年1 月には鉱物エネルギー水資源省により地質調査所の組織改編にかかる公聴会が開かれている。これらの結果として地質調査所は現行の組織が改編される方針が決定された(探査権等を扱う部門と水資源を扱う部門の分離及び地質調査関係部門の鉱物エネルギー水資源省からの独立)。2012 年には、地質調査所において探査権を扱っていた部門がハボロネにある鉱物エネルギー水資源省の鉱山局に移転、同年、ロバツェの地質調査所内には新たな研究施設の運用が開始されており、地質研究所設立に関する閣議案は、2013 年12 月に開催された国会に提出され閣議了解は得られているものの国会審議で歩調があわず最終的な承認が得られていない。政府関係者からの情報では早くて2014 年6 ~7 月の審議の予定であるが、実際は11 ~12 月頃に承認されるのではないかとのことである。

写真1.ボツワナ地質調査所外観

写真1.ボツワナ地質調査所外観
写真2.地質調査所情報センター

写真2.地質調査所情報センター


写真3.ボーリングコア倉庫

写真3.ボーリングコア倉庫
写真4.ボーリングコア倉庫内部

写真4.ボーリングコア倉庫内部


表1.地質研究所設立の経緯

時期 主な出来事
1948年 地質調査所の前身(Geological Survey of the then Bechuanaland Protectorate)設立
1966年9月末 ボツワナ共和国独立
2007年11月 JOGMECとのリモートセンシング等鉱物資源分野での協力に関するMOUに署名
2008年7月 地質調査所内に新建屋運用開始
2008年7月 JOGMEC地質リモートセンシングセンターを新建屋内に開設
2010年 地質調査所の改革及び地質研究所設立に関する調査コンサルタント開始
2011年7月 地質研究所設立計画が公表される
2012年10月 探査権に関する部門を鉱物エネルギー水資源省鉱山局へ移管
2012年末 地質調査所内に新建屋運用開始
2013年1月まで 地質調査所水文地質部門を鉱物エネルギー水資源省水関係局へ移管
2014年3月まで 地質研究所法案の国会審議・承認予定
2014年4月まで 地質研究所所長(CEO)選定
2014年12月まで 地質調査所改編、地質研究所設置完了予定

3.地質研究所(Botswana Geoscience Institute; BGI)の機能

(1) 設立目的

 地質研究所のミッション(目的)として、世界的な地質関係の調査研究機関となること、鉱物資源への投資家が必要とする豊富な情報を得られる調査研究機関となることが挙げられている。そのため、同研究所は、許認可部門(探査権付与に係る部門)を分離した半官半民の組織として位置づけられ、より柔軟で機動的な組織経営を目指すとされている。

(2) 地質研究所の組織

 組織改編では、地質調査所内の類似の機能をグループ化することで簡素化し、調査研究部門は現在の地質調査所本部(ロバツェ)に地質研究所として残し、それ以外の部門はハボロネに移転する計画である。

 探査権を扱う部門は鉱物エネルギー水資源省鉱山局(Department of Mines)へ、水文分門(Hydrology Unit)は同省水関係局(Department of Water Affairs)へ移管される予定である(2012年に探査権を扱う部門の移管は実施済み)。現在、調査研究部門(Research and Excellence Wing)の準備が進められており、2014 年4 月には新たに地質研究所として活動を開始する予定であった。

(3) 地質研究所の機能

 鉱物エネルギー水資源省としては、地質研究所は地質調査所時代の長年わたる調査及びモニタリングによって蓄積された知見、効果的なデータ管理ノウハウ、高度な調査能力などに優れており、今後も地球科学的なデータの更新やボツワナ国内外のユーザーにこれらの情報を提供していけると考えている。

 地質研究所によるこれらの活動は、環境保全や資源活用を安全かつ持続可能で効果的に行うことに資するものであり、ひいては国民経済の競争力の強化、効果的な政策の実施、国民生活の向上に貢献するものと考えられている。また、地質研究所は、地球科学が資源や環境問題にとって重要であることの理解促進のための情報提供を行う役割も担っている。

