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報告書&レポート

2014年6月19日 ロンドン事務所 森田健太郎
2014年23号

中国、アセアン、欧州の動向が銅市場に与える影響~2014年春季国際銅研究会(ICSG)参加報告~

 2014 年3 月31 日~4 月1 日、ポルトガル・リスボンにて国際銅研究会(ICSG)春季会合の一連の会議が開催され、約20の国、国際機関、業界団体、資源メジャー、コンサルタント等から30 名ほどが参加した。日本からは、在ポルトガル大使館、日本鉱業協会、鉱山会社、商社、JOGMECロンドン事務所他が参加した。

 今回のICSGにおいては、2014 年及び2015 年の鉱山生産、製錬、消費、需給バランスの予想値などが議論された。また3月中旬、銅価格が3 年8 ヶ月振りの低水準まで急落するなど市場がボラティリティを増す中、中国におけるホットマネー(短期投機資金)の影響、アジア諸国における銅需要の見通し、欧州当局の規制が銅産業に与える影響などについても議論された。本稿ではこれらの概要を紹介する。

 なお、本会合での講演資料はICSGの以下公式HPから入手可能である。また、次回のICSG会合は、2014 年10 月13 日~15 日にリスボンにて開催予定である。

 http://www.icsg.org/index.php/meetings-and-presentations-2/viewcategory/251-icsg-meeting-presentations-invited-speakers

1. 第36 回環境経済委員会

1-1. 講演『銅市場のファンダメンタルと中国のホットマネー』

(Goldman Sachs International、Max Layton氏)

【銅価格6,600 $/t以上であればプロジェクトの半分弱は操業可能】

最近の銅価格は中国の需要減速懸念を受けて停滞している。また世界の銅鉱山の生産量は1990 年以来大幅に増大している。当社は、2014 年から2015 年にかけて供給過剰が続くため、銅価格は6,600 $/tまで下落すると予測する。しかし2016 年から2017 年にかけて再び供給不足に陥るため、銅価格は7,500 /tまで上昇すると予測する。銅プロジェクトは今ブームを迎えていると言えるだろう。底値が6,600 $/tと仮定すれば、世界の主要60 プロジェクトの半分弱が操業可能である。しかし銅生産者のマージンは削減圧力に直面しており、操業を継続するために必要な設備維持費が確保できるかどうか注視が必要である。

【中国におけるホットマネーが銅価格の水準を引き上げ】

中国においては、マネタリーベースの相当量をいわゆる“ホットマネー“(短期投機資金)が占めるようになっている。ホットマネーは銅市場だけではなく、鉄、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、大豆、天然ゴム、パーム油にも流入している。中国の銅市場における金融取引の拡大が、現在の価格水準を引き上げていると考えられる。

1-2. 講演『アセアンにおける銅の産業需要』

(Integer Research、Philip Radbourne氏)

【アセアン市場の強み】

世界経済は上向き始めたばかりである。欧州の製造業もようやく縮小から拡大に転じたところだ。しかしアセアンは、世界で最もダイナミックで有望な電線・ケーブルの市場である。アセアンにおける電線・ケーブル市場は2007 年以降、年平均8%で成長してきた。その内訳を見ると、光ファイバーケーブルが年平均22%、電力用電線が年平均17%で成長してきた。バンコク、シンガポール、クアラルンプール、ホーチミン、ジャカルタ、マニラなど、いずれも大量のケーブルを消費する巨大都市である。そしてアセアン諸国の一人当たりGDPはまだ低く、さらなる成長が期待できるのだ。当社は、アセアンの電線・ケーブル市場は、今後5年間でさらに年平均6%で成長すると予測する。

【アセアン市場の弱み】

しかし懸念点もある。アセアン市場の成長は力強いとは言え、減速するケースもみられる。インフラ投資の遅れも見られる。銅価格は高く変動が大きい。中国からの輸入圧力もある。競争が激化するとマージンが圧縮される。例えばインドネシアでは80 社超の電線・ケーブル企業があるが、このうち70 社超で業界の全マージンの3 割弱を分け合っており採算性が低い。アセアンにおける電線・ケーブル産業に合理化・再編圧力がかかるだろう。

1-3. 講演『欧州における規制と持続可能な生産・消費政策』

(欧州銅協会、Laia Perez-Simbor氏)

【EU27 の銅需給】

EU27 は世界の銅需要の15%を占める。域内の主要鉱山はポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデンであり、供給の約15%を占める。精鉱と電気銅の輸入が約35%、残りの約50%をリサイクルで賄っている。

【EU政策によるコスト負担】

EUは、GDPに占める製造業の割合について、現在の15-16%から2020 年に20%にすることを目標としている。しかしEUの各種政策によるコスト負担が産業の競争力を削いでいる。排出量取引、資源効率性、省エネルギーなど“やらないよりやる方が良い“という状況となっている。欧州の銅産業は、二酸化炭素の排出量をオフセットするため、2014 年第4四半期までに「炭素ロードマップ」を公表することとなった。しかし「バリューチェーン資源効率性」の取り組みにより、銅産業はより多くのエネルギーを消費しなければならない。「環境フットプリント」もISOのライフサイクルアセスメントと仕様が異なるためコストがかかる。

