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ペルーLas Bambasプロジェクトの権益売却~中国独禁法の域外適用と権益獲得~
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2014 年4 月13 日、Glencore XstrataはLas Bambas銅プロジェクト(ペルー)の権益100%を中国コンソーシアム(MMG社 62.5% /国信国際投資公司 22.5% /中信金属有限公司15.0%)へ58.5億US$で売却することを発表した。本売却は、Glencore/Xstrataの合併を認可する条件として、中国商務部(MOFCOM)が2013 年4 月に課したものであり、売却先はMOFCOMが認めた者に限定されている。さらにMOFCOMは条件として、合併による垂直的統合の競争制限的影響を軽減させるため、2020 年迄の間、銅精鉱を中国国内の需要家へ供給する義務もGlencoreに対し課している。 このようなMOFCOMによる条件付加は、中国独占禁止法の過度な域外適用であり、国際法上許容される範囲を超えているという批判も一部メディアでは見られる。 本稿では、Glencore/Xstrataの合併計画審査に当たり、MOFCOMがLas Bambasプロジェクトを売却対象として決定した判断理由をレビューするとともに、中国独禁法の適用について競争政策的観点から考察してみたい。 |
1. Las Bambasプロジェクトの概要
Las Bambas銅プロジェクト(Apurimac県)は、精測資源量4.9億t(品位:Cu 0.64%、Mo 0.0174%、Au 0.06 g/t)及び概測資源量7.2億t(品位:Cu 0.68%、Mo 0.0172%、Au 0.05 g/t)の大規模斑岩銅鉱床(一部スカルン鉱床)であり、露天掘りによって採掘が行われ、1 日の粗鉱処理量は14万t、浮遊選鉱によって生産が行われる予定である。年間の銅生産量は40万t、モリブデン5千tと計画されており、現在開発中の案件としては世界最大級の銅プロジェクトである。生産開始は2015 年を予定し、マインライフは現在のところ20 年と見込まれている。
2. 経緯
中国独禁法では、外国企業同士の合併計画であっても合併各社の売上高が所定の基準値を超える場合、MOFCOMの審査を受ける必要がある1。Glencore/Xstrata合併計画に係るMOFCOMによる審査の経緯を表1に示す。2012 年4 月1 日、Glencoreは合併計画をMOFCOMへ提出し、5 月17 日、正式に受理され審査が開始された。しかしながらその後、関係者間の協議は難航し、審査期限の11 月14 日(受理から180 日)を経過するおそれが生じたため、MOFCOMはGlencoreに対し合併計画を一旦引き下げさせた2。Glencoreは11 月23 日に合併計画を再度提出し、申請から1 年以上経た2013 年4 月16 日、MOFCOMはGlencore/Xstrata合併を条件付きで認可した。MOFCOMが課した条件は、(1)Las Bambasプロジェクト(ペルー)の権益売却、(2)銅精鉱の中国への供給義務、である。
表1 MOFCOMによる合併計画の審査
| 年月 | 内容 |
| 2012年 2月 2日 | Glencore/Xstrataの合併方針が発表 (当時既にGlencoreはXstrata株式を33.65%保有) |
| 4月 1日 | GlencoreはMOFCOMに対し合併計画を提出 |
| 5月 17日 | MOFCOMは合併計画を正式に受理し、フェーズ1の審査が開始 |
| 6月 15日 | フェーズ2の審査が開始 |
| 11月 6日 | 合併計画は一旦引き下げ |
| 11月 23日 | 合併計画を再提出 |
| 11月 29日 | 再提出された合併計画を正式に受理。 |
| 12月 28日 | フェーズ2の審査に入る。 |
| 2013年 4月 16日 | 条件付きで承認される。 |
(出典:各種資料を基にJOGMEC作成)
3. MOFCOMの判断理由
MOFCOMは両社の合併が国内市場に重大な影響を及ぼすと判断し、条件付き認可を決定したが、その論拠としてまず中国の銅精鉱、亜鉛精鉱、鉛精鉱の輸入依存度の高さを挙げた。MOFCOMの発表によれば、中国国内市場(2011 年)における輸入の割合は銅精鉱で68.5%、亜鉛精鉱28.7%、鉛精鉱27.3%となっている(図1参照)。
(出典:米国法曹協会資料、MOFCOM資料を基にJOGMEC作成)
図1 中国における銅精鉱、亜鉛精鉱、鉛精鉱の輸入依存度
