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報告書&レポート

2014年6月12日 サンティアゴ事務所 山本邦仁
2014年21号

ブラジルの2013 年の鉱物資源生産および探査開発動向

 ブラジル国家鉱物生産局(DNPM: Departamento Nacional de Produção Mineral)は2014 年3 月に2013 年下期鉱物資源レポート(Informe Mineral julho/dezembro 2013)を公表した。同レポートには鉱物生産指数(IPM: Índice de Produção Mineral1)、鉱産物輸出入状況のほか、鉱業ロイヤルティ(CFEM:Compensação Financeira por Exploração de Recursos Minerais、鉱物資源採掘のための財務補償)および鉱区税(TAH:Taxa Anual por Hectare)の徴収状況、探査・採掘に係る許認可件数等についてとりまとめられている。

 本稿では、ブラジルの鉱物資源生産および探査開発動向の理解の一助とすべく、同レポートの情報をもとにその概況を報告する。

1. 鉱物資源の生産水準

 2013 年のIPMは、2012 年に比較して3.4%低下し、2011 年にDNPMがIPMによる評価を開始して以来、最低レベルとなった。鉱種別では、ニッケルが24.7%減で最大の低下となったほか、カリウム:10.3%減、ニオブ:6.0%減、鉄鉱石:3.8%減、銅:2.7%減となった。IPMが増加した鉱種としては、マンガン、金、グラファイトがあり、それぞれ5.8%増、5.6%増、4.6%増であった。

 2013 年下半期のIPMについてみると、前年同期比1.7%減となっている(図1)。指数が低下した鉱種としては、ニッケル(-37.4%)、ニオブ(-15.4%)、カリ(-14.3%)、石炭(-13.6%)、リン(-9.4%)、石綿(-6.8%)、クロム(-2.7%)、ボーキサイト(-2.2%)、銅(-1.1%)、カオリン(-1.0%)、鉄鉱石(-0.5%)等である。その一方で、グラファイト(7.7%)、マンガン(6.7%)、金(3.6%)及び亜鉛(1.4%)の生産は増加した。

図1 2011~2013年半期毎のIPM(前年同期比)
図1 2011~2013年半期毎のIPM(前年同期比) 出典:DNPN(2014)

 生産水準の低下は、経済的問題及び技術的問題の影響によるものと分析され、具体的には、金属資源需要の低下とそれを反映した生産調整、選鉱施設の保守の為の予定外の停止、地域によっては異常降雨、鉱石の品位の低下といった理由がある。

 2013 年の鉱物生産額(VPM: Valo da Producao Mineral=選択された鉱物について鉱山会社の販売実績に基づき算出)は、710億レアルであり、前年比11%増加となった。生産量は前年から低下したものの、国内生産の主要鉱物資源である鉄鉱石の価格上昇がVPMの増加に寄与した。VPM算出の対象となった鉱物資源は83.6%を占める事から100%に換算した2013 年VPMは850億レアルとなる。

2. 鉱物資源の輸出入状況

 2013 年下半期に鉱物採取産業(IEM: Industria Extrativa Mineral)の輸出入収支は、輸出額の増加(7.7%)および輸入額の減少(-20.4%)により前年同期比で改善が見られた(図2)。

図2 2011~2013年半期毎の鉱産物輸出入額
図2 2011~2013年半期毎の鉱産物輸出入額 出典:DNPN(2014)

 金額にして前年同期比で約15億US$となる輸出額の増加は、主に輸出額増加分の88.9%を占めた鉄鉱石輸出によるもので、鉄鉱石輸出が数量で2.9%増であったことに加え、価格面で平均5.7%の上昇があったためである。

 2013 年下半期の鉱産物輸出額の鉱種別内訳(図3)および輸出先構成(図4)は、2012 年同期と比較して大きな変化がなかった。中国および日本への輸出額は全体の半分を占める状況である。

図3 2013年下半期の鉱産物輸出額鉱種別内訳
図3 2013年下半期の鉱産物輸出額鉱種別内訳 DNPN(2014)から作成
図4 2013年下半期の鉱産物輸出先別金額
図4 2013年下半期の鉱産物輸出先別金額 DNPN(2014)から作成

