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報告書&レポート

2014年8月7日 ロンドン事務所 森田健太郎
2014年34号

アフリカ投資のリスク緩和手法~Access Africa Mauritius 2014参加報告(2)~

 2014 年6 月24 日~25 日、モーリシャス・バラクラバにてMines and Money主催の「Access Africa Mauritius 2014」が開催された。本稿では、アフリカ投資のリスク緩和手法に関する講演2 件について、概要を紹介する。

1.講演「アフリカにおけるリスクの緩和手法」

(世銀グループ 国際金融公社、Sacha Backes氏)

【国際金融公社とは】

 国際金融公社(International Finance Corporation : IFC)は、世銀グループの一部である。世銀グループは、国際復興開発銀行(IBRD)、国際開発協会(IDA)、国際金融公社(IFC)、多数国間投資保証機関(MIGA)、投資紛争解決国際センター(ICSID)の5 つの機関から構成されているが、これらのうち民間セクター支援を行っているのが国際金融公社(IFC)である。投融資や民間企業・政府への助言サービスを通じて、途上国の持続可能な成長を支援している。世界109 か国にオフィスがあり、4,015 人の職員が働いている。2013 年度時点で、113 か国の1948 社に対して496億US$の出融資を行っている。

 このうち鉱業分野のポートフォリオは、20 か国、31 プロジェクト、約4億ドルである。鉄が4 割、金が2 割、ダイヤモンドが2 割、残りが産業用鉱物資源である。約4 分の3 がサブサハラ・アフリカに投じられている。

【鉱業投資は一般投資とは逆方向へ】

 過去5 年の原油価格と金属価格の傾向を比較すると、原油価格は一貫して上昇傾向にあるが、金属価格は劇的に回復したのち運勢が逆転(reversal of fortune)してしまった。これと軌を一にして、鉱業分野への投資家の心理が一般的な投資家の心理とは逆方向に動いた。2013 年の世界のM&Aはリスクを嫌い、ほとんどが国内でのM&Aであり、アフリカでは極めて低調だった。

図2 原油価格と主要金属価格の推移(2007年価格を100)

(出典:yahoo finance より講演者作成)

図2 原油価格と主要金属価格の推移(2007年価格を100)

図3 FTSE鉱業銘柄とS&P500及びDowの各株価指数の推移

(出典:yahoo finance より講演者作成)

図3 FTSE鉱業銘柄とS&P500及びDowの各株価指数の推移

【今後5 年間でアフリカ鉱業に900億US$が投資】

 金属鉱物の需要は短期的には制約されるが、中長期的には人口増大や都市化に伴うインフラ需要等により増加に転じるだろう。他方で供給については、規模の経済を効かせようとしても、世界的な鉱石品位の低下と生産コストの増大により相殺される。新規鉱床については、リードタイムが長くなり、鉱床も複雑になり、市場からも遠隔になるので、開発はより一層難しくなるだろう。その結果、アフリカが益々注目されることになる。いくつかの金属鉱物については、アフリカは世界の埋蔵量の30%を有し、世界最大の生産地域でもある。したがって世銀は、今後5 年間でアフリカの鉱業に900億US$が投資されると推測する。アフリカ各国の政府収入において、鉱業分野の占める割合は2 割以上となるだろう。

【鉱業が直面する課題】

 必ずしもアフリカに限るものではないが、鉱業にはハードウェアの課題とソフトウェアの課題がある。ハードウェアの課題とは、電力、鉄道、道路、港湾と言ったコアとなるインフラの欠如である。ソフトウェアの課題とは、政治的リスク、政府の事務能力、法制の未整備、汚職、熟練労働者の不足、地域社会との調整ごとである。

【アフリカのインフラ整備にはPPPが有効】

 特にアフリカについては、輸送インフラ不足のために膨大な資源が閉じ込められており、電力不足が全土にわたって制約となっている。例えば鉄鉱石については、ギニアには二つの鉱山があり、二つの鉄道が必要とされており、建設コストは104億US$~136億US$かかる。これはギニアのGDPにほぼ等しく、政府予算の約10 倍である。モーリタニアにおけるインフラ整備には、政府予算の約3 倍のコストがかかる。リベリアでは政府予算の約5 倍のコストがかかる。したがって、公的セクターのみで資金調達するのは難しく、民間セクターが主導する必要がある。具体的には資源メジャー、あるいは公的セクターの役割を支援・規制に限定した形での官民パートナーシップ(PPP)である。