次に、Glencore/Xstrataの世界及び中国国内における精鉱の生産/供給におけるシェアを示し、特に銅精鉱については中国国内での供給量に占める割合が高く、両社のシェアは合計で12.1%(Glencore 9.0%、Xstrata 3.1%)であることを指摘した。(図2~4参照)。
(出典:米国法曹協会資料、MOFCOM資料を基にJOGMEC作成)
図2 銅精鉱の市場シェア
(出典:米国法曹協会資料、MOFCOM資料を基にJOGMEC作成)
図3 亜鉛精鉱の市場シェア
(出典:米国法曹協会資料、MOFCOM資料を基にJOGMEC作成)
図4 鉛精鉱の市場シェア
これらのデータに基づきMOFCOMは、両社の合併は銅精鉱や亜鉛精鉱、鉛精鉱の国際市場と中国国内市場に対し重大な影響を及ぼすと判断。具体的に懸念される影響として、精鉱市場(特に銅)におけるGlencoreの影響力が強化され、中国国内の買い手の立場が相対的に弱くなることを指摘した。また合併によってGlencoreの市場影響力が垂直的に拡大することも懸念され、例えば、Xstrataが供給する精鉱をGlencoreが独占的にトレーディングすることで、新たなトレーダーの参入が困難となり、価格競争効果が阻害されるおそれも指摘されている。
さらに、鉱石手当の契約面での懸念として、これまで山元(Xstrata)と鉱石供給契約を結んでいた中国国内の需要家の立場で見ると、合併により(もともとトレーディングを得意とする)Glencoreの地位がより高まることで、山元との契約に比し条件の悪い長期契約やスポット契約への変更を強いられ、結果として買鉱条件の悪化を生じさせるおそれがあるとも指摘されている。
4. MOFCOMによる排除措置
これらの懸念を軽減させるため、MOFCOMは(1)事業譲渡(競争法におけるいわゆる「構造的措置」)と(2)供給義務(「行動的措置」)の2 つの措置を合併認可の条件としてGlencoreに示した。
4-1. 事業譲渡(Las Bambasプロジェクトの売却)
Glencoreは2014 年9 月までに、Las Bambas鉱山の適正な市場価値又は開発に要した費用を下回らない価格で売却する義務を負う。
全ての売却手続きは2015 年6 月30 日までに完了させ、2014 年9 月30 日までに購入者と拘束的な合意を結ばなければならない。購入者はMOFCOMが承認した者に限るという制限が付けられ、Glencoreは2014 年8 月31 日までに購入予定者の情報をMOFCOMへ通知しなければならない。
上記期日までにLas Bambasプロジェクトの売却が実現できなかった場合、Glencoreは、Tampakan(フィリピン)、Frieda River(PNG)、El Pachon(アルゼンチン)、Alumbrera(アルゼンチン)のうちMOFCOMの指定するプロジェクトについて売却を行うべく、資産売却を行うための管財人指名に係る提案書をMOFCOMに対し提出しなければない。
4-2. 供給義務
Glencoreは中国の需要家と銅精鉱供給に係る2020 年までの長期契約を締結し、年間900千tの銅精鉱を別途定められる価格で供給する義務を負う。(供給量についてはGlencoreの生産量に応じ、900千tを下回ることもある。)
価格に関しては、ベースとなる200千tは、主たる鉱山会社と中国の主たる製錬会社の間で決定されるベンチマーク価格により決定され、残りの700千tについてはベンチマーク価格を参考に設定された価格とする。
亜鉛精鉱及び鉛精鉱についてもGlencoreは中国の需要家と2020 年までの長期契約を締結し、国際市場での条件に準じた公正かつ妥当な取引条件で精鉱を提供しなければならない。
5. MOFCOMよる排除措置の妥当性
5-1. 他国/機関の競争当局の対応
欧州委員会が、世界最大の亜鉛製錬会社であるNyrstar社のマイナー権益(7.79%)売却等をGlencoreに命じた以外は、他国(米国、豪州、南ア)の競争当局はGlencore/Xstrata合併による競争制限的影響は軽微と認識し、無条件で合併計画を承認した。
なお、各国の競争当局が競争制限的影響があると認識する基準は、例えば欧州委員会では合併後のシェアが25%以上となる場合であり、本件では中国国内でのシェアが最も高い銅精鉱でも12.1%(Glencore:9%、Xstrata:3.1%)であるため、欧州委員会の基準は満たしていないことになる。また米国の基準では、合併前と合併後における合併各社のHHI指数の増分が100を超える場合3となっており、本件ケースではHHI指数の増分は55.8であり、同じく基準未満となる。
