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報告書&レポート

2014年7月17日 メキシコ事務所 縄田俊之
2014年30号

メキシコ「鉱業開発計画2013~2018年」の概要

 メキシコ政府は、国家の5 大目標である「平和な国家の達成」「包摂国家の達成」「全国民が質の高い教育を享受する国家の達成」「繁栄する国家の達成」及び「地球規模の責任ある役割を果たす国家の達成」へ向け、国内の戦略的かつ優先的な目標を設定し政府の行動を方向付けるために「国家開発計画2013 ~2018 年」を2013 年5 月に公布した。本国家開発計画の目標には、国の戦略的分野の開発及び競争力のある国内市場の開発を刺激するための明確なルールの保障が示されており、この戦略的分野の一つとして鉱業分野が掲げられている。 

 一方、鉱業法では、経済省が鉱業分野における計画を立案し、フォローアップを行うことが規定されている。 

 このような状況を踏まえ、経済省は、鉱業分野における投資・競争力の促進、金融支援拡大の推進、中小鉱業企業の開発促進、及び、鉱業関係規制の近代化・鉱業権関係行政手続きの改善を目的とした鉱業開発計画を本年5 月にまとめた。 

 本稿では、今般公布された「鉱業開発計画2013 ~2018 年」に関し、目標、戦略及び行動指針、並びに、指標を紹介する。

Ⅰ. 目標、戦略及び行動指針

 本鉱業開発計画では、以下のとおり4 つの目標を設定し各々の目標に対し戦略と行動指針を定めるとともに、横断的戦略を示している。

1. 目標1: 鉱業分野におけるより高い水準の投資と競争力を促進する

 鉱物資源市場では市況価格が下落基調にある中、コストが上昇する一方、供給圧力が高まっていることから、鉱業投資に相当な金額が必要となる等競争が激化している。こうした状況を踏まえ、メキシコ鉱業の優位性を促進するためには、様々な産業で色々な用途が期待できる鉱物資源の積極的な活用を促すよう、国内外でのイベントやフォーラムに積極的に参加しプロモートを実施すること、又は、質の高い地質情報を作成することを通じ、鉱業分野の競争力を強化する必要がある。

 メキシコ鉱業センター(SGM)は、マッピングシステムと研究所のインフラを強化し、民間企業における探査活動コストの削減に貢献するとともに、探査ターゲットを選別するために人的及び金銭的資源を投入する。

1.1. 戦略:メキシコを鉱業投資先として振興する
 行動指針:
  1.1.1.講演、展示会等国内外の主要鉱業イベントに積極的に参加
  1.1.2.鉱業関係の発表、意思決定等を行う国際機関に参加
  1.1.3.電子メディアや出版物を活用し投資先としてのメキシコの利点を宣伝
  1.1.4.メキシコ鉱業分野の利点を宣伝するため国際機関の代表事務所を活用
  1.1.5.メキシコにおける鉱業投資家向けのマニュアルを作成
  1.1.6.鉱業投資を誘致するため鉱業関連の国際的合意を促進し、それを活用
  1.1.7.産業向け鉱物の探査・開発への投資及び新技術の利用促進

1.2. 戦略:産業の利益に資する鉱物の探査・開発の多様化を促進
 行動指針:
  1.2.1.SGMによる鉄鉱石と希土類の鉱床確認のための探査活動を展開
  1.2.2.非金属鉱床に関する情報の質を向上

1.3. 戦略:SGMによる鉱業プロジェクト入札情報の質を向上
 行動指針:
  1.3.1.より質の高い探査ターゲットを有する地域を明確化
  1.3.2.評価プロジェクトにおける直接探査に対する投資
  1.3.3.国際基準を用いた資源の定量化に関する報告書を作成