【アフリカのソフト面でのリスク緩和手法】

 ガーナ、ギニア、南ア、ジンバブエ等では、古い鉱業法制や既存の契約の見直しを行っている。しかしたとえ最良の意思で見直したとしても“何が公正か“を評価するのは困難である。これらアフリカでの資源ナショナリズムについて、例えばThe Economistは「あなたが鉱山だったらな (あるいは”自分のものだったらな“)」(Wish you were mine)という見出しで揶揄している。また世界的にも、地域社会や利害関係者がより一層主張の声を上げるようになっている。当社は、このようなソフト面でのリスクを緩和する方法として、(1)地域社会との強固な関係の構築、(2)プロジェクトの経済性・タイミングについて透明化し政府との対話を強化する、(3)既に尊敬を集めている組織とパートナーシップを構築する、ことを推薦する。

2.講演「白熱する投資の地平 ~変動税制の提言~」

(Imara Asset Management、Bruce Williamson氏)

【アフリカの投資環境は発展途上】

 フレイザー研究所が世界各国の投資環境ランキングを発表している。調査対象は112 か国であり、そのうち22 か国がアフリカ諸国である。アフリカ諸国の「投資すべき」という評価の平均値はたったの12%である。さらに税制に特化すると、アフリカ諸国の「投資すべき」という評価の平均値はたったの6%である。国別にみると、アフリカ諸国の中で最もランキングが高かったのはボツワナであり世界的にみても14 位である。次にエチオピア(世界31 位)、ブルキナファソ(世界41 位)等と続く。

 フレイザー研究所は、アフリカでの鉱業について、以下の通りコメントしている。

(1) 不確実性に支配されている
(2) ルールが常に変化しており意思決定が複雑である
(3) しかしながら資源ポテンシャルが常に投資家を引き付ける
(4) とは言え探鉱・採取を促す権限はほとんどない
(5) むしろ政府は制限的な政策を導入し税・ロイヤルティを引き上げ続けている
(6) そして政府が介入すると資本は逃げる
(7) 鉱業界は助けを必要としている
(8) 税制の不確実性が投資を阻害する一因である
(9) 利害関係者をなだめるために規制の枠組みを常に変えている

(10) 投資する環境にはない

【資源がアフリカ経済に相乗効果をもたらす】

 アフリカには素晴らしい資源ポテンシャルがあるにも拘わらず、適切に活用されておらず、雇用創出や経済の多角化につながっていない。各国政府の鉱業政策はあまりに介入的で、資源税制も一貫しておらず、資源と経済の好循環を生み出していない。しかし南アは成功事例であり、豊かな鉱物資源に恵まれ、敏感に変動する課税スキームを導入したことにより、鉱山街(mining towns)の増大をもたらし、経済全般に段階的な相乗効果をもたらした。

図4 昔と今のヨハネスブルグのシティ・ホール

(出典:Blue plaques及びHeritage Portalより講演者作成)

図4 昔と今のヨハネスブルグのシティ・ホール

 鉱業が経済にもたらす相乗効果は強力である。資本支出については、土地、鉱業権、インフラ、サービス、教育、資機材、プラント、住居、学校、病院、スポーツ施設、商店街などの整備をもたらす。運営費としては、給与、交通、消費財、各種調査、法務、税務などを必要とする。ロジスティクスでは、鉱石・精鉱の輸送、荷揚げ、保険などを必要とする。鉱山街では、水道、電力、道路、下水道、住居、公園、灌漑、商店街、レストランなどが整備される。周辺産業についても、銀行、ファンド、保険、会計、法務、取引所、建設業、製造業などが活性化する。

【定率の税制が鉱床開発を阻害】

 いかなる鉱床も有一無二であり異なる特性を持っている。鉱業は単純に見えるが単純ではない。資金調達、インフラ、地域社会、労働者が複雑に関係し、それらが全て政府の投資政策と税制に影響される。

 定率の税制は、一つの制度が全ての鉱床に適用できると想定しているが、現実の鉱床は多様である。定率の税制は、政府による税率引き上げをもたらす傾向にあり、それは利益率の低い鉱床を罰する。そのため限界収益点にある多くの鉱床の開発を阻害することを政府は認識すべきである。ロイヤルティの更なる課徴はダメージ以外の何物でもない。

【変動税制が鉱床開発を後押し】

 むしろ税制こそが、限界収益点にある鉱床の開発を後押しすべきである。そのため、全ての鉱床に適用できる“変動税制”を提言したい。利益と収益の割合に基づくフォーミュラで税率が決まる仕組みである。変動税制は、新規鉱山では最適な投資額を割り出し、既存鉱山では最適な採取量を割り出し、支払い不能となるリスクを減らし、採取コストを減らす効果がある。政府から見ても、利益率が高いときは余剰収入があり、利益率が低いときでも財政の圧迫を軽減できる。

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