表2.地質調査所(DGS)の改編

機能/部門 現在 改編後(想定)
地質調査所 地質研究所 水部門 鉱業権管理部門
地質
(水文地質)

(モニタリング)
鉱物資源 ×
(採掘)
探査権 × ×
水資源 × × ×
情報
(水関係)

(鉱業権関係)
調査
(水関係)
×
地質工学 × ×
図1.現在の地質調査所の組織体制

図1.現在の地質調査所の組織体制
図2.組織改編後の地質研究所の組織体制

図2.組織改編後の地質研究所の組織体制

4.地質研究所(BGI)のメリット/デメリット

(1) 迅速な対応=官僚的体質の改善

 現状、鉱物資源の探鉱開発プロジェクトの承認には多くの時間が費やされている。その原因として、関係する政府部門が多岐にわたっていること、諸手続きが官僚的であること、組織運営が非効率であることが指摘されている。

 改組後の地質研究所及び鉱山局には、探鉱開発プロジェクトの速やかな承認手続きが求められており、従来の地質調査所の非効率な体質を改善するために、地質研究所所長(Chief Executive Officer;CEO)等が外部から任命されるとみられている。なお、地質調査所では、非効率が指摘されていた管理部門やサービス部門の人員の削減が既に決定されている。

(2) 柔軟な経営/責任の所在の明確化

 地質研究所は、政府機関である地質調査所とは異なり、半官半民の組織として位置づけられることになっており、最高執行責任者(CEO)や役員は、給与等すべて事項を決定する権限を有することになり、柔軟な経営が可能となる。他方、経営陣はその決定に対する責任を負うことになる。

(3) 官民給与格差の是正=人材の確保

 政府機関である地質調査所職員の給与水準は公務員並みであり、民間鉱山会社と比べて低く、そのため地質調査所から民間鉱山会社への人材流出が問題となっていたが(留学等研修を施した職員が民間企業に引き抜かれてしまう等)、地質研究所では、経営陣が職員給与の決定など柔軟な経営が行えるようになるため、人材流出を抑えることができると期待されている。

(4) 鉱山局での行政サービス低下の懸念

 探査権に関する部門は、地質調査所からハボロネにある鉱山局へ移管されるが、申請者らが従来のように地質研究所に助言等を求めることが予想され、このような相談に鉱山局が十分に対応できるか懸念材料としてあげられている。

 他方、地質研究所が調査研究に専念することによって、基礎的な地質探査情報の取得・分析・提供機能が充実し、それによって民間企業による鉱物資源探査活動が促進されることが期待されている。

5.おわりに

 南部アフリカ諸国では、数10 年前の地質調査に基づいて作成された地質図が、その後の空中物理探査や衛星画像解析技術の進展にもかかわらず、これら技術を利用した改訂が行われていないことが多い。また、貧困対策から経済成長へ、国の機関としての地質調査所へ配布される予算は厳しいものとなっている。他方、資源メジャーが中心であった資源探査活動は、豪州やカナダ等の探査企業が参入するようになり、基礎的な地質探査情報への要求が高まっている。このような状況下にあって、地質調査所が単なる学術的な調査機関ではなく、投資に貢献する機関としてその機能を変えていくことは必然であるといえよう。

 既に、フランスや米国、南部アフリカ地域では南アフリカやナミビアの地質調査機関は民間からの業務を受託するなど政府以外からの資金を受け入れ、独立採算制的な活動を行っている。資金の官民問わず、地質調査所は活動することによって組織の能力や機能が高まり、そのことが提供する情報の質の向上につながり、ひいては当該国の資源投資に貢献することになる。

 今回のボツワナ地質調査所の組織変革(地質研究所の設立)は、その長い道のりの出発点であるといえよう。

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