【欧州銅産業界の取り組み】

欧州の銅リサイクル分野は未だ強い。銅スクラップの輸入を更に年間90万t減らそうとしている。外国からの物質の含有量を2%に抑えようとしている。ただしスクラップ輸入業者からは相当の抵抗を受けている。また欧州の銅産業はベスト・アベイラブル・テクノロジーのレファレンス文書に積極的に貢献している。REACH規制など化学物質管理も重要である。銅産業は、OECDの協調的化学物質評価会合(CoCam)プロセスにおいて、モリブデンについて文書を提出する予定である。

2. 第43 回統計委員会

2-1. 2014年、2015 年の銅需給予測

(ICSG事務局、主任統計官 Ana Rebelo氏)

【今後は中国の保税在庫の変動量を反映】

これまでICSGは統計作成において報告された在庫だけを考慮に入れてきた。しかし近年、公式な報告が存在しない中国の保税在庫の水準が大きく変動していると考えられる。そのためICSGでは2014 年1 月より、3 つのコンサル会社の評価を平均して「中国の保税在庫の変動で調整した後の世界需給バランス」を追記することとした。

【2013 年の銅地金の需給バランス】

2013 年の銅地金の需給バランスは、銅地金の生産停滞と中国の需要増大により、約28万tの供給不足と推定する。非報告ベースの情報では中国の保税在庫がさらに約26万t減少したと示唆しており、これを加味するとICSGとして2013 年の供給不足は約54万tに拡大したと推定する。

【2014 年、2015 年の銅地金の需給バランス】

2014 年予測については、需要の停滞と生産の増大により、これまでの4 年連続の供給不足から転じて約40万tの生産余剰と期待される。2015 年予測については、引き続き地金消費量は増加していくものの、それを上回る生産の増大が見込まれるため、約60万tの生産余剰と予測する。

表1 2015 年までの見通し(単位:千t)

  鉱山生産量 地金生産量 地金消費量
  2013 2014 2015 2013 2014 2015 2013 2014 2015
アフリカ 1,828 2,068 2,389 1,304 1,489 1,719 258 267 281
北米 2,379 2,668 2,896 1,725 1,833 1,946 2,321 2,378 2,450
中南米 7,555 8,077 8,475 3,392 3,653 3,611 630 651 674
ASEAN10/
 オセアニア
1,905 1,891 2,217 969 1,004 1,097 927 911 947
その他アジア 2,077 2,271 2,524 9,409 10,147 10,717 12,806 13,335 13,886
CIS 583 596 629 461 461 470 101 102 103
EU 855 859 887 2,665 2,784 2,808 3,039 3,089 3,147
その他欧州 876 901 926 1,067 1,081 1,107 1,191 1,222 1,252
世界計
 (調整後)
18,059 18,904 20,283 20,991 22,362 23,335 21,273 21,957 22,740
変化率 4.7% 7.3%   6.5% 4.3%   3.2 3.6%
需給バランス -282 405 595

2-2. 講演『世界の銅消費の見通し』

(Wood Mackenzie、Jonathan Barnes氏)

【各地域の銅需給の見通し】

 2,700万tの銅がおよそあらゆる製品に使用されている。銅の一次使用量に影響する要素は、1)人口増加、2)産業界の生産傾向、3)スクラップの使用可能性、4)半導体や電線・ケーブルの生産能力、5)半導体の貿易バランス、6)電線・ケーブルの貿易バランス、である。

 これらを勘案すると、2014 年から2017 年までに一次使用量が最も増加するのは中国である。中国では2011 年から2015 年までに、36 プロジェクトにおいて、新たに880万t分の配管製造能力が加わるだろう。中国の次に一次使用量が増加するのは、ロシア、米国、メキシコ、ブラジルである。豪州の一次使用量は減少するだろう。インド、イラン、カナダ、エジプトは予測が難しい。インドでは2012 年以降、電気機器産業の売り上げが減少している。電線・ケーブルの売り上げは26%落ち込んだ。流通網の整備が遅れているためプロジェクトの実行も遅れている。2013 年の成長率は6%に鈍化した。

 供給については、中東湾岸は石油以上に銅の埋蔵量があるかもしれない。

【西欧における銅業界の変化】

西欧における半導体及び電線・ケーブルの業態は変わると予測する。具体的には、ドイツと英国が成長の中心となる。潜水艦用電線の需要が増える。また電線・ケーブル業界ではプラントと雇用の合理化が進み、極端なケースでは英国の銅管業界のように一社に統合される。沖合の再生可能エネルギーにおける需要は停滞する。ロシアとポーランドについては、国内需要が失速するので輸出が増えるだろう。

おわりに

 今次ICSGは、3 月中旬に銅価格が3 年8 ヶ月振りの低水準まで急落するなど市場がボラティリティを増す中で開催された。今次の価格下落は中国の景気減速への懸念が一因と言われているため、公式な報告が存在しない中国の保税在庫水準の変動、中国におけるホットマネーの流入などについて議論があった。

 しかし従来より、銅は他のベースメタルとは異なり、石油のように短期投機資金が流入し易い傾向にあると言われている。そしてそれは中国に限った現象ではない。またLMEの指定在庫制度自体が金融取引を促しているとの見方もある。今後とも、中国の経済動向、取引制度のルール変更、そして世界的な投機資金の移動が銅市場に与える影響を注視していきたい。

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