1.4. 戦略:鉱業分野における投資促進のため、地質学、地球物理学及び地球化学に関する情報を作成し提供
 行動指針:
  1.4.1.鉱業地質学の知見を促進するための情報を作成し公布
  1.4.2.世界レベルの質を備えた研究所での物理化学研究と冶金試験を実施
  1.4.3.5万分の1国内鉱業地質図の適用範囲を最適化
  1.4.4.SGMが蓄積する情報へのGeoInfomexを利用したアクセスの容易化

1.5. 戦略:投資先としての具体的オプションとなる鉱業プロジェクトを促進
 行動指針:
  1.5.1.投資誘致のためのプロジェクト宣伝手段を提供
  1.5.2.中小鉱業プロジェクトへのアクセスを容易にするとともにアドバイスを提供

1.6. 戦略:鉱業分野における要求事項に関し経済省とその他行政機関におけるプログラムと制度を整合
 行動指針:
  1.6.1.鉱業分野の持続的な発展を支援するため、鉱業関係の連邦行政機関間で連携
  1.6.2.鉱業分野のバリューチェーンへの支援を容易にするため、経済省のプログラムを調整
  1.6.3.競争力を向上させ優れたビジネス環境を促進するため、総合的な計画を調整し推進

2. 目標 2.:鉱業分野とそのバリューチェーンへの金融支援の拡大に努める

 鉱業振興信託(FIFOMI)は、鉱業企業、鉱業企業にサービスを提供する企業及び鉱物の一次消費者への対応を優先とする。これは、融資先の見直しを意味し、鉱業企業とそのバリューチェーン企業が金融機関に容易にアクセスできるよう金融支援の新たな戦略を推進する。

 FIFOMIによる融資先の見直しは、国内鉱業の競争力の促進、鉱業のバリューチェーンの強化、アドバイスと金融支援のオプションの提供による鉱業クラスター創設の促進、中小鉱業企業の生産物販売の支援、探査済みプロジェクトの開発に対する支援プログラムの利用、僻地における鉱業先駆者に対する金融支援、選鉱プロセスにおける良質な製品生産、成長促進、環境影響を低減する活動への支援、及び、鉱業への新技術導入の加速化を求める。

2.1. 戦略:鉱業分野におけるサプライヤーの発展と強化を奨励
 行動指針:
  2.1.1.鉱業分野におけるサプライヤーへの金融支援を提供
  2.1.2.鉱業クラスター形成のため、企業に対する研修を促進
  2.1.3.鉱業クラスターのプロジェクトに対する金融支援を提供
  2.1.4.サプライヤーの発展を促進
  2.1.5.異なる鉱業地域の状況に応じたクラスターモデルを提案

2.2. 戦略:インパクトの大きな鉱業プロジェクトを展開
 行動指針:
  2.2.1.他の開発銀行や商業銀行と共同により、プロジェクトに対する金融支援を促進
  2.2.2.専門的な技術支援を提供

2.3. 戦略:鉱業分野における環境保護プロジェクトに対する金融支援の促進と新技術の推進
 行動指針:
  2.3.1.大学や技術研究機関との協力協定を締結
  2.3.2.中小鉱業企業に対し環境問題に関する研修と技術支援を提供
  2.3.3.エネルギー効率化や温室効果ガス削減のプロジェクトのため、金融支援を提供
  2.3.4.鉱山の是正又は閉鎖のための活動に対する金融支援を提供

2.4. 戦略:鉱石及び精鉱販売に対する金融支援を推進
 行動指針:
  2.4.1.FIFOMIとマーケティング事業者や輸出業者との協定を促進
  2.4.2.中小鉱業企業に対する金融支援を促進
  2.4.3.中小鉱業企業に対する技術支援と専門的な研修を提供

2.5. 戦略:選鉱プラントと貯蔵施設に対する金融支援を促進
 行動指針:
  2.5.1.選鉱プラント及び製錬所の設備と鉱物購入のため、金融支援を提供

  