 輸入状況(図5、図6)に関しては、銅の割合が高まったが(前年同期比5.3%増)、石炭に関しては逆に下がった(39.8%減)。銅の輸入シェアが増加した事で、銅の最大輸入先であるチリが鉱産物輸入額の11.3%を占めることとなり、前年同期シェア(5.6%)を大きく上回った結果、ランキングでは三位に浮上した。石炭については米国とカナダがブラジルへの鉱産物輸入の大半を占める存在だが、両者の差はそれほど大きくは無い。

 2013 年下半期は、鉄鉱石価格の上昇および為替の切り下げで、輸出額が少し回復した。

図5 2013年下半期の鉱産物輸入額鉱種別内訳
図5 2013年下半期の鉱産物輸入額鉱種別内訳 DNPN(2014)から作成
図6 2013年下半期の鉱産物輸入先別金額
図6 2013年下半期の鉱産物輸入先別金額 DNPN(2014)から作成

3. CFEMおよびTAH

 2013 年下半期のCFEMの徴収額は10.8億レアルであり(図7)、前年同期比3.5%減となった(インフレは加味せず)。2013 年上半期と比較すると、16.1%減となる。CFEM収入はこの期間のDNPMの全歳入の95.2%を占めるものだった。

 2013 下半期のCFEM徴収額の品目別シェアでは鉄鉱石が72.3%を占め最大であり、これに銅鉱石(4.5%)、金鉱石(2.7%)が続く(図8)。以下、順に、石灰石(2.6%)、花崗岩(2.3%)、ボーキサイト(1.8%)、リン鉱石(1.6%)、砂(1.4%)、マンガン鉱石(1.0%)、ニッケル鉱石(0.9%)となっており、これら10 品目で91.2%を占める。

図7 2008~2013年半期毎のCFEM徴収額(単位:百万レアル)
図7 2008~2013年半期毎のCFEM徴収額(単位:百万レアル)u000b出典:DNPN(2014)
図8 2013年下半期のCFEM品目内訳
図8 2013年下半期のCFEM品目内訳 DNPN(2014)から作成

 2013 年下半期のTAHの徴収額は38百万レアルであった(図9)。この額は前年同期比17.4%の減少であり、上半期との比較では37.2%の減少となっている。TAH収入はDNPMの全歳入に占める割合は3.4%であるが、これまでで最も低いものであり、金額的にも過去5年間で最低となっている。

図9 2008~2013年半期毎のTAH徴収額(単位:百万レアル)
図9 2008~2013年半期毎のTAH徴収額(単位:百万レアル) 出典DNPN(2014)

4. 鉱業権

 2013 年にDNPMおよび鉱山動力省に登録された探査および採掘に係る各種申請・許可・承認・登録件数は表1のとおりである。

表1 2011~2013年の探査・採掘権に係る申請・承認・登録件数

種類 2011 2012 2013
上半期 下半期 合計
探査 探査申請 26,695 20,463 9,634 9,472 19,106
探査許可 19,583 8,860 5,844 7,718 13,562
探査報告書承認2 1,609 1,522 761 852 1,613
採掘 使用ガイド3 970 943 518 643 1,161
採掘権4 195 331 79 98 177
ライセンス登録5 1,588 1,645 870 897 1,767
小規模採掘業者採掘許可6 258 316 128 84 212
採取登録7 185 136 60 71 131

DNPN(2014)から作成

 2013 年の実績を2012 年と比較すると、探査申請が減少(-6.6%)したほか、採掘権(-46.5%)、小規模採掘業者採掘許可(-32.9%)および採取登録(-3.7%)で件数の減少がみられた。その一方で探査許可は増加(53.1%)し、探査報告書承認(6.0%)、使用ガイド(23.1%)、ライセンス登録(7.4%)も増加している。

 2013 年下半期の状況を上半期と比較すると、探査許可(32.1%)、探査報告書承認(12.0%)、採掘権(24.1%)、ライセンス登録(3.1%)、そして、採取登録(18.3%)で増加し、探査申請(-1.7%)および小規模採掘業者採掘許可(-34.4%)は減少している。