これらを鑑みると、MOFCOMの決定は諸外国の措置/対応と比べるとやや過剰なものと言わざるを得ず、判断に当たって中国政府は競争政策的観点だけでなく、経済安全保障上の配慮もなされたと推察される。
5-2. 域外適用の妥当性
自国外で行われる買収/合併であっても、自国市場に競争制限的効果があると認められる場合、自国の競争法(独占禁止法)を適用していくことを域外適用というが、中国の独禁法(2008 年施行)では第2条で域外適用を明記している4。我が国の公正取引委員会も域外適用の可能性についてこれまで認めてきたものの、実際の適用については慎重な姿勢を取ってきた。しかしながら国際経済環境の変化を背景に、2008 年のBHP BillitonによるRio Tinto買収計画の際、日本鉄鋼連盟などの要請を受け、独禁法違反被疑審査が行われ、外国企業同士のM&Aに対して独禁法上の審査手続きが行われた初めてのケースとなった(結局、買収断念となり審査は打ち切り)。なお、欧州や米国でも自国の独禁法の域外適用をこれまで認めており、近年では適用ケースが増加傾向にある。
5-3. 中国独禁法の適用状況
2008 年8 月の独禁法施行から2014 年3 月までに、MOFCOMは公表ベースで866件のM&A案件を審査し、1 件が禁止決定5、20 件が条件付き認可と判断された。20 件のうち国有企業を対象としたものは1 件のみであり、残る案件の殆どは外国企業同士のM&Aを対象としているため、外国企業のM&A案件に対し独禁法を積極的に適用するMOFCOMの姿勢が窺える。
条件付き認可となったケースとして例えば、ロシアのカリウム肥料メーカーであるUralkaliによる同じくロシアのカリウム肥料メーカーSilvinitの買収案件(2011年)では、MOFCOMは塩化カリウム市場において競争性阻害のおそれがあるとして、(1)塩化カリウムの中国需要家への供給に際し、直接販売や貨車・船での供給など従来の方式を踏襲すること、(2)塩化カリウムの中国需要家の要請(数量、グレード等)に応じること、(3)価格交渉において従来の商慣行を踏襲し、過去の経緯や中国市場の特別な性質を勘案すること、という条件を課した。
また最近の例では2013 年4 月、丸紅による穀物商社Gavilon(米国)の買収案件認可に際しMOFCOMは条件として、(1)両社の中国向け輸出と販売業務の分離独立、(2)丸紅のGavilonからの大豆買い付け原則禁止、(3)市場情報の交換禁止を課している。
6. おわりに
上述のようにGlencore/Xstrataの合併は、国際的な基準に照らしても競争制限的効果が高いとは認めにくい外国企業同士のM&A案件であるにも関わらず、本案件の認可条件として自国管轄権外の他国の鉱山権益売却を指定したMOFCOMの措置は、国際法上許容される域外適用の範囲を超えているという指摘も見られる。中国独禁法の域外適用が、今後、世界における金属の供給構造に影響を及ぼす可能性もあることから、その運用には引き続き注視して参りたい。
1 中国独禁法21条では下記のいずれかに該当する場合、MOFCOMの審査を受けなければならないと規定。なお参考まで欧州委員会での基準値は合併各社の全世界売上高の合計が50億ユーロ(約420億人民元)超となっており、中国の基準値は世界的なスタンダードと比べると低いという批判も見られる。
(1) 企業結合に関わるすべての事業者の前会計年度における全世界での売上高合計が100 億人民元を超え、かつそのうち少なくとも2 事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4 億人民元を超える場合
(2) 企業結合に関わるすべての事業者の前会計年度における中国国内での売上高合計が20 億人民元を超え、かつその中の少なくとも2 事業者の前会計年度における中国国内での売上高がそれぞれ4 億人民元を超える場合。
2 中国独占禁止当局の職員は40 名程度とも言われ、人員不足による審査遅延も指摘されている。
3 合併前のHHI指数(ハーフィンダール・ハーシュマン指数)は(92 + 3.12) = 90.61。合併後HHI指数は、12.12 = 146.41となり、増分は146.41-90.61=55.8となる。
4 第2条後段が該当。「第2条 中華人民共和国国境内の経済活動における独占行為に対して、この法律を適用する。中華人民共和国国境外で行われる行為のうち、国内市場における競争を排除し又は制限する影響を及ぼす行為には、この法律が適用される。」
5 米国Coca Cola社による中国果汁飲料メーカー(中国匯源果汁集団有限公司)の買収案件(2009年)。