2.5.2.貯蔵施設を活用することにより中小鉱業企業が生産した鉱物の購入が促進されるようにするため、州政府及び鉱業協会が協調

3. 目標3.:中小鉱業企業及び鉱業関連企業の発展を促進する

 中小鉱業企業及び鉱業関連企業は、鉱業分野の中で最大の勢力であり、同分野における雇用の半数以上を創出しているが、付加価値と投資における関与は限られているため、これら企業の発展に対する資金的強化と近代化が必要とされ、これにより鉱業分野全体の強化に繋がる。

 鉱業地質学及び冶金学の専門家を提供し、物理化学研究と冶金試験による資源の評価と承認を行うことにより、中小鉱業企業と鉱業関連企業における探査活動とプロジェクト評価を支援する。

 さらに、中小鉱業企業及び鉱業関連企業が近代的かつ効率的なものとなるために、生産能力を向上させる手段、投資、競争力及び輸出の向上を目的として、これら企業自らが資本強化を行うことに対して金融支援を提供する。

3.1. 戦略:中小鉱業企業及び鉱業関連企業の支援のため探査とプロジェクト評価の活動を実施する
 行動指針:
  3.1.1.中小鉱業企業に対する鉱業地質学及び冶金学の専門家を提供
  3.1.2.中小鉱業企業及び鉱業関連企業に対する資源の評価と承認を実施
  3.1.3.環境影響評価書と環境保護報告書の作成を支援
  3.1.4.国際基準の質を備えた研究所における物理化学研究と冶金試験の実施を支援

3.2. 戦略:定量化された鉱物資源の採鉱のため、プロジェクトに対する金融支援を提供
 行動指針:
  3.2.1.小規模鉱業企業に対する総合的支援のためとして金融支援を提供
  3.2.2.鉱物の採鉱、選鉱及び販売に関する研修を促進

4. 目標4.:鉱業分野の規制制度を近代化し、鉱業権関係手続きを改善する

 鉱業分野における競争力の強化には、より効率的で近代的かつ透明性を保持した規制の枠組みが必要であり、そのためには行政手続きの簡素化を推進し、電子手続きの利用を促進することが不可欠である。

 手続きの近代化は、規制制度の枠組みにおける運用の最適化を図り、鉱業分野のニーズに適合させることが重要である。

4.1. 戦略:鉱業関連の連邦登録における行政手続きとサービスに関し登録手続きを簡素化する
 行動指針:
  4.1.1.政府機関への登録状況と鉱業権のマッピングの更新作業を継続
  4.1.2.連邦が施行権限を有す現行法令の条項の改正を提案

4.2. 戦略:鉱業活動に関連する行政手続きを近代化する
 行動指針:
  4.2.1.コストを削減し手続きを迅速化するとともに、利用者に情報を提供するため、技術的ツールを適用
  4.2.2.申請手続きの受理と法律上の事務処理期間の遵守のため電子メディアを完全なものとする

5. 横断的戦略

(1) 生産性の民主化

「国家開発計画2013 ~2018 年」は、その横断的戦略の中で生産性の民主化を掲げる。「鉱業開発計画2013 ~2018 年」は、具体的な戦略と行動指針を通じ、生産性の民主化の目標に貢献することを約束する。

   ・ 鉱業分野における環境保護プロジェクトに対する金融支援を促進し、新技術を推進
   ・ 中小鉱業企業に対する技術支援と専門的な研修を提供
   ・ 中小鉱業企業及び鉱業関連企業を支援するため、探査とプロジェクト評価の活動を実施
   ・ 定量化した鉱物資源の探査のため、プロジェクトに対する金融支援を提供

(2) 身近で近代的な政府

身近で近代的な政府を構築するための計画に適合する横断的指針は、分野調整役、大蔵公債省及び公共行政省の間で署名された協力に基づき定められる。

(3) ジェンダーの視点

「鉱業開発計画2013 ~2018 年」は、人権尊重と男女平等の原則に従う。

確立する男女平等の戦略と横断的な目標は、「国家開発計画2013 ~2018 年」及び「機会均等及び女性差別反対のための国家計画2013 ~2018 年」において権限を有する機関毎に定められた指針に応じ、鉱業分野を調整する中央機関によって導入される。