 採掘に係る許可のうち使用ガイドには、採掘権許可前に試験的な採掘を目的とした小規模採掘への許可が含まれるが、2013 年下半期に発行された使用ガイド643 件のうち、260 件が採掘権取得前のものであり、上半期と比較して17.6%増加した。

 2013 年下半期に登録された鉱業権の譲渡取引件数は1,577 件であり、内訳は探査許可:72.7%、採掘権:17.0%、ライセンス登録:6.5%、採掘申請権:2.5%及び小規模採掘業者採掘承認:1.4%であった(表2)。

表2 2013年下半期の鉱業権譲渡取引件数

鉱業権種類 件数
探査許可 1,146
採掘申請権 39
採掘権 268
ライセンス登録 102
小規模採掘業者採掘許可 22

DNPN(2014)から作成

まとめ

 2013 年のブラジルの鉱物資源生産および探査開発状況の概要について、若干の分析を加えまとめると、次のとおりである。

 鉱物資源の生産水準は、主として鉱物資源価格の下落を背景として、やや低下した。

 鉱物資源の貿易収支は鉄鉱石価格上昇と為替の切り下げの影響から向上した。

 鉱物資源輸出額に関しては、鉱種では鉄鉱石、輸出国では中国のシェアが大きい。

 鉱物資源輸入額に関しては、銅の輸入が増加し、国別ランキングでは、銅の輸入先であるチリが、石炭の輸入先である米国・カナダに次ぐ位置についた。

 CFEMは鉱産物の生産水準が低下しているにも関わらず、増加傾向にある。

 TAHの減少は、従前の探査許可件数の減少を反映していると思われる。探査許可件数の減少は鉱業法改正推進の動きが活発化した時期の件数低下の影響を受けたものであろう。

 探査許可件数は2012 年を上回り、鉱業法改正に伴う探査許可手続きの停止措置(2011 年10 月頃)の影響からの回復は順調といえるが、2011 年の水準までには至っていない。

 探査申請件数は減少傾向にあるが、依然として2000 年代中ごろの金属価格高騰前の水準(10,000~14,000 件(JOGMEC, 2012))を上回る状況といえる。申請件数の減少は鉱業法改正案に盛り込まれている探査権入札制度導入への警戒感や、探鉱投資の低下を反映したものである可能性がある。

 使用ガイド件数の増加と探査申請件数の減少から、初期探査案件からアドバンス探査案件~プレFSステージ案件へのシフトが進展していることが示唆される。

謝辞

 本報告をまとめるにあたり、ブラジルの鉱業情勢について菅藤和彦氏から助言を頂いた。ここに記して謝意を表する。

参考文献

 DNPM, 2014, Informe Mineral julho/dezembro de 2013,

 http://www.dnpm.gov.br/mostra_arquivo.asp?IDBancoArquivoArquivo=9114

 JOGMEC, 2012, ブラジル連邦共和国の投資環境調査2011年


注釈:

1 年度・年度半期・月といった関心期間における鉱物品目毎の数量および販売額について、前期(前年度・前年度同一半期・前月)を基準期間として比較したフィッシャー指数。生産額上位の15 鉱物品目を対象としており(ただし金については小規模採掘業者の売り上げを考慮せず)、鉱物品目毎の数量および販売額については、それら各鉱物品目毎の生産額の80%以上を占めることを条件として選択した46 企業(鉱物品目間での重複あり)に対して求めた生産量、販売量、販売額等の情報に基づく。

2 探査報告書承認:探査により鉱床の存在が証明された場合に承認される。後段の採掘権申請に必要となる。探査実施したものの鉱床の存在が認められない場合は、報告書はファイリング扱いとなり、対象地区の探査権は抹消される。

3 使用ガイド(Guias de Utilização):小規模採掘や試験的採掘のための許可。

4 採掘権(Concessões de Lavra):鉱山動力大臣が許可権を保有。

5 ライセンス登録(Registros de Licença):建設用途鉱物資源(砂、砂利、石灰石、石材等)が対象。DNPMが審査し、地方自治体が許可。

6 小規模採掘業者採掘許可(Permissões de Lavra Garimpeira):前段階の調査にかかわらず、小規模採掘業者による採掘が対象。

7 採取登録(Registros de Extração):公的機関が公共土木工事目的で鉱物資源を採掘する場合が対象。

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