Ⅱ.指標

1. 指標1.:Behre Dolbear社の報告書「Ranking of Countries for Mining Investment」におけるメキシコの評価
 (1) 目標:鉱業分野への投資と競争力を高い水準へと促進

 (2) 概要:Behre Dolbear社が毎年発表する各国評価(最高70 点)におけるメキシコの評価を高める。

 (3) 2018 年目標:45.0 (2013 年時点:43.1)

2.指標2.:5万分の1国内鉱業地質図の適用範囲
 (1) 目標:鉱業分野への投資と競争力を高い水準へと促進

 (2) 概要:平方キロメートル単位での国内鉱業地質図の整備を推進する。

 (3) 2018 年目標:877,717 ㎢ (2013 年時点:702,717 ㎢)

3.指標3.:鉱業プロジェクトへの支援とアドバイス
 (1) 目標:中小鉱業企業及び鉱業関連企業の発展を促進

(2) 概要:専門家による調査、サービス契約、埋蔵量の証明、及び、技術的・経済的支援を通じ、鉱業プロジェクトを支援、アドバイスする。

 (3) 2018 年目標:365 プロジェクト (2013 年時点:57プロジェクト)

4. 指標4.:生産稼働中プロジェクトに供与する直接金融支援
 (1) 目標:鉱業分野とそのバリューチェーンにおける金融支援の拡大を推進

(2) 概要:FIFOMIは、集中的かつ効果的に金融支援の申請を募集するため、優先対象者として鉱物生産者、鉱業企業にサービスを提供する者及び鉱物の一次消費者を設定する。本融資戦略は、鉱業分野とそのバリューチェーンにおける中小企業に対する融資取得を容易にする。

 (3) 2018 年目標:825百万ペソ (2013 年時点:318百万ペソ)

5. 指標5.:保証に関する連邦プログラムによる金融支援
 (1) 目標:鉱業分野とそのバリューチェーンにおける金融支援の拡大を推進

(2) 概要:金融仲介機関と直接融資のリスク軽減と、鉱業分野とそのバリューチェーンが金利及び融資期間においてより良い融資条件を享受するため、様々な資金の種類を活用した金融支援をする。

 (3) 2018 年目標:117百万ペソ (2013 年時点:750百万ペソ)

6. 指標6.:鉱業権取得申請に係る行政手続きの期間
 (1) 目標:鉱業分野の規制制度を近代化し、鉱業権関係手続きを改善する

 (2) 概要:各州の鉱業機関当局に許可申請が提出されてから、それに対する許可書が交付されるまでの期間。

 (3) 2018 年目標:90 営業日 (2013 年時点:140 営業日)

おわりに

 メキシコでは、鉱業を戦略的分野として位置付けるとともに、投資を促進させ金融支援を行い規制改革を実行することにより鉱業の更なる発展を目論んでおり、これを具体的かつ明確に示すものとして今般政府は「鉱業開発計画2013 ~2018 年」を策定し公布した。一方、鉱業の持続的発展のためには、鉱山周辺地域の住民や環境を保護することが重要であり、そのために必要となる予算を調達するために、昨年10 月末に鉱業税制改革をメキシコ議会で可決承認し、本年1 月に鉱業特別税及び貴金属鉱業特別税を施行した。

 今後メキシコ政府は、本計画に即して様々な施策を立案し実行に移すこととなるが、鉱業関係者の一部には本年1 月に施行した鉱業特別税等の影響により国際競争力が落ちたとも言われている。

 このような状況において、今後メキシコ鉱業がどこまで発展していくのか、将来我が国がメキシコへの投資を検討する上でも非常に興味深いところであることから、本計画で示された指標の推移等を参考にしつつメキシコ鉱業の行方を注視していきたい。

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